ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 予定ではスパッと終わるつもりだったけど、書いてみると何故か長引く……そんな経験ありません? 自分のプロットが甘いだけかもしれないけど。なんならプロットとは別の展開に収まっちゃったし。


第百十六話『魔王VS魔導王 ②』

「がああああああっ!? おのれっ、アンデッド風情がっ!!」

「ふむ? 回復魔法……いや、これは時間の巻き戻しか? 私の知らない神代魔法と見るべきか」

 

 消失した筈のアルヴヘイトの両手が動画を逆再生した様に元通りになる。しかし、アインズはそれを見ても予想していたかの様に冷静な声を出すだけだった。それを見て、アルヴヘイトは目を血走らせながら激昂した。

 

「図に乗るな、アンデッド! 神たる私に血を流させた罪は重いぞっ!!」

 

 生まれて初めて“痛い”という感情を味わい、神として作られた自分がそんな思いをした事にアルヴヘイトは怒り狂っていた。

 そうだ。自分はこの世界(トータス)の唯一神エヒトルジュエに作られた魔人族の神だ。そんな自分が、こんな思いをするなど間違っている。だから、こんな取るに足らないアンデッド相手に傷を負わせられたのは間違いだ。油断していただけだ。先程のは……何かの間違いだ!

 

 アルヴヘイトは再生させた両手を指揮者の様に高く上げる。するとアルヴヘイトの背に白金の魔力光が収束し、光り輝く巨大な翼が生えた。アルヴヘイトを中心に魔力光を放つ翼を広げる姿は、外面だけは神と呼ぶに相応しいものだった。神としての力を全面に出したアルヴヘイトが腕を一振りすると満天の星の様に光弾が浮かび、アインズはおろか背後にいるシャルティア達も取り囲んだ。

 

「もはや容赦はせんっ! 貴様の主諸共、消え失せろおおおおっ!!」

 

 アルヴヘイトが腕を振り下ろすと、光弾がアインズ達へ殺到する。まさに流星群の様に全ての光弾が降り注ごうとし——。

 

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)——超・重力渦(グラヴィティメイルシュトローム)〉」

 

 アインズがスタッフを掲げると、スタッフの先に漆黒の球体が生じる。球体は大玉を形成し、回転を始めると光弾は一斉に軌道を変えた。まるで星々を呑み込むブラックホールの様に、超重力の渦は光弾を全て自分の元へと吸い寄せた。

 

「な、あ……っ!?」

「やはり重力魔法を組み合わせると、既存の属性魔法でも強力な効果になるな。“重力”と銘打っているが、実質は物質エネルギーに干渉する様な魔法なのだろうな」

 

 自分の光弾が全て無効化された事にアルヴヘイトが言葉を失う中、アインズは〈重力渦〉によって引き寄せられた光弾の群れを見ながら興味深く観察した。

 

「さて……せっかくの贈り物だが、これはお返ししよう」

 

 アインズがスタッフを振ると、光弾を吸引したままの〈重力渦〉がバットで打ち返された様にアルヴヘイトに迫る。

 

「な……舐めるなっ!」

 

 アルヴヘイトは迫り来る重力球を迎撃する為に再び手を振り上げる。

 先程、アインズがやった様に重力魔法で〈重力渦〉ごと空間を握り潰そうとした。

 

「〈大顎の竜巻(シャークスサイクロン)〉!」

 

 だが、それより先にアインズの魔法が発動される。砂漠の地に突然、巨大な鮫を伴った竜巻が現れ、アルヴヘイトの身体を呑み込む。

 

「ぐぬっ!? がああああああっ!!」

 

 アルヴヘイトが竜巻に驚くのも束の間、〈重力渦〉が追いつき、魔法が発動する。超重力の渦と留められていた無数の光弾、そして大鮫の竜巻に巻き込まれ、アルヴヘイトの身体をズタズタに引き裂いていく。

