ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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花粉症が辛くて頭が上手く回らないです………。しかもスギとヒノキにアレルギー反応があるから、梅雨入りまで目と鼻がボロボロになってるのですよ……。


第百十三話「堕天の魔歌」

 数日前。ナザリック技術研究所。

 

「ふむ……これが件の“使徒”か」

 

 研究員であるエルダーリッチやエビルメイガス達は、手術台に置かれた死体を解剖しながら、興味深そうに頷いていた。その死体は背中から羽を生やし、人形と見紛う程に均整の取れた顔をした少女——エヒトルジュエの“真の神の使徒”だった。

 

「至高の御方に感謝しなくてはならぬ。よもや生きていた“解放者”が保存していた遺体の解剖を我々に任せて頂けるとは」

「これで愚神の兵の構造を暴けば、愚神の兵を率いている魔王軍の兵力を大幅に削げるであろうな」

「もしやとは思うが……至高の御方はこれを見越して、“解放者”の生き残りを配下にされたのではないか?」

「うむ、あり得る。あの御方の判断は常に合理的で、我々より数手先をお読みになられているのだろう」

「さすがは至高の御方だ……我々の頭脳とは比べ物にならない」

 

 ナザリックの頭脳労働者の中でもトップクラスにいる研究員達は、口々に自分達より遥かに頭の良いアインズを褒め称えていた。

 

「おい! 無駄口を叩いている暇があるなら手を動かせ!」

「は、はっ! 申し訳ありません!」

 

 ナグモの不機嫌な声が飛び、研究員達は慌てて天使の様に神々しい外見の少女の身体にメスを入れた。

 今、彼等が解剖している“使徒"の遺体はアインズがミレディから譲り受けた物だった。かつて“解放者"として“使徒”達と戦い、“使徒”について詳しく調べる為にミレディは遺体の一つを回収していたのだ。結局、詳しく調査する前にエヒトルジュエに敗れ、仲間達とは散り散りになって大迷宮に潜伏した為に遺体は何千年も冷凍保存されたままだったが、いま新たに“神殺し”を行おうとするアインズへミレディから譲渡されたのであった。

 

「魔人族の()()()がアンカジ公国に到達する日は近い! それまでに愚神の木偶人形の仕組みを全て把握しろ!」

 

 ナグモらしからぬ強い負の感情が籠った言葉に、研究員達は怒りのとばっちりを恐れながら“使徒”の解剖に専念する。少し離れた所で端末に解剖されて明らかとなったデータを纏めているミキュルニラがチラチラと気遣わしげな目線を送っているのだが、魔人族達に対する怒りで周りが見えていないナグモは全く気付いていなかった。

 

「ナグモ所長! これを見て下さい」

 

 “使徒”の解剖をしていたエルダーリッチの一人が声を上げる。

 

「ここに反響定位を利用した跡があります。どうやらこの生物は特定の音波を利用して、コミュニケーションを取っていた様です」

「……蝙蝠の様なものか? すぐに木偶人形共が使っていた音波の固有周波数を特定しろ」

「はっ、直ちに行います」

 

 エルダーリッチは恭しく頭を下げる。彼等の技術力からすれば、死体と言えど脳が記憶していた情報を抜き取るなど朝飯前だった。

 

「上手くいけば、木偶人形共の波長を乱す妨害音波装置を作れるな」

「その……しょちょ〜。仮に“使徒”達の妨害音波の周波数が分かっても、今回の作戦に使える程の出力の装置を今から作るのは時間が足りないです〜」

 

 ミキュルニラの報告にナグモは舌打ちする。魔王軍として随伴している“使徒”は約十万人。これだけの大人数全てに効果が出る様な音波装置を一から作るとなると、どうしても数日後に予定されている開戦までに間に合いそうになかった。

 

「あの……私に提案があるのですが」

 

 研究員の一人、エビルメイガスが手を上げる。ナグモが睨みながら無言で促すと、エビルメイガスは恐る恐る発言した。

 

「所長の作成したキメラアンデッド……白崎香織殿をお使いするのはいかがでしょうか?」

「香織を? どういう意味だ」

「残念ながら、我々では期日までに妨害音波の出力装置を製作する事は不可能です。ですが、白崎香織殿は捕食した生物の特徴を再現できる万能型のキメラアンデッドです。“使徒”の因子を白崎香織殿の身体に移植し、“使徒”達の音波を再現して貰えば宜しいのではないでしょうか? 所長と同程度(レベル100以上)ならば、高出力で音波を発生させられると思いますし」

 

 その提案にナグモは少し考え込む。確かに香織ならば“使徒”の因子から身体的特徴や固有能力の再現は可能だろう。解剖した死体から予測される“使徒”のレベルはユグドラシル換算で60〜70程度。レベル100以上となる香織が出力する音波はそれらより遥かに強力となる筈だ。

