ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 先に読者の皆様に謝らなければなりません。今回の話は、はっきり言って自分でも出来に納得がいってないです。全く上手く書けた自信がなく、それでもどうにか文章にしようと苦渋の思いで書きました。更に時間を掛けても、これ以上の出来にはならないだろうなと諦め半分で出しています。最新話を待っていた方達に、こんな中途半端な出来でお出しした事をお詫び申し上げます。


第百七十七話「ある一つの区切り」

「ええと、アンデッド達で人件費は削減できるから……だから浮いた予算はこちらに回せば良いという話か?」

「そうですね。この地域は夏になると雨が多く降って水害被害も起きやすくなります。税収の安定の為にも迅速な堤防の補修工事が必要と判断されたのでしょう」

「はぁ~、なるほどなぁ」

 

 机の上に広げられた資料や地図を見ながら、アインズとユエは向かい合っていた。以前から行われていたアインズの字の勉強。今ではアインズの政治の勉強へと内容が進んでいた。

 アインズの決裁が必要な魔導国の書類。それらを教材にして、ユエはアインズに王として必要な知識や判断力を培わせていた。もっともアインズの元に来る報告書はアルベド達が既に整理し切っており、基本的にアインズは執行の許可を出すだけで良い。だが、ユエはアインズにただ判子を押させるだけでなく、自分でも書類の内容を噛み砕いて理解できる様に考える力を身に付けさせていた。

 

「次にこの街で作られる特産品ですが、私の時代では交易品に使われていて―――そもそも交易が行われる様になった背景には―――」

 

 ユエは優秀な教師だった。王族としての経験は元より、かつてディンリードに詰め込まれた知識を遺憾なく発揮していた。一つの案件に対して政治学だけでなく、地理や歴史、経済といった複合的な見方から解説を行ってアインズに説明していた。

 

「ううむ、つまり………立地的にこの街では穀物類が育ちにくいから代わりの産業を始めたという事か?」

「はい、正解です」

「そういえば死獣天朱雀さんも言ってたっけ………確か上杉謙信とかいう武将は青苧とかいう特産品を京都で広めて、そこで偉い人達が着飾ったから他の人も真似したがったとか……」

「なるほど……貴族達にファッションモデルをさせるというのは良い考えかもしれません」

 

 アインズもまた良い生徒だった。確かに知識面に不足はあるものの、学んだ事を柔軟に応用する思考力に長けていた。元々、そういう気質があったのだろう。ギルドリーダーとして培った気配りやギルドメンバー達との思い出を大切にしているから、彼等が話した何気ない雑学も覚えていて、そこから気付く事も多い。

 そして知識面の不足も就寝不要なアンデッドとなった事で、夜中を丸々勉強時間に当てる事で徐々に解消されてきていた。そもそもアインズはNPC達の理想像を守る為に、独学で支配者の勉強をしようとするぐらい積極性があるのだ。勉強の仕方を指導する教師がいれば、彼が伸びていくのは当然の事だった。

 

「じゃあこれは終了、と。ええと、次は……」

 

 手元にあった書類を「決裁済み」と書かれたレターボックスに入れて、アインズは次の書類を見ようとする。と、同じく次の書類を引き寄せようとしたユエの手と当たった。

 

「あ………」

「あ……ああ、すまん」

「い、いえ!」

 

 ユエが手を引っ込める。だが、触られた事を嫌がっている様子はなく、むしろ骨に過ぎないアインズに触られた箇所を顔を赤らめながら撫ででいた。

 

(そ、そんなに嬉しいものなのか………うう、俺ペロロンチーノさんの事を笑えなくなってきたかも……)

 

 頭の中で「やーい、ロリコン」と言ってくるバードマンがいた気がしたが丁重に無視する。そもそもこいつには言われたくない。

 アインズ(鈴木悟)に異性経験は無い。小学校は無理をして通わせてくれる母親の為にも勉強で必死だったし、卒業してからはブラック企業で頭を下げる毎日だから異性と付き合う余裕など無かった。しかし、この世界に来てからユエと二人きりの勉強会で過ごす時間が長くなってから、アインズもユエを異性として意識し始める様になっていった。

 

(会社の同僚とかそんな話になった事ないし、ぶくぶく茶釜さんとかはギルド仲間だっただけだし………美人という意味ならアルベドとかいるけどさあ、大事な友人の娘達(NPC)に手を出すとか出来ないもんなあ)

 

 そういう意味では、この世界に来てからナザリックに加わったユエはアインズにとって何のしがらみもなく付き合える異性だったのだ。しかも、無理に支配者の偶像を演じなくて良い為に気安い関係に至るまで時間はかからなかった。

 

「あの………サトル様」

「ん? なんだ? ええと、次のやる分だったか? 確か……」

「ああ、いえ……今日やる分は終わっています」

 

 緊張感を隠す為に続きに取り掛かろうとしたアインズだが、ユエの指摘にその企みは失敗した。穴が入ったら入りたい気持ちのアインズだったが、ユエは何故か神妙な面持ちで聞いてきた。

 

