山羊の可愛らしい、気持ち悪いくらい可愛らしい鳴き声が砂漠の平野に響き渡る。普通の人間ならば仔山羊達の可愛らしい鳴き声に微笑ましさを覚えるかもしれない———それが巨大な肉塊についた無数の口から漏れていなければ。
目の前に現れた悍ましい五匹の
「五体も召喚できたのか! すごいな、新記録だぞ!」
その中でアインズは楽しげに笑った。
「これは嬉しい誤算だ。やはりこの魔法を選んで良かったな。おそらく五体も召喚できたのは古今東西でも私しかいないぞ」
<黒き豊穣への貢>で召喚される『黒い仔山羊』は、ユグドラシルでは二体出れば御の字だった。まるでゲーマーがハイスコアを更新した時の様に、アインズは現れた五体の仔山羊達に無邪気に喜んでいた。数万の死者の事など、どうでも良くなっていた。
「しかし、もっと現れても良い筈だよなぁ………ひょっとして五体が最大上限数なのか? だとしたら、これは新発見になるだろうな」
「おめでとうございます、アインズ様! 流石は至高なる我が君でありんす!!」
「ありがとう、シャルティア」
いつものドレス姿から戦装束に着替えたシャルティアの賞賛に、アインズは仮面の下で笑顔を見せていた。
(な、なんだよ、こいつら………なんであんな化け物を召喚して、嬉しそうなんだよ!?)
兵士達に混じった永山はアインズ達の様子に恐怖を覚えていた。先程、天使から“偽りの勇者”と言われた時の衝撃などもう頭から吹き飛んでしまった。
最前線に左遷されてから、永山達も厳しい戦いをいくつも乗り越えてきた。戦いの日々の中で、これは召喚当初に思い描いていた魔王を退治する華々しい戦いなどではなく、人同士が争い合う戦争なのだと知った。だからこそ、自分の友人や恩師であるメルド達を守る為に両手を血で染める覚悟もしてきたつもりだった。たとえ仲間達やメルドが目の前で魔人族を殺したとしても、その事を責める言動はしないと心に誓っていた。
だが、いま目の前で行われた事はそんな永山の覚悟など容易く打ち砕いた。
地平線を覆い尽くすほどの大軍が、空を覆う程にいた天使達が。黒いローブの人物が放った魔法で全体の三分の一は死んだ。そして数万の死体を覆い尽くした黒い泥から、巨大な悍ましい化け物達が現れた。その巨体は数キロは離れている永山の目でもはっきりと分かる程だ。
ガチャガチャ———隣から聞こえてきた音に永山は目を向けた。そこには自分と同じ兵士の鎧を着た野村がはっきりと分かる程に震えていた。よくよく聞けば、その音は周りの兵士達からもしていた。自分達の恩師であるメルドすらも震えている姿に、永山はどうかあのローブの人物の力が頭上に落ちて来ない様にと祈り出していた。
「まずは———頭数を減らすのが先だな」
アインズの呟きに、永山の肩が大袈裟なくらいビクッと震える。決して自分達に向けられたものではないと理解しながらも、まるで死刑宣告を読み上げられた様に恐怖が湧き上がったのだ。
「追撃の一手を開始せよ。可愛らしい仔山羊達よ」
***
「なぁ……あれ、夢だよな?」
異形の魔を遠くに、魔人族の一人が呟く。しかし、答える者はいなかった。誰もが前軍にいた同胞や天使達を喰らうようにして現れた五体の仔山羊達を見て魂が抜け出た様に呆然としていた。
「なぁ、夢なんだよな? 俺達、夢を見ているんだよなぁ!?」
魔人族の一人は半狂乱になりながら喚き声を上げる。
あり得ない。信じたくない。
そんな想いが込められた叫びに、隣にいた同僚がポツリと返した。
