ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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またも情報量を詰め込み過ぎたな……。いつもより長いので飽きずに読んでくれれば幸いです。


第百七十九話「神殺しの準備」

 ナザリック地下大墳墓の玉座の間。そこではナグモを始めとした全ての階層守護者達、彼等を統括するアルベド、そしてアインズが集まっていた。今回、緊急会議を開いたが議題は既に決まっていた。

 

「申し訳ありません。降臨したエヒトルジュエにより、アインズ様より頂いたドッペルゲンガーばかりか勇者達につかせたシモベ達まで失ってしまった事をお詫び申し上げます」

「よい………デミウルゴス、お前の全てを許そう」

 

 ハイリヒ王国の諜報や工作活動をしていたデミウルゴスが深々と頭を下げていたが、アインズは寛容に頷いた。

 エヒトルジュエが勇者達の下に実体を伴って現れた折、現地に派遣していたドッペルゲンガーの死亡が確認された。さらにエヒトルジュエには偽装を看破する力があるらしく、その他にも勇者達の周りに潜ませていたシャドウデーモンなどの隠密に長けた魔物達との連絡が全て途絶えたのだ。これによってハイリヒ王国の要である勇者達、そしてとうとう下界に現れたエヒトルジュエに対しての諜報活動が不可能となった事を意味していた。

 

「犠牲になったモンスター達は残念だったが……それでもお前の身が一番大事な事には変わらない。お前までエヒトルジュエに看破されて、殺されずに済んだ事をまず喜ぼう」

「おおっ……! 勿体なき御言葉です」

 

 至高の主人より身に余る言葉をかけられ、デミウルゴスは宝石の瞳から感涙しそうになるのを必死で抑えた。他の守護者達もアインズの慈悲を厳粛な面持ちで受け止めたり、こっそりとハンカチで目を拭っていた。

 

「して、アインズ様。私達はこれからどう動くべきでしょうか?」

 

 場の雰囲気がある程度収まったのを見て、アルベドが声を上げる。

 

「至高の御方を差し置いて神を名乗り、とうとう現れた不埒者……お望みとあらば、王国ごと滅ぼして愚神エヒトルジュエの首を捧げる準備は出来ております」

「私の階層の魔獣達はもちろん、この世界のモンスター達によるキメラ部隊も準備はバッチリです! いつでもいけます!」

「第五階層守護者並ビニ魔導国軍国防長官トシテ報告致シマス。我ガ配下、ソシテ亜人族達ニヨル魔導国軍モアインズ様ノ号令ガアラバ、神ヲ討チ果タス為二戦ウデショウ」

 

 アウラやコキュートスが闘志を顕にしながら頷いた。その他の守護者達も、無言で自分達も準備万端だと頷き合っていた。

 

「お前達が私の為に働いてくれる事に感謝する。だが………まだ戦う時ではないと私は思う」

 

 ざわっ、とアインズの発言に守護者達がどよめいた。彼等を見ながら、アインズはゆっくりと話し出す。

 

「ナグモは既に知っていると思うが、エヒトルジュエには概念魔法という切り札がある可能性が高い。その概念魔法の正体が何なのか判明しない内は迂闊には攻め込めん」

 

 ユグドラシルにおいてもワールドアイテムを持っているギルドは、それだけで他のギルドに対する抑止力となっていた。概念魔法がワールドアイテム級の手段と知った以上、アインズは闇雲に特攻して返り討ちにあう愚を避けたかったのだ。

 

「そしてもう一つ。今のところ、奴が動いているのがハイリヒ王国内だけという事だ」

「えっと……申し訳ありんせん、アインズ様。それの一体何が問題なんでありんしょうか? どこに現れようとエヒなんちゃら神を討てば宜しいんでありんせん?」

「シャルティア、アインズ様が懸念しているのは魔導国としてだよ。今や魔導国も大きな国となった。今後の統治の為にも、ハイリヒ王国に攻め入るにはそれなりの大義名分が必要となったのだ」

 

 デミウルゴスの解説にアインズも無言で頷く。ここでナザリック全軍に号令を出して王国に侵攻するのは簡単だ。しかし、仮にも魔導国が国という体裁を保っている以上、今のところは他国に直接的な被害を出さずに国内で内乱をしているだけの王国に介入するには理由が弱かったのだ。

