ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 予想以上に長くなったので前後編で分割しました。続きは水曜日か木曜日あたりに投稿します。


第百二十一話「戦後のハイリヒ王国 前編」

『おのれ、あのアンデッドめがあああああっ!!』

 

 トータスの通常空間とは異なる位相にある神域。

 人間達からトータスの創造主と認識されているエヒトルジュエは、神としては似つかわしくない怨嗟の籠った声で怒り狂っていた。

 神域にはエヒトルジュエが“トータスの神"を演出する為に作った巨大な純白の玉座があり、そこで下界の人間達が苦しむ様を見るのが彼の楽しみだった。

 だが、その玉座はもう無い。まるで大きな爆発を受けたかの様に、バラバラになった玉座の残骸だけがエヒトルジュエの周りに散らばっていた。

 

『アルヴヘイトォォォォッ!! あの役立たずがああああっ!! “人形”共を全て使い潰しおって……!!』

 

 以前ならば、玉座の周りには神に侍る天使の様に大勢の“真の神の使徒”達がいた。だが、それも今や数える程にしかいない。この場に残った数少ない“真の神の使徒”のエーアスト達は、激昂している主を恐れて表情の乏しい顔を青くしていた。

 

 アンカジ公国への魔人族達による侵攻戦———最初はエヒトルジュエも高みの見物を決め込んでいた。魔人族達には自らの眷族であるアルヴヘイトを始め、神域にいて“使徒達”の殆んどを大盤振る舞いしたのだ。今の盤面に飽きてしまったが故に一度リセットする様な心算で人間族の国や社会を崩壊させるには余りある程の戦力を動員した為、エヒトルジュエはアンカジ公国の滅亡を信じて疑わなかった。

 

 しかし――それはアンカジ公国に魔導国の援軍が現れた事で覆されてしまった。

 

 巨大な魔法陣の出現と瞬く間に死んだ魔人族と“使徒“達、死体を贄にして現れた五体の巨大な魔物、突然狂い出した“使徒”達、そして空間魔法で現れた魔導国の国旗を掲げた軍勢………全てがエヒトルジュエの予測の範疇外であり、どうにか事態を把握しようとしている内にとうとうアルヴヘイトまで殺されてしまったのだ。

 アルヴヘイトを殺した魔道王(アインズ)の存在を初めて見たエヒトルジュエはその正体を暴こうと魔法を使い———アインズが仕掛けていた攻性防壁により、玉座ごと爆裂魔法で吹き飛ばされる羽目になったのであった。

 

『お、おおおおおおっ……! 我が力が減っていく……! おのれえええええっ!!』

 

 かつては“神域”全てに圧倒的な存在感を出していたエヒトルジュエ。だがその存在感は以前より薄れており、エヒトルジュエの核である人型の光もかつてより小さな物になっていた。

 エヒトルジュエは元々は人間だ。幾千に及ぶ年月の果て、自身の秘技や他者からの信仰によって魂魄を神へと昇華させたが、肉体は数千年の年月に耐え切れずに崩壊してしまった。自身の存在を確固とした物として繋ぎ止める肉体が無い今のエヒトルジュエは常に膨大な魔力を得ていなければ、風によって散らされる煙の様に消失してしまう不安定な存在となってしまったのだ。だからこそ、エヒトルジュエは神となった自分自身を維持する為に信仰という形でトータス中の人間から魔力を供給させていたのだ。

 

 もしもの可能性(とある平行世界)の話だが———神となったエヒトルジュエの魂魄に耐え切れる様な“神子”の肉体が目の前にあったならば、エヒトルジュエは神の力を維持したままに完全な生命として再び大地に降り立つ事も出来ただろう。

 しかし、その肉体が見つからないままで自分の眷族であるアルヴヘイトが何処の馬の骨とも分からないアンデッドに敗北したのだ。今までアルヴヘイトを通して得ていた魔人族達の信仰は戦争の敗北を受けてほとんど無くなってしまい、供給される魔力量は文字通り半減してしまった。

