ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 風邪ひいたよ……。なんか季節が変わる度に風邪とか病気になってない? と自分の身体の軟弱さが恨めしい。せっかくの休みが寝てるだけで終わっちゃうし。

 体力的な限界もあるので、ちょっと中途半端な所で切っちゃいました。
 因みに今回のタイトルは中国の故事から。意味をググると、この後の展開のネタバレになるかも。


第百七十二話「孟母三遷①」

「はーい! 選抜メンバーの皆さん、おめでとうございまーす!」

 

 ナザリック地下大墳墓の一室。そこでアウラはイベントの司会者の様に明るい声を出していた。彼女の前には十名弱の男達がおり、全員が一様にアウラに向かって地に額を擦りつけていた。

 彼等はフリートホーフの幹部達、あるいはフリートホーフに与していた貴族達の一部だ。表や裏の社会を問わず、絶対的な地位や権力を手にしている彼等だが、何故か自分の子供ぐらいの少女に対して平身低頭していた。

 アウラの見た目が人間族が恐れている魔人族に酷似しているからか? あるいは自分達とアウラとのどうしようもないステータス差を感じているからか?

 否、そうではない。彼等の顔は恐怖に歪んでおり、ガタガタと震える手は血の気が失せていた。元はふくよかな体型だった身体も、まるで食事を満足に摂っていないかの様に痩せてきていた。そんな彼等を前にアウラは明るい声で宣告する。

 

「いと尊き御方は、()()()()()とは違ってあなた達は生かして利用した方が良いと判断されました! そんなわけであなた達は罪を許され、あたし達のシモベ……奴隷? お人形? まあ、いいや。とにかく頑張って働いて下さいね」

 

 パチパチとアウラが拍手する。隣にいるマーレもおどおどとしながら拍手を始める。あまりにも一方的な宣言であり、表や裏の社会で確固とした権力を誇る彼等からすれば、ふざけるなと一喝する内容だろう。

 だが、反対の声を上げる者は誰もいない。ここにはいない者達―――自分達と共にフューレンから連れ去られ、選抜に()()()()()()()者達がどうなったか。そして自分達がついさっきまでどんな目に()()()()()()………それを思いだし、彼等は目の前の双子の機嫌を損ねない様に精一杯に立ち回っているのだ。

 

「あなた達の人脈……コネ? とにかくそういった物が使えると判断されたそうなので、魔導国の為に根回ししておいてねー」

「え、えっと、言う通りにやって下さいね? でないと、オシオキ、しないといけないですから」

「ひぃっ!? わ、分かりましたっ!! あなた方の言われた通りにやりますから!!」

「どうか、どうかオシオキだけは勘弁を!!」

 

 マーレの一言に男達は涙目になりながら必死で懇願する。もうゴキブリだらけの部屋で身体中を齧られるのも、腐った蛸を頭に貼り付けた魔物に拷問されるのも嫌だ。すっかり心を折られた彼等はあの苦痛を再び味わう羽目にならないなら、親兄弟でも躊躇無く差し出せる程にナザリックへ忠誠を誓っていたのだ。恐怖に震える彼等を見ながら、マーレは可愛らしく首を傾げる。

 

「でもお姉ちゃん、この人達って何に使うのかな?」

「さあ? デミウルゴスが言うには王国の支配の最終段階に入る為の準備、と言っていたけど……」

 

 こんな人間達がどうして必要になるんだろう? とアウラも首を傾げたが、すぐに「まあ、アインズ様の御役に立つならいいか」と肩をすくめた。

 

 ***

 

 

「お願いします! どうか子供達を捜して下さい!」

「ええい、くどいわ! 行方不明になった者は海難事故にあった! そう説明したであろうが!」

 

 エリセンの町では、今日も海人族達が悲痛な声でいなくなった者達の捜索を訴えていた。しかし、それに対してフューレンに行っているカルミア男爵の代行を務めているコルテスは護衛の兵を引き連れながら嫌悪感を顕わに答えていた。

 

「我々が捜査した結果、海難事故と判断したのだ! まだ騒ぐならば我々に対する不敬罪で逮捕するぞ!」

 

 フリートホーフと繋がって領民の海人族達を売り飛ばしていたカルミア男爵。その補佐を行っているこの男もまた奴隷売買に一枚噛んでいた。そもそもカルミアは父親のコネでエリセンの領主になっただけであり、領主の仕事など満足に出来る筈もなかった。フリートホーフの奴隷商売に手を出したのも、彼の無能さであっという間に前領主が領地経営で蓄えていた金庫を空にしたからだ。

 そして実務的な事は全て補佐であるコルテスが行う事にした。カルミアからしても面倒な仕事を部下に丸投げできたという思いが強かっただろう。その立場を利用し、カルミアがフリートホーフからあてがわれる女に夢中になっているのを良いことに、奴隷売買で得た金銭の多くを懐に仕舞いこんでいた。金勘定の書類も満足に読めないカルミアが領主でいる間、彼にとっては海人族を奴隷として売るのはまさに稼ぎ時であった。

