ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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第百八十話「零落した神」

「―――だからこそ、俺達は今度こそ一致団結しなければいけないんです!」

 

 光輝の演説が集まった人間達へ響く。それはかつて“聖戦遠征軍”を結成する時に王都で行った光景とそっくりだった。違うのはこの場所が王国に反旗を翻した街であり、光輝が演説している相手もエリヒド王や教会の圧政に耐えかねて反乱を起こした人間だという事だ。以前の様に聴衆は光輝に対して好意的な感情などある筈もなく、そして教会がこっそり用意していたサクラも今回はいない。ところが………。

 

「ああ……私達が間違っておりました!」

「これからは勇者様にご協力致します!」

 

 王国に対して反乱を起こしていた筈の街の住人は、光輝の演説を聞いた途端に武器を捨てて光輝に許しを請いだした。それどころか感激して泣き出す者までいる始末だ。

 

「皆さん……分かってくれたんですね!」

「はい! 勇者様のお陰で目が覚めました!」

「エヒトルジュエ様に選ばれた御方を疑うなんてどうかしていました!」

 

 それは異常過ぎる光景だった。王国の圧政に耐えかねて反乱を起こした人間達が、光輝の演説を聞いただけで掌を返した様に自らの行いを過ちだったと詫びている。だが、光輝は久方ぶりに自分の話を周りが聞いてくれるという事が嬉しくて異常さに気付いていなかった。

 

(やっぱり………エヒトルジュエ様の言った通りだ! 皆、魔導王に洗脳されていただけなんだ!)

 

 光輝は懐にある宝玉を撫でながら、出発前にエヒトルジュエに言われた事を思い出していた。勇者である自分の所へ来てくれた神は、いま王国で起きている内乱が魔導国の工作だと言っていた。魔導王によって洗脳された人々を救う為、エヒトルジュエの神力が込められたこの宝玉を使えば洗脳が解けると教えられていた。そうして言われた通りに宝玉を掲げると、それまで敵意を剥き出しにしていた人々が自分の話を聞いてくれる様になったのだ。

 

「行きましょう、皆さん! 皆で一致団結して悪の魔導国と戦って平和を取り戻しましょう!」

「はい、勇者様! 貴方について行きます!」

「戦える者は皆、勇者様と共に行くぞ! 女子供や老人達はこの街に残っていてくれ!」

 

 光輝の号令に街の人間達は従う。瞳から光が失われた彼等は王国と戦う為に用意した武器を持って、光輝の下へと集まった。それを戦う力の無い者達は同じ様に光を失った目で歓声を上げて見送りをした。

 

「勇者様バンザイ! エヒトルジュエ様バンザイ!」

「どうか憎き魔導王を倒して下さい!」

「ありがとう……ありがとう、皆さん! 俺はトータスの勇者として、必ず魔導王を打ち倒します!」

 

 集まった人達と共に光輝は再び宝玉を取り出す。この宝玉には()()()()()()()()()()()以外にも空間転移の魔法が込められており、これによって光輝は王都から反乱が起きている各地へ時間を掛けずに来られる様になったのだ。この様な魔法もまさにエヒトルジュエが本物の神だからこそ出来る芸当なのだろう。

 

(香織……待っててくれ! 神様も味方をしてくれた今、今度こそ俺は君を南雲の手から救う! そしてトータスを支配しようとする魔導王も倒して地球に帰るんだ!)

