ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 ゼルダの伝説の新作が面白くて更新が遅れました……こんな面白いゲームを作り、あまつさえマリオの映画を大ヒットさせた任天堂のせいだ!(笑)


第百二十六話「氷雪洞窟」

 ユエの真相をアルヴヘイトから聞き出した数日後———アインズ達は大迷宮探索の旅を再開していた。

 エヒトルジュエが肉体の無い存在である事などアインズにとって初めて知る情報もあったが、やる事に変わりはない。最初はエヒトルジュエが肉体を狙っていたユエをナザリックで厳重に警護すべきとも考えたが、他ならぬユエ自身がどうしても大迷宮探索の旅について行かせて欲しいと願い出たのだ。

 

「私の事はまだエヒトルジュエには伝わっていない筈です」

 

 ユエはアインズをまっすぐに見ながら言った。

 

「アルヴヘイトが今まで私を知らなかった事、それがエヒトルジュエに私の情報が隠蔽されていた事の証拠になります。だから———もしも私の肉体を奪いに来たら、アインズ様がすぐ側にいて下さる方が確実に殺せると思います」

 

 それはエヒトルジュエをおびき寄せる為に自らを囮にすると言っている様なものだ。エヒトルジュエは現世に干渉する肉体が無いからこそ“神域”から出て来る事が出来ず、だからこそ“神域”へ干渉する手段の無いアインズ達はエヒトルジュエを仕留めに行く事も出来なかった。神代魔法をまだ全て習得できてないアインズ達は、向こうから行動を起こして貰う以外にエヒトルジュエを攻撃する機会が無いのだ。

 

「……お願いします。アインズ様に全て任せて、自分は安全な場所で守られているだけなんて出来ません。私もアインズ様と共に戦わせて下さい。それがあの日、封印から解いてもらった私に出来る唯一の恩返しです」

 

 叔父や滅ぼされた祖国の為にも。そして———アインズの為にも。

 頭を下げて頼み込むユエに、アインズもとうとう折れた。結局、ユエに外では精神防御の装備品を絶対に外さない事、エヒトルジュエの手勢が来たら即座にナザリックへ撤退する事などを取り決め、アインズはユエを再び連れて大迷宮探索への旅に赴いていた。

 

 ***

 

『———貴方はまた裏切られる』

 

 唐突に聞こえた囁き声にユエは顔を顰めた。

 ナザリックの支配下に収まったガーランド領のシュネー雪原。そこに神代魔法を授かる大迷宮がある、とシャルティアの奴隷(ペット)となったシスティーナから聞き出したアインズ達は雪原の中の峡谷に隠された“氷雪洞窟”に来ていた。

 冷気による環境ダメージはナザリック製の防具によって完全にシャットダウンされ、時折出て来る魔物もアインズは元より、神代魔法を三つ習得してレベルが上がったユエでも問題にならない程度だ。

 だが、いま囁かれる様に聞こえた声は………。

 

「どうした、ユエ?」

 

 突然足を止めたユエにアインズが振り向く。人目のない迷宮内で冒険者の変装を解き、表情の無い骸骨の素顔を見せているアインズだが、ユエにはこちらを気遣う優しさを声から感じ取っていた。

 

「アインズ様、いま何か囁き声の様な物が聞こえました」

「何? 私には何も聞こえなかったが……香織はどうだ?」

「私も特に聞こえなかったです。ユエ、風の音とかじゃないの?」

 

 香織は不思議そうな顔になりながらも耳を澄ます。アンデッドでありながら魔獣の集合体とも言える香織は、このメンバーの中で最も感覚器官が優れているのだ。その香織が聞こえなかったとなると、この囁き声は一体………?

