ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 久々のオバロクロスの執筆………投稿期間を見返すと、久々とは言わないのかもしれない。ニトちゃんオルタの育成とかしながら、ポチポチ書いてます。
 内容的には幕間なのかな? 予想より長くなりそうなので、前後編に分けました。今まで放置していたセバスの近況話です。


第百三話「チャン・クラルス商会 前編」

 中立商業都市フューレン。

 

 大陸一の商業都市と名高いその都市は、ハイリヒ王国内にありながら、国内はおろかヘルシャー帝国との物流拠点としてどちらの勢力にも依らずに商人達による自治が認められていた。彼等はギルドを作る事で団結し、その豊富な資金力で両国からしても無視できない程の権力を有していた。都市を囲う外壁も城壁の様に巨大で、仮に都市を攻め落とそうとしてもちょっとやそっとの兵力ではビクともしないだろう。

 今、巷では“聖戦遠征軍”によって各都市から資金や人員などを徴収されているが、フューレンだけはその有り余る資金力のお陰で徴収金を支払っても、まだ住民の生活に余裕はあった。しかしながら、フューレンの豪商達は遠征軍によって物資を大量に徴収された事で影響力を落とし、その隙間から入り込む様に新参の商会の台頭を許す事になってしまった———。

 

 ***

 

「ほう………これは見事な純度の魔石ですなぁ」

 

 フューレンに本拠地を構えるユンケル商会の長、モットー・ユンケルは目の前に置かれた魔石をルーペの様な魔法具で見ながら呟く。

 

「ホルアドのオルクス大迷宮が閉鎖して以来、良質な魔石はどこも品薄だというのに」

「———私達には独自の伝手がありますから」

 

 テーブルを挟んで向かい側に座った初老の男———セバスが深みのある声で応えた。仕立ての良いスーツを着て、品良くソファに腰掛ける姿は高貴な身分を思わせる姿だった。

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国———その国より、取り寄せたものです」

「魔導国………確か帝国と協定を結んだという亜人族の新たな国でしたかな? いやはや、盲点でした。国として未知数であった為に我が商会は様子見していましたが、どうやらリスクを恐れずに行動した貴方達が正しかった様ですな」

「………亜人族と取り引きを行った事を咎めないのですか? ハイリヒ王国では、亜人族は関わるべきでない者とされているそうですが」

「王国では、というより教会では、と言うべきでしょう。私にとっては相手が教会から破門された帝国であろうが、教会から差別される亜人族であろうが、支払いをキチンと戴ければ等しく“お客様”ですから」

 

 サラッと聖教教会からすれば大問題な発言をするモットー。彼がここまで胸襟を開くのも、セバスならば無闇に告げ口をしないと人柄を信用したからだろう。そして、声を潜めながら更に話した。

 

「………実のところ、私共は今の王国や教会とは少し距離を置きたい、というのが本音ですな。大規模な遠征軍だからと纏め買いするのを理由に、商品をかなり安く買い叩かれる羽目になりました。その値段に文句を言おうものなら、教会からも睨まれるものですからたまったものではありません」

「そうなのですか?」

「ええ。しかも最近は教会はフリートホーフなる新参の商会ばかりを贔屓する様になりまして………このフリートホーフ商会がまたきな臭いのですよ。かなり阿漕な商売をして市場を荒らし回っているというのに、王国の貴族の皆様方は我々が訴え出ても素知らぬ顔をしているのです。信用が第一の商売でそんな真似を許せば、我々商人全員が顧客達からの信用を失うというのに………」

 

 ふう、とモットーは溜め息を吐いた。

 

「エヒト神が召喚されたという“神の使徒”様方も嗜好品をお売りしたのに、権力を笠にして支払いを踏み倒されたという同業者が多くいますし………はっきり申し上げて、今の王国や教会に付き合っていると破滅の未来が待っているのでは? と思うのです。恐らくは我々は分水嶺にいるのでしょうな」

 

 長年の商人としての勘が囁くのか、物憂げな表情でそう呟いた。

 

「しかし、ここに来て私はセバスさん達という新たな岐路を見つけられた様だ。新参でありながらフリートホーフと違い、貴方達は信用できる方達の様だ。今後とも長く付き合っていきたいものです」

「身に余るお言葉です。先程の魔石の卸売りの値段ですが………これで如何でしょうか?」

「拝見しましょう………これは、ふむ。オルクス大迷宮の閉鎖以前よりも安く仕入れられそうですが、本当によろしいので?」

「ええ、問題ありません」

 

