ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 pixivでAIイラストを投稿する様になってから、執筆に費やす時間が少し減ったかも。とりあえずエタらせる気は無いので、気長に付き合って下され。


第百四十一話「深淵から運命は交叉する」

 シスター・べレアの修道院は街から歩いて三十分くらい離れた丘にあった。世俗を離れて禁欲生活を送る為にそんな辺鄙な場所に建てられたそうだ。トータスの技術は中世レベルである為に街へと繋がる道もロクに舗装されてない山道だが、“神の使徒”として一般人より高いステータスを持つ浩介には苦にならなかった。街はそれなりに栄えた地方都市といった風情で、ここに来るとシスター・べレアの修道院がいかに外界と切り離されているか嫌でも思い知ってしまう。

 

 賑やかな大通りを抜け、浩介は裏路地へと入っていく。少し歩けば辺りの雰囲気はすっかりと変わり、通行人もいかにも堅気ではない人間が増えていた。本来、こんな場所を十代の少年が歩いているのはある意味目立ってしまうのだが、誰も浩介を気に留めなかった。彼は元々の気配の薄さ、そして“暗殺者”の天職で身に付いた特殊な歩法で周囲の人間の意識から外れた移動をも可能にしていた。そうして周りから()()()浩介はとある建物の前で足を止めた。そこは路地裏にある薄汚れた看板を下げた酒場で、浩介は何となく地球にあった場末のスナックを連想していた。地球にいた頃なら絶対に入らなかった場所だが、浩介は深呼吸一つすると酒場のドアを開けた。

 

「……てめえか」

 

 気配遮断を解除しながら入ると、外見通りの薄汚れた店内が浩介を迎えた。カウンターバーにいるのは厳つい筋肉をした人相の悪い男で、入って来た浩介に愛想もなくフンと鼻を鳴らした。

 

「どうもっす、バラダックさん」

「てめえ宛に依頼が来てる。さっさと選びな。仲介手数料はいつも通り引いとくからな」

 

 バサッと投げ出す様な乱暴さで紙束がカウンターに広げられる。

 紙に書かれているのは仕事の依頼内容だ。ただし、その内容は普通の冒険者ギルドでは扱われない様な物だ。

 強盗の逃走経路の確認、脱獄の手伝い。そして―――殺人の依頼などなど。

 どれもが明らかに法に触れる物であり、明るみになれば依頼をした者も依頼を受けた者も等しく犯罪者として裁かれるだろう。

 その中で浩介は―――1枚の依頼書を手に取った。

 

「………これにします」

「あいよ、期限は三日後までだ。さっさとやれよ」

 

 浩介は出来る限り表情に出さずに頷いた。しかし、浩介が手にした依頼書を見たバーのマスターは気に入らなさそうに舌打ちした。

 

「またつまらない依頼を受けやがって……なあ、いつになったら殺しとかを受ける様になるんだ?」

「………どんな依頼を受けるかは俺の自由じゃないですか? それに仕事は確実にこなしているんです。バラダックさんの顔もそれで立つでしょう?」

「チッ、ガキが……一丁前に口を利きやがって。俺が言いたいのはな、何の為の“暗殺者”の天職だって聞いているんだよ」

 

 バラダックが仲介している違法な仕事は、時には依頼を受けた者が逮捕される事もある。無論、そうなった場合にバラダックや依頼主に捜査の手が及ばない様に保安署に賄賂を贈ったりしているものの、それでも依頼主からすればドジを踏む様な者に仕事を任せたいとは思わない。その点、浩介は仕事を優秀にこなすのでバラダックも強くは出られなかった。しかしながら、“暗殺者”の天職を活かさない仕事ばかりしている浩介に不満がある様だった。

 

「金が入り用なんだろ? だったら殺しの依頼を受ければ、今の倍以上は稼げるぜ。それをせっかく戦闘系の天職を持って生まれたというのに、逃走経路の下見だの、麻薬(ヤク)の運び屋の護衛だのとシケた依頼ばっか受けやがって……」

「ハハハ……あまり危ない橋は渡りたくないですから。それじゃ、仕事をこなしてきます」

 

 バラダックのグチに浩介は愛想笑いを浮かべながら、薄汚れたバーを出た。扉が背後でバタンと閉まり―――拳を強く握りしめた。

 

「………好きで持ったんじゃねえよ、こんな天職(チカラ)

 

 歯を食い縛りながら呟いた言葉は、風の中に消えていった。

 

 ***

 