 

「か、神たる私にこの様な無礼をおおおおっ!!」

 

 アルヴヘイトが大きく翼を動かすと、突風と共に周りの魔法が弾け飛んだ。そして魔法の爆発から逃れる様にアルヴヘイトは空へと上昇する。

 

「許さぬぅぅ、許さんぞアンデッ、ガハッ!?」

「言い忘れていたがな、その辺りには罠があるから危ないぞ」

 

 再び爆発音が響く。上空へと逃れようとしたアルヴヘイトに仕掛けられていた〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)爆撃機雷(エクスプロードマイン)〉が起動する。

 生じた三重の衝撃波により、アルヴヘイトの身体は地面へと押し戻される。その姿にアインズは優しく声を掛けた。

 

「ああ、すまない。忠告が遅かった事を許してくれ——〈魔法最強化(マキシマイズマジック)負の爆裂(ネガティブバースト)〉!」

 

 謝る様な口調と共にアインズは黒い光の波動を放つ。〈爆撃機雷(エクスプロードマイン)〉によって地面へと落とされたアルヴヘイトは、ギョッとした顔になりながらガードする様に光翼を身体の前で閉じる。それを見たアインズはアルヴヘイトを呼び止める様に手を伸ばし——。

 

「〈圧縮(コンプレッション)〉!」

 

 次の瞬間、アルヴヘイトを覆い隠していた光翼が空間ごと握り潰される。防御を担う筈だった光翼が消えて、無防備となったアルヴヘイトに負のエネルギーの波動が衝突する。

 

「ぎゃあああああああっ!! なんだこれはッ!?」

「予想はしていたが、やはり闇属性が弱点か。そこら辺はユグドラシルの神聖属性のモンスターと変わらない様だな」

 

 光を喰らう闇のエネルギーというトータスでは未知の属性攻撃を受けて、アルヴヘイトは悶絶する。その様子にアインズは変わらず淡々と呟いた。

 

「しかし、トータスの重力魔法を使うと魔力(MP)消費量が大きくなるか。濫用は避けなくてはならないな……こういった事も知れるから、実戦は非常に勉強になる」

「ふ……ふざけるなよアンデッドォォォォォッ!!」

 

 淡々と——それも自分の技術を確かめる様に淡々と呟くアインズに、アルヴヘイトは痛みすら忘れて激昂した。光翼が再び強く輝き、時間を巻き戻す様に傷付いたアルヴヘイトの身体が再生していく。

 

「ふむ。やはりただの回復魔法では無いな。だが、再生する度に魔力(MP)が減っているのは確かだな。忠告してやるが、魔力はもっと計画的に使った方が良いぞ?」

「黙れ、アンデッドッ! 神たる私に対する数々の狼藉! もはや許さんッ!!」

「おや? 他人の忠告は素直に聞いた方が良いと思うがね。ああ、すまない。無理な話だな。自分よりレベルの低い人間達を玩具にして遊んでいただけの、エヒトルジュエの使()()()でしかない君にそこまでの器量を期待できるわけがないか。しかし、なんだな……君の主人を見ていると、幼児が集まる砂場を占拠して威張り散らしている小学生を見ている気分になるな」

「貴様ッ! エヒトルジュエ様を侮辱するかッ!!」

 

 傷一つ無い美しい元の姿に戻りながらも、アルヴヘイトは怒り狂った。まるで上級者が初心者(ルーキー)にアドバイスする様な物言いをするアインズに腹が立ち、何より自分の主人を貶された事に沸騰した脳はアルヴヘイトから正常な判断能力を奪っていた。

 アルヴヘイトは再び光翼を広げる。すると翼の羽が抜け落ちる様に何枚も舞い、そこへ更にアルヴヘイトが魔力を込めると羽は次々と光り輝く人型を形作っていく。光り輝く人型の両手には双大剣が握られており、まるで“使徒”達を模して作った様な人型の兵士が次々と出来上がっていく。

