ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 冒頭の展開とか過程をキチンと書くべきなんですけどね……文章が思い付かないというか、書く気力が何故か湧いてこないというか、そんな感じで書けないのですよ。自分の場合、こんなプチ・スランプ状態によくよく陥る気がします。


第百十九話「fallen」

 ———魔人族の国・ガーランド。

 

「ゴボッ……!?」

「な……何故、です……システィーナ、様……?」

 

 城に集められた魔人族の将校や貴族達は、議事堂で信じられないという面持ちで血溜まりに倒れていった。彼等は人間族の国へ遠征したアルヴヘイトや同胞達の代わりに国に残っていた魔人族軍の中枢だ。不倶戴天の敵である人間達を直接屠れない事を不満に思いながらも本土防衛の任務に就き、不在となった魔王アルヴヘイトの代わりに一般市民達の統治を任されていた。

 

「ふふ……決まっているではありませんか」

 

 システィーナ・バクアーは彼等を自分の名前で城の議事堂へと集めていた。左遷されたとはいえ、魔人族の英雄だったフリードの妹という事でまだそれだけの影響力はあったのだ。

 そして——見事に現在の魔人族の政治中枢部を一網打尽にした彼女は、返り血で身体を真っ赤に染めながらにこやかに微笑んだ。システィーナの傍らには魔人族達が見た事の無い魔物——ナザリックのシモベ達が控えていた。

 

「この国を真の神へお渡しする為……至高の御方にお治め頂く為の掃除です」

「シス……ティーナ、様……!」

 

 バンッ。

 システィーナの掌から出た魔法弾がまだ息のあった魔人族の貴族の胸を貫いた。絶望の表情で息絶えた死体を貪り喰らうナザリックのシモベ達を見ながらシスティーナは艶っぽい息を吐く。

 

「これで魔人族は指導者を失い、残されたのは一般市民か僅かばかりの兵ばかり……生き残る為には魔導王陛下の御慈悲に縋る他ありません」

 

 チリンチリン、と彼女の服の中から金属的な音が鳴る。胸に伝わる感触に背筋を震わせ、陶酔した笑みで天を仰いだ。

 

「ああ、堪らない……言われた通りに致しましたから、ご褒美を下さいぃ……シャルティア様ぁ♡」

 

 ***

 

 その後——魔人族と“真の神の使徒”の軍勢は一時間足らずで壊滅した。

 これはトータスの歴史において、魔人族と戦争して終結するのに掛かった時間の最短記録になるだろう。過去の例を見ても、魔人族達が大規模な動員をした戦争は何年もかかってから停戦協定が結ばれたのに対して、魔導国は合戦を始めたその日に魔人族軍を殲滅したのであった。

 戦後処理もアインズが心配していた程、複雑にはならなかった。それどころかアンカジ公国の領主ランズィは「対談はどうしよう……」と内心で憂鬱になっていたアインズに対して真っ先に膝を折り、魔導国への属国を願い出たのだ。

 

(え……先日に同盟を結んだよな? なのに属国宣言? なんで??)

 

 しかもアインズが話したエヒトルジュエの真相に疑う素振りすら見せず、ランズィはその話を鵜吞みするかの様に頷いたのだ。

 何故か顔色を悪くさせているアンカジ公国の領主に「貴方は疲れて正常な判断が出来てないのでは?」なんて指摘を公の場でするわけもいかず、結局訳知り顔のデミウルゴス達に見守られながらアインズはアンカジ公国を魔導国の傘下とする事を了承する事になったのであった。

 

 ***

 

「ナグモくん、今日はお疲れ様!」

 

 その夜——オルクス迷宮の屋敷にあるナグモの部屋で、香織はナグモに笑顔で話しかけた。

 彼女の背には“使徒”の因子を取り込んだ事で新たに翼が生えていた。オリジナルの“使徒”達とは違い、血に濡れた様な真紅の翼は魔に魅入られた堕天使を彷彿させる姿だが、ナザリック地下大墳墓(魔物達の巣窟)に所属する者としてこれ以上なく相応しい姿ともいえた。

 