 

「ナグモ、お前は何か聞いたか………ナグモ?」

 

 ユエが考え込む中、アインズは後ろを振り返って残り一人に聞こうとする。

 しかし、いつもならアインズの言葉には即座に返答するナグモは何故か返事をしなかった。ナグモはNPCだった時の頃と同じように表情の変化はあまりない。だが、今はまるで強張っているかの様に硬い表情になっていた。

 

「どうかしたのか、ナグモ」

「いえ………」

 

 ナグモは一度目を閉じて、深呼吸した後にようやくいつもの無表情に戻った。

 

「アインズ様、どうやら僕にもユエと同様の現象が起きている様です。おそらくこれは精神攻撃の一種だと思われます」

「何? それは本当か?」

「え……でも私には何の影響も無いよ?」

「いや、私や香織はアンデッドだ。ナグモとユエだけに聞こえる声となると、人間にだけ作用する幻覚か? あるいはこれこそがこの迷宮の試練なのか……それでどんな囁き声が聞こえるのだ?」

 

 アインズの推察通り、“氷雪洞窟”を作った解放者・ヴァンドゥル・シュネーが大迷宮の試練として課したのが、「自分の負の心に打ち勝てるか」という内容だった。迷宮内では自分の心の奥底にある暗い感情が浮き彫りとなる様な魔術的な仕掛けが施されており、神代魔法を手に入れようとする挑戦者の行く手を阻むのだ。

 ただし、アインズと香織には何の効果も齎さなかった。アンデッドの種族特性として精神作用が無効化される二人には、ユエとナグモが聞こえている囁き声など全く聞こえないのだ。

 

「私には………“また裏切られる”、と。同時に叔父様にオルクス大迷宮に幽閉された時の思い出が蘇りました」

「そうか……対象のトラウマを想起させる精神魔法か。それはキツイな………」

 

 誰だって嫌な思い出を思い起こしたくは無いだろう。アインズはユエに気遣う様に気の毒そうな声を出したが、ユエはゆっくりと首を横に振った

 

「いえ……大丈夫です。叔父様の真意を知った今は、こんな幻聴に惑わされたりはしません」

 

 以前のユエならば、この幻聴に多少なりとも動揺はしただろう。だが、ディンリードが我が身を犠牲にしてでも自分を生かそうとしてくれた事を知った今では、こんな幻聴程度ではユエの心を揺るがす事は出来なかった。ユエの迷いの無い瞳に、アインズはゆっくりと頷く。

 

「そうか………それでナグモ。お前にはどんな風に聞こえているのだ?」

 

 なんとなしにアインズは聞いた。とはいえ、それ程深刻に考えていなかった。

 

(ナグモはユエよりも魔法抵抗値のステータスは上だから、精神魔法攻撃でもあまり通用しないと思うけど……それにユエみたいにトラウマを刺激される過去なんて……まあ、香織を助けに行かなかった事だよな。多分)

 

 元は拠点防衛用のNPCである為に生まれて(創られて)からナザリックも一歩も出ずに育ち、この世界に来て唯一心が荒れる様な出来事というとオルクス大迷宮で香織を即座に助けに行けなかった事だろう。その香織も今はナグモの隣にいて、いつも新婚生活の様な甘い空気を出しているのだ。謂わば苦難の果てに幸せ絶頂な生活を送っているナグモは、ユエと同じでトラウマなど過去の物になっているだろうとアインズは思っていた。

 

「………………」

「……ナグモ?」

「ナグモくん、どうかしたの?」

 

 だが、ナグモは何故か答えなかった。いつもの無表情のまま、だんまりしていたが、アインズと香織が聞くとようやく首を横に振った。

 

「いえ、大した内容ではありません。あまりにくだらない精神攻撃に、思わず唖然としてしまいました。申し訳ありません」

「そうか……? 本当に大丈夫か?」

「解放者達も相変わらず低脳ですね。ダンジョン作成者としても至高の御方達には遠く及ばない。この程度の精神魔法トラップなど、低位の精神防御魔法を使えば問題になりません。アインズ様、念の為に精神防御魔法の使用許可をお願いします」

「む………まあ、そうだな。ユエもスクロールで精神防御魔法を使っておく様に」

 

 はい、とユエがスクロールを取り出し、ナグモも自分に精神防御魔法を使う。ナグモの返答に何か違和感を覚えたものの、アインズはナグモに根掘り葉掘り聞く事はしなかった。

 

(ううん、まあ、ナグモにだって嫌な思い出の一つくらいはあるよな………それを無理やり聞き出すのは、さすがにデリカシーがないよなぁ?)

