ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 「もうちょっと時間かけて最高の出来にした方がが良いんじゃない?」 と半分思い、もう半分は「これ以上時間をかけてもクオリティは上がらないかも」と思っている。だから妥協とモチベーション維持で更新している。
 まあ、細かく見直してないから誤字脱字が多いのだけど(笑)


第百六十一話「堕天使」

「保安署だ! 全員大人しくしろ!」

 

 モモンが切り拓いた道から続々と男達が流れ込んでくる。保安官の制服を着ている彼等を見て、オークション会場は騒然となった。

 

「保安署だと!?」

「どういう事だ! ここは安全だと言っていた筈だろ!?」

「クソ、なんで本部から連絡がなかったんだ!」

 

 客席から逃げ出そうとする者、会場のスタッフにつかみ掛かる勢いで文句を言う者、流れ込んできた人間に対抗しようとする者。

 突然の事態にオークション会場にいた者達はお互いを押し合う様な烏合の衆と化し、さらに保安署の職員達が加わる事で場は混沌と化していた。

 

「ノイントさん、こっちに!」

 

 浩介はノイントの手を引いた。何が起きたか分からないが、この好機を見逃すわけにいかなかった。ノイントを連れて逃げ出そうとしたが、ドンッ! と床に拳大の穴が空いた。

 

「下々民、その奴隷はわちしの物だえ! わちしが買った女だえ!」

「くっ、邪魔すんなよ!」

 

 ノイントを競り落とした貴族は怒りで顔を真っ赤にして杖を構える。どうやらこんな見た目でも魔法を使えるらしい。構えからして戦闘では素人同然だろうが、今の浩介の体力では少し厳しかった。

 

(コースケ……! かくなる上は……!)

 

 ノイントは“使徒”としての力を振るおうと身体に魔力を込めようとする。だが、それより早く―――。

 

魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)―――“凍棺(フロスト・コフィン)

「ほぶうううぅぅぅぅっ!?」

 

 浩介とノイントを避ける様に地面から冷気が立ち上がる。吹雪の様に吹き荒れた冷気は貴族を含めた周りの男達を凍らせ、杖を構えた格好のまま貴族は醜い霜柱と化した。

 

「さ……さぶい、え……」

「……そこで頭を冷やすといい、女の敵」

 

 ユエはカチンコチンに凍った貴族達を氷よりもなお冷たい目で一瞥した後に浩介達を見た。

 

「大丈夫?」

「あ……ああ、助かった」

 

 突然現れた金髪の美少女の魔法に驚きながら、浩介は何とか返事する。これ程の魔法はかつての仲間達だった“神の使徒”にだって難しいだろう。それを容易くやったユエを見て驚いていた浩介だが、ノイントは彼女を見て目を丸くしていた。

 

「あなたは……まさか」

 

 遠い記憶を掘り起こす様にノイントは自らの記憶に埋没する。あれは確か数百年前……かつての主だったエヒトルジュエが特に注目していた人間。監視を命じられた姉妹の誰かの記憶に、こんな少女がいた様な―――。

 

「それで……あなたは奴等の仲間? それとも違う?」

「ち、違う! 俺はノイントさんを助けに来ただけだ!」

 

 探る様な目付きのユエに浩介は大声で否定する。それを見てノイントは思考を打ち切って、浩介を庇う為に証言した。

 

「本当です。彼は……コースケは奴隷にされそうだった私を助ける為に、傷を負ってまで来てくれたのです」

「………そう」

 

 首輪や手枷を付けられ、身体のラインや胸の突起が透けて見えそうになってしまう薄衣を着せられているノイントを見て、ユエはとりあえず嘘ではないと判断していた。

 

「でも、コースケ……? どこかで聞いた様な―――」

「ユエ」

 

 首を傾げかけたユエに、いつの間にか近寄っていたモモンが声をかけた。見れば会場はほぼ保安官達に制圧されており、数名の構成員達が無駄を承知でジタバタともがく程度だった。

 

「ここはこれで終わりのようだ。次の拠点襲撃に行くぞ……ん? その二人は?」

「オークションで売られていた奴隷と、彼女を助けにきた冒険者みたいです」

「ほう……勇敢だな、少年」

「ど、どうも」

 

 浩介は頭を下げる。まるで絵に描いた様な立派な鎧を着た黒騎士に、浩介は少しだけ気圧されていた。

 