「ああ。きっと俺達は、目を開けたまま悪夢を見ているんだ」
それは半ば以上に現実を逃避した様な呟きだった。
フリードが存命だった頃、様々な魔物を自軍として使役していた魔人族達だったが、そんな彼等をもってしても目の前の魔物はサイズも存在感も異常過ぎた。ましてや自分達を守護していた天使達すらも殺した後に出てきた魔物が、ただの魔物である筈が無い。徐々に近付いてくる姿を見ても、魔人族達は巨大な竜巻を前にした様に武器を構える事なく棒立ちで見つめていた。
「武器を構えよ!!」
音程の狂った声が響く。血走った目で中軍の一隊を指揮するミハイルは周りの兵士達に怒鳴っていた。
「武器を構えよ! た、助かりたくば、ぶきじゃまえよ!!」
錯乱のあまりに本人ですら何を言っているか分からない様だが、とりあえず「武器を構えろ」と言っている事はなんとなく分かった。それがこの場で最も正しい判断だという事も。
中軍の魔人族の兵士達は一斉に先端が尖った錫杖を構える。中軍は前衛となる前軍を支援する為に、攻撃や補助の種類を問わない魔法のエキスパート達で構成されていた。人間族よりも遥かに高い魔力を持った彼等は、トータスで随一の火力を誇る部隊と言って良いだろう。魔力を高めて詠唱を始める彼等を守る様に“使徒”達が前に出た。
「見よ! 我らにはまだ天使様達がついている!」
守護天使の様に上空に並んだ“使徒”達の姿に落ち着きを取り戻したのか、ミハイルは先程よりは聞き取りやすい声で部下達を鼓舞した。“使徒”達も魔法の詠唱を始めた姿を見て、ミハイルはどんどんと近付いて来る異形の仔山羊達から逃げ出したい気持ちに懸命に蓋をして指示を出した。
「天使様達に合わせて、最大火力を叩き込め! 臆するな! 我らは世界一の魔法部隊だ!」
勇ましい言葉に中軍の兵士達は自分自身を鼓舞しながら、頭の血管が切れるのではないかと思うくらいに精神を集中させて詠唱する。
きっと大丈夫。自分達の魔法は今までも人間族の軍をいくつも焼き殺したし、天使達だってついている。
そう思いながら目を閉じて詠唱する様子は、まるで神に対して懸命に祈ろうとする姿に似ていた。
『メェェェエエエエエエッ!!』
ついさっきまで遠くに見えていた仔山羊達が、もはや歩く度に地響きを感じる距離まで迫っていた。鈍重そうな見た目で、五本の足を懸命に動かしている姿はけっして素早そうには見えないのに、見上げる程の巨体の前ではそんな事はまるで関係無い様に思えた。
小山の様に巨大な仔山羊達を前にしても、“使徒”達は臆する様子もなく羽を広げて魔法陣を目の前に一斉に展開する。恐怖を感じないかの様に異形の化け物に立ち向かう天の遣い達の姿に、魔人族達もなけなしの勇気を振り絞った。
『———“劫火浪”!』
「撃てええぇぇっ!!」
『“極大・爆炎竜”!!』
“使徒”達が魔法を撃ったタイミングを見計らい、魔人族達も魔法を撃った。“使徒”達の巨大な炎の津波と、魔人族達が力を合わせて詠唱して作り上げた爆炎の巨大な竜が異形の仔山羊達に放たれた。街一つを塵も残さずに燃やし尽くす火力が仔山羊達を呑み込む、辺り一面の温度を一気に上昇させた。
「こ、これならさすがにあのデカブツも………」
轟轟と立ち込める火柱に、ミハイルは汗を流しながら自分を安心させる様に呟く。その汗が冷たく感じる気がしたが、きっと炎の魔法で一気に上がったせいだと言い聞かせた。部下達も、化け物は自分達の魔法で焼け死んだと安堵し始め———。
ビュンッ!! ビチャッ!!
