ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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アインズ×ユエのフラグ、続々と製作中。
あまりの焦ったさに、ちょっとエロい空気にしてくる! と本気で言いたい。でもアインズ様に精神操作は効かないのでありましとさ(苦笑)


第百二十五話「本当の名前」

 アインズはユエを連れて、オルクス大迷宮内にある作業員詰所に来ていた。

 ここはオルクス大迷宮で行っている採掘作業の為に各所に作られたスペースだ。とはいえ、ナザリックの管理下になった当初は第四階層の研究員達が大迷宮の内部を把握する為に訪れていたが、マップ構築が済んで採掘作業をマシン・ゴーレム達によって自動化をしてからは半ば放棄された様な場所となっていた。だからこそ、アインズはユエと文字の勉強をする際にこの場所を使っていた。謂わば、ここはアインズとユエだけが知る秘密の場所と言えるだろう。

 

「………飲むか?」

 

 ユエを座らせたアインズは、アイテムボックスから無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)を取り出し、グラスに水を注いだ。差し出されたグラスをユエは受け取ったが、俯いたまま口をつけなかった。

 

「私………本当は分かっていた」

 

 ユエはポツリと漏らす。俯いている為に表情は見えないが、その声は深い後悔に塗れていた。

 

「あの人が……ディン叔父様が玉座を奪いたいなんて理由で、私を殺しに来るなんてあり得ないって………そもそも私の“自動再生”の弱点を知ってるのに、殺せなかったから封印するだけなんて聡明な叔父様らしくない判断だったのに………」

 

 ユエの固有スキル“自動再生”は確かに強力な回復スキルだ。魔力が尽きない限り、たとえ頭を潰されてもユエは死なない。しかし、逆を言えば魔力さえ尽きてしまえば再生する事なく死に至るのだ。ディンリードはユエを殺す手段を知っていた筈だというのに、わざわざ大迷宮の奥深くで封印するという措置を取った。

 

「叔父様はずっと私の事を想っていてくれたのに………本当に裏切られたと思って、見当違いな恨みを抱いて………」

 

 それはディンリードの狙い通りであったのだろう。エヒトルジェエの目から隠す為とはいえ、ただ一人で大迷宮の部屋に取り残されるユエに自分を恨ませる事で、憎悪に身を焦がしながらも生き続ける目的を与えようとしたのだ。

 

「私……私っ……」

 

 ピチョン、とユエが持ったグラスに水滴が垂れる。

 

「ディン叔父様に……今までの事を謝りたかった……!」

 

 ただただ後悔を滲みだして、ユエは涙を流した。

 こんな時、アインズはどう言えば正解かなど分からない。鈴木悟として生きていた時も、異性との付き合いなどまるで縁が無かった為に泣いている女の子の正しい慰め方など知る機会は無かった。

 

 だが、ここで何も言わないのはアインズの心が拒否していた。

 それはアンデッドとなり、人間の感情など無くなった筈のアインズに残っていた鈴木悟(人間)の残滓だろうか。気が付けば、アインズはユエの隣にそっと腰を下ろしていた。

 

「………私にはな、かつて母親がいたんだ」

 

 え? とユエが顔が上げるのを感じる。しかし、アインズはユエの方を向かず、まるで遠い記憶を辿る様に宙を見ながら語り出した。

 

「生前……と、言っていいのか。ともかく私がまだ普通の人間だった頃、お世辞にも裕福とは言えない生活であってな。それでも私の母は女手一つで、私を育ててくれたんだ」

 

 西暦2100年代―――巨大企業が政府を牛耳り、国民の大半が安い賃金でも働かなければならない社会で女手一つで子育てをするのは並大抵の苦労ではないだろう。母親がいかに大変な思いで自分の養育費を稼いでいたか、アインズも社会に出て働いてから垣間見えた気がしていた。

 

「本当は仕事で疲れていた筈なのに………いつも夕飯を作ってくれて、学校から帰った私の話も聞いてくれて———」

 

 それは長い間、埃を被らせていた日記を捲る様に。もう十年以上も前の記憶だというのに、話し始めると意外とスルスルと出て来ていた。

 

(ああ………意外と覚えているものなんだな)

 

 まだ、家に帰ったら「おかえり」と言ってくれる人がいた時………もう自分でも忘れたと思っていた時の記憶をまだ思い出せる事に、アインズは軽い驚きを覚えていた。さほど強い感情ではない為か、この時ばかりはいつもの精神の沈静化も起きなかった。

 

「いま思えば、あの人には感謝を伝えたい事がたくさんあった………死んでしまう前に親孝行をしておくべきだったよ、本当に」

「アインズ様………」

 

 時間が経って大分悲しみは薄れたとはいえ、やはり一抹の寂しさはある。いつも見せている堂々とした支配者の姿からは考えられない、どこか寂寥感を感じさせる死の支配者にユエは涙を手で拭いながら声を掛けた。

 

「きっと……きっとアインズ様の御母上様は、アインズ様が立派に成長された事に喜ばれていると思います。だって、そんなに自分の子供を大切にしていた母親ならば、子供の幸福を願わなかった筈は無かったのですから」

