ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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間に合った……とりあえず連休中に書きたい所まで書けた。


第二百三話「Fatal oversight」

「あ、ユエ。どうかしたの?」

 

 香織はユエに笑顔を向ける。それは今までと何も変わらない笑顔で、しかし根底にあるものが決定的に違うとユエは悟った。チラッとユエはメイド服の雫に目を向ける。

 

「その子が例の?」

「うん。ナグモくんのお陰で元気になったから、メイドさんになれる様に色々と教えてるの」

 

 雫はおずおずとユエに屈膝礼を行う。まだぎこちない所はあるが、従者としての作法が出来つつあった。だが、ユエはそれを見て表情を曇らせる。

 

「……ナグモはこんな事は望んでないと思う。この子を保護したのは、友人を助けたいと思った貴方の心を汲んでのこと」

「だからお礼に雫ちゃんがナグモくんに仕えられる様にしてあげてるの。低脳な人間だとナグモくんの側に置く価値なんてないからね。あ、でも大丈夫だよ、雫ちゃん。メイドさんの才能が無くても、私みたいに改造して貰えばナグモくんを守れる異形種になれるからね」

「うん。香織がそう言うなら、私もそうなりたい」

 

 香織はそれを冗談などではなく言っており、そんな香織を雫は飼い主の言う事を聞くペットの様に従順に頷く。それを見て、もう香織は人の心を完全に捨て去ってしまったのだとユエは悟った。

 

(以前のナグモもそうだったけど……ナザリックの人達はサトル様の事を見てる様で見てない。彼等が見ているのは、自分好みな主人像だけ)

 

 “自分の主はこう考えてるに違いない”。“だからこうするべきである”。

 そうやって理想を押しつけられ、それに無理をしてでも応えようとしていたのが鈴木悟(アインズ)だ。そして今、同じ事がナグモに起こっているのだ。まだ精神が幼く、ただでさえ最近は情緒不安定になっていたナグモにこれは耐えられなかっただろう。

 

「香織、それは――――――うっ!?」

 

 あまりに不憫なナグモの為にユエは香織に一言言おうとしたが、唐突に吐き気に襲われた。

 

「ユエ? どうかしたの?」

「大丈夫、なんでも……うっ、げえええっ!!」

 

 ユエ! と香織が慌てて駆け寄る。だが、その場で嘔吐したユエはそれどころではなかった。

 

(なに、これ……! なんで……)

 

 強烈な吐き気と共に――――ユエの下腹部はズキンズキンと痛み出した。

 

 ***

 

 香織達の前から逃げ出した後、気が付けばナグモは待機中のガルガンチュアの操縦席にいた。膝を抱えて、まるで胎児の様に蹲る。誰とも会話したくなくて、ただ一人きりになれる場所がここだったのだ。

 

(僕は……なんて事をしたんだ……)

 

 ただひたすらに後悔の念がナグモの中で燻る。雫を人形同然の状態にして、香織を心身共に人外(怪物)へ変えてしまった。

 なんて考えなしだったのだろう。雫を記憶喪失する事がどうなるかなど考えていなかった。香織が無惨に変わった親友を見てどう思うかなど想像できていなかった。さらに遡るなら―――香織を異形種(キメラ)に改造する事が、こんな事態を招くなど予想できていなかった。

 

(なにが“最高の頭脳”だ……香織や雫を苦しめておいて……)

 

 かつての自分が目の前にいたら、おそらくナグモは憎しみと共に殺すだろう。創造主(じゅーる)から貰っただけの頭脳に酔いしれて、『考える』という事を放棄していた。

 その結果がこれだ。じゅーるも今の自分を見たら、さぞ失望するに違いない。

 

(もう、消えたい……“心”なんか持たない、ただの機械になりたい……)

 

