今期のアニメは江戸前エルフがお気に入りです。
「良いか! これはエヒト神の為の正しき行いだ!」
アンカジ公国近郊のハイリヒ王国の領内。
聖戦遠征軍の練兵場で聖教教会からアンカジ公国に派遣されていたフォルビン司教はがなり声を上げていた。
聖戦遠征軍は大きく分けて三つの構造からなる。
頂点に立つのはエヒト神が召喚した異世界からの勇者達こと“神の使徒“。彼等は歳が若く、十数名程ではあるがエヒト神の名の下に集った聖戦遠征軍の象徴として高い地位に就いていた。全員の天職が貴重な戦闘職であり、ステータスもトータスの人間の数十倍はある彼等はまさしくエヒト神自らが奇跡を与えた存在として“光の戦士団”や聖戦遠征軍の象徴となっていた。
二番目は“神の使徒”達の教官であるムタロが選んだ貴族や軍人、神殿騎士といった兵達を指揮する立場にいる者達だ。ただし、彼等のほとんどが家柄やムタロへの献金の額の大きさから選ばれており、フォルビンの様に本来なら軍隊の指揮を任せられない者までが所属していた。
以上の二つが“光の戦士団”と呼ばれる者達であり、聖戦遠征軍の中核を担う者達だ。人数的にもちょうどピラミッドの様に頂点から下へ裾を広げる形となっていた。
そして———ピラミッド構造の土台部分。すなわち一番下であり、一番人数の多い階級に聖戦遠征軍の一般兵達がいた。彼等の大半は農民や一般市民であり、領主の命令や税の免除を目的として遠征軍に参加した者が多い。中にはエヒト神への純粋な信仰心から参加した者もいる。彼等は聖戦遠征軍に所属していても“光の戦士団”としては数えられておらず、悪く言えば十把一絡げの雑兵達であった。
そんな一般兵達はフォルビンの前で整列させられていたが、彼等の顔には困惑の表情が多く浮かんでいた。一般兵達の様子を気遣う様子もなく、フォルビンは威圧的に言い放つ。
「アンカジ公国は何を血迷ったか、王国と聖教教会に背を向けて魔導国なる国に帰順した! 薄汚い亜人族共の国だ! 同時に先の“光の戦士団”の結成式において、愚帝ガハルド・D・ヘルシャーが不埒な真似をして教会より破門されたヘルシャー帝国が同盟を結んでいる国とも聞く! この様な国をのさばらせておく事をエヒト神はお許しにならない! 諸君等はアンカジ公国の目を覚まさせる為に進軍するのだ!!」
力強くアンカジ公国への進軍の重要性を訴えるフォルビンだが、兵達はお互いの顔を見合わせながら困惑していた。その中で一人の兵士が、意を決した様に手を挙げた。
「その……フォルビン司教? 我々は噂という形でしか聞いてないですけど、侵略してきた魔人族達はマドー国? とかいう国のお陰で壊滅したのですよね? なのに、何故我々はアンカジ公国と戦わなくてはならないのですか?」
「それに魔人族達と一緒にいた天使様達はどうなったんだ? 勇者様は偽物だって言っていたけど、それなら天使様の偽物と魔人族達を倒した魔導国こそが正しいんじゃないのか?」
「もう魔人族の脅威は無くなったんだよな? だったら、遠征軍も解散して良い筈だよな? なあ、俺は病気の妻と小さな息子を家に残しているんだ。家に帰らせてくれ!」
「なっ……貴様等! それでもエヒト神の信徒か!! 黙って教会の司教たる私に従わんか!!」
フォルビンが怒りを顕にして一喝するが、兵士達は従う様子は見せなかった。それどころか、フォルビンに対して冷たい目を向けて睨み出した。
「何だその目は!? 私は教会の司教であり、“光の戦士団”の一員なのだぞ!」
「……俺はアンカジ公国の出身だ。あんたは俺達が伝染病で苦しんでいた時、自分達だけさっさと逃げ出したじゃないか! その上、今度はアンカジ公国に進軍しろだって? 人を馬鹿にするのも良い加減にしろ!!」
「“光の戦士団”とやらは結局何もしなかったじゃないか!! 魔人族達を倒してくれるというから、税金が高くなっても我慢していたのに! 魔人族を倒したのは全然関係ない魔導国とかいう国だろ!!」
「テメェ等は権力を盾にして威張っていただけじゃねえか、この役立たず! こんな事なら“光の戦士団”より魔導国とやらについて行けば良かった!」
次々と兵達から怒りの声が上がる。この練兵場はアンカジ公国の近郊———当然、集められた兵達もアンカジ公国の出身者も多い。彼等に自分の故郷へ進軍しろという命令は到底受け入れられる筈も無かった。
そしてアンカジ公国と関係ない者にとっても、“光の戦士団”の専横ぶりは苛立ちを募らせていたのだ。新たに設立された為に例年よりも重い税金が課せられ、家族を飢えさせない為にも生きて帰れるか分からない聖戦遠征軍に参加した。戦争が終わったというのに、今度は魔人族ではなく同じ人間達と戦えというのは彼等の怒りを爆発させるには十分過ぎた。
