ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

210 / 223
 大変お待たせしました。

 私は現在、転職活動をしており、執筆時間もあまり取れない状況です。今までは仕事終わりや休みの日に取っていた執筆時間が、履歴書の添削や転職先探しに使われています。正直、ストレスが溜まるものの、将来の為にも今の職場に代わる新しい職場を見つけなくてはならないと思っています。

 以前に比べると更新期間も大分空く様になりましたが、それでも待ってくれている読者の皆様の為にも完結を目指して頑張りたいと思います。


第百九十六話「手遅れな事態」

 リリアーナが雫について行ったタイミングで、再び魔物達の攻撃が始まった。だが、今度は城壁への攻撃ではない。魔物達は何故か、城壁の中へ入り込んできていた。

 

「馬鹿な!? いったい何故魔物達が入り込んでいるのだ!?」

「わ、分かりません! 何処もバリケードを突破された形跡など無いというのに!」

 

 まるで()()()()()()()()、突然現れたかの様な魔物達にコーネリウス達は慌てふためく。ここに来て、リリアーナの指揮でどうにか持ちこたえていた戦況はひっくり返された。都市の内部に現れた魔物達の対処に守備兵達も持ち場を放棄せざるを得ず、その隙を魔物達も見逃さなかった。その結果が――――。

 

「き、北門! バリケードを突破されました!」

 

 伝令の報告にコーネリウス達の顔色が絶望に歪む。度重なる襲撃で最も防備の薄くなった箇所が破られ、ウィーンダムの城壁は意味を為さなくなってしまった。

 

「だから私は真っ先に逃げるべきだと進言したのだ! こうなったのも徹底抗戦を進言したランドール殿の責任ですぞ!」

「なんだと! 距離を無視するかの様に現れる魔物など想定出来る筈がなかろう! 貴様の言う通り逃げたとしても無駄に終わった可能性が高いわ!」

「あ、ああ………どうすればいい……どうすればいいんだ!?」

 

 そして破滅的な事態となった所で、ウィーンダムの家臣団はお互いに「お前のせいだ」と責任の擦り付け合いが始まってしまっていた。こんな事をしている場合ではないというのに、もはや都市の滅亡が目前となった状況で「この惨劇は自分のせいで起きたのではない」と現実逃避する為に責任転嫁をし始めたのだ。そしてリリアーナが不在の今、コーネリウスに彼等を仲裁できるわけがなかった。

 

「誰か……! 誰か何とかしてくれ~!!」

 

 ピシャアアアアアンッ!!

 コーネリウスが情けない声を上げたその時だった。上空から雷が降り、城壁の中に侵入した魔物に直撃した。

 

「な、何だ!?」

 

 しかも一発ではない。まるで城壁の中のみならず、まるで魔物達を狙い撃ちするかの様に次々と雷が降り注いできた。コーネリウス達が目を見開く中、雷に打たれた魔物達は次々と肉を焦がす様な臭いをさせながら絶命していった。

 

 ***

 

(城壁内にいた魔物はこれで殲滅完了。あとは外にいる魔物だけ)

 

 ウィーンダムのはるか上空。パワードスーツを着たユエは飛行しながら魔物達へ魔法を放っていた。時刻は夜であり、しかも曇り空である為に人間達にはユエの姿は視認できないだろう。

 ウィーンダムにはユエと香織、それぞれ高速飛行が可能な者が来ていた。アインズ達と全員で来るという手段もあったが、ウルへ避難しようとしている避難民の救助の為に二手に分かれていた。そうして久方ぶりに着たパワードスーツで香織と共にウィーンダムへ高速飛行で戻ってきたユエだが……。

 

(香織……大丈夫かな……?)

 

 ウィーンダムへ戻ってきた二人の役目は二つ。

 ウィーンダムを攻撃している魔物達の殲滅。そして解放軍の要であるリリアーナの保護。

 魔法で広範囲の攻撃ができるユエの方が魔物達の殲滅が得意に向いているという事で、香織にリリアーナの保護が任されているものの、今の香織の精神状況を考えるとユエは不安だった。

 

(サトル様が王女の保護を命じられた以上、良くも悪くもそれは遵守する筈。でも………)

 

 先程の会話を思い出す。もはや精神も異形種化した香織は人間の事など虫ケラぐらいにしか思ってないのだろう。そういう意味なら自分の中で葛藤しながらも最終的に救助する事を選択したナグモの方がまだマシだ。だが、ウィーンダムの人間達の救助の為には今の人選が最適なのも理解していた。

 

(とにかく、魔物達の殲滅を早く済ませないと。()()()()粘れば、私も香織の所へ急行でき―――!)

