ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 今期のアニメは「七つの魔剣が支配する」がオススメです。久しぶりに正統派の異世界ファンタジーを見た気になれました。ナナオとカティ、そしてピートが可愛い(笑)


第百三十六話「魔導王の演説」

 キャサリン達は短い話し合いの末、魔導国から来たという魔導王に自分達の会議室まで来て貰う事にした。もしも相手が本当に一国の王ならば、むしろ自分達から参じるのが当然の礼儀だろう。しかし、未だに冒険者ギルド相手に王自らが足を運んで来たという事が信じられず、まだ魔導国の使者を騙る偽者ではないか? という疑念もあった為にキャサリン一人ではなくギルド長全員で面会して見極めようと判断された。

 

 会議で散らかったテーブルの書類などを片付け、出来る限り綺麗にした部屋でキャサリン達が待っているとドアがノックされた。

 

「………魔導王陛下をお連れしました」

「———お通ししておくれ」

 

 緊張で固まったドットの声に、キャサリンも息を吐きながら答えた。念の為に全員が起立して待ち構える中、ドットが観音開きのドアを開ける。

 その途端———何の変哲もないドアが玉座の間の扉になった様な錯覚に陥った。

 開け放たれた扉の先にいたのは、豪奢なローブを身に付けた仮面の人物だった。手には七匹の蛇が絡まり合って黄金と化した様な錫杖を握り、カツン、カツンと音を立てながら会議室に入って来る。その様は多くの相手から傅かれなければ得られない気品で満ち溢れており、まさに支配者のオーラと呼ぶべき物をキャサリン達は感じていた。衝撃を受けて呆けた様に黙っていると、仮面の人物は軽く頭を下げた。

 

「まずは急な来訪にも関わらず、応じてくれた事に感謝する」

「……! いえ、此方の方こそ魔導国より遥々御足労頂き、ありがとうございます」

 

 素早く意識を回復させたキャサリンが頭を下げると、ギルド長達も慌てて頭を下げる。彼等の中で最早この人物が偽者ではないか、という意識など無かった。キャサリン達を見て仮面の人物は鷹揚に頷いた。

 

「楽にして貰いたい。今日、私は君達を平伏させる為にここに来たわけではない」

「ドット、魔導王———陛下に椅子を。それと最高級の茶葉を用意をしておくれ」

「は、はいっ!」

「ああ、待って欲しい。椅子はともかく、茶菓子の類いは不要だ」

 

 キャサリンの指示に動こうとするドットを仮面の人物はやんわりと止めた。

 

「そもそも———この様に飲食が出来ない身なのでな」

 

 ゆっくりと仮面に手をかけ、そこから骨だけの顔———アンデッドの素顔が顕になった。

 

「ア……アンデッド!?」

「お止めっ!!」

 

 冒険者経験のあるギルド長達の何人かが護身用の武器を抜き掛けたのをキャサリンは制した。

 

「申し訳ない。彼等は陛下の素顔に驚いただけなので、どうかお許し頂きたい」

「構わないさ。君達にとって、アンデッドは本来なら退治するべき魔物だろう。だが、これで私が本物の魔導王だと理解できたのではないかね? 私の様に人語を話すアンデッドなど他にいないだろう」

 

 謝罪の為に深々と頭を下げるキャサリンに対して、アインズは然程気にしてない様に応じた。ここに至って、キャサリン達はようやく目の前の人物が噂の魔導王そのものだと確信した。

 

(アンカジ公国の調査結果は聞いた時は眉唾だと思ったけど、本当にアンデッドだったとはね……それにしても噂を聞くのと実際に目にするのとでは全然違う)

 

 アンデッドとはいえ一国の王であるというのにキャサリン達に丁寧な対応を崩さない魔導王の姿を目の当たりにして、聖教教会が如何に悪質なデマを流しているか垣間見えた気がした。

 その後、ドットが持って来た椅子に腰掛けて貰い、魔導王からも着席の許可をもらってキャサリン達は会議のテーブルを囲んだ。

 

