ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 大変お待たせ致しました。
 胃腸炎で寝込んだり、エスタードやドラクエ7をやっていたら前回から二ヶ月近くぶりの更新となってしまいました。
 この小説をエタらせる気はないので、何卒気長に待ちながら応援よろしくお願いします(土下座)


第二百七話「狂ったアルベド」

 旧エリセン近海 メルジーネ海底遺跡

 

 ナグモは現在、そこにいた。ナグモ達が攻略した大迷宮は他の者に奪取されない様にナザリックによって占拠されていた。

 この大迷宮もオルクス大迷宮やライセン大迷宮の様に魔導国の施設として再活用する方針だ。現在、ここは海流発電所の建設計画が立てられている。今は都市エネルギー用の神結晶をアルヴヘイトから定期的に搾り取っているものの、将来的にアルヴヘイトの魔力が枯渇した時に備えて代替エネルギーを考えなくてはならない。

 また魔導国の支配地が各地に広まったのも含めて、その土地ごとに適した自然エネルギーを利用した発電所を作る計画が立てられたのだ。ここで作られた電力は魔導国傘下となった街―――ミュウ達が暮らす海人族の新しい街にも供給される予定だ。妊娠したユエの容体も安定期に入った為、ナグモはそれらに着手する事にしたのだが………。

 

「………」

 

 ナグモはただ黙って発電所のシステム構築を行う。この場にいるのは建築を行う作業用ロボット達だけで、会話の相手などいない。ただ一人で黙々とコンソールを操作する姿は周りのロボット達と変わらなかった。

 

(どうすれば……どうすれば良かったんだ………)

 

 マルチタスクでロボット達に指示内容を与えるコンソールを操作する手だけは澱みなく動く中、ナグモは頭の中はずっと苦悩に満ちていた。

 香織を自分に従順に動く死体人形へと変えてしまった自覚をしたナグモ。だが、それをどうにかする事などナグモには出来ない。キメラアンデッドとして改造された香織は元の人間から別個の存在になり果てたに等しく、アンデッド(死体)から生者(人間)に戻す方法などナグモには思い付かなかった。

 

(だからこその“至高の玉体”だった………あれならば、アンデッド種族にも人間の肉体を与えられる画期的な発明だったのに………)

 

 アインズに人間の肉体を与えた“至高の玉体”。

 これさえあれば、香織を元の人間に戻せると以前はナグモも思っていた。だが、今となってはそれでも不完全だと分かる。アインズにいくつか質問したものの、アインズ自身も人間になったというより、人間の肉体を上から着てるだけでアンデッドの精神性まで変化したわけでないと言っていたのだ。それでは香織の精神まで戻せない。

 もはや香織がナグモ(創造主)に忠実な異形種となった事に疑う余地は無かった。それまでギリギリで保っていた人間性も清水によって精神崩壊させられた雫を見て無くなったのだろう。

 

 ピピピピ……。

 

 不意に電子音が響いてナグモは手を止めた。通信端末にはオルクス大迷宮からの着信と表示されていた。

 ナグモはそこで通信端末を取るべきか迷ってしまう。この通信の相手は十中八九で香織だろう。だが、その内容が問題だった。

 あれ以来、ナグモと顔を合わせれば、「いつ雫ちゃんを異形種に改造してくれるの?」と何度も聞く様になり、挙げ句にはナグモに侍らす為に雫に()()()()を教え込もうとしてる姿にとうとう耐え切れなくなった。こうして各地の施設の視察という名目で香織の待つオルクス大迷宮の屋敷をナグモは避ける様になったのだ。

 これがただの逃避手段でしかないのはナグモにも分かっている。だが、人間の心が芽生えたばかりで精神的に未熟な彼には今の香織とどう向き合うべきか分からなかった。そうしてしばらく迷っていたナグモだが、最終的に通信機をオンにした。

 

「……香織か? すまないが、僕は忙しいんだ。話はまた今度に――――』

『ナグモ……様……』

 

 香織に適当な事を言って会話を早々に終わらせようとしたナグモだが、通信先から弱々しい女の声が聞こえてきた。少なくとも香織ではない。一瞬、誰なのかと考え込んだが、ようやくナグモは思い出した。

