本当はもう少し先の展開まで書きたかったのですが、予想以上に長くなったので一旦切り上げました。
まずは丁寧に、ナグモの尊厳を破壊してあげましょう♪
それはナグモがアインズと共に神代魔法の探索の旅を始める前に遡る。
ナザリック地下大墳墓第四階層・ナザリック技術研究所・キメラ生産エリア。
その部屋には等間隔にガラスポッドが置かれ、中には大小様々なキメラ達が培養液に浸かっていた。ゲーム内では侵入者が来たらポッドを破ってキメラ達が襲い掛かるというギミックになっていたが、今は命令が来るまで彼等も大人しく眠りについている。
普段は巡回しているマシン・モンスター達や研究員となる
「デュ・バリ氏液、充填完了しました」
「よし、命令があるまで待機していろ。機器のチェックは怠るな」
「はっ!」とエルダーリッチはナグモに返答した。ナグモの側にはミキュルニラも控えている。研究所のトップ二人がこの場にいるという事もあり、研究員達はいつもより入念に作業を行っていた。
「その……しょちょ〜。本当に行うのでしょうか〜?」
ミキュルニラは隣のナグモにそう聞いた。その顔は迷いが生じているが、ナグモはその事に気付いた様子はなかった。
「ここまできてお前は何を言っているんだ? 香織が僕とアインズ様と共に神代魔法の習得の旅に出る事は決定事項だ。その為にも大々的に改造する必要があるとは説明した筈だ」
「それは……理解してますが〜……」
「第一、このままの姿では人間達の前に出れないだろう。心配しなくとも僕の理論は完璧だ。万が一の失敗もあり得ない」
言い淀むミキュルニラに対して、ナグモははっきりと言い放つ。そこには
「もうすぐだ……もうすぐで、君に完璧な肉体を与えられるぞ。香織」
ナグモの視線の先には一つのガラスポッドがあった。その中には“人間嫌い”のナグモが唯一愛してる人間の少女———白崎香織が入っていた。
香織の姿は今の様に人間の形はしていない。かつてオルクス迷宮の中を彷徨っていた“歪な魔物”の状態であり、様々な魔物が混ざった様な体にチューブや電極が取り付けられ、ガラスポッドの中で膝を抱えて眠る様に浮かんでいた。
不意に部屋の中に新たな人物の気配が現れた。その気配はナザリックの配下達ならば誰もが知る相手であり、ナグモ達が振り向くと予想通りの人物がいた。
「アインズ様! お越しになられるなら、お出迎え致しましたのに!」
「ああ、いい。皆、楽にしてくれ。私もただの気紛れで来ただけだ」
その場で跪こうとしたナグモ達をアインズは手で制した。それを受けて、「至高の御方に自分達の仕事ぶりを見て貰っている」という緊張感と高揚感の下、各々が作業を開始した。
正直なところ、アインズとしても気晴らしの散歩でもお供がぞろぞろとつけられるのに辟易してるのでその方がありがたい。
「この度は香織に神結晶を使用する許可を頂き、ありがとうございます」
ナグモはアインズへ深々と頭を下げた。
「お陰で最高の人工心臓が作れました」
「うむ。しかし、それ程に神結晶は加工しやすかったのか?」
「はい。あれは大容量のデータクリスタルに匹敵する魔力を持ち、大量に生産できればワールドアイテムの製作も不可能ではありません」
「ほう……そうか、それ程にか」
アインズは興味深そうに頷く。
オルクス大迷宮で採掘された神結晶。それは神水という万病を癒す水を生成でき、さらにその後の調査でユグドラシルの大容量データクリスタルに匹敵する素材だと判明した。
今回、アインズが神結晶を香織の改造に使う事を許可したのは、ユグドラシルにはない未知のアイテムでどれ程の事が行えるかという実験も兼ねていた。これでナグモの実験が成功したならば、神結晶の量産に何とか漕ぎ着けたいものだ。
「改めて確認したいのだが、これで香織は人間の姿になれるのか?」
「はっ。現在、香織の身体は様々な魔物因子を取り込んだ影響で異形化しております。そこで神結晶で作った人工心臓の出番です。これにより香織の中の因子は完全に制御され、肉体を人間と同じ形にする事が可能となります」
ナグモはいつもの様に表情が薄いながらも自信をもって答えた。まるで、自分の成果を親に褒めてもらいたい子供の様な無邪気さがそこにあった。
「加えて戦闘時において今の状態より異形種の能力を引き出しやすくなる様に、香織の意思で肉体が変化する様に致しました。以前にご指摘された通り、今の香織は低レベルの異形種が雑多に入り混じる状態。ですが、必要に応じて自身の身体を変形させ、取り込んだ異形種の特徴を瞬間的に出せるキメラにすれば、戦闘力も大幅に上がる見込みです」
「なるほど。確かにユグドラシルにそんな異形種はいなかったから面白い試みだと思う。ただ、なぁ………」
「アインズ様? 何かご不明な点がありましたか?」
ナグモの説明に感心した様に頷いていたアインズだが、そこでどこか懸念してる様な声を出した。
「いや……前も確認したが、この改造は香織の了承を得ているのだな?」
「もちろんです。香織も、“アインズ様の為にお役に立てる”と喜んで改造手術を受けてくれました」
「ううむ、そうか。しかし………」
「ご安心下さい。じゅーる様より授かった僕の頭脳では、失敗する確率など0.00001%以下だと自負しております」
自信をもって答えるナグモだが、やはりアインズは安心した様子はない。
別にナザリックの研究所のトップであるナグモの腕を疑っているわけではない。そして神代魔法習得の旅の為に香織の身体を改造する必要性もアインズは理解している。
だが……それでもアインズは一抹の不安があった。
(ユグドラシルなら、異形種への種族変更はプレイスタイルの一環として気軽に薦められた。でも現実となった今、香織の異形種レベルを上げるのは本当に良いことなのか……?)