「改めて自己紹介しよう。私はアインズ・ウール・ゴウン魔導国の国王、アインズ・ウール・ゴウン。モモンからの言伝により、此度は冒険者ギルドの交渉に来た」

「魔導王陛下、失礼ながらお聞かせ願います。確かに我々はモモン殿に魔導国と話し合いの場を設けて欲しいと依頼しましたが、その……いくら何でも早過ぎるのでは? モモン殿が早馬を飛ばしてくれたのでしょうか?」

 

 そうは言ったものの、イルワ自身が自分の考えに納得がいってない様だ。今いる都市から魔導国の距離を考えると早馬でも数日で連絡がいくとは思えないし、第一、そのモモンが数日前に隊商の護衛に出たばかりだ。訝しむイルワに対して頷くと、魔導王はローブの中に手を入れると一つの装置を取り出した。

 それはイルワ達が見た事のない装置だった。箱にラッパの様な形の筒が取り付けられ、横から管が伸びてコップの様な筒と繋がっていた。どう見ても懐に仕舞える大きさではないのだが、そんな事よりも珍奇な物体にイルワ達の意識は持って行かれた。

 

「ええと、それは何でしょうか?」

「電話機……いや、この場合は念話機か? とにかく、これは我が魔導国で開発された遠くにいる人間と話せるマジックアイテムだ」

「そ……そんな事が可能なのですか!?」

「嘘だと思うなら試してみるといい。装置をもう一つ持って来ているから、隣の部屋にでも行って声が届くか実験すれば分かる筈だ」

 

 そう言って魔導王がもう一つの念話機を取り出す。それをイルワ達はおっかなびっくりで触りながら、使い方を魔導王から説明された。試しに一つを離れた部屋に持って行き、言われた通りに使ってみると別室にいる者の声が装置から響いた。

 

「す、すごい……! こんなマジックアイテム、見た事が無い!」

「私の国の技術研究所は優秀でな。最近、()()()()()の生態を調べてこれを作ったそうだ。以前、魔導国で仕事をして貰った時にモモンにも簡易的だが似た様な品を持たせていて、それで私の下へ連絡が来たのだよ」

 

 なんとも信じられない話だが、実物を見せられたら納得するしかなかった。こんな物が流通した暁にはトータスの情報伝達手段は根本からひっくり返るだろう。イルワ達は今まで不確かな噂でしか聞いた事の無い魔導国の凄さを実感できた様な気がしていた。

 

「そしてモモンから連絡を貰った私は転移魔法で君達の所へ伺った、というわけだ」

「て、転移魔法……? そんな魔法、神話でしか聞いた事が……」

「いや………きっと、()()()()なら可能な事だろうね」

 

 言葉を失うイルワに対してキャサリンは畏敬を含みながら呟いた。アンカジでの戦争において、魔導国の軍勢が空間を飛び越えたかの様に突然現れた話はキャサリンも聞き及んでいた。最初に聞いた時はさすがに有り得ないと信じられなかったものの、実際に魔導王を目にしたら「この相手なら不可能な事など無いんじゃないか?」と思わせられていた。

 

(モモン殿……あんた、本当に何者だい? こんな神様みたいな相手にどうやってコネを持ったのさ……)

 

 魔導国と渡りをつけて欲しいと願い出たのは自分達だが、交渉に来たのがまさかの国家元首。それも神話の登場人物みたいな相手と知り、キャサリンは半ば思考放棄して半笑いになるしかなかった。だが、いつまでもそうしてはいられない。気を引き締め直して魔導王と向き直った。

 

「まさか魔導王陛下ご自身にお越し頂けるとは思ってもおりませんでした……しかし、陛下お一人でしょうか? お付きの方は一体どちらに?」

「いや、この場では私が一人で来た。今回は軍勢を引き連れて君達を威圧するのが目的ではない。何より、君達もこの会合は秘密裏に行いたいだろう? それならば私一人の方が身軽で良い」

 

