「くそ、ここに来て回収率が悪くなったか……」
神山にある教会の一室。今や“神の間”と周りから呼ばれている自室で、エヒトルジュエは手元にある宝珠を見ながら歯噛みしていた。この宝珠には光輝に洗脳させて殺してきた人間の魂が凝縮されており、異世界転移に必要な魔力となるのだ。
しかし、ここ最近は魂の回収率が鈍化していた。異世界転移の儀式の為に規定の街や村に光輝を行かせているのだが、その場所で思ったより魂が集まらない場合が多いのだ。これは長く続いている内乱によって既に街を捨てている者が多く、残っているのが他の街に行くアテもない老人くらいしかいないというケースもある為だ。そういう者も殺して魔力に変換しているが、それでも必要十分な量にはまだまだ足りなかった。
(どうする? “聖戦遠征軍”という名目で集めてる人間共も焚べるか? いや、奴等には我が逃げるまでの間に肉の壁になる役目がある)
そもそも異世界転移の儀式は国土に血の印を刻み、集めた魂を変換した魔力を使えばすぐに行えるものではない。エヒトルジュエ自身が儀式の為の詠唱を行わなければならず、その間に無防備となってしまうのだ。だからこそ、いざ事に及ぶ時に魔導国の邪魔が入った場合に備え、“聖戦遠征軍”として集めている人間達には肉壁になって貰わなくてはならないのだ。アンカジ公国の時の様に巨大な化け物を出されれば一時間程度しか保たないが、それでも自分が異世界に転移するには十分だ。自分の身を危険に晒す愚などエヒトルジュエは犯すつもりなどなかった。万が一、転移する前に魔導国に気付かれた場合でも彼等を囮にして自分が逃げる時間を稼ぐのにも使える。
「そういえば……確かこの国の王女が反乱軍を組織しているそうだな」
まだ自分が“神域”でトータスの神として君臨していた頃。ノイント達によって届けられた情報を思い出してエヒトルジュエは頭の中で奸計を巡らせた。以前なら“真の神の使徒”を派遣して情報収集や工作活動に従事させていたが、その“使徒”も全滅し、人間達には『天使の正体は人の心を操る魔物』と警戒されてる以上、もう“使徒”を動かす事など出来なかった。
ならば———下界で見つけた駒を動かせば良い。
そう決めたエヒトルジュエは念話を展開する。
『“使徒”カトレアよ。偉大なる神である我からの啓示に拝聴せよ———』
***
空間転移の“
「ここから先は歩きだな。今まで私も行った事もない街だから、地図をしっかり見ながら行くぞ」
「はい」、「はっ」とナグモ達がそれぞれの返答をする。
「……………」
しかし、すぐに会話が途切れてしまう。三人は黙々と歩いているが、どこか気まずい沈黙が覆っていた。
「え、ええとだな……これから行く街は確か“ウィーンダム”という都市だったな? 確かそこはハイリヒ王国でも芸術が盛んな街だったと記憶している。そうだな、ユエ?」
「………」
「ユエ?」
「っ! は、はい。何でしょうか、サト……アインズ様」
心ここにあらず、という風だったユエは慌てて返事をする。しかも、うっかりと二人きりの時の呼び名で呼びそうになるというユエらしからぬミスだった。
「あー……ウィーンダムという都市についてだが」
「ああ、はい。そこは昔から芸術が盛んな街で………」
「いや、それはいま言ったんだが……」
「え………ごめんなさい」
「いや………」
ユエはシュンとなって謝り、それ以上の会話が続かなくなってしまう。その原因について———アインズは心当たりがあり過ぎた。
(もしかしなくても、この前の事を気にしているんだよなぁ………結局、俺はユエの想いについて何て答えれば良いか先送りにしちゃったしなあ……)