 

 部下のプライバシーを事細かく聞き出そうとするなど、上司のパワハラ以外の何物でもないだろう。そう思ってアインズはそれ以上の追及はしなかった。

 

 ―――あるいは。ここで無理やりにでも問い詰めていれば、未来は違ったものになったかもしれない。

 

 ***

 

「う〜む………これは参ったな」

 

 周り一面がミラーハウスの様に自分の姿を映し出す氷の部屋。そこでアインズは独りごちた。

 あれからしばらく経った後。アインズ達は転移魔法で各々が分断されてしまっていた。それ自体はオルクス大迷宮でも似た様なトラップがあったから、これも試練の一つだと思うべきだろう。

 一人だけでこの部屋に転移させられたアインズに、氷の鏡の中から自分の姿とそっくりな存在が滲み出てきたのだ。

 だが———そっくりなのは見た目だけだった。最初は自分のコピーに警戒していたアインズだが、鏡像のアインズの強さは想定よりもずっと弱かったのだ。

 

「エレメンタル系のモンスターか? それにしても相手の精神に作用して姿形を変える、か………この世界にもドッペルゲンガーみたいなモンスターはいるのだな」

 

 戦いの最中に解析魔法を使ったアインズは鏡像の正体を看破し、()()()()()()()戦闘する鏡像を倒す事は出来た。しかし、アインズは鏡像が使ってきた魔法から立てた推測に、その選択は()()()()()()()()()正しいのか自信がなくなって来ていた。

 

「アインズ様!」

 

 アインズのいる部屋に香織が入ってくる。香織が跪こうとするのをアインズは手で制した。

 

「ふむ、香織が一番か………香織はここに来るまで、何かモンスターに襲われなかったか?」

「はい! 鏡の中から私にそっくりなモンスターが出て来ましたよ。とりあえず、食べちゃいましたけど」

「やはり………へ? 食べた? あれを?」

 

 というか食えんの? と素に戻った言葉をどうにか飲み込んだアインズに、香織は何故か胸を張って言った。

 

「だって、たくさん魔物を食べて強くなれば、さらにナグモくんとアインズ様のお役に立てるじゃないですか? もっと、も〜っと、私のキメラとしての機能を拡張させたいと思うんです!」

「う、うむ、そうか………」

「アンカジで天使の生き残りがいたのは、本当なら自害してお詫びするべきだったのに……アインズ様は許してくれましたから、私、今度は失敗しない様に頑張ります!」

「自害など軽々しく言うんじゃない。お前が私のせいで死んだら、ナグモに一生恨まれそうだ」

 

 はい、分かりました! と香織は返事をする。それは優等生が教師の言った事に返答する様に礼儀正しく、地球でも学校でこんな遣り取りをしていたのだろう。そう思ったアインズだが………。

 

(う〜ん、何だかな………香織もナザリックのNPC達に染まってきたのか? なんというか、こんな感じだったっけ?)

 

 最近の香織と話していると、まるで自分を敬愛(盲信)しているNPC達と話をしている様な気分になるのだ。いくら自分が命の恩人だからといっても、少し行き過ぎなんじゃないか? とアインズは考えてしまう。

 

「それにしても、この魔物は何だったのでしょうか? 食べたら変身能力は身に付きましたけど、私は元から身体を自由に変えられるし………」

 

 鏡像のモンスターの能力を考える香織だが、アインズはある予感をして質問した。

 

「香織、一つ聞きたいのだがお前が戦った鏡像は何か喋ったか?」

「いえ、何も喋りませんでしたよ? なんというか、見た目だけを真似た様な偽物みたいな感じでした」

「そうか……そうなると、やはり………」

 

 アインズがしばらく考え込んでいると、再び誰かが近付いてくる気配を感じた。アインズ達が振り向くと、今度はユエが合流してきた。

 

「アインズ様……! 香織……!」

「ユエ……怪我は無かったか?」

「はっ。鏡像の言葉に少し揺らぎましたけど、なんとか勝てました」

 

 ユエが無事だった事に少し胸を撫で下ろしたアインズだったが、香織はユエの報告に怪訝そうな顔になった。

 

「鏡像の言葉? ユエ、あの鏡像は何も喋らずに襲いかかってくるんじゃないの?」

 

 今度は逆にユエが怪訝な顔になった。しかし、アインズはユエの報告を聞いてようやく確信を持てた様に喋り始めた。

 

