ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 そろそろオバロらしく蹂躙とかをやりたいなー、と思う。
 これはその為の準備回なのです。


第百六話「アンカジ使節団」

「ここが魔導国か………」

 

 ビィズ達、アンカジ公国の使節団は目の前の光景に目を奪われていた。

 フェアベルゲンことアインズ・ウール・ゴウン魔導国はハルツェナ樹海の奥地にある国だと聞いていたので、おそらく文明程度は低いだろうとビィズ達は予想していた。しかし、その考えは最初に樹海の入り口で覆された。

 

「ビィズ様。この地面は、石畳なのでしょうか? それにしては何とも平らで歩き易い………」

「それに樹海の入り口からここまで我々を運んだ馬車………燃え盛る骨の馬というのがなんとも不気味でしたが、速度が我々の知る馬車とは段違いです」

「うむ………」

 

 アスファルトに覆われた地面に立ちながら、ビィズは何とか供回りの者達に頷く。

 

 フェアベルゲンは魔導国となってから、かなり様変わりしていた。

 かつてバイアス達が侵攻の際に切り拓いた道は整備されて立派な街道となり、焼き払った森には帝国から連れ戻された元・奴隷達の為の新たな家屋や畑が作られていた。

 何よりもビィズ達の目を引いたのは建物の奇怪さだった。亜人族達の元々の棲家であるツリーハウスなどは変わらないが、それらの家には巨大な鏡らしきもの――太陽光パネルが取り付けられており、街道にはマジックアイテムの街灯よりも明るい電灯が等間隔で建てられていた。それにより既に日が暮れた時間帯であるというのに街は明るく、通行人達が夜の闇を恐れる事なく過ごす姿は治安の良さを感じさせていた。

 

「驚かれましたか?」

 

 ビィズ達を案内する熊の耳を持つ亜人族の女性———アルト・バンドンは、にこやかに説明した。

 

「これも全て、魔導王陛下のお力によるものです。魔導王陛下は我ら亜人族の王となられた後、魔導王陛下の配下であらせるミキュルニラ・モルモット様に命じて帝国から帰れた私達の為に新たな住居をお作りになりました。そのお陰で、昔よりもずっと便利な生活を送れる様になりました」

「そ、そうか。すごいのだな、魔導王という御方は………」

 

 トータスにおいては遥かに文明の進んだ街に圧倒されながらも、ビィズはどうにか言葉を返した。ここに来る前は亜人族達の国と聞いて内心で侮る感情はあったが、ビィズを含めたアンカジ公国の使節団達は目の前の光景を前にしてそんな感情はすっかりと消え失せていた。

 

「な、なあ、君………あの魔物は、本当に我々には襲って来ないのだろうね?」

 

 使節団の一人が、街道を歩く一団を指差しながら少しだけ震えた声を出す。そこにはビィズ達が知る魔物より凶悪そうなアンデッド———デス・ナイト、デス・ウォーリア、デス・プリースト、デス・アサシンが隊列を組んで巡回兵の様に警備を行っていた。

 

「ご心配には及びません。我が国で見かける魔物達は全て魔導王陛下の支配下にあります。こちらから攻撃を仕掛けたり、街中で犯罪行為を行うといった事をしなければ、私達に危害を加えたりしません。また、ミキュルニラ様が作られた結界のお陰で外の魔物達も魔導国内には入れませんから」

「う、ううむ……しかし………」

 

 説明をされても渋面を崩さない使節団の男を見て、アルトは少しだけ苦笑しながら頷く。

 

「確かに、私も最初はアンデッドが街中を普通に歩く姿に驚きました。ですが、一月もしない内に慣れましたよ。彼等は普通の人間より力強く、疲れを知らない優れた労働者ですから」

「なっ、この国では魔物を労働に使っているのかね!?」

「ええ。そんな事が行えるのも、魔導王陛下の御力があればこそですから」

 

 ほら、とアルトがある場所を指し示す。そこには建築中の建物に亜人族の男が指示を出して、その指示通りにスケルトン達がキビキビと働く姿があった。

 

