ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 皆様、大変長らくお待たせしました。

 息抜きに別の作品の執筆とか、風邪で寝込んだりとか、エアライダーで遊んだりとか色々とありましたが、ようやく最新話が書き上がりました。
 というか今年もあと一ヶ月余りで終わるというのに、この作品も中々終わる気配が無いというか……(汗)。

 次回も時間が掛かるかもしれませんが、読者の皆様がいる限り完結を目指して書き上げていく所存です。


第二百五話「ナザリックの次期王妃」

「どうにか………容態は安定しました」

 

 第九階層のスイートルーム。ユエの病室となった部屋で、ナグモは聴診器を外しながら言った。その顔には隠し様のない濃い疲労が浮かんでいた。

 “維持する指輪(リング•オブ•サステナンス)”の効果で睡眠や食事を不要には出来るものの、精神的な疲労までは取れない。そのくらいナグモにとって神経を削る数日間だった。

 ベッドの上ではユエが目を閉じて規則正しい呼吸を繰り返している。その腹は今や彼女の小柄な体格とはアンバランスな程に大きくなっており、酸素吸入器や点滴など様々な医療機器が身体に繋がれているものの、計器は全て安定した数値を見せていた。

 

「ひとまず、異常促進されていた妊娠周期を通常に戻す事に成功しました。母子共に安定状態に入り、生命の危機は脱したと言えるでしょう」

「そうか………良かった」

 

 ナグモの報告にアインズは安堵のため息を吐いた。

 シャルティアの企みにより、偶然に妊娠してしまったユエ。彼女はつい先程まで、非常に危険な状態に陥っていた。

 『すぐに妊娠できる様に』などとシャルティアの余計な要望を付け加えた結果、果たしてシャルティアが自分なら耐えられると考えていたかは定かではないが、お腹の中の胎児は母体の負担を考えずに急速に魔力や栄養を取り込んでいたのだ。

 いかにユエが不老不死の吸血鬼であろうと魔力が枯渇した状態で栄養失調になれば死んでしまう。そうなれば胎児も一緒に命を落とす事になる為、ナグモは部下達と共に不眠不休でユエに魔力や栄養剤を注ぎつつ、胎児の保護と成長速度を落とす治療を並行して行っていたのだ。

 

「これからユエはどうなるんだ?」

「現在の妊娠周期から見て、早くて残り一月で出産すると思いますが………申し訳ありません。はっきりとは断言出来ません。これから経過観察しながら様子を見ていく事になります」

 

 本来ならば、ナザリックの研究所の所長としてこんな不確かな回答は許されない。だが、ナグモは疲れた顔のまま、首を横に振るしかなかった。

 そもそもの問題として、ユエがどうして妊娠に至ったのかナグモはまだ解明出来ていないのだ。

 アインズの“至高の玉体”は原子配列に至るまで、全てナグモが念密に計算して設計したものだ。“真の神の使徒”を素材にしつつもエヒトルジュエの命令を受け付けない様に基礎設計から改変し、その他に厳選した多数の生物の因子を組み合わせて奇跡的なバランスで成り立たせていた。

 ところがシャルティアが配下を使って余計な要素を入れたせいで、その前提は崩れてしまった。直接の下手人であるシャルティア配下のエルダーリッチ達を問い詰めたものの、彼等はナグモの怒りの視線に震えながらも「自分達はシャルティア様の要望通りになる様に因子を追加しただけで、どうして性交したユエが妊娠したのか分からない」と答えたのだ。

 

(そもそも吸血鬼とは言っても、ユエとシャルティア(アンデッド)は種族的には別の筈だ。元々の設計と改変部が何らかの相乗効果をもたらしたのか、ユエが“神子”の天職を持つ特別な吸血鬼だから“至高の存在"を受胎する器として機能したのか………ダメだな、現状ではどれも断言ができない)

 

 もはや“玉体”はナグモの設計から外れて予測不可能なものとなり、それこそユエや胎児を解剖でもしない限り、異世界の吸血鬼が妊娠した原因など特定できないだろう。結局、母子の命を繋げる事を最優先にして様子を見るという消極的な方法しか取れなかった。

