ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 魔王さんからお手紙着いた♪
 黒山羊さんったら、皆を食べた♪
 仕方がないので皆殺しにしよう♪
 あなたの遺言、なあに?


第百十一話「黒き豊穣への贄」

 砂漠の平野を魔人族の軍勢が進む。

 魔人族の軍勢は数にして約五万。種族としての総人口は人間族に劣る為、聖戦遠征軍に比べると半分にも満たない。しかし、生まれながらにして魔力の扱いに長けている魔人族達は言わば全員が練達の魔法師であり、普通の人間族よりもステータスに恵まれていた。事実、過去の聖戦遠征軍十八万に対して魔人族軍六万で食い止めた事がある程だ。

 加えて魔人族の国は軍人社会だ。農民達を徴兵して構成される聖戦遠征軍と違い、魔人族達は国民全員が兵役として戦闘訓練の経験がある者ばかりだった。武器を持っただけの人間族の農民と戦闘訓練をしっかりと施された魔人族とでは、どちらに分があるかは明白だろう。

 とはいえ、やはり兵力差というのは大きな要因だった。今までの両種族間の戦争は質で勝る魔人族軍に、数で勝る人間族軍が農民兵達で人海戦術を仕掛け、両者共に損害が大きくなって疲弊したら停戦するという流れだった。

 しかし、今回は例年通りにはならなかった。

 

「間も無くアンカジ公国に着くぞ!」

 

 先導部隊の魔人族の将校が声を張り上げる。

 

「これより我らの歴史に輝かしい一ページが刻まれる! 我らを迫害してきた邪悪な人間族の国を滅ぼすのだ!」

『おおっ!!』

 

 魔人国ガーランドからかなりの長旅となっているのが、魔人族の兵達に疲労感は見られない。彼等は士気高く、勇ましい足取りで行軍していた。その理由は———彼等の頭上にあった。

 

「この戦には我らの魔王陛下———否! 魔神アルヴヘイト様と天の御遣い達がついていて下さる! 案ずるな! 天は我ら魔人族をお選びになられたのだ!」

『おおおおおおっ!!』

 

 魔人族軍の頭上———そこに魔人族とは明らかに異なる人型の生物がいた。全員が輝く白銀の甲冑を着た女性であり、顔付きは美しいが皆一様に同じ顔で見分けがつかない程だ。彼女達は背中から生やした白い翼で飛び、まるで魔人族達を見守る様に併走していた。

 その数は約十万。魔人族達より多く、さらに強大な力を持った彼女達が自分達の味方であるという事実が魔人族達に高い士気を与えていた。

 

『アルヴヘイト様万歳! 天使様万歳! アルヴヘイト様万歳! 天使様万歳!』

 

 総勢十五万の大行軍。魔人族達は声高らかに歓声を上げながら進軍していく。そんな魔人族達を天使達は無表情に見下ろしていた。

 

 ***

 

「アルヴヘイト様。間も無く、アンカジ公国の首都に辿り着きます」

 

 魔人族の行軍の中で後方の中枢。司令部が固まる場所で、ノイントが話し掛ける。その人物は戦場でありながら機動力を重視した馬などではなく、貴人や神聖な物を運ぶ様な御輿に乗っていた。歴戦の軍人がいれば緊張感に欠けると眉を顰めるだろうが、その事に言及する魔人族など一人もいない。何故ならば、神輿に乗るのがまさしく()()()()()だからだ。

 

「ようやくか。どうだ? 人間共に何か動きはあるか?」

「はっ。人間達は結界の外周部に軍を展開させています。その数は千人程度です」

「王国からの援軍か? やっと王国にエヒトルジュエ様の意向を直接伝える事が出来そうだな。しかし、たったの千人とはな!」

 

 神輿に乗る人物———現・魔王にして、魔人族達の神・アルヴヘイトは邪悪な笑みを浮かべた。アルヴヘイトの神輿はノイントの姉妹達が担ぎ、さらにはアルヴヘイトを守護する様に周りを固めていた。それを魔人族達は「やはり天は我らの魔王陛下に祝福を与えたのだ!」と浮かれている為に会話を聞かれる可能性は皆無だった。

