ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 各話のタイトルを考えるのが、実は一番悩む瞬間。じゃあタイトル無しで「175話」とかで良いじゃん、と思った時もあるけど、それをやったら今度は自分が読み返す時に「あれは何話目に書いたんだっけ?」と分からなくなる(笑)


第百七十五話「叶わぬ未来」

 ふと――――――前後の記憶が曖昧になっていた。

 

「ナグモ様、大丈夫ですか?」

 

 声を掛けられてナグモの意識はようやくはっきりした。椅子に座った自分の肩にセバスが触れていた。

 

「セバス……? すまない、少し呆けていたみたいだ」

「そうでしたか。ですが、そろそろ式場へ移動して頂かなくはなりません。本日の主役が来ない事には式を始められませんから」

「主役? 一体、何の話だ?」

 

 そこでナグモは自分の格好に気付いた。じゅーるから与えられたいつもの黒コート姿でも無ければ、冒険者ヴェルヌとしての旅装でもない。純白のタキシードに身を包み、蝶ネクタイまでしていた。そんなナグモにいつもの執事服より格調の高い燕尾服に身を包んだセバスは、少し呆れた様に言った。

 

「しっかりなさって下さい―――今日は貴方の結婚式でしょう」

 

 ***

 

 セバスに案内され、ナグモは式場に着いた。確かここはナザリック第九階層の一室で、聖堂の様な内装をしていた場所だ。建築に拘った至高の御方の一人が作った聖堂は地球で見た有名な寺院に負けないくらい美しく、そして今は結婚式に相応しい飾り付けがされていた。

 

「お、新郎の到着じゃん」

 

 式場に入ったナグモにアウラとマーレが近寄ってきた。アウラはワインレッドのスーツを着こなし、マーレは対照的にフリルが付いたライトブルーのワンピースを着ていた。子供の見た目ながら容姿端麗な双子が着ているだけの事はあり、この二人だけでも絵になる様な華やかさがある。

 

「まさかナグモの結婚式に参加する日が来るとはねえ……何にせよ、今日はおめでとう」

「あ、あの、おめでとうございますっ。ナグモさん!」

 

 双子のダークエルフ達がナグモに祝辞を述べる。それを皮切りに正装に着替えたナザリックの同僚達が次々と祝いの言葉を投げかけてきた

 

「実二目出度キ事ダ。妻子ノ為ニモ、一層アインズ様ノ御役ニ立テル様ニ精進スルトイイ」

「本当に目出度き日です。しかし、その……我が輩もこの場にいてよろしいのでしょうか?」

「なあに、この祝いの場でそんな無粋な事を言う者はいないさ! ところで恐怖公、もし私がナザリックを掌握した時にだがね―――」

「は~い、エクレアちゃんはお口チャックよ~ん。今日ばかりはちょっと空気を読みましょうねえん?」

「くっ……まさかナグモに先を越されるとは……。次は妾がアインズ様とゴールインするでありんすぅ!」

「まあまあ、シャルティア。今日は素直に彼を祝福してあげたまえ。もっとも、悪魔からの祝福というのはありがた迷惑かもしれんがねえ?」

 

 ナザリックの仲間達の誰もがナグモを祝福していた。そして、それはナザリックの仲間達だけではなかった。

 

「ん……おめでとう。奥さんとこれまで以上にイチャイチャするといい」

「おめでとうございますぅ、ナグモ様! 世界一幸せな夫婦になって下さいね!」

「セバス様の同僚の方が結婚されるとは目出度き事じゃ。どうかお幸せにのう」

「お兄ちゃん、おめでとうなの!」

「おめでとう、ナグモくん。私の親友、いつまでも大切にしなさいよ」

 

 ユエ、シア、ティオ、ミュウ、そして雫。誰もが結婚式を迎えたナグモを祝福してくれていた。皆がナグモの人生が幸福になる事を願っていてくれていた。

 

「ナグモ」

「アインズ様」

 

 自分の主にして、至高の御方に声を掛けられてナグモは居住まいを正す。だが、アインズは「よい」と軽く手を振った。

 

「此度の結納、私も嬉しく思う。お前はとても有能な部下だ。その有能さは、これからの家庭でも大いに発揮するだろう」

「……ありがとうございます」

 

