ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 また作中で“使徒”関連の設定を変えてますが……すまん、前回のは忘れて(土下座)
 こっちの方が良いと思ったら過去に出した設定でも変えたくなるので。


第百六十四話「竜人族の戦い」

 フューレン観光区。

 フューレンは商業の街であると同時に、闘技場や水族館、サーカスや音楽ホールなどの娯楽施設が揃った観光街としての側面もあった。

 多くの人間を収容できるという面から、避難民達は観光区の闘技場に集められていた。いつもは血湧き肉躍る剣闘士達の戦いが見られる闘技場は、客席はおろかフィールドにも避難してきたフューレンの住民達が詰め掛け、外から聞こえる天使達が街を破壊している音に人々は怯えた顔を見合わせながら身を震わせていた。

 

「避難所はこちらです! 慌てず、周りをよく見て我々の指示に従って下さい!」

 

 そんな中、竜人族達が背中の竜翼で飛び回りながら避難指示を出す。闘技場の外壁に避難してきた住民達を守る様に武装した竜人族が立ち、ヴェンリは闘技場全体に聞こえる様に声を上げながら指示を出していた。

 

「怪我をしている方はボックス席へ! 医療に心得がある者がいますので、そちらを仮設診療所とします!」

「医者がいたら名乗り出てくれ! どうか協力をお願いする!」

 

 ヴェンリと共に保安官のスタンフォードの声が響く。最初は人間ではない竜人族達を警戒する者もいたが、避難民を救助しようとする姿を見て大人しく指示に従っていた。何より外ではまだ天使達が街の破壊を続けており、差し迫った危機から脱するには彼等を頼りにするしかないという理由もあった。

 

「ヴェンリさん!」

 

 指示を出していたヴェンリに声を掛ける者がいた。

 

「ユンケル様」

「いやはや、大変な事になりましたな」

 

 そこにモットー・ユンケルを含めたフューレン合議会の商人達がいた。商店でもセバスやティオが不在時に応対を任された事もあり、ヴェンリは顔馴染みのモットーの元へ降り立った。

 

「あれは……エヒト様の天使なのですかな? まさか聖書の存在が実在するとは思いませんでしたが」

「ええ、おそらくは。ですが、聖書に描かれている様な慈悲深い存在などではありません。現にアンカジ公国は魔人族に与した天使達によって、いくつかの村が焼き払われたと聞きます」

「その話は私も聞いております。魔導国が救援を送らなければ、公国そのものが危なかったとか。ところで……あなた方は竜人族なのですか?」

 

 ティオの声がした黒竜、そして目の前のヴェンリ達の背中から生えた鱗のある翼。これだけ見れば、ティオ達が聖教教会において異端として五百年前に滅亡した筈の竜人族だと推測するのは容易かった。ヴェンリは少しだけ目を伏せながら頭を下げた。

 

「……今まで素性を隠していた事は申し訳ありません。ですが、我々も理由あっての事です。御容赦下さい」

「いえいえ、それは別に良いのです。貴方達“チャン・クラルス”商会は我々に誠実だった。今もフューレンの街の為に必死で戦ってくれている……街を襲っている天使達などより、ずっと信頼が置ける方なのですよ」

 

 モットーの言葉に周りの合議会の商人達も頷く。彼等は商人の気質として信仰心より実利を優先させる考え方をしているというのもあるが、それ以上に“チャン・クラルス”商会がこの街で培ってきた信頼が大きかった。

 王国の“聖戦遠征軍”によって物資を安く買い叩かれて困窮しそうだった他の商会に魔石や商品を低価で卸し、フリートホーフの台頭によって脅しをかけられていた所にも毅然とした態度で屈しなかった。何より、店主であるセバスは街で困っている人がいれば手を差し伸べてくれる善人だ。それに本人や親族などを助けられた者も多く、それを思えばティオ達が竜人族だったという事実など些細な事だ。

 

「ところでセバス殿はどちらに? あの方も竜人族だったのですか?」

「セバス様は………」

 

 ヴェンリは一瞬、言葉に詰まる。まず、セバスがいま何処にいるかは分からない。フリートホーフのアジトを潰すまでは一緒にいたが、念話で緊急の用事を受けた様で途中で別れたのだ。その後に天使の襲撃があり、街を襲っている姿を見て緊急事態としてティオが行動を起こしていたのだ。

 そしてセバスの素性についてだが、ヴェンリは上手く説明できそうになかった。セバス自身は自らを竜人と言っていたが、厳密には異形種という自分達と異なる種族らしい。また普通の人間の様に父母の間から生まれたわけではなく、至高の御方と呼ばれる存在に創られたという話だ。いずれにせよ、ヴェンリの知識ではナザリックのNPCとして創造されたセバスの話を半分も理解できていなかった。

