ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 今回はあんまり上手く出来た気がしないなあ……ちょっと行き当たりばったり気味で書いた感じです。


第百三十一話「0歳児と四歳児」

「……ミュウは……ミュウという、お名前なの……」

 

 ミュウ、と名乗った海人族の子供をナグモは見つめる。この子供について、具体的にどうしたいという考えがあったわけではない。ナグモからすれば、ただ目に付いたから声を掛けてみたというだけだ。

 

「……お兄さんは、私をぶたないの……?」

 

 無言で観察してくるナグモを最初は怖がりなら反応を伺っていたミュウだが、()()()()()()()()()()自分に暴力を振るってこないナグモを不思議そうに見つめた。

 ………ミュウがどんな目に遭ってきたかは、ボロ布の様な服とミミズ腫れだらけの身体を見れば一目瞭然だ。両足には枷と鎖が付けられており、満足に動けない足で水路を泳いできたのか。

 

「……僕を低脳な人間達と一緒にするな」

 

 ナグモは低い声で小さく呟く。ただでさえ氷雪洞窟の事で心中が穏やかでないというのに、小さな子供にこんな真似をする人間と一瞬でも同じ様に見られたのは、自分が低脳な人間達の同類と思われた様で心がささくれ立った。ナグモは不機嫌な表情のまま、ミュウに背中を向けて立ち去ろうとする。

 

「いや……行かないで……助けてなの……」

 

 弱々しい声でミュウが引き止めようとするが、ナグモは振り向かない。

 今のナグモは冒険者モモン(アインズ)のパーティーメンバーとして、ナザリックの外に出ているのだ。アインズの為に冒険者活動をしつつ、一刻も早く大迷宮に行かなければならない。こんなあからさまに厄介事がありそうな子供に構う暇など無い。

 

「お願い……助けて……」

 

 ナグモはミュウの声を振り払う様に足を早め———。

 

「お家に……ママの所に帰りたい………」

 

 瞬間———ナグモの足が止まった。

 

「ママ………」

 

 もはや意識も朦朧としているのか、先程よりも弱々しい声でうわ言の様に呟く。どういう経緯かは知らないが、四歳の少女が傷だらけの身体で水路を泳いできたのだ。いかに泳ぎが得意な海人族といえど体力を著しく消耗しており、このまま放っておけば衰弱死するだろう。

 今は深夜の時間帯。辺りにナグモ以外に人影は無く、ここでナグモが去れば、ミュウは朝になってようやく死体が発見される事になるだろうか。

 

「………」

 

 ギリっと、ナグモは歯を食い縛る。ナグモは再びミュウの下へ歩み寄った。

 

「あ………」

 

 ミュウは朦朧とした意識のまま、ナグモを見上げる。ナグモは黒傘“シュラーク”を振り上げ————ヒュン、と振り下ろした。

 

 ***

 

 香織はナグモが出て行った部屋で、一人立ち竦んでいた。ナグモが部屋を出たのは時間にして三十分前だが、その間香織は一歩も動かずに待ち続けた。

 

(ナグモくん……まだ帰って来ないのかな。もしかして、私に怒って何処かに行っちゃったとか……)

 

 アインズと任務を遂行しているのに途中で放り出すなど、ナザリックの者ならばあり得ないだろう。しかし、万が一でもそうだったらと考えると、香織は恐怖で震えた。

 

(もしもナグモくんに嫌われたら……ナグモくんが私を捨てると言ったら………!)

 

 今の香織(NPC)にとってナグモ(創造主)から捨てられるのは何をも勝る恐怖だった。だからこそ、香織は飼い主を待つ忠犬の様にその場で待ち続けていたのだ。

 自分の失言で嫌われたかもしれない、と恐怖に震えていた香織だったが、やがて彼女の耳に宿屋の廊下を歩く音が響いた。それが自分の待ち望んだ人物(主人)の足音だと分かると、香織の胸に安堵と喜びが広がる。

 

「ナグモくん! さっきの事は———」

 

 ドアが開けられると同時に、香織はナグモを不愉快にさせた言動について謝ろうとした。しかし、その言葉はナグモが抱えている物を見て途中で掻き消えた。目をパチクリと瞬かせ、香織はナグモに聞いた。

 

「ええと………どうしたの、それ?」

「………拾った」

 

 ナグモは()()()()()()を付けたミュウを抱えたまま、ブスッと答えた。

 

 ***

 

「それで……その子を連れて来た、というわけか……」

「申し訳ありません、アイン———ではなくモモンさ……ん」

 