 最大級の賛辞の言葉を送られ、ナグモは深く頭を下げた。

 

「お前の様な部下は持てた事を私は嬉しく思う―――じゅーるさんもそう思いますよね?」

「ええ、もちろん」

 

 ナグモは思わず顔を上げてしまった。そこに―――六本腕の機神がいた。

 

「じゅーる、様……」

「結婚おめでとう、ナグモ! 俺もとうとうお祖父ちゃんになるのか~。なんか感慨深いなあ」

 

 懐かしき六本腕の機神は、かつて第四階層でそうしていた様に六本の腕でナグモの頭を撫で繰り回す。鋼鉄のロボットアームとはいえ、そこから伝わってくる感情にナグモは胸の奥から暖かくなる気持ちを抑えられなかった。

 

「さすがは俺の()()()()()だ………お前は俺の誇りだよ」

 

 ナグモはじゅーるの言葉に顔を伏せて受け取った。それは子供が懸命に涙を堪えようとする様子に見えた。

 

「レディースア~ンドジェントルメンッ! 新郎以外はどうぞ御着席願いますッ!! 間もなくBrautjungfer(花嫁)の入場となりますッ!!」

 

 パンドラズアクターの声が式場に響く。どうやら司会進行役は彼が務めるらしい。

 

「おっと、もうそんな時間か。じゃあ後でな、ナグモ。早く孫の顔を見せてくれよ」

「あっ………」

 

 席に着く為にじゅーるの手が離れる。その背中にナグモは思わず追いすがりそうになった。

 そして奏でられ始めた入場曲と共に式場の入り口のドアが開けられ―――そこにいた人物にナグモは思わず呼吸すら忘れてしまった。

 そこにいたのは香織だった。純白のウエディングドレスは所謂プリンセスラインと呼ばれるもので、チュールやレースを幾重にも重ねたスカートは童話の世界から抜け出したお姫様の様な印象を与えていた。胸から胴にかけては全体的に豪華でありながら華美にはならない絶妙なバランスで刺繍が施されており、鎖骨からほっそりとした肩にかけて露出した首にネックレスがかけられていた。

 いつもは腰まで伸ばしている髪も今は結い上げられ、頭に控えめながらも品の良いティアラで飾ったウェディングヴェールを被った香織はナグモがこれまで見てきた何よりも美しく見えた。

 香織はウェディングブーケを持ち、スーツを着た父親に連れられながら静々とヴァージンロードを進んでくる。

 父親の顔は―――無かった。

 何故なら頭の部分は黒く塗り潰されていたからだ。まるで真っ黒なマネキンがスーツを着ている様な異様な光景だというのに、香織はおろか周りの誰もその事を疑問に思っていない様だった。

 当然だ、とナグモの中で冷めた心が言った。何故なら自分は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 やがて、厳かな入場曲が奏でられる中で香織がナグモの前まで来た。父親役のマネキンは花嫁を渡して音もなく下がった。

 

「えへへ。何だか、緊張するね。どう? 綺麗かな」

「………ああ、本当に綺麗だよ。()()()()()()()

 

 はにかみながら聞いてきて香織に、ナグモは本心からそう言った。

 

「んんっ、それではまずは誓いの言葉を!」

 

 どうやらパンドラズアクターが神父役も兼ねるらしい。先程までの口調から一転して、厳かな口調で新郎新婦に問い掛ける。まさに役者らしい身の代わり様だった。

 

「香織さん。病める時も健やかなる時も、常にナグモ殿を愛し、守り、慈しみ、支え合うことを誓いますか?」

「はい……誓います」

 

 香織は嬉しそうに宣誓した。この瞬間をずっと待ち焦がれていて、そして愛する人と過ごす未来に対して幸せを微塵も疑っていない様な表情だった。

 

「ではナグモ殿。あなたはこの者を妻として迎え、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、その命ある限り心から愛する事を誓いますか?」

 

 パンドラズアクターの問いにナグモは―――何故か逡巡してしまった。

 香織を伴侶として愛する。その一言を言えば良いのに、ナグモは即答出来なかった。

 

「ナグモくん……?」

「あ……いや、僕は―――」

 

 答えようとしないナグモを香織が不安げに見つめる。その目に涙が薄らと浮かび始めたのを見て、ナグモは思わず誓いの言葉を答えようとした。

 

“所長は……香織ちゃんの事が、大好きですか? いつまでも一緒にいたい、って思ってますか?”