「帝国でも不休兵士としてアンデッド兵は広まりつつありますし、この便利さを知ったら以前の生活に戻れないと思います」

「て、帝国にもいるのか? なんというか………君達や帝国の人間は結構肝が据わっているのだな」

「しかし、決して暴れ出さないというなら確かにアンデッド達は労働力として魅力的ですぞ。アンカジも伝染病で労働力となる国民がかなり減ってしまいましたから………」

 

 ううむ、とビィズは唸ってしまう。部下達の言う通り、今のアンカジ公国の労働力はかなり不足していた。冒険者モモンが伝染病を解決してくれたとはいえ、多数の病死者が出たので元の国力に戻るまでかなりの年月がかかるだろう。おまけに聖戦遠征軍によって働き盛りの男達や復興に必要な物資まで徴収された為に、今の国民達に貧しい生活を強いている事に領主代行のビィズは心を痛めていた。

 

(父上。私は、必ずや魔導国を見定めてみせます。あわよくば、どうにか我々に支援の約束を………)

 

 国に残してきた父親を想い、ビィズは決意を改める。病み上がりのランズィに代わり、ビィズは今回の使節団において全権を任されていた。彼の一存でアンカジ公国の今後が決まるといっても過言ではないのだ。

 

「魔導王陛下との謁見は明日となります。こちらで宿を用意しましたので、今日はそちらにお泊まり下さい」

 

 ***

 

 アルトに案内された宿泊施設は木の上に作られた立派なコテージだった。本来なら階段や梯子を使っても昇り降りするのも大変そうな高さにありながら、ビィズ達は木のすぐ横に取り付けられた一人でに動く奇妙な箱に乗る事で、何の苦労もなくコテージまで辿り着けていた。

 

「一体、これはどんなマジックアイテムなのだ………こんな物、王都にだって無いぞ?」

「神山にある聖教教会本部に似た仕掛けはあるが、あれよりずっとコンパクトで乗り心地が良いな」

「部屋の中を見たか? ボタン一つで天井の照明が部屋全体を明るくして、壁には暖かい風や涼しい風を吹き出すマジックアイテムもあったぞ。これが我が国にあったら、熱帯夜でも過ごしやすくなるぞ」

 

 木々の間に作られた吊り橋———これもかなりしっかりとして、歩いていても全く揺れない———を渡って、使節団の面々は与えられた内の一つのコテージの前に集まっていた。未知の技術をひっきりなしに目の当たりにしたお陰で、彼等の表情は乗馬を初めて経験した子供の様に興奮で輝いていた。

 

 亜人族の国は、アインズ・ウール・ゴウン魔導国となってから劇的に変わっていた。ヘルシャー帝国から大勢の奴隷が返還されたが、それ以前にあった魔人族の襲撃や帝国軍の焼き討ちで家屋の数が足りなくなったので、魔導国の王となったアインズは大幅な復興計画を行わなくてはならなかった。

 もちろん、中身がただの営業マンであるアインズにそんな都市開発に関する知識は無く、悩んだ挙句にナザリック技術研究所の副所長であるミキュルニラに都市開発を一任したのだ。もっとも、アインズ自身に深い考えがあったわけではない。冒険者活動で忙しくなったナグモに次いでナザリック内で製作職のレベルが高い為、まあどうにかなるだろうぐらいにしか考えていなかった。

 

 しかし、これがかなり良い結果となってしまった。

 元々、ミキュルニラは創造主(じゅーる)がとあるテーマパークのマスコットを模して作ったNPC。その為か、街作りにおいて訪れた者が楽しく快適に暮らせる空間にするべく自分の技術を注ぎ込んでいた。

 

『アインズ様。色々と改築する必要があるので、オルクス迷宮で得た資材などを使ってよろしいでしょうか?』

『む? まあ、ナザリックの宝物庫が目減りする様な事で無いなら構わないぞ』

 

 そんな調子でいつもの様に支配者ロールで書類の承認印を押した結果、ミキュルニラはかつてじゅーるが第四階層をリニューアルした様に、旧フェアベルゲンの街中を抜本的に変えたのだ。