 

「もしかして……雫か? どうした?」

 

 記憶を失った雫は以前とは印象が異なっていた。同性をも惹きつける凛とした姿は無くなり、香織によってナグモに服従するメイドとして教育されてる今では話し方からも自分の機嫌を常に伺う様に弱々しい物になっていた。通話機自体はオルクス大迷宮の屋敷にも固定回線として置かれているから、雫がかけてくる事はおかしな事ではない。香織から何か言われて此方にかけてきたかと嘆息し―――。

 

『ナグモ様……助けて、下さい……』

 

 弱々しい———しかし、明らかにどこか痛みなどに耐えながら話してる声が通信機から流れる。

 

『香織が………攫われました』

 

 ***

 

「雫!」

 

 ナグモは転移魔法でオルクス大迷宮の屋敷に即座に戻った。ナグモの第二の家ともなっていた屋敷は半壊して無惨な姿となっていたが、そんな事はどうでも良かった。以前の間取りを思い出すのも難しくなった程に荒らされた室内を横切り、通信機があった場所に行くと雫が傷だらけの姿で倒れていた。

 

「何があった? 返事をしろ!」

 

 雫に応急処置をしながらナグモは必死に呼びかける。すると雫は弱々しく目を開けた。

 

「ナグモ、様………申し訳ありません……お留守を守る事が出来ず……。早く、お掃除しなくちゃ………」

「そんな事はどうでもいい! それより香織はどうしたんだ!?」

 

 メイドとして躾けられた少女が己が役割を全うしようとするのを押し止め、ナグモは一番気になっている事を聞いた。屋敷はまるで爆心地になった様な壊れ方だ。そして瓦礫に混じって大量の血痕が見られてナグモは背筋に冷たい物が奔ったが、肝心の香織の姿はどこにも見えなかった。

 

「香織、は……アルベド様に、連れて行かれました……。急にアルベド様が襲ってきて、香織は……私を庇って……!」

「な……何を言って……何故、守護者統括が………?」

 

 あまりの報告にナグモは愕然とする。アルベドとはお世辞にも仲が良いとは言えない。だが、仮にもナザリックの旗を仰ぐ同志の筈だ。ここまで明確な敵対をする筈がない。これはアインズから見ても反逆と見なされるだろうし、あれ程にアインズを慕っていた彼女がこんな事をするなどナグモには信じられなかった。まだエヒトルジュエに洗脳されたという方が納得がいく。

 

「ナグモ様に伝える為に生かしてやる、と私は見逃されました……でも、香織は………!」

「もういい、分かった。他に何か言っていたか?」

 

 香織が目の前で拉致された罪悪感に押し潰されそうな雫を宥め、ナグモはアルベドからのメッセージを聞き出した。雫は痛みに耐えながらゆっくりと喋った。

 

「――――以上、です。もしも、一人で来なければ……この事をアインズ様に言ったら………香織の命は無いものと思え、と言っており……ました………」

「雫!」

 

 その言葉を最後に雫は気を失ってしまった。ナグモは咄嗟に脈を測るが、気を失っただけらしい。どうやら雫はメッセンジャーとして生かす為に命は奪われなかったのだろう。だが、それはアルベドの狙いが完全にナグモである事を意味していた。

 

『ミキュルニラ!』

『ひゃわっ!? しょちょ〜、どうしました〜?』

 

 ナグモは即座に“伝言(メッセージ)”を繋げる。念話で繋がったミキュルニラは突然、頭の中で大声を出されて驚いていた。

 

『すぐにオルクス大迷宮の研究所に来い! 雫の治療を頼む!』

『え? え? 一体、何が………』

『香織が守護者統括に拉致された!』

 

 突然の命令に戸惑っているミキュルニラだが、ナグモは相手の様子を気にかけてる余裕などなかった。ナグモが率直に言うと念話先から息を呑む音が聞こえた。

 

『アルベド様が……!? 一体、どうして……!? それなら、アインズ様に報告を———』

『それは………いや、まだ報告はいい! 事実確認が先だ!』

 