 だが、ここで正直に話しても避難民達の不安を煽るだけだろう。そう判断したヴェンリは適当な受け答えをする事にした。

 

「セバス様は所用がある為に途中で別れました。ですが、あの方はきっと今もフューレンの人々を守る為に行動されていると思います」

「うむ。違いないですな、セバス殿はそういう御方ですから」

 

 セバスの性格を知るモットー達は納得する様に頷いた。

 

「ともあれ、セバス様が戻るまではあなた方の身の安全は我々が守ります。ティオお嬢様も戦っていますので、どうかご安心下さい」

「ありがとうございます。私達も何かお手伝いできる事はありませんかな? 同じフューレンの住民として、今は協力を惜しみませんよ」

「それでしたら———」

 

 モットー達の申し出に感謝しながら、ヴェンリは細かい指示を出す。避難民の為の医療品や食料品、それに衣類や毛布などは自分達だけでは賄い切れず、他の商会の協力も必要なのだ。

 様々な指示を出しながらも、ヴェンリは遠くで戦っているティオについて考えていた。

 

(お嬢様………どうかご無事で)

 

 ***

 

『LaaaAAAAAhhhhhh!!』

 

 フューレンの上空で淫靡な恰好をした“使徒”達が歌う。魔力が籠り、脳を揺さぶられる様な高音で出されたそれはもはや音響兵器に等しかった。

 

『グオオオオオォォォッ!!』

 

 黒竜に変身したティオが咆哮する。その咆哮は雷鳴の様に響き渡り、“使徒”の魔歌が搔き消されていた。同時に体に感じていた脱力感が抜ける。

 

『今じゃ! 妾達が奴らの歌を抑えている間に下がれ!』

「くっ……すまない! 恩に着る!」

 

 ティオの号令に地上にいたイルワ達冒険者は負傷者達を引きずりながら下がる。この期に及んでもう敵味方を区別する気は無い様で、フリートホーフ側についていた冒険者達もイルワの指示に従って負傷者を運んで逃げ出そうとしていた。それを見た“使徒”達がフリートホーフの冒険者達の背中へと急降下しようとした。

 

『おっと! やらせぬよ!』

 

 ティオや他の竜化した竜人族がブレスを吐いて“使徒”達の行く手を遮る。邪魔されて進行方向が逸れた“使徒”達を爪牙やブレスで冒険者達から引き離しながら、ティオは思考する。

 

(やはり……奴等の“歌”は他の攻撃と併用できぬ様じゃな)

 

 先程、ブレスで攻撃した時に“使徒”の一体によって防がれてしまったが、その時は“使徒”は銀色の魔力を纏っていた。同時に身体全体を人間の耳には聞こえない様な高音の膜で覆っている事をティオは見抜いていた。どうやらこれは音による鎧の様で、触れた物は“分解”されてしまうが、この鎧を纏う時は“歌”の効果が弱くなっていた。

 

(おそらくは“歌”も“分解”も同じ能力から派生したもの。そして、その能力とは音に関する物……お祖父様の言った通りじゃ。そこに注意すれば我らにも勝機がある!)

 

 かつてアドゥルが戦った時に聞いた情報から、ティオは目の前の“使徒”達の情報を組み立てる。ティオが推察した通り、“真の神の使徒”の能力とは特殊な音波に関係するものだった。

 元々の姿は絶滅したコウモリの魔物であり、その魔物は特殊な超音波を操る能力があった。それが獲物を誘き寄せる“魅了”であったり、超音波カッターの原理で敵を破壊する“分解”を行っているのだ。そういった幅広い能力の使い方に目をつけて、エヒトルジュエはその魔物を改良して“真の神の使徒”へと変えていた。しかし、弱点として音波の使用は両立ができないという点が残ってしまっていたのだ。

 つまり“魅了”の為に音波を使っている時は“分解”の出力が下がり、逆に“分解”を行っている時は“魅了”の効果が下がる。さらに“分解”でこちらの攻撃を防御する場合、直接触れたりしなければ攻撃へと転じられないのだ。

 

(奴等の能力は攻防一体というわけではない。そこにつけいる隙が必ず生まれる筈じゃ!)