 階段を使わねば登れなかったツリーハウスにはエレベーターを作り、電気やガス、水道を通した。さらには街中を明るくライトアップさせ、それらのエネルギー源は地球の物より何倍も効率の良い太陽光発電などのクリーンエネルギーで賄っていた。お陰で今や魔導国は『自然と科学が見事に調和した未来都市』という趣となり、住民である亜人族はおろか、訪れる者が快適に過ごせる国となっていた。もちろんの事だが、これによって亜人族達のアインズへの崇拝心が更に上がった事は言うまでもない。

 

「これ程の便利なマジックアイテムに囲まれて豊かな生活ができるとは………正直、亜人族達が羨ましくなってきましたよ」

「うむ。今や聖戦遠征軍の為にアンカジのみならず、多くの都市や町は財政難で困窮していると聞くが、魔導国ではその様な心配は無用の様だな」

「まったく、亜人族達は良い指導者に恵まれた様ですな。魔導王とやらがハイリヒ王国に君臨してくれればと思わずには………あ、いえ、申し訳ありません!」

「………いや」

 

 部下の一人が口が過ぎたという様に慌てて謝罪するが、ビィズは短く返答するだけに留めた。ハイリヒ王国から公国の統治を任された大貴族の跡取りとして、今の部下の発言は強く諌めないとならなかった。しかし、不思議とそんな気にはなれなかった。

 

「その………領主代行。意見を申し上げても宜しいでしょうか?」

 

 使節団の中で一番年若い男は、意を決した表情でビィズに言葉を発した。

 

「魔導王は、その………アンデッドと聞きました。正直、知性のある魔物がいるというのが未だに信じられません。しかし、この街を見る限りは我々が想像していているより、話が分かる相手ではないのでしょうか?」

「うむ………確かにそうかもしれん」

 

 ビィズは魔導国に訪れる前に通りがかった帝国領の町を思い出す。聖教教会から破門を受け、帝国の人間達は教会から人間扱いされなくなったから国の雰囲気は暗いだろうと思っていたが、予想に反して街の雰囲気は明るかった。

 不思議に思って帝国の人間達に聞いてみると、魔導国と国交を結んだ事で魔導国産のマジックアイテムが輸入される様になって生活がかなり楽になったらしい。その時はどんな物か分からなかったが、実際に魔導国に来てみて実態を知ったビィズは納得せざるを得なかった。また帝国内の聖教教会の神官達が引き上げた事で大幅に低下すると思われた医療も、これまた魔導国から輸入されるポーションの効果が神官達の治癒魔法を軽く上回り、むしろ毎月支払っていた莫大な寄附金も無くなったから縁を切れて清々とした、と言う者までいる始末だった。

 

「しかしながら、聖教教会は魔物を穢れた存在として教義から見ても魔導王を認めないと思います。ですから――我々も、帝国の様に教会と袂を別つ事を視野に入れるべきではないでしょうか?」

「貴殿は何を言っている! それは王国に背を向けるも同じ———」

「お言葉ですが! 王国や教会が、何をしてくれたというのでしょうか!?」

 

 批難する様に声を上げた同僚に対して、彼は声を一段高くして反論した。

 

「私の母は先の伝染病で亡くなりました! あの時、王国が聖戦遠征軍として街の治癒師まで徴兵しなければ、母は助かったのかもしれないのです! それこそ、本来なら治療院で治療をすべき聖教教会の神官達も逃げ出さなければ――!」

 

 拳を固く握り締める男の言葉に皆は押し黙ってしまう。

 

「まあ………貴殿の気持ちは分かる。私も、息子が聖戦遠征軍に無理やり徴兵されたのだ。あの子は戦いなんて向いている様な子じゃないのに」

「私もだ………弟が王国の御用商人をやっていたが、“神の使徒”を名乗る若者達にあらぬ罪で商品を取り上げられて、無一文で放り出されたらしい。教会に訴え出たが、門前払いを受けたと言っていたよ」

「こんな横暴が罷り通っているというのに、エリヒド陛下は何をしてらっしゃるのか? 亡くなられたルルアリア王妃か、遠方に行かれてしまったというリリアーナ王女様さえいればこんな事には………」

 

