ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 諸事情により執筆速度が落ちております。待っている読者の皆様には御迷惑かけますが、御了承下さい。今のところ休日ぐらいしかガッツリ書ける時間が取れないので。


第百六十話「好きだからこそ」

 イルワが率いる冒険者ギルドとスタンフォードが率いる保安署の連携、さらにナザリックの者達の暗躍によってフリートホーフのアジトや構成員は迅速に排除されていた。これに対してフリートホーフも何もしていないわけではない。ギルドから鞍替えした冒険者や“六獣”達に命じて返り討ちを画策しているのだが、中にはそれでこの件は片付いたと楽観的に考えている者もいた。

 片や冒険者ギルドは資金難から離脱者が多く、片や保安署は署長がフリートホーフ側である為にスタンフォード含めた一部の者が独断で動いているだけで全体的に少数なのだ。それに対して自分達は金で寝返った冒険者達が多数、さらには一人一人が一騎当千である“六獣”まで全員出ているのだ。戦力差からして自分達が負けるとは微塵も思っておらず、むしろこの機会にフリートホーフに逆らう者達を一掃してフューレンの支配を確固たる物にしようと皮算用する考えもさもありなんという有様だった。

 それがまさか“六獣”達の半数以上が瞬殺されているなんて誰も思ってもいなかっただろう。さらには迅速すぎる襲撃で情報そのものが行き届いてないアジトもあった。

 

『さあ、次はエリセンより来てくれた海人族の女! 年齢は17歳で、なんとこれまで男との経験は無し! さらに亜人族なので人間より頑丈というオマケ付きです! 殴って良し! 夜伽をさせるのも良し! まずは特別価格の1000万ルタから! お求めの方はプラカードで意思表示をお願い致します!』

 

 魔法の拡声器によって拡張された司会の明るい声が場内に鳴り響く。ステージの上に立たされた海人族の女は鎖の付いた手枷や足枷を付けられ、泣きそうな表情になっていた。そんな女を客席の男達はニヤニヤと笑いながら見ており、何人かは持っていたプラカードを上げて競りに参加していた。

 ここはフューレンの歴史ある劇場だ。本来なら格調高いオペラやクラシック演劇などが催されるこの場所で、フリートホーフが主催する奴隷オークションが行われていた。本来ならこんな違法なオークションを開催するなど許される筈は無いのだが、保安署の署長がフリートホーフから賄賂を受け取って黙認している事で表向きは『高貴な方々の為の夜の演劇会』として劇場を使用していた。その為にこの場にいる客達は身元がバレない様に仮面こそしているものの、着ている服は庶民では手が届かない様な上質な物で彼等の身分や資産の高さを伺わせていた。

 

「どうだ? ノルマは到達できそうか?」

 

 海人族の女がほどほどの値段で売れ、舞台袖に入った司会の男は仲間達に声をかけた。仕事中の為に小綺麗なタキシードを着ている司会とは違い、いかにもチンピラ然とした男達はニンマリと笑った。

 

「へへっ、バッチリだ。やっぱり海人族は高く売れるな。まだメインが控えてるってのにノルマ金額より二割増しで笑いが止まらねえよ」

「それにしてもいいのか? なんか保安署と冒険者達が一斉摘発をやってるんだろ。俺達、ここで金勘定してる場合か?」

「あん? なんかあったら地下通路を通じて伝令が来るだろ。そいつが来てねえって事は逆に保安官共を返り討ちにしたんじゃねえか?」

「そりゃそうだけどよ………」

 

 釈然としない顔をしながらも誰も奴隷オークションの中止を積極的には言い出さない。ここでの売り上げは本部に納めるノルマを除けば、数割はそのまま男達への報酬となるのだ。今日はいつもより稼ぎが多く、大金のボーナスのチャンスを棒に振りたい者などいなかった。

 もしも彼等が用心深ければ、あるいはマーレが人間達を潰す過程で地下通路を寸断したりしなければ、彼等は他のアジトの異変を気付いて撤収していただろう。しかし、欲に目が眩んだが故に危機感が働いておらず、その結果が今も暢気に奴隷オークションをやっているという有様だった。

