ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 やはりお気に入りの作者の更新こそが、執筆の一番の原動力になる。「やべえ、俺も書かなくては!」とケツを叩かれる気になるので。


第百四十二話「執事はこうして深淵に出会った」

 遡る事、数日――セバスは仕事を終えて拠点としている借家の邸宅に帰宅した。借家はそれなりの広さの屋敷といった風情で、家賃自体もかなり高めだ。しかし、セバスは“チャン・クラルス商会”のオーナーという建前で人間の街に潜入している以上は、それなりの住居に住む必要があった。仮にも商会のオーナーが出費を渋って安い住居に住んでいるなど、周りの人間から侮られたり不信感を抱かれたりするだろう。

 

「お帰りなさいませ、旦那様」

 

 帰宅したセバスをティオが出迎える。いつもは『セバスの妻』としてティオと、竜人族の里から派遣されたティオの侍女達が出迎えるのだがこの日は少しだけ異なった。

 

「お……お帰りなさいませ、セバス様」

 

 ティオの後ろに控えた海人族の女性――レミアがティオと共にセバスを出迎えた。ナザリック製のスクロールのお陰で傷はすっかりと癒え、娼館で受けた暴行のトラウマからかまだ他人に対してオドオドとした態度があるものの、今ではセバスに助けて貰った恩から屋敷での家事や清掃などの手伝いをしたいと願い出るまでに回復していた。もっとも、レミアがセバスの下で働き出したのはそれだけが理由ではなく――。

 

「セバス様、ミュウは……娘の事について何かお聞きしていませんか?」

 

 メイド服に身を包んだレミアが縋る様に聞いてくる。しかし、セバスは静かに首を横に振った。

 

「いえ、残念ながら特には」

「そう、ですか……」

 

 消沈した様に俯くレミアに、セバスもまた心を傷める様に目を閉じた。

 レミアの傷が癒えた当初、セバス達はレミアをエリセンへ送り返そうとした。しかし、他ならぬレミア自身がそれを拒否したのだ。自分の娘も奴隷にされている可能性が高く、娘を見つけるまでは帰れない、と。

 

 何より、レミアが娼館送りにされた経緯が酷過ぎた。海で迷子になった娘を探したが見つからず、エリセンの保安署に駆け込んだ所、保安署の職員はミュウは別の町で保護されていると言ってきたのだ。手続きに必要だから、とレミアは言われるがままに書類にサインして、職員達が親切にも馬車で送ろうと言ってくれたので乗り込んだ結果……送られた先が娼館で、自分がサインした書類は奴隷として働く契約書だったという顛末だったのだ。

 

『まず間違いなく、保安署の者はクロじゃな』

 

 レミアの話を聞いたティオは不快感を顕にしながら断言した。

 

『保安署までそうなっているとなると、エリセンの領主もどこまで信用して良いものやら……。セバス殿、レミア殿をエリセンへ送り返すのはあまり得策ではないと思われまする。ひょっとすると、送還された先でまた奴隷として売られる事になるやもしれぬ故に』

 

 ティオの進言にセバスは反対などなかった。他のナザリックの守護者達とは違い、カルマ値が極善である彼は自分が救った女性が再び酷い目に遭わされる事など許容できる筈も無い。何より、我が子を探したいというレミアの心意気を汲んでやりたかったのだ。

 そして話し合いの末、レミアを邸宅内で匿いながらミュウの居場所の情報を探るという事になったのだ。レミアは自分も探しに行きたいというのが本音だろうが、働かされていた娼館の人間に見つかるといらぬ面倒事になるのでセバスが仕事の合間に奴隷商人などから情報を探っていた。

 

「そう気を落とすでない。大丈夫じゃ」

 

 沈痛な表情をするレミアに、ティオは慰めの言葉を掛ける。

 

「いま、商館の者達にも奴隷として売られた海人族の子供の情報を集めさせておる。そなたの娘もきっと見つかる筈じゃ」

「そうですね………何から何までありがとうございます、ティオ様」

「よい。困っている者がおるなら、助けるのは当たり前と常日頃から旦那様も仰っておるからな」

 

 大事にしている創造主(たっち・みー)のモットーを言われ、セバスは少しだけこそばゆい気持ちになる。だが、レミアを安心させる為にも微笑みを浮かべた。

 

「ええ、必ず貴方のお子さんの居場所は探し出しましょう。だから今は私にお任せ下さい」

「………あ、ありがとうございます、セバス様」

 

 見た目こそ初老の男性だが、ナイスミドルを絵にした様なセバスの紳士的な微笑みにレミアは顔を赤くする。何より、レミアにとってセバスは地獄の様な日々から救い出してくれた救世主なのだ。レミアの中でセバスに対して恩人以上の想いが募るのに時間はあまり要らなかった。

 