 

「とはいえ、その事についても既にアインズ様は考えておられるのだよ。いやはや、さすがはアインズ様です。よもやあの王女を始末されなかったのは既にこの事態を見越しておられたとは………」

「………あとでお前が考えている内容を聞かせて貰おう。デミウルゴス」

 

 おお、さすがアインズ様と守護者達がざわめく中、アインズは知ったかぶりをせずに確認する事にした。放っておくとフューレンの時みたいにとんでもない事態に巻き込まれかねない。

 

「まあ、ともかく……我々もエヒトルジュエに対してただ手をこまねくだけではいられん。ナグモよ」

「はっ!」

「お前には念の為にある物を作って貰いたい。それは―――」

 

 アインズはとあるアイテムの名を口にする。それはかつて一度だけ、ギルド“アインズ・ウール・ゴウン”が所有していた武器だった。その名を聞いた途端、ナグモはおろか守護者達全員が表情を驚愕に歪めた。

 

 

「………どうだ? 出来そうか」

 

 アインズにそう言われ、ナグモは難しい顔になる。量子コンピュータを上回る頭の中を高速で回転させ、即座に何万通りの結果をシミュレーションして吟味した後に答えた。

 

「……可能か否かで述べるなら、不可能ではありません。ただ、これを作り上げるには既存の研究員達だけでは期日まで間に合わない可能性があります。研究員の増員をお願いしたいです」

「そうか……ならば私から手配しておくから頼めないか。エヒトルジュエが出張ってきた以上、最後の神代魔法を手に入れるのは難しくなってしまったからな。こうなったら奴を確実に倒せる代替案を実行するしかない」

「分かりました」

「デミウルゴス、シャルティア。聞いての通り、ナグモに対エヒトルジュエの重要な仕事を任せる。二人は配下のエルダーリッチやエビルメイガス等を要請があったら貸し出す様に協力を惜しむな」

「「はっ!!」」

 

 三人の守護者は頭を下げて了承の意を示す。その中でナグモは、これは今までの仕事でもっとも大掛かりになると予想していた。

 

(だが、やらなくてはならない。アインズ様の為に、香織の為に………そして八重樫の為にも)

 

 デミウルゴスの報告によるとイシュタルに化けていたドッペルゲンガーをはじめ、教会本部や勇者達の周りに配置させていたナザリックのシモベは全滅したらしい。雫をナザリックに回収するには、エヒトルジュエを亡き者にする他ないとナグモは決意を新たにしていた。

 

 ***

 

 転移魔法を使い、ナグモはライセン大迷宮に来ていた。現在、香織と暮らしているオルクス大迷宮もそうだが、ナグモ達が攻略した大迷宮はエヒトルジュエやその配下達の手に落ちない様にナザリックによって占拠されていた。攻略済みの大迷宮は魔導国の為に様々な用途で再利用されている。そしてここ、ライセン大迷宮では―――。

 

「ミレディ支部長! この件ですけど……」

「ん~、ガルヴァーニ電流を300クリック上げておいて。それとマナ吸引は80マギナまで上昇ね」

「支部長、純度はこちらで宜しいでしょうか?」

「どれどれ……って、駄目駄目! これじゃ耐久度が足りなくなるよ! エーテル純度が90%を切ってたでしょう? 作り直し!」

「わ、分かりました!」

 

 ナザリック技術研究所の作業員であるエルダーリッチ達。異形種である彼等は、いま()()()()()にあれこれと指示を出されていた。アンデッドの魔法使い達に恐れを抱くことなく、むしろ顎で使っている少女へナグモは歩み寄る。

 

「きちんと働いているみたいだな」

「あっ、所長じゃん。やっほ~」

「ナ、ナグモ所長!」

 

 エルダーリッチ達が慌てて敬礼する中、金髪の少女———ミレディ・ライセンはぷらぷらと白衣の袖を振って挨拶した。ナグモはジロッとミレディを一瞥しただけでエルダーリッチ達に作業に戻る様に命令した。

 

「すっかり奴等を手足にしているみたいだな」

「駄目だった? ここは元は私の大迷宮なんだから、管理者になるのは当然だと思うけどな~?」

「別に構わない。お前がエルダーリッチ達より優秀なのは事実だからな」

「ふふん、もっと褒めてくれたまえ。むしろ空前絶後超絶天才完璧美少女を自分の部下に出来た事に、喜び悶えたまえ!」

 