ユエにとっては一世一代の告白。そのタイミングで起こってしまった精神沈静化によって、アインズは告白された喜びが無くなってしまったのだ。それはユエから見れば、自分の想いを喜ばれなかった様に見えたのだろう。そうしてユエとの関係が以前よりギクシャクしてしまっていた。
(で、でも、この
ナザリックでは何処の壁に耳あり、障子に目あり———というかアインズ当番としてメイド達が自室でも見張ってくるのだが———なのか分からず、アインズもまた自分の告白の為にタイミングを見計らっていたら、今日になってしまったのだ。この気まずくなってしまった関係も、今日を境に変えられる筈とアインズは自分に言い聞かせた。
(まあ、俺の方は自分でどうにかするとして。問題は………)
アインズはチラッと目を向ける。先程、ユエはボーっとしてアインズの言葉を聞き逃すという失態をした。その事に普段なら厳しい言葉を向けているだろう人物も、ユエを気に掛けられない程に自分の事でいっぱいいっぱいの様だった。
「こちらの方角の様です」
地図を確認してナグモは、街道のとある方向を指差す。
「約束の時間より、僕達の方が数時間早く着くでしょう」
「そうか。まあ、早めに着く事に越した事はない」
「では、参りましょう。それと……行こう、香織」
「………うん」
ナグモのどこか遠慮がちに聞き、いつもならナグモの言う事を喜んで聞く香織も元気が無さそうに頷いた。
この二人もまた、関係が以前よりギクシャクとしていた。ナグモは香織を自分の都合の良い様に改造した事を自覚してしまい、自分の言葉がまた香織の意思を捻じ曲げてしまうのではないかと恐れて香織に対して口数が少なくなった。
香織もまた、自分の気持ちに整理がついていなかった。地球にいる家族の事が恋しいと思う気持ちは確かにあり、だが同時にナグモから離れたくないという気持ちもあった。それがナグモが作った感情か、それとも自分の本心なのか………人間とNPCの狭間にいる少女は、自分の気持ちに板挟みとなっていた。
まるで別れ話をした後のカップルの様に二人の心はすれ違っており、ユエの事もあってパーティー内の空気は暗かった。
(き、気まずい……でも、リーダーとして俺がどうにかしないと!)
かつて“アインズ・ウール・ゴウン”でも味わった事の無いお通夜ムードに、アインズはそう思って自分を奮い立たせていた。
(ナグモと香織の事は当人同士の問題でもあるし、エヒトルジュエを倒した後にゆっくり話し合いながら結論を出していけばいい。ユエの事も、今夜に俺の想いを伝えれば事態は進展する。今は王女との会談にむけて、きっちりとメンタルを整えるべきだ!)
アインズ達がウィーンダムを目指しているのは、とうとう冒険者ギルドからモモン宛に来たリリアーナ王女の手紙に応じる為だった。しかし、リリアーナもまだ警戒しているのか、“ハイリヒ解放軍”の本拠地ではなく別の都市を指定されたのだ。デミウルゴスにも事前に確認してみたが、その都市を納めている領主は未だに王国と解放軍のどちらにつくか決められない程に優柔不断な性格らしく、おそらく王女はモモンの説得が上手くいったらその事実を盾に領主の説得にも入るつもりで指定したのではないかというのがデミウルゴスの見解だ。
(問題の王女様には迷惑料込みで話に応じても良いんだけど、領主の説得はな……そっちは解放軍の問題だから、モモンとしてタッチしようがないよな。まあ、説得の為に酒の席で一緒にいて欲しいとか、そういう要請なら応えても良いけど)
以前ならば、アンデッドの身体で飲食できる筈もないから、その手の話は断っただろう。だが、今のアインズにはそれが出来るのだ。
「ナグモよ、改めて感謝するぞ」
パーティー内の空気を払拭する為にも、アインズはナグモに声を掛ける。
