全年齢版である本編で掲載するにあたって、いくつか文章を変えているので成人の読者さんはR-18版と何処が違うのか探してみるのも面白いかもしれません。
「ちょ、ちょっと止めて! 光輝!」
深夜。雫は自室で大声を上げた。そこにはもはや顔も見たくない幼馴染みの少年が雫を押さえつけていた。思わず以前の呼び名で怒鳴った雫は、目尻を鋭く上げてキッと光輝を睨んだ。
「いきなり来て何よ!? もう顔も見たくないと言った筈よ!」
「雫、君は誤解しているんだ。雫は清水達なんかより、俺と一緒にいるのが相応しいんだ」
光輝は雫の手を掴んだまま、後ろから抱きつく様にして囁いた。学園にいた彼のファンクラブの少女達からすれば垂涎のシチュエーションだろうが、今の雫には気持ち悪さしか感じなかった。
「俺が雫の目を覚まさせる。これは雫の為なんだよ」
「何を言っているの!? んっ、ちょっと触らないでよ!」
戯れ言にしか聞こえない台詞を吐きながら、光輝が雫の身体に触れる。本能的に感じた気持ち悪さに雫は振りほどこうとしたが、それより早く光輝は雫の唇を奪った。
「んううううっ!?」
熱に浮かされた瞳で光輝はキスに没頭する。地球でも道端で芸能事務所から声を掛けられるくらい美男子な光輝にここまで求められるなど、普通の少女ならばときめく光景だろう。だが、光輝を嫌っている雫からすれば嫌悪感しか湧かない状況だ。口の中に入ってくるナメクジの様な舌に雫は涙を浮かべたが、それと同時に光輝の舌を通じて何かを飲まされてしまった。
「は、あっ……何を……!?」
光輝の身体を押し除けようとした雫だが、何かを飲まされたと同時に急に身体から力が抜けてしまった。手足に力が入らず、しなだれかかる様にして倒れそうになる身体を光輝は恋人の様に抱き締めた。
「何を……何を飲ませたの……?」
「大丈夫だよ。雫が素直になれる様になるだけの薬さ」
「っ……最低っ……!」
光輝は力の入らなくなった雫をベッドへと運ぶ。その間もずっと甘いスマイルを浮かべていたが、雫は唾を吐きかけたくなる程に寒気がしていた。おそらくは筋弛緩薬の類いを飲まされたのだろう。そんな物を使ってまで女の子を自分の物にしようとする幼馴染に対して、雫は精一杯の侮蔑を込めて睨んだ。
「大丈夫だよ……俺がちゃんと雫を気持ち良くさせてあげるから」
「いや………いやあああああっ……!!」
雫はあらん限りの声で叫び声を上げようする。しかし、薬のせいか雫の喉は満足に動かず、弱々しい声で痙攣する彼女へ光輝は覆い被さった……。
***
「おお、やってるねえ」
あの後………女としての尊厳を徹底的に奪われ、雫の意識が朦朧とする中。
見覚えのある少女がいつの間にか部屋の戸口に立っていた。
「それにしても……ぷっ、アッハッハッハッ! これが“学園の二大女神”と言われていた八重樫さんの姿かい? こんな無様な顔を晒してる女が? こいつのファンクラブの女の子達に見せてあげたいくらいだよね!」
「……なあ、本当にこんな事をやる意味があったのかよ?」
「もちろんあるさ。君もいつもみたいに八重樫さんを犯せて満足だったろう?」
光輝が少女に対して釈然としない様な声を掛ける。だが、その口調は普段の彼と違っており、まるで今までが演技だったかの様な不自然さが目立っていた。
「ほら、続けなよ。改竄しても八重樫さんの記憶に残る様に徹底的に犯してよね」
「へいへい……じゃあ、次は………」
「あ、あなた……一体だれ……?」
光輝ならば絶対にしない下卑た笑みを浮かべる男に、雫は息も絶え絶えに正体を聞こうとした。だが、すぐにまた始まった性の暴力に雫の意識は閉ざされた………。
***
早朝の時間帯。光輝は城の廊下を歩いていた。地球にいた頃の彼を知る人物がいたら、これがあの光輝かと目を疑っていただろう。常に自分の正しさを信じて自信に満ちていた顔は疲れ切って覇気が無く、目の下には傍目でも分かる程に隈が出来ていた。足取りも泥の中を歩いている様に重苦しいもので、“光の戦士団”団長として着ている純白の軍服は手入れを怠っている様に襟元がよれてる上に色も燻んでいた。
まるで激務に疲れ果てたサラリーマンだ。度重なる残業で身支度を整える暇も無く、日々の仕事に心身共にすり減らされているブラック企業のサラリーマン。光輝の学校での活躍ぶりから将来はエリートコースを歩むだろうと想像していた人間からすれば、いまの落ちぶれた様な姿はさぞかし驚くだろう。
