ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

220 / 223
皆様、お久しぶりです。
エアライダーをやっていたり、気管支炎になった後にすぐに胃腸炎になって寝込むなどドタバタしていたら前回から1ヶ月が経ってしまいました。

おそらくこれが今年最後の投稿になりますが、聖夜に素敵な一時を思って頑張って書き上げました。どうぞお楽しみ下さい。


第二百六話「破滅の序曲―――黒い堕天使」

「ミキュルニラ副所長。こちらでどうでしょうか?」

 

 エルダーリッチがそれをミキュルニラに見せた。

 それは一本の槍だった。外見的には簡素で見窄らしく、ナザリックの技術の粋が集まる技術研究所(第四階層)で作られたとは思えない物だ。

 だが、ミキュルニラは慎重な手付きでその槍を受け取って机の上に置き、まるで美術品の鑑定をする様にルーペで細かく調べていく。やがてミキュルニラは顔を上げた。

 

「……残念だけど、これでは駄目です〜。もう一度作り直してみて下さい〜」

「ううむ、この配分でも駄目ですか……」

 

 首を横に振ったミキュルニラにエルダーリッチはガックリと肩を落とした。

 

「ごめんなさい〜。でも、エヒトルジュエを倒す切り札となるアイテムだから、完璧にしなくてはいけないんです〜」

「ですが、副所長。やはり我々だけでは厳しいです。これ程の複雑な武器となると、やはり生成魔法がなくては………所長はどちらに?」

 

 エルダーリッチの質問にミキュルニラの表情が一瞬だけ強張る。だが、すぐにいつも通りの人当たりの良いマスコットキャラの顔になった。

 

「………しょちょ〜は別の研究所でお仕事をしています~。ナザリックの研究所も今はここ以外にもいくつかありますから〜。しょちょ〜も忙しいので、今は私達だけでどうにかしましょう〜」

「はぁ……」

「今度は神結晶の成分を10%増やしてみて下さい〜。エーテル配合もパターンDで試して下さい〜」

「分かりました」

「それではこの試作品はいつも通りパンドラズ・アクターさんの所に〜」

 

 エルダーリッチは一礼して槍を受け取り、部屋から出て行った。その後、ミキュルニラはすぐに通信画面を開く。

 

「パンドラズ・アクターさん。そちらに研究員が今から向かいます〜。また試作品の保管をお願いします〜」

『了解致しました! ミキュルニラ殿!』

 

 通信画面にパンドラズ・アクターの顔が映される。いつも通りにオーバーな敬礼をビシッと決めていた。

 

「すみません、パンドラズ・アクターさんもお仕事があるのに~」

『いえいえ、お気遣いなどナッシング(Nichts)! 新たなマジックアイテムが収集されるなんて、私にとってはまさに最高の喜びである故に!』

 

 一言、一言にビシッとポーズを決めるパンドラズ・アクター。アインズによって『無類のマジックアイテム好き』と設定された彼にとって、宝物庫に新たな品目が増えるのは喜ばしい事だった。

 

『ン何より! 偉大なりし御方の娘が生まれる! すなわち私はお義兄(にい)様! そう、お義兄(にい)様になるのですから! 生まれてくる義妹(Meine Schwester)の為にもバリバリ働きますとも!』

 

 ユエがアインズの子供を妊娠した事はパンドラズ・アクターの耳にも届いていた。NPCと実の子という差はあれど、アインズによって創られた者同士としてある意味では自分に義妹ができるという事を純粋に喜んでる様だった。

 

「ふふふ~、そうですね~。パンドラズ・アクターさんも、これからお兄ちゃんですもんね~」

 

 分かりやすく喜んでいるパンドラズ・アクターにミキュルニラも笑顔になる。彼女もまたアインズの子供の誕生を心待ちにしており、そしてナザリックの仲間であるパンドラズ・アクターが喜んでる姿を見るのが嬉しいのだ。

 

