ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

190 / 223
どうにも上手く書けた自信がないです……。ここから先、結構暗い展開が続きそうだからメンタル面で影響してるのかもしれません。暗い感情を書くと、自分も暗黒面に引きずられそうになるくらいガラスハートなので(笑)
なんかR-18あたりでバカ話でもやって、精神をリセットさせた方が良いのかな?


第百七十六話「嫉妬と憎悪」

 魔導国の執務室。この場にはアインズしかおらず、警備の為の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達にも席を外させていた。

 とうとうハルツィナ大迷宮を踏破したアインズは、その成果について考え込んでいた。といっても、アインズはハルツィナ大迷宮の神代魔法を習得できていない。それは同行した香織も同じだ。ハルツィナ大迷宮はどうやら神が相手でも揺らがぬ絆や意志を保てるかという試練だったらしく、試練として用意された数々の幻惑や精神攻撃は異形種(アンデッド)であるアインズと香織には効かなかったのだ。だが、その為に大迷宮側が精神の変動を観測できなかったのか、シュネー大迷宮の時と同じく大迷宮をクリアしたと見做されなかったのだ。

 これにはアインズも参ってしまった。いずれエヒトルジュエと対峙した時の為に神代魔法を手に入れなければならないのに、当のアインズ自身が種族的な問題で習得できないのだ。現在、ナグモとユエが神代魔法を全て習得できているものの、新たな懸念事項もあって不安は解消されなかった。

 

「神代魔法を全て組み合わせて生まれる魔法………概念魔法、か」

 

 ハルツィナ大迷宮の最奥。大迷宮を作ったリューティリスが遺したメッセージにより、アインズはその存在を知った。

 異世界・トータスにおける魔法の極致。極限の意志をもって、あらゆる概念をこの世に顕現・作用させる魔法。七つの大迷宮の神代魔法は謂わば概念魔法の為の下地作りとなる様だ。いずれにせよ、説明を聞いただけでもアインズの理解を超えている魔法である事は分かった。

 

「とんでもない力だ。ユグドラシルのワールドアイテム………いや、それすらも超える反則技(チート)だな」

 

 だからこそ、アインズ自身が手に入れられない事がとても悔やまれる。全ての神代魔法を束ねる事で顕現する概念魔法は、当然エヒトルジュエも使えると見るべきだ。相手はこの世界を太古から支配する邪神であり、それこそ神代魔法はその神から人間達に伝わったものだ。使えないと思う方が可笑しな話だ。

 神代魔法を全て手に入れて互角になるのではない。

 神代魔法の全てを極め、概念魔法を手に入れる事でようやくエヒトルジュエと同じスタート地点に立てる。その事をアインズは深く自覚してしまった。

 

(アルブヘイトと戦った時は、そんな魔法を使った気配は無かった………あれは奴がエヒトルジュエより格が劣る神だったからと見るべきか? いずれにせよ、あれを基準にしたまま戦ったら足を掬われる所だった………そういう意味では相手にチート手段があると知れたのは大きな収穫だ)

 

 そしてハルツィナ大迷宮で手に入れた物はもう一つ。アインズは手元にある懐中時計の様なアイテムを見た。

 これは〝導越の羅針盤〟といい、かつて解放者達が力を合わせて作り上げた概念魔法の産物だ。これを使えば使用者の望む場所を―――たとえそれが次元の隔たりがあったとしても―――指し示す事ができるという。解放者達は元々、別次元にあるとされるエヒトルジュエの本拠地を探し出す為に作ったのだろう。だが、アインズにとっては〝導越の羅針盤〟は別の使い道があった。

 

「………そうか。トータスから地球は、遠い様で近かったんだな」

 

 羅針盤から齎せられた位置情報にアインズは誰に聞かせるでもなく独りごちた。

 唐突にドアをノックされ、アインズは考え事を中断して〝導越の羅針盤〟を懐に仕舞い込んだ。

 

「入れ」

「失礼します、アインズ様」

 

 入室の許可を出すと、アルベドが執務室へ入ってきた。手には書類の束を持っていた。

 

「本日の書類をお持ちしました」

「うむ。机に置いておいて貰えるか?」

「………はい」

 

 返事をしたが、アルベドは何故か書類の束を持ったまま執務机の前で立ち止まる。

 

「どうかしたのか?」

「いえ………失礼ですが、アインズ様。以前より、決裁にお時間を掛けられる様になりましたか?」

 

 そう言うアルベドの視線は執務机の上に置かれた未処理の書類の束に目を向けられていた。今までアインズは提出した書類にすぐに決裁印を押していたのだが、最近は即日では書類を処理しなくなっていた。とはいえ以前より速度は落ちたものの書類は提出されているし、未処理の案件が山積みというわけではないが、以前のアインズの処理速度を見ているアルベドからすれば違和感を感じてしまう程だ。

 

「あー………まあ、そうだな」

 

 アルベドの指摘にアインズはどこかバツの悪そうな声を上げた。

 