 

「そ、そうか……あと一ヵ月なのか………」

 

 ナグモの報告にアインズはポツリと呟いた。それはいつものNPC達を前にした威厳ある支配者らしい姿はなく、どこか不安さを隠し切れない態度だった。

 それを見て少し躊躇したものの、ナグモは意を決して聞いた。

 

「その……アインズ様。ユエの容態が落ち着いた今だからこそ、お聞きしたいのですが………どうされるのでしょうか?」

 

 ナグモの質問に主語はない。だが、何を指しているかなどアインズには分かっていた。咄嗟に返答できず、言葉に詰まるアインズを見ながらナグモの言葉は続く。

 

「幸が不幸か、これだけの魔力を注がれているので生まれてくる子供のステータス成長率は期待できます。それこそ、アインズ様の御後継として相応しいくらいには」

 

 御後継、とアインズは口の中で転がす。アルベドやデミウルゴスからそんな話を振られた事もあったが、その時は身体が生殖不可能なアンデッドという事もあって全く考えていなかった。

 

「アインズ様が望まれるならば、技術研究所スタッフ一同の総力を挙げてユエの出産をサポートします。ですが、もしお望みでないならば………」

「待て、いや本当に待ってくれ」

 

 アインズは狼狽しながら遮る。ナグモも、それ以上の言葉は続けなかった。

 アインズからすれば、こんな事など予想していなかった事だ。原因の発端がシャルティアには違いないが、“至高の玉体”の最終チェックを怠ったナグモにも責任はある。アインズが子供など望んでいなかったと言うなら、不出来な“玉体”を引き渡した責任として―――雫の時の経験を思い出すと全く気が進まないが―――不要な赤子を()()しなくてはならなかった。

 一方、アインズの方は混乱の極みにいた。

 ユエの事は好きだ。それは間違いない。

 だが、突然父親になると言われても心の整理がついていなかった。

 

(父親になるって………どういう風にすれば良いんだろう? そんな事を言われたって、心の準備も何も………)

 

 鈴木悟には父親はいなかった。

 正確には物心がつく前に死んでおり、彼は一般的な父親像という物を知らない。転移前の生活だって結婚して家庭を作るなんて自分には縁が無い話だと思っていたし、そんな彼が相手が好きな子だとはいえ、その子が急に身籠って自分は実像を知りもしない父親になるのだと言われても頭が追いつかなかった。

 何度も精神の沈静化が行われるものの、大きすぎる問題を前に思考がぐるぐると空回りしていた。

 

「この子を……産ませて……」

 

 そこへ掠れた声が二人の間に割り込んだ。先程まで目を閉じていたユエはぼんやりと目を開いていた。

 

「ユエ、起きていたのか?」

「サトル様……お願い、します……この子を産ませて下さい……」

 

 まだ体力が回復しておらず、頭もはっきりとしないのか、二人の時だけの呼び名である“サトル”をナグモの前で使ってしまっていた。

 だが、ナグモの事を気にする余裕などユエには無い。一言を喋るだけでも辛そうだというのに、目だけは確固とした意志を込めてアインズに訴えかけていた。

 

「この子を、堕ろさないで……。サトル様が、御迷惑なら……私は、ナザリックから去りますから……」

「ユエ、何を……!」

 

 アインズが動揺した声を上げる。

 ユエとて元・王族だ。自分が好きな男の子供を孕んだ、というだけで収まらない問題だというのは分かっていた。

 まだ正妃として認められてない自分が王の子を身籠もったのだ。生まれてきた子供は確実に火種になり、下手すればナザリックはおろか魔導国に大きな波乱を起こす事は想像に難くない。魔導国の今後を考えるならば、妊娠中絶もあり得る選択肢だ。

 だが………。

 

「お願いします……この子を……私の家族を、奪わないで……」

 