「いや、でも……俺はむしろそこの女の子に助けられただけみたいなものだし……」

「謙遜しなくていい。誰かを救おうと君は立ち上がったのだ。君もまた、私の知る人物の様に正義の心を宿した戦士なのだろう」

「は、はあ……ありがとうございます」

 

 モモンの賛辞を受け、浩介は頭を掻いた。モモンはどこか遠くの人物を思い浮かべている様だが、高潔な騎士を絵に描いた様な彼に褒められるのは気恥ずかしいやら誇らしいやら、と複雑な気持ちだった。

 

「その少女が………む?」

 

 浩介から視線を移し、モモンは何やら妙な物を見た様に声を上げた。ノイントはその視線から逃れようとするかの様に、浩介の背中に隠れようとした。

 

「はて。君はどこかで………」

「ん、んんっ!」

 

 何かを思い出そうとするかの様にモモンは銀髪の少女をじっと見つめる。その横でユエはわざとらしく咳払いをした。

 

「サ……モモンさん。女性をあまりジロジロと見るべきではない、かと存じ上げます」

「へ? あ………」

 

 ユエからジト目で睨まれ、ようやくモモンはノイントのあられもない格好に気付いた様だ。ノイントもまた、顔を赤らめながらサッと胸を腕で隠した。

 

「あ、あー、すまない。とりあえず、これを着ているといい」

「……ありがとうございます」

 

 気まずい声を出しながら、モモンは顔を横に向けて自分のマントをノイントに手渡す。ノイントはローブの様に頭からスッポリとマントを被って自分の身体を隠した。そうして顔が見えなくなり、モモンはノイントに対してそれ以上の興味が無くなってしまった。

 

「モモン殿! こちらでしたか」

 

 保安署の職員の一人がモモン達に近寄る。しかし、その人物は浩介にとってもよく知る相手だった。

 

「あんた、確か店によく来てた……」

「そういう君は確かセバス殿の所の……」

「スタンフォード殿、彼を知っているのですか?」

「ええ、彼はセバスさんの店で働いていた従業員です。店に嫌がらせをしていたフリートホーフの構成員の逮捕にも、よく協力して貰っていました」

「なるほど。セバスの所の……」

 

 保安署の職員―――スタンフォードの説明にモモンは納得した様に頷いた。実のところ、モモン(アインズ)の中で浩介達をフリートホーフの一員がその場しのぎで逃げようとしているのではないか? と疑う気持ちもあったが、スタンフォードの証言でその疑念も解消された。

 

「それでスタンフォード殿、どうかされたかな?」

「はい! 別の拠点で“六獣”の一人が現れたと報告がありました! こちらは後は我々が処理しますので、モモン殿とユエ殿はすぐにそちらに向かって下さい!」

「分かった、すぐに向かおう。行くぞ、ユエ」

「ん、了解です」

 

 モモンとユエが頷き、次の現場へ向かおうとする。だが、モモンは歩き出す前に浩介達に振り向いた。

 

「ああ、そうだ。見た所、君は怪我をしている様だからこれを使うといい」

 

 そう言って浩介にポーションの瓶を手渡した。それは浩介がセバスの店でもよく見た魔導国製のポーションだった。浩介の記憶では、これ一本の値段はかなり高かった筈だ。

 

「従業員が怪我をしたと知れば、セバスも心配するだろう。これを使って傷を治したら彼女と一緒に安全な場所まで避難していてくれ」

「そんな何から何まで……本当にありがとうございます!」

「うむ。では、またな」

 

 貴重なポーションをポンと渡してくれた漆黒の騎士に、浩介は感謝を込めて頭を下げた。

 物語の英雄の様な立ち振る舞いのモモン―――アインズと、神の使徒“だった”浩介達の邂逅はこれで終わった。

 

 ***

 

「すげえ……一気に傷が治っていく」

 

 ポーションを振り掛けた途端、塞がり切ってない切り傷や失った体力が急速に回復していく。

 後日に事情聴取は受けないといけないが、スタンフォードの口利きで浩介達はそのまま帰る事を許されていた。フリートホーフの拠点が密集していて、今は鉄火場となっている風俗街を抜け、浩介達はフューレンの夜の道を歩いていた。

 

「ノイントさんもケガしていたら……ノイントさん? どうかしたのか?」

「え………いえ、なんでもないです」

 

 浩介から声を掛けられ、先程から黙っていたノイントは慌てて顔を上げる。しかし、頭の中では先程見た金髪の少女の事を考えていた。

 