 

 宝玉によって開かれた転移門(ゲート)へ新たに()()()()()()()()()()()人間達と共に入りながら、光輝は熱く胸に誓った。

 

「……行きましたな」

「そうですね……」

 

 転移門が閉じ、残された街の住人達―――戦えない老人達や女子供はポツリと言った。

 

「勇者様やエヒトルジュエ様と戦えるなど夫達にとっては名誉な事でしょう」

「ええ、本当に。出来るなら私も勇者様の下でお役に立ちたかったですわ」

「まあまあ。儂等には儂等の役目がある。エヒトルジュエ様の為にまずはそれを果たしましょうぞ」

「ええ、お爺さん。頼みましたよ」

 

 彼等は光が消えた瞳のまま各々頷き合った。その中で一組の老夫婦が動き出す。この街で一番の長寿であり、周りから末永くおしどり夫婦と知られている二人だ。老婦はいつもの様に老いた夫に笑みを浮かべて、夫の前で屈んだ。老いた夫は皺だらけの手で反乱軍が残していった武器を手に取り――――――長年連れ添った妻の頭に振り下ろした。

 

「さあ、皆。戦えない我々はエヒトルジュエ様の為に命を捧げるのじゃ!」

『はい!』

 

 返り血で染まった翁がニッコリと笑いながら宣言すると、他の者達も笑顔で武器を取った。

 

 ある者は幼い頃から一緒にいて共に歳を取った友人を殺した。

 ある者は我が子の頭に鈍器を振り下ろして撲殺した。

 ある者は幼い孫が刺してきた短剣によって絶命した。

 

 街中の人間が大切な家族や友人と殺し合い、しかし殺した方も殺された方も敬虔な信者の様に至福の笑みを浮かべながら死んでいった。

 

「エヒトルジュエ様あああああ、バンザアアァァァイッッ!!」

 

 最後にたった一人残った老人は、笑顔のまま自分の喉に短剣を突き刺して絶命した。

 そうして息をする者がいなくなった街―――地面に死体が足の踏み場も無い程に転がり、真っ赤な血で染め上げられた街。そこに突然、巨大な魔法陣が現れた。血の様に紅い魔法陣は街全体を覆う様に広がり、街に転がった死体は魔法陣に溶け込む様に消えていく。やがて全ての死体を取り込み魔法陣が消えた後、そこには血の跡すら残っていない無人の街だけが残されていた……。

 

 ***

 

「エヒトルジュエ様。今日は五百人が新たに()()()()に応じてくれました!」

「―――そうか。ご苦労である、勇者・光輝よ」

 

 ハイリヒ王国・神山。宝玉の力で再び転移した光輝はエヒトルジュエに謁見していた。地上に降りてからエヒトルジュエは常に神山におり、教会の司教達に崇められていた。聖教教会にとってはまさに生き神そのものであり、本来なら特別な人間しか謁見が許されないのだが光輝だけはこうして頻繁に会えていた。

 

「俺達の軍に加わってくれた人達は麓の王都に送っています。これで“第二次聖戦遠征軍”は五万人を超えました! トータスの平和の為に戦ってくれる人がまだこんなにいるなんて………やっぱり人間は素晴らしい生き物ですよね!」

 

 現在、光輝によって再び集められている“聖戦遠征軍”。その全ては王都に集められて訓練を受けていた。本来ならば王都には急に増えた五万人もの人間を養う食糧も寝床も足りていないのだが、食糧に関しては()()()()()()()()()()()()貴族達が惜しみなく自分の財産を切り崩して揃えてくれたのだ。寝床の方は王都の宿屋などでは足りず、ほとんどの者が王都の外壁の周りで野宿同然の生活をしているのだが、その事に関して誰も不満を述べていなかった。光輝はそれを『皆がトータスの平和の為に一致団結してくれてるから』と解釈していた。

 

「………ああ、その通りであるな。人間達もまだまだ捨てたものではない」

 

 努めて―――エヒトルジュエは神らしい威厳ある態度で光輝の言葉に頷いた。やはり神様は人間の味方だったんだ、と光輝は安心感を覚えた。

 

「それでエヒトルジュエ様………そろそろ魔導王に支配されてる人々を救いに行っても良いんじゃないでしょうか?」

 

 ピクッとエヒトルジュエの眉がほんの僅かに動いた。だが、すぐに慈悲深い神の様な笑みを浮かべる。

 