 

 そこまで考えていたユエだったが、唐突にパワードスーツのセンサーが警戒信号(アラート)を示した。間一髪、シールドの展開が間に合ったが、ユエの視界は大きな爆炎に包まれる。

 

「見つけた……見つけたよ、魔導王の手先ぃぃぃっ!!」

「“使徒”? こんな時にっ……!」

 

 パワードスーツを着て飛行している自分しかいない筈の雲の上。そこに現れた白い翼を生やして飛んでいる人間を見て、ユエは咄嗟にエヒトルジュエの手先である“真の神の使徒”だと思った。

 

(いや……違う。似てるけど、“真の神の使徒”じゃない……?)

 

 襲いかかってくる相手にユエは違和感を抱いた。

 背中の白い翼に、脱色した様な銀髪。それはナザリックでもサンプルに持ち帰られた“真の神の使徒”の特徴と一致していた。

 だが、彼女達が陶磁の様な真っ白な肌に対して、目の前にいる女は褐色肌だ。

 そして何より、襲撃したユエを見る目。

 “真の神の使徒”達は表情に乏しく、人形の様な無表情だった。だが、この相手は憎悪に塗れた表情でユエを見ており、狂った様に高笑いしながらユエに襲い掛かっていた。

 

「あはははははは! 殺す……! 魔導王の手先はみんな殺すっ……!」

「くっ、やるしかない……!」

 

 復讐の憎悪に取り憑かれた“使徒”――――カトレアに、ユエは応戦を始める。

 

 そうして香織にすぐに加勢出来なかった事が―――――致命的な遅れとなった。

 

 ***

 

 所変わって、ウルへと避難しようとしている避難民達。彼等は突然の魔物の襲撃に大きな被害が出ていた。魔物の群れを避けて通ったルートの筈なのに、突然現れた魔物達に避難民の護衛についてる兵達の対応も遅れを取っていた。

 

「う、うわああああぁあああっ!?」

「避難民はこちらに! 我々が食い止めます!」

 

 避難民達を逃がそうと護衛兵達が前に出る。先程までは解放軍の優花達が大勢の魔物を引きつけてくれたお陰で被害は少なかったが、その優花達の姿が見えなくなってしまった。避難民達のサポートを優先させていた彼等も、自分で戦わなくてはならなかった。

 魔物達に向けて弓矢や初級魔法が放たれる。だが、効いてる様子は無い。清水が操っている魔物は普通の魔物より強化されたものであり、“神の使徒”ならいざ知らず一般の兵士達とはステータス差が開きすぎていた。

 

「き、効いてないぞっ!?」

「くっ、怯むな! 撃ち続けるんだ!」

 

 弱気になった同僚を叱咤する様に兵士の一人が声を上げる。彼の顔には悲愴な覚悟が宿っていた。

 

「一人でも多くの避難民を逃がすんだ! それが我々の使命だっ……!」

「―――その覚悟は良し。だが、下がっていたまえ。危ないぞ?」

 

 え、と兵士は声を上げる。だが、それより早く彼の横を漆黒の人影がすり抜けた。

 そして一閃。

 兵士達の目には漆黒の風が吹き抜けた様に見えた。だが、次の瞬間には魔物達は放射状に胴体から斬り裂かれていた。

 

「怪我は無いか」

 

 そして―――彼等は見た。

 絶望的な戦いを覚悟した兵士達に疾風の様に駆けつけ、その手に握るグレートソードで魔物達を一蹴する漆黒の英雄の姿を。

 

「あ、貴方は……!」

「君達は避難民達を頼む。魔物達は私が片付ける」

 

 そう言って“漆黒の英雄”モモンは魔物達へと駆け出す。

 一閃、一閃、一閃。

 両手のグレートソードが振られる度、魔物達は纏めて一刀両断にされて数が減らされていく。

 

「す、すごい……!」

「あれが“漆黒の英雄”……!」

 

 自分達では傷一つ負わせられなかった魔物に対して、まさに無双の強さをもって駆逐していくモモンの姿に兵士達は状況を忘れて見蕩れてしまう。彼等も職業柄で武の心得がある人間だ。だからこそ、いま目の前で行われているのは孫の代まで語り継げる“伝説”なのだと本能で理解した。

 

「……はっ! お前達、見蕩れている場合では無いぞ! モモン殿が魔物達の相手をしてくれる間に、早く我々は避難民達を!」

 

 兵士の一人がようやく我に返った、その時だった。

 

「ん? なんだ、この音は……?」

 

