ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 新年も明けて世間では大変な事が起こったりと激動の始まりとなりました。
 私も自分に出来る事を考えながら、今年も完結を目指して執筆していきます。よろしくお願いします。


第百五十六話「開幕前の悪魔の囁き」

「ふんふんふ〜ん♪」

 

 上機嫌な鼻唄が室内に響く。アルベドはアインズより与えられた自室のベッドの上で刺繍をしていた。布を縫っていく手はプロの縫い子には劣るが澱み無く、アルベドの美貌も相まって一枚の絵画として完成する様な光景だった。

 

「出来たわ……アインズ様の抱き枕よ!!」

 

 出来上がった物にアルベドは満面の笑みを浮かべる。それはアインズの身体が精巧に刺繍された等身大の抱き枕だった。表面にはアインズの裸体(当然ながら骨だが)が刺繍されており、裏面にもアインズの後ろ姿がプリントではなく精巧に刺繍されていた。しかも裏面は尻を少し突き出して肩越しに振り返っている様な姿であり、これが人間の女ならばさぞかし扇情的な姿となっていただろう。しかしながら骸骨姿のアインズではどう頑張っても骨格標本の後ろ姿と言う他無いのだが、アルベドは大変満足そうだった。

 

「アインズ様のシーツから作った抱き枕……これって添い寝した事になるのかしら? くふううう~っ!!」

 

 パタパタと腰から生えた翼を動かしながらアルベドは出来上がった抱き枕に顔を埋める。よくよく見れば、ベッドの上だけではない。部屋の至る所にアインズの姿を盗撮したポスターや自作のアインズぬいぐるみ等が所狭しと置かれ、寒気がする程にアインズへの偏執的な愛が覗える内装だった。

 

「はぁ……アインズ様。会いたい、会いたい、会いたいわ……」

 

 自作の抱き枕に頬ずりしながらアルベドは恋する乙女の様に呟く。アインズが神代魔法を入手する旅に出ている為に、魔導国の宰相として働くアルベドは定時連絡を除けばアインズと接触する機会が最近はほとんど無かったのだ。

 

「私も人間の遺した神代魔法を取得できたらアインズ様の御供が出来たのに………そうすればアインズ様は吸血鬼の小娘やナグモの子飼いのアンデッドより私を連れて行って下さったのに」

 

 そこまで呟くと、それまでアインズ抱き枕に包まれて上機嫌だったアルベドの顔が不快気に歪んだ。

 

「それもこれもナグモが神代魔法の研究を怠っているからだわ。ナザリックの研究所長としてあるまじき有様ね」

 

 トータスの神代魔法についての研究。これもまたエヒトルジュエと対決する日の為にナザリックで研究が推し進められていた。ナザリックの配下達がアインズの為に更なる力を手に入れる為にも、守護者のみならずナザリックのシモベ(POPモンスター)でも神代魔法が習得できないか調査を命じた事もあった。

 しかし、その成果は得られていない。アルベドやシャルティア等はおろか戦闘メイド(プレアデス)がどれほど大迷宮を突破しようが、未だにアインズやナグモ達以外で神代魔法を取得できた者は皆無だった。

 

 実のところ―――これには歴とした理由がある。オスカーやミレディ達が遺した神代魔法の試練は人間やそれに近い種族が取得する事を前提にしたものだ。少なくとも人間の魂を持った存在でなければ大迷宮の試練は受けられず、異形種、それも異世界から来た存在が取得しようとするなど解放者達からすれば想定外だったのだ。

 そして根本的な問題として―――ナザリックのNPC達は厳密的に生物と定義できる存在ではなかった。傍目から見れば彼等も食事や睡眠などの三大欲求はあるし、様々な感情を見せてはいる。

 しかしながら、元が電脳空間(ユグドラシル)のNPCとして作られた彼等に生命としての魂と呼べる物は無く、ある意味では精巧な人形と大差ない存在であった。彼等の趣味嗜好などは創造主が設定したからその様に思考する、あるいは創作時に焼き付いた創造主の性格を模した物でしか無い。残念ながら神代魔法の試練はそういった()()()にも取得させられる様な万能性は無かったのだ。

 

