ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 もはや作者にすら展開は制御不能……プロットをちゃんと書きなさいと言われるけどさ、何でか途中からプロットを無視して書いてるんですよ。何でかなー?


第百八十五話「ハイリヒ解放軍」

 湖畔の街・ウル。王国がまだ平和だった頃、巨大なウルディア湖のお陰で良質な水源に恵まれたその街は昔から稲作が盛んに行われ、また湖から取れる魚や街の北にある山脈地帯から山の幸も取れる食材豊かで平和な街だった。

 だが、今は街の様子も変わっていた。かつては観光客の為に街からもウルディア湖が望める様に見晴らしが良かったが、今は街を取り囲む様に高い壁が作られていた。おそらく北の山脈地帯から切り出してきたのだろう、先端を尖らせた太い丸太を何本も並べた外壁はもはや砦の防壁を思わせていた。見張り台には弓矢を持った兵士が外壁の外を監視し、一層と物々しい雰囲気を感じさせる。

 最近の悪化した王国の治安を考えるなら、この備えも当然ではあるだろう。現に食い詰めて野盗となった者達は他の村や街を襲う様になり、冒険者組合も王国から手を引いた為に魔物も街道に跋扈しているのだ。観光よりも街の防備を優先した新造の防壁は理に適ってはいる。

 だが、ここまで警備が厳重になった大きな理由として―――ここが今、とある重要な人物が滞在している為でもあった。

 

「リリアーナ王女殿下、どうやらソノベ殿達は囚人の解放に成功した様です」

 

 ウルの街の屋敷で、この辺り一帯の領主であるクデタ伯爵は一人の女性にそう話した。

 その女性こそがエリヒド王は遠方で療養していると国民に説明したハイリヒ王国の王女、リリアーナだった。

 

「そうですか。解放された方々の人数は?」

「全部で五百人程度だそうです。ただし、女や老人も含めての人数となりますが……」

「いえ、構いません。その人達もこちらへ連れてくる様にユウカに伝えて下さい。それに併せて受け入れ準備もお願いできますか?」

 

 リリアーナがそう言うと、側に控えていた皺の深い老人が彼女に聞いてきた。

 

「宜しいのですかな? 今は“ハイリヒ解放軍”に一人でも多くの兵が必要な時期ですぞ」

 

 彼の名はシモン・リベラール。聖教教会の司教であり、リリアーナが幼少の折には「爺や」と呼ぶ程に慕っていた人間だ。かつて教会の亜人族差別につい異議を唱えてしまい、辺境へと左遷された過去を持っていた。

 

「その為にも物資の出費は抑えなくてなりませぬ。戦えぬ女や老人達も抱え込むのは賢い判断と言えないやもしれませぬな」

「お言葉ですね、シモン。貴方も私も、その女や老人でありながら戦いに参加してるでしょう? 女や老人だって、剣を握れずとも他に出来る事はあります。何より我々はハイリヒ王国を救うべく立ち上がった者達です。弱き者だから切り捨てるというなら、それはいま国民を苦しめる者達と何が違うのでしょうか?」

 

 「ねえ、“爺や”?」とまで言われ、シモンは肩を竦める。

 

「参りましたな……そこまで言われたら、この老いぼれに返す言葉はありませぬ」

 

 まるで生徒の成長を見守る教師の様にシモンは以前より髪を短くしたリリアーナを見る。記憶にある限りでは蝶よ花よと愛でられていた幼い姫君は、自分が見ない内に国民の事を第一に考えて動く君主としての器が出来たらしい。

 

 ルルアリア王妃が命懸けで逃がしてくれたあの日から今日まで、リリアーナは国を救うべく行動していた。

 昔ながらに信用を置けるシモンを頼り、シモンの協力の下に数少ない良識ある王国貴族達と渡りをつけた。自暴自棄になって反乱を起こそうとした国民達とは時間を掛けて話し合い、彼等からも協力して貰う様に説得した。それは全ての街や村を救えたわけでは無かったが、今やリリアーナを中心として“ハイリヒ解放軍”を結成できる程に人が集まったのだ。

 

「ご心配には及びませんよ、シモン殿」

 

 クデタ伯爵がそう言う。彼もまた今の王国では数少ない、王国の為に行動を起こせる良識ある貴族だった。

 

「このウルは王国でも有数の穀倉地帯です。急拵えではありますが防壁の新築も間に合った事ですし、仮に籠城する様な事態になっても一年は我々は飢えずに済みます。こんな事が出来る様になったのも貴方のお陰ですよ、アイコ殿」

