ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 本当はキリの良いところまで書きたかったけど、思った以上に長くなりそうだから分割する事にしました。その為に少し中途半端な場所で終わります。


第百六十六話「愛を感じて」

 モモン(アインズ)達を背に乗せたセバスはフューレンの闘技場に降り立つ。黒竜の姿から人間に戻ると同時に、歓声を上げながら闘技場に避難していた市民達が駆け寄ってきた。

 

「さすがはモモン殿です!」

「セバス様もお疲れ様でした!」

「金髪のお嬢ちゃんもありがとうな!」

「街が守られたのはあなた方のお陰です!」

 

 各々が口にするのは“邪悪な天使”から街を守る為に戦ってくれたモモン達に対する感謝だ。空でくり広げられていた勇壮な竜騎士の戦いを見て、後世にまで残る“伝説”の目撃者となれた事への興奮も冷めやらぬまま、市民達は英雄達を歓呼の声で迎え入れていた。

 その光景にアインズは骸骨である為に表情は浮かばないものの、気まずそうな曖昧な笑みを浮かべていた。事の真相を知る立場からすると、彼等の感謝はなんとも受け取り辛い。

 トントン、と背中を叩かれる。振り向くとユエが目配せしてきた。その意味を悟り、アインズはぎこちないながらも市民達に向かって手を振る。すると歓声が更に大きくなった。

 

(おっふ……胃が痛い……)

(これもマッチポンプの対価です)

 

 “伝言(メッセージ)”を使わずとも、二人の間で意思疎通が成立していた。

 そうして興奮した市民達に囲まれる中、人混みを掻き分けながら進み出る一団があった。

 

「旦那様! 見事な戦いぶりだったのじゃ!」

「ティオ!」

 

 身体の至る所に包帯を巻かれたティオに、セバスが歩み寄る。まだ少しふらついている彼女をセバスは抱き止める様に支えた。

 

「おい、あの女性は確か“チャン・クラルス”商会の女店主の………」

「あの方も街を守る為に戦ってくれた人だ。夫婦共々、なんて立派な方達なんだ」

「そ、そんな……! 既に奥方がいらしたなんて……セバス様ぁ……!」

 

 情報に疎い一部のマダムが悲鳴を上げながらも、市民達は二人を揃って讃える中でセバスはしっかりとティオを抱き締める。

 

「なんという無茶を……! 命を落とさなかったのが奇跡です」

「アイタタ……こういう痛みも……コホン、ではなく。街の皆が危険だったので、いてもたってもいれなかったのじゃ」

 

 セバスに抱き締められながら、ティオは悪戯っぽく微笑む。

 

「“困っている者がいれば、助けるのは当たり前”。そう言われておられたからのう」

「っ! 貴女という人は………」

 

 創造主(たっち・みー)が見せていた在り方であり、自分の矜持である言葉を言われてセバスは強く言えなくなる。同時に自分が大事にしている心意気を酌んでくれていた事に対する嬉しさも込み上げてくる。婚約相手としてただ一緒にいたのではなく、ティオはセバスの心に寄り添ってくれていたのだ。

 

「ティオ……」

「旦那様……」

 

 二人が見つめ合う。見た目はセバスがかなり高齢だが、美男美女が抱き合う姿は映画のワンシーンの様に絵になっていた。

 

「んっ、んん! ゴホン!」

 

 二人の世界に咳払いの音が混じる。アインズの咳払いにセバスは顔を少し赤らめながらティオから離れた。

 

「も、申し訳ありません、モモン―――殿。つい………」

「まあ、大事な奥方が無事だったのだからな。気持ちは分かる」

「誰かがイチャつく姿も見飽きてはいますけど………」

 

 ユエもどこか遠い目をしながらセバスを半眼で見ていた。仲睦まじいのは結構だがTPOは弁えて欲しい。

 

「セバス殿! モモン殿!」

 

 再び人混みをかき分けてアインズ達に声を掛ける人物がいた。フューレンの保安官のスタンフォードは、彼等に駆け寄ると頭を深々と下げた。

 

「ご無事でしたか! 本来なら街の治安を任された我々があの邪悪な天使達に立ち向かわねばならなかったというのに………ご協力を感謝します!」

「気にしないで下さい。それより、私の方こそあなた方に正体を隠していた事をお詫びしなくてはなりません」

「何を申されますか! 先程、モモン殿達と一緒にあの邪悪な天使達に立ち向かう姿を我々は見ております。それにセバス殿がこの街で貢献されてきた事を思えば、正体が竜人族であった事など些細な問題です!」