 翌朝の宿屋の食堂で、アインズは頭を下げるナグモを見ていた。夜の内に傷を癒やし、服は“錬成”で直したのか、すっかりと綺麗になったミュウがナグモの背に隠れながらアインズ達をチラチラと窺っていた。

 

「……子供を助けたの? 貴方が?」

 

 ユエが目を丸くしながら意外そうにナグモとミュウを交互に見る。そんなユエをナグモはムスッとした顔で一瞬だけ睨むが、視界から外す様にアインズだけを真っ直ぐに見ながら再び頭を下げた。

 

「余計な事をしでかした事をお詫び申し上げます」

「ああ、いや……別に謝る様な事でもないとは思うが……」

 

 アインズはとりあえずそう言ったものの、ユエと同じ様に意外な物を見る目でナグモを見ていた。骨しかない顔でなければ、クローズヘルムの中はユエと同じ表情になっていただろう。お陰で夜通しでナグモにどう話すべきか、と考えていた内容も頭から吹き飛んでしまっていた。

 

(NPC達は基本、ナザリック外の人間を虫ケラくらいにしか見てないと思っていたけど……いや、ナグモは最初から人間の頃の香織を好きになっていたから外の人間に対して比較的寛容な方か)

 

「えっと、ミュウちゃんだっけ? ミュウちゃんはどうして、夜中に街にいたのかな?」

 

 香織がミュウを見ながら優しく問い掛ける。しかし、ミュウは香織に対してビクッと震えるとナグモの服をギュッと掴んで隠れてしまった。

 

「う〜ん………恥ずかしがり屋さんなのかな?」

「おい、海人族。モモンさ……んに余計な時間を取らせるな。お前の情報を速やかに———」

「ナグモ」

 

 刺々しい口調でミュウに話させようとするナグモに、ユエは批難する目付きを向ける。ナグモが「何か文句あるか?」という目付きで睨み返しているのを見て、アインズも咳払いした。

 

「まあ………さすがに大人気ないと思うぞ」

「………話してみろ、特別に聞いてやるから」

 

 至高の御方(アインズ)からの諫言に、ナグモは彼なりに口調を柔らかくしてミュウに促した。ナグモを見ながら、ミュウは口を開き———きゅるるる、と可愛くお腹が鳴った。

 

「あー……そういえば、朝食がまだだったか」

「お前っ……どれだけ手間をかけさせ———」

「まあまあ、ナグモくん。モモンさん、ちょっと朝御飯を取って来てますね?」

 

 ナグモの額に青筋が浮かぶ前に、香織が率先して動いた。

 

「……これだから子供は嫌いなんだ」

 

 カウンターへ食事を取りに行った香織の後ろ姿を見ながら、ナグモは盛大に溜め息を吐く。

 

「………駄目なの」

「………あ?」

 

 それまで静かにしていたミュウが、ナグモを見ながらポツリと言った。

 

「溜息を吐くと、幸せが逃げちゃうってママが言っていたの」

「………誰のせいだと思ってる」

 

 不機嫌な表情のまま、ミュウにそう返すナグモを見ながらアインズは思わず呟いてしまう。

 

「子供だな………」

「子供ですね……」

 

 誰が、とは言わない。しかしながら、この瞬間に言葉を交わさずともアインズとユエは意見を一致させた。そうしている内に香織が人数分(ただしアインズは食べられないので四人分)の料理をトレーに載せて運んできた。

 

「とりあえず、食事をしてから話を聞いても遅くならないだろう。君も食べるといい」

「……おじちゃんは一緒にゴハンを食べないの?」

「おじ………私は先に食べてしまったのでな。………そうか、おじちゃんか……そっかぁ………」

 

 幼い少女の何気ない一言がクリティカルヒットしたアインズを尻目に、ユエ達は朝食を食べ始めた。ナグモも不機嫌そうな顔ながら、仕方なくといった様子で食器を手に取る。

 

「はぐ、はぐ………」

「……ゆっくり食べていい。足りなければ、私のも分けてあげるから」

 

 ユエがそう声をかけるが、ミュウは小さな口を一杯にして頬張る様に食べていた。まるで何日も満足に食事をしていなかった様な食い付きぶりだった。そんなミュウを横目に、ナグモは自分の朝食を見る。

 宿屋が提供した朝食は野菜とソーセージの煮込み料理———地球でいう所のポトフに酷似していた。スプーンを押し当てると弾力が伝わるくらい柔らかく煮込まれた具材や、黄金色に透き通ったスープは調理をした者が宿泊客の為に手間暇をかけた事を窺わせる程に美味しそうな見た目だ。

 しかし、ナグモはそれを眉間に皺をよせながら見た。ナザリックで出される最高級の食材で作られる普段の料理より劣るから、あるいは香織が作った料理ではないから———などという理由ではない。

