ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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オルクス迷宮に行くまで、あとどのくらいかかるやら……。一応、自分としては一番の見せ所だからさっさと書きたい気持ちもあるんですけどね。でも過程をすっ飛ばして書いても個人的にわけの分からない話になるとは思うのです。


第六話「圧倒」

 ヒュンっとナグモの持ったメイスが音を立てて、檜山達に突き出される。

 重量のある打撃武器を軽々と振るう姿がいつも教室の片隅で読書をしている少年の姿と重ならず、香織は思わず声を上げた。

 

「南雲くん………?」

「手出しは無用。狗にも劣るド低脳共には、鞭をもって躾けるべきだ」

 

 ぴしゃりと冷たく言い放つナグモ。その姿に香織は気後れしてしまった。

 

「おい、南雲! 香織はお前の事を心配しているのに、なんだその口の利きか、!?」

 

 説教をしようとした光輝だが、南雲に一睨みされた途端に全身が硬直した様に動かなくなっていた。冷たい殺意すら感じさせるナグモの目を見た途端、光輝の生存本能が全力で警戒信号を発していた。

 

「おい、さっさと来い」

 

 邪魔者がいなくなり、未だに無様に座り込んでいる檜山達にナグモは目を向ける。

 

「ド低脳が」

 

 それまで呆けていた檜山達だったが、ナグモの一言でようやく再起動した。彼等は近くにあった訓練用の武器を各々掴み、ナグモを取り囲む。

 

「んだとコラ……調子こいてんじゃねえ、雑魚がっ!」

 

 歯を剥き出しにした醜悪な顔で檜山はナグモへ距離を詰める。

 檜山の天職は軽戦士。

 光輝に比べれば一回りは劣るステータスだが、それでも一般人からすれば避ける事すら難しい速度でナグモへと槍を突き出した。訓練場で事の成り行きを見ていた生徒達から悲鳴が上がる。

 檜山はナグモが串刺しになる姿を想像して下卑た笑みを浮かべ———あっさりと躱された。

 

「———“錬成"」

 

 ポンっと檜山の持った槍を横から掴んだナグモが一言呟く。バチィっ! という音と共に、檜山の持った槍が半ばから崩れ落ちた。

 

「………へ?」

 

 突然の事態に間抜けな顔で折れた槍をポカンと見つめていた檜山だったが、その顔にナグモのメイスが叩き込まれる。

 

「ブッ!?」

「檜山!? テメエ———!」

 

 歯を撒き散らしながら吹っ飛んでいく檜山を見て、槍術師の近藤が怒りの声を上げながらナグモへと詰め寄る。手にしたハルバードでナグモの頭をカチ割ろうと振り上ろすが、それもアッサリと躱したナグモは今度は近藤の腕に触れた。

 

「“錬成"」

 

 辺りに肉が潰れる様な音が鳴り響く。腕が妙に熱い事に気付いた近藤が自分の腕を見る。

 そこには———腕の肉を突き破って、骨が複数の棘となった自分の腕があった。

 

「ひっ、ぎゃあああああああっ!?」

 

 腕の痛みを自覚して、近藤は品の無い悲鳴を上げた。

 

「こ、ここに焼撃を望む!」

 

 炎術師の中野が慌てて詠唱を開始した。掌に炎球を生み出し、ナグモへと向ける。

 

「“炎きゅっ、ぎえっ!?」

 

 中野の術が完成するより先にナグモは近藤をまるでゴミの様に投げ飛ばした。術が発射されるタイミングで中野と近藤はぶつかり合い、暴発した術が二人に炸裂する。

 

「アチィぃぃぃいっ!? 中野、テメエ!!」

「わざとじゃねえよ! つうかどけよ!!」

 

 黒焦げになりながら転げ回る二人に、ナグモは再び錬成の魔法を使った。今度は震脚する様に地面を踏みつけると、近藤達がいた地面にぽっかりと穴が開き、二人を呑み込む様に地面が閉じた。ご丁寧に二人の首だけ地面から出て、まるで打ち首にされた罪人の様だった。

 

「な、なんだよ………錬成師って鉱物の形を変えるだけの雑魚天職じゃなかったのかよ! 何で無能な筈のお前が俺達を圧倒してるんだよ!」

 

 唯一、無事に残った斎藤が後退りしながらナグモに怒鳴った。その顔には怯えがはっきりと出て、隙あれば逃げ出そうとしているのが目に見えた。

 斎藤とナグモの目があう。虫けらを見る様な目に、斎藤はひぃっ、と情けない悲鳴を上げると後ろを向いて走り出そうとした。

 しかしナグモは一瞬で追い付き、斎藤の肩を握った。

 