「レミアさん、どうかされましたか? お顔が赤い様ですが……」

「い、いえ! 大丈夫です! あの、お夕飯を用意しますね!」

 

 セバスが不思議そうな顔で覗き込む様に見ようとすると、レミアは真っ赤な顔のまま厨房へと行ってしまった。

 

「……案外、すけこましの才能があるのかもしれんのう」

「何でしょうか?」

 

 ジト目で見てくるティオにセバスは何か失礼な事をしたのか、と動揺するが、ティオは咳払いするだけに留めた。

 

「まあ、旦那様が凡ゆる者に優しいのは今更じゃとして……少し真面目な話を良いかの?」

 

 レミアの前では出来ない話だったのか、真剣な表情になるティオにセバスも表情を引き締めた。

 

「ここ最近、フリートホーフの連中が店に嫌がらせをしたり、従業員達に狼藉を働こうとしたという報告が増えておりまする。保安署には何度も訴え出ているものの、彼等は何かと理由をつけて動こうともしませぬ」

「そうですか……やはり、フリートホーフなる者達の背後には大きな権力者がいるという事ですね?」

 

 今や王国で急発展を遂げたチャン・クラルス商会。しかし、その成功を面白くないと思っているのがフリートホーフだ。せっかく聖教教会から金を引き出して表社会の市場すらも手中に収めかけているというのに、自分達に従う姿勢を見せない商会が大きくなっているなど目の上のタンコブなのだろう。それでならず者を使ってチャン・クラルス商会の支店に営業妨害を行ったり、もっと直接的に従業員を恫喝して商会を辞める様に仕向けるなどといった行動に出始めていた。これを取り締まるべき保安署はフリートホーフから甘い汁を吸っている貴族達からの命令で捜査の差し止めをされたり、保安署の上層部は賄賂を受け取っていたりするのでフリートホーフ関連の事件には見て見ぬふりをする有様だった。

 

「現在、竜人族の里にも要請して腕の立つ者達に支店の用心棒をして貰っておるが、手が回り切らぬ所が出るやもしれぬ。魔導国からも応援を頼めぬかお聞きして貰えぬか?」

「分かりました。従業員の安全を第一としましょう」

 

 セバス達のチャン・クラルス商会は魔導国の援助もあって支店の数を一気に増やせる程に急成長したが、それがかえって仇になっていた。ティオの伝手で集めている用心棒達では支店全てをカバーし切れず、この屋敷もティオの侍女達にも出払って貰わなくてはならない程に人手が足りなくなっていた。そういう意味ではレミアが屋敷の家事を担ってくれるのはありがたかったわけだが………。

 

「そうして頂けると助かる。ところで……この事はゴウン様にお伺いを立てなくて宜しいのかの?」

 

 さりげなく言ったティオの指摘に、セバスの肩がピクリと動いた。だが、すぐに首をゆっくりと横に振った。

 

「必要ないでしょう。この程度の事でアインズ様の時間を割くのは申し訳ないと思います」

「………旦那様、妾は婚約者として旦那様を最大限に立てるべきとは心得ておる。しかしながら、レミア殿の件も含めて一度報告はすべきだと存じ上げまする」

 

 もっともな正論だろう。チャン・クラルス商会は謂わば魔導国のフロント企業であり、セバスはあくまで名代としてオーナーを名乗っているに過ぎない。いま商会を取り巻く事情はセバス個人の裁量を超えてきており、ミュウの情報を探る為にレミアが売られていた娼館の周りを独自に調査していると聞く。それが何かしらトラブルの種になるのではないかとティオは懸念していた。もちろんティオとて、我が子の生存を願うレミアに同情していないわけでない。だからこそ、一度彼の上司であるアインズに報告すべきだと考えているのだ。

 

「……いえ、この程度の事でアインズ様のお手を煩わせるまでもないでしょう。何らかの問題が生じる様ならば、私自らの手で処理するので問題ありませんよ」

 

 しかし、セバスはやんわりと拒否した。

 残念ながら、ナザリックはそこに属さない者に対して慈悲を見せる事は無い(ペストーニャの様な例外もいるが)。それこそナザリックの利益と天秤にかけるならば、レミアの事など放り捨てるべきだと言われるだろう。

 

(本来、ナザリックに属さない者に憐れみの感情を持つ事は正しくない。しかし………)

 

 しかし、である。ナザリックの執事としてアインズに絶対の忠義を捧げるべきと誓っているセバスでも、心の奥で渦巻く物があった。

 

 至高の四十一人の一人、たっち・みー。

 

 弱者救済を掲げ、“アインズ・ウール・ゴウン"の原点(ナインズ・オウン・ゴール)を築いたセバスの創造主。アインズより“ナインズ・オウン・ゴール”の話を聞き、セバスにはたっち・みーの遺志とでも呼ぶべき心が芽生えていた。だからこそ、レミアを見捨てろと言われるのが怖くてアインズへの報告を躊躇していたのだ。