 

「し、しかし……!」

「いい加減、うるさいぞ! そんなに牢にぶち込まれたいか!」

 

 部下達に武器をチラつかせながら、コルテスは傲岸に言い放つ。そんな男に対して、海人族達は拳を握り締めた。

 

「もう……限界だ。俺達はあんた等の奴隷じゃないんだぞ!」

「本当に捜査なんてしているのか! 俺達に隠している事があるんじゃないか!?」

 

 次々とコルテスへ批難が飛び交う。自分の子供や友人達がいなくなったのに全て海難事故と言い張り、海人族達を蔑視する姿勢を隠そうともしない今の領主達に彼等の不満はもはや限界に達していた。

 

「黙れ、海人族共! 亜人族と同じ()()()()()の分際でありながら、誰のお陰で人権を保障して貰っている? 貴様等は黙って魚を獲り続けていれば良いのだ!」

「なんだとテメェ!!」

 

 コルテスの差別的な発言にとうとう海人族達の堪忍袋の緒が切れた。もはや場は一触即発となり、このままでは暴動が起きかねない状況になった、その時だった。

 

「な……なんだっ!?」

 

 コルテスが金切り声を上げる。見れば、空から黒い竜が自分達の所へ空から降りてきた。それも一匹だけではなく、数匹まとめてだ。突然、街中に現れた竜の来襲に場は騒然となる。

 

「待ってくれ! この人達は魔物じゃない! 武器を下ろしてくれ!」

 

 及び腰ながらも漁に使う銛や棒で立ち向かおうとした海人族達へ、大声で呼びかける者がいた。それは竜の一匹が抱える様にして持っていた馬車の一台から響き、その馬車から顔を覗かせた人物に海人族達は驚いた顔になった。

 

「あ、あんた……確か行商人の……」

「そうだ! この街に行商をしているリー・ポーディだ! 大丈夫だ、この人達は敵じゃない!」

 

 知っている顔を見て、海人族達もコルテス達も呆気に取られてしまう。どう対処すべきかと迷っている内に、双方の間に黒竜達が下りてきた。よくよく見れば、その竜達は全員が馬車や荷車を抱きかかえる様にして持っていた。その馬車を荷車を竜達は丁寧に下ろして着地した。

 

『さて、これで宜しいかのう? ポーディ殿』

 

 唐突に黒竜の一匹が喋った。周りが驚く中、ポーディは竜に向かって恭しく頭を下げる。

 

「ええ。ありがとうございます、クラルスさん。お陰で期日に間に合いましたよ」

『うむ。では、“竜化”を解くとしよう。この姿のままでは街の者達を威圧してしまうからのう』

 

 そう言うと黒竜達の姿がスルスルと縮んでいく。あっという間に竜達は着物を着た人間の姿の男女となり、海人族達の混乱は極みに達していた。

 

「こ、これはどういう事だね!?」

 

 とりあえず自分に危険はないと判断し、領主補佐の男は食ってかかる勢いでポーディに詰め寄った。

 

「貴様、街中に()()を使って侵入するとはどういう了見だ! 私はそんな許可など出してないぞ!」

 

 どうやら竜人族達が領民達を不安がらせた事より、自分が許可してなどいない方法で来たのが不満らしい。そんなコルテスを冷ややかな目で見ながらも営業スマイルを浮かべてポーディは答えた。

 

「ですからこの方達は魔物ではないと言ってるでしょう。それと事前にあなた方に話を通さなかったのは、一刻も早く届けねばならない荷があったからですよ」

 

 は? とコルテスが疑問の声を上げるより先に、竜人族が運んできた馬車の一つから人が降りてきた。

 

「パパ!」

「お母さん!」

「マイケル……マイケルなのか!?」

「ジェニー!」

 

 馬車から降りてきた者達にエリセンの海人族が驚きの声を上げながら駆け寄る。それは『海難事故』で行方不明になっていた筈の息子や娘達だった。その他にも続々と降りて来る海人族達に、エリセンの住人達は再会の喜びに沸き上がった。

 

「な、なぜ……こいつらがここに……?」

 

 一方でポーディ達が連れて来た海人族を見て、コルテスは顔を青ざめさせていた。奴隷としてフリートホーフに売った筈の者達が帰ってくるなど夢にも思わなかったという表情になっていた。

 

「彼らは途中に寄ったフューレンで会いましてねえ。これも人助けだと思って送り届けたのですが、余計なお世話でしたかな?」

「い、いや、それは……その………」

 

 事情を知っているポーディは慇懃無礼に話しかけるが、コルテスはしどろもどろな返事しか出来なかった。

 

「あ、このおじちゃんなの!」

 

 馬車から下りてきた一人の海人族―――ミュウがコルテスの部下の一人を指差した。

 

「ミュウにママに会わせるって言って、誘拐したのはこのおじちゃんなの!」

「なっ!? い、いや、何の事だか………」

「ええ、あなた達でしたよね!」

 

