ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 電撃文庫の『七つの魔剣が支配する』が面白いです。2000年代に流行していたコテコテのファンタジーラノベだよな、と言われていますが、そういうのが見たかった! という自分からすれば嵌まらずにはいられません。
 久々に熱中できるラノベが出来て、「やっぱりプロに比べると自分の文章はグダグダだよなあ……」と思いつつも、自分なりにマイペースにこのSSを書こうと思いましたとさ。


第百六十九話「ナグモVS浩介 決着の刻」

 パンッ―――ザシュッ!

 

 発砲音の直後に装甲を斬り裂く音が響く。浩介に標準を合わせていたマシン・モンスターは、再び銃口を向ける事なく機能を停止させた。

 同胞の()に怯まず、別個体のマシン・モンスターが浩介へと襲い掛かる。ゴーレムやアンデッドの様な非生物ならではの強みだ。彼等は予想外の出来事(アクシデント)が起きても、ただひたすらに相手を殺す為に動き続けられる。

 

「――――――」

 

 それらを浩介は躱す。予備動作は最小限に、そして猫の様なしなやかさをもってマシン・モンスターとすれ違い様に短剣を振るう。

 

「斬刑に処す」

 

 再びマシン・モンスターの装甲が斬り落とされ、動力源を断たれたマシン・モンスターは機能を停止させた。

 

(これは……どういう事だ? 偵察用のマシン・モンスター達だが、奴のレベルよりはるかに上の筈だ)

 

 残ったマシン・モンスターのカメラアイを通して、ナグモは目の前で行われている現象に対して思考を巡らせた。鷲型のマシン・モンスター達のガトリング砲射を浩介は掻い潜っていく。人間を挽き肉どころかジュースに変えるのに十分な火力で放たれた弾は、しかし獣の様に地を這う程に姿勢を低く走る浩介を捉える事が出来ていなかった。

 

(奴の身体能力………少なくとも銃弾を()()()()()という程に高いわけではない。強いて言うなら反応の早さ………信じられん、奴はマシン・モンスター達のセンサーの感度を上回っているというのか?)

 

 というより、そうとしか考えられない。マシン・モンスターが銃口を、内蔵ブレードを向ける瞬間。それを察知して、最短最速で弾や刃が当たらない経路へと動いているのだ。視覚だけでは当然判断が追い付く筈もなく、耳で、皮膚で、僅かな音や空気の流れを感じ取り、五感全てを使って先読みを行い、マシン・モンスター達の攻撃を回避している。

 

(そして奴に触れられたマシン・モンスター達が次々と停止させられている………原子結合の甘い部分を視ているのか、それとも奴の超感覚で別の何かが視えているのか?)

 

 ユグドラシルにおいても暗殺者(アサシン)系の職業(クラス)には一撃必殺の技(クリティカル・キル)がある。どんな敵でも一撃死させられるのは一見無敵に思えるが、相手とのレベル差が大きくなれば成功する確率はガクンと下がり、況してや高レベルのモンスターにもなれば即死耐性がある者やそもそもステータス差で攻撃が当たらないという事態になる筈だ。

 ところが浩介は人間の反射速度の限界―――0.2秒をも上回る早さで反応してマシン・モンスター達を先読みして動き回り、同時に何かしらの急所を視て、そこを突いて一撃必殺の技(クリティカル・キル)を成功させているのだ。

 もはやそれは博打だ、とナグモは思った。先読みを一手でも間違えれば、マシン・モンスター達によって即座に蜂の巣にされる。そして先程から成功させている一撃死についても、観察してみれば相手の身体のどこでも触れれば良いというわけでは無いらしい。すなわち、0.2秒未満の判断で攻撃の雨をくぐり抜けるルートを割り出し、さらにマシン・モンスターの特定の部位へ攻撃しなくてはならない。こんな物は外れたら死ぬ、というコイントスで連勝しなくてはならない様なものなのだ。

 

「認めよう。お前は低脳な人間などではなく、僕の予想を覆した逸材だ」

 

 だが、とナグモは言葉を切る。カメラ越しに召喚したマシン・モンスター達が次々と斬り伏せられていくのが見える。それでもナグモに冷静に分析していた。

 