 それでもまだ、魔人族より総数の多い人間族からの信仰があれば、自身の維持には問題無かった筈だが———その人間族からの信仰心は()()()()()から日を追うごとに落ち込んで来ているのだ。

 

『おのれおのれおのれおのれオノレオノレオノレエエエエエエッ!!』

 

 自らの居城であり、天上の存在となった自分が君臨する場所として相応しい様に作った“神域”の中。

 人々の信仰の失墜を示す様にバラバラとなった玉座の上で、トータスの創造主を気取っていた偽りの神(エヒトルジュエ)は日毎に小さくなっていく自らの存在(魂魄)を感じながら怨嗟の声を上げていた———。

 

 ***

 

 ハイリヒ王国の城内で光輝はやきもきしながら出陣を待っていた。

 聖剣やアーティファクトの鎧の手入れ等の自分の準備はとうに終わっている。気力や体力、装備も準備万端でありながら、光輝が待たされているのは足並みが揃っていない聖戦遠征軍の為であった。何せ軍団を管理する立場にいるムタロが先日まで内情を全く把握しておらず、エリヒド王から出陣を命じられて慌てて号令を発した為に現場が混乱して統率が取れていなかったのだ。

 

「くっ、もどかしいな。俺一人なら、メルドさん達の救援にすぐ向かえるのにっ……」

 

 そんな事情は露とも知らず、爪を噛みながら光輝は焦れた様な声を出す。メルドとは半ば喧嘩別れの様な形で別れてしまったが、光輝の中では今でもトータスに来てからの初めての教官として尊敬の念を抱いていた。

 

(あの時はメルドさんは何故か怒っていたけど、きっと目の前で香織が落ちたから気が動転していたんだろうな……あれは裏切り者の南雲のせいなのに。メルドさんは優しい人だったから、とても心を傷めていたんだ)

 

 その後、メルドは左遷されて光輝達の下には新しい教官が来たが、光輝は心の隅ではメルドの事が気になっていたのだ。

 

(メルドさんの所には確か永山達がいるという話を小耳に挟んだけど、やっぱり心配だな。永山達は他の皆とは違って、訓練に積極的じゃなかったんだ。今頃、メルドさんに迷惑を掛けてないと良いけど……)

 

 やはり、自分と仲間達の“光の戦士団”だけでも先に出陣する様に進言しよう。

 かつての恩師の為に光輝はそう思った。敵に魔人族や()使()()()()()()()がいたとしても、自分と仲間達が力を合わせれば勝てない敵なんていない。何より、皆に率先して勇ましく戦う姿を見せるのが勇者の役割の筈だ。

 

(よし、イシュタルさんに頼もう。メルドさんだって、俺を待ち望んでくれている筈なんだ! それにもしかしたら、あの時に俺達と喧嘩別れしちゃった事を後悔してるかもしれない)

 

 もしもメルドが謝罪してきたら、“誰にだって間違いはあるんだ”と寛大な精神で許そう。光輝も地球に帰る時にメルドと喧嘩別れしたままでは後味が悪かった。

 そんな事を考えながら城の廊下を歩いていた光輝は、まるで渡りに船と言わんばかりのタイミングでイシュタルの姿を見つけた。

 

「イシュタルさん!」

「おお、光輝様。探しておりましたぞ」

 

 イシュタル(ドッペルゲンガー)は一瞬、獲物を見つけた悪魔の様な笑みを浮かべたが、逸る気持ちを抑えようとする光輝は気付いていなかった。

 

「イシュタルさん、聞いて下さい! アンカジ公国の人々やメルドさん達の為に“光の戦士団”だけでも先に行かせて下さい! 俺がいれば、邪悪な魔人族が何人いたって———」

「ああ、光輝様……それはもう終わってしまったのですよ」

 

 いつもの好々爺の笑顔を貼り付けたまま、イシュタルはそう言った。

 