 

「召喚? いや、これは……生成魔法で自分の魔力からエレメンタル系の魔物を作り出したのか? 生成魔法にはこんな使い方もあったのか……なるほど、これは勉強になる」

「いつまでも良い気になってるなよ、アンデッド! 神である私の魔力を使って作られた“使徒"だ! 勝手に狂い出した木偶人形共とはワケが違うぞっ!」

 

 アルヴヘイトの叫びに応える様に、光の人型達は双大剣を構える。その数は百を超えており、彼等が発する圧力は“使徒”を上回っている。アルヴヘイトが宣言するだけの実力はあるのだろう。

 

「かかれっ!!」

 

 “光の使徒”達は一斉にアインズに殺到する。それにアインズが対処する為にスタッフを振り上げるのを見て、アルヴヘイトはニヤリと嘲笑った。

 

(馬鹿め、掛かったな!)

 

 アインズが大勢の“光の使徒”達に囲まれて視界が塞がれた瞬間に、アルヴヘイトは“天在”を使った。

 “天在”は空間魔法とは異なる原理で空間を捻じ曲げる魔法だ。これを使い、アルヴヘイトは通常の空間魔法の様に転移門を使用しない空間転移や離れた場所にある物体の引き寄せ(アポート)転送(アスポート)などを可能にしていた。

 

(あのアンデッドの力は想像以上だ! そこは認めてやる! だが……奴の主達は別だ!)

 

 激昂し、我を忘れた様に“光の使徒”達にアインズの攻撃を命じたアルヴヘイト。しかし、彼は考え無しに行動に移したわけではない。“光の使徒”達も、アルヴヘイトの魔力を直接使ったとはいえ()()()()()()ぐらいにしか機能しないだろうと判断していた。だが、ほんの少しの間アインズを足止め出来れば十分だった。

 

(確かに“神域”への転移は封じられたが、見える距離程度ならば転移は可能だ!)

 

 アルヴヘイトはアインズに全て突撃させたと見せかけ、手元に残した数体の“光の使徒”達をシャルティア達の背後に転移させた。気配を感じ取ったのか、シャルティアとアルベドが同時に“光の使徒”達に振り返ったが、もう遅いとほくそ笑む。

 

「死ねえええぇぇぇええッ!!」

 

 アルヴヘイトの号令と共に“光の使徒”達が双大剣を振りかぶる。人間には決して反応できない速度で振るわれ、次の瞬間にはアンデッドの主である“解放者”達の首は飛んでいるものと確信し———それより早く、スポイトランスと“真なる無”が“光の使徒”達を消失させていた。

 

「……………あ?」

「ちょいと、護衛役。結局私が戦う事になりんしたけど、弁明はありんすかえ?」

「あら、御免なさいね。あの程度を敵とは思えなかったのよ。あ、貴方にとっては敵という認識だったのかしら? なにせ貧弱な“解放者”様だものねぇ?」

 

 自分の作り出した“光の使徒”が、貧弱な筈の()()達に一撃で消された事にアルヴヘイトの脳は理解を拒んでいた。しかも先程の出来事を無かった様に二人で睨み合いを始めたシャルティアとアルベドに、アルヴヘイトは数秒の思考の空白が生まれ——次の瞬間、光を塗り潰す様な巨大な闇が爆発して地を揺るがす。

 

「……なるほど、少しは考えたじゃないか」

 

 爆発の中心地——“光の使徒”達を全て消し飛ばし、アインズはアルヴヘイトへ声を掛けた。だが、アルヴヘイトには理解できた。その声は先程と違い、永久凍土すら尚生温く感じる程に底冷えしている事に。

 

「私も慢心が過ぎたな。こんな単純な手に引っ掛かるなど、ぷにっと萌えさんに叱られてしまう。ところで……私の大切な者達を傷付けようとした報いを受ける覚悟はあるんだろうな?」