(あの少女はかつてエヒトルジュエ様が器として注目していた吸血鬼………あの魔法力からして他人の空似という事もないはず。まさか生きていたとは………)

 

 確か彼女の叔父がクーデターに見せかけて少女をどこかへ封印し、それに怒り狂ったエヒトルジュエによって吸血鬼の一族は滅んだ。これは恐らく、エヒトルジュエだって予想だにしていなかった事だろう。

 

(これをエヒトルジュエ様にお伝えすれば、きっと………)

 

 エヒトルジュエからすれば、失ったと思った器が見つかった事に喜んでくれるだろう。それこそノイントの失態など帳消しにして貰える程に。

 そして———実体を得たエヒトルジュエはノイントや姉妹達を引き連れて、この世界(トータス)を滅亡させるのだろう。

 もうこの盤上遊びに飽きた。ただ、それだけの理由で。

 

「………………」

 

 そこまで思い至った途端、ノイントの中で器の吸血鬼の存在をエヒトルジュエに知らせようという気持ちは失せてしまった。同時にノイントは立ち止まってしまう。

 

「ノイントさん?」

「私は………あなた達の場所に帰って良いのでしょうか?」

 

 浩介が不思議そうに見つめる中、ノイントは独白する様に呟く。

 

「どうして? べレアさんやチビ達だって心配していたんだぜ?」

「でも………私には、彼等の元に戻る資格なんて………」

 

 元々は修道院にいるべレア達が聖教教会の歪んだ教義の犠牲者だと知り、それを主導したのが自分だったからノイントは耐えられずに出て行ったのだ。今更、顔を合わせられない。そんな思いが強かった。

 

「……なあ、ノイントさん」

 

 浩介は未だに俯くノイントに近寄り———そっと抱き締めた。

 

「あ………」

「俺は遠藤浩介。地球という異世界から来て、元は勇者一行(パーティー)の一員だった。地球では両親と、兄貴と妹がいる」

 

 突然の自己紹介にノイントは戸惑う。だが、抱き締められた身体を拒絶しようとは思わなかった。

 

「俺の事を話すとこんな感じかな。それで……俺はノイントさんの事が好きだ。どうして、とか聞かないでくれよ? だって一目惚れしちゃったんだからしょうがないじゃないか」

 

 ドクン、ドクン、ドクン。

 浩介の胸の鼓動がノイントに伝わる。その音と同じくらいノイントの胸も高鳴っているのを感じていた。

 

「だから、いなくならないでくれ。俺はノイントさんの事をもっと知りたいし、もっとたくさんの事を話したいんだ」

 

 ギュッと抱きしめる力が強くなる。

 引き離さなくてはいけない。拒まなくてはいけない。

 だって、こんな感情は罪人の自分が受け取って良い物ではないから。

 それなのに………。

 

「ノイントさんが出て行くなら、俺は何度だって探し出しに行く。だって、俺にとってノイントさんはこの世界で見つけたたった一つの光なんだから。どうしてもべレアさん達の所に戻れないというなら、俺もノイントさんについて行くよ。だって、失くしたくないから」

「そんな事………言わないで下さい」

 

 ノイントがギュッと浩介を抱き締め返す。その目から、かつてなら流れる筈がない涙が伝っていた。

 

「そんな事を言われたら……もう、どこにも行けないではありませんか………」

 

 かつて神の遣いだった人形は思い知る。自分はもう、とっくに壊れていたのだ。背中の翼を失くして、この身は自由に飛べなくなっていた。たった一人の少年の元から飛び去ろうと思えないくらい、自分はどうしようもなく天使(人形)として壊れていたのだ。

 天使(人形)から人間へと堕ちた少女は、涙を流しながらその事実を噛み締めていた。

 

「………家に帰ろう。皆、待ってるから」

 

 浩介の言葉にノイントはコクリと頷く。そうして二人で再び歩き出そうとして———。

 

「……? 何だ、なんか変な音が———!?」

 

 ふと浩介の耳に何か低い音が響いた。それはどこか旋律を伴っていて、まるで誰かが遠くで歌っている様な……。そこまで思い至った途端、浩介の身体から力が抜けていくのを感じた。

 

「なんだよ、この音……!? ノイントさんっ……!」

 

 貧血を起こした様にふらつきそうになりながら、浩介は蹲ってしまったノイントを支える。彼女もこの音の影響を受けていると考えた様だ。

 だが、それは彼の勘違いだった。頭の中まで響き、背筋を凍らせる様な旋律。それを思い出し、ノイントの震えが止まらなくなったのだ。

 

