ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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こちらの方ではしばらく振りです。仕事も私生活もゴタゴタとしていた為、なかなか執筆する気力が湧きませんでした。
今年中にあと一回は執筆できたらいいなあ……。


第百九十一話「一夜が明けて」

「本当に……申し訳ない」

「頭を上げて下さい、サトル様」

 

 アインズが酔っ払ってユエとの初夜を過ごした翌朝。酔いが覚めたアインズはユエに平身低頭で謝り倒していた。

 

「いや、でも……酒に酔ってユエの初めてを奪ったとか、最低過ぎるだろ……」

 

 自己嫌悪に押し潰されそうな顔のまま、アインズは声を絞り出した。元々、アインズは自己肯定感が高い人間ではない。過去にギルメン達が去ってしまった事もあり、相手に嫌われない様に振る舞う癖が身に付いてしまった。今回の事はアインズの中では、ユエに絶縁を言い渡されても仕方ない事だと思っていた。

 

(なんで酒の勢いでやっちゃったんだよ、俺! 絶対にユエに嫌われた……!)

 

 生まれて初めて好きになった異性。その人の大切な処女を無残に散らせてしまったという罪悪感がアインズの中で駆け巡る。最低な事をしたという後悔はストレスとなり、アインズの中で頂点に達して精神の沈静化が働く手前―――ユエはそっとアインズを抱き締めた。

 

「あ……ユエ」

「……怖がらないで。私はサトル様の事を嫌ったりはしないです」

 

 肉も皮もない骨だけのアンデッドの身体。だが、ユエが優しく抱き締めてくれてそこだけ温かさを感じた気がした。

 

「私はやっぱり、サトル様の事が大好きです。恐ろしい支配者を演じていても、本当は皆の為に常に頭を悩ませて、虚勢を張りながらも大事な人達を守る為に支配者の重圧から逃げ出さないで努力を続ける……そんな貴方だから、私は好きになったんです」

 

 いつもならば限界まで来たら、強制的に行われる精神の沈静化。だが、ユエの声を聞いているとそれとは無関係にアインズの中で安心感が広がっていく様に感じた。

 

「昨日はちょっと驚きましたけど……でも、良いんです。私は初めてをサトル様に捧げたいと思っていましたから」

「それは……!」

「はい」

 

 アインズが驚く中、シーツで必要最低限の場所を隠したユエは微笑む。朝日に照らされ、シーツから見えるきめ細かい肌の裸体や金色の髪がキラキラと輝いていた。

 

「愛してます、サトル様。世界中の誰よりも、ずっと、ずっと」

 

 ユエにそう言われて、アインズの中で大きな歓喜が湧き上がり————やはり沈静化された。

 だが、その沈静化されても尚も喜びの感情としてアインズの中に残り続けた。

 

「本当に……? 本当にユエが、俺の事を好き……?」

「はい」

「は、はは……なんだ。こんな簡単な事だったんだ。それなのに俺は何を迷っていたんだろうな」

 

 “至高の玉体”を作り、人間の身体を手に入れて最高のタイミングで告白する。思えば、なんて回りくどい事をやろうとしていたのか。ユエは既に自分の事を想ってくれていたのに。自分は何を身構えていたのだろうとアインズは自分自身に苦笑したくなった。

 

「その、なんというか……俺は本当は魔導王なんて柄じゃないと思ってるくらい小心者で、アンデッドになったから人間の気持ちをちゃんと理解できない所があるかもしれないが……こんな俺でも、ユエの事を好きになっていいか?」

「もう、そんなに卑下なさらないで。そんな貴方だから、私は好きになったのですから」

 

 かつての仲間達が去り、周りから望まれるままに支配者となった小市民――――鈴木悟。

 仲間達が遺した物の以上の宝など無い、と思考を閉ざしていた彼は――――今、初めてそれ以上の宝を見つける事が出来た。

 

 ***

 

 チェックアウトの為にナグモと香織は宿屋のロビーに降りていた。しかし、二人の間に会話は無い。会った時に「おはよう」「ああ」と一言交わしただけで、それ以上の会話が続かなかった。一晩が経っても、昨日の事が尾を引いてしまい、お互いにどう話し掛ければ良いのか分からなくなっていたのだ。

 

「待たせたな」

「ん……おはよう、二人とも」

 

 だからこそ、階段からアインズとユエが下りてきた時に二人が内心でホッとしたのも無理からぬ事であった。

 

