ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 誰か助けて……ハッピーエンドが大好きな筈なのに、主人公達を絶望に突き落としたくて仕方ないの……。
 真面目に煽り抜きで、自分は何でこんなに屈折した性格なんだろう………。


第百二十八話「自己嫌悪」

 その後———香織達の必死の呼び掛けにより、なんとか正気を取り戻したナグモを連れてアインズ達は大迷宮の最奥部に辿り着いた。

 予想通りというべきか、アインズと香織は神代魔法の習得が出来なかった。その代わりユエは当然だったとして、鏡像の試練の様子から無理だろうと思っていたナグモも神代魔法が習得できていた。おそらく『精神的干渉を受けた状態で鏡像を倒す事』が最低限のクリア条件だったのだろうか。

 

 しかし、アインズはそれを詳しく考察するどころではなかった。

 試練の間でナグモが見せた慟哭———自分が創造主から見捨てられた筈は無いと嘆く姿に、アインズもまた深く考え込んでしまっていた。今まで薄っすらと考えながらも、アインズの為に忙しく働くNPC達には直接聞けなかった事……それをはっきりと目に見える形で突き付けられ、アインズは自分が今まで有耶無耶にして聞かなかった事に大きな後悔をする羽目になった。

 

 ***

 

「ナグモは……どうしている?」

「……今は香織が側に付いています。彼女がいれば、ナグモの精神も慰撫されるとは思います」

 

 そうか……と、アインズは少し疲れた声で頷く。

 氷雪洞窟をクリアして、次の大迷宮へ行く為にアインズ一行は人間族の国へ戻っていた。本来なら転移魔法で残る大迷宮がある近くの街などに行くべきなのだが、アインズはそれをせずにモモンの姿で適当な都市の宿屋で一晩を過ごしていた。

 今のナグモの精神状態で再び大迷宮の攻略をさせるのは危険だと判断しており———何より、アインズ自身も気持ちを整理する時間が欲しかった。

 

「アインズ様……どうかお聞かせ下さい」

 

 いつも通りに同室になったユエは、アインズを見ながら聞いてきた。

 

「今までアインズ様がお話ししてくださった至高の御方達……皆様が仲間思いで素晴らしい方々だったのだと思います。それなのに何故、かの方々はナザリックを去られたのですか?」

「それは………」

「きっと深いご事情があって、ナザリックで新参者の私が深入りして良いものでは無いとは存じています。それでも伏してお願いします。せめて……ナグモの創造主のじゅーる・うぇるず様の事だけでも」

 

 今回、ナグモが暴走する事になった原因。あれ程に取り乱したナグモをユエも見た事がなく、再びこの様な事が起きない様に———あるいは起きても対処できる様に。ユエはアインズから聞かなければならないと判断していた。

 

「ナグモは……はっきり言って、あまり好きな性格とは言えないです。でも、あの日にアインズ様と一緒に私を封印から解き放ってくれた恩人です。だから、お願いします。じゅーる・うぇるず様が……ナグモの親とも言える方が、何故ナグモを置いて去られたのか教えて下さい」

 

 興味本位ではなく、あくまでナグモの事を想って聞いてくる質問に真摯に向き合わないのは不人情というものだろう。しかし、それを理解していながらも———アインズは力無く首を横に振るしかなかった。

 

「すまない……私には答えられない」

「アインズ様……」

「いや、本当に分からないのだ……分からないんだ」

 

 ユエが少しだけ咎める様な視線を送ってくるのを感じながらも、アインズはそう答えるしかなかった。

 どうしてギルドメンバー達が次々と辞めていったのか……「仕事が忙しくなったから」、「生活環境が変化してしまったから」などと辞めていった彼等は言っていたが、それ以外の理由があったとしてもアインズには答えられなかった。

 

「じゅーるさんは………遠い所へ行かなければならない、と最後に言っていた。それ以外は私も詳しく知らない」

 

 いつもの様にリアルの事情を誤魔化して言ったものの、アインズは自らの言葉に自己嫌悪に陥った。

 

(何が大事な仲間達だ………ユグドラシル以外で彼等の事を深く知らなかったくせに)

 

 ギルドメンバー達は鈴木悟の生涯の中で初めて出来た友人達だ。だが、ユグドラシルの外———すなわち現実で彼等とは深い付き合いは無かった。だが、今となっては仲間だと言いながら彼等について深く知ろうとしなかったと自分を責めていた。

 

「………とんだお笑い種だな。こんな様で、何がナザリックの支配者なんだろうな」

 

 ポツリとアインズは弱音を漏らしていた。常日頃から被っている支配者の仮面すら忘れ、弱気で小心者な鈴木悟としての心情が気付いたら漏れ出てしまっていた。

 