巨大な風切り音がしたと思ったら、何か生暖かい液体がミハイルの顔にかかった。
不思議に思い、ミハイルが顔を拭って手を見てみると、それは赤い血だった。
どうしてこんなものが空から、と思いながらミハイルが空を見上げると———前方の上空にいた“使徒”達の死体が、バラバラと降ってきた。
「………………はぁ?」
思わず間の抜けた声を出すミハイルだったが、そんな事をしている間にも火柱から黒い触手が鞭の様に伸びて、上空にいた“使徒”達を次々と打ち据え、その衝撃で“使徒”達は手足や胴をバラバラにされて墜落していく。
「はああああああああっ!!」
姉妹達が次々と落とされていく様子を見た一人の“使徒”が、双剣を振り翳して触手へと飛んで行く。その身体は“限界突破”の様な輝きに覆われ、手にした双剣も銀色の魔力に覆われていた。
これこそは“真の神の使徒”の固有魔法の“分解”だ。その名の通りに触れる物全てを分解させる魔法は、彼女達が主であるエヒトルジュエやその眷族のアルヴヘイトを除いて、トータスで最強の生物として君臨してきた要因でもあった。
銀色の魔力を全身から輝かせながら、“使徒”は黒い触手へと向かう。
その姿は邪悪な存在に鉄槌を下す天使を描いた宗教画の様だった。
だが———忘れてはならない、“真の神の使徒”よ。
魔法の大原則として、神秘はより強い神秘の前では脆く崩れ去るという事を。
パシッと、軽く摘む様に触手が突進してきた“使徒”に絡み付いた。
そして———金属を潰す様な音が辺りに響いた。
「ガッ———!?」
鎧ごと内臓を圧し潰された“使徒”が血反吐を吐く。それでも残された力で銀色の魔力を纏った剣を触手に突き立てるが、“分解”の固有魔法が付与された筈の剣は、まるで硬いゴムの様に触手に突き刺さりもしなかった。
超位魔法・“黒き豊穣への貢"。
異形の黒き豊穣神の仔共である黒山羊達は、神の遣いを模して作られただけの戦乙女達より遥かに強力な神秘であった。
「あ、ああ、何故、何故、何故———!?」
この世界の唯一神であるエヒトルジュエから与えられた力が何も通用しない事に、“使徒”は無表情だった顔に困惑の表情を浮かべながらも剣を突き立てようとする。
まるで蜘蛛の巣にかかった蝶の様に暴れる“使徒”を触手で掴みながら———火柱から異形の仔山羊が現れた。
「ひっ———!?」
極大の炎魔法をくらいながら、何の傷も負った様子も無い姿に触手に掴まれている“使徒”は生まれて初めて恐怖の感情を感じていた。
黒い仔山羊は身体の触手を器用に動かして、身体中にある無数の口の一つに“使徒”を放り込んだ。
「ぎぃっ!? い、いや………こんなの、やだ………!」
ベキベキッ、と身体中の骨が歯で潰される音がする。“使徒”は生まれて初めて感じる痛みと、死への恐怖に涙を流した。その様子はもはや天使の様な神々しい存在ではなく、死を前にして泣き叫ぶただの人間の様だった。
ぼとり。
仔山羊の口から“使徒”の生首が零れ落ちた。
その表情は———絶望を浮かべ、神聖さの欠片も無い少女そのものだった。
火柱の中から残りの仔山羊達も現れる。彼等は一様に無傷であり、まるで地面の蟻の群れを気にせずに歩くかの様に巨大な足を魔人族達へ振り上げた。
そして———蹂躙が開始される。
「ぎゃああああああああっ!!」
「いやだあああああああっ!!」
「たすけてええええええっ!!」
「やめてえええええええっ!!」
『メェェェエエエエエエっ!!』
グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。グチャ。
肉が引き潰される音が絶え間なく響く中、ミハイルは呆然と立ち尽くしていた。
(そうだ———これは夢だ)
屈強で知られる魔人族軍の兵士達が涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら逃げ惑い、上空では“使徒”達が立ち向かっては次々と肉片を撒き散らす中で、ミハイルは唐突にそう思った。
(これは夢なんだ。こんな事、現実にある筈がない………そもそも魔王陛下がアルヴヘイト神そのもので、しかも天使達が我々の味方をしてくれるなんて、現実感が無さ過ぎる展開じゃないか)
周りの部下達が一目散に逃げ出す中、ミハイルは現実逃避をして立ち尽くしていた。
ああ、これは夢だ。こんな悪夢を見てないで、早く目覚めなくては。
(起きたら書類をチェックして、それから新兵達の訓練をして………フリード様が亡くなってから忙しくて、カトレアとは最近会っていないな。今度、食事くらいは一緒に出来ないか聞いてみよう)
仔山羊の化け物達がこちらへ向かってくる。魔人族達は逃げようと必死で走っていたが、彼等の巨体の一歩の前では意味がなく踏み潰されていた。
こんな荒唐無稽な夢を見たなんて話をしたら、恋人はどんな表情になるだろう?