「すまん、未処理の書類の中で決裁を急ぐ物があったか? それならそちらから優先的に取り掛かるが………」

「いえ、その様な事はありません! アインズ様がご提出される書類は、常に優先事項が高い物から処理されております! ただ、以前は全ての案件を即座に判断されていたので気になりまして………」

「ま、まあ………魔導国の規模も大きくなってきたしな。その為に慎重な判断を要すると判断したまでだ」

「………もしかして、ナグモが原因ですか?」

 

 予想外の名前が出てきて、アインズは頭に疑問符を浮かべる。それまでアインズの仕事への批判に繋がりかねないと遠慮な指摘をしていたアルベドだが、ナグモの事を口にした途端に声が低く冷たい物になっていた。

 

「今の魔導国は亜人族達の生活基準の上昇に伴って、それに対応する新たな法案や人員の確保が必要となっております。魔導国の都市計画はナグモの部下であるミキュルニラの担当ですから、部下を御し切れていないナグモのせいでアインズ様のお手を煩わせているのではありませんか?」

 

 現在、急速に発展している魔導国の都市。生活の様々な物が近代化されているが、それに伴って新たな法整備が必要になるなど、建国当初よりナザリックの仕事は増えているのは事実だった。

 

「いや、そんな事は無いぞ。それに他国よりも国民が豊かな生活を送れるという事実は魔導国の発展に貢献するだろう」

「ですが、それでアインズ様のお手間を増やす様では言語道断です! 本来なら玉座に坐して我々を見下ろすべきアインズ様の仕事を増やすなど、ナザリックのシモベとしてあってはありません!」

「アルベド………」

 

 アインズは窘めようとしたが、アルベドのナグモへの批難は収まらなかった。

 

「そもそも支配下に置いた者達に文明的な生活を送らせる必要などありません。豚は豚のままで生き、そして飼い主の役に立って死ねば良いのです。アインズ様のご威光に平伏し、崇め奉る事に感謝する。それがその者達の正しい生き方であり、それ以外の生き方など、する必要も、知る意味も、選ぶ権利もありません。それにナグモは最近、都市の調査と称して市井の者達に混じって労働をしているとか。まったくもって栄えあるナザリックの威光を穢す様な愚行です。所詮、あの者もただの人間に過ぎな―――]

「アルベド!」

 

 先程より強くアインズの叱責の声が飛ぶ。そこでようやくアルベドは自分の失態に気付いた。

 

「いえ………申し訳ありません、出過ぎた真似を致しました」

「許す。が、二度と自分の仲間に対して謂れの無い差別はするな」

 

 「はっ……」とアルベドは頭を下げるが、その表情は硬く、自分の主張を曲げるつもりがない事は明白だった。

 

「お前とナグモが最近、仲が悪いのは知っている。だが、それで相手の種族や出生を盾にして批難するなど一番やってはならない事だ」

「はっ………申し訳ありません」

「それに不思議なのだが、何故お前はそんなにナグモを敵視している? 何かあったなら、私が間に入るぞ?」

「それは………いえ、アインズ様の手を煩わせる程では御座いません。単にあの男とはソリが合わないだけですから」

 

 アルベドはキッパリとそう答えた。取り付く島も無く、それ以外の答えは期待できないと思わせた。

 

(いや、何か他に理由があるだろ………でも、ここで無理やり聞いても“俺の命令”で表面上はナグモと仲直りして、結局二人の亀裂は広がったままになるんだろうな)

 

 ナザリックのNPC達はアインズに忠実だ。それこそ、命令を実行できないなら死んで詫びるべきと考える者も多い。それを見てきたアインズからすれば、ここで無理やり仲直りさせ、それでも二人は仲がこじれている為に命令不服従と判断して自害される方が嫌だった。そもそも誰かに命令されたから仲良くするというのは間違っている気がする。

 

「ともかく、ナグモやミキュルニラが推している都市計画は私が承認している事だ。あの二人がどんな街作りを考えているか、そこは私も楽しみにしている。アルベドの考えも分かるが、ここは私に免じて大目に見てやってくれないか?」

「はっ………アインズ様がそう仰るなら」

 

 深々とアルベドは頭を下げる。だが、アインズには見えない様に下げられた顔には、最後まで不満を押し殺した様な色が残っていた。

 

 ***

 

「忌々しい………本当に忌々しいわね、あの男はっ!」

 

 ギリギリと歯軋りをする音を隠す事もなく、アルベドは怒りを顕わにして呟いた。人払いを済ませている自分の執務室とはいえ、魔導国の宰相として完璧な淑女の仮面を被っている普段の姿から考えれないほどヒステリックな姿だった。

 

「アインズ様もあの男に対して甘過ぎるわ! あんな男にっ………人間なんかにいいいっ!!」

 

 かつては『ナザリックの者達には淑女として接する』と設定されていたアルベド。だが、アインズが戯れに『モモンガを愛している』と設定に付け加えた結果―――それもギルドメンバー達に対して暗い感情を宿していた時に―――、アルベドはナザリックの仲間達に対しても苛烈な感情を抱く様になってしまっていた。特にナグモの場合は彼が人間(プレイヤー)となったから、無意識下でも嫌悪感しか浮かばないのだ。

 