「長くは保たない」

 

 ***

 

 熱い………ただひたすらに熱い……。

 マシン・モンスター達を斬り伏せながら、浩介の頭の中はそれだけで占められていた。

 本来なら自分などが倒せない様なマシン・モンスター達。それを一撃の下に斬り伏せている力の正体は、なんとなく分かる。それは浩介が地球にいた頃に読んだとある漫画。吸血鬼のお姫様に恋した主人公が、埒外の化け物達と戦うのに保っていた能力。それを自分は再現しているのだ。そんなフィクションの能力を現実に再現するなど、普通ならば出来る筈もない。

 だが、脳を変革させる程のスキル―――“深淵卿”は、浩介が自らの深みに入れば入るほど能力を覚醒させていく。彼の想像力を現実へと変える為、脳が相応しい人格とそれに適した身体へと変えていくのだ。まさに想像の中のヒーロー。思春期で誰もが抱くフィクションでの自分の理想像を叶える力。

 ただし―――その代償は安くない。

 

ブチンッ―――。

 

 何かが頭の中で途切れる音がする。それと同時に脳に焼け付く様な熱さが襲ってくるのだ。

 そもそも、いま浩介が視ている視界。漫画の主人公の能力を真似て視ている物は、漫画の中でも言われていたが発狂しそうな光景だった。ありとあらゆる物が、まるで罅割れているかの様に『線』が至る所に視えて、否応なしにこの世界は『死』で満ちているのだと理解させられる。そして通常では視る事など出来ない『死の線』を理解させる為に浩介の脳細胞はオーバーヒートも辞さない程に活性化し、過剰な働きをした神経が断裂していく音が自分の中から聞こえていた。

 

 ブチンッ、ブチンッ。

 

 今度は身体の中から聞こえてきた。マシン・モンスター達のセンサーを上回る早さで超反応する浩介。それは五感全てを通常とは比較にならないレベルで研ぎ澄ませており、時間が経つごとに無理をさせている神経が磨り減っているのだ。加えてマシン・モンスター達の攻撃を避けていく身体能力の強化。本来の浩介ではそもそも回避など不可能な筈のステータス差も、ナグモが最初に予想した様に“限界突破”を使って埋めていた。ただし、通常の“限界突破”と違って制限時間などない。

 “限界突破”に制限時間があるのは、何も最初からそういう効果のスキルだからではない。肉体のリミッターを外し、文字通りに限界を突破させるこのスキルは長時間使っていると疲労感が蓄積されて肉体が致命的に壊れていってしまう。それを防ぐために脳が無意識下で制限時間を設けているのだ。ところが今の浩介の脳は肉体の損傷を誤認させ、“限界突破”の制限時間を伸ばしているのだ。

 

 ブチンッ、ブチンッ、ブチンッ。

 

 その結果として――――――脳神経と筋組織。どちらも限界を超えた働きを強いられて、次々と断裂していった。

 

「あああああああっ!」

 

 空中にいた鷲型のマシン・モンスターに対して、浩介は高く跳び上がって撃墜した。そして宙にいるために身動き出来なくなった浩介へ地上にいるマシン・モンスター達が銃口を一斉に向け―――ドンッ、という音と共に浩介の姿が彼等のセンサーから消えた。

 

「がああああああっ!!」

 

 超人的な脚力で空気そのものを足場にして蹴る、という離れ技を披露した浩介が短剣を再び振るう。また一つ、マシン・モンスターが『死の線』を突かれて斬り裂かれた。着地した浩介の足から、ブシュッと鮮血が迸る。音速を突破した脚力は衝撃波(ソニックブーム)を発生させ、空気の壁を蹴りながら浩介は更に加速する。その度に衝撃で彼の足に更なる負担が掛かっていく。

 

「GAAAAAAAAAAAA!!」

 

 もはや獣の咆哮だ。痛いという感覚は既に無い。痛覚を伝える神経は既に切れてしまった。だが、燃える様な熱さだけは身体に宿っている。限界を超えた回路はオーバーヒートして焼け付き、寿命を代償に命の炎を燃やし尽くして浩介に生涯で最高の力を与えていた。脳と身体。その両方を自傷しながらマシン・モンスター達を駆逐していく。

