なんか前話で勘違いしている方が多かったので、そのまま推し進める事にしましたとさ。
フリートホーフと保安署・冒険者ギルド連合の戦いは熾烈を極めていた。主だった幹部やスポンサーである貴族達は地下通路で逃げ出したが(それも実はマーレによって拉致ないし殺害されているが)、彼等を逃がす為に足止めを命じられた下っ端達は保安官や組合の冒険者達を相手に戦っていた。
「くっ、カシム! いい加減降参するんだ!」
「クソがっ! 誰が大人しく捕まるかってんだ!」
冒険者達は保安官達と連携を取りながら、フリートホーフの構成員達と斬り結ぶ。フリートホーフの構成員の大半は、冒険者ギルドが経営難の為に見切りをつけて鞍替えした元・冒険者だ。中には知り合いもいる為に冒険者達の中には投降を呼び掛ける者もいた。
「こちらには“漆黒のモモン”も味方についているんだぞ! 彼を敵に回してまでフリートホーフに与する理由があるのか!」
「うるせえ! まだ数はこっちが多いんだ! 今さら後戻りなんて出来るかよ!」
カシムと呼ばれた男は自棄を起こした様に口角泡を飛ばしていた。彼とてフリートホーフにそこまで忠誠を誓ってなどいない。だが、自分と同じ様に冒険者ギルドから鞍替えしている者が多いこと、そしてここで投降した所で自分の新たな収入源が見つからないという事実があった。冒険者ギルドが規模を縮小させ、人員整理が行われた事で彼は仕事を失い、そこにフリートホーフがそれなりの収入を提示したからカシムはギルドから鞍替えしたのだ。
仮に今回の事を罪に問われなかったとしても、待っているのは仕事が見つからない極貧生活だ。今まで冒険者以外の仕事をやってこなかった彼が再就職先を探すなど容易な話ではなく、精々が飢えを凌ぐのがやっとな賃金で肉体労働するくらいしかアテは無い。内乱で荒れている王国ではそれすらもとても難しいだろう。
そういった事情を持つ者はカシム以外にも多く、明らかな劣勢であってもフリートホーフ側に鞍替えした冒険者達は手を引こうとしなかった。
「この分からず屋が! ……なんだ?」
うまくいかない説得に冒険者が毒づいた時だった。唐突に彼等の耳に何か耳障りな音が響いた。それはフリートホーフの構成員達も同じだ。彼等もまた、耳に響いた不思議な音に怪訝そうに顔を見合わせた。
耳の奥まで響いてくる様な、そして背筋が寒くなってくる様な音。
気が付けば乱戦をしていた全員が手を止めて、音の出所を探る様に空を見上げていた。
「一体、何の音だ……っ!?」
突然、彼等に立ちくらみを起こしてふらついた。まるで三半規管が狂った様に立っているのも難しくなった。一瞬、敵の魔法によるものか! とお互いが相手を見るが、敵味方関係なく地面にへたり込む様に手を突く姿に困惑した表情になった。
「おい、どうなってやがる!?」
「お前達の仕業じゃないのか!」
「知らねえよ、こんなの!」
「お、おい。あれは何だ?」
混乱して双方が怒鳴り合う中、冒険者の一人が何かに気付いて空に向けて指差した。それにつられて周りの者も上を見上げた。
フューレンの夜空。街の灯りに負けずに輝く満天の星に、月の光に照らされながら佇む人影があった。
「天使……様……?」
誰かがポツリとそう呟いた。月光でくっきりと浮かび上がった人影は、
『La〜♪ La,La〜♪ LaLaLa〜♪ LaLaLa……♫』
翼を生やした女性達が夜空を背に歌う。それはここにいる全員が、教会のステンドグラスや聖書の挿し絵などで一度は見た事のあるエヒト神の遣い―――天使の姿に酷似していた。だが彼等の記憶にある姿とは違って、背中の翼は鴉の様な濡羽色であり、身に付けている鎧も細部が異なっていた。鏡の様に輝く金属の胸当ては胸の谷間どころか下乳まで見える形状をしており、本来ならば内臓があるから重厚に守るべき腹は臍が丸出しで艶めかしい腰のくびれがはっきりと見え、女性の貞淑な部分を隠すショーツは必要最低限な布面積しかなく鼠径部は外気に晒されており、それが天使の神聖さと共に淫靡さを与えていていた。
『La〜♪ La,La〜♪ LaLa〜……♫』