 

「ククク、エヒトルジュエ様には改めて感謝を申し上げねばならないな。よもや神域にいた“使徒”のほとんどを動員させて下さるとは」

 

 今回の魔人族の大行軍で、エヒトルジュエから十万体の“真の神の使徒”をアルヴヘイトは借り受けていた。これは現在の“盤上遊び”に飽きたエヒトルジュエが、どうせ最後になるならば盛大に幕を下ろそう、という趣向で神域で作り出していた“使徒”のほぼ全てを動員させたのだ。翼を生やした美しき戦乙女達の大軍はまさに最後の審判の様だ。

 その光景にアルヴヘイトは満足感を覚えながら、輿の上から“使徒”達が味方についている事で浮かれながら行軍する魔人族達を見下ろす。

 

「フン、良い気な物だ。人間だろうと魔人族だろうと、所詮は我らが主の遊戯の駒に過ぎないのだがな」

「仰る通りです」

 

 嘲笑を浮かべるアルヴヘイトにノイントは同意した。ノイント達にとってはアルヴヘイトもエヒトルジュエの眷族に過ぎないのだが、他ならぬ自分達の主から「此度の遠征ではアルヴヘイトの指示に従え」と命令されているので、アルヴヘイトの従者の様に振る舞っていた。もっとも、エヒトルジュエの命令を実行する為だけに作られたノイントにはアルヴヘイトの様に豊かな感情表現は見せなかった。

 ノイント(人形)の反応に然程興味を持たず、アルヴヘイトは偉大なる主が描いたシナリオ通りに進んでいる事態に満足感を覚えていた。彼にとって自分を信仰している魔人族だろうと、エヒトルジュエを満足させる為の駒に過ぎなかった。

 

「せいぜい束の間の繁栄を噛み締めるが良い………この世界の全ては、我らの主の遊戯盤に過ぎぬのだからなぁ」

 

 ***

 

 時刻にして正午の頃。魔人族軍はアンカジ公国首都に辿り着いた。ドーム状の結界で覆われた首都から数キロ離れた地点で布陣した。陣形は縦は三列、横は五列に広がった単純な横陣だ。前軍に機動力のある“使徒”と魔人族の騎馬部隊が合わせて五万人、中軍には魔人族の中で広範囲攻撃魔法に長けた砲撃部隊や彼等を守護する“使徒”を合わせて五万人、そして最後方である後軍には魔人族軍を指揮する将校や精兵からなる魔人族のエリート部隊。そして大将であるアルヴヘイトと彼を護衛するノイントを含んだ“使徒”達五万人が布陣していた。

 単にアンカジ公国首都を包囲するならばもっと適した陣形があるが、ノイントから首都を守護する人間の人数を聞き、アルヴヘイトは小細工は必要無いと判断していた。何より人間達に絶望感を味わわせる為にも、分かりやすく大軍を象徴できる陣形の方が良いだろう。

 

「さて———では一仕事するとしようか。ノイント、ついて来い」

「はっ」

 

 陣形を崩さずに進み、公国首都が肉眼でも視認可能な地点まで来た所でアルヴヘイトは一旦行軍を停止させた。そして護衛となるノイントと数体の“使徒”を引き連れ、軍の先頭へと魔法で飛んだ。そこまで行くと公国首都の外縁部にいる人間達の顔も確認できる距離となり、眼下で自分を指差しながら泡を食った様に狼狽える姿に嘲笑を浮かべながらアルヴヘイトは拡声魔法を使って声を出した。

 

「聞け———下等にして、愚かなる人間族よ。我は魔人族の神アルヴヘイト」

 

 アルヴヘイトの名を告げた途端、人間達の騒めきが大きくなる。「馬鹿な!?」、「信じられない!」という叫び声が天上まで届き、アルヴヘイトはますます尊大な態度となった。

 

「ふん、仮にも神を前にして礼儀を弁えぬとはな」

 

 スゥと息を吸い、アルヴヘイトは自分の声に魔力を乗せる。

 

『アルヴヘイトの名において命ずる———跪け』

 