(きっと疲れているんだよ、と優しく言ってくれるだろうな………思えば、仕事の忙しさを理由に結婚の約束も随分と先延ばしにしてしまった。いっそ軍を退いて、田舎で家業を継ごう。そうしたらカトレアと幸せな家庭を築こう。子供は二人くらいが良いだろうな………システィーナ様の新しい部下の双子が可愛いかった、とカトレアが前に言っていた気もするしな。それから———)
自分とカトレアの間に生まれた双子を抱き上げる姿を想像して、ミハイルは自然と笑顔が浮かぶ。きっと彼女に似た可愛い子供だろう。
『メェェェエエエエエエッ!!』
次の瞬間———ミハイルの意識は、頭上から降ってきた巨大な足で永遠に閉ざされた。
***
遠くから仔山羊の鳴き声に混じって、幾百幾千もの絶叫が聞こえる。それを王国の兵士達は震えながら聞いていた。
彼等とて軍人だ。戦場である以上は人が死ぬのは当然の事だと割り切っていたし、決死の覚悟で魔人族達の軍勢と戦う気でいた。だが、こんな展開は予想など全くしていなかった。
長年の宿敵であった筈の魔人族、そして聖典や教会のステンドグラスで描かれた姿そのものの天使達。
それらが等しく、仔山羊の鳴き声がする巨大な化け物に殺されていく。
恐怖とショックが彼等の許容範囲を振り切れ、ただ呆然と眺めている事しか出来なかった。
不意に、断末魔の絶叫が響く戦場から一人の人影が飛んで来る。
「天使様———!」
飛来してくる“使徒”に、思わずメルドは声を上げた。先程、人間族を見捨てる発言をされたが、それでもエヒト神の宗教が根深いハイリヒ王国の人間として、まだ僅かながらも神の遣いとして敬う心があった。
だが、メルド達に向かってくる“使徒”は先程まで浮かべていた厳かな無表情を崩していた。もっとも、全員同じ顔だった故に見分けはつかないが。“使徒”は生き残りたいと願う様な必死な表情で羽を大きく広げ———。
『人間達! その黒いローブの人間を殺しなさい!! それはエヒトルジュエ様の神敵! その人間を殺す事が、貴方達が助かる唯一の方法です!!』
瞬間———メルド達の意識が酩酊する。“魅了”を最大出力で放たれ、メルド達は“使徒”の言っている事は、疑うまでもなく正しいのだと感じ始めた。
召喚者である黒いローブの人間を殺せば、仔山羊達は消える筈だと考えた“使徒"は今までそうして来た様に人間達を操ろうとした。
『早く! 早く、その人間を殺し———ブッ!?』
“使徒”の“魅了”が途切れ、メルド達は突然冷水を浴びせられた様に意識が覚醒した。ハッとして、メルド達が空を見上げると———。
「………はぁ。至高なる御身を人間如きが束になっても殺せる筈が無いでありんしょうに」
真紅の鎧を着たシャルティアが背中の翼を広げ、背後から特殊な形状のランスで“使徒”を串刺しにした。
まるで、偽りの天使を誅する真なる戦乙女の様に。
「な………ぜ………?」
「そもそも妾には精神操作は効かないでありんす。まあ、お前の拙い“魅了”では人間を操るのが精々でありんしょうがねぇ?」
自分の渾身の“魅了”が全く効いた様子がなく、それどころか人間達から仰ぎ見られる立場にいる自分の頭上を飛んだシャルティアを見ながら、“使徒"は絶命した。ブンッとスポイトランスを振るい、シャルティアは地面に落ちた“使徒”を見下ろす。