 その一言にアインズは雷に打たれる様な衝撃を感じた。

 国はとうの昔に滅び、一族も死に絶えた。唯一、生きていたと思った叔父も邪神の眷族の器に成り果てていたユエにとって、腹の中の子は自分の血を分けた唯一の家族なのだ。

 おそらくユエはナグモ達に治療されてる間に、混濁する意識の中で何度も考えていたのだろう。それでも愛した男のお腹の中にいる子供を産みたい、と決意していた。たとえ、アインズに迷惑が掛からない様に遠く離れた地で暮らす事になっても、自分一人でも育ててみせると訴えてきていた。

 それは我が子を愛する母の決意であり————鈴木悟(アインズ)はかつて、女手一つで育ててくれた自分の母親を思い出した。

 

「……………」

 

 アインズは暫し瞑目する。覚悟を決めたユエを見ていると先程までの自分が非常に情けなく思える。

 突然の妊娠で心の準備が出来てないとか言ってるのは、自分だけだった様だ。

 ユエは命の危機に瀕しながらも、我が子の事を第一に考えていた。それなのに横で見ていただけの自分が何を躊躇しているのだろうか。

 

「サトル……様……?」

 

 アインズは何も言わずに“至高の玉体”を発動させる。骨だけだった身体が肉体に包まれた。骨だけの身体では温かさを感じられず、何よりこの感情は精神沈静化で水を差されたくなかった。

 

「お腹を……触っていいか?」

 

 唐突に聞いてきたアインズだったが、意図を察したユエは優しく微笑んで促した。

 恐る恐るといった慎重な手付きでアインズは膨らんだお腹に触れた。

 

「おわっ、動いたぞ!」

「きっと……赤ちゃんもサトル様に撫でられて、嬉しいのだと思います」

「そうか……なあ、ナグモ。この子は男の子なのか? 女の子なのか?」

 

 アインズの質問にナグモは答える。

 

「超音波検査で調べたところ、女の子の様です」

「そうか。それなら、ユエに似るといいな。きっと美人な子になるだろうな」

「私はサトル様に似た子が良いです」

「いやあ、今は“玉体”のお陰でこんな顔だけど、元は冴えない感じの顔だし………」

 

 肉体を得たアインズはユエのお腹に触れながら顔を綻ばせる。それは冷酷なアンデッドの支配者ではなく、一人の父親としてこれから生まれる娘の誕生を喜んでいる姿だった。

 変則的な形にはなったものの、生まれてくる我が子に愛情を向ける両親。そして誕生を望まれてるお腹の中の子。

 それはとても―――とても幸せな家族の形。

 その幸せな空間を邪魔しない様に、ナグモは背を向けてそっと部屋から出た。

 

「しょちょ〜」

 

 部屋から出ると、待っていたミキュルニラが声を掛けた。いつもは人当たりの良い笑顔を浮かべている彼女も、さすがに緊張した面持ちでアインズの決断を待っていたのだ。

 

「……アインズ様は子供の誕生を望んでおられる。これより、技術研究所は出産が無事に終わる様に全力を尽くす」

「……! そうですか〜! ユエちゃん、良かった………」

 

 ナグモの報告に一瞬だけ呆けたものの、すぐに安堵の笑顔を浮かべた。そこにはユエの赤ちゃんを取り上げる事にならなくて良かったという思いと、ナザリックの一員として次世代の王の誕生を喜ぶ思いがあった。

 

「何はともあれ、これでやっとユエちゃんにおめでとう、って言えます〜。そうと決まったら、お祝いするですよ〜! ベビーベッドを作って、ベビー服も用意して、それから……あ、そうだ! 魔導国に作る幼稚園計画も進めなくちゃです〜!」

「ああ……そうだな」

 

 気の早い提案をしてくるミキュルニラだが、何故かナグモの返事は上の空だった。

 

「しょちょ〜……?」

「………あれがきっと、本当の家族の形なんだろうな」

 

 怪訝に思うミキュルニラを他所に、ナグモは壁に寄り掛かりながら廊下に座り込んだ。まだこれからの事をアインズ達に確認しなければならない事はあったが、今の二人の間に割り込む気にナグモはなれなかった。