「ナグモは本当はじゅーるさんがいなくなった事に苦しんでいたのに……ナグモだけじゃない。きっと他のNPC達だって自分の創造主と会えなくなった事を寂しがっているに違いないのに、俺は彼等にまともな説明すら出来やしない……! 所詮、俺なんかがナザリックの支配者になんかなるべきじゃ———」

「アインズ様っ!!」

 

 ユエは大きな声を出してアインズの言葉を遮った。ユエはいつもよりも厳しい表情でアインズをまっすぐと見る。

 

「その言葉だけは言っては駄目。アインズ様を信じて、貴方について行こうと決めた人達の為にも」

「ユエ……だが………」

「アインズ様………いいえ、サトル様。貴方が本当は王なんて、やりたくなかったというのは知っています」

 

 あえてアインズの本名で呼びながら、ユエは今まで考えていた事を言った。

 かつては仲間達と自由に冒険をしていた事、アンカジ公国の使者が訪問した時に謁見上でのマナーなどを聞いてきた事、そして生前は普通の家庭で生まれ育った事………今までのアインズの身の上話を聞いていれば、アインズが支配者になりたかったわけではないと推察するには十分だった。

 

「でも、貴方が王になったからこそ救われた者だっています。サトル様が王になってくれなければ、ナザリックの人達はきっと暴走していました」

 

 それは容易に想像できる可能性だった。人間を下等生物だと公言して憚らない者が殆どのNPC達は、アインズがいなければ人間達の国を積極的に滅ぼしに行っただろう。

 

「それに亜人族達もサトル様が魔導国を作らなければ、奴隷のまま生涯を終える者がほとんどでした。そしてトータスを弄んでいるエヒトルジュエを倒そうとする組織立った勢力も魔導国がなければ難しかった……サトル様が王になったのは無意味なんかじゃない、サトル様が王になったのが後悔しかない選択だったなんて間違いです」

 

 何よりも、とユエはアインズの手を握る。モモンの鎧を着ていて、硬い籠手に覆われた手。その中もアンデッドである為に冷たい感触しかない骨だけの手を。

 それでも、自分の気持ちを伝える為にしっかりと握った。

 

「たった一人で王の重責を抱えても、創造主()がいなくなったナグモ達の為に……そして寄るべの無くなった私に対しても、保護者として守ると自分に誓っている貴方が間違いだったなんて、誰にも言わせない……!」

「ユエ………」

 

 ユエはいつもより必死にアインズに訴えかける。涙が潤むくらい熱い瞳に、アインズは自分の心が動くのを感じた。未だかつて、ここまで自分に想いをぶつけてくれた相手がいただろうか? かつてのギルドメンバー達ですらも感じた事のない温かい想いがアインズの胸を駆け巡り———急に感情が沈静化されるのを感じた。

 

(っ……! クソがぁ……!)

 

 アンデッドの種族特性として、怒りや動揺どころか喜びすらも沈静化される身体に舌打ちしたくなる。ユエが素直な気持ちをアインズにぶつけてくれているのに、その事に対して嬉しいと思う気持ちすらも平坦化される今の身体をアインズは本気で疎ましく思った。

 

「………ありがとう、ユエ。お陰で動揺が収まった」

 

 本当は精神沈静化が働いただけだが、先程の弱気な態度から一転してアインズは落ち着いた声を出した。

 

「いいえ。私は思っていた事を伝えたまでです」

 

 ユエがペコリと頭を下げる姿を見て、アインズの胸に自分への嫌悪感が募る。それを何とか心の隅に追いやった。

 

「………明日の朝、ナグモと話をしてみようと思う。じゅーるさんの事は満足のいく回答ができるとは思わないが……それでも何もしないよりはマシな筈だ」

「ええ、きっと」

 

 ユエが頷くのを見て、アインズは明朝にナグモにどう声を掛けるべきか考え始めた。大切な友人の遺児の為にどんなに悩み抜いても———ある一定のラインを超えると感情が平坦化されてしまう、自分の身体を呪いながら。

 

 ***

 

「ナグモくん、元気出して。結果的に神代魔法を手に入れられたんだからさ」

「………あんなものは試練を攻略したとは言わない」

 

 アインズ達とは別室。氷雪洞窟を出てからずっと落ち込んだままのナグモを元気付けようと香織は色々と話しかけていた。

 

「ほら、私なんて神代魔法を手に入れられなかったんだからさ。アインズ様のお役に立てたのはナグモくんの方だよ!」

「君のは種族の特性上、たまたま習得条件が合致しなかっただけだ。それを言ったら、アインズ様だって………」

「だからさ、アインズ様がクリア出来なかった事になっちゃう大迷宮の方が欠陥品だったというか———」

「僕はそんな欠陥品相手に取り乱したとでも言うのか!? ……あ」

 

 ムキになって怒鳴ったナグモだが、すぐに自分の癇癪に気付いた。香織は悲しそうな顔で目を伏せる。

 