「その、ハルツィナ大迷宮の事ですけど……」

「ん? ああ、あれはユエもご苦労だったな。私や香織が入手できない神代魔法がある以上、もうユエやナグモを頼りにしなくてはならないのが心苦しいが……」

「アインズ様は……ご自身が元いた世界に帰りたいと思われていますか?」

 

 その一言にアインズは思わず息を止めた。

 

「………どうしてそう思う?」

「サトル様は……ハルツィナ大迷宮で〝導越の羅針盤〟を手に入れてから、どこか考え込んでいる様に思えました。望む場所を示すというあの羅針盤は、恐らくサトル様が元いた世界も指し示せるのではないですか?」

 

 ユエの指摘は当たっていた。それこそアルベドが来る前にも、〝導越の羅針盤〟を片手に物思いに耽っていたくらいだ。

 そして―――ユエの指摘通り、アインズは地球への距離を正確に測れていた。〝導越の羅針盤〟で示された地球の位置には、アインズの全魔力を使っても転移は叶わないだろう。そもそも、このアイテムが示してくれるのはも望みの場所の位置や距離だけだ。これだけでは別次元にある目的地への扉が作れるわけではない。だが………。

 

「リューティリス・ハルツィナのメッセージを聞いた時、ふと思い当たったんです。ナザリックの宝物庫にあるあのアイテム………“旅立ちの扉”を使えば、異世界に渡る手段はもう用意できているんじゃないかって」

「……ふっ、賢いな。ユエは」

 

 ユグドラシル時代に他作品とのコラボイベントのマップ移動に使ったアイテム。以前にちょっとした騒ぎにユエも巻き込まれた時の事を思い出し、アインズはフッと笑った。

 “旅立ちの扉”と〝導越の羅針盤〟。この二つが組み合わさる事で、色々な条件は必要となるがアインズは別次元への転移手段を手に入れたのだ。そして、それはアインズ―――鈴木悟が地球に帰れる可能性も示していた。

 

「ですから、サトル様は選べると思います。至高の御方達がいる世界………おそらくはサトル様が元いた故郷に帰るという選択肢も」

「………………」

 

 地球への帰還。この世界に来た当初は頭から除外した選択肢が思わぬ所で湧き上がり、アインズは悩んでいた。

 

「サトル様。ここ最近、貴方は段々と魔導王としての風格も判断も備わってきました。僭越ながら教師として見てきた私も誇らしく思えてくるくらいに」

 

 かつての様にアインズは部下から上がってくる書類をただ判子を押すだけではなく、自分でどうするかを考える様になった。ある意味、普通のことではあるのだが、それを王という大局的な視点から見るには経験や才覚が必要になる。だが、アインズは努力でそれを乗り越えつつあった。

 

「だからこそ、いま聞くべきだと思いました。これからさらに魔導王の立ち位置が確固としたものになるに連れて、王としての仕事が増えていきます。サトル様が魔導王として居続けるか、あるいは………」

 

 あえてユエはその先を口にしなかった。地球に帰る―――魔導王(アインズ)ではなく、鈴木悟としてギルメン達のいる世界に再び戻るという選択肢もあるのだとユエは問いかけているのだろう。

 そして………それをアインズは全く考えなかったわけではない。

 

(俺自身に限った話なら、元の世界に戻りたいかというとノーだ。両親は既に亡く、会社に行って、仕事して、帰ったらユグドラシルをするだけの生活。そのユグドラシルもサービス終了したから元の生活に魅力を感じていない)

 

 だが、かつての仲間達。“アインズ・ウール・ゴウン”のギルドメンバー達の事は別だ。

 もうアインズには分かっていた。あの時、ユグドラシルのサービス終了間際で異世界転移に巻き込まれたのは、自分だけなのだと。ユグドラシルの魔法やアイテムなどの気配が全く無いトータスに、プレイヤーは自分だけだと。だからギルドメンバー達もきっとまだ地球にいる筈だ。

 結局、あの時にナザリック地下大墳墓に最後まで残っていたのは自分だけ。

 その事実が寂しくないかと言えば………嘘になる。

 だが、地球に帰れば再び彼等と楽しい日々をやり直せるかもしれない。何人かは現実でオフ会を開いたほどに仲が良かったのだ。彼等に連絡を取り、新しいゲームで再びギルドを組むという選択肢だってある筈だ。

 そこまで考えて――――――アインズはゆっくりと首を横に振った。

 

「いや………もういいんだ」

「サトル様………」

「そうだな。確かに〝導越の羅針盤〟が手に入った時、地球に帰れるかもと考えていたさ。でも、もういいんだ」

 

 溜息を吐きながらアインズは呟く。

 どんなに楽しい時があっても、いつかは終わりが来る。叔父と幸せな幼少期を過ごしたユエの様に。解放者の仲間達と共に過ごしたミレディの様に。そしてミュウに実の兄の様に懐かれて旅をしたナグモの様に。

 それが本人にとって輝かしい思い出であっても、永遠には引き延ばせない。かつての思い出に執着していた地下大墳墓の墓守りは、この世界で様々な経験をしてそれを学んだ。過ぎ去ってしまった時を想い、表情の無い骸骨の顔に寂しげな笑みを浮かべた。