 イラッとくる言動を無視して、ナグモは溜息を吐くだけに留めた。

 解放者ミレディ・ライセン。神代から生きた魔法使いというのは伊達ではなく、ナザリックの魔法や技術も学んですぐに身に付けていた。その実力も知識量も研究員のエルダーリッチ達より上であり、ナグモはトータスの魔法技術と融合させた研究においてミレディを責任者に命じていたのだ。

 

「でも意外ではあるよねえ。アインズ君はともかく、配下の君達は余所者が高い地位につくとか嫌がりそうに見えたのに」

「アインズ様、だ。馬鹿者。僕はそういう非合理的な真似は嫌いだ。アインズ様への忠誠心があるなら、使える者は最大限に使える環境に置くべきと判断しただけだ」

 

 アインズの配下に組み込まれてからそれなりの月日が流れ、ミレディもアインズ以外のナザリックの者達の排他的な感情を察しているのだろう。しかし、ナグモにはそういう感情が無いらしい。あるいは、これは彼がNPCから脱却して柔軟な思考が出来る事に起因しているのかもしれない。

 

「そんな事より、そのボディ。特に問題はないか?」

「今のところ特にはないかな。それにしても、よくもまあこんな物を作れたもんだね」

 

 くるりとミレディは身体を見せびらかす様にターンする。その姿はまさしく生前の彼女のものだった。

 そう。ミレディはゴーレムの身体から生前と瓜二つの姿に変わっていた。

 ナグモが打ち立てた『至高の玉体作成計画』。異形種であるアインズの身体に人間の肉体を与える計画の実験素材として選ばれたのがミレディだった。

 

「まあ、欲を言えばインシュリンとアミノ酸、あとビタミンPZを各20パーセントずつ増やしていれば完璧だったかな」

「ふん……まあ、検討しておいてやる」

「そもそもこの超絶美少女ミレディちゃんの可愛さは数値では表せないけどね! もしかして作ってる途中で欲情しちゃった? イヤ! 変態! ナグモちゃんってば、香織ちゃんにとどまらず私まで毒牙に、あばばばばば!?」

 

 カチッとナグモは無言で手元にあるスイッチを押す。するとナグモを煽っていたミレディの身体に電流が走った。

 

「……言い忘れていたが。その身体、反逆防止の為に仕掛けをしていた事を()()思い出した。ああ、()()()()スイッチを押さない様に気をつけないとな」

「い、いい性根をしてるよね、君も……もしかして自爆機能とか付けてたりする?」

「当然だろう。自爆装置はロマン、とじゅーる様も言っていた」

 

 何を当たり前のことを、と言う態度のナグモにミレディは「うわぁ……」と引いた顔になった。やはり男のロマンは理解し難いらしい。

 

「まあ、それはそれとして……君の()()の目的、この身体だけじゃやっぱり物足りないと思うよ?」

 

 ミレディからの指摘にナグモは黙る。

 

「気付かないと思った? 被験体の身とはいえ、私も実験に参加してるわけだからねえ。君が何を目的としてこの実験をしているのか、この身体を通して何となく理解できちゃったよ。私やアインズ様に仮初めの肉体を与える事を目的としてるならともかく………人間じゃない相手を、況してや死者を生者に戻すという目的には不十分だと思うな~」

 

 あえて生意気な態度でミレディはナグモに言ってみる。実のところミレディの他人からウザがられる性格は(一応)擬態だ。こうして相手を挑発して反応を伺う場合もある。ミレディの予想ならナグモは自分の研究成果が不完全だと指摘された事に不機嫌になるだろうと思っていた。

 

「………何が足りない。どうすればいい?」

「………意外だね。素直に聞いてくるなんて」

 

 だが、ナグモはミレディの指摘に声を荒げるでもなく静かに聞き返した。かつて迷宮の試練でおちょくった時に見せていた子供っぽい姿からは予想できなかった反応だった。

 

(こんな奴でも短期間で成長したりするんだよね………)

 

 だからこそ、自分は人間達の味方でありたいのだ。邪悪な神の玩具として玩ばれる存在ではなく、自由な意志を持つ存在として暮らせる様に。

 かつての解放者は何千年経とうと消えない想いを思い返しながら、ウザい態度を潜めて真剣に答えた。

 