「おはようございます、ア……モモンさん」

「おはよう、ユエ」

 

 二人がそれぞれの相手に挨拶することで、自分達の間にあった気まずい沈黙を払拭しようとする。

 ふとそこで香織が気付いた様に声を上げた。

 

「お二人が一緒のタイミングで来られるのは珍しいですね。いつもモモンさんの方が身支度を早く済ませられるのに」

「え……あー、まあ………」

 

 アインズはアンデッドである為に寝癖を直すとか、寝間着を着替えるといった手間は無く、ユエと同室に泊まっていても、いつも早く起きていた。その事に関する純粋な疑問だったが、何故かアインズの反応は鈍かった。その隣でユエが少しだけ顔を赤らめる。

 

「………っ!?」

「あ………」

「……もしかして?」

 

 ユエを見て頭に疑問符を浮かべていたナグモだったが、唐突に察した様に目を見開いた。

 それを見てアインズも、察した事を察してしまった。そして香織もまた察していた。

 

 

「ええと、その……なんと申しますか……」

「その……おめでとう、ユエ! 帰ったらお赤飯を作るね?」

「ふ、二人とも……そんな気を遣わなくて良いから!」

 

 急に余所余所しくなった二人に、ユエは顔を真っ赤にしながら抗議する。奇しくも、突然の事態でナグモと香織の間にあった気まずい空気は払拭されていた。

 

「んん! ゴホン、ゴホン!!」

 

 部下二人に自分の情事を感づかれた気恥ずかしさを誤魔化そうと、アインズは特大の咳払いをした。

 

「その、だな……この事は周りに言いふらさないでくれるか?」

「わ、分かりました。アイ……モモンさんの御命令でしたら」

 

 香織が首をコクコクと縦に振る中、ナグモも了承の意を示そうとした。

 ふとそこで、ナグモはアルベドの事を思い出した。

 アインズに対する行き過ぎた愛情を隠そうともせず、ナグモにもアインズに自分がいかに伴侶に相応しいかを宣伝しろと命令してきたアルベド。

 どういう経緯があったか知らないが、アインズはユエを妃に選んだ様だ。それを知った時、アルベドがかなりショックを受けるだろうという事はナグモでも容易に想像ができた。

 

(………ふん、知った事か。アインズ様はお前を選ばなかった。それだけの話だ)

 

 だが、ナグモはここで黙殺する事にした。他ならぬアインズから黙っていてくれと命令されたのだし、何より香織の事を「人形を飼っている」などと無礼な態度をとり続けたアルベドに、ナグモは最初から協力しようとする意思など皆無だった。

 

(悔しがるなら勝手に悔しがっていろ。僕には関係ない)

 

 仮にも仲間であるアルベドに対して、かなり冷たい考えをしているナグモだが、彼はそれを間違っているとも思わなかった。ただでさえ香織の事で頭が一杯なのに、嫌いな相手に気遣う余裕などナグモに無かった。

 

「話は変わるが……この後についてだ」

 

 アインズから切り出され、ナグモはアルベドについての思考を打ち切った。

 

「残念だが、冒険者モモンとして解放軍に協力する線は消えたが……しかし、エヒトルジュエの戦力を削ぐという意味では彼等を利用する方向で行きたいと思う。この期に及んでエヒトルジュエも何かを企んでいるみたいだからな……」

 

 勇者を使い、各地で洗脳した人間を王都に集めているエヒトルジュエ。今更、人間の軍勢が増えた程度では魔導国の軍勢には敵わないだろう。しかし、それが敵の企みならば放置して良い話でもなかった。

 

「……それがモモンさ――んの御決定ならば」

「私もアイ……モモンさんに従います」

 

 ナグモと香織は二人して静かに頷く。二人からすれば勇者達はおろか、解放軍にもいる元・クラスメイト達など関わりたくも無い相手だが、アインズの命令である以上は自分の好き嫌いより優先される事だった。

 二人が頷いたのを見て、アインズは〈伝言(メッセージ)〉を使った。

 

『ルプスレギナよ』

『はい! 何でしょうか、アインズ様!』

 

 念話でルプスレギナの元気の良い声が響く。

 

『私達はこれより、一度ナザリックに帰還する。魔導国を通じて解放軍に何らかの形で接触するが、それまで引き続き人間達の監視を頼む』

『お任せ下さい! 御命令通り、あの“作農師”の人間はちゃんと見張っておきます!』

 