 

 クデタ伯爵がこの場にいる四人目の人物に話を振ると、愛子は乾いた笑顔を浮かべた。

 

「わ、私は……こんな事でしか役立てませんから」

「謙遜なさらないで下さい。貴方の“作農師”としての力があったからこそ、解放軍(我々)は食糧問題を気にせずに良くなったのです」

「いいえ、私なんか褒めて貰う資格なんて無いです。天之河くん達が異世界の皆さんに迷惑を掛けてるのに止める力も無くて、そして止める為に結局園部さん達に戦って貰わなくてならない最低な教師ですから」

「アイコ………」

 

 草臥れた様に言う愛子にリリアーナは唇を噛む。

 ウルの街で再会してから、愛子は以前より自分を卑下する様になっていた。いま光輝達によって王国が荒廃したのは、教師として監督不行き届きだと言って自分に責任があるといっているのだ。

 貴方のせいではない、彼等が堕落したのは彼等自身の責任だ。

 リリアーナ達は何度もそう言ったものの、勇者達が荒らした土地を再生させる中で周りの人間から責められ続けていた愛子には自己批判の精神が根付いてしまったらしい。今も暴走した光輝達を止める為に、優香達にも戦って貰わなくてはならないという現状に精神を疲弊させ、“最低な自分がせめて役立てる仕事”として食糧生産を痛ましい程に頑張っているのだ。

 

「……話は変わりますが。アマノカワコウキの元に現れたというエヒトルジュエを名乗る神、あれについてシモンの意見を聞かせて頂けますか?」

 

 リリアーナは愛子を辛そうに見ながらも、強引に話を切り替える事にした。これまでも何度も慰めの言葉は言ったが、そんなものは愛子に届かないだろう。それこそ王国の内乱を鎮めて光輝達の暴走を止める以外、彼女の心を救う手立てなどないと判断したのだ。

 シモンもまた、愛子を気の毒そうに見ながらもリリアーナの質問に対して熟考した。

 

「………その力はともかくとして、恐らくは偽者でしょうな」

「そう思われる根拠は?」

「いえ、伝え聞く限りそのエヒトルジュエなる者は我々のよく知るエヒト神様と瓜二つの容姿をしていらっしゃるのでしょう? ですが、それはおかしいのですよ」

「何故ですかな? 我々が教会のステンドグラスや聖書で拝見したお姿と同じならば、それこそエヒト神と同じという事になるのでは?」

 

 クデタ伯爵が少し緊張した顔で聞いた。彼もハイリヒ王国の国民としてエヒト神を信仰しており、いくら国の為とはいえ自分が信仰してる神に対して弓引く様な状況は気が引けていたのだろう。だが、聖教教会に古くから務めていた司教は首を横に振った。

 

「教会の歴史に明るくなければ知り得ぬ事ですが………実はあの姿はエヒト様のお姿を象ったものでは無いのですよ。それまでは神の容姿を正確に象る事は不敬とされて顔は無かったのですが、当時の教皇が権威付けの為に自らの顔をモデルにしたのが今のお姿なのです」

 

 当然ながら、これは当時の教会内部でかなり反発があったらしい。しかし、それまでの顔無しだったエヒト神像より親しみが持てると庶民達には評判が良かった為、結局今の形に落ち着いたのだとシモンは語った。

 

「ですから、当時の教皇をモデルにした姿がエヒト神のお姿そのものだったというのはあまりに都合が良すぎると言わざる得ないですな」

「な、なるほど………いや不勉強で申し訳ない」

「いえいえ、むしろこの事で真っ先に違和感を感じてない教会本部の方が問題ありますからな」

 

 本部の司教達の質も落ちたものじゃな……とシモンは古巣に対して大きな溜息を吐いた。

 

「何より、私達はあの神を自称する者を断じて認めてはなりません」

 

 リリアーナが断固とした口調で言った。

 

「仮にその者が神の如き力を持っているとしても、王国の惨状を救うどころかそれを招き寄せたアマノカワコウキ一派を“勇者”と呼ぶ神など、我々が信じた神ではありません」

 

 横で愛子が申し訳無さそうな顔をするが、こればかりはリリアーナも譲れなかった。もはや光輝を頭とした“光の戦士団”は王国に巣食う癌であり、それを擁護する神などリリアーナは到底信じられなかった。

 