「ごめんね、ナグモくんに不愉快な思いをさせちゃって」

「いや、その………僕も言い過ぎた」

 

 ナグモが不器用ながら謝罪の言葉を口にするが、香織はそれで済まなかった様だ。

 

「ナグモくんを不愉快にさせたお詫びに何でもするよ。どんな事でもするから……お願い、許して下さい」

 

 香織の身体が小さく震える。一連のやり取りは客観的に見れば、ナグモの方に非がある筈だ。だが、香織はまるで飼い主の機嫌を伺うペットの様に小さく震えながらナグモに許しを乞う。そんな事をさせている自分がたまらなく嫌で、ナグモは顔を歪めた。

 

「……香織のせいなんかじゃない。すまない、少し頭を冷やしてくる」

 

 頭を下げ続ける香織に居た堪れず、ナグモは逃げる様に部屋から足早に飛び出した。

 

「何をしているんだ、僕は………」

 

 宿屋の外に出て、月の出ている夜の街を歩きながらナグモは沈んだ声を出した。既に時刻は深夜を回っており、憂鬱な顔をしたナグモを見咎める者はいなかった。

 

「香織に苛立ちをぶつけるなんて………これでは低脳な人間そのものだ………」

 

 ふとナグモは試練の鏡像に言われた言葉を思い出してしまう。

 

「違う……違う! 僕は低脳な人間なんかじゃない! じゅーる様は僕を見捨ててなんかいない!」

 

 胸の内に宿った不安を掻き消そうとする様にナグモは叫ぶ。そんな風にみっともなく叫ぶ自分の姿が嫌で、ナグモは更なる自己嫌悪に陥った。

 

「僕は……低脳な人間なんかじゃない………」

 

 本当はナグモも分かっていた。この世界に来てから、自分の心に様々な変化が生じている。香織を好きになった事を始め、魔人族達に激しい憎悪に抱いた事など喜怒哀楽の感情が表面によく出る様になっていた。

 だが、それはじゅーるが当初に設定した姿からはかけ離れたものだ。じゅーるから「こうあれかし」と望まれた姿以外の感情を見せている事に、ナグモは罪悪感を感じていた。それを大迷宮の試練で浮き彫りにされ、人間(プレイヤー)となって生まれたばかりの心は未だかつて無い程に荒れ狂っていたのだ。

 

「じゅーる様………何故、僕を置いて行かれたのですか?」

 

 縋る様に自らの創造主の名前を呼ぶ。だが、返ってくるのは寝静まった夜の街の沈黙だけだ。それがナグモの心に寂寥感を感じさせた。

 

「………帰ろう。香織に謝らないと」

 

 虚しい気持ちのまま、ナグモは宿屋に戻ろうとした時———ふと水が跳ねる様な音がナグモの耳に聞こえた。

 

「………何の音だ?」

 

 普段なら特に気にもせず、聞き流していただろう。しかし、香織に一方的に怒鳴ってしまった手前、宿屋に直帰する事に気が引けていたナグモは音の出所を調べようと足を運んでいた。そうして街の用水路に辿り着き———それを見つけた。

 

「あれは………」

 

 街の水洗い場となる用水路の岸辺に倒れていたのは、小さな人影だった。背丈からして人間の子供くらいだろう。だが、普通の人間とは違う部分があった。エメラルドグリーンの髪から人間の耳の代わりに魚のヒレの様な物が覗いていた。

 

「海人族か……何故こんな所に」

 

 まだナグモがハイリヒ王国にいた時、図書館の本に書かれていた王国で唯一保護を受けている亜人族の姿にナグモは訝しむ様に目を細める。

 

「うぅ……っ」

 

 海人族の子供が呻き声を上げる。よくよく見れば、身体中が傷だらけだった。その傷の付き方はナグモにも見覚えがあった。それは帝国から魔導国へ送られた亜人族達に多く見られたもの———すなわち、奴隷が折檻された時に出来た傷だ。

 

「………」

 

 深夜の時間帯に、明らかに普通でない傷の付けられ方をした海人族の子供。

 どう見ても厄介事のありそうな事情のある子供だ。ここで見なかった事にするのが一番無難な筈だ。

 理性ではそう判断しておきながら———気が付けば、ナグモは倒れた海人族の子供の側に寄っていた。

 

「おい」

 

 ナグモが声を掛けると、海人族の子供の目が弱々しく開けられた。ぼんやりとした目で、その少女はナグモを見た。

 

「お兄、ちゃんは……誰………?」

「……僕の事はどうでもいい。お前は何だ?」

 

 少女の質問を無視して、ナグモは素っ気なく聞いた。すると息も絶え絶えといった様子で、少女は自分の名前を名乗った。

 

「……ミュウは……ミュウという、お名前なの……」




 というわけで、今まで出番の無かったミュウの出番でありんす。次回はレミアさんの事でも書きますかね?
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