最近は文章が長すぎて分割投稿していますが、今回も当初の予定通りに書くとまた分割投稿する羽目になるだろうなと思い、キリの良い所で切り上げる事にしました。
ナザリック地下大墳墓の第九階層の一室。
そこで階層守護者達が集まっていた。魔導国の国土が広がりつつある今は守護者達も各地に散っており、今日は全員が久しぶりに直接顔を合わせる機会となった。普段ならばアインズが来る前に雑談しながら待つ事もある彼等だが、今この場では一人の人物を取り囲んで張り詰めた空気が支配していた。
「あんた……これ、どういうこと?」
アウラが怒気を帯びた声で床に正座させた人物―――シャルティアに紙の束を突きつける。その紙には表紙に『“至高の玉体”作成計画書』と書かれており、ナグモらしい几帳面な字が並んでいたが、ページの最後の余白に明らかに筆跡の違うミミズがのたくった様な字が書き足されていた。
「『吸血鬼でも一発妊娠! 抱いた女にすぐボテ腹プレイを出来る様にするでありんす!』……これ明らかにあんたの字でしょ? 何か言い訳はある?」
仕様書に書き足された文章を読み上げ、青筋を立てながらアウラは睨む様に半眼になった。それに対してシャルティアはプイッと顔を背ける。
「……妾は悪うありんせん」
「悪いに決まってるでしょ!! なに考えてんの!!」
「お、お姉ちゃん。シャルティアさんも悪気があったわけじゃ……」
「マーレは黙ってて!!」
ひゃいっ、とマーレは怒り心頭の姉に情けない返事をした。その中でデミウルゴスはコメカミを揉み解す様に手を当てながら盛大に溜息を吐いた。
「ナグモから我々の階層のシモベ達を研究所へ派遣する要請は出されていたがね……まさか、自分のシモベを使ってこんな事をするとは予想外にも程がある」
切っ掛けは“至高の玉体”の製作時にまで遡る。アインズから依頼されたワールドアイテムの作成もあり、ナグモは研究所の人手が足りなくなった為にシャルティア配下のエルダーリッチやデミウルゴス配下のエビルメイガス達にも手伝いを要請していた。今はミレディが支部長を務めるライセン支部にプルチネッラがいたのもそういう理由からだ。
しかし、その際にシャルティアは配下のエルダーリッチ達に自分の要望を“至高の玉体”に最大限反映させる様に命令したのだ。直属の上司であるシャルティアに凄まれて断り切れなかった彼等は、どさくさに紛れて“至高の玉体”の構成情報を書き加えていたのに変更を加えたのだ。
本来ならナグモも最終チェックの時に改変部分に気付いただろう。ところが、アルベドとシャルティアが乱入して“至高の玉体”の外見を一から作り直す羽目になり、期日ギリギリの作成を余儀なくされたナグモは改変部分に今まで気付かなかったのだ。
「ナグモの仕事を邪魔したのもそうだけど、アインズ様の“玉体”にも万が一の事があったかもしれないんだからね! ここまでやられたら誰も庇いきれないって分かってんの!?」
「で、でもお姉ちゃん。シャルティアさんは、その……あの……」
アインズの事を持ち出されて、ようやくシャルティアは気不味そうな顔になった。アウラがここまで怒ってるのも、“設定上"は嫌いな相手とはいえ、創造主同士の関係から手の掛かる妹の様に思っていたシャルティアのやらかしが度を超えていたからだった。その証拠に姉と創造主を同じくするマーレは拙くも何とか弁明しようとしていた。
「……ナグモ様はなんと仰っていましたか?」
セバスも頭痛を耐える様に眉間を抑えながら聞いた。カルマ値が極善の彼はシャルティアをきつく罰するべきとまでは主張しないものの、ナグモの事を考えると擁護しようとは思わない様だった。
「その件についてはまだ何も言ってないよ。もっとも、あれは怒る気力すらないという有様だがね」
正確には香織や雫の件で精神的に疲弊してシャルティアの事まで言及する余裕もないナグモだが、デミウルゴスは『あまりにも腹立たしくて呆れ果てている』と解釈していた。
「まあ、シャルティアの処遇についてはアインズ様のご判断に委ねるしかないとして……いま我々が注目すべきは、ユエが孕んだ御子の事だよ」
デミウルゴスの一言に守護者達に緊張がはしる。最初に口を開いたのはコキュートスだった。