「え……終わった、って………まさか、アンカジ公国は既に落とされたのですか!?」

「いえ、アンカジ公国は無事ですな。天使を従えていた魔人族の軍は壊滅したそうです」

「………え? 何を言って……アンカジ公国は、無事だった? 魔人族達は……もしかしてメルドさん達が倒したんですか?」

 

 イシュタルの言った事に理解が追いつかず、光輝はポカンとした表情のまま茫然と呟く。それはアンカジ公国が無事だった事よりも、勇者である自分が居なかったのにどうやって危機を脱したのか? と不思議がっている様な雰囲気だった。

 

「どうやらアンカジ公国にはアインズ・ウール・ゴウン魔導国が王自ら軍を率いて現れ、魔人族の軍を撃破したそうですな。お陰で先遣隊であるメルド・ロギンス達も死傷者ゼロで戦争は終息したのだとか」

「ア、アインズ・ウール……?」

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国です、光輝様」

「ええと。イシュタルさん、すいません。そんな名前の国は初めて聞いたのですけど、何処の国なんですか? そのアインズ・ウール・ゴウン魔導国って?」

 

 時期的には魔導国が建国された後、光輝は“光の戦士団”に出資してくれる貴族達が連日開く夜会やパーティーに引っ張りだこになっていた為、今まで魔導国について全く知る機会が無かった。それに対してイシュタルは素知らぬ顔を作りながら説明した。

 

「私も詳しい事は存じ上げないのですが……何でも亜人族達のフェアベルゲンが新たに改名した国だと聞きますな。魔導国の王であるアインズ・ウール・ゴウンは、凡ゆる種族に分け隔てなく接する御方だそうです」

 

 はあ、と光輝は気のない返事をする。同時に何処か面白くない気持ちになっていた。

 

(何で………俺は勇者なのに……俺がアンカジ公国やメルドさん達を助ける筈だったのに……。仲間達や王国の皆とアンカジ公国を助けに行こうとしていたのに……魔人族達は人間達の最大の敵だから、皆で足並みを揃えないといけなかったのに、魔導国とかいう国が勝手に戦い始めていたなんて……)

 

 自分が勇者として戦う最大の見せ場を奪われ、それを不満に思っているのだが光輝の思考は別の見解を示していた。

 自分はトータスを救う勇者として召喚されたのだ。邪悪な魔人族を打ち倒し、人間達の希望としてエヒト神によって選ばれた存在なのだ。だからこそ、自分はトータスの人々の勇者(リーダー)として、皆を導かなければならなかったのだ。そんな自分に今まで一言の断りもなく、魔人族達と勝手に戦った魔導国の存在が光輝は気に入らなかった。アンカジ公国が無事だったのは良かったが、先走って失敗していたらどうするつもりだったのか? 自分達に迷惑をかけるとは考えなかったのか? 光輝の中では魔導国、そしてその国の王であるアインズ・ウール・ゴウンは他人との協調性が無い自分勝手な存在だとインプットされた。

 

「とりあえず……アンカジ公国やメルドさんが無事で良かったです。邪悪な魔人族達も打ち倒されて、トータスの人々も平和に———って、そうだ! 魔人族が居なくなったなら、香織は! 香織は無事なんですか!? それと香織を攫った南雲の奴も、魔人族達と一緒に死んだのですか!?」

 

 重要な事に気付いた光輝はイシュタルに詰め寄った。大事な幼馴染を攫った裏切り者は魔人族達と共に行動している筈なのだ。その魔人族達が居なくなった今、裏切り者は死んで幼馴染は自由の身になっている筈だと光輝は考えていた。

 

「落ち着きなされ、光輝殿。此度の戦場で私が()()()()()()()では、白崎香織殿や南雲ハジメの存在は確認されておりません」

 

 しれっと嘘を交えながら言ったイシュタルに、光輝は目に見えるくらいに落胆した。

 