 何より————ナグモはあの光景を見ているのが辛かった。

 

「あんな風な未来が、僕と香織にもあり得た筈だったのに………」

 

 いつの日か、ブルックで思い描いていた幸せな未来。

 きっとナグモが望めば、香織は喜んで子供を作るだろう。ただし、それは『ナグモ(創造主)が望んだから』であって、本来の香織の意思などそこには無い。どこまでいっても、もはやナグモがやってる事はさもしい一人芝居でしかなかった。

 そうなったのは………ナグモ自身の責任だ。アインズとユエを見ていると、自分が手に入らなかった未来を見せられた様で辛かった。

 

「どうして………」

 

 廊下に座り込んだまま、ナグモは膝をギュッと抱える。

 

「どうして僕は……愛した筈の人間を幸せにする事も出来ないんだろうな……」

 

 もはや嘆いても時間が戻る事はない。アインズとユエの様に二人が愛し合って築く未来は、永久に失われた。その事を香織“だった”人形(NPC)”を見ながら悔やむ未来しか自分には残されてないと感じていた。

 

「しょちょ〜………」

 

 子供の様に蹲ってしまったナグモに、ミキュルニラは悲しそうに声を掛ける。その手がナグモを撫でようとしたが、中途半端な位置で止まった。

 決して自分では香織の代わりになどなれない。そう………人形が人間の代わりになどなれない様に。

 それを理解してる彼女は、ただナグモが泣き止むまで、ただ静かに隣りに座っていた。

 

 ***

 

 顔を念入りに洗った後、ナグモは守護者達の待つ部屋に向かっていた。涙の跡など他の守護者達には見られたくなかった。

 部屋の前で一度、深い深呼吸をする。そして覚悟を決めた様にナグモがドアを開けると、中にいた守護者達の視線が一斉に突き刺さった。

 

「ナグモ様」

「どうなったのだね?」

 

 セバスとデミウルゴスが聞いてくる。雫の事もあり、デミウルゴスとは口を聞きたくないという気持ちはあるが、それはそれとして報告はしなければならなかった。

 

「決定した事項から伝える」

 

 ゴクリ、と守護者達の誰かの唾が飲み込まれる音がした。

 

「………アインズ様は吸血鬼・ユエが妊娠した女の子が無事に生まれてくる事を望まれている。残り一ヵ月後。アインズ様の第一子の出産を第四階層(研究所)で総動員してサポートする事になった」

 

 同時に、とナグモは言葉を切る。

 

「僕は吸血鬼・ユエ………いや、()()()をアインズ様の正妃として後押しさせて貰う」

 

 ざわ、と守護者達がどよめく。今までアインズの正妃の座はアルベドやシャルティアが主張はしていた。だが、どちらもアインズ自身が乗り気では無さそうだった為に“本人が自称してるだけ”と他の守護者達も本気にはしてなかったのだ。

 だからこそ、ナグモの宣言は守護者達を驚かせるには十分だった。今まで誰がアインズの正妃となるか興味無さそうだった為に中立の立場であり、神代魔法の研究などで今や最もアインズに重用されてる重臣とも言えるナグモがユエを擁立したのだ。

 

「ま、待つでありんす! それは―――」

「オオオオオオオオオオッ!!」

 

 シャルティアが即座に反論しようとするが、コキュートスの雄叫びによってかき消された。

 

「メデタキ日ダ……マサニメデタキ日ダ! オメデトウゴザイマス、アインズ様ッ!」

 

 四本の腕でガッツポーズを決めるコキュートス。ある意味、アインズの後継の誕生を一番心待ちにしていたのが彼なのだ。文字通り我を忘れるくらい狂喜していた。

 

「ふうむ。少しばかり予想外の結果ではあるが………ところでナグモ、その御子はアインズ様の後継として相応しい才能が見込めるかね? 我々に比べれば劣るユエのステータスを考えるなら、生まれてくる子供も脆弱かもしれない、というのは気掛かりなのだが」