「オーくんの生成魔法、ヴァンちゃんの変成魔法………その他の神代魔法も組み合わせて、肉体の作成だけを見るなら君は完璧だよ。でも、最後に手に入れられてない魂魄魔法。それこそが君の目的を遂げる最後のピースとなると思う」

「だが、その神代魔法がある神山は………」

「そうだね。クソヤローが降りてきて、根城にしてるから今は無理だろうね」

 

 下界に姿を現したエヒトルジュエは、やはりと言うべきか聖教教会の本部である神山に留まっている様だ。さすがに無策で敵の総本山へ特攻を仕掛けるにはいかず、神代魔法の探索の旅に関しては手詰まりとなってしまった。

 

「注意しなよ。アイツは“真の神の使徒"より強力な洗脳魔法があるからね。どんなに力を持っていても、私達みたいに周りの人間を操って潰しに掛かられたら厄介だよ」

「分かっている。その為にも今日はここに来た。至急、魔導国傘下の国や街に対精神防御装置を多数設置する必要がある」

 

 かつてノイントの姉妹達を解剖し、香織が再現した精神魔法の防御音波。それを魔導国の国民が洗脳されない為に、魔導ラジオという形で普及させていたのだ。ラジオは公共の場には必ず置かれて全国民が聞ける様にしているのだが、あまりの人気ぶりに最近では個人でも買い求める者が後を絶たないとか。

 

「他にも用途はあるが、増産をお前に命じたい。()()の具合から見て可能か?」

「ん~………まあ、ちょうど吸引時間だし見に行く?」

 

 そう言って二人は歩き出した。増設されたエレベーターを使い、迷宮の地下へと降りていく。そうして辿り着いた場所はライセン大迷宮の最真奥部。かつては巨大ミレディ・ゴーレムを番人として配置していたが、ナグモに壊されて広大な縦穴が広がるだけの空間となったそこには――――。

 

『ヴォオオアアアァァァッ………!』

 

 そこに―――巨大な肉塊が水槽に浸かっていた。

 それはもはや生物と呼んで良いかも疑わしい物体だった。ミレディ・ゴーレムを収納していた空間一杯に膨れ上がり、様々な生物の器官を出鱈目に生やした身体は自立する事など出来ず、水槽の浮力を使う事でようやく自重で潰されずに済んでいる様だった。

 まるで内臓から膨れ上がったかの様にサーモンピンクの肉が身体中にブドウの様に盛り上がり、息をする事すらこの物体には一苦労する様だ。理性を感じさせない呻き声を身体の至る所に出来てしまった口から漏らし、そして理性が無い故に自らの姿に絶望して死ぬという事も出来なかった。かつて香織が魔物の因子を際限なく取り込んで歪な魔物と化したが、こちらはもはや歪な肉塊とでも呼ぶべき存在だった。

 

『ヴァアアアアアッ、ヴァアアアッ……』

「ふん。こんな姿でもまだ生きているとはな」

「死ねない設計にしたのは君でしょ。趣味が悪いと思うけど、()()()のやった事を考えれば自業自得だよね」

 

 縦穴の底の水槽に広がる歪な肉塊。それを見下ろせる位置に作られた部屋でナグモとミレディは話していた。部屋には様々な機械が置かれており、エルダーリッチを始めとした作業員達が何やら機械の計器を操作しながら働いていた。見るも無惨な歪な肉塊がいるというのに、それを見下ろすミレディの目は怨敵を見るかの様に冷たい。

 

「……始めろ」

 

 ナグモがそう言うとミレディがエルダーリッチ達に指示を出し、エルダーリッチ達も指示通りに機械を操作し始めた。

 

「吸引出力85パーセント……90パーセントオーバー」

「システムオールグリーン。結晶生成工程開始」

 

 作業員達の淡々とした報告と共に歪な肉塊から発光現象が起き始めた。同時に作業員達が遠隔操作する機械によって、歪な肉塊の近くに巨大なスポイトの様な形状のアームが現れた。スポイトアームが光を吸い込むと同時に歪な肉塊はさらに大きな鳴き声を上げた。

 

 

『ヴェエアアアアアアッ!! ギュイイイイイイイッッッ!!』

 