 

「………」

 

 ナグモは無言でポトフからニンジンをスプーンで掬って、次々と別の皿にどかせる。その作業をしばらくやっていたが、ミュウが食事の手を止めて自分の手元を見ている事に気が付いた。

 

「………何だ? まだ食べたいならユエに言えばいいだろ」

「ニンジンさん………残したら駄目なの」

 

 ピシッとナグモの手が止まる。ミュウはマリンブルーの瞳で、じーっとナグモを見つめる。

 

「好き嫌いすると大きくなれない、ってママが言っていたの」

「ふ……ふん、必要な栄養価は別の物で摂っているからお前と違ってそんな心配は無用だ。β-カロテンくらい、タブレット剤で摂れる」

「あのね、ミュウちゃん。ナグモくんはミュウちゃんより身体が大きいから、野菜はあまり食べなくても良いというか………」

「香織……さすがにナグモを甘やかし過ぎだと思う。普段ナグモに作っている食事だって、極力野菜を入れてない様にしてる」

「う……だって、野菜を入れたらあまり食べてくれないし……」

「お前……普段の食生活からそんな感じか」

 

 アインズも思わず呆れた声を出してしまう。今まで冒険者として旅をする中で、食事は依頼主の接待などを除けば食べる必要が無かった為に気を配っていなかったが、ナグモの偏食度合いはさすがに予想外だった。

 

「どうしても身体が受け付けない、というなら無理する必要はないが……野菜はキチンと摂っておいた方が良いぞ。年齢的にもお前はまだ成長期なのだから………それにせっかくの生の食材なのだから、食べないのは勿体無いだろうに」

 

 後半、思わず鈴木悟としての本音が漏れてしまう。鈴木悟のいた時代は環境がほぼ死滅しており、生の食材などアーコロジーに生まれてない鈴木悟からすれば高価過ぎて手が出せない代物だった。

 

「ぐっ……分かりました………」

 

 アインズからも指摘され、とうとうナグモは渋々といった様子で別の皿に移したニンジンに手を付ける。ニンジンをフォークに刺し、しばらく躊躇っていたが意を決した様に口を付けた。

 

「うぐっ……!」

 

 ナグモは一瞬、吐き出しそうな顔になるが、それでもアインズや香織の前でそんな真似は出来ないと思ったのか無理やり飲み込む様にして食べた。

 

「っ……これで文句ないだろ……」

 

 少し涙目になりながら、ナグモはミュウを睨む。そんなナグモの頭をミュウは撫で始めた。

 

「……………おい、何の真似だ」

「ママはちゃんとお野菜を食べたら、いつもミュウにいい子いい子してくれたの! だから、ニンジンさんを食べたお兄ちゃんもいい子いい子なの!」

 

 純粋な笑顔でナグモの頭を撫でるミュウ。身長差がある為、椅子の上に立って背伸びをしながら撫でる姿は大変微笑ましいものだ。ナグモは手を振り払おうとするが、ユエがジト目で見ている事に気付いて嫌そうな顔をしながら黙ってされるがままになっていた。

 

「ナグモくん……後で私もいっぱい撫でてあげるからね!」

「絶っ対にやめろ」

 

 ミュウを羨ましそうに見ながら申し出た香織に、ナグモはきっぱりと断る。

 

「………本当に子供なんだな」

 

 アインズはポツリと呟いた。NPC達が望む支配者像を演じる為、今まで彼等とは『上司と部下』という形でしか接していなかった。もちろん、その形を望んでいたのはNPC達の方だ。彼等の期待に応える為、アインズは自分で考えられる限りの『理想的な支配者』を演じようとしていたのだ。

 

(でも………もっと彼等を知る努力をすべきだったのかもしれない。人間(プレイヤー)になったナグモは当然だけど、NPC達だって一人の生き物なんだ)

 

 ギルドメンバー達が創作時に作った設定で、NPC達の事を理解している気になっていた。しかし、それは間違いだったと眼前のナグモを見ながらアインズはそう思った。




どうでもいい設定ですけど、ナグモは子供舌です。甘いの好き、辛いの駄目で、ニンジンやピーマンは嫌い。コーヒーも砂糖とミルクを引くほどに入れないと飲めないのです。

>ミュウ

要するに……この作品では主人公が0歳児だから、四歳のミュウの方がお姉ちゃんという事になるのです。お陰でロリなのにお姉ちゃん枠というイミフな事態が出来ました。

>香織

おかしいな……自分は香織推しなのに、最近書いていて辛い子になりつつあるぞ? いや、こんな事になったのは私の自業自得だけども(笑)
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