「その点について心配ない。どこぞのバカのせいで、こちらは不眠不休で魔力を注ぐ羽目になったからな。あれだけの魔力を胎児の内に取り込めたのだから、ステータス的には非常に恵まれた子になるだろう」

 

 どこぞのバカ、という部分をわざわざ強調するナグモ。

 うぐっ、とシャルティアが気まずそうな声を上げるものの、デミウルゴスはそこを問題としていない様だ。

 

「なるほど、ならば問題ないな」

「デミウルゴス!?」

「アウラ、元より我々は至高の御方に仕える道具なのだよ。アインズ様が手ずから選ばれ、生まれてくる御子も才能が期待できるというなら私達に異論など無いだろう?」

 

 驚くアウラを諭す様にデミウルゴスが意見を述べる中、セバスは厳かに頷いた。

 

「私もアインズ様がユエ………いえ、これからは奥方様と呼ぶべきでしょうか。奥方様を愛された上で正妃に迎えられるならば、全面的に支持いたします」

「珍しく君と意見があったものだねえ? 私もアインズ様の御決定に口を挟む気は無いとも。さて、そうなると魔導国としてはどんな経緯で彼女が魔導王陛下の妃となったと周りに語るべきか………まあ、元はエヒトルジュエに滅ぼされた国の王女だから、大衆向きのシンデレラストーリー(お涙頂戴の話)くらい、いくらでも作れるか。あとは冒険者モモンの従者として顔が知られている事については、そうだな――――」

 

 今後の事を考えながらデミウルゴスはブツブツと思考の海に入る。彼の中ではユエをどうやって魔導王の妃として人間達にプロデュースするか、と様々な考えを巡らせているのだろう。

 守護者達の内、半数以上がユエがアインズの正妃となる事に異論が無いのを見て、シャルティアは助けを求める様にアウラを見た。

 

「………そんな目で見てきても無理。私もちょっと悔しいけど、アインズ様がお決めになられた事なら反対なんて出来ないもの」

「あ、あの………ごめんなさい」

 

 マーレがすまなそうに頭を下げた。アウラと共にアインズが最も愛した相手が自分達じゃないという事に寂しさを感じるものの、アインズの意思を第一とする守護者の立場で異論は言えなかった。

 

「………う、ううっ、ふぐぅ……!」

 

 シャルティアはその場で膝をつき、そして――――。

 

「う………ふぇええ~ん! アインズ様を寝取られたでありんす~!」

「いや、そもそもアインズ様と寝た事ないじゃん」

 

 大泣きするシャルティアにアウラの冷静なつっこみが入る。

 見た目は可憐な少女が人目も憚らずに涙を流してる姿は胸を締め付けられそうな姿だ。もっとも、事の発端を知らなければの話だが。

 ある意味で一番の被害者であるナグモは溜息を吐きながらシャルティアから視線を切り、ずっと気になってる事を聞く事にした。

 

「………この場にいない様だが。守護者統括殿はどうしてる?」

 

 呆れ顔になりながら大泣きしてるシャルティアを宥めていたアウラだったが、急に気まずそうな顔になった。

 

「あー、まあ………やっぱりショックだったみたいで、ずっと部屋から出て来てないよ。ほら、アルベドにとってもこの件は完全に寝耳に水というか………」

「彼女はアインズ様の正妃は自分こそが相応しいってメイド達にも主張してたくらいだしねえ。致し方ないとはいえ、面子を潰された形になるだろう」

 

 デミウルゴスが肩をすくめながら引き継いだ。とはいえ、そこまで真剣に考えてはいない様だ。

 

「まあ、しばらくはそっとしておいてあげよう。彼女とてナザリックの守護者統括として、何を優先すべきか分かっているだろう。それまでは不肖ながら私が指揮を執ろう」

 

 デミウルゴスなりに仲間への気遣いをしているのだろう。アルベドの頭脳、そして業務遂行能力を評価してる為に、しばらく経てばまたナザリックの為に働くと考えている様だ。

 

「………」

 