 驚くモットーにセバスは即答する。そもそも、彼が———正確には彼の主人が欲しているのは、()()()()()()()ではなく………。

 

「その代わりといってはなんですが、我々の商会の評判を広く宣伝して頂きたいのです。支店を他の町にも出そうと考えているのですが、この国では無名な我々では顧客を呼び寄せるのも簡単ではありませんから」

「ああ、その程度の事で良いならいくらでもお力添えしますとも。今度、私の知り合いの商人達にも声を掛けましょう」

 

 スッとモットーが手を差し出す。それをセバスは握手して、皺のある顔を微笑ませた。

 

「今後とも、我々“チャン・クラルス商会”を御贔屓下さい」

 

 ***

 

 モットーとの会談を終え、セバスは大通りを歩いて帰路につく。

 通行人達は颯爽と歩くセバスとすれ違うと、思わず振り返っていた。見た目は初老の年齢に差し掛かりながら、顔立ちはナイスミドルを絵に描いた様に整っており、醸し出される気品はそこらの男では真似できない様な魅力を彼から感じさせていた。事実、女性達はセバスへ熱い眼差しを送り、ともすれば男性もセバスを見て「歳を取っても、あんな風にありたい」という羨望の眼差しを送っていた。

 まっすぐとした迷いの無い足取りだったが、急に足が止まる。セバスは大通りを横切ると、通りの端で座り込んでいた老婆に近寄った。

 

「どうかなさいましたか?」

 

 突然声を掛けられて、老婆の顔に警戒心が浮かぶ。しかし、セバスの容姿や品の良い服装を見て、少しだけ警戒を解いていた。

 

「何かお困り事ですか? 私にお手伝いできる事はありますか?」

「い、いえ。旦那様に手助けして貰う事など………」

「気になさらないで下さい。どうか話してみて頂けませんか?」

 

 セバスがニコリと笑うと、老婆の最後の防波堤が崩れた。顔を赤らめながら、老婆は事情を話した。

 老婆は露店商で、商品を売り終わったので帰ろうとしたが、途中で足を挫いてしまったらしい。見れば、老婆の横にある背負子には荷物はほとんど無いが、それでも痛んだ足で背負って帰るには難儀するだろう大きさだった。

 大通りの治安はそこまで悪くはないが、だからといって通行人全員が善良とは限らない。親切な人間を装って、荷物や金銭を奪う人間もいる。そんな事件が前にあったと聞いた老婆は、下手に助けを求める事も出来ずに通りの端で足の痛みが治るのを待つしかなかったそうだ。

 

(このくらいであれば、気功で治せますが………)

 

 セバスは老婆の内出血した足を見ながら考え込む。既にこの都市でのセバスはあくまで“商人”だ。トータスでは詠唱を介さない魔法行使は“神の使徒”でもなければ無理だという話だから、ここで使えば余計な詮索を招く事になる。それならば———セバスはいま取るべき行動を迷わず選んだ。

 

「私が貴方の家までお連れしましょう。案内して頂けますか?」

「旦那様、よろしいのですか!?」

「もちろんです。さあ、どうぞ。私の背におぶさって下さい」

 

 躊躇いなく腰を落として老婆を背負おうとするセバスに、当の老婆自身が困惑した声を出した。

 

「そんな、悪いです! 私の汚れた服では旦那様のお召し物が汚れてしまいます!」

 

 老婆の服は洗濯は怠っていないのだろうが、ツギハギの目立つ着古した服だった。仕立ての良いスーツを着たセバスが横に並ぶと、一層と貧相さが目立つ。

 しかし、セバスは安心させる様に微笑んだ。

 

「服ぐらい汚れる事なんて構いませんとも。困っている方がいれば、助けるのは当たり前。私は尊敬する方から、その様に教えられましたので」

 

 その後も老婆は何度か遠慮したが、結局はセバスの好意に甘える事になった。老婆を背負い、背負子を脇に軽々と抱えるセバスの姿に誰もが感嘆の溜息を漏らしていた。

 

「あの方は一体、どちらの紳士なのかしら?」

 

 一連の出来事を見ていた通行人の女性が、ほんの少しだけ老婆を羨ましそうに見ながら呟く。それを聞いた露店の男性が口を出した。

 