「………うん、そうですよね。やっぱり、兄妹だから喜んで欲しいですものね」

 

 だが、ミキュルニラの表情にふと暗い影が差す。それはあの日以来、暗闇を彷徨う様な日々を送るナグモを思ってのものだろう。普段なら人前で自分の暗い顔を見せないミキュルニラだが、実質一人で研究所の業務を切り盛りしてる精神的な疲れ、そしてナグモを元気付ける事が出来ない自分への不甲斐なさでつい出てしまった様だ。

 

『………ミキュルニラ殿。私は偉大なりしアインズ様……いえ、モモンガ様によって創られた存在です』

 

 不意にパンドラズ・アクターがそう言った。それもアインズの事を自分に名前を付けた時のモモンガと呼び直してだ。

 

『モモンガ様の心を慰撫する事。それこそが私の存在理由なのです』

 

 だからこそ、自分は姿を自在に変えられる。それはいなくなった至高の御方達にすらも。

 

『私はこの姿も、この能力も誇りに思っております。何故ならば、他ならぬモモンガ様がそう望んで私を創られたのですから』

 

 たとえ、至高の御方の代わりになれなくても。今やアインズの心の空白はユエによって埋められ、自分のかつての役目は終わった。それでもパンドラズ・アクターは構わなかった。

 

『モモンガ様の喜ぶお姿を見る事。それこそが私の最高の喜びなのです。だからこそ、あの御方の為に身を尽くすのです。たとえ私の役目が終わろうとも、それに変わりなど無いのです。ミキュルニラ殿にも、そんな方がいるのではありませんか?』

「私は………」

 

 ミキュルニラは言葉に詰まる。

 そういう相手はいる。創造主によって定められ、そして自分の意志でも喜んで欲しい相手が。でも、その為にどうすれば良いのか、ミキュルニラには分からないのだ。

 

『何か力になれる事があるなら、私になんなりとお申し付け下さい。我々は至高の御方に仕える同士にして、掛け替えのない友人(Bester Freund)なのですから』

「……ええ、ありがとうございます。パンドラズ・アクターさん」

 

 パンドラズ・アクターの気遣いに少しだけ心が軽くなり、ミキュルニラは笑顔を返して通信を切った。

 

(しょちょ〜………)

 

 ミキュルニラはそっと目を伏せる。

 ここ数日、ナグモはナザリックに来ていない。それどころか、以前は寝泊まりしていたオルクス大迷宮の屋敷にすら帰っていなかった。まるで―――誰かを避けている様に。

 その為に今はミキュルニラが研究所全体の指示を出している様なものだ。しかし、今の様にナグモの不在で業務に支障をきたしている部分もある。それでもミキュルニラには仕事を投げ出してるナグモへの不満は無かった。

 

(もしもの時があったら………私は()()()()()()()()()()()()()()を全うします)

 

 ***

 

「う〜む、今回も駄目か………しかし、副所長は何がご不満なのだろうか?」

 

 パンドラズ・アクターの宝物庫に行く道の傍ら、エルダーリッチは不思議そうに頭を捻る。

 

「この試作品………“ロンギヌス・レプリカ”は効果は再現できたと思うのに」

 

 ………そう。彼が手にしている試作品の槍は、少し前にナグモがアインズから作成を依頼されたワールドアイテムだった。

 “至高の玉体”と並行して進められていたプロジェクトだったので製作期間が大分伸びてしまったが、トータスでのナグモの研究成果、“神結晶を産む機械(アルヴヘイト)”から供給される大量の神結晶によって、とうとうユグドラシルにおいてチート級のレアアイテムの生成に成功していたのだ。

 アインズより生成を依頼されたワールドアイテム―――“聖者殺しの槍(ロンギヌス)”は相手を完全抹消する武器だ。完成すればエヒトルジュエをも殺せるだろう。しかし………。

 

「使用者が完全抹消するリスクくらい、どうという事も無いと思うのだが………」

 