「ああ………そうだな」

 

 過労死する直前―――本でしか見たことなかったオムライスを食べたい、と言った鈴木悟(アインズ)の為にオムライスを作ろうとしてくれたのだ。最期まで自分の事を案じていてくれた事くらいアインズにも分かっていた。

 

「きっと、ディンリード殿も私の母親と同じだった筈だ。ユエの事を最期まで愛していたのだと思う」

 

 そうでなければ、わざわざ恨まれ役を買って出ないだろう。それにユエを隠せばエヒトルジュエの怒りを買う事くらい、容易に想像できた筈なのだ。それでもディンリードは愛した姪の為に行動したのだ。

 

「ディンリード殿がやった事は紛れもない家族の愛だ。彼が命懸けで遺したお前や情報を決して無碍にはしない。全ての元凶であるエヒトルジュエを私は倒すと誓う。だから………泣き止んでくれ、ユエ」

「………ええ、そうですね。いつまでも泣いたままだと、叔父様に叱られてしまいますから」

 

 もう一度顔を拭おうとするユエに、アインズはそっとハンカチを差し出した。ユエは少し驚いた顔をしたが、受け取ったハンカチで涙を拭き取った。

 

「……ありがとうございます。アインズ様のお陰で、叔父様への誤解が解けました」

「いや、礼を言われる事ではないさ。それに、その……すまなかった。知らなかったとはいえ、君の叔父上の死体に鞭打つ様な真似をした」

 

 魔人国ガーランドで市中引き摺り回しにした事を思い出し、アインズは気不味そうに頭を下げた。しかし、ユエは首を横に振った。

 

「もうあの身体の中にいるのはディン叔父様ではありませんから……だから、あの()()()の身体がどう扱われようが私には関係無いです」

「そうか………」

「それに……ディン叔父様との思い出はキチンと私の胸の中にあります。叔父様が育んでくれた私が生きている限り、叔父様の全てが消えてなくなるわけではないと思います」

 

 未だに目が涙で赤くなりながらも、ユエは顔を上げてそう言った。

 

(ユエは………強いんだな)

 

 最愛の家族を失った悲しみに暮れながらも、それでも前に進もうとする彼女を見て直感的にそう思った。

 この世界に来てからアインズはユエと二人きりになる機会が多く、色々な事を話した。かけがえのない友人達であるギルドメンバー達との思い出もだ。もはや懐かしむ事しか出来ない記憶も、話を聞いてくれる相手がいるだけで寂しさが和らぐ様な気がしていた。

 

(ユエだって、ずっと一人ぼっちで寂しくも前を向いているんだ。俺は……俺はいつまで、過去(むかし)の事に拘り続けるのだろう?)

 

 “アインズ・ウール・ゴウン”のギルドメンバー達は大切な仲間達だ。たとえ最後が望んでいなかった別れ方であっても、それは今でも変わらない。

 

 だが———望んだ通りに終われるなど、この世にどれだけあったというのか?

 エヒトルジュエから守る為に、ディンリードが断腸の思いで芝居を打って封印されたユエ。

 エヒトルジュエによって仲間達も全て奪われ、それでも未来へ意志を託す為に大迷宮で何千年も生きる事を選んだミレディ。

 そして———日々の感謝の言葉も伝えられず、母親と死別して社会の荒波に揉まれていった鈴木悟(かつての自分)

 

 誰もが自分の思った通りの結末は迎えられなかった。しかし、それでも足を止めずに歩き続ける事を選んだのだ。その意志の強さを見ていると、アインズは急に自分が情けなくてちっぽけな存在に思えてきた。

 かつての友人達との輝かしい思い出が忘れられず、NPC達に友人達の姿を重ねて、異世界でいる筈もない友人達を探し続ける………ユエやミレディに比べれば、なんともちっぽけなのだろうか。

 

「本当に………敵わないな、ユエには」

「アインズ様………?」

 

 どこか自嘲気味にポツリと漏らされた呟きに、ユエは不思議そうな表情になった。

 骸骨の顔である為に表情など分かる筈も無い………だが、何故かユエにはアインズが何処か寂しい表情をしている様に見えていた。今この瞬間、ナザリック地下大墳墓の支配者も、魔導国の王という肩書きの無い一人ぼっちの男の姿が垣間見えた気がしていた。

 

「………アインズ様。人間だった時は、何というお名前だったのですか?」

 

 気が付けば、ユエはそれを口にしていた。アインズが驚く気配を感じながらも、ユエは思った事を口にしていた。

 

「アインズ・ウール・ゴウンというお名前は、かつての至高の御方々を示す団体の名前だったとは聞いています。それ以前の………アインズ様が人間だった時にお母様から貰った名前。それが知りたいです」

 

 それは、場合によっては不敬な申し出と見られるかもしれない。それを理解しながらも、ユエはアインズの事を知りたかった。そうでなければ———目の前の相手はかつての自分の様に、周りから傅かれながらも叔父以外に理解者となる者がいなかった孤独な王になってしまう………そんな気がしたのだ。