 

「………良いだろう、香織には僕が話しておく。改造手術の準備をしろ」

「お待ち下さい、しょちょ〜! その……本当に宜しいのですか?」

 

 ミキュルニラが迷う様な表情を浮かべる。技術者として香織に改造手術をするのが一番理に適うというのは理解している。

 だが、それが香織を更に人間からかけ離れた存在へと変えてしまう気がして、気が付けばナグモを制止しようとしてしていた。

 そんなミキュルニラをナグモは苛立ちを込めた視線で睨み付ける。

 

「なんだ。僕の決定に異論があるか?」

「それは……でも……」

 

 やるべきではない、と言いたかった。だが、それが自分の感情(極善のカルマ値)に依る物だと理解しているからこそ、ナグモを補佐する副所長としての在り方(役割)とナグモの為にも、やりたくないという自分の感情がせめぎ合って言葉にできなかった。一向に話そうとしないミキュルニラに、ナグモは苛々とした声を出す。

 

「異論が無いなら黙って従え! いま重要なのは魔人族のクズ共を皆殺しにする事だ! さっさと準備に取り掛かれッ!」

 

 周りが自分の言う通りに動かない事に癇癪を起こす子供の様にナグモは怒鳴り散らす。異形種の研究員達は驚きながら、慌てて指示通りに動き始めた。

 

「ナグモ所長……」

 

 ミキュルニラの悲しそうな目に、ナグモは最後まで気付く事は無かった。

 

 ***

 

 そして——現在。

 

(大丈夫……私、ナグモくんの設計通りにやれてるよ!)

 

 香織は戦場の遠くから“使徒”達へ妨害音波を出しながら、喜びに胸を躍らせていた。

 ナグモの改造手術は成功した。新たに“使徒”の因子を取り込み、その能力を獲得した香織は“使徒”達を無力化する妨害音波を歌という形で出力していた。

 聖教教会の司祭達が使う魔法で“覇堕の聖歌”というものがある。これは邪悪な神敵を拘束しつつ衰弱させる効果を持つ魔法だが、ナザリック技術研究所はこれを参考にして、死体から解析した“使徒”の固有周波数に合わせた旋律を香織に歌って貰っていた。

 謂わば、これは対“真の神の使徒”用にアレンジされた“堕天の魔歌”。

 “使徒”の能力を取り入れ、高レベル故に“使徒”達より遥かに強力な音波を出せる香織が歌う事で、“使徒”達は一斉に力を失っていた。

 

(それにしても変なの。ナグモくん、あんな真剣に「頼む」なんて)

 

 また改造手術を行わせて欲しいとナグモが頭を下げに来た事に、香織は“堕天の魔歌"を歌いながら内心で頭を捻っていた。

 

(ナグモくんやアインズ様の為なら、()()()()()()()()()だからお願いする必要なんて無いのに)

 

 香織は——それを本気で思っていた。

 ナグモに対する恋心は確かにある。命を救ってくれたアインズへの恩義もある。

 しかし、それ以上に。ナグモが人間となった事で——変則的ながら“アインズ・ウール・ゴウン”所属のプレイヤーとなり、更にナグモがナザリック(ユグドラシル)の技術で香織の身体を作り直した事で、香織にナグモ(プレイヤー)が製作した異形種(半NPC)と呼ぶべき存在になっていた。だからこそ、香織は製作者であるナグモやギルドマスターであるアインズへ絶対の忠誠を捧げる事に疑問など無かった。さらにはオルクス大迷宮で彷徨っていた時に人間としての精神を擦り減らしてしまった事で、今や香織は身も心も完全に異形種へと成り果てていた。

 

(帰ったら、ご褒美にいっぱいナグモくんに甘えようかな)

 

 “使徒”達へ破滅の歌を唄いながら、新たに生えた紅い翼を広げて魔に堕ちた堕天使は歌う。

 

(その為にも……たくさん死んでね、“偽の神の使徒”さん達)

 

 くすっ、と微笑(嘲笑)む姿に護衛としてつけられたセバスは妙な違和感を感じていた。だが、アインズの作戦が進行している状況で聞くのは躊躇われていた。

 自らの手で心優しかった少女を怪物へと変えてしまった事を——人の心に無理解な少年はまだ気付いていない……。

 

 ***

 

「あ、ああ、ぐぅ……!」

 

 ノイントは脳を掻き毟る様な音に苦悶の表情を浮かべていた。その音は“真の神の使徒”達に生まれつき備わっている音波の受信器官を通して、頭の中に不快な音として直接響いていた。科学的な表現をすれば、それは害獣対策などに使われるモスキート音に近かったのだろう。それを高出力で流され、ノイント達は一斉に頭を押さえて蹲ってしまっていた。