「あれは確か、最近新規開店した商店の店員さんだよ。確かセバスさん、という名前だったかな?」

「まあ、そうですの? 立ち振る舞いが綺麗でしたし、ひょっとして貴族の方なのかしら?」

「そこまでは知らないが………きっとかなりの大貴族に仕えていた方かもしれないな。あの人自身がそこそこの貴族の三男だったと言われても驚かないよ」

 

 貴族でも家を継げない者が大貴族の家の使用人となったり、はたまた実家から貰った資金で商売を始めたりするのは珍しくない。もっとも商売に手を出す大半の者は軌道に乗せる事が出来ず、逆に借金を抱える様になったりするが、セバスの人柄を見ているとそんな酷い未来にはならないんじゃないか? と思わなくもない。

 

「あの方、もしかして独身なのかしら? 少し歳を取られているけど、上手くいけば玉の輿なんて事も———」

「そりゃ残念だったな、あの人にはちゃんと奥さんがいるよ。しかもかなりの別嬪さんのな」

 

 分かりやすくショックを受けている女性に笑いながら、露店の男は続きを話した。

 

「どうやら商店の切り盛りは主にその奥さんがやっているみたいでな。遠目に見ただけだが、気品があって理知的な女性(ヒト)だったよ。おまけに身体付きも抜群で、まさに才色兼備とはあの事だろうね」

「そんな……うぅ、セバス様を独り占めしてるなんて羨ましいぃ………」

「ははは、まあ良い男というのは大体既に美人さんがいるものだ、って話だね。逆もしかりだがね。しかしまぁ、見ての通りにやんごとなき身分だろうし、お金に困っている様子はなし。美人な奥さんがいて、あの店は売り子さん達もエキゾチックな美人さんばかりだったし、やっぱり持っている人は持っているものなんだねぇ」

 

 おおよそ世の男性が望む物のほとんどを兼ね備えているだろうセバスに対して、露店の男は羨望を交えながら呟いた。

 

 ***

 

 老婆を背負いながら、セバスは歩く。彼のこの様な行動はこの都市の住人には珍しくないのか、すれ違う人間達はセバスに和かな笑顔で挨拶していた。彼等にも笑顔を返しながら、セバスは思考する。

 

(………本来、ナザリックに属さない者に哀れみという感情を持つのは正しくない)

 

 至高の御方達から命じられれば、たとえ親友であろうと殺すべきであり、自死を命じられれば即座に自害するべきだ。それこそが真の忠義である、とセバスは思っていた。

 

(ですが、今は別に良いでしょう。ティオ達と共に“人間の商人”として振る舞うのは、他ならぬアインズ様からの御命令です。街の方達に親切をするのは、人間として周囲に溶け込みやすくなりますから)

 

 言い訳の様に心の中で弁明するセバスだが、ふとナザリックの同僚達の顔が浮かんだ。

 怪訝そうな顔をする者、眉を顰める者、明らかな侮蔑を浮かべる者。

 その筆頭であるデミウルゴスの顔が浮かんだが、セバスはこれが正しい行為だと確信していた。そもそも、セバスがこうして人間の商人———それも妻帯者の———フリをする事になったのも、ある意味では彼がアインズに入れ知恵したせいだ。文句を言われる筋合いなどない、と少しだけ反感を覚えながら心の中のデミウルゴスを無視した。

 

(そういえば………彼ならば、どう思うのでしょうか?)

 

 ナザリックの同僚達の顔を思い浮かべていたセバスは、守護者の中で唯一の人間を思い浮かべた。

 人間でありながら同族の事を「低脳な猿」と忌み嫌い———それでいながら、ナザリックの外の人間を愛している天才科学者。愛した少女は数奇な運命の果てに異形種(アンデッド)へと変わってしまったが、彼等の仲睦まじい様子はセバスもよく知っていた。

 

(彼はやはり人間嫌いですから、私がやっている事に良い顔はしないでしょうね………)

 

 そう思いながらも———何故か強くは批判して来ないだろう、と思えた。それこそ今この場にいれば、ブツクサと文句を言いながらも自分の後を付いてくるんじゃないか? そんな風に思えていた。

 セバスは自分の勝手な想像であると知りながら、その光景に内心で苦笑しながら老婆を送り届ける為に大通りを歩いた。




>セバス

 現在、アインズの命令で人間の商人をやってます………夫婦経営で。
 何でこうなった? は次回あたりに書きます。それにしても、何処ぞの階層守護者代理と違ってキチンと人間達に溶け込んでいるというね。いやホント、図書館に引き篭もって本を読む事しかしてない奴とえらい違いだわ。

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