「残念ながらまだまだ足りぬ。邪悪なる魔導王の力に対抗するには、もっと大勢の人間の力が必要なのだ」

「そんな……でも………」

「迷うな、勇者・光輝よ。そなたにはこのエヒトルジュエがついている。人々の祈りが集い、そして邪悪なる魔導王を討ち果たした時、そなたの亡き友達も蘇り、元いた世界へと帰れるであろう」

「本当ですか!? 龍太郎達を生き返らせてくれるんですね!」

 

 光輝の胸が喜びに湧く。オルクス大迷宮で起きた不幸な事故で亡くなった親友。それを神が直々に復活を約束してくれ、希望が胸に宿った。

 

「分かりました! もっと王国の多くの人達が協力してくれる様にします!」

「頼んだぞ、勇者よ」

 

 光輝は喜びを表情に浮かべながら、エヒトルジュエがいる聖堂を後にした。そして光輝の気配が遠ざかった後―――。

 

「なにが………なにが勇者だ、あのクズがあああぁぁぁっ!!」

 

 エヒトルジュエはそれまで浮かべていた慈悲深い神の顔を消し、胸の内で我慢していた黒い感情を吐き出す様に毒づいた。

 

「あの何処までも勘違いしてるガキがっ! あのガキが勇者として使えていれば我もこんな醜態を晒す事は無かったのにっ……!」

 

 ギリィッ、とエヒトルジュエは奥歯を噛み締めて怨嗟の声を上げた。エヒトルジュエを崇めている聖教教会の者がいたらさぞや驚いただろう。ステンドグラスや聖書で毎日見ている慈悲深い顔をした唯一神が今は悪魔の様な形相で怒り狂っているのだから。

 そう―――今のエヒトルジュエの姿は、あまりに()()()()()()()()()()()神の似姿とそっくりだった。

 教会によって描かれているエヒト神の姿は後世の人間達が想像で描いた物だ。だからこそ、エヒトルジュエの本来の姿とは似ても似つかない筈だった。そもそも今のエヒトルジュエには肉体が無く、だからこそ自分の新たな器となる肉体を探していたのだ。“神の使徒”と呼ばれている高校生達を異世界から召喚したのも、暇潰しが半分と新たな器がいないかと期待してのものだった。

 

(あんな……あんな弱いガキなど使えるか! あのアンデッドと戦う事になったらクソの役にも立たんっ!!)

 

 だが、その計画は破綻した。召喚した高校生達はどれも期待外れのステータスであり、“勇者”の天職だった光輝もエヒトルジュエのお眼鏡にかなう人材では無かった。それでも勇者の“醜態”は端から見ている分には面白く、それを神域から高みの見物をしていたのだが全てを狂わせる要素が地上に現れたのだ。

 

 魔導王を名乗るアンデッド―――アインズ・ウール・ゴウン。

 

 アンカジ公国で従神のアルヴヘイトが敗北したのを皮切りに、気が付けばエヒトルジュエの力の源である人間達の信仰心も失われていた。勇者達が落ちぶれていく姿を愉しみたいと放置した事が仇となり、“こんな勇者を擁護している聖教教会より魔導王の方が良い”とトータスの大半の人間達が考える様になっていたのだ。

 日を追うごとに急下降する自分への信仰心。そして零落していく自分の神力。

 そうして弱まっていく神力に併せて、自身が作り上げた神域も徐々に崩れていくのを感じたエヒトルジュエはとうとう賭けに出たのだ。

 

(神域にいた神獣共や“真の神の使徒(廃棄予定の人形)”共を使ってどうにか仮初めの肉体は作れた! だが……だが、この程度ではやはりっ……!)

 

 いまエヒトルジュエが人間達の前に姿を現している肉体は、神域に住まわせていた太古の魔物やアンカジ公国で大半が死んだ“使徒”達の生き残り―――エーアストなどと呼ばれていた個体達を合成して作り上げた物だった。本来ならばそんな混ぜ合わせの肉体など論外と断じていただろう。そもそも自分の神力を100パーセント発揮できる器として、“神子”の肉体を求めていたのだから。

 逆を言えば―――もはやその程度の器に収まる程にしか、自分の神力は残されていなかった。

 

(おのれおのれおのれおのれえええええっ!! 神たる我がこの様な屈辱をおおおおおっ!!)