「ア、アインズ様……! いま、私を大切と仰いましたか!?」

「無論、私の方でありんすよね!!」

「……ああ、うん。ちょっと黙ってような、二人共」

 

 ほんの少しだけ脱力した様な声をアインズは出したが、それはアルヴヘイトには何の救いにもならなかった。自分の魔法、戦術……その悉くが相手に何の効果も齎さず、アルヴヘイトの背に冷たい汗を感じ、胸の内側からゾクゾクと身体が震える様な感情――恐怖が湧き上がってくる。

 

(あ、あり得ない……私は……私は神だ! 唯一神エヒトルジュエ様に次ぎ、この世界(トータス)で最も優れた個体だ! その私が、こんなアンデッドなどに及ばないなど、ある……筈が………!)

 

 じり、とアインズが一歩踏み出す。それに対してアルヴヘイトは無意識に一歩後退した。

 

(な……何故私はいま後退した!? 私が……神である私が恐れたというのか!? アンデッドの魔物風情に? あり得ない……あってはならない!!)

 

 湧き上がる恐怖は、生まれて初めて感じる屈辱感で押し殺された。羞恥と憤怒で顔を染め上げ、アルヴヘイトは光翼を再び大きく広げた。

 

「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 光翼が強く光り輝く。アルヴヘイト自身のみならず、周囲の魔力が光翼へと集まり、巨大な光の剣を形成していった。

 

「ぐっ、おおおおおおっ……!?」

「お、お待ち下さい! アルヴヘイト神様!!」

 

 アルヴヘイトが周囲の魔力を根こそぎ集めていく中、未だに周囲にいた魔人族達が悲鳴が上がる。彼等の身体から魔力が強制的に抜け出て、アルヴヘイトの光翼へと吸い込まれていく。

 

「お待ち下さい……! こ、これ以上、魔力を吸われると我等が死んでしまいます……!」

「黙れッ! 貴様等などいくら死んでも構わん!」

「な……何を……!?」

 

 身体中の魔力が抜き取られる中、魔人族達は信じられない様な面持ちで自分達が崇めていた神を見つめた。

 

「所詮、貴様等は我が主の遊戯の駒だ! むしろ神の為に命を捧げられる事に感謝しろ! そして死ねッ!」

「ア……アルヴヘイト様っ……!!」

 

 魔人族達は絶望の表情を浮かべ、やがて身体の魔力を全て抜き取られて息を引き取った。

 そして味方すらも犠牲にして、まさに天を裂くかの様な巨大な光剣が形成される。

 

「……味方の魔力全てを集めた極大の神聖属性魔法か。なるほど、方法の是非はともかく、それなら私を滅ぼす事も可能だろうな」

「その余裕もここまでだっ! 私の全魔力を乗せた断罪の剣で、主諸共消え失せろおおおおぉぉぉっ!!」

 

 闇を全て晴らす様な巨大で神聖な光を剣の形に宿して、アルヴヘイトは吼える。それは光輝が切り札とする“神威”に似ていた。しかし、込められた魔力や熱量は桁外れだ。まさに神が悪しき者へ審判を下す断罪の剣の様に、上空の雲すらも蒸発させて聳え立つ。巨大な光の剣は、アンカジ公国は元より遠く離れた地でもはっきりと見えただろう。

 これぞ神の力。神の威光と全魔力を湛えた光の剣を前に、アインズは——。

 

「私も……超位魔法を使わずに神を倒せるなどと過小評価はしてないさ」

 

 そう言った瞬間——アインズがつけていた腕輪がピロリン♪ と安っぽい電子音と共に、幼い少女を演じた様な女の声を響かせた。

 

『予定したお時間が経過したよ! モモンガお兄ちゃん!』




 次回あたりにアンカジ公国の戦いが終わると良いなぁ……よし、頑張れ明日以降の自分(笑)

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