自分の身体が人間から異形種へ変化したから分かる。今のアインズは
(今後の為にも香織の身体を今の状態から改造しないといけないのは確かだけど………それに何だろう? 今のナグモを見ていると、昔じゅーるさんに薦められて観た映画を思い出す様な………)
確かかなり古い時代の映画で、絶滅した恐竜を復活させてテーマパークを作る話だった気がする。恐竜達を遺伝子改造で蘇らせた事に対して「出来るかどうかに心を奪われて、やるべきかどうかまでは考えなかった」と劇中で批難されていたが、アインズにはナグモがまさにその映画に出ていた科学者に重なって見える気がした。
香織の改造が必要なのは頭で理解している。だが、何か嫌な予感がする。
そんな葛藤にアインズは少し悩んでいたが、当のナグモは気付いてない様だった。そこへ研究員のエビルメイガスが報告に来た。
「ナグモ所長。全ての機器のチェックが完了しました。いつでも始められます」
「よし、始めるぞ。アインズ様もどうかご覧になっていって下さい、これは異世界で記念すべき初めての実験になりますから」
「あ、ああ、うむ。そうだな」
結局、アインズは自分が感じている不安を言葉にできなかった。ナグモは心なしか高揚してる様な雰囲気で部下達に次々と指示を出していく。
「メインパワー、チェック。ガルヴァーニ電流の出力を上げろ」
「了解。ガルヴァーニ電流、出力開始」
「プラグボルトを装填。ガルヴァーニ電流をプラス7、いや8に修正しろ」
「プラグボルト、並びガルヴァーニ電流の修正完了。ガルヴァーニ電流……1.21ジゴワットまで充電完了しました!」
ナグモの指示と研究員達の作業の下、香織のポッドの周りの機械が駆動音を立てながら動いていく。そしてポッドと直接繋がっている蓄電機からバチバチッと稲妻めいた放電がほとばしる。鋼鉄の機械の脈動はこれから生まれ出る物を祝福してる様にも見えた。
「ミキュルニラ。合図を出したらレバーを引け」
「………」
ナグモが指示を出したが、ミキュルニラはすぐに動かなかった。その表情はいつもの愛されマスコットの笑顔とは程遠く、何かを葛藤する様に眉間をキュッと引き締めていた。
「ミキュルニラ!」
ナグモが苛立ちを込めて部下の名前を呼ぶ。
「……分かりました。やります」
「ちっ……まあいい、通電開始!」
とうとうミキュルニラは覚悟を決めた様にレバーを握り絞めた。深呼吸して目をギュッと瞑り―――装置のレバーを引き下ろした。
瞬間———目が眩む様な閃光がポッドの中から光だす。装置に蓄えられていた電流は電極を通して香織へと流れ、香織の身体はビクンビクンと痙攣すると共に強く発光しだした。
「頑張れ……頑張るんだ、香織……!」
落雷の様な激しい光の中、アインズは思わず無くなった筈の目を庇う様に腕で目隠しする。だが、ナグモは目を閉じる事なく、食い入る様にポッドの中の香織を見つめていた。
その光景は『フランケンシュタイン』の1ページを連想させた。
かつて科学者のヴィクター・フランケンシュタインは“理想の人間”を作る為に死体を繋ぎ合わせて人造人間を作り出した。自然の摂理に逆らい、神をも恐れぬ狂気を孕んだ実験。
その狂気は今、ナグモにも宿っていた。愛する少女に“完璧な肉体”を与えたいという願い、至高の御方の為に最強のキメラを作り上げるという使命感。
そして―――
かつてのNPCのままなら
自らの頭脳に酔いしれ、最強の生物を作り上げるマッドサイエンティストとの様に。
やがて、光が徐々に収まっていく。再びミキュルニラや研究員達は慌ただしく動き出した。
「体温異常なし、エーテル値異常なし!」
「1.21ジゴワット蓄電流、全て白崎香織へ移植完了しました!」
「デュ・バリ氏液の排水を開始します!」
どうやら実験は終わったのだろう。アインズが見ている中、ポッドの溶液が抜かれて香織の姿が露わになった。
その身体は先程までの“歪な魔物”の姿から、美しい少女の姿に変わっていた。ポッドが開けられ、ナグモが真っ先に駆け寄った。