 モモンが魔物達相手に大立ち回りしている剣戟の音に加え、何やら大勢の人間が大声を出している音がする。

 無論、未だにパニックに陥っている避難民達もいるから騒ぎになるのは当たり前だ。だが、これはそんな混乱した様子はなく、むしろ統制された軍隊の鬨の声の様な……。

 

「一体、これはっ……!?」

 

 兵士達が疑問に思う中、彼等の疑問に答える様に声の正体が姿を現す。突然、ウィーンダムの護衛兵達とは違う鎧を着た兵士達が何人も現れ、魔物達を攻撃し始めていた。

 

「あ、貴方達は一体……?」

「ご安心を! 我々は味方だ!」

 

 護衛兵達が戸惑う声を上げる中、突然現れた方の兵士が声を上げる。

 

「我々はアンカジ公国の兵士です! 魔導国の要請により、あなた方を保護します!」

 

 ***

 

「なんで……なんで、こうなるんだよっ!!」

 

 戦場から離れた場所で清水は地団太を踏みながら喚いていた。

 状況は最悪だ。愛子を狙い、避難民諸共に殺そうと解き放った魔物達は突然現れた黒鎧の冒険者に一蹴された。

 とはいえ、それだけならまだ彼にも挽回の余地はあった。いかに凄腕とはいえ、所詮は一人の冒険者。一度に対応できる数にも限りはあり、混乱の最中に愛子の命を奪う事も出来なくはなかった。

 だが、ここに来てこれまた突然現れたアンカジ公国の兵達によって清水の企みは頓挫した。それこそ()()()()()()()様に現れた大勢の兵士。彼等は魔物達の掃討と共に避難民達の保護に動いており、愛子も厳重に保護された為に殺せるチャンスはゼロとなってしまった。

 

「くそ! なんで出ねえんだよ、あの女っ! くそ、クソクソクソクソォッ!!」

 

 最後の手段とばかりにカトレアに連絡を取ろうとしたが、カトレアから連絡用に渡されたマジックアイテムからは何の返答も無かった。自分から協力を申し出ておきながら、肝心な時に音沙汰もない協力者に清水はあらん限りの怨嗟を吐く。

 カトレアから貰った魔物は駆逐され、自分の奴隷人形(ヒロイン)はウィーンダムにいる今、清水の手駒はゼロだった。これでは愛子をこっそりと殺す事など不可能に近い。自分の思い通りにならない展開に、“主人公”である清水は激しい憤りを感じていた。

 

「いや、まだだ。まだ、俺が魔物を出したってバレたわけじゃねえ! 避難民に紛れて、あの女(畑山)に近付けば……!」

 

「―――へえ、まだ諦めてないんスね。実は意外とガッツがある方だったんスか?」

 

 唐突に聞こえてきた声に清水は慌てて振り向く。そこには愛子と一緒にいた赤髪の女冒険者―――ルプスレギナが立っていた。

 

「ル、ルプスレギナさん!? え……何の話だよ? あ、ひょっとして愛ちゃんに頼まれて俺を探しに来たのか? それなら……」

「ああ、そういうのは良いッス。おたくが魔物達を出してあの教師を殺そうとしたのは知ってるんで」

 

 サァと清水の顔が青くなる。そんな清水を見ながらルプスレギナはニヤニヤと笑った。

 

「まあ、それは置いとくとして……おたくも大変ッスねえ。せっかくあれこれと準備したのに、な~んも成果を上げられませんでしたとか。でも残ね~ん! “至高の御方”が出張った以上、人間ごときの企みなんて砂上の楼閣より簡単に崩れるものッス。ねえ、どんな気持ち? あの教師を殺す為に色々と準備したのに、全部無駄に終わったのってどんな気持ちッスか? ねえ、ねえ?」

 

 まるでインターネットでよくある様な煽り方だ。しかし、元から器の小さい清水を怒らせるには十分だった。

 

「てめえ……知られたからには覚悟が出来てるだろうなあ!?」

「ん?」

 

 ルプスレギナが「何?」と言う表情になるが、構わず清水は不意打ち気味に自身が最も得意とする闇魔法を放った。

 いま放ったのは精神を奪う魔法だ。雫の様に複雑な命令は出せないが、兎にも角にも相手の意識を止める事に特化していた。かつてニアの時に失敗した経験から、清水はまずは速効性のある魔法を選んだのだ。

 ここでルプスレギナの意識を奪い、目撃者を消す。なんなら、意識を奪った後に雫の様にゆっくりと洗脳しても良い。ルプスレギナはプロポーションの良い美女であり、清水からしても新しい奴隷人形(ヒロイン)に丁度良かった。褐色の肢体を好き勝手に出来ると妄想を膨らませ、清水の口元に下卑た笑みが浮かび上がり―――。