「お前の“至高の玉体”は本当に具合が良い。パワードスーツの様な物と言っていたが、身体に全く違和感を感じないな。まさに私の身体そのものの感覚だ」
「お褒めに預かり光栄です」
「うむ。ただ、一つ言わせてもらうとだな……」
そこでアインズは少し微妙そうな声音になりながら、頭に被ったクローズドヘルムを脱いだ。幻術は使っておらず、本来なら骨だけの素顔が露わになる筈だった。しかし、今はその顔には肉がついて人間の顔となっており、クローズドヘルムから解放された事による風の心地よさや日の光の温かさもしっかりと感じれた。なのだが………。
「ええと………アインズ様? モモンの素顔は、そういう感じでしたっけ?」
「なんていうか……かなり美形になってる様な………」
ユエと香織がどこか困惑した様に呟いた。黒髪黒目なのは今までのモモンと同じだ。だが、どうにも顔のパーツが全体的に整い過ぎていた。鼻はスッキリと高く、眉毛もキリッと整っている上に目はくっきりとした二重だ。今までのモモンの素顔ははっきり言うと
「その………これはちょっと美形に作り過ぎじゃないか? それにお前にしては珍しく期日ギリギリの時間で渡してきたが、そんなに顔を拘らなくても良かったというか………」
最初に鏡を見た時、「何このフォトショ補正しまくった顔?」と思わずつっこみそうになった。結局、出発まで時間がなかった為にこのまま行くしかないとしたものの、一度でもモモンの顔を見た者がいれば、「こんな顔立ちだったろうか?」と首を傾げられそうだ。もっとも、その素顔自体をあまり人目に見せた事は無いが。
「………………」
「ナ、ナグモ?」
アインズの指摘にナグモはピタッと足を止めていた。そうしてゆっくりと振り返った顔には、何故か目元に大きな隈があり、いつもの無表情の下に隠し様の無い不満や苛立ちなどが見えていた。一瞬、怒らせてしまったか? とアインズがドギマギする中、ナグモは感情を無理やり押し殺した様な声で話し始めた。
「それはですね、アインズ様………僕は期日の二日前には最終調整も終えてお引き渡しできる状態にしていました。ところが何処から聞きつけたのか、とある守護者統括殿がやって来て、やれ冒険者の変装とはいえ至高の御方の顔は美形にすべきだ、守護者統括の権限で命じるとかクレームをつけてきました。そしてこれまた何処で聞き付けたのか、バカ吸血、コホン……とある階層守護者まで来て、やれ手の長さはこうだ、まつ毛の本数はこうだ、いいやこっちの方が良いとかどうでも良い事を議論し出した上に取っ組み合いの喧嘩を始めそうになったので、せっかく出来た“玉体”を壊されない為にも徹夜の突貫作業で造形を作り直す羽目になったという次第です」
「………………お、おう。そうか」
長々と、そしてかなりイラついた様子のナグモの弁明を聞き、アインズは気圧される様に頷いた。ユエと香織も、「ああ………」と同情する目付きでナグモを見ていた。
「その………帰ったらアルベドとシャルティアには、私から言っておく」
「是非ともそうして下さい」
***
ウィーンダムはハイリヒ王国でも有数の都市だった。地理的には王都、ヘルシャー帝国、そしてフューレンのちょうど中間地点にあり、まだ王国が健在だった頃は三つの都市から訪れる観光客で栄えていた。だが三方から近いという事は思惑の異なる三つの勢力の緩衝地帯になりやすいという事でもあり、ウィーンダムの領主は出来る限り彼等とは公平に………悪く言うなら、どっちつかずの対応を代々していた。領主も家系的に気が弱い者が多く、芸術が盛んとなったのも、そういった政争の煩わしさに疲れたから自分の心を慰撫させる為に芸術家達を支援してきた為だった。とはいえ、そういったどっちつかずの対応が功を為してか、内乱によって王国の物流が途絶えた後も縁故のあるヘルシャー帝国やフューレンの商人から物資を買い上げ、物価の高騰や野盗の増加はあるものの内乱とは無関係な生活が送れていた。