 うむ、とアインズは思念越しに頷く。同時に昨夜、あんな事があってもナグモの事を気に掛けていた新米教師の事を思い出していた。

 

『彼女は重要な人物だからな……彼女の身の回りに危険が無い様、取り計らってやれ』

『分かりました! あ、それで一つご報告があるんですけど……』

『なんだ?』

『今朝方、その教師の生徒だった人間二人がこちらに来ました。なんでも、勇者の所にいたけど逃げ出してきたとか』

 

 それを聞いてアインズは少し悩んだ。今の王都の状況を聞く限り、そういう離脱者が出る事自体は不自然ではない。現に元は勇者達の仲間でありながら、解放軍に鞍替えした高校生達もいた。しかし、これが勇者側のスパイではないか? という可能性もアインズは捨て切れなかった。

 

『ふむ……そうか。ならば、その二人が“作農師”の教師に危害を加えたりしないか見張っていてくれ』

『かしこまりました! もし、“作農師”が危険になったらその二人は殺しちゃって良いですか?』

 

 相変わらず過激なルプスレギナの発想に頭を抱えたくなるものの、アインズはその事への指摘を控えた。今は対エヒトの為に解放軍は存続して貰わないと困るのだ。頭の中で解放軍にいる人間の重要度を比較して、ルプスレギナに命令した。

 

『そうだな。“作農師”の教師、それと解放軍のリーダーの王女。この二人の身柄を最優先にして守れ』

 

 ***

 

 時間は少し前に遡る。

 

「八重樫さん! 清水くん!」

「お久しぶりです。畑山先生」

「ど、どうも……」

 

 愛子達は突然来た雫と清水を部屋に招き入れていた。数ヶ月ぶりとなる生徒との再会に愛子は純粋に喜んでいた。それは愛子だけでなく、優花達も同じだった。

 

「八重樫さん、もう身体は大丈夫なの? ずっと寝込んでいたと聞いていたけど………」

「ええ、お陰様でね。今はこの通りピンピンしてるわよ」

「良かった……俺達も心配してたんだ」

「八重樫……その、なんというか悪かった。いま思えば、八重樫は天之河の奴の暴走を止めてくれていたんだな」

「ああ、気にしないで。あんな最低な奴、道場が一緒だったから面倒を見てただけだから」

 

 雫は異世界に転移する前からクラスメイト達の中心にいた人物だ。かつてトータスに来た当初に戦う事に不安だった優花達にも気に掛けてくれていた。

 そして光輝の横暴さに振り回され、運命すらも翻弄された今なら分かる。地球にいた時に光輝が率先してクラスメイト達を動かしていく中、雫は常に光輝やクラスメイト達のフォローを行う様に動いていたのだ。オルクス大迷宮の出来事で長く寝込んでいたが、それまで雫が自分達にやってくれた事を思えば優花達は感謝しかなかった。

 

「ちょっといいか」

 

 愛子や優花達が雫達を温かく迎える雰囲気になる中、デビッドは少しだけ険しい顔を作りながら聞いた。

 

「お前達が愛子の生徒だという事は分かったが……ならば、どうして今まで勇者と行動を共にしていた? そしてあまつさえ、この状況で勇者ではなく愛子を頼ったんだ?」

「デビッドさん」

 

 愛子が咎める様な顔になる。だが、今やハイリヒ解放軍のリーダーであるリリアーナの護衛を行っているデビッドからすれば、突然訪ねてきた雫と清水は見過ごせない問題だった。勇者達からのスパイと疑うのも無理はない。

 

「私は………最初の訓練で幼馴染が死んでから、ショックで長く寝込んでいました」

 

 雫が静かに語り出すした。

 

「最近になって、ようやく起き上がっても大丈夫になりましたけど………その時にはもう、天之河光輝が“光の騎士団”を結成した後だったんです。私は彼の幼馴染として出来る限りは協力しようと思っていたのですけど、日に日に庶民達を苦しめる振る舞いをする“光の騎士団”に限界を感じて幸利くんと一緒に逃げ出す事にしたんです」

「ど、どうも……へへ………」

 

 清水が卑屈な愛想笑いをする横で、雫は苦悩に満ちた顔で説明した。そこで雫は顔を俯かせ、震えた声を出す。

 