 

『何がお前をそこまで動かす?』

 

 残り少なくなったマシン・モンスター達。その一体からナグモがスピーカー越しに問い掛ける。

 

『分かっているのか? いまお前がやっている事はただの自殺行為だ。マシン・モンスター達を撃破していく程、そして時間が経つ程にお前の身体は死に向かっていく』

 

 余命を宣告する医師の様に、あるいは死刑を宣告する裁判官の様にナグモは冷徹に指摘する。

 ――――――残り十体。

 

『もはや回復魔法すらも受け付けないくらい致命的に壊れていく。そうまでしてこの場を凌いだ所で、僕の背後にいる御方が知れば必ずお前達は始末される』

 

 九、八、七、六体―――――。

 

『そんなになってまであの人形が大事か? お前はあの人形をそこまでして守る価値があるのか?』

 

 五、四、三体―――。

 

『何故そこまで………脆弱な人間でありながら、何故そこまで必死になる? 答えろ!』

 

 ナグモがスピーカー越しに怒鳴った。もはや浩介の身体はボロボロだ。自傷で出血していない箇所を探すのが難しいくらいで、白目は破れた毛細血管によって赤く染まっていた。それでいながら瞳は青く、それこそ死の深淵を覗き込んでいる様な眼だ。何より――――死に瀕した身体でありながら、浩介の目は死んでいない。その姿が自分の理解を超えた様な物に見えて、ナグモは知らず知らずのうちに声に力が入っていた。

 

「――――――に」

 

 もはや『死の線』以外がきちんと見えているかも疑わしく、一呼吸ごとに破れた肺の血管で吐血する有様でありながら、浩介は声を発した。

 

「愛する、人が………笑顔で、いられます様に………」

 

 そして、一閃。残り二体のマシン・モンスター達は同時にバラバラにされ――――その瞬間、転移門(ゲート)を使ってナグモが浩介の背後に現れた。短剣を振り抜き、最も無防備となった瞬間。そしてダメージを負い過ぎた身体では反応が間に合わない絶好のタイミング。ナグモの手には“分解”の魔力を纏った黒傘“シュラーク”。それを浩介へと容赦なく振り下ろす。浩介の残りの体力や反射神経の速度、そして魔力量など全てを計算した上での致死の攻撃。

 

 だが、その計算では量れないのが人間の底力だ。

 

「おおおおおおおっ!!!」

「っ!?」

 

 血反吐を吐く様な雄叫びを上げながら、浩介の身体が加速する。血管や神経がブチブチと切れていく音が響き、短剣を振り抜いた速度のままにナグモの黒傘を避けた。

 

「南雲………!!」

 

 振り向きながら浩介は短剣をナグモへと奔らせる。だが、それでもナグモの方が動きは速い。即座に手首を返し、迫り来る浩介の短剣ごと“分解”する為に黒傘を振るう。そして浩介の短剣の切っ先が“分解”を纏った黒傘に触れて―――“分解”の魔力は急に霧散した。

 

「なっ………」

「これが………モノを殺すという事だっ!!」

 

 『死の線』を束ねた先にある『死の点』。それを貫いた浩介の短剣は黒傘を斬り裂く。

 そして一閃、二閃、三閃――――――。

 銀色の刃が織り成す斬撃の華がナグモの両手足を斬り裂いた。

 

「………見事だ」

 

 胴体だけの身体になって地面に崩れ落ちながら、ナグモは称賛する様に呟いた。

 

 ***

 

 夜の森の中を浩介は進む。もはや浩介の身体は壊れかけた機械同然だった。一度エンジンを止めてしまえば、二度と再起動する事は無いだろう。その足取りも“暗殺者”の身軽さからは程遠く、足を引き摺るようにしてカタツムリの様な速度で歩いていた。

 ナグモを撃破した最後の一撃。それこそ浩介の全てを燃やし尽くして放った為に、それ以上の戦闘など出来る筈もなかった。結局、ナグモの手足を斬り裂いた後にそれ以上をするまでも無く、浩介は戦闘から離脱したのだ。