「魔人族達の()()、大変だったでしょ? 私は後方で“堕天の魔歌”を歌っていただけだけど、『よくやってくれた』ってアインズ様に直々に褒められたよ! これもナグモくんが私を改造してくれたお陰だね!」

 

 香織はアインズに褒められた事がとても光栄だという様に表情を輝かせていた。

 今回の戦争において、エヒトルジュエの“使徒”達を全員無力化するという大役を見事に果たせた香織は、アインズ直々にお褒めの言葉を貰っていたのだ。これには階層守護者達も羨ましそうな目線を香織に向け、ある意味では香織がナザリックに正式に迎え入れられた瞬間となったのだ。

 その瞬間をナグモはいつもの様に無表情で―――しかし、どこか上の空で見ていた。

 

「あ、そうそう。まだ息があった“偽の神の使徒”達が何人かいたけど、私の支配下にあるから安心してね。ナグモくんが前に言った通り、より大きな波長を出す個体に従う性質があるみたい。その子達は実験動物として第四階層の研究所に送ったけど、シャルティア様が一体欲しいって——ナグモくん?」

 

 興奮気味に話していた香織だが、ずっと黙ったままのナグモに違和感を感じて不思議そうな表情になった。

 

「どうしたの? お腹でも痛いの?」

「……違う。違うんだ、香織」

 

 ナグモは俯きながら、呟く様に言った。その表情はどこか気落ちした様に沈んだものだった。

 

「なあ、香織……今回、僕がやった事は……何か間違いがあったか?」

「……? どうして? ナグモくんに何も間違いなんてなかったとは思うけど」

 

 言葉の意味が分からないという様に香織は首を傾げたが、ナグモの表情は晴れなかった。それはまるで、今まで歩いていた道を突然見失って迷子になってしまった子供の様だった。

 

「……今回の魔人族軍の殲滅は、奴等にとって大打撃だ。まともな軍隊が壊滅した今、魔人族の国も直にアインズ様の手に落ちる」

 

 アルヴヘイトがアインズに敗れ、遠征軍にほぼ全軍を注ぎ込んでいた魔人族達は今回の壊滅で組織立っての抵抗すら出来なくなった。しかもアインズという絶大な力を目の当たりにして、アンカジ公国も無条件で平伏した。もはやトータスの国の内、ハイリヒ王国以外はアインズの傘下となって世界征服計画の成就も目前に迫ったのだ。

 

「だから……これはナザリックの……アインズ様の利益となる事だったんだ」

 

 そう呟くナグモだが、まるで自分に言い聞かせている様で何処か弱々しい口調だった。

 

(そうだ……これは、正しい事なんだ。魔人族達は……アインズ様の為に死ぬべき奴等だったんだ)

 

 自分に言い聞かせるナグモだが……脳裏には父親を庇おうとした魔人族の青年が、キラーマシーン達に殺されていった姿が思い浮かんでいた。それがかつて焼け落ちた人間の町で見た母子の焼死体と重なり——彼等を殺した魔人族の兵士達と変わらない行動をした、と思うと胃の中に鉛を入れられた様な重苦しい気持ちになるのだ。

 

(だから……だから僕は、何も間違った事なんか……)

 

 していない、と何故か胸を張って言う事が出来なかった。

 それどころか自分の中で、必死になって正当化しようとしている事に気付いてしまった。それが何故か堪らなく嫌で、胸が苦しくて——。

 

「………」

「香織……?」

「ナグモくんは何も間違ってなんかないよ」

 

 不安に怯える子供の様に震えるナグモを香織はそっと抱き締めた。背中から生やした翼も使って包み込む姿は、母性溢れる天使の様だ。

 

「ナグモくんが何に苦しんでいるかは分からないけど……ナグモくんはアインズ様の為に頑張ったんだもんね。だから、何も間違った事なんてしてないと思うの」

「……そう、だろうか?」

「うん。それに——きっと、あの人達も感謝していると思うよ。アインズ様の世界征服の為に死ねたんだから」

「………え?」

 

 ナグモは思わず目を見開き、香織を見る。彼女は天使の様な微笑みを浮かべたまま、当たり前の様に言った。

 