「香織、気分はどうだ? 身体に何か異変は無いか?」
「ナグモくん……」
ポッドから出た香織は生まれたままの姿で目をパチパチと瞬かせる。新しい身体の感触を確かめる様に手を何度か握ったり開いたりした後、にっこりと微笑んだ。
「何だかね……すっごく気分が良いよ。まるで
「そうか……ああ、良かった」
「おめでとうございます、所長!」
香織の笑顔にナグモもまた安堵した表情になる。念入りに計算して行ったとはいえ、万が一に香織の身体に何かあったらと不安があったのだろう。そして実験の成功を研究員達は喜んでいた。アインズもとりあえずナグモの実験が上手くいってる様で安堵しようとしたが……。
「どうした? ミキュルニラ。なにか不安でもあるのか?」
「え……? いえ、そんな事はありません~!」
ナグモ達が実験の成功を喜んでいる中、一人だけその輪に入らずにどこか憂いの表情になっていたミキュルニラがアインズは気になった。だが、声を掛けられた途端にミキュルニラはいつもの明るいマスコットの様な笑顔を見せていた。
「しょちょ~が喜んでくれること。それこそが私にとって一番大切ですから~」
***
そして………現在に至る。
「何を……しているんだ?」
ナグモは目の前の光景に思わずそう聞いていた。
場所はオルクス大迷宮の屋敷。雫が目覚めた後、療養も兼ねて屋敷に雫を住まわせていた。
雫の体調自体は辛い記憶を全ての思い出諸共に消した為に順調に回復していた。もう起き上がっても平気になったのは確かだが………。
「あ、ナグモくん」
いつものメイド服を着た香織が笑顔で振り向く。
あれ以来、香織のナグモへの態度は変わっていない。むしろ建国祭以前の“ナグモの恋人”に戻ったと言っていい。だが、その笑顔を見てももうナグモの心が癒やされる事は無かった。そして香織の横には………香織と同じメイド服を着た雫がいた。
「もう雫ちゃんの体は治ったんでしょう? だから雫ちゃんにメイドのお仕事を教えてるの。さ、雫ちゃん。教えた通りにナグモくんに挨拶して」
「……はい」
香織に促されて雫が前に出る。スカートの裾を摘まみ、まるで本物のメイドの様に礼をした。
「ナグモ様。私の体を治して頂きありがとうございます。私、八重樫雫は心より感謝申し上げます」
かつての記憶を消され、生まれたばかりの雛鳥の様に純真無垢となった少女は虚ろな笑顔を浮かべながら、事前に香織に教わった通りに
「下等な人間によって酷い目に合わされた私の記憶を消して頂き、また人間でありながら私を栄えあるナザリック地下大墳墓の末席に加えて頂いてありがとうございます。このご恩に報いる為、私の全てをナグモ様に捧げると誓いま―――」
「もういい! やめろ!」
ナグモが思わず叫ぶと雫はビクッと怯えた。
「ちょっとナグモくん。雫ちゃんがびっくりしちゃったじゃない」
「誰が雫をメイドとして教育しろと頼んだ!? 僕はこんな事をさせる為に雫を保護したんじゃない!」
「え? だって、雫ちゃんはこれからナザリックで一緒に暮らすんだよ? それなら私と一緒にナグモくんのメイドとしてお仕事できる様にした方が良いでしょ?」
ナグモが何に怒っているのかさっぱり分からない、という様に香織は首を傾げる中、雫はかつての彼女なら浮かべないビクビクとした表情で聞いた。
「あ、あの、ナグモ様? 私は何か怒らせてしまったのでしょうか?」
「ぐっ……違う。雫のせいじゃない。今のは悪かった……」
「良かったね、雫ちゃん。ナグモくんは許してくれるって言ってるよ」
「は、はい。ありがとうございます、ナグモ様。香織様」
「もう、私には“様”とか敬語はいらないって教えたでしょう? だって雫ちゃんは私の親友なんだから」
「は……じゃなくて、うん。ありがとうござ……ありがとうね、香織」
「うん♪」
香織はよく出来ました、という様に雫の頭を撫でる。それに対して雫は、まるで親に褒められた子供の様に喜んでいた。それはもはや、かつての親友同士の姿などではない。