 少し前までは浩介も真っ当な冒険者をやっていた。しかし、とうとうホルアドの冒険者ギルドが閉鎖したのを切っ掛けに浩介の異世界生活は転落していった。

 ホルアドのギルド長のロアはもう浩介に仕事を紹介できない事を謝りながらも、他の支部への紹介状を書いてくれてはいた。しかし、そこでもまた冒険者ギルドは潰れ、さらには別のギルドに行っても浩介が“元・神の使徒”だと分かると露骨に嫌な顔をするギルド長まで出始めたのだ。彼等にとって自分達の仕事を奪った“神の使徒”達はもはや疫病神であり、そんな連中の仲間であった浩介に仕事を回さなくなったのだ。もっとも、そもそも冒険者ギルドには紹介できるクエスト自体が激減していたのだが。

 

 そうして安定した収入が得られなくなった浩介は冒険者に限らず日雇いの仕事を転々とするしかなかった。王都に帰ろうと思った時もあったが、伝え聞く元・クラスメイト達の醜聞に“あんな連中と一緒の扱いにされるのは御免だ”と戻る事を拒否していた。冒険者ギルドを通して手紙のやり取りをしていた愛子とも連絡が途絶えてしまい、浩介は異世界の地で当てもなく放浪するしかなくなったのだ。

 

「何をやっているんだろうな………」

 

 その日の違法クエストを終え、報酬を受け取った浩介は暗い表情で街の広場に座り込んでいた。今回のクエストはとある組織が新たに作った建物の逃走経路に問題がないか調べるという内容だ。懐にはまあまあの重さの金貨の袋が入っているが、それを素直に喜べなかった。

 

「異世界に来て、金欲しさに闇バイトか………はは、俺も堕ちたよな」

 

 自嘲する様に呟くが、内心では情けなさと悲しみで泣きそうになるのを堪えていた。

 ノイントを拾い、シスター・べレアの修道院にお世話になってから、浩介はそれまで以上の収入が見込める日雇い仕事を求める様になっていた。修道院は浩介の目から見ても本当に余裕が無かった。自分一人だけなら今まで通り日雇いの仕事で何とか食い繋げるが、寝込んでいるノイントの為に宿を提供してくれるべレアやお腹を空かせた子供達の為に大金が必要となったのだ。

 そうして浩介はとうとうギルドからドロップアウトした冒険者達と同じ様に、違法なクエストを金目当てに始めていた。裏仕事の仲介人からは天職が“暗殺者”だった事から、浩介が()()()()()()をしてくれるものと期待されてすぐに仕事にありつけていた。ただし、浩介は誰かを傷付ける様な仕事だけはやらなかった。そこまでやってしまうと、自分の中で何かが壊れてしまうと本能的に悟っていたからだ。お陰で手勢に“暗殺者”の天職がいると宣伝したいバラダックからは面白くない顔をされているが、浩介なりに最後の一線を守っていた。

 

「父さん……母さん……」

 

 ただし、最後の一線を越えてないというだけで浩介の内心はかなりボロボロだった。地球にいる両親や家族達を思い出す度に、自分が生活の為とはいえ犯罪行為に手を染めていると知ったらどんな表情をするだろうと思うと暗い気持ちになった。

 

「………帰らねえと。べレアさん達が、それにノイントさんも待っているんだ」

 

 それだけがよすがである様に浩介は自分に言い聞かせながら、浩介は立ち上がろうとした。

 

「―――だから、結構だと申し上げております」

「ああ? なあ、姉ちゃん。こっちは善意で提案してやっているんだぜ?」

 

 ふと通りで何やら騒ぎが起きている事に浩介は気が付いた。何となく気になって近付いてみると、着物姿の女性にガラの悪いチンピラの様な男が言い寄っていた。

 

「ここら辺は最近治安が悪いと聞くからよぉ、ボディガードをしてやるぜ? 女の一人歩きは危ないからなぁ?」

「不要です。あなたの様な方に守って欲しいなど微塵も思いませんので」

 

 着物姿の女性が迷惑そうに断っているにも関わらず、チンピラの男は一向に諦めようとしない。それだけに着物姿の女性はそこらの女性より上玉であり、何としても手に入れたいと思ったのかそれまで猫撫で声を出していた男は目つきを鋭くした。

 

「……おい、アマ。あんまり調子に乗るんじゃねえぞ? 俺のバックに誰がいるか分かってんのか? フリートホーフの名前ぐらい知ってるよなぁ?」

 

 フリートホーフと聞いて盗み聞きしていた浩介も思わず身を固くする。最近、王国で幅を利かせ始めた何かと黒い噂の絶えない商会の名は浩介でも知っていた。何より―――彼らから何度か仕事を受けていた。

 

「あんまり怒らせねえ方がいいぞ? 俺のバックは荒っぽい連中が多いからよぉ?」

「………私を脅す気ですか?」

「だからよぉ、ちょ~っと俺に付き合うだけでいいんだって。でなけりゃ………そっちの店に恐いお兄さん方が行っちまうかもなぁ?」

 

 軽蔑しきった目で睨む着物の女性だが、チンピラの男は尊大な態度を崩そうとしない。それだけ自分のバックにいるフリートホーフの権力を信じている様だった。まさに虎の威を借りる狐の様にチンピラの男は着物の女性に脅迫まがいの手口で言い寄っていた。

 

(お、おい……これヤバいんじゃないか? 誰か……保安員とかいねえのか?)