「き……貴様等ァァァッ!! 良いだろう、纏めて異端者になりたいというわけだな!? 神殿騎士達よ、異端者共を全て血祭りに上げろ!!」
激昂したフォルビンが配下の神殿騎士達に命令する。
だが、何人かは渋々といった様子で剣の柄に手を掛けたが……大半の神殿騎士は俯いたまま、剣を抜こうともしなかった。
「なっ……どうした貴様等! 私の命令が聞けないのか!?」
「……フォルビン司教、これは本当にエヒト神の意思に沿うものでしょうか?」
神殿騎士の一人が静かに聞き返した。彼は迷いを浮かべた表情のまま、話し出した。
「王都にいた時、“神の使徒”様方が“光の戦士団”となってからの振る舞いを目にしました。はっきり言って、あれは……エヒト神が召喚したという話を疑いたくなる程に横暴です。あんな風に弱き人々を足蹴にして、贅沢のままに振る舞っている者達の命令を聞いて、亜人族の国への帰属を宣言したとはいえ、やっと戦争が終わったアンカジ公国へ進軍するのが本当にエヒト神が望まれる事なのでしょうか?」
「き、貴様……何を言っているのか理解しているのか!?」
口角泡を飛ばしながら怒鳴るフォルビンだが、神殿騎士達はフォルビンの為に動こうとしなかった。むしろ、意見をした神殿騎士に同意するという様に頷いていた。
彼等とて、真っ当な精神を持った人間達だ。だからこそ“光の戦士団”が権威を笠に好き勝手やっているのは非常に心苦しい思いで見ていた。“神の使徒”の内、四人組の少年達は毎夜の様に街から若い娘を権力で脅して連れ去り、欲望の捌け口にしているという噂を聞いた時は、これが本当にエヒト神が召喚した救世主なのか? と自問自答した程だ。
加えて聖教教会が“聖戦遠征軍”の戦費回収の為に始めた免罪符の発行なども良くなかった。神殿騎士達は本来、神に仕える騎士として清貧が尊ばれていた。現世で清く正しく生きてこそ、エヒト神は魂の救済を行うと教義にもある。しかし、“光の戦士団”の設立と共に新たに神殿騎士団長に任命されたムタロは清貧とは程遠く、賄賂や聖戦遠征軍の活動資金の横流しをして自分の私腹を肥やしていた。
その資金の一部となっている免罪符も、これを買うだけで魂の救済が行われると教会の説法師が信者達に購入を勧める光景は、自分達が信じていた教義とは何だったのか? と神殿騎士達の信仰心を揺るがせるには十分だった。
そして今、聖教教会にとって最大の敵だった魔人族の脅威が無くなったのだ。これからは人間族にとって平和な世になる筈なのに、それでもまだ新たな異端者を見つけては攻撃しようとしている“光の戦士団”のやり方に、とうとうエヒト神や聖教教会に忠誠を誓っていた彼等も疑問を抱き始めていた。
「ぐっ、ぐうううぅぅ、この異端者共がああああああっ!!」
もはや凶相と呼ぶに相応しい表情でフォルビンは歯軋りした。
聖教教会中央の権力争いに負けてアンカジ公国へ左遷されたフォルビンにとって、“光の戦士団”は中央へ返り咲けるチャンスなのだ。上手く行けば、次期大司教の座だって夢ではない。ここで成果を上げなくては、何の為に高い賄賂をムタロに送ったのか分からなくなる。
自分の輝かしい未来を思い描いているフォルビンにとって、命令通りに動こうとしない一般兵や神殿騎士達は美しい
「貴様等の様な薄汚い下民達は何も考えずに言われた通りにすれば良いのだ!! さっさと動かんか、この屑共がっ!!」
「なっ……テメェ、誰が屑だって!?」
一般兵士の一人が、フォルビンの物言いにとうとう堪忍袋の緒が切れて掴み掛かろうとした。
その瞬間———集まった人間達から死角となる建物の陰。
まるで図った様なタイミングで、影の一部が実体を持った様に動いた。
悪魔の姿をした影は、素早く手元にスクロールを広げた。
魔法が発動し、スクロールが灰となって消えると同時に———フォルビンの目が一瞬、虚ろになった。
「ひっ!? わ、私に触るなドブネズミめっ!!」
「ガフッ———!?」
次の瞬間、フォルビンの目には巨大なドブネズミが自分の手を噛みつこうとした様に見えて、思わず魔法を放ってしまった。魔法は属性も何もないただの魔力弾だったが———仮にも聖教教会の司教として強力な魔法の使い手であったフォルビンの撃った魔力弾は、掴み掛かろうとした一般兵士の胸を容赦なく貫いた。
「ハァ……ハァ……ハァ……あ?」
辺りが沈黙に包まれる。建物の陰にいた悪魔が素早く実体を解いて影に戻る中、辺りにはフォルビンの荒い息の音だけが響いていた。地面に倒れて動かなくなった一般兵士の胸から血溜まりが広がっていく。