 その代償として、“聖者殺しの槍(ロンギヌス)”は使用者も完全抹消される。これはアインズが蘇生魔法を使ったとしても、使用者を復活させる事は出来ない。まさに諸刃の剣だ。

 だからこそ、ミキュルニラはこの武器の改良に務めていた。エヒトルジュエを倒す為に誰かが犠牲にならなくてはならないなど、心優しい彼女の観点からすれば論外だ。相手を消滅させつつ、使用者も無事に済む様に改良しようと試行錯誤していた。

 

「いっそ亜人族の兵士達に使わせるなりすれば良いのに………あんなにいるのだから、一体ぐらい犠牲にしても構わないだろうに」

 

 もっとも、このエルダーリッチにその心意気を理解するのは難しかった。大多数のナザリックの異形種達と同じく、外の人間などアインズの為の消耗品ぐらいにしか考えてない彼からすれば、何故ミキュルニラが試作品にOKを出してくれないのか純粋に不思議がっていた。

 既に“相手を完全消滅させる”という効果には成功している。これが本当にエヒトルジュエに効果があるかは本番で試してみないと分からないものの、理論上は完璧だと彼は思っていた。

 ともあれ、上司であるミキュルニラが却下した以上、言われた通りにしなくてはならない。仮にもワールドアイテムの複製品なのでパンドラズ・アクターの宝物庫で保管される事になっていた。

 

「ちょっと良いかしら?」

「へ? ア、アルベド様!」

 

 宝物庫までの道のりを歩いていたエルダーリッチだったが、突然横から声を掛けられた。そこにいたのは守護者統括のアルベドだ。ただの一介のシモベに過ぎない彼は慌てて姿勢を正した。

 

「な、なにか私めに御用でしょうか?」

「……その槍、例のワールドアイテムの試作品かしら?」

 

 ここ数日は姿が見えなかったとはいえ、ナザリックの最高幹部に話し掛けられて緊張するエルダーリッチだったが、アルベドはいつもの様に天使と見紛う様な微笑みを浮べて聞いてきた。

 

「はい。しかし、これは失敗作でして………いま宝物庫に保管しに行くところです」

「失敗作? それはどう失敗した物なの?」

「いえ、失敗と言っても破壊性能はオリジナルのワールドアイテムを再現できてると思います。ですが、ミキュルニラ副所長はどうもこれでは足りないと思われてる様です」

 

 そう、とアルベドは頷いた。その顔は相変わらず微笑みを浮べたままだ。

 ………もしも、このエルダーリッチが注意深い性格ならば気付けただろう。ナザリックの最高幹部のアルベドがどうして失敗作のワールドアイテムに興味を示しているのか。

 そして――――先程からアルベドが浮べている微笑みが、まるで仮面の様に表情が動いていないという事に。

 

「その槍、私が持って行きましょうか」

 

 スッとアルベドが手を差し出してくる。エルダーリッチは慌てて首を横に振った。

 

「い、いえ! アルベド様程の御方にこの様な雑務をお願いするなど!」

「良いから。私も宝物庫に用があるの。ついでに持って行ってあげるわ」

「いえ、ですが………」

 

 エルダーリッチは尚も恐縮する。自分の雑務をアルベドに代わって貰うのは恐れ多いというのもあるが、シャルティアの件があって以来、研究所では例え廃棄品でも厳しいチェックを設ける様になったのだ。ここで廃棄を他人任せにしたと知られれば、彼は厳しく罰せられる。

 

「………ふう。そう、どうしても渡して貰えないのね。仕方ないわ、考えてみればもう段取りに拘る必要なんてないもの」

「アルベド様………?」

 

 尚も固辞するエルダーリッチを見て、アルベドは溜息を吐きながら何やら呟いた。一体、どういう意味なのか問い質そうとして――――――。

 

「え………?」

 

 瞬間――――アルベドの振るったハルバードによってエルダーリッチは首を斬り落とされていた。

 

 ***

 