 他の使節団の男達は暗い面持ちになりながら、ポツポツと王国や教会への不満を述べ出した。彼等は皆、身内に王国や教会によって何らかの被害を被っていた。そうでなくとも、先の伝染病騒動で本来なら支援するべき両組織は公国を見捨てるどころか死体蹴りをする様な仕打ちまでしたのだ。もはや彼等に王国への忠誠心や教会に対する信仰心など最底辺まで落ち込んでいた。

 そんな部下達をビィズは静かに見つめる。何より、彼も部下達の心情が痛いほどに理解できてしまった。偶然通り掛かった冒険者モモン一行の働きによって伝染病騒動は収まったものの、彼等が来なければ父の命は無かっただろう。

 

「………貴公の言いたい事は分かる。だが、まずは魔導王がどんな人物なのかを見定めなくてはならない」

 

 だからこそ、ビィズはそう言うだけに留めた。

 果たして、亜人族にここまで豊かな生活をさせて統治している魔導王とは何者なのか? ビィズ達は疑問が尽きないながらも、柔らかいベッドで眠りに就いた。

 

 ***

 

 翌朝、ビィズ達使節団は魔導国の中心部———一番巨大な大樹に来ていた。この大樹の中が魔導王の居城となるという。アルトに案内され、ビィズ達は大樹の入り口で警備兵の様に立っている兎人族の少女に会っていた。

 

Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みのままに)! アンカジ公国領主代行ビィズ・フォウワード・ゼンゲン公、並びに使節団の皆様をお連れしました」

Wenn es meines Gottes Wille(我が神のお望みのままに)! ここからは、このシア・ハウリアが案内を引き継ぐですぅ」

 

 ビィズ達が聞き慣れない言葉を言いながら、シアと名乗った兎人族の少女がビシッと敬礼し、アルトも同じ様に敬礼を返した。彼女の服装は背広やネクタイなど、ビィズ達には馴染みが無いながらも洗練されていると思わせる軍服だった。何よりシアの様な美少女がかっちりした軍服を着こなす様は不思議な魅力があり、ビィズは思わず胸が高鳴るのを感じてしまった。

 

「どうかされましたか?」

「あ………い、いや。何も」

 

 見惚れたとはいえ女性をジロジロと見てしまった事に気不味さを感じてビィズは慌てて目線を逸らす。それを不思議そうに見ながらも、シアは先導して大樹へと繋がる門を潜る。

 

「アンカジ公国大使の皆様に———敬礼!」

 

 シアが可愛らしい容姿とはギャップのあるハキハキとした声を張り上げると、門の前で整列した軍服姿の兎人族達が一斉にビィズ達にビシッと敬礼した。彼等は儀仗兵の様に魔導国とアンカジ公国の旗を掲げ、旗の先端を交差させてビィズ達に国旗の道を作る。その一糸乱れぬ動きは、ビィズがかつてハイリヒ王国で見た騎士団の演習よりも整っていた。

 

「こ、これ程とは………」

「こんなに統率された兵士など見た事がないぞ」

「軍の統率者が、かなり良いのだろうな………」

 

 使節団達は兎人族達の間を通りながら、こっそりと内緒話をする。もはや亜人族の国と侮る気持ちなど毛頭無い。

 文明も、資金も、そして軍事力も。全てにおいて、魔導国は自分達より上回る国と彼等は認識していた。

 そしてシアに連れられ、またも一人でに上に動く奇妙な箱(エレベーター)に乗ったビィズ達は、最上階に辿り着いた。大きな扉の前では白いドレスを着た絶世の美女が待ち構えていた。まさに天使と見紛う様な美女だが、頭の角と黒い翼が天使ではないと証明していた。

 

「アルベド様。アンカジ公国の方々をお連れ致しました!」

「ご苦労。あなたは下がりなさい」

 

 はっ! とシアは短く答え、ビィズ達に一礼した後に来た道を戻った。それを少し残念に思いながら、ビィズは目の前の黒髪の美女に注目する。

 

「ようこそ、アンカジ公国の皆様。僭越ながら、アインズ・ウール・ゴウン魔導国における階層守護者および領域守護者、全統括という地位を頂いておりますアルベドと申します。皆様に分かり易くいえば、宰相となります」