「お前は地球にいた時、何を学んでいた? ()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 錬成、という一言と共に斎藤の肩に痛みが走る。歪な形になった骨が斎藤の肩から突き出ていた。

 

「ぎゃあああああああっ!? 痛え、痛えよ! 誰か助けてくれよぅ!!」

 

 肩から血を流しながら斎藤は転げ回って周りの生徒達に助け求めた。

 しかし誰も動かない。目の前で行われた一方的な戦闘もさることながら、最弱だと見下していたナグモの圧倒的な強さに皆ショックを受けていた。

 

「ひっ……ひぃぃぃっ」

 

 斎藤の悲鳴で目が覚めたのか、檜山は折れた鼻からダラダラと流す血も気に留めずに四つん這いになりながらこの場から逃げようとしていた。

 

「“錬成"」

 

 そんな檜山の四肢に地面から鎖が飛び出して絡み付く。あっという間に檜山は斬首刑を受ける罪人の様に縛られて動けなくなる。

 

「ぐっぎぃぃっ!?」

 

 鎖のキツさに虫が潰された様な声を上げる檜山だが、ハッと前を向いた。

 そこにはナグモ(死神)がいた。

 ナグモは見る者に心底から圧倒させる怒りのオーラを纏いながら、檜山へとゆっくりと歩いてくる。

 ナグモの足音がまるで13階段を昇る自分の足音に聞こえ、檜山は股間に生温かい水溜りが拡がっていくのを感じた。

 

「な、南雲……悪かった、マジ悪かったっ」

 

 歯が折れて発音がしにくかったが、檜山は精一杯の命乞いの言葉を口にした。相手が無能と蔑んでいた者だという事は頭から抜け落ちていた。媚びる様な半笑いを死物狂いで浮かべ、口を動かした。

 

「もうお前を苛めたりしねえ、さっき言った事も謝る! だ、だから………!」

 

 檜山の言葉に耳を貸さず、ナグモはメイスに再び錬成を使った。メイスは形を変え、スパイクを生やした凶悪な形状になる。絶望した顔になる檜山の前に立ち、ナグモはメイスを振り上げ———。

 

「何をしているっ!!」

 

 訓練場に突如、男の鋭い声が響いた。ナグモは舌打ちしながら声の方向に振り向くと、生徒達の教官であるメルド・ロギンスが大股で歩いてきた。

 

「この状況はどういう事だ! 誰か説明しろ!」

 

 常は頼れる兄貴分として優しく指導するメルドだったが、この時ばかりは厳しい顔だった。潰れた顔面で鎖に縛られている檜山、罪人の様に埋められた近藤と中野、肩から骨を飛び出させて痛みに転げ回る斎藤を見て、次にこの惨状の中心にいた棘付きメイスを持ったナグモを見る。そして傍観していたであろう生徒達を見回し、怒りを滲ませた顔になっていた。

 

「メ、メルドさん! 助けてくれ! 俺達、南雲に殺されちまう!」

 

 メルドの登場に檜山は希望を見出だしていた。哀れっぽい声を出して、必死にメルドに助けを乞う。

 

「俺達、南雲のステータスが低い事を心配して訓練を手伝おうとしただけなんです! なのに南雲の奴、俺達を殺す気で魔法を使ってきやがったんだ!」

 

 檜山の話にメルドは眉根を寄せた。そして次にナグモへと目を向ける。ナグモはメイスを手にしたまま、地面にぶち撒けられた吐瀉物を見る様な目で檜山を睨んでいた。

 

(あれは確か錬成師の坊主……あいつが戦闘職を四人相手にして圧倒した? あり得ないだろ………)

 

 檜山の言い分が正しいのか不明だが、それ以上にメルドが疑問に思ったのは無傷で立っているナグモの事だった。初日に見せて貰ったステータスでは生徒達の中で目立った物は無く、ましてや技能が二つしかなかった非戦闘職の少年が現場を見る限り四人相手に圧倒したなど到底信じられなかった。

 

「メルドさん、信じてくれよ! 俺達、何も悪い事してねえ!」

「それ、嘘です」

 

 尚も喚く檜山を遮る様に香織が横から口を挟んだ。先程まで香織もナグモの強さに圧倒されていたが、今は屹然とした表情でメルドと向かい合っていた。

 

「檜山くん達は南雲くんを虐めようとしていました。それに南雲くんが孤児だという事を馬鹿にして、両親も無能だったんだって挑発していたんです」

「なに……?」

 

 聞き逃せない事実にメルドの顔が険しくなる。先程までより檜山達に厳しい目を向けていた。

 