 自分が心を持ったのは間違いだった。ナグモはそう思っていた。

 人間の心を欠片も理解してなかったくせに、人間の様に香織を愛そうとした。その矛盾は自分なんかより価値のある優しい少女を化け物に変え、取り返しのつかない事態にした。

 そもそもナグモはガルガンチュアの補助のために作られたNPC(人形)だ。このまま思考すらも消えてガルガンチュアの一部になれたら、どんなに幸せだろうとまで考えていた。

 

『しょちょ~、すみません。出て来て下さい』

 

 不意に外部の音声を拾うスピーカーから聞き慣れた声が響いた。ナグモは蹲り、聞こえないフリをした。

 

『しょちょ~! お願いします、すぐに出て来て下さい! どうしても、お話ししないといけない事があるんです!』

 

 再びミキュルニラの声がスピーカーから響く。その声はいつになく焦燥感のあるものだった。ナグモは仕方なく、コックピットハッチを開けて外に出た。

 

「………なんだ? 僕に何か用か?」

 

 外に出たナグモは覇気のない声で聞いた。目は光を全く感じさせずに下を向けたままで、ミキュルニラの顔を見ようともしてなかった。

 

「通常の業務はお前の裁量に任せる……もう、僕の判断なんかアテにするな。こんな僕なんかが所長をやってる事自体が―――」

「所長!」

 

 もはや、やる気すら感じさせないナグモの言葉をミキュルニラが遮る。ナグモはノロノロとミキュルニラの顔を見て――――そこでようやく、ミキュルニラが見た事もない真っ青な顔をしている事に気付いた。

 

「所長がすごくご傷心なのは分かります。でも、これはどうしても報告しないわけにいかないというか……私も今、ユエさんから話を聞いて、現場のエルダーリッチさんを問いただして初めて知ったというか……」

 

 真っ青な顔のまま、ミキュルニラは普段の間延びした口調を放り捨てて早口に弁明する。要領の得ないミキュルニラにナグモは不機嫌そうに眉根を寄せた。

 

「も………申し訳ありませんっ!」

 

 土下座する勢いでミキュルニラは頭を下げ―――その報告に、ナグモもまた顔色が真っ青になった。

 

 ***

 

「しかし、アインズ様。よろしかったのでしょうか」

 

 ナザリックの執務室。溜まっていた書類にアインズは整理していると、側に控えていたアルベドがそう言ってきた。その顔にはナグモに対する不満がありありと出ている。

 

「栄えあるナザリックにまた外部の者を、それも下等な人間の小娘を入れるなど。ナグモの行動は“至高の御方”が作り上げたナザリック地下大墳墓に泥を塗る行為ですわ」

 

 つい先日、雫のナザリックに保護する事をアインズは正式に認めた。その事に対する不満をアルベドは述べているのだが、それはむしろナグモがまた勝手な事をした事に文句を言いたいという気持ちが滲み出ていた。

 

「こうも軽々しく人間をナザリックに入れるなど他の者達に示しがつきません。それこそ、その人間とやらをアインズ様が使役するアンデッドとして差し出す様に要求して―――」

「アルベド」

 

 ナグモの弱みを握る為に進言したアルベドだが、アインズはアルベドに言った。その声はいつになく冷たい。

 

「私は八重樫雫の扱いはナグモに一任すると確かに宣言した。その事にお前は不満がある、という事か?」

「っ、いえ。申し訳ありません、出過ぎた真似をしました」

 

 アルベドは素早く頭を下げる。だが、アインズには見えない様に下げられた顔にはナグモへの怒りを押し殺していた。

 しかしながら、その事にアインズも気付く余裕などなかった。ナグモの一件はそれまでNPC達の行動を深く考えずに支配者の演技をしていた自分への後悔を感じさせる事だった。今は“至高の玉体”を解除してアンデッドとしての精神沈静化が働く様になったものの、チリチリと下火であぶられ続ける様な慚愧の念がずっとアインズの中で燻っていた。

 不意に執務室のドアがノックされた。アルベドが入室の許可を出すと、執務室の前で待機していたアインズ付きのメイドが入ってきた。

 