 キャサリン達は息を呑む。最近の扱いが悪いとはいえ、冒険者ギルドはまだ王国に籍を置いている組織だ。国の騎士団の様に王国へ忠誠を誓っているわけではないが、冒険者ギルドが魔導国と関係を持とうとしているなど聖教教会の言いなりである王国からすれば潰しにかかる格好の口実を与える事になるだろう。下手をすれば、キャサリン達が異端審問にかけられるかもしれない。だからこそ、魔導国と接触するにしても秘密裏に行うつもりでいた。

 

(そこまで見抜いて……! そうか、だから敢えて使者を出す様な目立つ真似はしないで魔導王陛下自らが来たんだね……! これは……本気で油断出来ない相手だよ)

 

 事前に日取りを決めて面会の予定を立てていたら、何処からか情報が漏れてキャサリン達は聖教教会に捕縛される可能性がある。だから魔導王は事を早急かつ隠密に進める為に転移魔法で単独で来たのだろう。大胆でありながら先を見据えていた魔導王の行動にキャサリンは並々ならぬ叡智の持ち主だと脳内の評価に書き加えた。

 

「さて、あまり長居をするのも時間の無駄だから本題に入るとしよう。モモンから大体の経緯は聞いているが、魔導国に冒険者の仕事があるかという話だったな?」

 

 魔導王の一言にキャサリン達は一斉に顔が引き締まる。冒険者ギルドの幹部達の視線が集まる中、魔導王は深みのある声を響かせた。

 

「結論から言おう———需要は無い」

「………理由をお聞きしても?」

「今の冒険者達の活動はほとんどが魔物の退治屋。魔物を倒すだけなら、既に問題ない兵力を私は既に持っている」

「し……しかし、お言葉ですが魔導王陛下! 冒険者達の活動には魔物の退治以外にも、辺鄙な土地にしか生えない薬草などの採取や魔石を始めとした魔物の素材の回収も含まれており———」

「それも必要ない。最近、技術研究所で薬草や家畜化魔物の品種改良に成功したと報告がある。薬草の類いにせよ魔石の類いにせよ、我が魔導国で流通させるには十分な量を量産できる」

「ま……魔物を家畜にしているのですか!?」

 

 イルワが食い下がろうとしたが、魔導王から齎された情報に驚きの声を上げた。聞いただけでは信じられない様な話だが、それが可能に思える様な技術力を既に見せられてしまった。

 

「では魔導王陛下は………魔導国には冒険者ギルドは必要無いという事を言う為だけに、わざわざお越しになられたと?」

 

 ギュッと膝の上で拳を握り締めながら、キャサリンは魔導王に聞いた。

 

「その通り。残念だが、君達は魔導国では必要とされない………今のままでは」

 

 含みのある言い方にキャサリン達の視線が魔導王に集まる。

 

「まず最初に、冒険者とは何なのかを聞かせて貰おう。先程に金髪の彼———」

 

 チラッと魔導王はイルワを見た。

 

「彼が言っていたが、魔物退治や素材の収集が主な仕事か?」

「その通りです、魔導王陛下。我ら冒険者ギルドは人々を魔物の脅威から守る事を理念としております」

「なるほど………しかし、ならば疑問だな。人々を守るというなら、無報酬でも率先して行うべきだろう。なのにお前達は魔物を倒すのに金銭を要求しているな」

「それは………やはり、ギルドを運営する上で無償奉仕というのは行えませんから。冒険者達にも身体を張って貰う以上……いえ、身体を張って貰うからこそ適正な報酬を用意しなくてはなりませんから」

 

 そしてそれが出来なくなったからこそ、今の苦境に陥っているのだ。資金が足りなくなり、依頼が達成されても冒険者達には以前よりも安い報酬しか用意できなくなった。今は各ギルドで昔馴染みの冒険者達が好意で頑張ってくれているものの、人の好意を前提にして回している組織など遠からぬ内に立ち行かなくなるとキャサリンは考えていた。

 

「だからこそ、我々は魔導国に新たな支援者となって頂きたいのです。残念ながら王国では我々は必要とされなくなった様ですから………」

「ふむ、当然だな。給料無しの労働などあってはならない……うん。いや、本来はそうなんだけどな………」

 