 次の瞬間、アルヴヘイトの“神言”によって人間達が一斉に片膝をついた。何とか身体を動かそうと身を捩る者もいるが、まるで見えない力で押さえつけられているかの様に動かなかった。

 

「ククク………む?」

 

 人間達が自分に向かって平伏する姿に優越感を覚えていたアルヴヘイトだが、視界の端に妙な物が見えた気がした。ハイリヒ王国の兵士達の後ろで仮面をしている黒いローブの人物が周りからやや遅れて片膝をついていたのだが、その人物の隣にいる真紅の全身鎧を着た少女は片膝をついた黒いローブの人物を前にオタオタとしていた。しかしアルヴヘイトが視線を向ける前に、黒いローブの人物は真紅の鎧の少女の身体を引っ張り、無理やり平伏させた。

 

(………気のせいか?)

 

 一瞬、自分の“神言”を破る者がいたのか? と思ったアルヴヘイトだが、誰も立ち上がる者がいない光景にすぐに肩をすくめた。エヒトルジュエに劣るとはいえ、神である自分に抵抗できる者など地上に現れた試しが無い。気を取り直して宣言する。

 

「まあ、良かろう。体裁だけとはいえ、神の言葉を聞く姿勢は整った様であるな。では改めて告げよう、人間達よ———死ね」

 

 アルヴヘイトの一言に、人間達が片膝をついたままどよめいた。

 

「貴様等はこの地上を穢す害虫そのものだ………一片の価値すらない」

 

 高らかに、そして尊大なまでの威厳をもってアルヴヘイトは宣言する。それはまさしく、神の宣告と呼ぶに相応しい姿だった。

 

「せめてもの情けとして、最期の抵抗を試みる機会は与えてやろう。しかし、降伏は許さん。この国ごと地上から消えよ」

 

 一方的な宣言の後に、アルヴヘイトは“神言"を解除した。人間達は強制されていた姿勢が崩れて蹌踉めく中で、言いたい事を言い終えたアルヴヘイトは背を向けて魔人族達の陣地に戻ろうとし———。

 

「お、お待ち下さい!!」

 

 人間達の中で、軍の隊長らしき中年の男が立ち去ろうとするアルヴヘイト達の背中に声を掛ける。

 

「天使様! 貴方がたは本当に我々の知る天使様なのですか!? 何故、魔人族達に味方するのですか!!」

 

 アルヴヘイトにではなく、供としているノイント達に向かって中年の男は悲痛なまでの叫び声を上げる。それは一人の信徒として、神に縋ろうとする心からの訴えだった。そんな人間をノイント達は冷酷なまでの無表情を向ける。

 

「………“天”は偽りの勇者達を持て囃す貴方達に怒り、正しき者達を祝福せよと仰られました」

 

 ビクッと中年の男性の周りにいた若い四人の兵士達の肩が震える。

 

「祈りなさい。そして神の裁きに身を委ねなさい。それが最後の審判を迎える貴方達に出来る唯一の事です」

 

 ノイントの言葉に中年の男性は力無く膝から崩れ落ちた。絶望を浮かべた人間達の表情に愉悦を覚えながら、アルヴヘイトはノイント達を引き連れて陣地へと戻っていった。

 

 ***

 

「クハハハハ!! あの人間の顔! まさしく痛烈この上ない!」

 

 自陣に戻ったアルヴヘイトは、先程の人間達の表情を思い出しながら機嫌良く笑っていた。いつの時代でも、自分達が神に見捨てられたと思って絶望する人間達ほど痛快な物はない。

 

「褒めてやろう、ノイント。よくぞあの様な台詞を思い付いたものだ!」

「ありがとうございます」

 

 上機嫌なアルヴヘイトに対して、ノイントはやはり表情を変えないままに頭を下げた。彼女はアルヴヘイトの様に愉悦感などは感じておらず、機械的に頭を下げただけだがアルヴヘイトは気にしていなかった。そんなアルヴヘイトへ、魔人族軍の将校達が近寄る。

 

「魔王陛下………いえ、アルヴヘイト様。各隊の戦闘準備が整いました」

 

 かつての称号で呼びかけ、その正体が自分達が信仰する神の化身だった事を思い出した将校は平伏しながら報告する。

 