 

 厳密にはセバスはティオ達と違う種族なのだが、それをわざわざ話したとしてもスタンフォードは気にしないだろう。セバスの人柄を知る周りの市民達も、スタンフォードに同意する様に頷いていた。

 

「ありがとうございます。とはいえ、まだ騒動が完全に収束したわけではありません。避難を行った際の二次災害などもあるでしょう。我々に出来る事ならば協力致しますが、保安署の皆様の御力も借りたいです。署長はどちらに?」

 

 今回のフリートホーフの捕物騒動において、保安署長はフリートホーフとの癒着を疑われていた為に作戦から外されていた。しかし、今となってはそうも言っていられない。避難した市民達の統制は元より、“使徒”によって倒壊した建物もあるのだ。文字通りに猫の手も借りたい状況の中、保安署全体を動かす為にも署長に指示させる必要があった。

 そう考えていたセバスであったが、何故かティオとスタンフォードは表情を暗くさせた。

 

「その………旦那様。ちょうど、その事でスタンフォード殿と話していたのじゃが………」

「………逃げました」

「え?」

「だから、奴達は逃げ出していたのです! 我々が市民の避難をさせている最中に! 市民の安全を投げ出して!」

 

 開いた口が塞がらない、というのはこの事を言うのだろう。セバスがそんな顔をする中、アインズはスタンフォード達に遅れて来たユンケル達に視線を向けた。

 

「今の話は……本当なのか?」

「ええ。どうやらあの“天使”達から皆が逃げている間に、フリートホーフと繋がっていた役人達は逃げ出した様ですな。我々が避難した先とは反対方向に夜逃げする姿を目撃した者もおります」

「それだけじゃない! 奴等は自分達が逃げる為に馬や馬車も根こそぎ持って行ったのだ!」

 

 アインズ達の元の依頼者である行商人、リー・ポーディが怒りも顕に怒鳴った。

 

「あれは我々の馬だったのだぞ! 残った馬も“天使”達が襲った際に怪我をしていて、もう期日までに積荷を運べないではないか!」

「それは……すまない、私がもっと早く解決していればこんな事にはならなかったな」

 

 これで破産だ、と頭を抱えるポーディにアインズは頭を下げる。元々はミュウを送り届ける為に相乗りさせて貰っただけに、彼が悲嘆に暮れる様子は心が痛んだ。

 

「いや……モモン殿のせいでは無いでしょう。この街に寄ると判断したのは私ですからな……」

「リー、そんな気を落とさないでくれ。我々、他の商人からしても流通の足が奪われたのは問題なのだ。すぐに他所から馬車を手配しよう」

 

 そう言って慰めるユンケルだが、やはり彼も表情は優れない。トータスの物流は馬車に依る物が大きく、その馬車が全て無くなってしまった今のフューレンは商業の流通が完全にストップしたと言っても過言ではなかった。他の街へ馬を融通して貰うにしても時間がかかり、そもそも国中で内乱が起きているハイリヒ王国内では他の街へ馬や馬車を快く貸し出して貰えるかも怪しい。

 

『なあ、ユエ。彼等を手助けするのに、何か良い案はないか?』

 

 アインズはユエにこっそりと念話で聞いてみる。今回の騒動の原因はフリートホーフとはいえ、半分くらいはナザリックの者達を暗躍させた結果でもあるのでアインズもいたたまれないと思って何かしらの手助けをしようと思ったのだ。

 

『………あるにはありますけど。でも………ああ、なるほど。デミウルゴス様が狙っていたのはそういう事……』

『………いや、何が?』

 

 ユエが独り言の様に呟いた内容にアインズは思わず素の反応で聞き返す。

 

『実行するにはセバス様やティオ達の助けが必要ですけど……後程に順序立てて説明しますので、とりあえずこの場は解散させた方がいいです』

『そうか……頼むぞ』

 

 まさかユエまでデミウルゴスみたいに「なるほど、そういう事でしたか」で片づけないよな? と不安になりながらも、アインズは声を上げる。

 