 魔導王が小声で何かを呟いていたが、キャサリンが聞き直すより先に咳払いの音に消された。

 

「だからこその魔物退治や素材収集で金銭を稼がなくてはならないか。しかし、これではただの便利屋ではないか。王国では需要が無くなったから余所の国に退治できる魔物を求めて東奔西走しなくてはならない………私は冒険者はもっと別の仕事を行うべきだと思っている」

「別の仕事、ですか………?」

 

 キャサリン達の視線が集まる中———魔導王はそれを宣言した。

 

「私が冒険者に求めるのは、未知を見つけ出し、世界を狭めて欲しいという事だ。例えば南方の地、シュネー雪原にはどんな地形や魔物がいるか知っているか?」

「いえ、あの地は魔人国ガーランドがすぐ近くにあるので冒険者達を派遣した事はありません」

「ではその逆、北方はどうだ? 険しい山脈が連なる土地があるが、そこの植生や魔物の生息に詳しいか?」

「いえ、詳しい情報はありません」

「ならば、いま我々がいる大陸の外に別の大陸があるそうだが、そこがどんな場所でどんな種族が暮らしているか。答えられる者はいるか」

「それは………申し訳ありません。別の大陸がある事自体、いま初めて知りました」

「なんとも情けない知識だとは思わないか? いや、冒険者の仕事を考えるならそれで当然か。人々を守る為の組織なのだから、人のいない所の知識など不要というわけだ。そこに万病を癒やす薬草があるのかもしれないのにな」

 

 魔導王の皮肉にギルド長達の反応は様々だった。視線を逸らす者、ムッとした表情になりながらも口を閉ざすしかない者………それらを見据え、魔導王は更に言葉を続けた。

 

「私は魔導国において冒険者達にはそういった空白を埋める存在にしたいと思っている。我が魔導国において、ただの魔物退治や既存の素材を採取するだけの冒険者など不要。そんな物は我が配下だけで事足りる。何より、民の暮らしの安寧を守るのは王として当然の仕事だ」

 

 ギュッとキャサリン達は唇を噛み締めた。冒険者ギルドは国から見捨てられた存在である故に、魔導王の宣言は他国の王だとしても眩しく感じた。

 

「だからこそ、魔導国の支配が及ばない土地に未知の領域にどんな存在がいるか。その者は敵となるか、はたまた味方となるか……それを私に知らせてくれる目となる者が欲しいのだ。恥ずかしながら私の部下達は忠誠心は高いが、未知の相手と友好関係を築くのが下手な者が多いのでな」

 

 フッと魔導王は笑う。もっとも骸骨の顔は変わらない。魔導王なりの冗談なのか判断がつかず、どんな表情をすれば良いか分からないキャサリンは代わりに質問する事にした。

 

「その……魔導王陛下のお話は分かりましたが、それならば通常の依頼をして頂ければ良いのではないですか?」

「それは確かにな。だが、未知を発見してそれが異なる文化圏との衝突になった場合、君達で対処できるか? 魔導国に一切の損失を出さないで問題を解決すると約束できるか?」

「それは………」

 

 キャサリン達は口を閉ざすしかなかった。王国がまだ正常だった時なら、冒険者ギルドとして打つ手が無くなれば国を頼る事も出来た。しかし、今となっては国に見捨てられたも同然なのだ。そんな保証をキャサリン達だけで出来る筈もない。

 

「そう。仮にそういった問題が出たとしたら、私が魔導国の王として対処する必要がある。故に———冒険者ギルドには私の傘下に入って貰いたい」

「何を———!?」

「当然の話だろう。代わりに冒険者ギルドには金銭面のバックアップはもちろん、必要な装備は魔導国製の物を貸し出す様にしよう。それと、そうだな………冒険者の訓練所を作ろうと思う。魔物との戦闘に実戦形式で慣れて貰うダンジョンの様な物も作る予定だ」

 

