ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 やっと最終章に向けて書く踏ん切りがつきました。
 思えば三年も続いた趣味のssですが、どうぞ最後までお付き合い下さい。


第百八十一話「魔導国建国祭」

 ナグモは研究室で集まった神結晶を全て機械にセットした。ライセン大迷宮の研究所で作られたいくつもの神結晶は機械の中で分解され、プリズムの様な虹色の輝きが機械と連動している生体ポッドの中へ吸収されていく。生体ポッドの中は液体は一際大きく泡立ち―――やがて、虹色に発光する人体を作り出した。

 

「おお……!」

「これならば、今度こそ……!」

「……エーテル値を測定しろ」

「はい!」

 

 研究員のエルダーリッチやエビルメイガス達が三桁の数にも及ぶ試行錯誤の出来にざわめく中、ナグモはミキュルニラに淡々と命じた。ミキュルニラが端末を操作し、しばらくした後に顔を上げた。

 

「……エーテル値、規定値を200%オーバー! その他のステータス値も基準をクリアしました!」

『おおおおおっ!!』

 

 研究室の中が一気に歓声が湧く。研究員達は世紀の大発明をした様に喜んでいた。

 

「完成だっ! 完成したぞぉっ!」

「やりました……やりましたなぁ!」

 

 ある者は思わずガッツポーズを決め、ある者はここしばらくの苦労がようやく実った事に隣の同僚と握手しながら喜びを分かち合っていた。彼等にとってナザリック技術研究所始まって以来の難題であり、この成果はナザリックの輝かしい歴史の一ページに刻まれる偉業だと確信して彼等の胸を達成感で満たしていた。

 

「………そうか。完成、したんだな……」

「しょちょ〜………」

 

 周りが歓声に湧く中、ナグモがポツリと呟く。それは研究の完成を喜んでいるというより、まるで完成と同時に明確な終わりを迎えた事を自覚した様な―――例えるなら遊園地で楽しい時間が過ぎて、日が暮れていく空を見上げる子供の様にも見えた。

 

「……ええ。お疲れ様でした、しょちょ〜」

 

 だからこそ、ミキュルニラはナグモの意を汲んで静かに労をねぎらった。

 彼女の後ろ―――黒髪の日本人の顔立ちをした人体が入った生体ポッド内の液体が、ゴポリと音を立てた……。

 

 ***

 

 ドン!ドン!ドン!

 魔導国の首都上空に続けて号砲が鳴り響く。それと同時に亜人族達は街頭で配られた魔導国旗(フラッグ)を振りながら歓声を上げた。

 

『アインズ・ウール・ゴウン様万歳! 建国記念日万歳!』

 

 大通りではいつもに増して人通りがあり、通行人に向けて露店の売り子達は競い合う様に呼び込みをかける。いつもは多くの魔導四輪車が行き交う車道では派手な衣装に身を包んだ亜人族の楽隊が行進しながら魔導国の国歌を演奏し、その後ろを巨大なアインズの像を乗せた山車(フロート)を先頭に何台もの山車(フロート)がパレードとなって進んでいた。

 今日は旧フェアベルゲンことアインズ・ウール・ゴウン魔導国の建国記念日だ。

 ナザリックがこの地を支配して、魔導国の建国を宣言してから一年が過ぎた。その短期間で街もすっかり様変わりして、かつては樹海に隠れ潜む様に慎ましく暮らすしか無かった亜人族達も豊かで文明高い生活を送れる様になっていった。

 その恩恵を齎してくれたアインズ(魔導王)に亜人族達は深く感謝しており、この建国記念日を国民全員で祝っていた。

 

「わあ、すごく賑やかだね!」

 

 街の至る所に翻る三角旗やアインズを讃えるのぼり旗を見ながら香織は声を高揚した声を上げた。

 

「でも、こんなお祭り騒ぎをしてても良いの? エヒトルジュエが本格的に動き出したからナグモくんも最近忙しかったんでしょう?」

「今日は魔導国初の建国記念祭だ。国威発揚という観点から見ても中止して良いものじゃない。国民達にも“アインズ様がいればエヒトルジュエごとき取るに足らない”と示す為にもな」

 

 隣りにいたナグモはそう言った。大通りを見れば、アンカジ公国やヘルシャー帝国の人間も建国祭に参加してるのが見える。両国は既に属国化したとはいえ、魔導国の国力が盤石であると示す為にもこの祭りは中止できなかった。本来ならばナグモもこの記念すべき行事を成功させる為に裏方で働かなくてはならないのだが……。