「メルドさん、檜山達は言い過ぎかもしれませんが、南雲にも非が———」

「光輝、今はお前には聞いてない。その話は本当か?」

「はい、間違いありません。この目で見ました」

 

 横からしゃしゃり出ようとした光輝にピシャリと言い放ち、メルドは香織の方を見る。まっすぐと見返してくる香織を見て、次は檜山をみた。

 「い、いや、あれはちょっと口が滑ったというか……」とゴニョゴニョと言う檜山に眉を吊り上げ、次に傍観している生徒達に目を走らせた。生徒達は関わり合いになる事を恐れているのか、気不味そうにサッと目を逸らす。そんな生徒達に深い溜息を吐きながら、最後に渦中の人物であるナグモを見た。ナグモはいつもの無表情でメルドを見返していた。

 

(この坊主、いつもこんな顔だな。お陰で何を考えているかイマイチ分からん……)

 

 ともあれ、どうやら香織の話は本当の様だ。そう判断して、メルドは未だに縛られたままの檜山へと目を向ける。

 

「檜山大介。お前は神の使徒以前に、人として最もやってはならない事をした」

 

 ビクッと檜山の肩が震える。

 

「お前の行いは戦友である筈の南雲ハジメの心を深く傷付けるものであり、お前が神の使徒でなければ城から叩き出しているところだ。その怪我に免じて、今はこれ以上追及はせん。だが、お前達全員に何らかの罰を与える」

 

 無惨に潰された顔で同情を誘う様な涙目を向けてきたが、メルドにはそれを哀れに思う気持ちが湧き上がらなかった。

 

「メルドさん! それじゃ檜山達に一方的過ぎるじゃないですか!」

 

 収まりかけた場に水を差す様に光輝が大声を上げた。メルドが強い目線を向けるが、光輝はそれに気付かずに捲し立てる。

 

「確かに檜山達の言動は人として間違っています! でも南雲だってやり過ぎです! もともと檜山達は読書ばかりして怠けて戦闘に不真面目な南雲を心配して訓練に付き合おうとしたんです!」

 

 今の話を聞いたらどうしてそうなるんだ? とメルドは疑問に思ったが、光輝は自分の意見が正しいと思っている様だった。隣にいる香織から怒りの目を向けられている事にすら気付かない勇者の姿に溜息を吐きながら、ナグモへと目を向ける。最低限の戦闘訓練しかしてない錬成師がどうして檜山達を圧倒したのかは気になる所だった。

 

「坊主、スマンがステータスプレートを見せてくれるか?」

 

 ナグモはしばらくじっとメルドを見ていたが、やがて観念した様にゴソゴソとポケットを漁った。ややあってから、ステータスプレートをメルドに差し出した。

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:10

天職:錬成師

筋力:600

体力:600

耐性:600

敏捷:600

魔力:600

魔耐:600

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+遠隔錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+鉱物分解]・言語理解

 

「なっ……!? ステータスが光輝の三倍だと!?」

 

 それを見た瞬間、メルドは思わず口に出してしまった。それを聞いていた生徒達は一様にまさか、信じられない、とザワザワと騒ぎ出す。

 

「う、嘘だ! きっと読み間違えているんだ!」

 

 中でも光輝の反応が顕著だった。メルドから引ったくる様にステータスプレートを奪い取ると、ステータスプレートを必死に読み込む。だが、どう読んでもナグモのステータスが自分より上だと分かると、呆然とした様子で呟いた。

 

「嘘だろ………なんで南雲なんかが……」

「さあ? 僕にも分からん」

 

 惚けた様子でナグモは言いながら、ステータスプレートを光輝から取り上げた。

 

「仮にも僕も神の使徒だという話だからな。初期ステータスが低い分、レベルアップボーナスが高いとかそういう恩恵でもあったのだろう」

「そんな……そんな馬鹿な………」

 

 尚もブツブツと呟く光輝を無視してステータスプレートをポケットに仕舞い込むナグモを見て、メルドはようやく得心がいった。あれだけのステータスがあれば、今の檜山達など軽く捻られるだろう。

 ともかく、これで疑問は解決した。

 

「坊主、お前さんが檜山大介達を纏めて叩き潰せた理由は分かったし、騎士として家族を侮辱した相手を許せない気持ちも理解できる。ただ光輝を支持するわけじゃないが、少しやり過ぎだ。この場はこれで終いにしろ。それと、事情聴取の為に自室待機を命じる」

 

 頼れる兄貴分ではなく、神の使徒を預かる騎士団長としてナグモに命令する。他の者に否と言わせない響きがそこにあった。

 

「………………」

 

 しばらくナグモはメルドを無表情で見つめたが、やがて溜息を吐きながら足をトンと踏み鳴らす。それだけで檜山を縛っていた鎖は塵となって消えた。

 

「ヒィっ、ゼェ、ゼェ……」

 

 ようやく拘束が解かれ、檜山は喘ぎながら地面へと這いつくばる。とにかくこの場は助かった、と檜山が安堵したその時だった。

 

 ドンッ!!