 だが、どうにもナグモは納得しかねると思っていた。

 はっきり言ってアルベドの事は嫌いだ。

 だから“アインズに自分の事を売り込め”などという頼みは無視してきたし、結局アインズに選ばれなかったのもアルベド自身の問題だろうと思っている。

 

(ユエとは知らない仲では無いし………実際に子供が生まれてくる以上、ナザリックで新参者であるユエを味方するのは僕くらいだろうと思って宣言した。もっとも、守護者達の反応を見る限り杞憂だった様だ。しかし………)

 

 果たして、この判断は正しかったのだろうか。デミウルゴスはアルベドもナザリックを第一とする判断をすると言っていたが………。

 

(何故だ………論理的に説明できないが、なにか()()()()()()()()()()がする)

 

 NPCの時ならば、デミウルゴスの言葉を機械的に判断して頷けただろう。だが、人間(プレイヤー)となって感情を学んだ今のナグモには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という漠然とした不安がつきまとっていた。

 

「坊チャマデハナク、オ嬢サマカ………ダガ女ノ子ト言エド、剣ノ腕ヲ磨クニコシタ事ハナイ筈ダ。レイピアノ様ナ軽イ剣ニスベキカ、ソレトモ槍ヲ教エルベキカ………悩ム、爺ハ悩ミマスゾォ!」

「あの………コキュートス殿? そもそも奥方(ユエ)様もアインズ様も魔法詠唱者(マジックキャスター)ですから、生まれてくるお嬢様もむしろ魔法詠唱者になられるのでは?」

「ぢぐじょおおおおお!! こうなったら今日はヤケ酒してやるでありんすぅぅぅ! マーレ、お前もつき合いなんし!」

「え、ええ………そもそもシャルティア様はアンデッドだから酔わないんじゃ……?」

「ああ、良いって。私がつき合うから、マーレは別に良いよ」

「やれやれ………すまないね、アウラ」

 

 この場にいる守護者達は程度の差はあれ、誰もがアインズの第一子の誕生を心待ちにしている様だった。

 だが、その喧噪の外でナグモはずっと自分が感じてる嫌な予感の正体について考えていた。

 

 ***

 

 明かりをつけない暗い部屋………アルベドはベッドに突っ伏していた。

 周りには自作のアインズグッズが置かれていたが、それらは最早アルベドにとって何の癒やしにもならなかった。

 

「ふ、ふふ………そう………最初から、そのつもりだったのね」

 

 誰に聞かせるでもなく、アルベドは暗い部屋で呟いた。

 ほんの数日で彼女は酷い有様だった。髪は振り乱した様にぐしゃぐしゃになり、目の下には濃い隈があった。完璧な淑女として常に身嗜みを怠っていなかった姿は見る影もない。

 

「私の頼みをずっと無視してきたと思ったら………あの吸血鬼にアインズ様を()()()()()()のね……」

 

 ………かつて、彼女の創造主であるタブラ・スマラグディナは、アルベドを「最高位の天使として生まれる筈だったが、捻じ曲がった存在として生まれた」と設定していた。もちろん、これはただのフレーバーテキストだ。だが………。

 

()()()()は………あの吸血鬼を利用して、アインズ様のNo.2(私の地位)を奪おうという魂胆だっんだわ………!」

 

 血走った目で呟く今のアルベドの姿はまさしく―――――怒りと嫉妬に狂った醜悪な怪物の様だった………。




Q.ナグモくんはアルベドちゃんからアインズ様に自分を振り向いて貰える様にして欲しいとお願いされました。でも、ナグモくんはアルベドちゃんが嫌いなので頼みを無視して、ユエちゃんがアインズ様の子供を妊娠するお手伝いをしていました。

 さて、アルベドちゃんから見てナグモくんはどんな風に見えるでしょ~か?

 あと地味に第六十四話「亡国の吸血鬼女王」のフラグの回収です。
 「ユエがアインズ様の正妃? ねえわ」と思っていたのに本当に実現して、その時に香織との幸せ家族計画を妄想していたナグモはそれがもう叶わぬ夢と思い知るというね……。
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