 

「それに……最近、香織とゆっくり時間を取れなかったからな。だから久々に一緒に過ごしたいと思った」

「ナグモくん……ふふ、じゃあ今日はお祭りデートだね!」

 

 香織は笑顔でナグモと腕を組んだ。言葉通り最近のナグモは研究で特に忙しく、香織の待つオルクス大迷宮の屋敷にも帰れない日々が続いていた。アインズの為とは理解しているものの、やはり香織は寂しかったらしい。そしてミキュルニラから「ちょうど建国祭ですから香織ちゃんとデートしてきたらどうですか〜?」と言われ、彼女が業務を引き受けてくれた事でナグモは久々に香織と会う時間が取れたのだ。

 

「今日は何をしようか? お祭りを見て回って、一緒にごはんを食べて、夜はもちろん……えへへ♡」

 

 香織は久々にナグモと過ごせる今日の予定に顔を綻ばせる。異形種化した事で変化した銀髪がキラキラと踊り、真紅の瞳は宝石の様に輝いて笑顔を作った。道行く男達は香織の美少女ぶりに思わず足を止めて二度見して、そして隣にいるナグモに羨望や僅かばかりの嫉妬が入り混じった視線を向ける。ナグモも顔立ちは人形じみてるとはいえ整っている事に違いなく、どこから見ても美男美女で相思相愛のカップルにしか見えない組み合わせなのだろう。

 まさに理想的な関係であり、理想的な恋愛であり―――理想的な(都合の良過ぎる)恋人だった。

 

「………………」

「ナグモくん、どうかしたの?」

「ああ………いや、大丈夫だ」

 

 急に黙ってしまったナグモを見て香織は不思議そうに見るが、ナグモはゆっくりと首を横に振った。

 

「やっぱり人混みは苦手だった? じゃあ、御屋敷に帰る? ナグモくんが()()()()()()()()()()のが、私の望みだから」

「………そうか」

 

 香織は笑顔で、そして躊躇いなくそう言った。

 きっと香織なりにナグモを気遣ってくれているのだろう。以前、ナグモが騒がしい人混みの中で辟易していたから。だからこそ———香織はナグモが()()()()()()()()提案をしたのだ。

 ナグモはその事実に………気づき始めていた。

 

「………いや、やっぱり大丈夫だ。せっかくミキュルニラが僕の仕事を代わってくれたんだ。今日は香織と一緒に建国祭を周りたい」

「そう? 私はナグモくんと一緒に過ごせるなら、何処だって良いよ?」

「それこそ勿体ないだろう。それにこうしてミキュルニラが作った街を見て回れば、新しく作ってる海人族達の街の参考になるアイデアも………ん?」

 

 気遣ってくる香織と共に人混みの中を歩いていたナグモだが、ふと足を止めた。ナグモの視線の先を見て香織も気が付いた様に声を上げた。

 

「あれ? あの子……ひょっとして迷子かな?」

 

 視線の先にいたのは一人の亜人族の少年だった。狼の耳と尻尾を持つ少年は、どこか泣きそうな顔でオロオロと周りを見渡していた。すぐ近くに保護者らしき大人の姿は無く、道行く人も怪訝そうに見る者もいるが祭りの雰囲気に流されて連れと一緒にそのまま通り過ぎてしまっていた。そして少年の方も周り見渡すばかりで声を掛ける事が出来ず、結果として“誰かがその内に少年に声を掛けるだろう”と見過ごされていたのだ。

 

「う~ん、なんか困ってるみたいだけど………ナグモくん?」

 

 どうする? と声を掛けようした香織だが、その前にナグモが動いていた。ナグモは迷子の少年に近付き、そして――――。

 

「………どうかしたか?」

「ひっく……お兄ちゃんは誰?」

「ただの通りすがりだ。それより近くに保護者もいる様子もないが、何故お前は先程からウロウロしている?」

 

 少年は泣きそうになりながらナグモを見上げる。子供を安心させる様な笑顔など浮かべない無表情だが、ナグモはじっと少年を見ていた。そんなナグモを見て、少年は涙を拭いながら途切れ途切れに話し出す。

 

「あのね、あのね………お父さんとお母さんと一緒にお祭りに来たの……。僕が美味しそうだな、と思ってポップコーンを見てたらね、お母さんがいなくなっちゃって、それで、それで……!」

「分かった。分かったから泣くな」

 

 再び泣きそうになる少年に対して、ナグモは溜息を吐きながら手を振った。

 