 

 そう判断してティオは周りの竜人族達に声を掛ける。

 

『皆の者! 耳を澄まし、奴等の身体を注意して見るのじゃ! 甲高い音を響かせながら身体に魔力を纏っている時は迂闊に触れるな! “分解”されるぞ!』

『『『はっ!!』』』

 

 竜人族達がティオの指示に呼応した。“使徒”達は“魅了”の歌に効果が無いと悟ったか、身体に“分解”の魔力を纏いながら双剣で斬り掛かってくる。

 

『来るぞ! 皆の者、一斉にブレスを吐け!』

『『『グオオォォォォッ!!』』』

 

 竜人族達から紅蓮の火炎が吐かれる。並の人間なら骨も残らない火力が同時に向けられたが、“使徒”は自分の音波周波数を上げて火炎の息吹を“分解”した。だが、竜人族の一斉攻撃による圧が強く、“使徒”はその場から動けなくなっていた。

 

『GRAAAAAAAAAAR!!』

 

 ティオが咆哮する。だが、それは先程の様な“魅了”の歌を打ち消す咆哮ではない。体内で魔力を増幅させ、落雷の様に吐き出された大音量の咆哮は超音速の衝撃(ソニックブーム)となり、“使徒"が纏っていた音波の鎧を打ち崩した。

 

『La……!?』

 

 衝撃と同時に生じた鎌鼬に天使の身体が胴体を切り裂かれる。痛みを感じるより先に、竜人族達の火炎の吐息によって天使は消し炭と化した。

 

『まずは一体!』

 

 炭化しながら墜落する天使を見て、ティオと竜人族達は手応えを感じた。“エヒトルジュエの使徒”達は決して打倒できない存在ではない。故郷を滅ぼされてから五百年の間に研いできた力や戦術は決して無駄ではなかった。それを確信してティオ達は士気を高くしていた。

 

『LaaaAAAAAhhhhhh!!』

 

 仲間の一体が死んだのを見て、“使徒”達が怒りとも取れる甲高い声を響かせた。全身を覆う程の“分解”ではなく、自分達の剣だけに魔力を集中させて攻撃力を高めていた。

 

『させぬ! コォォォォォッ!!』

 

 竜人族達を守る様にティオは妙な呼吸音を響かせながら盾になった。それは空手で言う“息吹”に近いのだろう。呼吸と共に全身に気を巡らせる武術の技法だが、それを黒竜の息吹(ドラゴンブレス)で行えばどうなるか。たちまち体内に気と魔力を巡らせたティオの身体は鉄壁の様になり、“使徒”達の剣はティオの鱗に僅かに傷をつけるだけに止まった。

 

『お嬢様!』

『おぬし達の鱗ではこの剣は防げん! 妾が奴等の剣を止める故、その隙に魔力を高めて火炎の息吹を溜めるのじゃ!』

『っ、恩に着ます!』

 

 本来なら自分達が身を盾にして護らなければならない次期族長に、逆に身体を張って護られている状況に竜人族達は歯噛みするも言われた通りに動く。それこそが現状で最善の策であり、それを任せられるだけの信頼がティオにはあった。

 

『AAAaaaaah!!』

『緩い……緩いわっ!』

 

 “使徒”達がティオへ双剣を振るう。しかし、その全てを受けてもティオは揺るがなかった。

 

『この程度の痛み……旦那様の拳に比べたら全く感じぬわああああっ!!』

 

 ティオの固有スキル―――“痛覚変換”。

 受ける痛みが大きければ大きい程、彼女の魔力は更に出力が上がる。このスキルが目覚めるキッカケとなった婚約者の拳に比べたら、“使徒”達が振るう剣など御褒美にもならない。

 

『お嬢様! 魔力の充填完了しました!』

『よし、放て!!』

 

 竜人族達の号令にティオは斬り掛かった“使徒”にカウンターをくらわせる様に竜の尻尾を振るって引き離す。そして距離を取った“使徒”へ、再び竜の火炎と黒竜の咆哮が同時に浴びせられた。

 

『これで……二体目!』

 

 いける。ティオ達はそう確信する。竜化は魔力消費が大きくて長期戦に向かず、先程から全力のブレスを放つ為に消耗が大きいが“使徒”達を確実に倒している。かつてアドゥルが惨敗を喫した“使徒”達に自分達は勝利できる。まだ油断は出来ないながらも、ティオ達の胸に高揚が奔るのは無理はなかった。

 だからこそ―――ティオは気付くべきだった。“真の神の使徒”達が、どうして同じ顔をした少女ばかりなのか。エヒトルジュエが単に神の遣いを演出したいだけなら、多種多様な見た目でも問題無かった筈だ。それなのに同一個体の“使徒”にしたのは何故だったのか、と。

 

『Laaaaaa!!』

 

 “使徒”の一人が甲高い歌声を響かせる。だが、先程の様に“分解”の魔法を身体に纏った様子は無い。まさか今更“魅了”の歌か? と訝しむティオだったが、その“使徒”と合唱する様に別の“使徒”達も歌い出す。

 

『こいつら、一体何を……?』

『これは……っ!? いかん! 身体に魔力を巡らせるのじゃ!!』

 