「いえ、ただの怠慢かしら……ナグモは何かに気付いている? あるいは……意図的に隠している?」

 

 そのナザリックのNPC達の中で唯一神代魔法を取得できる様になったのが、香織の決死の疑似神代魔法によって人間(プレイヤー)へと()()したナグモだった。彼もまた研究を進めていく内にNPC達の真相までは見抜けなかったものの、NPC達が生物ではない人工物であるとは気付いていた。だが、ナグモはそれを公表しなかったのだ。

 あるいはこれは()()となったナグモなりの優しさだったのかもしれない。彼にとってナザリックの同僚達は仮に人形であっても仲間である事には違いない。お前達は生物ではなく人工物だと指摘するのを良しとせず、彼は神代魔法の取得条件についてはサンプル数が少ない為に調査中と誤魔化していたのだ。しかし、その誤魔化しもナザリックで指折りの頭脳を持つアルベドには不信感を持たれていた。

 

「もしもアインズ様に対して隠し事をしているなら………そんな不敬者は処刑するべきよね」

 

 室内にアルベドの冷え切った独り言が響く。そこにナザリックの同僚として思う気持ちは欠片も無い。彼女にとって()()()アインズを煩わせる者は全て排除対象であり、何よりナグモは個人的に気に入らない相手となっていた。だからこそナグモの行動に対して何かと目くじらを立てる様になっていたのだ。

 何よりもアルベドにとっては―――アインズに『モモンガの事を愛している』と設定を書き換えられ、その時にアインズ(モモンガ)が心の奥底に感じていた辞めたギルメン達への悪感情が焼き付いてしまったアルベドにとっては―――未だあずかり知らぬ事とはいえ、“アインズ・ウール・ゴウン”の所属プレイヤーとなったナグモは心の奥底から敵意を抱き、邪魔と思う相手とすらなっていたのだ。

 

「ああ、モモンガ様……私に愛を与えてくれた御方……」

 

 陶酔しながらアルベドは出来立てのアインズ抱き枕を抱き締める。部屋の隅に元々この部屋にあった“アインズ・ウール・ゴウン”のギルド旗が打ち捨てられて、代わりにかつて玉座の間に飾られていたモモンガのギルドサインが壁に掛けられていた。

 

「このナザリック地下大墳墓は貴方様だけのもの。愚神も邪魔者も、貴方様の為に排除してご覧に入れます……だからどうか、あの素敵な名前をもう一度お聞かせ下さい……」

 

 次第にアルベドの吐息が熱を帯びていく。アインズのベッドのシーツから作った抱き枕は、気のせいかもしれないがアインズの残り香が薄らとする様な気がしていた。アインズの香りに包まれていると錯覚したアルベドは、抱き枕を抱き締めたまま昂る炎を収めようと指が身体の下の方へと伸びていき――――――。

 

『―――アルベド』

 

 ビクン! とアルベドの身体が震える。慌てて周囲を見回し、その声が念話によるものだと分かって安堵しつつも、即座に守護者統括に相応しい冷静な声を出した。

 

「これはアインズ様。一体どうなされましたか?」

『セバスが保護していた海人族の女が人間の犯罪組織の手に落ちた。セバスを支援する部隊の編成を早急で頼む』

 

突然のアインズの命令にアルベドは困惑した表情になる。セバスが人間達の街で潜入任務を行っているのは把握しているが、そこで何故海人族が関係するのか分からなかった。しかし、すぐにナザリックの守護者統括としての冷静な思考に切り替えた。

 

「アインズ様の御決定に異を唱える愚かさをお許し下さい。しかし、ナザリックの外の存在など部隊を作ってまで助ける価値はあるのでしょうか?」

『アルベドよ。その海人族の女はセバスが手ずから助けた者だ。同時にナグモが保護し、私が故郷まで送り届けると約束した少女の母親でもある。それにも関わらず、その親子を引き裂こうとするクズ共がいる』

 

 念話越しにアルベドの背筋が震える。

 この世で誰よりも怒らせてはいけない死の支配者。彼の憤怒が声からも伝わって。

 

『その親子を助けたセバスやナグモの想いを……たっちさんやじゅーるさんの子供の想いを踏みにじったも同然だ。分かるか? 分かるよな!? そんなクズ共を絶対に許せる筈が無いッ!!』