「どうして……どうして皆、俺の話を聞いてくれないんだ……」
重苦しい心情を吐き出す様にどんよりとした声が光輝から呟かれる。それは頑張っているのに望んだ結果にならないという、今までの光輝の人生では無縁な不満だった。
アンカジ公国近辺の練兵場での反乱を皮切りに、ハイリヒ王国は各地で農民や諸侯の貴族達がエリヒド王に対して反旗を翻す内乱の絶えない国となっていた。その反乱の鎮圧に光輝達も駆り出される様になり、それが光輝に重い心労を与えていた。
どうして自分は同じ人間達と戦っているのだろうか。
自分達は魔人族から人間達を救う勇者として異世界に召喚された筈だ。
それなのに今は何故、その人間達に剣を向けなくてはならないのか。
(きっと……皆、きっと何か誤解をしているだけなんだ。落ち着いて話し合えば分かり合える筈なんだ。それなのに何で………)
反乱を鎮圧する為とはいえ、本来なら自分が守るべき王国の人間達と戦いたくはなかった。だからこそ光輝は鎮圧部隊と共に赴いた先々で必死に反乱を起こした人々に呼び掛けたのだ。
こんな事は止めるべきだ。
自分は貴方達とは戦いたくない。
きっと話し合えば分かり合える筈だ。
だが、そんな風に必死に説得しようとしても彼等は落ち着いて話を聞くどころか、怒り狂った様に武器や投石で光輝を攻撃してくるのだ。そしてやむを得ずに光輝が反撃に応じるというのがもはや定番の流れだった。“神の使徒"としての圧倒的なステータスがあるからトータスの一般人達などすぐに無力化できるものの、そうして生かして捕らえた反乱の首謀者達を監獄へ連行し、その度に恨みのこもった目を向けられる事に光輝の精神はすり減らされていた。
(人間同士が争い合うなんて野蛮で無意味な事なんだ……そんな事くらい子供にだって分かる様な話なのに、どうしてあの人達は………)
もちろん反乱を起こした民衆達の恨み言は光輝にも届いていた。
お前のせいだ。お前が考えなしに戦ったから自分達の土地が荒れた。“光の戦士団”のせいで生活が苦しくなった。魔人族との戦いに何も役立たなかった役立たずの勇者め。
だが、光輝からすれば全て謂れのない誹謗中傷だったのだ。
(確かに遠征した時にちょっとやり過ぎた時もあったさ……でも、あれは魔物を倒す為に仕方がなかったじゃないか! その後に畑山先生が被害に遭った土地を直した、ってイシュタルさんも言ってたじゃないか!)
だから何も問題は無い筈なのだ。自分達は人命に被害を出した事はないし、取り返しのつかない過ちを起こしたわけではない。壊してしまった土地も直しているのにどうして未だに怒っているのか。
(“光の戦士団”だって……皆で魔人族に立ち向かおうと言ったら、皆諸手を挙げて賛成しただろ! そりゃあ
“光の戦士団”や“聖戦遠征軍”の結成や維持費に大きなお金が動いた事は光輝でも理解できた。だが、魔導国が
そう言っているのに………反乱を起こしている民衆達は光輝の話を聞こうともしないのだ。
向けられる謂れのない悪意、各地で反乱が勃発している為に休む間も無いくらい連続する出撃命令。そして会話をしようともしてくれない民衆達。それらに光輝は身も心も疲れ果てていて、今日は本当に久々に王宮に帰ってこられたという有様だった。
(あの人達はどうして話し合いに応じてくれないんだ………いや、きっと何かワケがあるんだ。そうに違いない)
こんな時でも光輝の思考は自分に都合の良い解釈を求めていた。彼なりに考え、納得のできる理由を頭の中で作り出す。
(そうだ……この反乱は何故か急に各地で起き始めたんだ。きっと裏で糸を引いている黒幕がいる筈だ! それこそ魔導国の仕業に違いないんだ!)
魔導国は人間達が魔物に支配されている地獄の様な国だ、と光輝は聞いていた。アンカジ公国を魔人族から守ったのも魔導王が殺戮を楽しみたいだけだった、と聖教教会の人間や王宮の貴族達が言っていた。この世界に来てから、ずっとお世話になっている彼等を疑う気持ちなど光輝にはなかった。
(きっと魔導王こそが本物の魔王なんだ! そいつを倒してトータスに平和を齎すのが“勇者”である俺の使命なんだ! そうすればエヒト神も龍太郎達を生き返らせてくれる筈だ!)