 

「なあ。結構稼いだんだしよ、そろそろ目玉商品を出そうぜ」

「まあ、それもそうだな……おい、女! 出番だ!」

 

 司会の男が粗野に呼び、奥にあった鉄格子の檻に入れられた人影が僅かに身じろぎした。

 その人物こそが、浩介の前から姿を消したノイントだった。彼女は他の奴隷達と同じように首輪や鉄枷を嵌められ、身体のラインがくっきりと浮かび上がる扇情的な薄絹の様な衣装を着せられていた。

 

「こんな上玉、どこで捕まえて来たんだ? 俺が相手したいくらいだぜ」

「おい、余計なことするなよ。こいつなら一億ルタは固いんだからよ」

 

 絶世の美女と言っても差し支えないノイントを見て下卑た笑みを浮かべる男達に対して、ノイントは諦観した様な目で男達になすがままに首輪の鎖を引っ張られていった。

 

(これで……これでいいのです………)

 

 ノイントがステージに上がった途端、客席が俄かにざわめき立つ。エヒトルジュエが自分の使徒として作ったノイントは神秘的な美を携えており、人形の様に整った顔立ちも身体も今まで出品された奴隷など比べ物にならない程に美しい少女だったのだ。

 

(私が犠牲になれば、あの修道院は救われます……。私()()()が彼等の役に立てるなら、これでいいのです……)

 

 本来のノイントなら、いま身に付けている拘束など何の意味もない。手枷に付けられた鎖など、紐を引き千切るくらい簡単に壊せる物だ。

 しかし、彼女を本当に縛っている物は心理的な枷だ。流れ着いた修道院での暮らしで人の心に目覚め、自分が“真の神の使徒”だった時にやってきた事に後悔を抱く様になった。罪悪感から自害しようとした所に修道院を襲おうとしたフリートホーフの構成員達と鉢合わせしたのだ。彼等はノイントが身を差し出せば修道院にいる者達には手を出さない、と言った為にノイントは自分よりも遥かに弱い彼等の言いなりになっていた。

 

(私は人形……エヒトルジュエ様の駒として作られた人形。エヒトルジュエ様に見捨てられて、姉妹達も見捨てて逃げ出した私はただの捨てられた人形……)

 

 客席の男達が熱狂を帯びて自分を競り落とそうとしている。それをノイントは他人事の様に眺めながら、捨て鉢の様に自分を卑下していた。

 

(あの修道院に留まっていても、いずれは魔導王の追っ手に見つかって被害が及ぶ可能性もありました。いつまでもあそこにはいられない………捨てられた人形が他の人間に拾われるだけ。何も関係ない………)

 

 数え切れないほど罪を犯し、そして創造主からも見捨てられた自分などに価値なんて無い。捨てられた人形ならば、自分の身などどうなってもいい。いっそ最後くらいはそんな人形を拾ってくれた修道院の人間達の役に立つべきだ。

 

「五億! 五億払うえ!」

 

 オークション客の中から一際大きく、粘着質な声が響いた。その相手は身なりこそ宝石をジャラジャラと身に纏っていたが、醜いにも程がある貴族だった。あまりの大金にオークションを盛り上げる役割の司会もあんぐりと口を開けてしまった。

 

『え……ええと……会場が言葉を失っております。えー、一応確認します。五億以上! 五億以上はありますでしょうか! 無ければ五億ルタで落札となります!』

 

 オークション客を見回すが、誰も手を上げようとしない。彼は大金をポンと出せる様な家柄なのか、相手が悪いという顔で諦めた様に項垂れていた。

 

『えー、いませんようなので! それでは本日の目玉商品、五億で落札となります!』

 

 司会がハンマーを叩く音と共にノイントの売却先が決まった。落札した貴族が弛んだ腹を弾ませながらノイントに近付いてきた。

 

「久々に良い買い物をしたえ~。お前はわちしの十二番目の妻にしてやるえ~!」

 