「そんな……じゃあ、香織は何処に? きっと何処かで生きている筈なのに……イシュタルさん、俺をアンカジ公国に行かせて下さい! 俺が直接、香織を探しに行きます!」

「その気持ちを汲みたい所ですが、少々厄介な事になっていましてなぁ……」

 

 イシュタルはわざとらしく困惑した様な表情を作った。

 

「件のアンカジ公国ですが……どういうわけか戦争が終わった後に魔導国の属国を宣言して、今後はハイリヒ王国に干渉無用と言って来ているそうなのですよ」

「な、何ですかそれ!?」

「しかもメルド・ロギンス達の隊もアンカジ公国を支持する姿勢を見せていまして、彼等も王国への帰国を拒んでいるのです。エリヒド王が使者を向かわせたそうですが、門前払いの扱いを受けて帰されたそうなのです」

「そんな……メルドさんまで、一体どうして……?」

 

 恩師として尊敬していた騎士が王国を裏切る様な真似をした事に、光輝はショックを受けていた。そんな光輝に畳み掛ける様にイシュタルは言葉を重ねた。

 

「先程、エリヒド王がアンカジ公国に近い土地にいた聖戦遠征軍の部隊に再び問い合わせる様に命じられた所です。公国については今しばらく結果をお待ち下され」

 

 ***

 

 闇の中———デミウルゴスはハイリヒ王国の現状に様々な可能性を考慮しながら、アインズの為に用意すべき状況を作り出す為に策を巡らしていた。

 

「さて………ちゃんと狙った所にボールが落ちてくれれば良いのですが」

 

 これから始まるのはハイリヒ王国全土を巻き込んだ一大スペクタクル。至高の御方に捧げる最高のエンターテイメントだ。それをデミウルゴス自らが監督するのだ。そう思うとデミウルゴスの胸に高揚感が湧いてくる。

 

「ふふっ、思わず小躍りしたくなるというのはこの様な気持ちを指すのでしょうか? いけませんね、そんな浮かれ方などウルベルト・アレイン・オードル様に創造(設定)された私らくしない……」

 

 自重する様に呟くが、ウキウキとした気持ちは抑えられない。

 役者は揃い、準備も整った。

 時間をかけて作った最高の舞台を至高の支配者であるアインズに捧げ、オマケとして偽りとはいえ神が失墜していく様を特等席で見られるのだ。

 エヒトルジュエが神の座から転げ落ちてアインズの前にひれ伏す姿は、悪魔であるデミウルゴスにとって何よりも楽しみな未来図だった。

 

「王国の皆さん、道化の勇者様、そして愚かな神よ。どうかアインズ様を楽しませてあげて下さい。哀れなあなた達の姿で、ね……」




>エヒトルジュエ

 今作では肉体を失っている為に人間達から信仰心という形で魔力を常に貰わないと存在が弱体化するという設定です。魂魄だけの存在は肉体という限界値が無い分、外部から魔力を得て強くなる事が出来ても、肉体という確固とした楔が無いから魔力を得られなくなると弱体化が著しくなるとう形ですかね?
 魔人族達からもアルヴヘイトが集めていた信仰心を献上して貰っていましたが、そのアルヴヘイトがアインズに負けた為に魔人族の信仰心は最低レベルまで落ち込んでしまいましたとさ。残りの人間族から得ていた信仰心については……後編でお話しします(ニッコリ)。

 因みに原作の場合、ユエの身体を奪った時は真実を知る者がハジメ達だけだったから人間族の大半からはまだ“エヒト神”として認識されていて、アルヴヘイトも健在だった為に信仰心(魔力)が神として十分にあった状態で肉体を得る事が出来たと解釈しています。仮に今の状態でユエの肉体を奪おうとしても、弱った状態で固定化されるか、そもそもユエの魂魄に力負けして乗っ取れないという風に考えています。まずもって、ユエがナザリックにいる事すら知らない、というね……。
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