 

「それは……元々の私の名前はモモンガ………いや」

 

 アインズは元々のプレイヤーネームを言おうとして、何故か喉に小骨が引っ掛かった様に黙った。

 モモンガ。

 それは確かに、かつてのアインズの名前だ。だが、それはユグドラシルでの名前であって、本当の名前じゃない。

 

(………さすがに失礼だよな、ユエには色々と聞いてもらったりしていたのに)

 

 ユエの叔父の事に深く踏み込んでおきながら、自分は偽りの名前で誤魔化す事は不誠実だとアインズは思った。

 本来のアインズなら、慎重を期して自分の情報は徹底的に隠し通す選択をしただろう。だが、今のアインズはそれを良しとしなかった。

 それは———アインズもまた、ユエに心を開き始めていた証拠だった。

 

「………鈴木悟」

 

 異世界に来て、アンデッド(死の超越者)の身体となり、かつての栄華を想ってギルドの名前を名乗っていた男。

 この瞬間、自分が背負い込んだ重荷を下ろし、正直な気持ちで心を許した少女に名乗った。

 

「鈴木悟。それがかつての私の……()が、生まれた時に母から貰った名前だ」

 

 ***

 

「お帰りなさいませ、アインズ様」

 

 ナザリック地下大墳墓の執務室に戻ったアインズをアルベドが出迎えた。

 アインズが鷹揚に頷くと、アルベドはアインズの決裁が必要な案件を切り出した。

 

「愚神の眷族はアインズ様の御要望通り、ニューロニストの下へ送りました。ニューロニストは恐怖公と協力しながら、情報を吐かせると言っていました」

「そうか」

「それとデミウルゴスからアルヴヘイトが用済みとなったら、引き取りたいと申し出がありました。何でもあるアイテムを生み出す家畜に出来るかもしれないと言ってましたが……」

「任せる」

「それと……以前、ご提案した至高の御方々の捜索チームについてですが」

 

 それまで言葉少なくアルベドの報告にただ頷くだけのアインズだったが、そこで初めて動きが止まった。

 それは以前、アルベドからこの世界で至高の御方達を捜索、発見する部隊を編成すべきだと提案されたものだ。

 アルベドを部隊長として、副官にパンドラズアクター、更に腕の立つ者として最高位のモンスター達で編成される事になっていた。また、自分の創造主を見つけたいと暴走する可能性を考えて、防御に長けたアルベドならば仮に罠だったとしても一人で逃げ帰れる自信はあるから他の守護者達には内密にして欲しいと願い出されたものだった。

 

「………アルベド。その件なんだが、今はあまり優先させなくても良いんじゃないか?」

「アインズ様?」

 

 アルベドは驚いた様な表情になる。アインズは言葉を選びながら、慎重に話し出した。

 

「その、なんだ………今はエヒトルジュエ対策に専念すべきだと思うし、仲間探しという意味ならアインズ・ウール・ゴウン魔導国の名前が広まっているから、仲間達がいるなら向こうから来る筈だろう」

「………アインズ様は、至高の御方々をお探しになるのを諦められたのですか?」

「え? ああ、いや! そういうわけじゃないぞ! やはりアルベドもタブラさんには会いたいだろうしな!」

「……………ええ、そうですね」

 

 静かに聞いてきたアルベドに慌てて答えた。自分の発言が「お前達の親を探すつもりはない」という風に聞こえてしまっただろうか、とアインズは焦る。だからこそ———アルベドの返答に妙な間があった事に気付けなかった。

 

「もちろん、NPC達の為にも仲間達を探すのは前向きに検討すべきだ。すべきだが………だが、少なくともエヒトルジュエの事について片をつけるまで捜索隊は延期という事で………駄目か?」

 

 捜索隊の打診をしておきながら、自分の一言で中止にする事にアインズは少しだけ罪悪感を覚える。それこそ元の世界で会社の上司にやられた事を思い出し、「今までの企画に費やした時間は何だったんだよ?」と文句を言われないかとヒヤヒヤしながらアルベドの様子を恐る恐る窺う。すると………。

 

「いえ、アインズ様がそう仰るならば仕方ありません」

 

 アルベドはいつもの様に完璧な淑女の微笑みを浮かべていた。

 

「あー、すまない………お前には色々と準備をさせていたというのに」

「アインズ様が謝罪される事など何一つございません。私がアインズ様の為に動くのは当然の事ですので」

 

 バツが悪そうに謝るアインズに、アルベドは顔を伏せて平伏する。

 だからこそ———アインズは最後まで気が付けなかった。

 

「———このナザリックは貴方様の所有物。ナザリックにいる者全てが、最後まで留まられたアインズ様の為()()に存在すべきなのですから」

 

 伏せたアルベドの表情に、暗い喜びが浮かんでいる事に。




自分は何か火種を作っておかないと、話が作れない病気にかかっているのか? と本気で思う。次あたり、大迷宮探索を再開しようと思います。


そこでも火種を作るけど(ボソッ)
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