「確かにかの者の所業はおよそ神らしからぬものですな。勇者……失礼。問題の若者がかの者が後ろ盾となってから内乱が起きた地を次々と鎮めていると噂になっておりますが、実際にその地に斥候を向かわせてみるとおかしな事に街から人が消えているというのです」

「街から? それは一体………」

「それだけではありませぬ。いま王都に大勢の人間が集められてる様で、おそらくは街から連れ去られた人間達なのでしょうが、王都の外壁の周りで野宿生活をしているというのに不満が起こってる様子が無いそうです。勇気を出して現地で調べた者がいましたが………その者によれば、そこにいる者達は正気を失ってる様だとの報告です」

「なっ………」

 

 クデタ伯爵は言葉を失う中、シモンは大きく嘆息した。

 

「聖書ではエヒト神様や遣いの天使様が祈りの言葉を口にすると、邪悪な者であっても改心したと記述にありますが………もしもかの者がエヒト神様だとするなら、その意味は大きく変わるでしょうな」

 

 すなわち心から改心させていたのではなく、魔法で洗脳をしていたのではないかという事だ。これが事実だとするなら、聖教教会そのものが根底から否定されてしまう。それを理解してるからこそ、シモンも光輝の所へ降臨した存在をエヒト神だと認めるわけにいかなかったのだ。

 

「エヒトルジュエなる者が魔法で洗脳を行っているというならば、私達も備えなくてはなりません」

 

 リリアーナは断固とした口調を崩さずに宣言する。相手が未知の魔法を使ってくると知っても、動揺した姿は見せなかった。

 

「既に錬成師や魔法職人の方々にお願いして対精神魔法の魔法具の作成をお願いしています。しかし、流石に全員に行き渡らせる程の数は作れないと言われましたが………」

「ううむ、どうしたものでしょうな………」

「あ、あの………一つよろしいでしょうか?」

 

 それまで黙っていた愛子が恐る恐るといった様子で手を上げる。

 

「その………天之河くん達を誑かしている神様ですけど、それをどうにかしてくれる相手………例えば、魔導国に頼るのはどうでしょうか?」

 

 魔導国―――その単語を聞いた途端、リリアーナとクデタ伯爵。ハイリヒ王国の王女と貴族の両名の顔が曇った。

 

「え……あ、あの、何か間違った事を言ってしまったでしょうか? その、少し前に魔導国という国がアンカジ公国で魔王を倒したんですよね? だから、その魔導国ならエヒトルジュエという偽の神様もどうにか出来るんじゃないかって……ごめんなさい、私なんかが意見して!」

「いえ、アイコの意見も尤もな物ですよ」

 

 自分がとんでもない暴言を吐いたかの様に謝罪する愛子に対して、リリアーナは安心させる様にやんわりと応える。何より愛子の言った事はこの国を救う為なら、真っ先に考える提案ではあった。

 アインズ・ウール・ゴウン魔導国。

 今やヘルシャー帝国やアンカジ公国を属国に収め、かつてのハイリヒ王国よりも強大な国を築きつつある新興国家。かの魔導国はアンカジ公国において魔王自らが率いた魔人族の軍を退けたという。その噂は当然リリアーナの耳にも入っており、真偽はともかく神を名乗るエヒトルジュエを相手にするなら、魔人族の神だった魔王アルヴヘイトを打破した魔導国を頼るのは当然の発想ではあった。

 

「問題は魔導王に救援を請うとして、如何様にして請うかなのですよ」

 

 困った様に笑いながらリリアーナは愛子に言った。

 

「この内乱は魔人族との戦争と違い、あくまでハイリヒ王国の内側で起きてる事です。他国の軍を自国に招き入れるには、それなりの大義が必要となるのです」

「そうですな。“光の戦士団”を専横させたエリヒド陛下も問題ですが、王女であるリリアーナ殿下が他国の王の力を借りて今の国王を排除したとあっては、戦後に売国行為だと罵られて統治に差し支えが出るでしょうな……」

「そんな………」

「それに………いえ、これは私個人の意見ですね」

 

 リリアーナは何かを言い掛けたが、すぐに首を横に振る。愛子が怪訝そうに見てくるが、リリアーナは答えなかった。

 

(それに………この状況で誰が一番得をしているかというと、魔導国という事になりますからね。私の考え過ぎなら良いのですが……)

 