「魔人族や“偽の神の使徒”達は、エヒトルジュエの手下の神様に従っていたんだよね? そんな間違った神様なんかを信仰していたから、今回の戦争で死ぬ事になっちゃったんだよ。でもアインズ様によって命をもって間違いを償う機会を得られたから、きっと天国で感謝していると思うの」

「それは……でも……。香織……だよな?」

「? 私が別の人に見えたの? おかしなナグモくん」

 

 くすくす、と可笑しそうに香織は笑う。その愛らしい姿は、何度も見た筈のものだ。その筈、なのに……別の人間——否、()()()()()()()()()()()()()()()様に感じてしまったのだ。

 

「ねえ、ナグモくん。私、今日はいっぱい魔力を使ったからお腹空いちゃった」

 

 ナグモを抱き締めたまま、香織は目尻を下げて蕩ける様な笑みを浮かべた。胸の双丘の柔らかさが伝わるくらい密着し、スリスリと身体を寄せる。

 

「今日はいっぱいナグモくんに可愛がって欲しいなぁ……♡」

「あ……ああ、そうだな。魔力を補充しないとな……」

 

 ナグモが頷くと、香織は紅い目を輝かせてナグモをベッドに押し倒した。

 

「はぁむ、ちゅっ——♡」

 

 舐る様に香織はナグモと舌を絡ませる。身体の温もりも、柔らかさも、ナグモが何度も肌を重ねた香織の感触そのものだ。

 

(さっきの違和感は……きっと気のせいだ)

 

 ナグモはいつも以上に激しいキスをしながら、そう思った。

 

(香織は……香織は、ナザリックの一員として馴染んできたという事だけなんだ。魔人族なんかに……ナザリック以外の者に感情を乱される事は、正しくない。アインズ様の事が第一であって、自分の感情なんかに振り回されている僕の方がおかしい……だから、香織の言っている事は間違いなんかじゃ……)

 

 熱い吐息を漏らしながら、香織はナグモの衣服に手をかける。

 ナグモはまるで溺れる様に———あるいは縋る様に。香織の肉体を求めていった。

 

 ***

 

「いやはや、さすがは至高の御方であるな。超位魔法など初めて見ましたぞ」

「私もだ、同輩。やはり、あの御方こそが真の魔の王なのだよ」

 

 戦争の終わったアンカジ公国の戦場で、複数のエルダーリッチやエビルメイガス達の姿があった。ナザリック技術研究所のエンブレムをローブに付けた彼等は、とある作業の為に戦場に残っていた。

 

「ふむ。魔人族達の死体を見る限り、我らが作ったキラーマシーン達は問題なく性能を発揮した様だな」

「しかし、ナグモ所長はどうされたのだろうか? 何やらお元気が無かった様だが……」

「ううむ、キラーマシーン達の性能に不満があったというわけでは無いと思う。まあ、あの方の事は伴侶である白崎香織殿にお任せすれば良かろう」

「確かに……しかし、所長も素晴らしいキメラアンデッドを作成されたものだ。さすがはナザリック技術研究所の所長であるな」

「いや、まったく……あ、コラコラ!」

 

 雑談をしていたエルダーリッチの一人が声を上げる。彼等の指示に従って作業していた血の様に赤い身体をした異形種——血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)は、「ゔ?」と唸りながら手を止めた。

 ぼとり、と血肉の大男が持っていたズダ袋から何が落ちた。

 それは———絶望の表情を浮かべた“使徒”の生首だった。

 

「ただ詰めれば良いというものではない。もっと丁寧に扱いたまえ。使えるパーツは大事な資源となるのだから」

 

 エルダーリッチの言葉に、唸り声を上げながら再び血肉の大男は再び作業に取り掛かった。乱暴に袋へ押し込まれていく“使徒”達の死体を見ながら、エルダーリッチ達は溜息を吐いた。

 

「やれやれ、分かっているのか分かっていないのか……これだから低級アンデッドは困る」

「まあまあ、生きたサンプルは白崎香織殿によって数体は確保したという。あまり目くじらを立てなくても良いではないか」

「しかしだな……ひょっとするとこれらは至高の御方の肉体の材料になるのかもしれんのだぞ?」

「おお! 所長より聞かされたプロジェクトをついに実施するのか! 確かに天使達の肉体ならば、アインズ様の仮初の肉体の材料には申し分ない!」

「しかし、こやつらが特殊な音波が弱点というのはどうするのだ? それに天使達を作ったのは愚神であろう。その弱点をそのままにしていては、愚神に操られてしまう危険もあるぞ?」