 

 そこまで断言して、ふと憎悪が緩む気配がした。おそらく感情が一定レベルを超えて抑制化されたのだろう。

 

『………済まない、アルベド。少し興奮し過ぎた。許してくれ』

「………いえ、アインズ様が謝罪される事など何一つございません」

 

 僅かな沈黙の後、アルベドは顔を引き締めた。

 

「分かりました。海人族を救出すると同時に、アインズ様をご不快にさせた愚か者達へ鉄槌を下します! 私が現場に直接行って指揮を―――」

『いや、それはマズい。フリートホーフを潰すに当たり、私も冒険者モモンとして冒険者ギルドや保安署の人間達と参加するのだ。モモンと魔導国に繋がりがあるのは冒険者ギルドに知られているが、魔導国が直接的にフューレンに関与するのは怪しまれる。秘密裏に海人族の救出やフリートホーフの壊滅を行える人員を選定して欲しい。正体がバレない様にと注意しておいてくれ』

「かしこまりました。至急、人員の選定を行います」

 

 目の前にいないと分かっていながら、アルベドは深々と頭を下げる。そして念話が切れたのを感じ、アインズの気配が完全に無くなった事を確認した後―――奥歯をギリッと噛み締めた。

 

「またあの男がっ……!」

 

 頭の片隅でアインズの命令を実行しようと思考を巡らせる中、この騒動の原因となったであろう人間の守護者に対して彼女は憎しみを抱いていた。

 

 ***

 

「ふーむ………」

 

 “チャン・クラルス商会”の本拠地となっているセバスの屋敷。その一室に集まったナザリックのメンバー達に、デミウルゴスは感嘆の溜息を漏らした。

 アルベドがアインズの命令を受けてから三十分後。その短時間でありながら元からフューレンにいたナグモやセバスは当然として、デミウルゴス、シャルティア、マーレといった守護者達。戦闘メイド(プレアデス)からはソリュシャン、エントマ。その他にナグモの付き添いとして香織がおり、一国どころか世界を滅ぼすに足る戦力が集められていた。

 

「さて、今回の作戦の指揮権はアインズ様よりこの私が承ったわけだが。セバス、異論は?」

「もちろんありません」

「なら勘違いしないで欲しいがね。これ程のメンバーを集めて貰えたのは、君が助けた海人族とやらの救出以上に至高の御方のご尊顔に唾を吐いた愚かなフリートホーフなる者達を誅殺する為なのだよ?」

 

 デミウルゴスの言葉に一同は―――香織までも―――深く頷く。彼等にとってアインズを不快にさせたというのは万死に値する大罪であり、アインズの気分を害したフリートホーフ達はもはや一秒足りとてこの世に存在させてはならない害虫だった。

 

「だが、アインズ様は海人族を確かに助けろと仰った」

 

 その言葉にその場に居合わせた者達は振り向く。セバスもほんの僅かな驚きを顔に浮かべながらナグモを見た。

 

「その命令も軽んじてはならない。対象の海人族を無傷で救出してフリートホーフの目論見を潰し―――その上で完全抹消する。奴等には何一つ自らの望みは叶わないと知らしめた上で、絶望させながら殺すべきだ」

「ふむ……まあ、当然そちらの目的も忘れてはいないさ。その海人族を助けるのはアインズ様より命じられた事。それを失敗するなどあり得ないとも。まあ、出来る限り生きている内に助けたい所だがね?」

 

 嫌味な言い方をしながらデミウルゴスはセバスを見る。

 

「私が敵であれば、愚かにも助けようと出向いてきた相手に人質の首を投げるだろう」

「デミウルゴスならば見せしめとして甚振る所から見せつけるのでは?」

「ふむ、違いない。もっと言うならば、捕虜を連れて逃げさせる所まで演出するね。運良く助けられたと思った所で罠に嵌まって動けなくなり、目の前で救ったはずの捕虜がジワジワと殺されていくところを見せられる……最高のショーじゃないか」

「へえ、それは面白そうでありんすね。妾も一度やってみたいでありんす」

 