 

 檜山の目の前に、棘付きメイスが振り下ろされる。

 

「———今は、大事な目的がある」

 

 ガタガタ、と檜山の身体が震える。メルドも本来なら止めに入らなければならなかったが、ナグモの怒りのオーラに圧倒されて動けなくなっていた。

 

「だから本当は殺してやりたいくらい腑が煮えくり返っているが、この程度で済ませておく」

 

 だが、とナグモは檜山を見下ろした。檜山の潰された顔が恐怖でさらに歪み、もはや正視に耐えられない表情になっていた。

 

「次に御方の………じゅーる様の侮辱を口にしてみろ。死すらも救いである様な目に、必ずあわせてやる………!」

 

 まるで地獄から響く様な怒声に檜山の精神は限界を迎えた。白目を剥き、そのままばたりと気絶する。緊張が途切れたのか、股間から再び水溜りが出来て濃いアンモニア臭が辺りに充満した。ナグモは水溜りで汚れたメイスを嫌そうに手放すと、殺気でまだ固まったままの人間達に目をくれずにさっさと訓練場から立ち去った。

 

 ***

 

(やり過ぎた………)

 

 しばらく歩き、人目の無い廊下でナグモは後悔する様に溜息をついた。そんなナグモに姿なき声がかけられる。

 

「ナグモ様っ」

「落ち着け、エイトエッジ・アサシン」

「しかし……!」

「落ち着けと言っている」

 

 カシャカシャと怒りに震えた声が響く。その声に連動する様に、ナグモの影が炎に揺らめく様にぐにゃぐにゃと形を変える。

 

「シャドーデーモンも落ち着け。誰かに見られたらどうする」

「しかし、あの下等生物は! あろう事か至高の御方に暴言を吐いたのです!」

 

 ナザリックのシモベ達にとって、至高の御方は神に等しい存在だ。それを侮辱した檜山を今すぐ八つ裂きにしたい、と隠密に付けられたシモベ達は殺気を隠そうともしなかった。

 

「だから落ち着けと言っている。僕が何の為に位階魔法を使わずにいたと思っている」

「しかし……!」

 

 尚も怒り収まらないシモベ達をナグモは軽く睨む。それでようやく静かになった。

 

「モモンガ様に命じられたのは、この世界の知識と勇者一行の情報収集だ。ここで死人が出れば、騒ぎとなってモモンガ様の御命令を遂行できなくなる」

「っ、……申し訳ありませんでした」

 

 エイトエッジ・アサシンの謝罪を聞きながら、ナグモは先程の出来事を思い出していた。

 至高の御方———あろう事か、自身の創造主であるじゅーる・うぇるずを侮辱され、頭に血が昇っていたのは認める。だが、その後がマズかった。

 この世界の魔法しか使ってないとはいえ、クラス最弱の錬成師とは思えない立ち振る舞いで檜山達を圧倒してしまった。咄嗟にステータスプレートを<虚偽情報>で数値を圧倒できて当然な程度に弄ったものの、これで今後は召喚された神の使徒で一番ステータスの高い存在として注目されるだろう。

 

(これでは目立たずに情報収集せよ、という御命令を破ったも当然だ)

 

 モモンガの命令を破った事に深い後悔の念が生じる。それこそ自害を命じられても致し方なしだろう。

 だが、この事態を報告しないというわけにいかない。

 ナグモはナザリックで情報の分析を行なっているデミウルゴスに報告する為に、暗い顔で自室へと急いだ。

 

 




>ナグモ、檜山達を今は生かしておく

 ナザリックのNPCとしては超激甘対応。でもモモンガより命じられた情報収集の命令を優先して、グッと我慢しました。許可があったら血の雨が降ってます。

>光輝のトンデモ理論

 正直、最初のプロットではここまで馬鹿な発言をさせる気は無かったです。ただ原作でも香織が惚れてたハジメが気に入らないからか、何かとイチャモンをつけていた光輝なら口を挟むだろうなと思って書きました。

>ナグモ、ステータスオール600。

 もちろんこれは偽装した数値です。とりあえず今の檜山達を圧倒できるくらいの数値に<虚偽情報>の位階魔法を使いました。でもこれで目立たずに情報収集せよ、というモモンガ様の命令を破った事になりました。

多分、次回はナザリックのターンになります。

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