「とりあえずお前、ステータスプレートは持っているか?」

「えっと……うん」

「見せてみろ」

 

 少年が首から下げていたステータスプレートを受け取ると、ナグモは自分の端末を使って何やら操作を始めた。

 

「市民コードの閲覧開始……第四階層守護者代理・ナグモの権限により、データバンクへ接続。並びに該当市民コードの血縁者の位置情報を参照……」

 

 カタカタと片手でホログラムのキーボードを叩き、画面にマップを浮かび上がらせる。

 魔導国の住民ならば全員に配布されているナザリック製のステータスプレートだが、その情報を管理しているナザリックの者ならば、この様にステータスプレートの持ち主の情報を閲覧できる様になっていた。その気になれば個々の健康状態やステータス値はもちろん、現在の資産状況や過去の商品の売買記録などの個人のプライバシーを無視して監視できるシステムなのだが、今のナグモに用があるのはこの少年の家族の位置情報だけだ。しばらくするとマップ上にポイントが出ていた。

 

「フン、さほど離れてない交番か……安心しろ、お前の両親は遠くには行ってない」

「本当、お兄ちゃん!」

「ああ。だからもう泣くな、うっとうしいから」

 

 泣き顔から一転して希望が湧いた様に顔を輝かせる少年。そんな少年へ溜息を吐きながらナグモは香織に振り向いた。

 

「すまない、香織。デートの途中で悪いが、少し待っていてくれないか? この者を巡回してるデス・ナイトにでも預けてくる」

「ううん、いいよ。親御さんはすぐ近くにいるんでしょう? それなら私達でこの子を連れて行ってあげようよ」

「むぅ……その方が早いのは確かだが……」

「さっきも言ったけど、ナグモくんが()()()()()()()のが私にとっても嬉しいんだから」

「………分かった。行こう」

 

 胸の奥がキュッと締め付けられる感覚がする。だが、それを押し隠してナグモは香織と共に迷子の子供を連れて歩き出した。

 

 ***

 

「ありがとうございますっ! 本当に何とお礼を申し上げたら……」

「ほら、お前もちゃんとこの二人に御礼を言いなさい」

「うん! お兄ちゃん、お姉ちゃん。ありがとう!」

 

 少年の両親はマップの通り、交番にいた。子供が迷子になった事に気付き、慌てて交番へ駆け込んだのだろう。そこへナグモ達がちょうど現れた為に親子は再会できていた。彼等はしきりにナグモと香織にお礼を言っていた。

 

「お子さんが見つかって良かったですね」

「今日は特に混雑する日だ。気を付けろ」

「はい! お二人とも、本当にありがとうございました!」

「さあ、ちゃんと手を繋いで行きましょうね」

「うん! バイバイ、お兄ちゃん! お姉ちゃん!」

 

 香織がにこやかに、ナグモが感情を冷徹に言い、親子達は二人に重ね重ねの礼を言った後に別れた。その後ろ姿を見送りながら、香織はナグモに声を掛けた。

 

「良かったね、あの子がすぐにお父さんやお母さんに会えて」

「ふん、まったく……つまらない事に時間を取られたものだ。まあ、ステータスプレートの監視システムの実践が出来たから良しとするか」

 

 ナグモはそう言うものの、言葉には刺々しさが全く感じられないものだった。以前ではこんな光景など見られなかっただろう。だが、香織がその事に言及するよりも別の事に気を取られていた。

 

「親子、か………そっか。そういえば、トータスに来てから一年経ってるんだね」

 

 三人の親子の後ろ姿を見ていた香織の目が細まる。両親に手を繋がれ、仲良く歩く三人の親子。それをどこか遠い物を見る様に香織は寂しそうに見ていた。

 それは―――今となっては遠い記憶。

 まだ自分が小さかった頃、両親に手を引かれ、幸せな日々を送っていた地球の日々………。

 

「……香織」

「あ……ゴメンね! ちょっとぼうっとしちゃった」

 

 ナグモに声を掛けられ、香織は追憶の意識から帰る。そしてナグモに満面の笑みを作った。

 

「さあ、ナグモくん! せっかくのデートなんだから今日は楽しもう! どこから行こうか?」

 

 ナグモの腕に絡み、三人の親子の姿から背を向ける様に歩き出す。香織に歩調を合わせながら、ナグモはゆっくりと頷いた。

 

「ああ、そうだな………()()()()()()日にしよう」

 

 二度と来ない今日を――――噛み締める様に。

 




後半へ続く(キートン)。
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