「こ、これはご丁寧にありがとうございます。私はアンカジ公国の領主代行のビィズ・フォウワード・ゼンゲンと申します。本日は私共の為にお時間を作って頂き、感謝申し上げます」

「感謝など必要ありません。偉大なる魔導王陛下はあらゆる種族の来客を拒みません。皆様の為に時間を割くのは当然の事と、仰っていました」

 

 美しい微笑みはまさに聖画に描かれた聖女の様で、来客に対する好意しか感じ取れなかった。ビィズはおろか、使節団の全員がアルベドの笑顔に呑まれてしまっていた。

 

(もはや美女の見本市だな………)

 

 先程のシアを思い出しながら、そんな事をビィズは考えてしまう。まるで戦いなどとは無縁な場所で育てられた様な美貌の宰相が優しく微笑んだ。

 

「さぁ、皆様。魔導王陛下がお待ちです。どうぞこちらへ」

 

 ***

 

 玉座の間は外観から予想していた通り、樹をくり抜いた様な部屋だった。ただし、置かれた玉座は煌びやかな黄金で出来ており、仮に金箔を貼っただけだとしてもかなりの費用が費やされていると十分に理解させられた。そして玉座の後ろにある国旗も素晴らしい。何の糸かは分からないが、単なる黒では出せない深みがあり、僅かな光の加減で紫にも見えた。

 

「これより、魔導王陛下が参ります。頭を下げてお待ち下さい」

 

 アルベドの指示に、ビィズ達は躊躇いなく従った。仮にも聖教教会の信者である自分がアンデッド相手に………などと考える者はいなかった。

 

「———アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下の入室です」

 

 アルベドの声と共に、玉座の間の扉が再び開けられた音がした。

 

 カツン、カツン———。

 

 玉座の間に足音と共に、硬質な何かが床を叩く音がする。やがて、玉座に腰掛ける様な気配がした。

 

「頭を上げて結構です」

 

 アルベドの宣言を受け、ビィズ達は数秒待ってから、ゆっくりと頭を上げた。

 そして———玉座に座る存在に、目を奪われた。

 

(あ、あれが、魔導王………アインズ・ウール・ゴウン!)

 

 頭蓋骨が剥き出しの頭。虚ろな眼窩から赤い光が漏れ、まさにアンデッドに相応しい外見だ。

 だが、着ている服はトラウムソルジャーの様な襤褸切れや錆びついた鎧などでなく、ビィズが見た事もない様な高価そうな服だった。

 着丈の長いゆったりした衣服で、袖の部分が驚くほど広い。汚れ一つない純白の布地で、袖や裾の部分に金や紫で細かな装飾が施されている。腰の辺りを帯で締めているようだが、それが異国情緒が漂う見事な正装となっていた。

 そして、服と同じ色の手袋には、七色に輝くプレートのようなものがはめ込まれていた。そんな手で持っているのは七匹の蛇が絡み合ったような芸術的な杖だ。それがカツンという硬質な音の正体だろう。

 

(何がアンデッドだ………これが、いや。()()()()が魔物なんて範疇に収まるわけがない!)

 

 かつてパーティーの場でユエが言っていた意味が今、ようやく理解出来た。直接会った者でなければ、この神々しさは理解出来ないだろう。

 人の考えられる領域を超えた者———すなわち、超越者(オーバーロード)

 この時、ビィズはもはやエヒト神への信仰すら忘れてしまっていた。

 

「魔導王()()………」

 

 部下達が僅かな驚く様な声が聞こえたが、関係なかった。無知な者でも、素晴らしい絵画を前にすれば心を打たれる様に。ビィズは神々しい姿をしたアンデッドに敬称をつけて平伏した。

 

「御拝謁を賜り、感謝申し上げます」

「ようこそ、ビィズ・フォウワード・ゼンゲン公。並びに使節団の方々。魔導国は貴殿達を歓迎しよう」

 

 ***

 

「いやはや、話が綺麗に纏まって良かったですな!」

「魔導王陛下はなんと慈悲深い………これでアンカジの復興も目処が付きそうです!」

 