 しどろもどろに答えるコルテスの部下に対して、ミュウを抱きかかえたレミアがキッと睨み付ける。

 

「迷子になったミュウを引き取っていると言って、私をフリートホーフに売り飛ばしたのは確かにあなた達です!」

「レ、レミアさん? それは本当なのか?」

「パパ、この人は嘘なんて言ってないよ! 私もこの人達に騙されていたの!」

 

 戻ってきた海人族達から次々とレミアの証言を裏付ける様に同意の声が上がる。初めは理解が追いつかない様に目を白黒させていたエリセンの住人達だったが、徐々に剣呑な目付きになってコルテス達を睨み始めた。

 

「てめえ………これはどういう事だ?」

「なあ、“海難事故”って言ってたよな? もう子供達は死んだから諦めろ、とか言ってたよな? なのに何で子供達がフューレンから売られていたんだ? なあ、おい!!」

「海人族を売り飛ばしていたの!? 答えなさいよ!!」

 

 喧々囂々。我が子や友人達が奴隷として売り飛ばされていたと知って、海人族達の怒りのボルテージが上がっていく。真実を白日の下に晒され、コルテス達は「う……ああ……」と言葉にならない呻き声を上げるしかなかった。

 

「こ、こんな………この、このガキが余計な事をっ!!」

 

 追い詰められ、逆上したコルテスは事の発端となってミュウに向かって拳を振り上げる。

 ミュウが身を固くし、レミアがミュウを庇う様に抱き締める。

 

 パシッ。

 

 コルテスの拳が横合いから出て来た手に掴まれた。コルテスは血走った目付きのまま、自分の手を掴んだ人物は見る。そして―――。

 

 ボキィッ!!

 

「ぎゃああああああっ!?」

「喚くな。ド低脳」

 

 ナグモは穢らわしい物でも見る様な目のまま、骨を折った腕を掴んで投げ飛ばした。まるでゴミ袋の様にぞんざいに投げられ、コルテスは駆け寄ろうとした部下達にぶつかった。

 

「ぐげぇ!?」

「本当に耳障りだ。いっそ声が出ない様にすべきか?」

「うん、やっちゃっていいんじゃない? 見せしめの為にもそうしようよ、ナ……ヴェルヌくん」

「………それはさすがにやり過ぎ」

 

 海人族達を守る様に、コルテス達の前に冒険者風の男女三人が立ち塞がる。突然の出来事にコルテス達がたじろいでいると、三人の奥から黒いフルプレートアーマーを着た人物が進み出た。

 

「そこまでにしてもらおう。彼等は私が助けた者達だ。彼等に手出しをするのは私が許さない」

「な、なんだお前はッ!」

「冒険者モモン……ただのしがない剣士だよ」

 

 肩をすくめながら自己紹介するモモンだが、その効果は絶大だった。「冒険者モモンって、あの……?」、「“漆黒の英雄”……本物なのか?」とコルテスの部下達は恐れ戦く。史上最速で金ランクに昇り詰め、数々の功績を打ち立てた“漆黒の英雄”の名を知らぬ程、彼等も無知では無かった。

 

「領民を守るべきだったお前達が犯罪組織と繋がって、領民である海人族達を奴隷として売り飛ばしていたなど言語道断。そればかりか逆上して幼き少女に暴力を振るうなど恥ずべき行いだ。この様な狼藉、王国や教会が見逃しても私は許さん」

「く、くぅぅ……!」

「妾達とて許さぬ。この様な非道な行いを良しとする者は竜人族には一人もおらぬ」

 

 竜人族と聞いて驚く者もいたが、コルテス達はそれどころではなかった。ティオ達は全員が険しい目付きでコルテス達を睨んでおり、薄らと漂わせるオーラは自分達に勝ち目が無いと思わせるには十分過ぎた。この場において唯一、自分達と同じ人間族であるポーディ達を縋るように見るが、彼等からは冷ややかな目線を返された。

 

「申し訳ないが、そちらが取引していたフリートホーフには散々迷惑を掛けられましたので。そもそも犯罪に手を染める様な輩とは交渉などしない事にしているのです」

「く、くそ……!」

「ふざけるな! もうお前達など信用できるか!」

「出て行け! この街から出て行け!!」

 

 怒りが爆発した海人族達はコルテス達に石を投げ始めた。多勢に無勢であり、もはや暴動にまで達しそうになった場にコルテスも護衛の兵も抑えきれないと判断した。

 

「この、後悔するなよ! ヒトモドキ共っ! この街にいる限り、お前達をどうするかなど我々の一存で決められるのだからな!!」

 

 そう捨て台詞を残し、折れた腕を庇いながらコルテスは部下と共に領主の館へとほうほうの体で逃げ出して行った。




>領主補佐の男

 まあ、そりゃあね。馬鹿な貴族一人で悪事を全て隠し通せるわけないじゃないですか(笑)

 で、大体予想はつくと思うけど……この街にいる限り安全じゃないと言うなら、住民も大きな決断をするという事ですよ。
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