「香織、君と雫は必ず地球に帰す。だからこんな事はする必要なんてないんだ」
「だから、前にも言ったでしょ? もう地球に帰るとか良いって。むしろ雫ちゃんに酷い事をしてきた
「くっ……!」
香織の言葉にナグモは言葉に詰まった。そして苦し紛れに別の反論をしようとする。
「だ、だが……そうだ、雫の両親はどうするんだ? 大半の人間は酷いかもしれないが、雫の親達もそうだったわけじゃない筈だ」
「あ……う~ん、言われてみればそうだよね。鷲三さん達も雫ちゃんがの帰りをさすがに心配してるだろうし……あ、そうだ!」
香織にとっても知古である八重樫家の人々を思い出していたが、不意に良いことを思いついたという様に声を上げた。
「だったら――――私の両親や雫ちゃんの家族も
「……………え?」
一瞬、香織が何を言っているかナグモは理解できなかった。だが、人の心を無くした
「うん、それが良いよ。魔導国の亜人族達みたいに選ばれた人達はアインズ様の下で豊かな生活が約束されて、魔人族達みたいに選ばれなかった人達は管理される。それが低脳な人間のあるべき姿だよ!」
それは、かつてNPCのナグモが抱いていた選民思想。
“至高の御方”に創られた自分こそは特別な人間。低脳で凡百な人間達とは一線を画する頭脳がある。だからこそ、“至高の御方”に仕える者は特別でなくてはならない。
それをナグモによって創られた
「雫ちゃんや私のお父さんやお母さん、それに鷲三さん達は私にとって特別な人達なの。だから……ナグモくんの手で皆を改造してあげてよ。そうして皆でアインズ様に永遠に仕えようね♪」
「香織? 私に……家族がいたの?」
「うん、そうだよ。低脳な人間達の中で、唯一雫ちゃんの事を大切にしてくれた人達。その人達と一緒に雫ちゃんも改造して貰おう?」
「うん……香織が言うなら、それが正しいよね」
刷り込まれた雛鳥の様に雫は香織の言葉に頷いていた。そして再び従者の様にナグモへ頭を下げる。
「ナグモ様。どうか私とその家族をナグモ様の手で改造して下さい。未来永劫、“至高の御方”に仕えられる体にして、役立てさせて下さい」
かつての雫ならば……絶対にこんな事は言わない。ナグモが記憶を抹消した事により、“八重樫雫”という少女は事実上死んでしまった。今ここにいるのは、香織の“教育”によってどこまでもナグモに従順であろうとする少女だ。
それは――――――
「………っ!!」
もはや限界だった。ナグモは酷い吐き気を覚えて雫に背を向けて部屋から走り去っていった。
「ナグモ様……?」
「う~ん、どうしたんだろ? 気分が悪いのかな?」
ナグモが走り去っていたドアに目を向けながら、二人の従順なメイドは戸惑った様な表情を浮かべていた。
「香織………」
そこへ―――ナグモが開け放ったままのドアから、ユエが固い表情で入ってきた。
ちょっと区切りが悪いですが、とりあえずここまで。明日も休みだから執筆に打ち込めるけど、書き上がるかどうかは微妙かな……。
>従順メイドの雫ちゃん
いやー、良かったじゃないか! 学園のアイドルだった雫ちゃんがメイドとして仕えてくれるって! 香織がしっかり“教育”してくれたから、とっても従順にお世話してくれるよ! 香織と併せて“学園の二大女神”が君の物になったわけだ! おめでとう、ナグモ! やったね、ナグモ!
……で? 清水と何が違うのさ??
>全人類選別計画
Ifルートとかでも少し触れましたが、NPC時代のナグモなら諸手を挙げてやったでしょうね。要するに至高の御方に使える有能な人間(自分基準)と無能なクズ。それに選り分けて管理しようと思っていたわけです。至高の御方に仕えるに相応しい人間は引き上げてやっても良い。そんな事をかつてのナグモは考えていたわけです。
……で? いざ目の当たりにしてどう? つまり君の都合の良いお人形しか周りにいなくなるわけだけど??