「一先ず、それらの事は後で考えましょう。今は市民の皆さんの安全確保が先ではないでしょうか」

「確かに……モモン殿の言う通りですね」

「この街から動けない以上、私も出来る限りの協力はしましょう。私の仲間のヴェルヌは医学に長け、ブランは治癒術に長けている。彼等にも怪我の手当を要請するので怪我人の心配はしないで下さい」

「なんと……! そこまでして頂けるとはさすがは“漆黒の英雄”モモン殿。感謝致しますぞ!」

「私からもお礼申し上げます! 本当にありがとうございます!」

「ええ、モモン―――殿は慈悲深い御方なのですよ」

「うむ……なんとも懐深き御仁じゃのう、旦那様」

 

 ユンケルとスタンフォードが頭を下げる。それに追従する様にセバスとティオが頷き、周りにいた市民達も「さすがはモモン殿」、「噂に違わない英雄だ!」と称賛する声が相次いだ。

 ごふぅ、とアインズは胃が抉られる思いがする。

 

(や、やめてえ……! これほとんどマッチポンプだから! せめてもの罪滅ぼしにやってるだけだから! すっごく気まずいから、べた褒めしないでくれぇ……!)

(………ある意味、自業自得では?)

 

 またも念話なしで二人の意思疎通が完璧に行われていた。

 

 ***

 

「ふう………やっと帰ってこれたな」

 

 フューレンの街外れの修道院。浩介は寝室として使っている粗末な部屋で、安堵の息と共にベッドに倒れこんだ。黒鎧の冒険者から貰ったポーションのお陰で身体の傷が無くなったとはいえ、もはや精神的にクタクタだった。

 

「それにしても、何だったんだろうな? あの“天使”達……というか、竜騎士なんてものもいたのか……なんでもありだな、異世界は」

 

 一人ごちる様に浩介は先程の光景を思い出す。こちらの体力を奪う歌声を響かせながら夜空に浮かぶ“天使”達と、それらから街を守る様に戦っていた黒竜の騎士。その姿は浩介も目撃しており、空中で行われた英雄譚の様な戦いに心を奪われていたものの、終始震えていたノイントが気になってそこまでの感動はしていなかった。

 

(ノイントさん、大丈夫かな………なんだか竜騎士と“天使”達の戦いを見て怖がっていたみたいだけど……)

 

 そうでなくても今日は色々とあったのだ。心中穏やかというわけにはいかないだろう。

 

(でも……この場所に帰って来れたんだ)

 

 “天使”達が竜騎士によって全て倒され、やっと体の自由がきく様になった浩介はノイントを連れて修道院まで戻って来られた。突然出て行ったノイントをシスター・べレアは怒るどころか、涙ながらに無事に戻ってきた事を喜んでくれていた。孤児達も“ノイントお姉ちゃん”が帰ってきた事を喜び、そこで初めてノイントは戸惑う様な―――しかし、暖かさが混じった表情を浮かべてくれた。

 

 終わり良ければ全て良し。

 

 何度か命の危機を感じる出来事もあったが、それでも浩介はノイントが帰って来てくれた事で全てチャラだと思う事にした。

 

(それにしても俺………ノイントさんに告白したんだよな)

 

 その事を思い出し、今更ながらに気恥ずかしさがこみ上げてくる。場の雰囲気に流されて、かなり臭いセリフも言ってた気がする。ああああっ、と浩介はベッドの上で身悶えした。

 

(やべえよ、なんかすげえ厨二臭い事も言ってた気がするぞ? 俺ってこんなに厨二全開なキャラだったのか? というかノイントさんの方はどう思っているんだろ………)

 

 勢い余って愛の告白をしたのは百歩譲って良いとして、肝心の相手がどう思ったかまでは確認していない。こんな形になってしまったが、浩介にとっては一世一代の告白だったのだ。それだけにノイントはどうだったのか、呆れられてないか、それとも本当は嫌だったりしないか……などと、グルグルと頭の中を巡ってしまう。

 考え過ぎて自己嫌悪に陥りそうな浩介だったが、唐突にドアをノックされた音で思考を中断させられた。

 

「うん? 誰か用か?」

『……ノイントです。入ってもよろしいでしょうか』

 

 浩介の胸が大きく跳ね上がる。いま正に考えていた意中の相手が訪ねてくるとは予想外にも程がある。

 

「………どうぞ」

 