「アノ吸血鬼ノ子ガ、アインズ様ノゴ後継トナラレルノカ?」
「それに関してはまだなんとも。今は技術研究所が総出で介護しているが、そもそも無事に出産できるどうかの瀬戸際らしいからね」
本当ならば、ユエがアインズの子を妊娠した事はすぐに公表するつもりはなかった。ナザリックにとってあまりに衝撃が大きすぎる出来事であり、せめてアインズ自身の気持ちの整理が出来てから時期を見て発表すべきだとナグモも考えていた。
しかし、事態はそんな悠長な事を言っている暇などなかった。シャルティアが『即座に妊娠可能になる様に』などと改造項目を足してしまった為に、たった数日でユエのお腹は臨月間近なまでに膨らんでしまったのだ。胎児の成長スピードが凄まじく、魔力や栄養を急速に奪われたユエも一時期は昏睡状態に陥り、ナグモ達は慌ててユエと胎児の命を繋ぐ処置に奔走していた。そしてここまで事態が大きくなっては情報を隠し通す事など出来ず、守護者達もユエがアインズの子を妊娠した事を知ることとなった。
「ソウカ……無事ニ生マレレバ良イガ。男児ナノカ、ソレトモ女児ナノカ……」
コキュートスはソワソワとしながらそう言った。彼にとっては念願の“爺や”になる機会なのだ。霜がかったアイスブルーの尻尾がブンブンと振られていた。
「それにしてもユエがアインズ様に選ばれるなんてねぇ……なんか今でも信じられない気持ちだけど」
「そうかね? 前の作戦で彼女はアインズ様のご真意をいち早く気付いていた。意外ではあるけど、アインズ様が側に置き続けるのも頷けるというものだよ」
「それは………そうだけど」
複雑そうな顔をするアウラに以前のフューレンの件をデミウルゴスは持ち出す。あの件以来、彼の中でユエは一定以上の評価を得られたらしい。それはアウラにも分かるのだが、父親の様に慕っていたアインズがいつの間にか一人の女性に想いを寄せていたというのはやはり寂しさを感じてしまうのだ。
「ユエさん……いいなぁ」
「ぐぎぎぎっ……よもやポッと出の小娘に塩を送る結果になるとは。こうなったら私もアインズ様の寝所に突撃を、アダダダダダッ!?」
「あ〜ん〜た〜は〜! 少しは反省しなさい!!」
マーレの呟きに血涙を出しそうな程に悔しがるシャルティアだが、両側のコメカミへグリグリと拳を捻じ込むアウラによって鎮圧されていた。この
(まあ……こうやって感情をストレートに出してくれる分、まだマシかもだけど)
グリグリ攻撃をしながらアウラは内心でこっそりと嘆息する。
シャルティアのやった事は別として、その気持ちは分かる。あれだけアプローチしていたのに、結局アインズの心は別の相手に行ってしまったのだ。
そして、もう一人―――この場にいない人物の事をアウラは思い浮かべていた。
本来ならこの一大事に彼女は自分達に指示を出さなくてはいけない立場だ。しかし、彼女は報告を聞いた後に部屋に篭ったまま出てくる気配がない。それを職務放棄だと責める気持ちはあるものの、シャルティア以上にアプローチしていた彼女に女として同情したい気持ちもあった。
「まあ、とにかく……いま我々が出来るのは待つ事だけだよ」
ここにいない彼女に代わり、守護者達の纏め役をしているデミウルゴスが指で眼鏡を押し上げながら周りに言った。
「ナグモの報告を待とうじゃないか。あるいは―――我々がアインズ様の次に忠誠を尽くすべき御方が誕生する瞬間を」
シ ャ ル テ ィ ア の せ い。
はい、そんなわけで伏線回収です。それを書いたのは何ヵ月も前だから、読者の皆様からすれば「分かり辛い!」と思うかもしれませんが。
まず、第百七十九話でナグモが研究員の増員を要請した事。この時にシャルティア配下のエルダーリッチ達が研究所に出入りする様になりました。
次に第百八十七話でアルベドとシャルティアがケチをつけた為にナグモが“玉体”を作り直す羽目になった事。そのお陰で彼は隅々まで“玉体”のチェックが出来ませんでした。
以上の事が重なり、結果的にユエはアインズの子を妊娠しました。細かい所を上げると「ユグドラシルの吸血鬼とトータスの吸血鬼は違うじゃん」という所もありますが、それはまた次回にでも説明します。