 

「何をしている、ノイント!」

 

 だが、そんな事はアルヴヘイトには関係ない。“使徒”ではないアルヴヘイトは“堕天の魔歌”の効果は受けず、何故か突然動かなくなったノイント達に苛立った声を上げた。

 

「貴様等は私の兵としてエヒトルジュエ様に遣わされたのであろう! さっさと、あの化け物をどうにかしろ!」

「う、うぅ……はぁ……!」

 

 頭の中に直接響く音に苦しみながらも、ノイントはどうにかアルヴヘイトからの命令を実行しようとする。しかし、“堕天の魔歌”は妨害音波だけでなく、魔法によるデバフ効果もあった。ノロノロと動きの遅いノイントに苛立ち、アルヴヘイトはとうとう彼女に向けて“神言”を使った。

 

『神・アルヴヘイトが命じる! 貴様等、木偶同士で情報を共有し合い、あの山羊の化け物の正体を必ず探れ! それが出来ないなら、朽ちるまで戦えッ!』

 

 その“神言”は“堕天の魔歌”に侵されていたノイントの脳にも響いた。

 

「あ……」

 

 ノイントは“神言”の命令によって、自分の意思とは無関係に姉妹達と脳内で繋げていた。通常は特殊な音波に加えて、この様に意識をネットワーク化して姉妹達と情報を共有する事でエヒトルジュエから命じられていた人間達の監視に役立てていた。ただし———今回は妨害音波でネットワークが乱された所に“神言”で無理やり接続された為、歪んだ形で発動してしまっていた。

 

「あ……あ、ああ………っ」

 

 それは最前線———すなわち仔山羊達と直接戦っている姉妹達が得ている情報だった。

 唯一無二の支配者たるエヒトルジュエから与えられた力が何も通じず、ただ圧倒的な暴力の前に命を散らしていく姉妹達。

 

「ああ……いや……ああ……ッ!」

 

 鞭の様にしなる触手でバラバラにされた姉妹がいた。巨大な足によって虫の様に潰された姉妹がいた。初めて感じる痛みに涙を流しながら歯で擦り潰された姉妹がいた。

 彼女達が感じた痛み、苦しみ、恐怖——それら全ての情報(感情)がノイント達の脳に共有され、彼女達がエヒトルジュエによって改造された時に封じられた筈の感情を呼び起こしていく。

 

「いや……いやああああああああああっ!」

 

 生物的な原初の恐怖を思い出し、ノイントは絶叫した。

 そして恐怖は他の“使徒”達にも伝染していく。

 

「嫌だ、嫌だっ!」

「怖い、怖い! 助けて! 助けてええっ!」

「な、何だ!? おい、木偶達! 言う事を聞け!」

 

 少女の様に泣き叫び出した“使徒”達に、アルヴヘイトは狼狽えながら怒鳴り散らす。しかし、黒い仔山羊達に殺される姉妹達が感じている恐怖を共有してしまった“使徒”達は、一斉に恐怖や絶望を表情に浮かべていた。エヒトルジュエによって余計な自我や感情を封じられていた彼女達は、いま初めて感じる感情に振り回されてしまったのだ。

 

「ああああああああっ!」

「ひぐっ、うぐっ! ああっ!」

 

 気が付けば、“使徒”達は信じられない事にお互いを剣で斬りつけ合ったり、自分の身体に剣を何度も突き付けるという行動を始めていた。

 それは、恐い父親に見つかった出来の悪い兄弟がお互いに責任を擦りつけ合って喧嘩をする様に。

 あるいは、父親から痛い拳骨を貰う前に自分で自分をお仕置きするかの様に。

 アルヴヘイトからの命令で逃げ出す事は許されない彼女達がとった、苦し紛れの行動が自らを殺傷し合う事だった。

 

「な、何をしている!? おい、ノイント! すぐに止めさせろッ!」

 

 突然、理解不能な行動に出た“使徒”達を止めさせようと、アルヴヘイトは統率役であるノイントに怒鳴りつける。しかし、ノイントはアルヴヘイトの命令を聞くどころではなくなっていた。

 

「いやぁああっ……いや、いやああああああっ!」

 

 何万もの姉妹達が死ぬ時に感じた恐怖を共有してしまい、生まれて初めて感じる感情に頭の整理が追い付かない。更に姉妹達が恐怖から逃れる為に殺し合いや自殺を始めた事も頭の中を揺さぶり、初めての感情(恐怖)の前にもはやノイントは無表情だった表情をくしゃくしゃに歪め、バリバリと血が滲む程に頭を掻き毟りながら幼子の様に泣き叫ぶ事しか出来なくなっていた。