天使達は歌う。それは耳どころか脳にまで浸透する様な声で、いま自分達に起きている立ちくらみはそれが原因だと理解するには十分だった。だが、それを頭で理解しても身体が動かなかった。夜空をステージにして歌う天使達の姿はそれだけでも美しく、淫靡で退廃的な姿から紡がれる聖歌隊の様な美声は魔性の美でこの場にいる全員を魅了していた。
まるでセイレーンだ。船乗り達の間でまことしやかに噂され、美しい歌声で船乗り達を海へ引き込もうとする女の姿をした魔物。真相は海で歌っていた海人族を見間違えただけではないか? と言われながらも、今もなお船乗り達の間で存在を信じられている海難事故の立役者。その姿を冒険者達は目の当たりにした様な気分になっていた。
ふと宙に浮かんでいた天使の一団がゆっくりと降りてくる。その中の一人がフリートホーフの構成員の一人の元に舞い降りてきた。
「あ、ああ………」
魔性の美を携えた天使の降臨に彼は口を開けながら辛うじて呻き声を上げた。天使の顔はどこか人形の様に作り物めいているが、それも人間には出せない神秘的な美貌を感じさせた。男の生涯において、これ程の美女が自分のすぐ側に近寄った経験など無く、男はただ呆けた様に天使を見つめる事しか出来なかった。
天使は歌いながら男の頬に両手を添える。それは聖書の挿し絵に描かれた、死した勇者を天上のエヒトの国へ迎え入れる為に降臨した場面を思わせた。
天使は我が子を慈しむ様に男の頭を自分に引き寄せ———ニィッと口の端を吊り上げた。
「えっ」
パァンッ、と水風船が破裂した様な音が辺りに響く。それと同時に辺りに真っ赤な液体が飛び散った。突然の事態に冒険者達が呆気に取られる中、天使は握り潰した頭を見て楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「な………なんっ、」
『LaAAAAAaaaaah!!』
突然、天使が先程の美声のままに大音量を上げた。冒険者達が耳を押さえながら苦しむ中、上空にいた天使達も次々と急降下してきた。
「ひっ、ぎゃああああっ!?」
「や、やめ……ぐああぁぁっ!?」
天使達は一斉に笑顔を浮かべながら、集まった人間達を攻撃しだす。どこからか取り出した双剣で斬り刻まれ、あるいは魔法で火だるまにされ、フリートホーフの構成員達は悲鳴と断末魔をあげた。
「やめろおおおおっ!!」
ギルドの冒険者達が天使達に武器を振りかぶる。いかに相手が天使とはいえ、目の前で暴れ出したならば放置できない。まだ天使の歌の影響でふらつく身体を叱咤して、虐殺を行う天使達を止めようとした。
『AaaahhhAaaahaaa!!』
「ぐわっ!?」
だが、天使が再び大音量をあげた。もはやそれは音響兵器と呼ぶべき物で、黒翼を振るわせながら出された
「ジェイコブ、無事か!?」
「ぐっ……大丈夫だ! うっ……!?」
仲間に無事な事をアピールしようと立ち上がろうとしたが、彼はすぐに力が抜けた様に膝をつく。天使達の歌声はまだ続いており、力が抜けていく感覚に苛まれたのだ。
「ひぃ、ひゃああああああっ!?」
「カシム!?」
天使の一人がカシムの身体を掴み、そのまま上空へと飛び始めた。まるで射ち出された様な速度で一気に空高く舞上がり、急激な上昇で頭痛や眩暈を彼は感じていた。
「お、下ろせ! 下ろしやがれっ!!」
天使に身体を掴まれたまま、カシムはジタバタともがく。もはや相手が天使なのか、美女であるかなど関係ない。目の前で仲間を殺された姿を見て、彼にはもはや恐ろしい魔物にしか見えなかった。
『――――――』
もがくカシムを見て、天使がニィッと笑う。最初に見た神々しさなど感じさせない嗜虐的な笑顔に、カシムの背筋にゾッとしたものが奔る。
「っ!? ちょっ、まっ———!?」
カシムが言い切る寸前。天使は掴んでいた手を離した。同時に重力に従って、カシムの身体が地上へと落下を始める。
「あ……ああ、あああぁぁぁああああっ~~!?」
ビュウビュウと風の音を耳に感じながら、カシムはあらん限りの声で絶叫した。
周りを見渡せば満天の星。約十秒の
だが、そんな物など目に入らず、カシムの脳裏にはフリートホーフに鞍替えしてからも送金を続けていた相手が浮かんでいた。
「おっ
―――グシャッ!!