 まるで身体を圧縮機にかけられ、血を無理やり絞り尽くされる様な気色の悪い鳴き声が響いたが、その場にいる者達は中止しようともしなかった。そうしてスポイトアームが吸引した光が装置を通してナグモ達の部屋に送られ始める。歪な肉塊から搾り取った光―――魔力は装置の中で結晶化され、そして人間の頭大の大きさとなって装置の中からゴロンと転がり出た。

 

「計測します………純度90パーセント以上、“神結晶”の完成です!」

 

 おおっ、と作業員達が喜びに沸く。トータスにおいて神話の鉱物である神結晶。それを人工的に作れた達成感に沸く中でミレディは一仕事を終えたかの様にふぅと息を吐いた。

 

「やれやれ……やっと満足の出来る大きさにこぎ着けたよ」

「よし。これを更に十個ほど作れ。純度が90パーセントを切った物はいつも通り魔導国都市のエネルギー供給部に送れ」

「さらっとスパルタな事を要求するよね、君も………」

 

 この大きさの人工神結晶になるまで、かなりの試行錯誤を繰り返したのだ。そこからさらに量産しろと言ってくるナグモに、ミレディはジト目になりかけたが……。

 

「ナグモ様、そしてミレディ殿。これ()あんまりだと思います」

 

 作業員達の中から一人の異形種が進み出る。純白の衣装を身に纏い、顔に当たる部分には鳥の嘴の様に鼻が伸びた仮面を付けた道化師―――ナザリックのNPCであるプルチネッラだ。研究所の手伝いとしてデミウルゴスから派遣された彼は独特のイントネーションでナグモ達に意見した。

 

「彼()理性を剥奪され、ただ苦痛と共に魔力を搾り取られるだけの製造機となっている……なんと嘆かわしい! さすがに彼が可哀想だと思います!」

「……一応は言っておくがな、プルチネッラ。()()に安息すら許さないと命じたのは他ならぬアインズ様だ」

「ですが! 形()違えども彼()我々と同じく共に魔導国を支える同志です! ミレディ殿と同じく、彼もまた新たな同志なのだから幸せを感じさせてあげるべきなのです!」

「……ねえ、プルチネッラ君? 私からも一応聞いてあげるけど、どんな方法で幸せにしたいの?」

 

 オオッ、とプルチネッラは歪な肉塊の置かれた環境に本気で嘆き悲しんでいた。ミレディが聞くと、ガバッ! と道化師じみたオーバーなリアクションで顔を上げる。

 

「はい! まず()彼の理性を戻し、自分の肉体を認識できる様にしてあげましょう! 自分が栄えある魔導国の礎を支える仕事をしている事にきっと喜んでくれる筈です! もしも彼が自分の足で歩けないと不満を述べられたら、先日フューレンで捕まえた罪人達の一人を連れて来て足を切り落とせば良いのです! そうすれば彼()自分に()歩けなくとも足がある事を幸せだと感じるでしょう! 足を無くした者に()、もう一人罪人を連れて来て腕を切り落とし、腕がある事に喜びを感じさせ―――」

「あ、もういいや。それと私の事は幸せにしようとしなくていいから」

 

 悪魔らしい―――もはやサイコパスな発想を嬉々として饒舌に語るプルチネッラに、ミレディは無表情で返した。ナグモもプルチネッラの意見に頭痛を抑える様にコメカミに手を当てていた。

 

「……まあ、一意見として受け取ってはおく。だがな、プルチネッラ。それで生産効率が上がるならともかく、因果関係を立証されないなら僕は悪趣味な事をするつもりはないぞ」

「……へ? 悪趣味? 私がですか?」

 

 プルチネッラが首を捻る。ナグモが何故そう言ったのか、本気で理解していない様だった。

 

(やはり、悪魔とは相容れない………)

 

 ナグモはこっそりと溜息を吐く。ナグモとて自分が人間からすれば冷酷な面がある事は自覚している。だが、それは科学者として合理的な判断に基づいて行っているつもりだ。それこそ目の前の歪な肉塊を生かさず殺さずの状態にしているのも、神結晶を半永久的に搾り取るのに必要な措置だから行っているのだ。