 

「いやああああああああああっ!」

 

 ***

 

 魔人族達の軍はもはや潰走を始めていた。前方には五体の黒い仔山羊が全てを踏み潰して暴れ回り、自分達を守護していてくれた天使達はどういうわけか錯乱した様にお互いを殺し合ったり、自傷したりしている。昨日まで神に選ばれた軍隊だと勇ましく行進していた魔人族軍は、今や天災の前に逃げ惑うだけの集団と化していた。

 

「逃げろっ! あの化け物に踏み潰されるぞ!」

「で、でも、まだ魔王陛下が!」

「馬鹿、そんな事を言っている場合か! 魔王陛下でもあんな化け物に敵う筈が無いだろ!」

 

 魔人族の兵士は躊躇する親友を引っ張り、隊列を乱して走り出していた。本来なら懲罰が下るだろうが、上司である隊長達も逃げ出している為に彼等を咎める者はいなかった。

 幸いにも黒い仔山羊達は魔人族達に狙いを定めているわけでは無い様だ。上空でお互いを殺し合っている為にその場で留まっている“使徒”達を攻撃している為に、魔人族達は仔山羊達が“使徒"達に気を取られている間に走って逃げる事が出来そうだった。

 だが——死を司る支配者は、そんな儚い希望すらも容赦なく打ち砕いた。

 

「な、なんだ……?」

 

 逃げようとした魔人族の兵士の遥か前方に、空間に穴が空いた様に巨大な黒々とした門が開く。しかもそれは、彼とは別方向に逃げようとした魔人族達の前にも開いた。魔人族軍を四方から取り囲む様に開いた“転移門”の中から、ナザリックのギルドサインが掲げられた軍旗が現れる。

 

「敵ハ最早、算ヲ乱シタ烏合ノ衆。オ前達、手抜カリハ許サレヌト心得ヨ!」

「Wenn es meines Gottes Wille! 了解しました、コキュートス様!」

 

 砂漠の地も凍える様な冷気を纏いながら、亜人族の兵士達や雪女郎(フロスト・ヴァージン)を率いたコキュートスの軍が北方より現れる。

 

「殺す……殺すっ! 全火器システム解禁! 奴等を一人残らず、殺せっ!!」

『Yes,sir! Kill them all!!』

 

 ドス黒い殺気を感じる声で、自律型殺人兵器達に抹殺命令を下したナグモが東方より現れる。

 

「さぁて、それじゃあ行くよ! 貴方達、今日は皆殺しにしちゃって良いからね!」

「え、ええと……頑張って殺そう! えいえい、おー!!」

『ギャオオオオオッ!!』

 

 気安く号令を掛けるアウラと、頼りない雰囲気ながら精一杯の気迫で拳を突き上げるマーレに、西方から現れた魔獣達は一斉に咆哮した。

 

「さて……至高の御方も見ておられます。勝って当然の戦いです。貴方達、ナザリックの威を知らしめる為にも圧倒的に、そしてアインズ様に歯向かえばこうなると人間達にも理解して貰える様、徹底的にやりなさい」

『グオオォォォォッ!』

 

 優雅に命令するデミウルゴスに、南方より現れた悪魔の軍勢は雄叫びをあげた。

 その数、総勢にして六万。既に軍の三分の一以上が消失し、頼みである天使達も錯乱している魔人族達に、もはや抗う力は残されなかった。

 

「あ、ああ……!」

 

 魔人族の兵士の顔に絶望が浮かぶ。彼は天を仰ぎ、涙を流した。

 

「コウゲキカイシ!」

「攻撃開始だ!」

「攻撃開始だよ!」「ええと、こ、攻撃開始!」

「攻撃開始です」

 

 ナザリックの守護者達が一斉にシモベの軍勢に命令を下す。

 そして——魔人族軍の運命は決まった。

 

「あ、ああ、あああ……ぎゃあああああああああっ!?」

 




>香織

 以前、感想返しで書いた「香織は半NPCと化している」という案で行こうかなと。よくラノベの感想とかで、「こんな主人公に何でヒロインが惚れるか分からない。ヒロインは主人公に都合の良い人形だ」という意見を聞きますから、もういっそ主人公を全肯定する人形(NPC)になったヒロインという方向で書いてやろうかな、と。

>ノイント

 初めて感情を知ることが出来て良かったね(笑)。まあ、ここで終わらせてあげる気は無いけど。

>ナザリック軍

 逃走する魔人族達に紛れてアルヴヘイトが逃げ出しても困るやん? なので、一人たりとも逃がさない為に包囲網を作って皆殺しで。“転移門”があるから部隊展開は楽に済むし。
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