「これはあくまで私の予想だが………氷雪洞窟の大迷宮のコンセプトは、“自分の精神に打ち勝つ事”なんじゃないか?」

「自分の精神に………ですか?」

「うむ。ここまでのトラップは、ユエやナグモに精神攻撃を行っている物がほとんどだった。そうなれば、この大迷宮の制作者は意図的に挑戦者の精神を試しているのは明白だ。あの鏡像も本来なら自分の負の面を強調した様な存在になったのだろうな………おそらく、半端な精神ではエヒトルジュエにつけ込まれるから気を付けろ、という警告も兼ねているのだろうな」

「なるほど………確かに力があっても、心が弱ければ意味は無いです」

 

 ユエは得心がいった様に頷いていたが、香織はピンと来てない様だ。道中の精神的なトラップにも引っ掛からず、本来ならば自分の負の面を象徴した筈の鏡像もただの敵として処理してしまったから当然の反応だった。その姿を見て、アインズはため息は吐いた。

 

「今回の試練………もしかすると、私や香織は突破できてないかもしれんな」

「そんなっ!? 私はともかく、アインズ様がどうして………!」

「いや、香織の対応に落ち度があるわけではない。問題は、私と香織がアンデッドだという事にあるのだ」

 

 氷雪洞窟の試練は、精神の強さが問われる大迷宮だ。己の負の面、目を逸らしている醜い感情、認めがたい感情………そういった物を浮き彫りにされて尚、自分に打ち勝てるのかを重視している。

 ただし———それはあくまで、挑戦者が()()()()()()を前提にして作られた試練だ。

 異世界の異形種(モンスター)、ましてや精神作用が人間と異なる存在などヴァンドゥル・シュネーが想定している筈もなかったのだ。

 

「道中のトラップも、試練の最大の相手となるであろう鏡像も我々は精神作用が働かなかったからな………鏡像が何も喋らなかったのも、アンデッドの精神を正しく読み取れなかったのだろう」

 

 おそらく、本来ならば氷雪洞窟に入った時点で挑戦者の精神を読み取り、それを基にしたコピーが鏡像となったのだろう。しかし、精神作用が無効化されてしまうアンデッドのアインズ達の精神はコピーできず、仕方なしにそれまで大迷宮内で記録した姿形だけを鏡像はコピーしていたのだ。

 だからアインズの鏡像は弱かったのだろう。アインズは大迷宮のモンスターには、全力には程遠い力でしか相手をしていなかったのだから。

 

「そんな………」

 

 香織は絶句してしまう。それは自分が大迷宮の攻略条件を満たしてないかもしれないというよりも、自分がアインズの役に立たなかったのかもしれないという事にショックを受けた様子だった。

 

「あくまで可能性の話だ。だが、もしそうなるとユエとナグモだけが頼りだな。人間の種族に分類されるお前達ならば、確実に大迷宮の攻略条件を満たせるだろう」

「アインズ様………ナグモはクリアできると思いますか?」

「大丈夫だよ! だって、ナグモくんはアインズ様程じゃなくても強いんだから!」

 

 香織は全く疑う様子もなく反射的に答えたが、ユエはどこか不安そうな表情だった。アインズはユエの表情に疑問を覚えたものの、香織の前で不安にさせる様な事を言うより安心させる方を選んだ。

 

「まあ………大丈夫だろう。精神防御魔法はナグモは習得しているし、こういった精神系攻撃を防ぐ方法というのは色々とあるものだぞ? 例えば、自分の言語能力にデバフをかけて相手の言葉を認識しない様にするとかな———」

 

 ユグドラシルであった変わり種の精神系攻撃の対策法をアインズは話そうとし———。

 

 直後、洞窟全体を揺るがす様な轟音がアインズ達の耳に響いた。

 

「今のは………?」

「ナグモくん!?」

 

 香織が轟音が響いた方向へ走り出す。アインズとユエも、顔を見合わせると香織の後を追うように走り出した。




 そんなわけで氷雪洞窟です。原作ならメルジーネ海底遺跡が四番目ですけど、普通に考えると探すのがちょっと骨が折れる場所にあると思うんですよね。というか原作ハジメみたいに潜水艦を作れない現地人にはどうやって行けと………。
 というわけで、今作ではシスティーナから聞き出して場所がはっきりとしている氷雪洞窟から行きました。原作ではユエは鏡像に苦戦しますけど、今作ではディンリードの真相をアインズに暴いてもらった事もあって迷わずにクリア出来ました。

 たださ………あの0歳児が精神的に強いと思う?
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