 心の準備が欲しいところだが、夜も遅い時間なので待たせるも悪いと思い直して入室の許可を出す。するとノイントが浩介の部屋に入って来た………純白のネグリジェ姿で。

 

「……なんでやねん」

「え?」

「あ、いや……こっちの話です」

 

 思わず関西弁で突っ込んでしまう浩介だが、ノイントのキョトンとした表情に慌てて首を振った。

 

「……隣、座ってもいいでしょうか」

「えっ……あ、いや、どうぞ?」

 

 部屋には椅子もあるのだが、咄嗟に返事してしまった事でノイントはベッドの上に腰掛けた。ギシィッと二人分の体重でベッドが沈み、ノイントのきめ細かなまつ毛が数えられるくらい近寄られていた。薄着のネグリジェ姿、そしてすぐ隣にある人形と見紛う程に美しいノイントの顔。浩介の胸の鼓動はもはや早鐘の様に脈打ち、身体が熱くなってきていた。

 

「そ……それで、何か用ですかね? いやー、それにしても今夜は暑いなあ!」

「………私は、今まで人間に……というより、誰かから好意を向けられた事なんてありませんでした」

 

 気恥ずかしさを誤魔化そうと上擦った声を上げる浩介に対して、ノイントはポツリ、ポツリと語り出した。

 

「いえ、もしかしたら好意を抱かれた事はあったのかもしれません。でも、それを私は今まで気付こうとはしませんでした。神から与えられた物以外には価値がない………そう、思っていましたから」

「………ええと、ノイントさんは神殿騎士とかだったんですか?」

 

 真面目な話をしていると判断して、ようやく浩介の中で浮ついていた気持ちが落ち着いた。以前に聞いた身の上話の内容も併せて、ノイントの前の職業を推察したが彼女は肯定も否定もしなかった。

 

「………ここに来る前、私は生まれて初めて魔物との戦いで恐怖を覚えました。姉妹達も錯乱する中、私は死んだフリをしてやり過ごそうとしたのです。そうして……逃げ出して、とある御方から私に下賜された物も全て投げ捨てて、倒れていた所を貴方に拾われたのです」

「ノイントさん………」

 

 それを臆病だとか卑怯だとか責める気は浩介に無かった。生命の危機から逃れようと彼女は必死だったのだろう。そしてだからこそ、ここに連れて来た当初にノイントは無気力になってしまったのだろう。自分が今まで大切にしていた物も、そして姉妹達も全て見捨てて自分だけ生き残ってしまったのだから。

 

「だから……自分にはもう価値がない、そう思っていました。ここで暮らす内に、今まで神を疑う事もせずに多くの人間を傷付けていた事も知って、もう自分なんてどうでも良い……そう、思ったのに」

 

 ノイントは浩介へ向き直る。

 人形の様に整った顔立ち。だが、そのアイスブルーの瞳は人形では宿せない感情が揺れ動いていた。

 

「あなたが奴隷オークションから助けに来てくれた時、嬉しかった」

「………」

「もう価値など無くなったと思った私を必要だと言ってくれて……そんな私を好きだと言ってくれて、胸が高鳴ったのです。だから……もう一度、聞かせて下さい。こんな私を……愛してくれるのですか?」

 

 今まで表情に乏しいと思っていたノイントの顔だったが、今の浩介には微妙な差異も分かる様な気がしていた。不安に揺れた目をするノイントを見て、先程まで恥ずかしくて二度と言わないと思った台詞がサラッと浩介の口から出た。

 

「ああ、何度でも言うよ。俺は……遠藤浩介は、ノイントさんの事が好きだ。ノイントさんが必要だ。ノイントさんの事を……心から愛している」

 

 恥ずかしさで顔が真っ赤になりそうだ。しかし、それでも浩介は心からの言葉を彼女へと贈った。生まれて初めて、共にいたいと思う異性に対して。

 

「………ありがとう、コースケ」

 

 ノイントは涙を浮かべながら―――笑った。神の尖兵として造られ、人形だった彼女が生まれて初めて浮かべる笑顔は、浩介にとっては何よりも綺麗なものに見えた。

 ふとノイントが目を閉じる。何処か戸惑いながらも、何かを期待しながら唇を突き出している様な顔だ。それを見て、浩介はそうするのが自然であるかの様に―――唇を重ねた。

 