 

 ただならぬ様子を察して浩介は思わず辺りを見回す。だが、周りの人間もフリートホーフと関わり合いになることを恐れる様にサッと目を逸らしていた。

 

(おい、いねえのかよ誰か! いや………)

 

 お前(自分)が行けよ。

 

 それは浩介の心の中から聞こえてきた。しかし、浩介は二の足を踏んでいた。男のバックにフリートホーフがいると聞いて恐いのは浩介だって同じだ。何より裏仕事をしている浩介からすれば、今後仕事を回して貰えなくなる可能性だってある。

 

(出来ねえ……出来ねえよ! でも………!)

 

 それでも浩介の良心は目の前の事態を見過ごす事を良しとはしなかった。自問自答する様にその場で葛藤する。

 

(どうしたらいい? 俺はどうすればいい?)

(決まっている。あの女の人を助ければいい)

(でも、もしもフリートホーフの人間に手を出したとバレたら……!)

(それならばバレなければいい。闇夜の狩人の様に一瞬で済ませてしまえば、誰の目にも留まらない)

(そんなの無理だ……俺にそんな事は……)

(いいや、出来る。遠藤浩介には出来なくても―――)

 

(この俺……深淵(アビスゲート)卿ならばっ!!)

 

 瞬間、浩介の身体は動いた。

 冒険者で鍛えられた身体能力、裏稼業で鍛えられた“暗殺者”の技能(スキル)、そして生来の気配(カゲ)の薄さ。

 三位一体となった能力は浩介の脳機能まで変化させ、別人格とも呼べる認識さえも作り出していた。

 

「へへ、可愛がってやるからよ、がっ!?」

 

 

 着物の女性の胸元に汚い手で触ろうとしたチンピラの男に一陣の風が吹く。漆黒の風となった浩介はチンピラの男に一瞬で詰め寄ると顎を強打して脳震盪を起こさせた。それはまさしく目にも止まらぬ速さで行われており、男は意識を失う最後まで浩介の姿を認識すら出来なかっただろう。

 突然の突風に思わず目をつぶってしまった着物の女性だが、次に目を開けた時はさっきまでしつこく言い寄っていた男が意識を失って倒れている姿を目にしていた。

 

「何が……?」

 

 驚いた様に辺りを見回すものの、遠巻きに見ていた通行人達も()()倒れた男を見てざわざわと困惑するだけだった。

 

 ***

 

 一瞬の内でチンピラの男の意識を刈り取った浩介はそのまま路地裏に姿を隠した。影の様にスルリと入り込み、建物の隙間が作り出した暗がりに溶け込む様はまさに闇より出でし深淵(アビスゲート)卿。

 

「フッ……闇に抱かれて眠るがいい、不埒なりしケダモノよ」

 

 深淵卿の意識のまま、浩介は一仕事を終えた余韻に浸っていた。そして深呼吸する様に深淵卿の意識をカットしようして―――。

 

「―――失礼。少しよろしいでしょうか?」

 

 誰の目に見つからずに入った筈の路地裏。そこで声を掛けられて浩介は飛び上がらんばかりに驚きながら振り向く。

 そこには大柄で白髪と髭を生やした男―――執事という言葉が似合いそうな老紳士が浩介のすぐ背後に立っていた。

 

「先ほど、私の従業員を救ってくれたのは貴方でしょうか?」

 

 ナザリックの執事セバス・チャンは、元・神の使徒だった“暗殺者”の少年に声を掛けた。




>浩介の裏稼業

 一応、彼の名誉の為に入っておくと傷害や殺人などは犯していません。しかし、やっている事は闇バイトそのものなので地球の一般人だった浩介の良心は悲鳴を上げていってます。

>深淵卿

 アフターを読んでないから、ぶっちゃけ他作品のSSでしか知らないのだけど……この作品の場合、ウソップが勇気を出す時にそげキングに変身するとかそういう感じのアレです。

>ナザリックの執事さん

 我らのナザリックの良心回路さん、深淵卿と出会う。まあ、ア・リトルはマシな関わり方かな……。
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