「うむ、確かに。いっそ元の形が失われるくらいに溶かして鋳型に流し込む方が安全か……」

 

 ナザリックの研究員達は意気揚々と議論を交わす。少し前にナグモが指示したアインズの仮初の肉体の製作計画。それに取り掛かる事は彼等にとって最大の栄誉であり、最大の喜びだった。

 当然ながら———その為に犠牲となるモルモット(“真の神の使徒”)達を悼む気持ちなど、彼等には皆無だった。

 

「おお……見たまえ、同輩!」

 

 血肉の大男に命じて死体漁りをしていたエビルメイガスの一人が興奮した様に声を上げる。彼が使役している血肉の大男が他の“使徒”達とは違って四肢や頭が綺麗に残っている死体を死体の山から引き摺り出していた。

 

「これは中々に状態の良いサンプルだぞ。早速、研究所に送って標本に———」

 

 突然、死体を持っていた血肉の大男が両手が“分解”された。痛みはないのか、「ゔ?」と不思議そうに無くなった両手を見つめる血肉の大男だが、今度は首を大剣によって斬り落とされていた。

 

「な……何事だ!?」

 

 エビルメイガスが泡を食った様に驚きながら、〈電撃(ライトニング)〉を放つ。だが、それより早く死体———否、ノイントはエビルメイガスの胸に大剣を突き刺した。

 

「ガハァッ!?」

「ヴィクター!!」

「馬鹿な、先程まで生命反応は無かった筈だ!?」

 

 同僚のエビルメイガスが殺されたのを見て、異形種の研究員達は慌てながら攻撃魔法を放とうとする。

 

「………っ!」

 

 だが、それより早く。ノイントは背中の翼を大きく羽ばたかせ、高速飛行で何処かへ飛び去っていた。

 

 ***

 

「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」

 

 アンカジ公国の戦場から飛び去り、山間の深い森の中に入ったノイントは必死に息を整えていた。その表情はかつての様な無機質さを感じさせず、命からがらに逃げ出した逃亡者の様に恐怖が色濃く出ていた。

 ———ノイントが生きていたのは、奇跡などではない。姉妹達同士で死の恐怖を共有し合ってしまい、恐怖から逃れる為にお互いに殺し合い始めた姉妹達に殺されない様にノイントは自らを仮死状態にしていたのだ。そのまま姉妹達の死体に埋もれてしばらくやり過ごそうとしたところ、ナザリックの研究員達に運悪く見つかってしまったのだ。

 

「はぁ、はぁ……ひっ!?」

 

 ノイントは恐怖に震えながら、自分の身体を見てある事に気付いた。

 エヒトルジュエから“真の神の使徒”を演じる為に贈られた白銀の鎧。その姿は薄暗い森の中でも非常に目立っていた。

 

「あ、ああ、脱がないと……早く脱がないと!」

 

 ノイントは放り捨てる様に乱暴さで白銀の鎧を脱ぐ。そして地面に脱ぎ捨てた鎧を“分解"で砂状になるまで跡形もなく壊した。

 

「こ、これも……これも駄目! 見つかってしまう!」

 

 続いて背中から生えた純白の翼に触れた。やや躊躇う素振りを見せ——意を決した様に背中の翼を“分解"した。

 

「あ、ぎぃっ!?」

 

 “真の神の使徒”の象徴でもあった翼が消えた痛みでノイントは泣きそうになりながらも、即座に回復魔法を使って背中の傷を塞いだ。早く、早くと逸る気持ちでやった為か、翼があった場所にはまるで大きな切り傷を負った様な跡が残ってしまった。

 

「はぁ、はぁ……うぅ……!」

 

 続いて、ノイントは自分の喉辺りを触る。そこは“真の神の使徒”同士で連絡を取り合い、エヒトルジュエからの指令を受け取る器官———超音波の発信や受信を司る器官があった。

 まさにノイントがエヒトルジュエの使徒である事を示す最後の砦とも言える物を壊すのは、さすがにノイントも気が引けた。だが———。

 

 ガサガサッ!