 ブヨブヨと太った手が谷間が顕わになっているノイントの胸に伸ばされる。生理的な嫌悪感を覚えたノイントは反射的に胸を庇う様に後退りした。

 

「うん? なんだえ、お前。わちしが買った奴隷のくせに嫌がるのかえ?」

「い、いえ………」

 

 ノイントは震えながらも手を下ろした。自分は人形だ。こんな事で嫌悪感を感じる方がおかしい。

 

「むふ~ん。それでいいえ」

 

 抵抗を止めたノイントを見て貴族はニンマリと笑いながら、たわわに実った胸を鷲掴みにした。

 

「っ……!」

 

 ぐにぐにと押し潰されて形を変えられる胸に、ノイントは性感よりも気持ち悪さの方が勝った。

 以前、浩介に不可抗力で胸を触られた事がある。だが、あの時はこんな風に乱暴な手付きではなかった。何よりも―――()()()()()()()()()()()()を一切感じないのだ。

 

「おい。この女、味見しても構わないえ?」

「どうぞどうぞ! もうこの商品は貴方様の物ですから!」

 

 司会の男は揉み手をしながら頷く。大金を気前よく払ってくれた上客の要望に快く応じない筈がなかった。

 

「よおし、じゃあ女。わちしにキスするえ~」

 

 首輪の鎖を引っ張り、貴族はノイントの顔を近付けさせる。唇を突き出した醜悪な顔から漂うドブの様な口臭にノイントは吐き気を覚えながらもされるがままになった。

 この世に生まれ落ちて(作り出されて)から数千年余り、捧げる相手もいなかった為に守ってきた純潔がいま無残に散らされようとしている。以前ならば下等な人間達が自分に触れる事に対する嫌悪感こそあれど、今はそれが何故かとても嫌で悲しくなっていた。既にこの身は存在価値のない人形の筈なのに。

 

(コースケ………)

 

 こんな時だというのに何故かノイントの脳裏に浮かんだのは、自分を最初に拾ってくれた人間の少年の顔だった。修道院から去る直前、贈り物をしようとしてくれた。それが何を意味するのか、ノイントにだって理解できる。あの時はそんな物を貰う価値など自分にはないと突き返してしまったが、エヒトルジュエの駒でしかなかったノイントにとって生まれて初めて貰う贈り物だったのだ。

 本当はそれが嬉しくて―――その為に自分は既に壊れた人形だったと思い知らされてしまったのだ。

 おそらくはあの時。魔導王への恐怖から逃げ出して、森の中でひっそりと息絶えようと全てを投げ出そうとした時。壊れていた人形を必死に生かそうとしてくれて、どうにか命を繋げられそうと分かった時に心の底から安堵した顔を見せてくれた時に。

 

(コースケっ………!)

 

 顎をグイッと掴まれ、貴族の唇がノイントの人形の様に美しい顔に迫る。男の欲望に自分が蹂躙される事にノイントはギュッと目を閉じた。

 

「むふふ! たっぷりと可愛がってやるえ、ぶべらあああっ!!」

 

瞬間。何かを殴る様な音と共に貴族の身体が横に吹っ飛ぶ気配がした。ノイントは何事かと目を開けて―――。

 

「あ………」

「―――ごめん、ノイントさん。遅くなった」

 

 そこに、一人の少年が立っていた。身体の至る所に包帯を巻きながらも、黒い冒険者の装束に身を包んだ影の薄そうな少年。だが、今のノイントには戦場に駆け付けてくれた聖騎士の様な存在感を感じていた。

 オークション会場にいる他の客や司会達も、突然の闖入者に呆気に取られてしまっていた。

 

「タイミングを見計らっていたんだけど、思わず手が出ちまった」

「どう……して……?」

 

 明らかに傷をおしてまで来た彼に、ノイントは掠れた声で聞いた。

 

「どうして、そうまでして来たのですか? 私なんかの、為に………」

「なんか、なんて言わないでくれよ。助けたいから……いや、この際はっきりと言葉にするよ」

 

 

 自らを卑下し続けるノイントに、少年―――遠藤浩介は言った。

 