 

「仲間達との思い出は……楽しかった過去だ。それが“俺”にとって大事なものだった事に変わりは無い。でもな、それと同じくらい魔導国が………仲間の子供(NPC)達と作ったこの国を大事にしたいと思っているんだ」

 

 そして……そう思える様になったのは。

 

「ユエ。お前のお陰だ。お前が俺を王様として鍛えてくれなかったら、俺はただアルベド達に望まれるままに魔導王をやっていたと思う。何をやっているのかも分からず、見栄を張って格好だけをつけてるだけのな」

「いいえ。私はただ自分の知識を教えているだけです。今こうしてサトル様が徐々に王に相応しい判断を身に付けたのは、サトル様自身の努力です」

 

 アインズが夜中に自主学習しているのを知っている為に、ユエはやんわりと否定した。

 

「きっとサトル様はそう言われるだろうと思っていました。突然の踏み込んだ質問をした事をお許しください」

「構わないさ。こうして自分の言葉にした事で、ようやく腹が決まった気がするからな。それにまあ、もしも地球と行き来が可能なら、一回くらいは声を掛けようと思っているんだ。あなた達の作った子供(NPC)達は、こんな風に元気にやっていますよって」

 

 そんな未来を想像し、アインズは朗らかに笑う。事が全て上手くいくとは思えないが、それでもNPC達の為にも出来る限り創造主(ギルメン)達と再会させる機会は作りたかった。そんなアインズを見てユエは微笑む。

 

「やはりサトル様は優しい御方です。そんなサトル様だから、私はこれからもずっとサトル様の側にいたいと思っているんです」

「ははは、そうだな。ユエにはまだまだ教わる事があるからな」

「ん………それだけではないです」

 

 え? とアインズは疑問の声を上げる。ユエは真剣な表情のままアインズへ言った。

 

「好きです、サトル様。臣下としてとか、友人としてなどではなく、一人の人間として」

 

 な、と声を上げる事も出来なかった。突然の告白にアインズの理解が追いつかなかった。

 

「言っておきますけど、冗談やお世辞ではありませんからね?」

 

 アインズの台詞を先読みしていたのか、ユエはそう釘を刺した。

 

「正直、アルベド様や他の方に女として敵わないと思っていますけど……それでも想いを伝えておきたいと思いました。私の……貴方が名前をくれたユエという少女として」

 

 生まれて初めての告白にアインズの胸が高鳴った。心臓などとうに無い筈の身体だというのに、胸の鼓動が大きくなるような気持ちさえしてくる。

 

(え、えええ!? ユエが……俺の事を……す、好き? いや、その……本当に……?)

 

 アインズにとって愛の告白というのは初体験だった。アルベドからはしょっちゅう言い寄られているが、アインズの中でNPC達は「かつての仲間の子供」という認識が強く、子供が父親に好きと言っているのと変わらない様に感じていた。

 だが、ギルドメンバーと関係なく。況してやナザリックの支配者や魔導王という仮面を被る事無く、素の鈴木悟として付き合える相手に。そんなユエだからこそ、アインズは意識し始めていた。そして今、ユエも自分の事を好きだと言ってくれる。

 しばらく混乱していたが、それは次第に喜びへと変わり、全身を駆け巡る様な感情にアインズは思わず叫び出したい様な嬉しさを覚え――――――瞬間、冷水を掛けられた様に感情が沈静化した。

 

「あ………」

「サトル様……? いえ、申し訳ありません。突然、こんな事を言って迷惑でしたよね」

「いや、違………」

 

 アインズから急に熱が冷めていくのを別の意味に捉えたのか、ユエは頭を下げる。そしてアインズが弁明するより先に、ユエは自分の書類をさっさとまとめ上げた。

 

「………私はこの先、どんな形でもサトル様にお仕え致します。それだけは覚えておいて下さい」

 

 そしてユエはアインズに背を向けたまま転移魔法を使った。転移魔法で姿が消える瞬間、目に何かがキラリと光るユエの顔は………初恋の告白が実らなかった様な女の顔だった。

 立ち去るユエを呼び止められず、アインズは呼びかけようとした手を中途半端に虚空に彷徨わせる。そして、ぐったりと椅子の背もたれに寄り掛かった。

 

「厄介だな……この身体……」

 

 今更な事をアインズは呟く。この身体になって、助かった事も多々あった。人間の身体のままなら、戦うどころか異世界に転移したという事実にひたすら混乱してどうしようもなかっただろう。

 だが、いまこの時ばかりは喜びも愛情までも沈静化される身体が恨めしかった。

 

「そういえば……ナグモが何か言っていたよな……」

 

 ふと、先程決裁した書類の内容を思い出して、アインズは呟いた。

 

「どういう結果になるかは分からないけど……この身体の事を解決するなら、良いんだけどな」

 

 大きく溜息を吐きながら、アインズは書類を見返してみる。

 『至高の玉体作成計画』―――その書類には、ナグモのサインでそう書かれていた。

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