「んっ………」

 

 ファーストキスはレモンの味というのは嘘だな、と浩介は場違いに思ってしまう。

 だって、こんなに柔らかくて、胸が高鳴って幸せになる気分はレモン程度では味わえないからだ。

 どのくらいの時間をそうしていたか、名残惜しさを残しながら唇が離れ、浩介はノイントの身体を抱き寄せていた。

 

「……不思議です。誰かとこんな事をするなんて、思ってもみなかったのに。でも、これ以上にないくらい高揚しています」

「俺もだよ……きっと幸せって、今みたいな気持ちの事を言うんだろうな」

「……本当はあなたにまだ話さないといけない事があります。でも……今だけは忘れさせて下さい」

 

 ノイントが再び浩介と唇を重ねる。今度は触れ合う様なキスではなく、お互いの口内を味わう様な深いキスだ。くちゅ、くちゅ。舌同士が絡み合い、粘膜質な音と共にお互いの身体が熱っていく気がした。キスに没頭するあまり、浩介はベッドの上でノイントを押し倒していた。ノイントも押し退ける事はせず、むしろお互いの指を絡ませる様に手を握りながら浩介を潤んだ瞳で見つめた。

 

「その………嫌だったら言って下さい。もう俺、自分で止まりそうにないから」

「……嫌ではないです。人間の男女は、愛し合う時にこういう行為をするんですよね? だから……私に教えて下さい」

 

 ノイントが熱っぽく言うと同時に―――浩介の中で理性がダムの崩壊の様に決壊した。

 

 ***

 

「ん………」

 

 暗い室内でノイントが目覚める。いつの間にか、眠ってしまっていた様だ。毎晩の様に魘されていた黒い仔山羊の悪夢も今日に限っては見る事なく、久方ぶりにスッキリとした目覚めを迎えられていた。ふと隣を見ると、そこには寝る前まで身体を重ねていた少年がいた。あれから何度達したのか覚えてはいないが、彼も疲れ果てて眠っている様だ。あられもない姿になっている自分に少し顔を赤らめながら、ノイントは衣服を直した。

 

「これが………愛なんですね」

 

 温かくて、幸せで、空っぽだった心が満たされて――もう思い残す事などない。そう思えてしまった。

 

「コースケ。ありがとう………大好きですよ。ずっと、ずっと一緒にいたかったと思えるくらい」

 

 そっと寝ている浩介にキスをする。その感触を名残惜しみながらも離れ、ノイントは静かに部屋を出た。

 既に時刻は深夜を回っている。修道院の皆も眠りについており、ノイントは昨日の様に誰にも見つからずに外に出る事が出来た。修道院を離れ、さらに街道からも離れ、道なき道を進む。やがて深い森の中へと入り、修道院からかなり離れた場所へと歩く。

 

「っ………」

 

 途中で振り返りたくなる衝動に駆られる。今すぐ来た道を戻り、またあの修道院に戻りたい。浩介の胸の中で朝までまどろみ、幸福な気持ちで朝日を迎えたいと思う。

 だが―――それは駄目だ。このまま逃げようとすれば、()()()()は容赦なくノイントのいる修道院ごと攻撃するだろう。恐ろしさでいうならフリートホーフの比ではない。それをノイントは()()()()()()()()()()。だからこそ、ノイントは浩介がしてくれた事を無駄にしていると知りながらも、再び修道院を抜け出すという暴挙を行っていた。泣きたくなる様な気持ちを堪え、まるで死刑台の階段を昇る囚人の様な面持ちでノイントは指定されていた場所まで歩く。そして―――。

 

「―――フン、時間通りに来たか」

 

 森の中にある木々がそこだけ生えていない広場。そこに辿り着いたノイントを冷淡な声で迎える人物がいた。

 

「一先ず、こちらの命令通りに来た事は褒めてやろう。木偶人形」

 

 月明かりがその人物を照らす。夜の闇に溶け込む様な黒衣の人物―――ナグモは冬の月よりも寒々とした目でノイントを睨んでいた。

 




>ナグモ

 主人公です。
 愛した二人の仲を引き裂こうとしている悪魔にしか見えないけど、この作品の主人公です(強調)。
 まあ、ナザリックがやってる事は誰がどう見たって悪役だし……うん、是非も無いよね!
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