「私が……この世界に来たとき、私があの男を煽ったせいで、トータスの人達にこんな迷惑を掛ける事になって申し訳なくて……! それでどうすればいいか分からなくて、愛子先生を頼るしかなくて……!」

「気に病まないで下さい、八重樫さん! あなたのせいじゃありません!」

「そうだよ! 全部、天之河の奴が悪いんだよ!」

 

 地球で見た事が無いほどに弱々しく謝罪する雫に、愛子や優花が励ます様に声を掛ける。自分達もまた、光輝達のせいで王都から出ていく事になったから雫の気持ちは痛いほど分かった。

 同時にその姿を見て、デビッドも何とも言えない顔になりながらも警戒を解き始めていた。ずっと寝込んでいた事もあって雫に関しては(デビッドが知る限りは)悪い噂を聞いてないし、愛子達がここまで信用するならばと思い直した様だ。

 

「それでその男は?」

「幸利くんも天之河光輝達に協力的じゃなかったという理由で虐められていたんです。それに私が天之河光輝の横暴な振る舞いに心を傷めていた時、彼が私の心を癒してくれたんです」

「え? もしかして……清水、八重樫さんと付き合ってるのか?」

「へ、へへ……まあな」

 

 相川が意外そうに声をあげる。清水の印象はクラスメイトではあるが、周りとほとんど喋らない空気みたいな存在だった。それが学校でも一、二を争う美少女の雫と付き合っているなどミスマッチに感じたのだ。

 

(まあ、白崎さんも何故か南雲とベッタリになってたし………そう考えると、意外でも何でも無い……のか?)

 

 きっと自分達が知らない所で色々とあったのだろう。そう考えようとした相川だが、やはり腑に落ちないものを感じていた。

 清水が浮かべている卑屈な笑み。それは美少女と付き合っている事を自慢に思っているというより、何か―――まるで玩具を自慢するかの様な物に感じてしまったのだ。

 

「あの……どうかお願いします。私達もハイリヒ解放軍に入れて貰えないでしょうか? 天之河光輝の罪を償う為、精一杯働かせて欲しいんです」

「お、俺もお願いします……」

 

 雫と清水が揃って頭を下げる。それを見て、今まで黙って事の成り行きを見ていたリリアーナは緊張を解く様に笑顔を浮かべた。

 

「頭を上げて下さい、雫、そして清水さん。私達はハイリヒ王国の未来を守る為に立ち上がった同志。今は仲間が一人でも多く欲しかったところです」

 

 モモン、そしてコーネリウスの会談で連敗続きだった為に、ここに来て知った顔が自分達に協力してくれる事にリリアーナは喜んでいた。特に雫は異世界から来た高校生達の中でも親しかっただけに、張り詰めていたリリアーナの心に安心感を与えていた。

 

「あ、そうだ。雫、実はお知らせしたい事があるんです! あなたの幼馴染みの香織さんですけど、実は生きていたんです! それも南雲さんと一緒に」

「香織が? 本当なの?」

「はい! その……私達とは別の道を行く事になりましたが、もしも雫が香織さんの所に行きたければ、そうしても構わないですよ?」

 

 残念ながら冒険者モモン達の協力は得られなくなってしまったが、冒険者ギルドを通せばまだ連絡ぐらいは出来る。寝込んで意識が混濁する中でも香織の事を気に掛けていた雫の姿を知ってるだけに、リリアーナはそう提案した。

 

「ううん―――()()()()()

「え?」

「別にいいわよ。香織が無事でいる事が分かったなら、それで大丈夫。私はいま、()()()()()()()()()()()()

「そう……ですか?」

 

 雫の返答にリリアーナは少しだけ首を傾げそうになる。あれ程香織の事を気に掛けていた筈なのに、雫の態度はどこか冷たい感じがしたのだ。

 

「そんな事より、これからリリィ達はどうするのかしら?」

「え……ああ、そうですね。もう一度、コーネリウス伯爵と会談を行って――――」

 

 リリアーナが今後の予定を話すのを雫はどこか瞳に力のない目で聞いていた。

 その後ろで――――清水は誰にもバレない様にこっそりと口角を歪めていた。

 




余談だけど、ナグモは雫についてはアインズに話したりしていません。彼は自分の勝手な要望だと思っているので、ハイリヒ王国の現場で動いているデミウルゴスに頼んだだけです。
香織も圧倒的な上位者であるアインズに気安く話す仲でもないので、アインズは雫について特に聞かされてないです。

つまり………。
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