「近くで見ると、それなりに整った造形でありんすねぇ………アインズ様、余裕があったら一体貰ってもよろしいでありんしょうか?」
「後にしろ、後に………それにしても、やはり精神操作を使って来たか」
嬉々とした様子のシャルティアに呆れながらも、アインズは腹に風穴を開けた“使徒”の死体を見つめる。
「ゴ、ゴウン陛下………精神操作とは、一体どういう事だ? 天使様は………彼女は、一体我々に何をしたんだ?」
震える声でメルドが話しかける。自分達の聖典に伝わる“天使”の言葉を聞いた途端、闇魔法を食らった時の様に精神が酩酊する感覚がしたのは覚えている。それが何を意味するかを認められず、メルドはシャルティアと同じく全く効いた様子の無いアインズに勇気を出して聞いていた。
「ゆっくりと説明したい所だが………すまないが、今はその時間は無いな。“真の神の使徒”がその手段に訴えるというならば、こちらも次の手を発動させなくてはならない」
恐ろしい事実を前にした様に真っ青な顔になるメルドを尻目に、アインズはコメカミに手を当てて、“
「私だ………計画の第二段階を発動させろ」
***
魔人族・後軍。アルヴヘイトは混乱の極みにいた。
「何なのだ、あの化け物は!? 一体何だというのだ!?」
「目下、姉妹達に攻撃させながら正体を探らせています。しばらくお待ち下さい」
泡を食った様に狼狽えるアルヴヘイトに対して、ノイントは無機質な声で答える。彼女がここまで冷静なのも、エヒトルジュエの遣いとして余計な感情が表に出ない様に調整された為だ。そんなノイントがカンに障るのか、アルヴヘイトは血走った目を向ける。
「“使徒”達を遠距離から攻撃させろ! 魔人族など所詮は駒だ! 奴等を盾にしながら、あの化け物の弱点を探らせるのだ!」
「かしこまりした」
仮にも魔人族の王とは思えない発言だが、アルヴヘイトからすれば主の遊戯として叩き潰す筈だったアンカジ公国から予想外の被害を受けている事が問題だった。既に主から借り受けた“使徒”は三割以上が死んでいる。あの化け物をどうにかしなければ、アルヴヘイト自身がエヒトルジュエに消されかねない。
そんな仮の主人の醜悪極まる姿を見ながらも、ノイントは感情の無い無表情で残りの姉妹達に呼び掛ける。異形の仔山羊達は対空手段は身体の触手を振り回して攻撃する以外は無い様で、逃げ惑う魔人族達が仔山羊達に踏み潰される間に触手の射程範囲外となる高々度まで飛べば姉妹達は無事に済むだろう。そうやって射程外から魔法で攻撃を加えつつ、反撃の手段を探れば良い。
『姉妹達に告げます。魔人族達を盾にしながら、はるか上空を———』
ノイントが口を開くと、姉妹同士で繋がるテレパシーと共に普通の人間では聞き取れない甲高い音———高周波の様な音が響いた。
唐突ではあるが、ここで“真の神の使徒”達について話そう。
“真の神の使徒”達は天使の様な見た目はしているが、けっして超常的な存在ではなく一応は歴とした生き物だ。
かつて肉体を失ったエヒトルジュエが、自分の新たな肉体の器とするべく当時のトータスに生息していた生物達を変成魔法で改造して様々な種類を作り出していた。その中で後の魔人族や亜人族よりも、高い生物的なスペックを持って生まれたのが“真の神の使徒”だ。