 

「うざいッス」

「ぷぎゃっ!?」

 

 次の瞬間。ルプスレギナのスタッフが清水の顔に叩き込まれた。

 

「あ、あがああああっ……!」

「まあ、おたくからすればそれしかないッスよねえ~。でもこれまた残ね~ん! 引きこもり坊やのステータスでどうにかなる様なルプスレギナお姉さんじゃないッス」

 

 殴られた衝撃で歯どころか顎の骨も叩き折られ、口からドクドクと血が流れる。清水は血を止めようと思わず手で傷口を抑えようとし―――。

 

「あ、でもまた魔法を使われても面倒ッス。折っときますか」

 

 グシャッ! と耳を覆いたくなる様な音が響く。それが自分の両手が潰された音だと清水は咄嗟に理解できなかった。

 

「え……あ、ああああああっ!! ()ひへ(痛え)ぇ、ひへえ(痛えよ)おおおぉっ!!」

「あらら、ベソかいちゃって。男の子でしょう? シャンとするッス!」

 

 無惨に潰された両手と顔の痛みに子供の様に泣き喚く清水。それを面白いショーの様に笑って見つめるルプスレギナを見ながら、清水は自問自答する。

 おかしい。理不尽だ。

 自分は“主人公”の筈だ。それなのに何故この様な酷い目に逢わなくてはならないのか。美少女のヒロインから慕われる筈の“主人公”が、どうしてその美少女から謂れのない暴力を受けているのか。

 

「さあて、状況的にクロだし、こいつは殺してOKッスよね。ユリ姉達と帝国相手に遊べなかった分、私も久々に人間で遊んで――――ん?」

 

 夥しい血を流しながら地面に蹲る清水を見下ろしながらウキウキとした様子のルプスレギナだったが、唐突にこめかみに手を当てた。

 

「あ、アインズ様。いま魔物達を操っていた首謀者の子供を捕まえました。“作農師”の教師は手配して頂いたアンカジ公国の兵士に任せたから大丈夫です」

 

 先程までの軽い口調から一転して、一流のメイドの様な気品のある言葉遣いでルプスレギナは話し出す。それは清水ではなく、この場にいない誰かに対して報告している様だった。

 

「すぐにこの人間を殺して……え? 連れ帰るんですか? いえ、アインズ様が仰られるならば、その通りに致します。……はい、分かりました。では、意識を失う程度にしておきます」

 

 それでは、と話し終えた様にルプスレギナは清水に向き直る。だが、その表情は先程までの楽しそうな表情から、お預けをくらった犬の様に残念そうな顔になっていた。

 

「ん~……残念だけど、事情が変わっちゃったッス。おたくをナザリックまで連れて来いって、アインズ様が仰られたので生かす他ないッス」

 

 アインズ様というのが誰かは分からないが、どうやら自分は九死に一生を得たらしい。その事に気付いた清水の顔に小匙一杯分の安堵が広がり――――。

 

「ま、それならそれでやり様はあるッスよね! とりあえず短い時間でどれだけ出来るかやってみるッスよ!」

 

 ヒュン、ヒュンとバトンの様にスタッフを振り回しながらルプスレギナが近付いてくる。清水の目にはもはやルプスレギナが美少女ではなく、地獄の悪鬼の様に見えていた。

 唇の端を吊り上げながら、ルプスレギナは楽しそうに話し掛けてくる。

 

「とりあえず逃げれない様に手足の骨は確定として……人間の骨って何本まで折っても大丈夫なんスかね? ちょっと実験するから付き合って欲しいッス」

 

 ***

 

 派遣を要請したアンカジ公国の兵士達が避難民の救助に取り掛かるのを見て、ナグモは“転移門(ゲート)”を閉じた。アンカジ公国の兵士達は魔導国の属国となった事で装備も魔導国製の物を使っており、全体的に魔物達相手にも優位に立ち回れていた。これで避難民の方は心配しなくて良いだろう。

 後はこの場にアンカジ公国の兵士達が来た理由だが、それは魔導王が要請したからと理由付けがされるらしい。これが今後にどう影響するかは分からないが、一先ずはウィーンダムの避難民達の安全は確保できただろう。

 

「………さて」

 

 ナグモは歩を進める。個人的には助ける義理などないとは思っているが、冒険者モモンのパーティーの一員としている以上、出来る限りの人命救助はしなくてはならなかった。そうして歩いて行くと、目当ての人物がそこにいた。

 

「……フン、まだポーションを飲んでないのか?」

 