 どうしてナグモにトドメを刺さなかったのか、それは浩介自身も分からない。やはり人命を奪うのに現代人として抵抗があったのかもしれないし、況してやそれが元・クラスメイトだから情が出てしまったのかもしれない。

 あるいは――――――()()の力は、愛しい人へもう一度会うために使いたかったからか。

 

「コースケッ!!」

 

 気配を頼りに進んでいた浩介に、最も聞きたかった声が聞こえる。それで安心して崩れ落ちそうになるが、それを柔らかくて温かい感触が受け止めてくれた。

 

「こんな身体になって……! コースケッ、コースケッ!」

「ノイントさん……そこに、いるよな……? 良かった……無事、だったみたいだな……」

「コースケ……? まさかあなた、目が……!?」

 

 ノイントが慌てた様な声を出して浩介の顔を見る。すぐそこにノイントの顔があるというのに、浩介の目は焦点が合ってない様に見当違いな方向を向いていた。

 

「ちょっと無理し過ぎたみたいでさ……まあ、あんな“線”をノイントさんの顔で視たくなかったから、このくらいどうって事、ないさ………」

「何が……何がどうって事ないですか!」

 

 ノイントが泣きそうな声を上げながら傷だらけの少年の身体を抱き締める。脳神経を酷使し、常人には視てない筈の“死”まで視ようとして浩介の目はもはやまともに機能しなくなっていた。もうノイントの顔が見れない事だけが残念だな、と浩介はボンヤリ思っていた。

 

「あいつはどうにか追い払ったからさ……だから、もう心配しないでいいんだ。ノイントさんを傷付ける奴は、みんな俺が追い払うから……」

「っ……ええ、私も。あなたと一緒に生きていたい……。あなたとなら、どこまでも逃げ切ってみせますから……!」

 

 かつては表情など浮かぶ事がなかった顔をくしゃくしゃに歪めて、ノイントは溜まらずに浩介の唇を奪った。ほんの数時間前とは違って血の味がするものだったが、それでもノイントの中で愛おしく想う気持ちは変わらなかった。

 

「ノイント、さん……」

「だから、あなたも生きて……! お願い、死なないで……!」

 

 涙混じりに愛しい人の声がする。こんな声を聞かされたら、それこそ死んだら後悔するなと浩介は思い――――――殺気。

 

「え………?」

 

 ノイントが驚きの声を上げる。もう魔力は尽きて回復魔法も使えないが、それでもどうにか手当しようと浩介の身体に触れていたが、浩介はまるで最後の力を振り絞る様にノイントを突き飛ばしたのだ。

 どうして、とノイントの目が驚愕に丸められ――――――。

 

 ――――――パァンッ!!

 

 次の瞬間。一発の銃弾が浩介の胸を撃ち抜いていた。

 

 

 ***

 

 地上からはるか百キロメートル上空。そして浩介達がいる地点から十キロメートル先。

 ()()()()()身体のナグモは、狙撃モードに変形させていた黒傘“シュラーク”のスコープから目を離した。マイナスに突破している気温も、地上よりも強い風も、じゅーる・うぇるず(創造主)によってナザリックの守護者として創られたナグモには何の障害にもならなかった。

 

「まさか、“分身体(ファントム)”までやられるとはな。結果的に保険を掛けておいて良かった、というわけか」

 

 普通の人間には到底不可能な狙撃を成功させながらも、ナグモの表情に喜びも達成感も無かった。ただ淡々と地上にいる浩介の胸を撃ち抜いていた。

 

「誇れ、遠藤浩介。お前はかつてナザリックを襲撃した1500人の人間達よりも、僕の記憶に残り続けるだろう」




>“分身体”

 アインズがアルブヘイトと戦った時、自分の魔力で“使徒”を創っていったと聞いてナグモが生成魔法を使って作った“分身体”。シャルティアの“死せる勇者の魂(エインヘルヤル)”よりは戦闘力は大幅に劣るが、影武者として使い捨てられるくらい自意識のある分身を作れる様にはなった。
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