 

「旦那様………」

「これは私の独断で行っている事です。もしも貴方達が咎められる様な事があれば、その様に証言なさい」

「……いや、妾とてレミア殿を助ける為に貴重なスクロールを使う様に指示したのじゃ。旦那様一人に咎は負わせとうない」

 

 セバスの葛藤を知ってか知らずか、ティオは静かに頷いた。それはまさしく———夫に寄り添う事を覚悟した女の表情だった。

 だからこそ———セバスはティオを守りたい、と思える様になっていた。

 

「まあ、もしもの為にも竜人族の後継ぎとなる者を孕ませてくれれば、後顧の憂いは無いのじゃが」

 

 

 戯ける様に言われた一言に、セバスは難しい表情で黙り込んだ。

 

 ***

 

 翌日、セバスはミュウの情報を探す為に今日も街に出ていた。

 フリートホーフの影響力が強くなった為か、街もすっかりと様変わりしてきていた。さすがに表通りではやらないものの、裏通りでは奴隷市場が当たり前の様に開かれて首輪や足枷を付けられた子供や女が死んだ様な目で競りにかけられていた。その光景にセバスの中に強い嫌悪感が滲み出るものの、グッと堪えてレミアから聞いた特徴の海人族の子供がいないか注意深く観察する。残念ながらミュウらしき子供の姿はなく、買取主である貴族や富豪達に鎖を引っ張られて泣きながら連れて行かれる奴隷達の姿に後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。

 

「……おい、アマ。あんまり調子に乗るんじゃねえぞ? 俺のバックに誰がいるか分かってんのか? フリートホーフの名前ぐらい知ってるよなぁ?」

 

 セバスが表通りに戻ると、少し離れた所から喧騒が聞こえてきた。聞き捨てならない名前にセバスが振り向くと、そこでチンピラ風の男が着物を着た女性を恫喝していた。

 

(あれは………)

 

 その女性には見覚えがあった。チャン・クラルス商会の従業員であり、ティオの侍女の一人だ。ティオの侍女だけあって、彼女には武の心得があった。あんなチンピラなどその気になれば鎧袖一触に出来るだろう。しかし、それは見過ごして良い理由にはならなかった。

 

(本当に治安が悪くなったものです)

 

 すぐそこで立番をしているのに見て見ぬ振りをしている衛兵に溜め息を吐きながら、セバスは女従業員を救う為に近寄ろうとする。すると———。

 

「あれは………」

 

 セバスの視界の端で黒い影———十代半ばくらいの少年が動いた。少年の気配は注視していなければ見逃しそうになる程に薄く、その動きは普通の人間では目にも止まらない程に速かった。気配の薄い少年は女従業員やチンピラ、更には周りの野次馬達にも気付かれずにチンピラへと近寄り———。

 

「がっ!?」

 

 少年はチンピラの顎をピンポイントで打ち抜き、脳を揺らしていた。だが、周りの者達には突然チンピラが崩れ落ちた様に見えただろう。目の前にいた女従業員でさえ、少年が動いた時に巻き起こした突風で目を瞑ってしまったのだから。そうして倒れたチンピラに全員が目を奪われる中、少年は誰にも気付かれずに路地裏へと入って行った。

 

「驚きました………あれ程の実力者が人間の中にいたなんて」

 

 まさに手練れの暗殺者の様な手腕にセバスも驚嘆していた。今の一撃を見るなら、自分はともかくプレアデス(武装メイド達)と良い勝負が出来るだろうと思わせた。セバスは思いもよらない場所で見つけた強者を、何より自分の従業員を助けてくれた相手の後を追って人混みをすり抜ける様に抜けながら路地裏に入った。

 

「フッ……闇に抱かれて眠るがいい、不埒なりしケダモノよ」

 

 路地裏に入ると、件の少年がニヒルに笑いながら何やら呟いていた。なんとなくパンドラズ・アクターを思い出しながらも、セバスは彼に声を掛けた。

 

「失礼。少しよろしいでしょうか?」




>レミアさん

 現在、セバスの所でメイドとして働いてます。エリセンに帰らなかったのは作中で説明した通り。送り返されても再び奴隷として売られるし、ミュウが見つかってないので帰れない。それはそうと、何やらセバスに対して……?

>セバス

 この無自覚天然タラシが!(笑) 仮にセバスの見た目が若かったらギャルゲーの主人公とかやれそうな気はする。レミアを見捨てろと言われるのが怖くて、アインズ様に報告して無いです。ここで報告していれば、諸々が解決しましたけど。

>ティオ

妻の内助の功としてセバスを支える側へ。因みにハーレムOKな人です。もともとティオの侍女達もセバスの側妻にする予定で送り込まれているので。
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