***
「ふんふん、ふんふ~ん♪」
フューレンのとある屋敷の一室。元はフリートホーフの首領の邸宅だったが、その首領をナザリックへ
「意外とこういう趣向も楽しい物でありんすね。礼を言うでありんすよ、ナグモ」
傍らにいるナグモに声を掛けたが、ナグモはフンと不機嫌そうに鼻を鳴らすだけだった。彼の前にはいくつもの映像が宙に浮かび上がっており、その映像には“天使達”が暴れる姿が映し出されていた。
「シャルティア。何度も言うが、殺して良いのはフリートホーフの構成員だけだ。絶対に――――――」
「はいはい、分かっていんす。赤いバンダナを腕に巻いてる人間共は殺さない様にでありんしょう? 耳にタコができるほど聞きんした」
煩わしそうな顔になるシャルティアだが、オルクス大迷宮で一度やらかしているからこそナグモは信用していなかった。だからこそ、シャルティアを見張る為にここにいるのだ。本当に大丈夫か、ともう一度聞こうとしたが横から待ったをかける人物がいた。
「大丈夫だよ、ナグモくん。何か緊急事態が起きても私が“使徒”の能力で停止命令を出すからね」
「香織………」
「
「……あ、ああ。そうか」
ナグモにとって最愛の恋人である香織が安心させる様な笑顔を浮かべる。
だが―――何故かナグモはその笑顔を見ても心が安らがなかった。
「やれやれ、相変わらず相思相愛で結構なこと。こっちはやっと調教が終わった“お人形”達を使わなきゃいけないというのに」
「あはは、ごめんなさい。でもシャルティア様、あの“使徒”達はいい加減飽きてきたとか言っていませんでした?」
「そうでありんすよねえ。最初は何も知らない無垢な存在に快楽を教え込むのも楽しかったのでありんすが、同じのが何体もいてもねえ……。最初の一体以外はもうほとんどただの作業になりんしたもの」
「へえ……因みにどんな調教をしていたんですか?」
「おや? お前も興味がありんして? 例えばでありんすね―――」
シャルティアと香織が和気藹々としながら、エヒトルジュエの“真の神の使徒”について話し出した。
いま冒険者達やフリートホーフの構成員達を相手に暴れ回っている天使―――その正体はナザリックによって捕獲されていた“真の神の使徒”だった。
先のアンカジ公国での戦争の際、“真の神の使徒"達のほとんどは香織の『堕天の魔歌』によって同士討ちや自害させられたが、その中で奇跡的に生き残った個体はナザリックに連れて帰られていたのだ。そしてナザリックの技術研究所で研究サンプルや実験材料にする物以外、数体の“真の神の使徒”がシャルティアに預けられ、今に至っていた。
香織の能力を介さずとも直接的な命令が出来る様に、シャルティアには“使徒”を解剖した際に解読した固有周波数を発生するマジックアイテムが渡されていた。これによりシャルティアはまさにオーケストラの指揮者の様に“使徒”達を操っていたのであった。
「―――だから人形同士で調教役と奴隷役をやらせてみたりしたんでありんすが、どいつもこいつも似た反応しかしないから飽きんしたのよ」
「仕方ないですよ、だって作ったのが
「ふぅむ。作り手が三流なら、人形も三流という事でありんすか。まあ、至高の御方と並ぶべくもないんしょうけどね」
二人は和気藹々とした雰囲気で雑談に興じる。最初はナザリックにとって異物でしかなかった香織だが、最近ではセバスやプレアデス達以外にもこうして話が出来るくらい受け入れられていた。シャルティアに至っては、本人が
その事は………ナザリックに香織が迎え入れられた事を示す、喜ばしい事の筈なのに。
「………………」
「どうかしたの? ナグモくん」
「いや………それよりシャルティア。“使徒”達が攻撃する街の区画は覚えているな? 万が一にもセバスの商店や屋敷には被害を出すな」