 

 瞬間―――何故か、いつの日にかモルモット耳の助手から聞かれた内容が頭にリフレインした。

 その問いはパンドラズアクターから聞かれている誓いの言葉と、そう変わらない内容の筈だった。それなのに―――何故か内容が違って聞こえていた。

 

「………………」

 

 熱に浮かされそうになっていたナグモの頭に、冷静な思考が戻る。そしてナグモは花嫁姿の香織から参列者達の席に目を向けた。

 式場の右側の席。新郎側の参列者達が座る席にはじゅーるがいて、アインズがいて、階層守護者達も、プレアデス達も、ユエ達も、その他のナザリックの仲間達もいた。

 式場の左側の席。新婦側の参列者が座る席には―――黒いマネキン達がいた。香織の結婚に対して何も言わず、反対もせず、ただナグモの望み通りに動く人形達。

ナグモの望み通りの――――――結婚式。

 

「………すまない、誓えない」

「え? ど、どうして……?」

 

 香織の顔が悲しげに歪む。それを真正面から見据えながらも、ナグモははっきりと口にした。

 

「そうだな……きっとこれは、()()()()そのものだろう。香織と結ばれて、皆やじゅーる様に祝福して貰って………でも、これは叶わない夢だ」

「夢? 何を言ってるの? 私はナグモくんとの結婚を心から望んでいるよ。ナグモくんが願ってくれるなら、夢なんかじゃなくなるの」

「いいや、夢だよ。それに僕は………」

 

 もう一度だけ参列席の方を見る。そこには二度と会う事の無い筈の創造主(父親)。そして―――顔すらも分からない香織の親達の姿。

 それらを見て、ナグモの頭の中に過ったのは魔人族達に殺された貧乏な親子達であり、一度は引き裂かれながらも再び巡り会えた事を喜んでいたミュウとレミアだった。彼等の事を思い返せば、ナグモは自分のしている事の矮小さを思い知るしかなかった。

 

「僕は………君と家族を永遠に引き離してまで、こんな夢を叶えたくはない」

 

 瞬間―――結婚式場の全ての光景がガラスを割る様に粉々に砕け散った。

 

 ***

 

 呻き声と共にナグモは身を起こした。同時に身体に何か纏わり付いていた物が消えていく様な感覚がした。

 

「おお、ナグモ。目が覚めたか」

「ナグモくん! 大丈夫?」

 

 アインズと香織の声に段々と意識がはっきりしてきて、自分の周りの景色が見えてきた。そこはドームの様に巨大な樹のうろの中であり、ナグモは自分が棺の様な容れ物の中で眠っていたのだと気付いた。

 

「アインズ様……香織……。ここは……?」

「ここはハルツィナ大迷宮の中。今は大迷宮の試練を受けてる最中」

 

 ユエに状況を教えて貰い、ナグモもようやく自分の状況を思い出していた。同時に先程までの夢を思い出した。

 

「……なるほど。あれは夢だったというわけか」

「うむ。()()()()()()()()()、どうやら試練を受ける者の望む光景を見せる幻術だった様だな」

「……? アインズ様は、幻術に掛からなかったのですか?」

「残念ながら、私と香織は特に何も無かったのだ。ここの部屋に転移した時、琥珀の中に閉じ込められたお前とユエの姿を見つけただけだ」

 

 アインズの証言に香織も頷く。どうやらシュネー雪原の大迷宮と同じく、アンデッドである二人には精神的な幻惑の試練は効かないらしい。

 

「初めはすぐに起こそうと思ったが、そうする前に起きたユエにこれは大迷宮の試練の一環かもしれないと言われてな………それでお前が起きるのを待っていたわけだ。しかし、このダンジョンは精神的なトラップが多いが、やはり私や香織はそもそも試練を受ける事さえ出来てないな」

 

 道中の試練の内容を思い出し、変成魔法に続いてハルツィナ大迷宮の神代魔法も習得できない可能性にアインズは苦々しい声を上げた。

 

「ねえ、ナグモくんはどんな夢を見ていたの?」

 

 ナグモが棺から出て装備に不具合が無いか等を点検していると、香織が聞いてきた。

 