 だが、プルチネッラにそれを言っても通じないだろう。彼は自分なりの美学―――人間には理解できない悪魔の理屈で、本気で歪な肉塊に幸福を感じさせようとしているのだ。むしろ堕落や退廃、破壊や絶望を悦と感じる悪魔達の中で彼が異質な方なのだろう。いずれにせよ、同じナザリックの仲間とはいえ異形種の悪魔との視点はナグモには共有できそうになかった。

 

「まあ、とにかく。アインズ様の命令もある事だし、いまは生産効率が優先だね。悪いけど、プルチネッラ君の意見はまたの機会という事で」

「うう………分かりました」

 

 ミレディが纏める様に言うと、プルチネッラは仕方なくといった様子で下がった。

 

「それはそうと、そんなに神結晶を集めて今度は何を作るつもりかな?」

「先程も言った様に、エヒトルジュエが根城にしてるお陰で神山の神代魔法を手に入れられる可能性が極端に低くなった。同時に僕達がエヒトルジュエを倒す為の概念魔法を手に入れる機会も消失してしまった」

 

 エヒトルジュエを討つ銀の矢となる概念魔法。神代魔法の全てを手に入れる可能性が低くなったと理解し、アインズはすぐに別の手段をナグモに命じていた。

 

「ならば、僕達の知る世界……ユグドラシルにおける手段。()()()()()()最高のアイテムを作り上げるしかない」

「へえ……それはまた大きく出たね」

 

 ナグモの宣言にミレディは期待を寄せる様に呟く。彼女もまた、怨敵エヒトルジュエを殺せる手段という物に興味がある様だ。そして、ナグモはそのアイテムの名を口にした。

 

 

聖者殺しの槍(ロンギヌス)。ワールドアイテムの中でも“二十“と位置付けされた最高の武器……これを必ずや作り出してみせる」

 

 それは、ユグドラシルにおいても不可能だと言われそうな発想だ。だが、ナグモはまさに不可能を可能にする研究者の様に静かに瞳を燃えさせる。

 アインズの為、ミュウが平和に暮らす為………そして香織を人間に戻す為。

 その決意を胸に歪な肉塊―――かつてアルヴヘイトと呼ばれていた神結晶製造機の前でナグモは神殺しの手段を宣言した。

 




>最終決戦はまだまだ先

言い訳をさせて貰うと、慎重派のアインズからすれば「ラスボスが出た! よし突撃!」みたいな即行動はしないんじゃないかな。それこそ自分が確実に勝てる手段を構築してから挑む様な気はしてます。
因みに王国にすぐに攻め入らないのは魔導王としての自覚が出てきたから。国民達から見ても納得のいく様に他国に攻め入る手段を構築するつもりです。

それにほら……最近、アニメが始まった逃げ若で尊氏も最初は後醍醐天皇を味方にして鎌倉幕府を滅ぼしたでしょう(笑) そういう事ですよ?

>ミレディちゃん人間ボディ

ナグモの異形種人間化実験の産物であり、試験体。まだまだ改良の余地はあり、残念ながら香織を人間の体に戻すという目的には至ってない。ミレディはナグモの目的を知ってるが故に協力してあげた形になる。

>プルチネッラ

ナザリックの道化師NPC。たとえ捕虜や囚人であろうと、ナザリックに招かれた者は幸せにしてあげたいと思う博愛主義者。ただし、その内容は悪魔らしくサイコパスな発想しかしてこない。原作では言及は無いが、デミウルゴス配下。

>アルヴヘイト

別名・神結晶製造機。少し前に話した魔導国のエネルギー源がこれ。
改造手術の果てに魔力をただ生み出す事だけに特化した醜悪な肉塊にされた上、理性すらも剥奪された。今では定期的に魔力を搾り取られ、ナザリックの為に神結晶を製造するだけの生物に成り下がっている。
さすがに作者も鬼ではないので、魔力が尽きたら死なせてあげようと思う。多分、数千年後とかそのくらいに。

>ロンギヌス

原作オーバーロードに登場したワールドアイテムの一つ。ワールドアイテムの中でも“二十"の一つと呼ばれ、使い切りではあるが破格の性能を持っている。今作では一度だけAOGが所持していた事があるという設定にしている。

使用者を完全抹消する代わりに、相手も完全に抹消できる。
仮に“ギルドのNPCに使った場合"………そのNPCは完全に消失して復活できなくなる。
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