フォルビンはしばらく信じられない面持ちで衝動的に殺してしまった兵士を見ていた。自分の手で人間の命を初めて殺めたという事実に、手がワナワナと震える。今更になって、恐怖が湧き上がってきたフォルビンの精神は———自分の行いを正当化する為に自己防衛にはしった。
「ふ……ふんっ! 異端者め、聖教教会の司教である私に手を上げようなど死んで当然だ! “光の戦士”たる私の行いはエヒト様のご意思そのものだっ!」
瞬間———練兵場に沸き上がるような怒りの感情が爆発した。
「てめええええ、よくもヨハンをっ!!」
「ふざけんなあああっ!!」
「ひ、ひぃっ!?」
一般兵士達は完全に殺気立ち、フォルビンを取り囲もうとした。フォルビンは練兵場の端にある壁へジリジリと後退りしながら、自分の護衛である神殿騎士達に助けを求める様に声を掛けた。
「お、おい、神殿騎士達! 私を護れ! ひ、“光の戦士団”に所属する私に何かあったら、お前達の首程度では償い切れないと分かっているだろうな!?」
「……お断りします」
「な、なあっ!?」
フォルビンが真っ青な顔になる中、神殿騎士達はまるで穢らわしい魔物を見るかの様に嫌悪感を込めた目付きで見ていた。
「よく分かった……“光の戦士団"こそが我々にとっての害悪だ! 貴方達はエヒト神の名を盾にして人間を喰い物にしているだけだ!」
「な、何を言っている!? 国王陛下とイシュタル大司教が直々にエヒト神の代行者とお認めになられた“光の戦士団”だぞ!? わ、私を殺すという事は、エヒト神の意向に逆らうのと同じ———」
「ならば! 我々はもう信仰など捨てる!! 人の命を何とも思っていない横暴な者達を庇護する神などあってたまるか!!」
神殿騎士達は一斉に首から下げていた聖具を引き千切った。聖教教会に所属する証———エヒト神への信仰を示す証そのものを捨てて、神殿騎士達は一般兵士達と一緒になってフォルビンを取り囲んだ。
「やっちまえ!」
「この悪党を吊るし上げろ!」
「や、やめろ! 私は“光の戦士団”所属の大司教だぞ!! ひっ……ぎゃあああああああああああっ!?」
***
アンカジ公国近郊の聖戦遠征軍の練兵場にて、聖教教会の大司教であり、“光の戦士団”に所属していたフォルビンが兵士達や神殿騎士達にリンチを受けて死んだ事件は瞬く間にハイリヒ王国内に広まった。
これを聞いた王国の上層部はすぐに事件に関わった兵士や神殿騎士を全員縛り首にしたものの、捕まる前に脱走した者達によってフォルビンの横暴な振る舞いは明るみに出て、“光の戦士団”がエヒト神の威光と権力を笠に着た横暴な集団という実態も出回ってしまった。
ただでさえ、聖戦遠征軍を結成した為に国民達は重税に苦しみ、多くの貴族達が“光の戦士団”に取り入る為に領民から更に税金を巻き上げていたのだ。魔人族といった当面の脅威が居なくなった事で、国民達は苦しい生活の原因は“光の戦士団”にあるとして今までの不満が爆発したのだ。
これを機に各地の練兵場にいた聖戦遠征軍
中でもエリヒド王を支援している教会勢力が深刻だった。始まりの事件となった練兵場の指揮官のフォルビンが現役の司教であった事に加えて、そもそもの原因である“光の戦士団”のトップにいるのがエヒト神が異世界より召喚した勇者達という事もあって、『聖教教会は我々を苦しめるだけの存在だ! エヒト神は我らを見捨てたのだ!』と叫びながら暴動を起こした市民達によって街の教会が破壊されるという事件まで地方では起こってしまったのだ。
長く人間族の敵だった魔人族の脅威が無くなり、平和になる筈だったハイリヒ王国。
今では同じ国の人間同士で内乱が起こり、先の見えない暗雲が立ち込め始めていた。
後世の歴史において———『ハイリヒ革命』と呼ばれる動乱が、いま幕を開けたのである。
>内乱が勃発した王国
ほら、楽しめよエヒト。お前の大好きな人間同士が争い合う展開だぞ?
何度も見たから飽きたとか言ってるお前の為に、お前自身の信仰も賭けられている展開にしておいたぞ? 下手したら身の破滅だけど、今までと違ってハラハラするから別に良いよね?
まさにギャンブル……! 故に……楽しめ……! ギャンブルは……狂気の沙汰ほど面白い……!(福本伸行顔)
>ハイリヒ革命
なんと都合の良い事に、各地に武器を持って訓練していた兵士がいて、しかも彼等の現政府への不満が高まっていたから反乱の芽が一気に出ました(笑) 一体、何処の何バオトのせいなんだろう?
こういう展開を書く時に歴史の出来事は勉強になるなぁ、と思っています。そんなわけでフランス革命について勉強中。
ただね……このままだと、ランデル王子あたりがルイ17世と同じ末路になりそうなんですよね……さすがにあれは胸糞案件過ぎて、書く気になれないですけど。