 竜人族の一人が困惑した声を上げた所に、ティオが何かに気付いた様に焦った声を上げる。先程の攻防で気を取られていたが、気付けば“使徒”達は自分達を取り囲む様に布陣を変えていた。ティオがその意味を察したが、時は既に遅く―――。

 

 

『『『LaAAAAAAAaaaaaah!!』』』

『ガハッ………!?』

 

 “使徒”達の歌声が重なり、巨大なスピーカーの様に響き渡る。その衝撃によってティオ達は身体全体はおろか、一斉に口から夥しく出血した。

 共振現象という物がある。物体には一定の固有振動数があり、その振動数と同じ振動を与えると硬い物体でも破壊されてしまうという自然現象だ。現実においても巨大な橋が風の振動で倒壊する例がある。

 いまティオ達がくらったのはそれと似た現象だ。同一個体として揃えられた事で同じ周波数を出せる“使徒”達が一斉に歌声の振動を浴びせ、それによりティオ達の身体は外部どころか内臓から破壊されていたのだ。しかも“使徒”同士が共鳴する事で何倍も威力が高められ、地震のエネルギーに等しい衝撃を身体全体に受けたティオ達の身体は急速に墜落していく。

 

「ぐっ……うぅ……」

「お前、達………!」

 

 フューレンの街の地面に激突すると同時にティオ達の竜化が解けてしまった。内部破壊や落下時のダメージは竜化していた身体が幸いし致命傷には至らなかったものの、もはや起き上がる体力は残されていなかった。

 空に浮かんだ“使徒”達が取り囲む。それは愚かにも神に刃向かった異端者達へ審判を下そうとする光景の様で、ティオは地面に伏したまま悔しそうに天使達を睨むしかなかった。

 そうしてティオ達を見下ろす“使徒”達。だが、その身体に突然、攻撃魔法が飛び交った。

 

「今だ! 彼等を救うんだ!」

「おぬし達……!」

 

 イルワの号令の下、冒険者達が“使徒”達へ一斉に攻撃魔法を放ったり、弓矢や投石で立ち向かった。今までの戦いを見て、自分達の聖書に描かれていた“使徒”より、フューレンの為に戦うティオ達を味方すべきだと判断したのだ。中にはフリートホーフ側についていた冒険者もいる。彼等とて困窮の為に仕方なくフリートホーフについた者が多く、自分達の為に戦っているティオ達を見捨てて逃げる程に善性まで捨てていなかった。

 

「馬鹿者……! よせっ……!」

『LaAAAAAAAaaaaaah!!』

 

 “使徒”達が再び“魅了”の歌を響かせる。たちまち脱力感が襲い、ティオ達を含めて冒険者達も動けなくなってしまった。

 

『LaaAAAh!』

「くっ……!」

 

 “使徒”達が双剣を手に急降下してくる。それでも最期まで目を逸らすものか、とティオは覚悟を決め―――。

 

『Laaa、GA!?』

 

 次の瞬間。横合いからもの凄い速度で飛んで来た竜に、“使徒”の胴体が食い千切られた。

 それは竜化したティオよりも一回り大きな竜だった。黒色の鱗は黒檀の様な高貴さを伺わせながらも年季の入った大樹を思わせる重厚さを同時に出していた。瞳は赤々と宝石の様に輝き、しかし本能で戦う魔物ではあり得ない人間以上の知性を確かに感じさせた。

 “真なる黒竜(グランドドラゴン)”。

 そう呼ぶに相応しい黒竜を見て、ティオはふと思い当たったままの事を口にした。

 

「………旦那、様?」

『―――遅くなりました。申し訳ありません、ティオ』

 

 黒竜から自分が魂から惚れた男―――セバスの声が響く。

 周りの冒険者達から戸惑うどよめき声が聞こえたが、それでもティオはストンと心に落ちた。

 この姿こそが、セバスの真なる姿なのだと。

 

「ふっ……うむ、大遅刻じゃ……。女子を待たせるなど、男の風上にも置けませぬ………」

『………今はゆっくり休みなさい。あとは私が』

「すまない。君達には迷惑をかけた」

 

 真竜の姿となったセバスの背から別の男の声が響く。

 そこに黒い鎧を着た騎士がいた。

 セバスの背に跨った騎士―――モモンの姿をティオだけでなく、その場にいる全員が目撃した。

 

「この茶番は私が幕を引こう。征くぞ、セバス!」

『はっ!』

 

 まるで伝説に登場する真竜の騎士(ドラゴンライダー)の様にモモンはセバスの背に乗り、空中にいる“使徒”達へ立ち向かっていった。




>セバスの真の姿

 もちろんオリ設定です。原作では『とてもモンクには見えない姿』としか言われてないです。

>竜騎士モモン

 これがマッチポンプでなければ普通に格好良かったのだけども。
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