結局、エヒトルジュエ自身の肉体となる様なスペックには至れなかったものの、その生物達はエヒトルジュエの尖兵として更に改良を重ねられ、今の“真の神の使徒”達へとなった。
エヒトルジュエが目を付けたのは高いスペックもそうだが、同個体同士が特殊な音で連絡を取り合う性質だった。ある種のクジラやコウモリの様に、“真の神の使徒”達は超音波の様な物でお互いの情報を交換し合っていた。
それを知ったエヒトルジュエは、自分の代わりに人間達の監査をしやすい様に“真の神の使徒”を一種類のみに絞って連絡を取り易い様にしたのだ。“使徒”達が判を押した様に同じ顔をした少女なのも、そういった理由からだ。また自分の命令に疑いなく実行する様に、自我も薄く作っていた。
そして———それが今、裏目となって現れた。
「……? この音は、誰からの………っ!?」
初め、ノイントは頭に響いて来た音を姉妹達からの通信だと思った。しかし、すぐにそれが姉妹の誰でもない事に気付いた。
その音は“真の神の使徒”の中でも自分の様な上級個体が発する音よりも、遥かに強力に頭の中に響いた。
「あ、ああ、あああああああっ!?」
頭の中に響き渡る怪音波に、ノイントのみならず“使徒”達は頭を掻きむしりながらその場で身悶えした。
***
アンカジ公国の戦場より離れた地点。
そこでナザリック技術研究所のエンブレムを着けたエルダーリッチやエビルメイガス達が、様々な機械を操作しながら戦場をモニタリングしていた。
「“真の神の使徒”、一斉に行動不能! “堕天の歌"、効果を認める!」
「同調率八十九パーセント。このまま歌い続けて下さい!」
「これ程の出力とは………さすがはナグモ所長自らが作り出したキメラアンデッドだ」
ある者は計器を見て興奮して、ある者は自らの研究所長の成果に嘆息していた。
彼等を横目に見ながら、その少女の護衛として控えたセバスが話しかける。
「万が一、エヒトルジュエの手先が来ても貴女の身は私が守ります。ですから、アインズ様達を助ける為に存分に力を奮って下さい」
「はい、任せて下さい! ナグモくんとアインズ様の為に、精一杯歌います!!」
増幅機の様な装置の中心———香織は笑顔で魔力を伴った歌声を響かせた。
血に濡れた様に紅い翼を背中から生やし、魔力を伴う歌声を響かせる姿は———魔に魅入られた堕天使の様だった。
>真の神の使徒
黒い仔山羊達に容赦なく蹂躙されてるけど、強さ議論とか真面目に考えないアホな作者の作品だからという事でお願いします。分解魔法あるじゃんと思ったけどね、どう頑張っても仔山羊に勝つ姿を思い浮かべられなかったの……。
あと、このSSで言っている事はあくまでも作者の独自設定です。
要するにノイント達は元はクジラやコウモリみたいな超音波を発する生物だったのをエヒトルジュエが神代魔法で色々と改造した結果、今の様な生き物になったという事で。同じ顔の少女ばかりでそもそも男性体が居ないじゃんというのは、エヒトルジュエにハーレム願望があったとか面倒だからコピペしたとかで無ければ、同一個体にした方が超音波で連絡を取りやすかったという事で。
>堕天使香織
香織「ボエ〜♪」
何でこうなったかは、次回にやりますとも。
ところでまた人間から遠ざかったけど、そこんとこどうなの、0歳児君?
まあ、後々にたっぷりと後悔させますけど。