 魔導王の提案にギルド長達は唾を飲み込んだ。金銭面のバックアップはもちろん、装備の貸し出しや訓練所の設営をギルドからしてもありがたい申し出だった。

 新たに冒険者を始めようとする者は、大抵は一攫千金を夢見てギルドの扉を叩いてくる。しかし、そこで最初に自分で装備一式を揃えなくてはならないという現実的な壁にぶつかるのだ。それを軽視して魔物狩りに行く者もいるが、そういう者の大半は生きて帰らない。こういった問題がある為に冒険者になるには初期投資がある程度出来る者———金銭的に余裕がある者に限られ、気軽に新米が入れない空気を出してしまっていた。

 それを解決する為の訓練所を作ろうとした事もあったが、訓練に丁度良い弱い魔物が常に出現する様な都合の良い場所など無い事などを理由に実現出来ずにいた。唯一、その条件を満たしていたのがオルクス大迷宮だったものの、大厄災で閉鎖してから新たに冒険者となった者は数える程しかいなくなっていた。

 それら全てを魔導国が支援してくれるというのは、冒険者ギルドが他国の傘下に入る事に対する反対意見を呑み込んでしまうくらいには魅力的な条件だった。

 

「非常に魅力あふれる提案です、魔導王陛下」

 

 キャサリンが静かに頷く。

 

「ですが………一つ、質問をさせて下さい。未知を知るというのは魔導国が侵攻を行う時の一助となるのでしょうか?」

「それは難しい質問だな。絶対に無いとは言い切れない。未知の場所にいる者が侵攻計画を練っていた場合、こちらが先手を打って攻撃する必要もあるだろう。場合によっては力を見せつける事を前提にした侵攻をするかもしれない。だが、これだけは約束しよう。私は冒険者達に直接戦争に参加させる真似はしない。何故なら単純に力を見せつけるだけなら問題ない兵力を私は持っている」

 

 それは正しいだろう。長く人間族にとって恐怖の象徴でもあった魔人族達を倒した魔導国は、今やトータスで最強の国家と言っても良い。だからこそ冒険者を戦争に使用しないという魔導王の言葉には信憑性が感じられた。

 

「私は厭わしい………君達がただの退治屋である事が」

 

 魔導王は立ち上がり、グッと拳を握る。生者への憎しみを思わせるアンデッドの眼光………だが、キャサリン達には大きな理想に燃える熱い瞳に見えていた。

 

「私は嘆かわしい。そんな君達が冒険者を名乗っている事に。故に———私は望んでいる。君達が真の冒険者となる事を!!」

 

 ***

 

「なんてこったい………」

 

 魔導王が去り、未だに誰も席を立たない会議室でキャサリンは長い溜息を吐いた。魔導王の要求に対して、返事はまだこの場で決められないと保留したキャサリン達は魔導王は構わないと鷹揚に頷いた。王たる者の余裕、そして気高い理想………キャサリンは真の意味で王と呼ばれる存在を間近で見た気がして、力が抜けていた。

 

「かの魔導王陛下が只者じゃない事くらいは予想できたけど……まさかあそこまで人を魅了する術にも長けた王だったとはね」

 

 キャサリンの発言に反論は上がらない。それどころかギルド長達は遠く憧れていた光景を目にした様に放心した表情を見せていた。

 

「キャサリン先生、魔導王陛下の話が本当なら………冒険者にとってこれ程ありがてえ話は無えと思います」

 

 ようやくポツリとギルド長の一人が呟いた。

 

「エイモス……そういやあんたは元冒険者だったね」

「へぇ、まあ………知っての通りですけど、後進の冒険者育成ってもんは金は掛かるし、すぐに結果は出ねえもんだから中々難しい話でして」

 

 エイモスは顔の古傷をポリポリと掻く。そもそも彼は自分のギルドに所属する冒険者達———かつての仲間や後輩達を見捨てられず、駆け出しの頃の苦労を知っているが故に新しく冒険者になる者にも手厚く支援するから平時でも資金繰りに苦労しているくらいなのだ。