「ようやく着いたな」
街の入り口に立ち、アインズは周りを見渡しながら呟いた。最近の内乱で住民達の活気は抑えめではあるが、通りでは吟遊詩人が歌って小銭を稼いでいたり、似顔絵を売ってる絵描きなどがいる平和な光景だった。
「しかし、王国の彼方此方で内乱が起きてるというのに、随分と暢気な連中だな………」
「芸術家は変わり者が多いと言いますから。店先に出てる食料品の価格を見てもそこまで急騰してない様ですし、彼等からすれば自分の生活圏が安全だから対岸の火事の様に思えてるのでしょう」
ユエの説明にそういう物か? アインズは首を傾げる。だが、ユグドラシル時代で大型イベントがあってもマイペースにゴーレム作りをしていたるし⭐︎ふぁーを思い出すと、芸術家なんてそんな物かもしれないと思い直していた。ウィーンダム自体が高い塀に囲まれているし、内乱によって増加した野盗達や魔物が出ても、ちょっとやそっとでは陥落しないという安心感もあるのだろう。
「へぇ………」
右を見ても、左を見ても芸術家。軒先に並べられた作品の出来に良し悪しはあれど、様々な芸術品の並ぶ街中にアインズは高揚した気持ちになる。魔導国とはまた違った趣のある都市ではあるし、ユグドラシル時代に見たフリーマーケットの市場の様だった。いつもなら一定以上になると強制的に沈静化されてしまう感情も、“至高の玉体”を身に纏っている状態では楽しい気分を持続させられていた。通りに売られている串焼きの臭いも鼻腔をくすぐり、アンデッドの身体になってから久しく感じなかった空腹感も覚える程だった。改めて“至高の玉体”の効果をアインズは肌身に感じていた。
「………」
「………」
それだけに意気消沈しているナグモと香織を見るのがなんとも痛々しい。いつもなら新しい街に着いたら香織は目を輝かせ、ナグモの手を引いて街を見て回ろうとしていただろう。ナグモもそんな香織を見て表情が薄いながらも口元を綻ばせていた。だが、今はお互いにどうやって話し掛ければ良いのか迷ってしまっている二人を見るとアインズ自身も楽しむ気にはなれなかった。
ふと、アインズはとある建物が目に映った。
「おお、そうだ……せっかく芸術の街に来たのだ、演劇でも見に行かないか?」
アインズが目にしたのは小ぢんまりとした劇場だった。どうやら地方巡業に来る小劇団にも建物を貸し出しているらしく、様々な催し物の告知がされている。
「しかし、モモンさ———ん。この街には王女と接触する為に来ていて………」
「約束の時間まで大分余裕がある。それまでの時間潰しには良いだろう」
自分達は街の近くまで転移魔法で来たが、向こうはおそらくは徒歩か馬なのだ。こちらの方が早いのは当然なので街の散策で時間を潰そうと思っていたが、全員の気晴らしにはこういうのも良いかもしれない。
「ミキュルニラも映画事業などもやってみたいと言っていたし、トータスの演劇を知っておくのは悪くない話だろう」
「そういう事でしたら………その、行こうか香織」
「う、うん。ナグモくんがそう言うなら………ううん、私もそうしたい」
「それなら、チケットを買って参りますね」
お互いに距離を測りかねている二人を見て、ユエがチケット売り場に向かって歩き出す。
「今から見れる演劇というと………この“光の騎士 ブライト卿”という劇みたいです」
***
結論から言うと………それは最悪な演劇鑑賞となった。
「追い詰めたぞ! 覚悟しろ、裏切り者のナーグ!」