デミウルゴスの趣向にシャルティアは空気を読まずに興味深そうな声を上げる。セバスとデミウルゴスの間に不穏な空気が流れているのを感じているマーレは、二人を交互に見ながらおろおろとしていた。

 

「デミウルゴス。無駄話は後にしろ」

 

 ナグモが溜息を吐きながら言った。

 

「僕と香織はモモンのパーティーメンバーとして、人間達のフリートホーフ襲撃作戦に加わらなくてはならない。あまり時間をかけていると現場にいない事を怪しまれる可能性がある」

「おや、残念」

 

 デミウルゴスは肩を軽くすくめながら先を続けた。

 

「フリートホーフの拠点の情報は既に入手済みだ。アインズ様が冒険者モモンとして人間達から知らされた情報とも一致する。あとはその場所で情報を持っていそうな者達を複数名捕虜として、情報を引き出して行けばいいだけだ」

 

 おお、とその場に居合わせた者達から感嘆の声が上がる。デミウルゴスがここへ来たのはほんの少し前だ。それでいながら既にそこまで情報を掴んでいる事に驚きを禁じ得なかった。

 

「我々以外にもティオ・クラルスが率いる竜人族の増援、そしてアインズ様が冒険者モモンとして率いる人間達もいる。彼等も上手く使いながら、フリートホーフの愚か者達を刈り取っていく。異論はあるかね?」

「ございません」

「ない」

「了解でありんすぇ」

「わ、分かりました!」

「了解ぃ~」

「かしこまりましたわ」

「はい!」

 

 デミウルゴスの作戦方針に守護者達は頷く。その他、プレアデス達や香織も頷いた。そしてデミウルゴスがそれぞれの任務の役割を言い渡し、各々が動き始めていく中―――。

 

「ああ、すまない。ナグモと香織は残って貰えるかな? 君達には別で頼みたい事があるのだよ」

 

 デミウルゴスに呼び止められ、ナグモは怪訝な顔になる。香織もナザリックの最高幹部とも言える守護者から呼び止めれるとは思わなかったのか緊張した顔になる。

 他の者達が準備の為に出て行き、三人だけが残った室内でナグモは胡乱げな声を上げる。

 

「それで? 僕ばかりか香織に何の用なんだ?」

「いや、本当にそう難しい事を頼むわけではないよ。それはそうと香織。少し前のアンカジではアインズ様からの大役、ご苦労だったね」

「は、はい! ありがとうございます! でも私は結局アインズ様の御命令を完璧にこなせなくて……」

 

 突然のデミウルゴスからの賛辞に香織は笑顔を浮かべたが、すぐにシュンとした顔になる。今の香織にとってアインズからの命令を完璧にこなせないというのは恥ずべき事だった。

 

「それならば……アインズ様の為に挽回する機会が欲しいとは思わないか?」

「え?」

「……何を考えている?」

 

 落ち込んだ表情を見せる香織にデミウルゴスが優しげな声を掛ける。だが、ナグモにはそれが言葉巧みに悪事を唆す様に見えて警戒した声を出した。

 

「せっかくアインズ様がハイリヒ王国の癌とも言える犯罪組織を潰すんだ。これを機に魔導国に、ひいてはアインズ様に最大限の利益となる様に演出を加えるべきだとは思わないかい?」

 

 デミウルゴスは二人へ笑顔を向けた。

 だが、それは――――――まさしくアダムとイヴに禁断の果実を口にさせる蛇そのものの様な表情だった。

 

「そうだな………題して、“失楽園”作戦とでも呼称しようか」




>アルベド関連

 よく考察で上がる「アルベドが至高の御方達を憎んでいるのは、サービス終了前で荒れた気持ちだったモモンガがその時に設定を弄ったから」という線でいこうと思います。そしてアインズ以外の至高の御方が大嫌いなアルベドからすれば、曲がりなりもAOG所属プレイヤーとなったナグモは無意識下でも憎む相手となったわけです。

>失楽園作戦

 今回は基本的にオバロ原作沿いな展開です。でもまあ……やっぱ原作を書き直しただけの二次創作とかつまらないじゃないですか?(2525)
 ゲヘナから失楽園と変わった意味を愉しみにしていて下さい。 
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