 そこにかつてのクラスメイトである園部優花がいた。保護された避難民達の中に愛子以外に姿が見えなかった為、まさかと思いつつも探してみれば、優花は先程の場所から動いていなかった。その体は傷だらけであり、ナグモが渡したポーションも開封された様子はなかった。彼女は地面に倒れたまま、他の級友二人の亡骸に寄り添っていた。

 

「おい、何故使わない? このまま死んでも―――」

 

 そこまで言いかけてナグモは気付いた。優花の顔色はもはや血の気を感じさせない白色になっており、そもそも地面に零れた出血量に対して傷口から血が止まっている事に。

 

(僕が先程来た時点で既に死に体だったか。それまで動けていたのは戦闘で活性化したアドレナリンの作用で自分の負傷に気が付かなかったからか……)

 

 いずれにせよ、もはや優花の体をポーションで治せる領域を超えていた。今すぐナザリックの治療室に運べば命を取り留める見込みはあるかもしれないが、そこまでやる義理はないとナグモは感じていた。魔導国にとって必要な人材(作農師)は既に確保したのだ。雫以外の元クラスメイトなど、通り掛かりで余裕があれば助けても良いという印象しかなかった。間に合わなければ、それまでの命だ。

 

「南、雲………?」

 

 不意に優花が息も絶え絶えの様子で語りかけてくる。もう視力もほとんどないのか、ボンヤリと焦点の合ってない目がナグモに向けられた。

 

「私……言いたい事が、あるの……」

「……なんだ?」

 

 一言、一言が自分の寿命を削っているだろう。だが、それを自覚している筈だというのに優花は掠れた声でナグモに話し掛けていた。

 到着が遅かった事に対する恨み言か、それとも遺言の類いか。いずれにせよ、聞くだけはしてやろうとナグモは思っていた。

 

「………ゴメン、ね」

「なに?」

 

 だが、ナグモの予想は外れた。ナグモが戸惑う中、優花は掠れた声でナグモに謝った。

 

「ゴメンね……私達……酷い事しちゃって……。オルクス大迷宮の時から、ずっと、ずっと……謝りたかったの……」

 

 それはかつてクラスメイト達と一緒に糾弾した事に対する謝罪だ、と気付くまで少し時間が掛かった。

 

「ゴメンね……ゴメンね……」

 

 焦点の合わない目で優花は泣きながら謝罪する。ナグモはその謝罪に考え込んでしまっていた。

 クラスメイト達の事は確かに好きではない。自分はともかく、これまで香織の受けた扱いを考えると二度と関わりたくないと思ってるくらいだ。

 だが、オルクス大迷宮の件で謝罪されるとは思わなかった。魔人族に寝返ったというのは謂れのない罪とはいえ、ナグモはナザリックの為に彼等を欺き続けたのは確かなのだ。それなのに―――目の前の瀕死の少女は、何故自分に謝り続けているのか。

 どうしようもなく愚かだと思っていたクラスメイトの一人から、自分に必死に謝罪されているという事実にナグモの思考は空白を作っていた。

 

「お前は何を言って―――」

 

 数秒だけ止めていた思考から復帰し、ナグモは優花に尋ねようとした。

 だが………。

 

「……………」

 

 既に謝罪の言葉は止まっていた。その目は何も映してはおらず、優花は級友達と共に二度と醒める事のない眠りについていた。

 

「………愚か者め」

 

 ようやく、ナグモはポツリと呟いていた。

 

「お前達はやはり、どうしようもなく愚かだ」

 

 真相に最期まで気付けなかったクラスメイトへ、ナグモはそう言った。

 だが―――自分は彼女の真意を知る機会を失ったのだ、という事実に何故か胸の奥に穴が空いた気持ちになった。

 

「………やはり、人間は理解できない」

 

 人間として生まれながら、人間の心を持たなかった元・人形(NPC)。彼はどこか寂しそうに、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 そうして、すぐ後に彼は思い知る――――――人間の心を識ろうとしなかった事に対して、深い絶望の中で。

 

 




かなり駆け足気味に展開を詰め込みました……。

清水の方はもうちょっとあれこれやりたかったのですけど、途中で体力が無くなってしまったので簡単に済ませる事にしました。まあ、あと一回くらいは出番はあるかも……。

優花の展開ももう少しどうにかならないか、と思ったものの、やはり気力が尽きてしまったので簡単に済ませました。どの道、死の運命は変わらないけど。
取るに足らないと思っていた人間の死を見て、ナグモが自分を見つめ直すという展開にしたかったんですよ。

さて、いよいよ次回は香織の番。彼女は親友を救えるのでしょうか? 心の準備をしてお待ち下さいませ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。