「ふぅ、ふぅ……! いえ。落ち着きなさい、アルベド。今すぐあの人間をどうにかするのは無理よ」

 

 深呼吸してアルベドは息を整える。だが、その胸の中にはナグモに対する憎しみが蒸留されたままだ。

 

(悔しいけど……認めたくないけど、トータスに転移してからあの男のアインズ様に対する貢献度は一番。だからこそ、あの男を始末するには皆から見ても納得のいく方法にしなければ……)

 

 オルクス大迷宮を鉱山として献上、それによる資金面の解決、この世界の魔法やスキルの研究、そして神代魔法の習得。

 この世界に来てからナグモが挙げた功績は明白であり、そこはアルベドも認めざるを得なかった。

 だが、それでもアルベドはナグモを始末したいと思う気持ちは変わらない。最近のナグモは何か心境の変化でもあったのか、普通の人間と変わらない雰囲気を出す様になった。そしてそれは自分の愛するアインズにも感じる様になり、アルベドはナグモ(人間)に感化されていると考えていた。

 現に、かつてのアインズならば亜人族達の支配体制に対してアルベドと同意見を抱いてくれただろう。だが、今のアインズはナグモがやろうとしている事に反対する事なく、亜人族達に豊かな暮らしをさせる事を良しとしているのだ。

 

 憎い。想い人を変えてしまった人間が。

 憎い。自分には心を動かせない相手をいとも簡単に動かしてしまう相手が。

 

 意図せずにアインズに植え付けられた他のギルドメンバー達への悪感情、そして現状で最もアインズに近い位置にいる事に対する嫉妬がアルベドの中で渦巻いていた。

 

(きっとアインズ様はあの男に誑かされているのよ。そうでなければ、この法案の書類も説明がつかないわ)

 

 アインズから提出された法案の書類は、以前ならばそのまま可決印が押されているだけだったのに対して、今は時折“この部分は要検討”とした上で注釈が書かれていたり、場合によっては担当の役人を呼んで詳しく説明させた上で判断する様になっていた。書類の処理速度がいつもより遅くなったのはその為だろう。そして、アルベドにはそれがアインズ自身の判断とは考えていなかった。誰かアインズにそうする様に入れ知恵した者がいる筈だ。それを防ぐ為に一度、自分の執務室をアインズと同室にして欲しいと願い出た事もあったが、当のアインズ自身が「仕事する時は集中したいから」という理由で断られてしまった。

 

(あの人間は、いずれ排除しなくては………アインズ様をナザリックの絶対支配者に戻す為にも……!)

 

 愛しき相手と物理的にも精神的にも距離を離したナグモに、アルベドは憎しみを募らせながら悪魔の頭脳を回転させた。

 

 ***

 

「困ったものだな………」

 

 ふう、と大きな溜息をアインズは誰もいない執務室で吐く。思い切ってアルベドに聞いてみたが、ナグモとの仲の悪さは致命的なラインにあった様だ。

 

「どう見たってセバスとデミウルゴスみたいな仲の悪さじゃないよな……あの二人はあれでもお互いの事を尊重しあってはいるし」

 

 創造主同士が仲が悪かった為にその関係性を引きずっている様な二人だが、それでも相手の行動を貶したりはしていない。思えばたっち・みーとウルベルトも、出生や性格でソリが合わなくてもギルド内の雰囲気を悪化させる程の喧嘩はしてなかった。これは二人が周りに不和を撒き散らさないくらい分別のある大人という事もあるが、ギルドの為という大前提で動いてくれたからだろう。だが、今のアルベドとナグモの不仲はいずれナザリックで致命的な事態を引き起こしかねないと、かつてのギルドマスターとしての経験からアインズはそう考えていた。

 

「今度はナグモの方の言い分も聞いてみないと………ギルメン達の子供同士、仲良くして欲しいと思うんだけどな」

 

 ひょっとしてそれはただの自分のエゴなのだろうか? アインズは悩んだものの、机の上に置かれた書類を見て頭を振った。二人の事も大事だが、まずは目先の仕事をどうにししなければない。

 

「さて、そろそろだよな………」

 

 アインズはチラリと壁に掛けてある時計を見る。アインズの執務室は警備の為に八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達が常駐している他にも、転移魔法や情報魔法に対する防御が施されている。だが、アインズはある時刻になると、それらの防御を一瞬だけ解いていたのだ。慎重派のアインズらしくない無防備な状態になるが、これから来る相手にそこまで警戒心を抱いていなかった。

 そして時間通り、未だに八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達がいない執務室へ転移魔法の気配を感じる。

 自分が頻繁に魔導王の執務室に出入りする姿を見られるのは、余計な騒ぎを招くからという配慮でこうして来訪していた。

 

「サトル様。今日も来ました」

 

 現れた金髪の吸血鬼―――ユエは笑顔で挨拶した。

 

「うん。今日も王様の勉強よろしくな、ユエ」

 

 元・吸血鬼の女王にして、今のアインズ(鈴木悟)が魔導王として威厳をもって接しなくて良い相手。彼女に対して、アインズも骸骨の顔ながら笑顔で返した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。