「ユエは吸血鬼の国が滅んでいなくて、叔父さんや両親とも仲良くやっていた夢を見ていたと言ってたけど。ナグモくんの場合はどんな夢だったの?」

 

 そう聞いてくる姿が夢の中の花嫁姿の香織と重なり、ナグモは思わず目を逸らしそうになった。だが、大きく息を吐くと話し出す事にした。胸の中に抱えてしまった鉛の様な気持ちを吐き出したい気分だった。

 

「………香織と結婚式を挙げる夢だったよ」

「え? そ、そうなの? もう、そんなのわざわざ夢で見る程の事じゃ―――」

「じゅーる様にも、結婚式を祝って頂いて貰っていた」

 

 嬉しさと照れが混じった表情になっていた香織だが、その一言で熱が冷めた様に気まずい表情になった。そしてアインズもまた、重苦しい声でナグモに声を掛ける。

 

「………ナグモ。じゅーるさんは、その―――」

「いえ、分かっております」

 

 慰めの言葉をどうにか捻り出そうとするアインズだが、それより先にナグモが首を振った。

 

「そんな未来は、ただの願望でしかない………訪れる事は無い未来だって」

「そんな事は……いや、待て。ナグモ、お前は―――」

 

 アインズはナグモの言葉の違和感に気付いた。NPC達はほとんどの者が、自分の創造主はいつかナザリックへ帰ってくると疑ってない。口に出さぬ者もいるが、それでも諦めている者はいなかった筈だ。それなのにナグモの口振りは何故か自分の創造主は帰らないと確信している様だった。

 

「………行きましょう、アインズ様。まだ大迷宮も道半ばです」

 

 装備の点検が終わり、ナグモは先行する様に歩き出してしまった。その背にアインズは声を掛けるべきか悩んだが、ユエがそっと横から止める。

 

「アインズ様、ナグモの言う通りです。聞きたい事はあると思いますが、ここは大迷宮の攻略を優先しましょう。それに………今はナグモもそっとしておいて欲しいでしょうから」

「ああ………そうだな」

 

 いつになく、ナグモの背中は小さく見えた。その姿はナザリックの階層守護者という強大な姿とは程遠く、寂しさに押しつぶされそうな子供に見えてしまった。その背に声を掛ける言葉をアインズは探せないでいた。

 そうして気落ちしてる様な足取りのナグモへ、香織が追いすがる。

 

「その……元気出して、ナグモくん。じゅーる様はきっとナグモくんを見捨てたりはしない。絶対にそうだよ。それに、私は絶対にナグモくんの側から離れないよ。お望みなら、すぐにでもナグモくんのお嫁さんになるから!」

 

 きっと香織はナグモを慰める為に言っているのだろう。それはナグモが望んでいた言葉であり―――そして望み通り過ぎた言葉だった。

 

「なあ、香織。もしも………結婚をするとしたら、君の御両親にも挨拶した方が良いか?」

 

 不意打ちの様な言葉に一瞬、香織の顔が悲痛に歪む。だが、すぐに笑って誤魔化していた。

 

「それは………でも、もう私はアンデッドだもの。お父さんもお母さんも、自分の娘がモンスターになったなんて驚いちゃうからいいよ。今の私は、ナグモくんが創ってくれたアンデッドキメラ。人間の頃なんて関係ないよ」

 

 ………本当に、望み通りの言葉だった。きっとかつてのナグモなら、自分の側に居続けてくれる事に舞い上がっていただろう。でも、今は――――――。

 

「………そうか。ああ、分かった」

 

 それだけ言ってナグモは歩き出す。その背に香織はついて行くが、いつもの様に二人は並んで歩かず、まるで心の距離を示す様に離れたままだった。

 

 その後、ナグモとユエは神代魔法を手に入れた。




オマケ

ユエ「Gが……Gが大量に……(ブクブク)」
アインズ「さ、さすがにこれは……(鎮静化中)」
香織「無理無理無理ィッ! ブンカイ、ブンカイッ!!」
ナグモ「これは……珍しいゴキブリですね。集合して魔法まで使える上に、攻撃性能もそれなりにある……。よくよく見れば、新種の様だ。興味深い………恐怖公の眷族達と交配させてみたいので、回収しませんか?」
三人「「「却下!!!!」」」
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