舞台の上で派手な鎧を着た金髪の騎士が、痘痕面の醜い男へ剣を向ける。
「黙れ! アロマは僕の物だ! 僕の聖女なのだ!」
「彼女はお前の所有物なんかじゃない! 彼女の意思を無視するな!」
「ブライト卿! 加勢します!」
「ああ! 行くぞ、ティア!」
ポニーテールの女剣士が、金髪の騎士と共に並ぶ。それを忌々しげに見ながら、黒髪の少女を人質に取った醜い男が手を向ける。
「くっ、舐めるな聖騎士共めっ! 邪神ドーン・ウィル・デッド様より力を頂いた僕に勝てるものか!」
そうして舞台上で派手な火花の演出や殺陣が始まる。魔法を使った演出は地球の演劇に劣らないくらい派手な物だった。だが………。
「っ………!」
「お、おい。ヴェルヌ、もう出よう。な?」
アインズは立ち上がろうとするが、「しーっ!」と周りの観客から咎める様な目線を向けられる。せっかくだからと舞台が見渡しやすい中央の席に座ったのだが、満席の為に周りの者を押しのけでもしない限り途中退席が出来ない席となっていた。
「これは………」
劇の内容にユエは眉を寄せていた。香織もまた、怒りの表情で演劇者達を見ていた。
最初は一介の騎士と教会に仕える修道女の許されない恋を描いた恋愛物だと思っていた。
だが、その修道女に横恋慕する醜い錬成士が、禁断の儀式で邪神に魂を売り渡したあたりで雲行きがおかしくなっていた。
そして邪神の力を使って錬成士が修道女を無理やり攫い、騎士が幼馴染の女剣士と共に修道女を救いに行く展開になると、何を題材にしたのかアインズにも理解できた。
「ふはははっ! どうだ、ドーン・ウィル・デッド様より授かった僕の力は! 貴様等など取るに足らん!」
「くっ……悪魔に魂を売り渡して、人間族を裏切るなんて!」
結論から述べるなら、これはかつて王国がプロパガンダの為に作り上げた劇だった。アンカジ公国の戦役後、勇者の威光を宣伝する事で国民達の信頼を取り戻そうと躍起になり、また魔導国に対して悪評を流そうとした結果に演劇を通して庶民達にイメージを刷り込むという手段が取られたのだ。そして演劇の内容に選ばれたのが、光輝が王都の演説などで語っていた『裏切り者の南雲が香織を攫った説』なのだ。それを脚色して、さらに登場人物の名前を巧妙に変える事でこの劇は検閲を逃れ、かくしてアインズ達がいま観ているのは勇者・光輝を元にしたプロパガンダ劇となっていた。
「そこだ! “神威”!」
「ギャアアアアアッ! ドーン・ウィル・デッド様に力を貰った僕が……敗れるなんて……ガハッ!!」
そして………勇者達の裏切り者のナグモをとことん貶めた演劇でもあった。
「ああ、ありがとう。ブライト卿」
醜い錬成士が倒れ、人質にとられていた修道女が解放される。黒髪の修道女はうっとりとした顔で騎士を讃えていた。
「私を救って下さったのですね………危うく、もう少しで邪悪な術で彼の事を無理やり好きにさせられていたでしょう」
「もう大丈夫だ、アロマ。邪神の力で君を手篭めにしようとしたナーグは死んだ! エヒト様は正しき者をお見捨てにならない!」
「彼もきっと哀れな男だったのでしょう……きっと、本物の愛を知らなかったのですね」
パキッ、と固い何かが割れる音がアインズの耳に響いた。それが奥歯を噛み締める余り、ナグモが自分の奥歯を噛み砕いたのだと彼の震える両手からアインズは悟った。
「君は優しいね、アロマ。だからこそ、俺は君の事を……愛しているんだ」
「私も……どんな時でも正しい事を行う貴方の事を愛してます、ブライト卿!」
「これからは三人、正義の道を歩みましょう!」
「ああ! ナーグの様に身勝手な想いに囚われず、正しき人間でいよう! 」
光の騎士は少女の修道女と女剣士と手を取り合った宣言した。
バンッ!