 謁見を終え、宿泊しているコテージに戻った使節団の面々は喜悦と安堵の混じった表情でアンデッドの王を讃えていた。

 

「まさか通常よりも安く魔石を輸出して貰えるなら、どうにか冬を越せそうです!」

「それに国内で見たマジックアイテムも、いくつかお売りして貰えるとは………まさに今日がアンカジの夜明けとなりそうですな!」

 

 疲弊した公国へ支援をお願いしたところ、魔導王は快く応じてくれた。彼等は祖国へ良い報告が出来るとあって、アンデッドである魔導王に対して感謝の念が尽きなかった。ビィズもまた、心から安堵して慈悲深い魔導王を讃えていた。

 

(魔導王陛下の存在を教えて頂いたモモン殿達には感謝が尽きないな………今度会ったら、是非ともお礼を申し上げよう)

 

 唯一、気になる事と言えば、支援の見返りとしてアンカジ公国と正式な同盟を結びたいと言ってきた事だ。

 

『私はこの通りの見た目なのでな。人間達からは恐れられている』

 

 魔導王は謁見において、ビィズにそう切り出した。いざ話してみると緊張しているビィズを気遣ってか、王とは思えない気さくな様子で話してくれた。

 

『私は多くの種族が共存できる様な社会を作りたいと思っている。そこでだが………人間達に対しては、君達に仲介を頼みたいのだよ。異種族は悪と断じる聖教教会よりは話が通じそうだからな』

 

 確かに筋が通っている話だ。おそらく、いや十中八九。聖教教会とその支配下にあるハイリヒ王国は魔導王の事を邪悪な魔物と言って、話を聞きすらしないだろう。それどころか亜人族の国がこれ程までに栄えていると知れば、教会が何かしらの教義(言い訳)を唱えて王国の軍を使って全て奪おうとする事くらい簡単に予想できた。それこそ“()()()()の為に、アンカジから治癒師達を奪った様に。

 

(こんな事を考えてしまうくらいなら、もう私の中で答えは決まっているのだろうなぁ)

 

 もはや王国や教会に対して、忠誠心や信仰心を感じる事が出来ない。彼等に比べれば、アンデッドの王の方が如何に慈悲深い事か。

 さて、国に残されている父に対してどうやって説得しようか………と考えていると、ビィズ達のいるコテージの扉が乱暴に叩かれた。

 

「む、誰だ?」

 

 ビィズが疑問に思っていると、コテージの扉が勢いよく開けられた。突然の事に身構えるビィズ達だったが、入ってきた人物の服装が見慣れたアンカジ公国の兵士の物と知って目を見開いた。

 

「お前は確か父上の近衛の………何故こんな所にいる?」

「ビィズ様、どうかアンカジにお戻り下さい! 一大事でございます!」

 

 ビィズが怪訝な顔になる中、ランズィの近衛兵は真っ青な顔で報告した。

 

「魔人族が………魔人族が、我々の国に向かって軍を進めております! しかも、何故か奴等に———天使の様な軍勢まで同行しております!!」

 




オマケ

ミキュルニラ「どうでしょうか、アインズ様! 御命令通り、訪れる人が楽しい街にしました!」(えっへん)
アインズ(………何という事でしょう。適当に許可印を押しちゃったら、牧歌的なフェアベルゲンが知らない内に近代化しちゃった)
アインズ「う、うむ! よくやったぞ、ミキュルニラよ。お前に任せて正解だった。じゅーるさんがこの場にいたら、きっとこの街を気に入っただろう」
ミキュルニラ「アインズ様……! ええ、これからも創造主のじゅーる様に恥じない様に尽力します! それで、今度はアインズ様のブロンズ像を広場に設置しようと思いまして………」
アインズ「ブロンズ像って………あー、うむ。その様な物で偉大さを宣伝するのはあまり好ましくないと思うが………」
ミキュルニラ「え? でもパンドラズ・アクターさんが是非作って欲しいとお願いしてましたよ? デザイン案を見せたら、大喜びでしたし」

(パンドラズ・アクターの手を引き、遥か先を指差す様なアインズのパートナーズ像)

アインズ「………うん、却下」

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