 

 森の木立から聞こえた音に、ノイントは大袈裟なくらい肩をビクッと震わせた。それは鳥が飛び立っただけなのだが———今のノイントには、暗い森の中から仔山羊の鳴き声が聞こえてきそうに思えたのだ。

 

「う、うう……うぐっ!? ゴホッ、ゴホッ!!」

 

 ノイントは震える手で魔力を内部に浸透させ、自らの超音波器官を“分解”した。血反吐が出て、すぐに回復魔法で傷は塞いだが失われてしまった超音波器官は二度と元に戻らないだろう。

 

「逃げ、ないと……」

 

 簡素な白い貫頭衣姿だけが残ったノイントは、喉や背中の痛みがまだ引かないながらも歩き出した。

 

「あの化け物達に見つかる前に……逃げないと、殺される……!」

 

 まるで天敵に怯えながら逃げる小動物の様に、ノイントは震える足で森の奥へと歩き出した。

 

 ***

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 もう何時間歩いただろうか。衣服は既に泥や埃で純白さを失い、端正な顔も汚しながらもノイントは逃走をやめなかった。背中の翼が失われたとはいえ、魔法で飛行する事もまだ出来た。だが、魔法を使えば魔力の痕跡から骸骨の魔法師(恐ろしい化け物)にバレる気がして、先程の回復魔法を最後にノイントは魔法を使っていなかった。

 

「はぁ……はぁ……うっ……!」

 

 森の木の根に足を取られて、ノイントの身体は地面に投げ出された。エヒトルジュエから与えられたステータスからすればこの程度の事など大した事も無い筈なのに、ノイントは起き上がる気力も無いまま地面に横たわった。

 

(もう……疲れました………)

 

 ノイントはボンヤリと空を見上げる。

 出来るだけ遠くへ逃げなくては、アルヴヘイトすらも殺した化け物達に捕まってしまう。それを理解していたが、もはやノイントにはどうでも良く思えてきた。

 

(私が殺されるから……何だというのでしょうか? 私や姉妹達が死に掛けた所で、エヒトルジュエ様は顧みないでしょうに)

 

 恐らく自分達の主でも、あの化け物達には勝てないだろう。仮に万が一にも勝機があったとしても、手駒の一つでしかない“真の神の使徒(じぶん)”を助ける為にエヒトルジュエは指一本足りとて動かす事は無いだろう。その事に思い至った途端、何かもどうでも良いと投げやりな気持ちになってしまった。

 

(……何故でしょうね? エヒトルジュエ様にとって、我ら“使徒”達が道具に過ぎないことは承知の上でしたのに……これは悲しい、でしょうか? どうして私に、そんな感情が……)

 

 崇敬する神にも、誰にも看取られる事なく薄暗い森の中で朽ち果てる様に死ぬ。そんな未来を想像した途端、ノイントの目の端に何か熱い物が流れた気がした。

 “真の神の使徒”はエヒトルジュエにとって都合の良い手駒となる様に作られた生物だ。命令に従いやすい様に、自我や感情も芽生えにくい様に調整されている。

 だが、アルヴヘイトの“神言”によって姉妹同士で恐怖の感情を共有してしまった事が、ある種のショック療法となってノイントには感情が芽生えつつあった。

 生まれて初めて感じる感情に戸惑いながらも、もはや生きる気力の無くなったノイントは目を瞑ろうとした。

 

「おい、アンタ! 大丈夫か!?」

 

 次の瞬間、ノイントの耳に男の若い声が聞こえた。

 視線だけ向けた先に、地面に倒れているノイントに驚きながらも介抱しようと寄ってくる少年がいた。

 

「何でこんな所に女の人が……? 待ってろ、いまポーションを飲ませてやるから」

 

 “神の使徒"として異世界より招かれ、今は冒険者として放浪する少年———遠藤浩介は、こうして“真の神の使徒”だったノイントと出会った。




 その日、少年は運命に出会う———ただし、それが良い運命とは約束されていない。
 我らがアビスゲートに、死の支配者の慈悲あれ。
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