「いい? ナグモくんは甘めの味付けが好みだから、しっかり覚えてね」

「はい、香織」

 

 オルクス迷宮・オスカーの屋敷。そのキッチンで香織は雫に料理の指導をしていた。最初はメイド服に着られているという印象だったが、香織が行ってる指導ですっかりと板に着き始め、雫はメイドとして出来上がりつつあった。

 

「ナグモ様に喜んで頂けるでしょうか?」

「うん! きっとナグモくんも雫ちゃんがメイドとして()()()()()すれば、ご褒美に雫ちゃんも()()()()()()()と思うよ。二人でずっとナグモくんにお仕えしようね!」

 

 人間だった頃の思考から完全に狂ってしまった香織の言葉に、雫も虚ろな笑顔で頷いた。記憶を無くした彼女にとって、自分に色々と教えてくれる香織が嬉しそうにしてるからそれは良い事なのだと思っているのだ。

 一方の香織もナグモの為に雫をメイドにする事が最善だと思っていた。そして自分の様に選ばれた人間は改造され、ナグモに生涯仕える事こそが幸せなのだと疑っていない。

 

「アインズ様の御世継ぎも生まれるから最近はナグモくんも忙しいみたいだけど、帰ってくるまでに完璧なメイドさんになろうね、雫ちゃん!」

 

 アインズの子供が生まれる件は香織も知っていた。相手がユエだった事に少し驚いたものの、今や身も心もナザリックに忠誠を誓う香織からすれば、アインズの御世継ぎの誕生は喜ばしい事だった。

 最近、ナグモはオルクス迷宮の屋敷に来なくなったが、それも色々と忙しいからだろうなと好意的に解釈していた。

 そうしてナグモ(創造主)に忠実なメイド(人形)達が働いていると、不意に屋敷の呼び鈴が鳴った。

 

「誰だろう、ミキュルニラさんかな? はーい、いま開けます!」

 

 雫をその場に残して、香織は疑問符を浮かべながら玄関に向かった。

 この屋敷の呼び鈴を鳴らす者は実は少ない。屋敷の主であるナグモは呼び鈴を鳴らす必要は無いし、時折強襲してくるシャルティアはそもそも断りなく入ってくる。客人が訪ねてくるなど滅多にない屋敷に誰が来たのか、と香織がドアを開けると―――。

 

「アルベド様!?」

 

 そこに立っていた人物に香織は驚きの声を上げる。

 

「ナグモはいないのかしら?」

 

 挨拶も抜きにアルベドは言った。その顔はナザリックのNPC達を統括する上位者として香織を見下していた。

 

「ナグモく……いえ、ナグモ様は留守です。あの………何か御用でしょうか?」

 

 今やナザリックのNPCと化した香織にとって、アルベドはアインズやナグモの次に敬意を払わなくてはならない相手だ。しかし、ナグモがアルベドを嫌ってる関係でほとんど話をした事がない。会社で喩えるなら、入社式以来会ってない専務が自分の目の前にいる様なものだ。警戒と緊張でアルベドに用件を聞いた香織だったが―――。

 

「ああ、そう。あの男がいないなら、それはそれで好都合かしら」

「え? 一体、何の………っ!?」

 

 ガギィンッ!

 

 アルベドが振るった槍を香織は即座に皮膚を硬質化させて防いだ。ダイヤモンドより硬い表皮になったというのに、衝撃が骨にまで響く。

 

「あら、防いだの。あの男のお気に入りの人形だけな事はあるわね。じゃあ加減しなくて良いかしら?」

「アルベド様、何を………!?」

「香織! 一体、何があったの?」

 

 憎々しそうな顔になるアルベドに香織は事情も分からずに驚くが、騒ぎを聞きつけて雫が来てしまった。

 

「っ!? 駄目、雫ちゃん!」

 

 香織が真っ青になって振り向いた瞬間―――アルベドの槍が香織を刺し貫いた。




それでは皆様、メリークリスマス!
そしてナグモはベリークルシミマス!(笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。