そしてオルクス迷宮で攫われた幼馴染も魔導国にいるだろう。アンカジ公国の戦いで、香織を攫った裏切り者は姿を見せなかった。ならば何処にいるかというなら、やはり魔導国だろう。自分達や王国の人間達を裏切った様な奴なら魔導王に媚び諂って手下にしてもらい、香織を監禁できる様にしているのだと光輝は予測していた。
(だから人々を守る為にもいつかは魔導国と戦わなきゃいけないんだ! アンカジ公国やヘルシャー帝国も支配した様な国だ、きっとハイリヒ王国にも矛先を向けてくる! その為にも人間同士で争い合ってる場合じゃないのに……!)
人類の平和の為に魔導国に対して一致団結して戦わなくてはならない。しかし、その為にも各地の反乱を鎮圧して人々を説得しなければならない。
おそらくこうしている間にも魔導国の企みは進んでいる。それなのに事態を止められないもどかしさに光輝が歯噛みしていると、廊下の先で見知った後ろ姿を見つけた。
「雫!」
それまで暗澹としていた光輝の表情がパッと明るくなる。こうして雫と会うのもいつ以来だっただろうか。呼ばれた途端、雫の肩がビクッと震えたが久しぶりに会えた嬉しさに光輝は気付かなかった。
「久しぶり! なあ、雫。聞いて欲しい……香織の事だけど、きっと魔導国に―――」
「触らないで!!」
バシンッ! と肩に触れようとした手が強く叩かれた。かつてない程に強い拒絶に光輝の表情が固まった。
「え………ど、どうしたんだ? まだ俺の事を誤解しているのか?」
「誤解……? あんな………あんな事をして、よく誤解だなんて言えたわね!!」
雫は自分の身体を庇う様に抱き締めながら、光輝から距離を取って怒鳴った。まるで痴漢にでもあった様な反応だった。
「昨日の夜に私の部屋に突然押し入って、無理やり薬を飲ませて、それで……それで……! あんな事する様な男だったなんて見下げ果てたわよ!!」
「お、落ち着いてくれ! 昨夜? 一体、何の話をしているんだ……?」
涙すら浮かべて雫は怒鳴るが、光輝には話の内容が掴めない。そもそも先程に王宮に着いたばかりなのだ。それなのに何故、雫は自分が何かした様に語るのか意味が分からなかった。
「と、ともかく何か誤解をしているんだ! 雫、落ち着いて話をしよう!」
「いやあああっ! やめて、近寄らないで!!」
光輝は雫を落ち着かせる為に肩を掴もうとしたが、雫はまさに光輝に犯されそうになっているかの様に金切り声を上げた。
「雫様! どうされたのですか!?」
あまりに騒いでいたからか、近くにいたメイド達がバタバタと駆け寄る。その中には雫付きのメイドであるニアの姿もあった。
「ニアさん! 雫の様子がおかしいんだ、一体―――」
「助けて!! ニア、助けてっ!!」
光輝の言葉を遮る様に雫がニア達に助けを求める。
雫の肩を無理やり掴もうとしている光輝。そして涙目になりながら自分の身体を守ろうとしている雫。
その光景を見て、ニア達はしばらく驚きに固まっていたが―――すぐにキッと表情を鋭くさせた。雫がまだ寝込んでいた時、お見舞いと称して部屋に無理やり押し入ろうとした光輝の姿が思い起しこていた。
「雫様から離れて下さい!!」
「なっ……!?」
メイドの一人が雫を庇う様に光輝の前に立ち塞がる。その隙にニアが雫を保護する様に手を引き、光輝から逃げる様に連れ出した。
「雫様、こちらに!」
「ま、待ってくれ! 誤解だ! 俺は何も―――」
「言い訳など聞きたくありません!」
「勇者様が女性に乱暴を行う様な人だなんて幻滅しましたわ!」
「貴方も他の“戦士団”の男達と変わらなかったのですね!」
光輝は弁明しようと声を上げるが、雫を守る様に立ち塞がったメイド達はまるで女の敵を見るかの様に睨んでいた。たったいま見た光景はどう見ても雫に狼藉を働こうとした様にしか見えないのだ。何よりニアを始めとして彼女達は“ソウル・シスターズ”を自称するくらい雫を好いている者達だ。そしてこの後に雫から事情を聞けば、もはや光輝は彼女達に蛇蝎のごとく忌み嫌う存在となるだろう。
「どうか………どうか俺の話を聞いてくれっ!!」
周りから責められた光輝は必死に真実を訴えようとしたが、誰も聞く耳は持たなかった。