「アンカジ公国の結界は強度が高く、我々だけでは突破に少しお時間を頂くかと存じ上げます。そこで天使様方にお力添えをして頂く様にお願い出来ないでしょうか?」

「構わん。“使徒”達が結界を破壊して後、貴様等は公国に集まった軍を蹴散らし、公国を灰に変えよ」

「はっ! それならば人間共を確実に殲滅する為に包囲網を形成致しますか?」

「いや、良い。今の陣形のまま、公国を滅ぼせ」

「しかし、今のままでは王国へと逃げる者が出るかと———」

「良い、と我は言った」

 

 もう一度、アルヴヘイトが強めに言い放つとそれ以上は反論せずに将校達は頭を下げた後に命令通りに動き出した。

 

(エヒトルジュエ様はこの魔人族の遠征の最後に、異世界より召喚した駒達が同じ人間達から糾弾される姿を見たいと仰られた。公国から生き残って、此度の“神託”を王国に伝える者がいなくてならん)

 

 果たして、その時が来たらどうなるか? 今まで自分達がエヒト神に選ばれた救世の勇者と疑っていなかった人間達が、天使達からはっきりと「偽りである」と告げられるのだ。

 「そんな事はない!」と無謀にも戦場に出てくるか、あるいはペテン師として王国や教会の人間達から裁かれるのか。エヒトルジュエが思い描いたシナリオに、アルヴヘイトも早く見たいと楽しくなり始めていた。

 そして、アンカジ公国の結界を破壊する為に前軍の“使徒”達を動かそうとし————。

 

「な………何だアレは?」

 

 次の瞬間、アンカジ公国の結界の外縁部を中心に展開されたドーム状の巨大な魔法陣に、アルヴヘイトは目を剥いた。

 

 ***

 

(やはり来たな………)

 

 魔法陣を展開したアインズは、こちらに向かって動き始めた魔人族と天使の混成軍に対して冷静に判断した。

 

(ユグドラシルでは超位魔法を使えば、転移魔法による突貫や魔法の絨毯爆撃で詠唱を妨害して来ようとする。相手は曲がりなりにも超位魔法への対処法を知っているみたいだな)

 

 縦三列の軍の内、前方の軍が向かって来る。天使達は高速で———ただし、レベル100であるアインズからすれば遅い速度だ———羽ばたき、魔人族達は天使達の後を追う様に騎馬や歩兵による突貫でアインズに向かって来る。アンカジ公国に張られた結界があるとはいえ、詠唱が終わる前に突破されてしまうだろう。

 

(まさか相手に“支配の呪言”が使える奴がいたのは予想外だった。低く見積もっても、デミウルゴス級を覚悟すべきだな)

 

 これから始めるのは、アインズにとって初めての勝算が確立していない戦いだ。ユグドラシルにおけるアインズの強さは、基本的に一戦目は捨てて相手の情報を引き出した上で勝利を掴み取るものだ。いざとなったらアンカジ公国を見捨てて逃げる事も考えた上で、この場には“転移門”を使えるシャルティアだけを連れていた。

 

(それならば———もはや加減など必要がない)

 

 アインズは手の中にある砂時計の形をしたアイテムを握り締める。ユグドラシルの課金アイテムであり、おそらくはこの世界で手に入れる事など不可能な物を———躊躇いなく握り潰した。

 

(きっと多くの魔人族達が死ぬだろうな………でも)

 

 でも、()()()()()()()()()()()()()? 

 いま、自分の心の中にあるのはナザリック地下大墳墓に所属する者達が得られる利益への追求———そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その為ならば、魔人族達がいくら死のうとアインズの心に何の痛痒も齎さないのだ。

 砕けた砂時計から零れ落ちた砂が魔法陣へと纏わりつく。その刹那———アインズの脳裏に、金髪の吸血鬼の姿が浮かんできた。

 “これが本当に貴方のしたかった事か?"