「こ、この歌は………!?」

 

 ***

 

「クソがクソがクソがクソがクソがああああっ!!」

 

 “六獣”の一人、“千剣"のフーガは苛立ちを隠し切れずに吠える。そのくらいフリートホーフの形勢は悪くなっていた。

 

「他の“六獣”どころかボスまでやられただと!? 噂の“漆黒のモモン”はそこまで化け物だってのか!!」

 

 今し方、自分達のボスである“闘鬼”デイモスがモモンと一騎打ちして敗れたと報告があった。それどころか違法サロンで迎撃に出ていた“死屍魔女”モイラは死体が確認され、“双子剣”のエイロス・エリス兄妹に至っては全く連絡がつかない。さらにはモモンの仲間達の働きにより、次々とフリートホーフの拠点が落とされているという。

 

「冗談じゃねぇ! こんな所で負けを認められるか!!」

 

 フーガは事実を認められない様に血走った目でフリートホーフの保管庫を目指していた。

 元々、フーガは王国の騎士だった。だが、暴力に酔って魔人族や犯罪者に対して残忍な振る舞いをする事が多く、それが理由で騎士団を追放されていた。ほぼ同時に同期だったメルド・ロギンスが騎士団長に就任したと聞き、そしてそのメルドが“王国最強の騎士"と人々から持て囃されているのを見て逆恨みに近い感情を抱いた彼は強さを求めて闇の世界へと身を投じたのだ。そこには表には出ない強者達が自分以外にも五人もおり、今の組織で力を蓄えたらメルドを倒して自分こそが王国最強だと名乗り上げようとしていた。

 だからこそ、今の状況など認められない。取るに足らない雑魚と思っていた冒険者や保安官達に追い詰められているなど、そして彼等に対して尻尾を巻いて逃げるなどフーガのプライドが許さなかった。少なくともこの騒動で最強格であるモモンの首を取れなければ、彼の気は済まなかった。

 

「確かここにあった筈だ! どこだ?」

 

 保管庫に押し入る様にして侵入する。本来なら厳重に鍵が掛かっており、たとえ“六獣"であっても許可なく立ち入りは許されないのだが、あちこちで起きている拠点の襲撃で不利を悟ったか、見張り番などの姿はなくフーガは保管庫に立ち入っていた。

 フリートホーフの保管庫は彼等が掻き集めた資金は元より、表では捌けない違法なマジックアイテムや呪物の類いも収められている。

 例えば、理性や寿命と引き換えに凄まじくステータスがあがる禁呪の薬品の類いであったり、王国や帝国の宝物庫からこっそりと横流しされた曰く付きのアーティファクトといった物だ。それらを使えば、モモンをも超える力が手に入る筈だ。

 

「あった! これを使えば……!」

 

 目的の物を見つけてフーガは手を伸ばす。

 だが———まさに測ったかの様なタイミングで、突然保管庫に轟音が響いた。

 

「な、何だっ!?」

 

 鋼鉄で覆われた壁が、まるで“分解"されたかの様に砂となって崩れ去る。崩れ去った壁から保管庫に入ってきた人影を見て、フーガは反射的に保管庫の壁にかかっていた剣で斬りかかった。

 フーガは自らのスキルで、使用した武器が破壊される代わりにステータスの十倍近い一撃を出せた。だからこその“千剣"。いくつも帯刀しているのは武器の数だけ、必殺の一撃を“限界突破”のリスク無しに繰り出せ、この保管庫の様に武器が転がっている場所はさらには弾数が跳ね上がる事を意味していた。

 

「がはっ!?」

 

 たが、それよりも早く。侵入者の剣はフーガの心臓を貫いた。

 

「La……La、La……LaLaLa……♪」

 

 フーガが事切れる前。彼は侵入者の姿を見た。

 背中から黒い翼を生やし、事切れたフーガを見ながら微笑んで歌っている、人形の様に端正な顔立ちをした堕天使の姿を。




>ナレ死した“六獣"

 スマン、飽きた(笑)。どうせナザリックの餌食になるだけだし、書くのが面倒になったというか……。まあ、ナレ死したボスについては設定ぐらいはいつか書く。多分。

>堕天使さん

 浩介とノイントが綺麗に恋が実った所を自ら台無しにしてくスタイル(笑)。
 ところで関係ない話で恐縮なんですけどね、失楽園というのは堕天使ルシファーによって天使達の三分の一が一緒に堕天するそうですよ。
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