 

「でも魔導国が………魔導王陛下が冒険者達をバックアップしてくれるって言うなら、一人の元冒険者から言わせて貰うと本気でありがてえです」

 

 エイモス以外にも元冒険者だったギルド長の何人かは同意する様に頷く。そうでない者からしても、今の資金が全く足りてない冒険者ギルドからすれば魔導王の申し出は魅力的だった。

 

 何より———彼等は魔導王の語った理想に心を奪われていた。

 

 あの山の向こうに何が見えるか———。

 冒険の先に何が見つかるか———。

 

 それは全ての男達が、かつて少年の時に思いを馳せた夢では無かったか。

 今の地位を築き上げる前。金や名誉などまだ知らず、故郷の村で外の世界を夢見ていた少年の時に思い描いていた夢。それを見せられた気がして、男達はそんなかつての憧憬(ユメ)を見せてくれた魔導王に少年のような純粋な憧れを抱いていた。

 

(いや本当に………なんてこったよ)

 

 教え子であるギルド長達をこの短時間で心酔させられた事に、キャサリンは内心で苦笑した。これが計算ずくでやられた事なら、もはやお手上げだとキャサリンは白旗を上げたい気分だった。

 

「まあ、魔導王の申し出がギルドにとってありがたい事は確かだね………とはいえ、まだ結論を決めるのは早計だよ。その点も含めて、もう少し話し合いをするとしようか」

 

 今日で終了する筈だったギルド長会議の延長を告げられたが、誰も不満の声を上げる者はいない。この議題は早く終わりそうだ、と考えながらキャサリンは議論を推し進めた。

 

 ***

 

 キャサリン達がいる街から離れた街道———そこで数台の馬車で組まれた隊商がいた。

 

「や、野盗だ! 野盗が出たぞっ!」

 

 馬車の中の若い商人は遠くに見える馬に乗った一団に大声を上げた。全員が人相悪く、略奪や暴力に快楽を見出した表情で隊商に向かって来ていた。しかし、彼を安心させる様に中年の商人は微笑んだ。

 

「なぁに、心配はない! こっちには“漆黒のモモン”がいるんだ。モモンさん、お願いします!」

「フッ………任せたまえ」

 

 馬車の中に控えていた漆黒の鎧を着た人物が余裕を感じさせる声を上げる。

 

「この私………そう! “漆黒のモモン”の手にかかれば、君達の安全は約束されたも同然! 安心して見ていたまえ!」

 

 おおっ! と商人達から感嘆の声が上がる。鎧の人物は歌劇団の役者さながらの動きで馬車の外に躍り出た。

 

「さぁ、行こう我が仲間達よ! 悪を蹴散らして、正義を示すのだ!」

「えっと………は、はい!」

「……………ん」

 

 まさしく歌う様な宣言に香織は戸惑いながら、ユエは辟易した様子を見せながらも鎧の人物の後を追って野盗達へ向かっていく。

 

「お兄ちゃん。鎧のおじちゃん、なんか今日は変なの」

「……………知らん」

 

 馬車の護衛の為に残ったナグモは、頭を傾げるミュウに素っ気なく返答するだけに留めた。

 

(お前………本気で演じる気があるのか?)

 

 鎧の人物———パンドラズ・アクターの演技ぶりに、ナグモは口元がひくつくのを精一杯我慢していた。




 魔導王陛下が冒険者ギルドにプレゼンしてる間、モモンの護衛任務はどうしてたの? というとパンちゃんが代わってくれてました。次回あたり、パンちゃんと未来のお義母さんの対談とかやろうかな。

>念話機

 見た目はレトロな壁掛け電話機。シアやミキュルニラの様に耳の位置が人間とは異なる種族の事を考えてこの形がベストになったらしい。ナザリック技術研究所が“真の神の使徒”を解剖した時に、高周波で連絡を取り合っている能力を再現してミキュルニラが作成した。新技術の軍事転用を真っ先に思い付くのがナグモであり、平和利用が先に思い付くのがミキュルニラである。
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