 その質問をしてきた姿に———ほんの少しだけ、アインズに躊躇いが生じた。

 

「ああ———」

 

 脳裏に浮かんだユエの言葉に、アインズは硬く拳を握り締める。

 

「これは———ナザリックの為に必要な事だ」

 

 眼前にまで迫って来た天使達。その後ろから迫る魔人族軍に、アインズは課金アイテムによって詠唱が破棄された超位魔法を使用した。

 

「超位魔法———<黒き豊穣への貢(イア・シュブニグラス)>!!」

 

 瞬間———黒い風がアインズから吹き荒れる。

 いや、実際に風が吹いたわけではない。その証拠に迫っていた“使徒”達や魔人族達の髪は揺れ動いたりはしなかった。

 しかし、不可視の黒い風を吹いた後。

 魔人族、そして“使徒”達を含めた前軍五万。

 その命は———一瞬で奪われていた。

 

 ***

 

「な……に……が……?」

 

 魔人族軍の最後方。アルヴヘイトは眼前で起きた事態に呆然としていた。何が起きたかは、一人残らず倒れて動かない魔人族の前軍を見れば一目瞭然だ。だが、その事実を受け入れる事を頭が拒んでいた。

 

「前軍の姉妹達、応答しなさい。何が起きたか報告しなさい!」

 

 隣でノイントが前軍に布陣されていた姉妹機の“使徒”達に呼び掛ける。その表情は相変わらず無表情だったが、声は僅かながら震えていた。

 一向にノイントに返答しない前軍の“使徒”達だったが、空中にいた彼女達は一斉に動き始めた。

 

 グシャ———グシャ、グシャ。グシャ、グシャ、グシャ———。

 

 ノイントの姉妹機達は、一斉に地面へと落ちていく。彼女達はまるで殺虫剤を撒かれた虫の様に落ちていき、地面に次々と激突して肉が潰れる音が折り重なる。

 それはある意味では幻想的な光景だった。見目麗しい天使達が、何の傷もなく地面に次々と落ちていく様子に魔人族はおろか、アルヴヘイトすらも夢を見ている様な現実感の喪失を感じていた。

 次々と落ちる天使達を見ながら、呆然と空を見上げていた魔人族達だったが、ふと異変に気が付いた。

 それは前軍五万の死体が折り重なる上空———そこに黒い球体が浮かんでいた。

 闇を凝縮した黒い球体は、どんどんと大きくなっていく。しかしながら、あまりの異常事態に魔人族達は逃げるか、戦うかといった建設的な考えが思い浮かばなかった。ただ、呆けた様に口をポカンと開けて見上げる事しか出来なかった。

 やがて、大きくなった黒い球体が落ちる———まるで熟れた果実が地面に落ちる様に。

 バシャン、と水が弾ける様な音と共に黒い球体が弾け、コールタールの様にドロドロとした液体が前軍の死体全てを覆い尽くした。そして———。

 

「な………何だあれはっ!?」

 

 アルヴヘイトが金切り声を上げた。それはエヒトルジュエの眷族とはいえ、神である彼でも未知のものだった。

 コールタールの地平から、ぼこりと黒い触手が生える。それも一本や二本どころではない。まるで乱立する林の様に、天へと何本も伸びていく。

 無数の触手を生やし、小山の様な大きさの粟立つ肉塊に幾つもの口が現れ、山羊の蹄を持った五本の足で()()は大地を踏み締めた。

 

『メェェェェエエエエエエエエ!!』

 

 絶望が———五匹の山羊の産声と共に生まれた。




>アルヴヘイトの“神言"

 もちろん、アインズ様には効いてません。でも初見のアルヴヘイトに実力を悟らせない為に、効いたフリをしていました。この人、原作でも必要なら土下座して相手の油断を誘うべきと考える人なので。シャルティアは低レベルの相手しか効かない筈の“支配の呪言”にアインズが従っているのに慌てて、アインズに無理やり効いてるフリをさせられました。

>黒き豊穣への贄(イア・シュブニグラス)

 アインズの超位魔法。発動後、即死判定のある黒い風が敵陣を駆け、その時の犠牲者の数に応じてレベル90以上の「黒い仔山羊」が召喚される。どんな見た目かは、ググった方が分かりやすい。
 ユグドラシルでは二体呼べれば御の字だったが、今回は五万人の贄が捧げられた事で五体召喚された。おそらく五体が最大上限数。
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