「アインズ様。ナグモ様が至急報告したい事があると面会を希望しております」

「何?」

 

 アインズが驚くが、アルベドは眉間に皺を作って冷たく言い放った。

 

「いまアインズ様はお忙しいわ。あの男にそう言ってすぐに追い返して――――」

「いや、待て。私もナグモと話したいと思ったところだ」

「アインズ様!?」

 

 アルベドが驚いた声を上げるが、そこは譲れなかった。アインズの意志が固いと瞬時に悟り、目論見通りに嫌いな相手を追い返せなかったアルベドは内心で舌打ちしながらもメイドに許可を出した。

 

「……分かりました。すぐにあの男に用件を済ませる様に伝えなさい」

「あの……それなのですが……」

 

 何故か不機嫌なアルベドに萎縮しながら、メイドは戸惑った表情で続きを話した。

 

「ナグモ様から、出来ればアルベド様は席を外して欲しいとお願いされてまして……」

「はぁ? そんな事は許可できるわけがないでしょう。ナザリックの守護者統括として私はアインズ様の御側にいる義務が――――――」

「アルベド」

 

 どこか怒りのオーラを纏いながらメイドに言うアルベドをアインズは諫めた。

 

「ここはナグモの言う通りにしてやれ。あいつも何か考えがあっての事なのだろう」

「っ……! 分かりました」

 

 ギュッとアルベドは拳を握り絞める。至高の御方に――――それも自分が“愛している”相手に、()()()()()で自分より重用されているナグモへドロドロとした嫉妬が湧き上がるが、それをアインズの手前でなんとか押し殺した。

 そうしてアルベドが退室した後、ナグモが執務室に入ってきた。

 

「ナグモ。どうかしたか? その……お前は大丈夫なのか?」

 

 ナグモが失意した姿の記憶も新しく、アインズは思わずそう聞いていた。だが、ナグモは応えなかった。彼の顔色は青く、アインズを前にして何故かすごく緊張している様子だった。

 

「ナグモ……?」

「……アインズ様。不躾な質問をお許しください。あの夜……ユエを抱いたのでしょうか?」

 

 ゴフッ、と思わずアインズは吹き出しそうになる。ここ数日の出来事だけにアインズもまた緊張しながらナグモとの面会に臨んだ為、この質問は完全に予想外だった。

 

「い……いいい、いきなり何だ!? なんで急にそんな事―――」

「お願いします。お答え下さい」

 

 精神沈静化が働きながらもしどろもどろになるアインズだったが、ナグモは真剣な声で聞いてきた。その顔色はずっと青いままで、冗談で聞いてるわけではなさそうだとアインズは冷静になった。

 

「いや、まあ、その………抱いた、な。うむ……」

「や、やはり……」

 

 自分の情事を部下に報告するという羞恥プレイにアインズは穴があったら入りたい気分になるが、ナグモの反応は劇的だった。まるで重大な問題を発見してしまったかの様に、顔色をさらに青くさせた。

 

「おい、本当にどうした? いったい、先程の質問が何だというのだ?」

 

 明らかに様子のおかしいナグモにアインズは不安になってくる。ナグモは唇を紫にしてブルブルと震わせながら、何度か深呼吸した。

 

「………アインズ様。これから言う事をどうか驚かずに聞いて下さい」

 

 真っ青な顔のまま、ナグモはアインズを見つめる。

 

「ユエが―――――妊娠いたしました」

 

 瞬間、アインズは今まで一番強い精神沈静化を感じていた。




拝啓、魔導国の国民の皆様。

おめでとうございます。この度、待望の魔導王陛下の第一子をユエが懐妊されました。
この記念すべき日は魔導国の国民全てが祝うべき祝日であり、きっと魔導国宰相殿のお喜びになられるでしょう。

後日、盛大な花火を打ち上げる予定ですので、どなた様も奮ってご参加下さい。
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