***
「あは、あはははははは!! 良いよ、最高の展開だよ!!」
光輝がメイド達に責められている姿を見て、物陰から恵里は腹を抱えていた。
「ここまで思い通りになるなんてねえ。いやあ、八重樫さんも最高の役者だったよ。本当は清水に好き放題されてるクセにさあ!」
望み通りに振る舞ってくれた雫に対して、恵里は嘲笑をもって讃えていた。
昨夜、雫の部屋に押し入った光輝の正体―――それは清水だった。彼は闇魔法で雫の認識を改竄して、自分が光輝に見える様に仕向けていた。そして、そうする様に指示をしたのが恵里だったのだ。
「それにしても……ブフッ! 何を今更、生娘みたいな反応をしてるんだろうね? もう既に色々な男に抱かれてるのにさぁ!!」
闇魔法で意識や記憶を改竄されている雫はその事実を知らないのだが、真実を知っている恵里は雫の状況を悪魔の様な笑顔で嘲笑っていた。
まだだ。まだ足りない。あの女は長年に渡って幼馴染というだけで光輝を誑かし続けていたのだ。だから女として、そして人間としての尊厳を粉微塵にする様な仕打ちをしないと恵里は気が済まなかった。
(ヤルダバオトは、その時が来るまで八重樫さんが急に消えても不自然にならない状況を作れ、と言ってたからね。じゃあさ……周りからいなくなっても気にも止められない最低の女にしてやれば、何も問題ないよねえ?)
今はメイド達は光輝を一方的に責めているが、冷静になれば昨夜に光輝が雫の部屋を訪ねるなど無理だと気付く者が出るだろう。そうでなくてもこんな事があった後ならば、夜中にも雫の様子に気を配る様になる筈だ。
だが、雫は今まで通りに清水のおもちゃとして抱かれてもらう。他にも雫が夜の街に繰り出し、金の為にふしだらな事をしているという事実を知れば彼女達も雫に幻滅する筈だ。現にクラスメイト達も薄々と気付いている者が出始め、ひそひそと雫のいない所で噂し合っていた。男子達は好色の目を向け、女子達は軽蔑の目で雫を見ている者もいる。いま雫が蒸発したとしても、周りからは『虚言癖のある少女がどこぞの男と夜逃げした』と判断されるのがオチだ。
ヤルダバオトの命令もこなせ、
「あぁ……可哀想な光輝くん。あんな嘘つきビッチの為に誤解されるなんて」
こっそりと伺っている視界の先では、光輝が必死にメイド達に弁明しようとしている。しかし“光の戦士団”の横暴さを知っている彼女達からすれば、光輝も檜山達と同じ部類だと思われてしまった様だった。これで周りからの信用を無くした光輝の
「たとえ世界中の人間が君を嫌っても、僕だけはずっと光輝くんの
だから、と恵里は呟く。
それは―――まるで切なる願いを口にする様に。
「今度こそ………僕に振り向いてくれるよね?」
悪魔に魂を売った魔女は、王子様から愛されたい為に陰で暗躍する。
邪魔者であるプリンセスを―――深い悪夢へと蹴落として。
>光輝
お前は光輝に何か恨みでもあるのか?(鏡を見ながら)
実は正解に辿り着いているけど、結局のところ「自分の活躍を奪った魔導国が嫌いでFA」なので妄想の域を出てないです。
もう今からでも遅くないから光輝更生ルートを入れてあげようよ、と思うこの頃。ただね……それをやっても魔導国と王国の戦争が本格化した時、檜山辺りがアインズに自分の身の安全を約束して貰う為に、光輝を背中から刺すという展開になりそうなんですよ……。
>恵里
今回のタイトルが示しているのはこの子の事です。今までの人生が悲惨だった彼女はシンデレラの様に王子様によって自分の人生が薔薇色になる事を夢見ており、その為にも王子様が好きな他のヒロインなんて邪魔なんです。
ぶっちゃけ雫をここまで酷い目にあわせているのは完全に恵里の八つ当たり。ヤルダバオトからすれば、誰がそこまでやれと言ったよ案件。(デミは雫の心情とか全く考慮しないけど)
本作ではただの眠り姫だったのに、愛しの光輝から愛を告げられる予定だった雫を徹底的に貶めたいと思っています。仮に光輝が雫の状況に気付いたとしても、実際にやってるのは清水だから彼に全ての罪を被せるつもりです。
こんな風に文字通り悪魔に魂を売った邪悪な魔女となった恵里ですが、ご安心下さい。
基本的に登場人物は“みんな”不幸な目に遭わせるつもりなので。