 

 肉体を得た事でどうにか神力の減衰は抑えられた。だが、以前の力ならいざ知らず、弱体化した今の自分があの化け物アンデッドに勝てるなどとエヒトルジュエも思っていない。だからこそ、エヒトルジュエはかつて見下していた力無き者達の様に小細工を弄するしか手段は無かった。絶対上位者であった自分が姑息な手段しか取れなくなった事実にエヒトルジュエは歯噛みした。

 

(良いだろう………認めてやる! この遊戯盤では貴様の勝利だ、アインズ・ウール・ゴウン! だからこんな世界などくれてやる! だが、我の首まで渡す気など毛頭無いっ!)

 

 自分が万を超える月日で玩弄していたトータス(遊戯盤)が、もはや今から巻き返しなど不可能なくらい大局を制された事はエヒトルジュエも自覚していた。

 だからこそ―――この遊戯盤を捨てる決意をした。

 自分が長く神として君臨していたこの地を捨て、光輝達を異世界召喚した術式を応用して別の世界へと逃げるつもりなのだ。

 

(もう少しだ………もう少しで異世界転移に必要な魔力が溜まる! あの勇者(ガキ)を使って集めた人間共の魂。それをもう少し集めれば……!)

 

 

 かつてエヒトルジュエは神域を作る際、当時は緑豊かな地だったアンカジ公国を犠牲にした。今のアンカジ公国の領土が不毛の砂漠と化しているのはその名残だ。それを今度はこのハイリヒ王国で行うつもりなのだ。

 自分の異世界転移に使う膨大な魔力。それを光輝に渡したマジックアイテム(宝玉)で洗脳した人間達を殺し、さらにはハイリヒ王国全域で円を描く様にして殺した街の人間達の魂の魔力を循環させて魔法陣を描く予定だ。その効果でエヒトルジュエの魔力は何倍にも高められ、それは世界の壁を突破する程になる―――ハイリヒ王国の全ての大地や人間達の死と引き換えに。

 

(とりあえずは異世界で我の本来の力を取り戻すのが先決だ。あの勇者(ガキ)……『地球』とかいう奴の故郷の世界を蹂躙して力を蓄えたら、貴様にこの屈辱を倍にして返してくれる! それまで首を洗って待っていろ、アインズ・ウール・ゴウン!!)

 

 もはや自分の信徒であるこの世界の人間の事など眼中にない元・神は、逃げ切る為の戦いという無様な行いを自分にさせたアンデッドへ復讐心を募らせていた……。

 




はい、というわけでエヒトルジュエくんは逃げるが勝ちという手段を取るそうです。アインズから見れば、完全にガン逃げ戦法。

まあ、さすがにね? ここまで詰んだ状況を逆転できるなんてエヒトルジュエくんも考えないとは思うんですよ。そんなわけで再起を図る為にも地球へ逃げるのだとか……いやまあ、逃走先は散々自分を苛つかせてくれた光輝への意趣返しで選んでますけどね? 言うまでもなくとある人達への地雷ですな。

あと大半の人は予想してたけど、エヒトルジュエの今の身体は残ってたエーアストとかを使って作ったハリボテです。この世界基準で見ればまだまだ強いけど、アインズの強さを見た後ではエヒトルジュエも楽観していません。

因みにその異世界転移に使う魔力の賄い方は要するにハガレンの血の錬成陣のパクリですね。そんなわけで光輝を使って、あちこちの街で洗脳して使えそうな人間は兵力、使えない人間は殺して魔力に変換という事を繰り返してます。作中で言ってる第二次聖戦遠征軍とか、ぶっちゃけると光輝をやる気にさせる為のただの方便。最後は光輝もろとも異世界転移の魔力に変換するつもり。
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