 ハイリヒ王国は見る影もなく力を弱らせ、ヘルシャー帝国やアンカジ公国の二国は魔導国に膝を折った。新興国に過ぎない魔導国がここまで巨大となったのは、全てそうなる様に盤面が動かされたのではないかとリリアーナの勘が告げていた。とはいえ、この説に根拠などない。二国が魔導国へ頼ったのは王国が先に裏切る仕打ちをしたからだ。しかし、王国の内乱が始まってから―――もっと遡るなら、異世界から光輝達が来てからだが。王国の歯車が狂っていく一方で、亜人族の国だったフェアベルゲンがアインズ・ウール・ゴウン魔導国と名前を変えて勢力を急速に拡大させたのは裏がある様に感じたのだ。

 

(最悪の場合、勇者一派並びにエヒトルジュエが魔導国と繋がっているという可能性も………さすがに考え過ぎだと思いたいですが)

 

 いずれにせよ、魔導国を全面的に信用する事は出来ない。そう考えているからこそ、リリアーナは魔導国に直接救援をお願いするという事に否定的だった。今の苦しみを和らげるのに将来の毒を飲むというのは、王国を救うには危険すぎる行為だった。

 

「しかし、そうなるとどうしたものでしょうな。着々と解放軍を増やせてはいるものの、相手が洗脳魔法を使ってくるとなるとお手上げですな。それこそ、魔導王とやらに頼りたいぐらいに」

「教会の司教とは思えない発言ですね、爺や? アンデッドが国を興すなど聖教教会は決して認めてないでしょうに」

「さてはて、私はその教会から三行半を突きつけられた様なものですので。そもそも今の教会が崇めている神は間違った勇者に祝福を与えており、天使様は魔人族に味方して正体は魔物だったそうですからな? この御時世ならアンデッドが王になるなど、些細な事に思えておりますよ」

 

 巷に流れている噂を交えながら、シモンは皮肉気にそう言った。だが、その言葉に何か思い立った様にクデタ伯爵が声を上げた。

 

「そういえば………そうだ、いましたぞ。魔導王以外に神に抗える可能性のある者が」

 

 クデタ伯爵の言葉に皆が一斉に振り向く。三人の視線を感じながら、クデタ伯爵は言葉を続けた。

 

「実は我が家の三男が家を出て冒険者になっております。恥ずかしながら、あの子は少々夢見がちな所がありまして………。せめて知人の所で面倒を見て貰える様にしていたのですが、そうしたらあの子はフューレンでの戦いに参加していた様なのです」

「フューレンというと………天使が人を襲ったという、あの?」

 

 ええ、とクデタ伯爵は頷く。王国に巣食ったもう一つの癌、犯罪組織フリートホーフを摘発する為に現地の冒険者達や保安官達が戦い、そこへ横槍を入れる様に天使が人を襲っていたという話はリリアーナも聞いていた。

 

「そこで天使様………いえ、魔物の天使が人間の力を奪う歌声で冒険者達を苦しめたそうなのですが、それをものともせずに斬り伏せた冒険者がいるのです。ウィルは偶然目撃したそうで、とても興奮した様に手紙に書いていましたよ」

「その人物とは……一体、どの様な方なのですか?」

 

 もっとも内乱が激化してしまった今、その手紙すらも届かなくなりましたが……とクデタ伯爵は少し寂しそうに笑う。だが、リリアーナはそれよりもその冒険者の事が知りたかった。人間でありながら天使の力をはね除けたというなら、その人物こそが王国を救う鍵となるかもしれない。

 

「確か彼の名はモモン。フューレンの活躍の後、“漆黒の英雄”と人々に尊敬される冒険者ですよ」




>教会で描かれるエヒトの姿

最初は某宗教の様に「神の姿を正確に描くのは不敬」という事で、顔が後光で見えないみたいな描かれ方でした。しかし、時代の変遷で今の姿になった為、教会の歴史をちゃんと学んだシモンからすれば「権力者の都合で描かれた姿とクリソツとか無いわ-」という見方です。

>魔導国を疑うリリアーナ

まあ、リリアーナなら手放しで「助けて、素晴らしい魔導王陛下!」と頼ったりはしないと思うんですよ。そんなわけで頭の良い彼女は、魔導王を疑っています。

>天使を倒せる人間

世の中にはすごい人間がいるものですねえ……一体、どんな人なんでしょうね。“漆黒の英雄”のモモンさんとは。何かと疑わしい魔導王と違い、それはそれは清廉潔白な人でしょうなあ?
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