「あー、もう分かってるでありんす! 妾だってセバスの努力を無下にしない気遣いぐらいありんしてよ!」
「
香織が頷きながら同意する。少し前までセバスを批難していたが、アインズによってそれが誤解だと分かった今はセバスがフューレンでしてきた努力を否定する気は無い様だ。
だが、そこに今現在も“天使”達に殺されている人間を気にかける様子など全くなかった。
ナグモは目の前の映像を見る。そこにはフリートホーフの構成員達が―――多くの人間達がシャルティアに操られた“天使”達によって死んでいく。はっきり言って、こんな物は茶番だ。エヒトルジュエの使徒を装い、人間達を殺す事で絶望的な状況を演出している。
何より―――何故かこの光景を面白くないと思っている自分がいた。
(これがアインズ様の支配に役立つ事は理解できる………だが、こんな茶番を本当にやる意味があったのか? それに香織は………香織は、これを見ても何とも感じないのか?)
元が人間である彼女には、相手がフリートホーフに与した悪党とはいえ人間が大量に死ぬ光景など気分を害するだろうと思っていた。だが、デミウルゴスから作戦の概要を聞かされた時、香織はむしろ嬉々として承諾したのだ。
そうして香織がナグモの予想に反してやる気を見せる中、“人間嫌い”な筈の自分が目の前の光景に抵抗感を覚えているのだ。フリートホーフの構成員達などナグモにとっては赤の他人だし、そんな彼等が死んでいく事に対しては何とも思ってはいない。先程、セバスと共に片付けたフリートホーフの用心棒達だって、そうする必要があったから殺したのだと胸を張って弁明できる。
だが―――この事を胸を張ってやれるかというと。自分を慕うあの少女が、もしも真相を知ったらと思うと………そして、この身を創り出した六本腕の機神に胸を張れるかというと………そう考えると、どうにも嫌な気分だけしか胸に残らない気がしていた。
しかし、これを最愛の彼女は嬉々として行っている。アインズの為に役立つ。それはナグモだって同じ想いだ。そうなると間違っているのは自分なのか、それとも………。
(僕は……何を………)
何か間違えてしまったのか。もしそうだとして、その間違いとは何だったのか。人智を超越して創られた筈の頭脳は、ナグモが望む答えを出してくれそうになかった。
そうして答えの出ない袋小路の思考に陥りそうになったナグモだが、ふと画面の端で違和感に気付いて思考がそちらに逸れた。
「シャルティア。お前が連れて来た“使徒”は全てあそこにいるんだな?」
「だーかーらー、何度もしつこいと言ってんしょうに………妾が指揮しているので全部でありんす!」
「まあまあ、シャルティア様。ナグモくんはミュウちゃんの事があるからちょっと神経質になっているんですよ」
香織がシャルティアを宥めているが、ナグモはその遣り取りに注意を払っていなかった。“使徒”を介しての中継映像とは別に、街全体に広域レーダーを展開させて“使徒”達の現在地を把握していた。
それにも関わらず。“使徒”の反応が一体、作戦予定に無い地点に見つかったのだ。
それが何か、ナグモは即座に判明させようとする。ステルス型のマシン・ゴーレムを操り、カメラ・アイから現場の状況を脳内ネットワークに直接映し出させて―――。
「これは……確か、あいつは……!」
そうして――――――とうとう彼は楽園から逃げ出した者達をその目で発見した。
エヒト「これは悪質なデマだ! ナザリックによる風評被害だ!」
なお、自分が解放者にしてきたこと(ry
懲りないマッチポンプです。まあ、自国に核を落とすゆかりん王国よりはマシじゃないかな多分。
因みに作中であれこれ書いてますけど、要するに“真の神の使徒”改めて“ナザリックの使徒”が着ているのはエロビキニアーマーです。完全にシャルティアの趣味です。
>ナグモが最後に見たもの
み~つけた♪