「好きだから―――俺にとって、ノイントさんが必要だから助けたいと思ったんだ」

 

 その言葉は、ノイントの心を穿った。

 大罪人であり、捨てられた人形である自分に価値などない。そう思って凍り付かせていたノイントの心に急速に温かい物が流れていく気がした。

 

「私、は………っ」

「こ……この無礼者を殺すええええええっ!!」

 

 言葉に詰まったノイントを遮る様に、殴られた貴族が金切り声を上げた。それに弾かれる様に客席は騒然となり、オークション会場の警備や貴族の護衛達が武器を抜いて浩介達を取り囲んだ。

 

「ごめん、ノイントさん。こうなったら正面突破で行くしかねえ! 離れないでくれよ!」

「コースケ!」

 

 ダガーを抜き、浩介はノイントを守る様に男達に立ち塞がった。男達に向かって不敵な表情を見せたものの、内心では痛む身体に冷や汗を流していた。

 

(やべえな………治療院から抜け出して来たはいいものの、この人数相手にやれるのか?)

 

 ハルモニアとの戦いで気配を探るスキルを開花させ、浩介はどうにかノイントが売られているオークション会場を探り当てられた。しかし、セバスによって応急措置を施されたとはいえハルモニアとの戦いで消耗した体力までは戻らず、本来なら隙を見てこっそりとノイントを救出するつもりだった。それがノイントが手篭めにされそうになったのを見て、つい飛び出してしまった事に今更ながら軽率だったと思い始めていた。周りを取り囲む男達はハルモニアより弱いだろうが、今の浩介に全員を相手にする体力は無かった。

 

(いや、やるんだっ! 俺は……絶対にノイントさんと一緒に帰るんだっ!)

 

 浩介はダガーを握り直し、覚悟を決めた様に息を吐く。一方のノイントもまた、浩介を見て別の覚悟を抱いていた。

 

(コースケ……何があったか分かりませんが、あの傷の様子だと相当無理をしている筈です。かくなる上は私が……!)

 

 ノイントが全力を出せば、ここにいる男達など容易く一掃できる。だが、それでは修道院の皆にも隠し続けたノイントの正体がバレる可能性があった。万が一、あの魔導王の耳に入れば、今度こそ自分を殺しに来るかもしれない。

 だが、それでもノイントは構わないと思った。あの魔導王と再び対峙するのは死んでも嫌だ。だが、それでも―――。

 

(コースケを……彼を死なせたくないっ!)

 

 生まれて初めて、ノイントは一人の人間に生きて欲しいと願っていた。この少年を失う事の方がたまらなく嫌だとすら思っていた。

 二人は内容は異なるながらも、取り囲む男達と対峙して覚悟を決めた表情になる。

 そして、二人と男達との間で緊張感がジリジリと高まった瞬間―――。

 

「な………何が起きたんだえ!?」

 

 突然、轟音が響いて貴族の男が叫び声を上げる。浩介達もつられる様に轟音がした方向を振り向いた。

 オークション会場の入り口。重厚な扉がバラバラに壊され、新たな人物が入ってきていた。

 真紅のマントを靡かせ、扉を斬り裂くのに使ったであろう二本のグレートソードをブンッと軽々と振るって肩に担ぎ直した。

 

「さて………」

 

 舞い上がる粉塵すら、この男の為に用意された演出に思えた。劇場という空間も相まって、まるで千両役者が登場した様に全員が見守る中、漆黒の戦士―――モモンは声を上げた。

 

「それで………これはどういう状況かな?」

 




>だえだえ言ってる貴族

 きっとシャボンでも被ってるんじゃないですかね? 知らんけど(笑)

>愛してるから必要

 とある映画からの引用だけど、本当に印象に残った言葉だなと。二十年前に連ザを少しやった程度の自分でも楽しめた映画でしたよ。

>浩介くん

 もうさ、本当にこいつが主人公でいいんじゃない? で、とうとうというか漆黒の英雄とエンカウントしちゃったわけですよ。いやー、どうなるんでしょうね?(無責任)
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