「ヴェルヌ!」
「ナ……ヴェルヌくん!」
唐突にナグモが席を立った。迷惑そうな顔をした周りの観客を構わずに突き飛ばし、アインズや香織が制止する声も聞かずに劇場の出口へ走り出していった。
「ヴェルヌ………」
観客席は俄かに騒然となり、舞台上の役者達が突然の騒ぎに困惑する中、ユエは見てしまった。
いつも無表情だったナグモの顔が―――顔を真っ赤にして、目の端には涙が薄らと浮かんでいた事を。
***
「くそ、くそ、人間達め……! 僕をどこまで虚仮にすれば気が済むんだっ!」
「待って! ナグ……ヴェルヌくん!」
劇場を飛び出したナグモの後を香織は慌てて追い掛ける。周りの通行人が奇異の目で見ているが、ナグモは構わず怒りの表情を隠そうともしていなかった。
「僕の気持ちなど知らずに勝手な事を言って! 僕がどんなに悩んでるかも知らないで……!」
かつてのナグモならば———ナザリックのNPCとして作られたままの彼ならば、人間達のやった事に“低能”と称して不快感を示しても、ここまで感情を露わにはしなかっただろう。だが、
「ナグ、ヴェルヌくん! 気にしちゃ駄目だよ! あんなの低能な人間達が考えたお芝居なんだから!」
「うるさい! 君が……君が“低脳”なんて言うな! 僕は君にそんな事を言わせたくて改造したんじゃない!」
「ナグモくん!」
香織は精神的に荒れているナグモを慰めようとしたが、逆効果だった。彼女とて
「―――ちょっと待って下さい。いま、南雲って……!」
二人の言い争いで周りに野次馬の人集りが出来る中、人垣を掻き分ける様にして小さな人影が飛び出した。
「え………愛子先生?」
「あなたは………まさか白崎さん!?」
香織は見覚えのある顔に思わず、といった様子で名前を呼んでしまう。一方の闖入者———畑山愛子も、目や髪の色が変わっていても生徒の顔や声を忘れてはいなかった。目を見開き、香織の事を驚きの表情で見つめる。
「愛ちゃん先生! 勝手に離れたら駄目だって………え?」
さらに人垣を割って、一人の少女が出てくる。彼女はアルビノみたいに目や髪の色が変色した香織を幽霊でも見たかの様に見つめ、ついでその側に立っている顔に酷い火傷痕のある人物を……先程、劇場から走って出る際にフードが脱げてしまった少年の顔をまじまじと見つめて呟いた。
「もしかして………南雲なの?」
「お前は……!」
優花に対して、ナグモは何故か敵意の籠った低い声を出した。
「う〜ん……これどういう状況っすかね?」
そして優花に続いて、人垣からルプスレギナが出てくる。
彼女は
「お二人さん、お知り合いか何かっすかね? 何かあったんすか?」
今回の話ははいっそ「シェイクスピアのジャンヌ」とかつけたかった。まあ、これだけだと何を言ってるのか不明と思ってボツ。
>光の騎士 ブライト卿
王国や教会によって作成された光輝のプロパガンダ劇。
騎士・ブライトと修道女・アロマはお互いに愛し合っているが、二人は立場の違いなどから結婚する決断ができなかった。そこへアロマに横恋慕する錬成師・ナーグは、邪神ドーン・ウィル・デッドに魂を売り渡して手に入れた力でアロマを無理やり手篭めにしようとする。アロマを取り戻す為、ブライトは女剣士・ティアと共に冒険に出るという物語。
ドーン・ウィル・デッドの元ネタが分かる人は、とても漫画を読む人だと思う(笑)
>ナグモ
まあ、可哀想な気はしなくないですけどね………。でもよくよく考えたら、こいつもノイントの姉妹達を使って似た様な事をしてたよね? と思う。
自分にやられて嫌な事を他人にやるのは止めましょう、という事で。
>愛ちゃん
良かったね、オルクス大迷宮で死んだ生徒が生きてて!
過去最高に機嫌悪いけどね!!