 ある意味では当然の提案だが、ナグモは断っていた。嫌いな相手ではあるがナザリックの同志としてアルベドの反逆を信じたくない気持ちもあり、そして香織がアルベドの手の中にいる以上、刺激する真似は出来なかった。

 

『守護者統括の件は僕がどうにかする! お前は雫を頼む!』

『お、お待ち下さい! しょちょー!』

 

 念話でミキュルニラの制止が聞こえたが、ナグモはそれを聞かずに転移魔法で移動していた。

 

 ***

 

 ナグモが転移した先はグリューエン火山だった。

 ここもまた、他の攻略済みの大迷宮と同じ様にナザリックによって占拠されており、将来的にはアンカジ公国のインフラを支える地熱発電所にする予定だ。警備のために配置した筈のマシンモンスター達が壊れた残骸となり、元からいた火山に棲息していた魔物達もバラバラ死体となって地面に散らばっている横を走り抜けながら、ナグモはグリューエン火山の奥へと急いだ。

 そしてグリューエン火山の奥―――かつて、大迷宮の番人としてマグマの大蛇達がいた部屋に彼女はいた。

 

「香織!」

「ナグ……モ……くん……」

 

 着ているメイド服はボロ切れ同然に破れ、身体は傷だらけだ。だが、それはまだいい。

 香織の手足は―――無くなっていた。

 両肘から先、そして両膝から先が斬り落とされ、おそらく香織の再生能力が追いつかなくなるまで何度も痛めつけたのか、切断した断面は再生される様子はなかった。香織の身体はキメラアンデッドであり、人工心臓として使っている神結晶から流れる神水は香織の傷を即座に治す筈だが、もはや香織を辛うじて生かすぐらいしか機能してないのだろう。切断面からグズグズと腐り始めていた。

 すぐにでも駆け寄りたいナグモだったが、それを許さない人物がいた。

 

「ようやく来たわね。あの下等生物(ニンゲン)を生かしておいた価値はあった様ね」

「守護者統括………!」

 

 手足を無くし、地面に芋虫の様に転がる香織。その横にいつもの純白のドレスではなく、漆黒の鎧に身を包んだアルベドがいた。

 これこそはアルベドが創造主より与えられた漆黒の鎧。暗黒騎士(ダークナイト)を筆頭に、邪悪な騎士として複数のクラスを習得した彼女の戦装束だ。

 だが、その手に握られているのは普段使いしている長柄の戦斧(バルディッシュ)やアンカジ公国の大戦で装備した“真なる無(ギンヌンガガプ)”ではなかった。

 

「それは……“ロンギヌス・レプリカ”! なぜお前が持っている!」

 

 アインズの命令で試作品として作られたワールドアイテムの模造品。ナザリック技術研究所で管理している筈の武器が何故かここにある事を問いただしたものの、アルベドから返ってきたのは冷笑だった。

 

「こんな物まで作れるのは大したものね。本当に残念だわ、下等生物(ニンゲン)の中では飛び抜けた頭脳があるのは事実。あなたがただ、言われた通りにアイテムを作るだけの人形だったなら、私は何も文句は無かったのに」

 

 面頬付きの兜(クローズド・ヘルム)を被っている為、アルベドの表情を伺う事は出来ない。だが、その声音ははっきりとナグモを侮蔑している事は分かった。

 

「なぜこんな事をした! この様な所業……アインズ様へ弓引くというのか!?」

 

 アルベドの言う通りにここへは一人で来たナグモだが、この事はいずれアインズの耳に入るだろう。ナザリックの研究所の一つであるオルクス大迷宮の屋敷を強襲し、理由は知らないが厳重管理すべき“ロンギヌス・レプリカ”まで勝手に持ち出しているのだ。いかに彼女が守護者統括であっても、許される範囲を大きく超えている。

 

「アインズ様に弓引く? 私が? いいえ、違うわ。これはアインズ様の為なのよ」

 

 くつくつとクローズド・ヘルムの中から含み笑いが響く。ナザリックで見せていた完璧な淑女の仕草のまま、しかし何か歯車が決定的にズレてる様な感覚をナグモは感じ取っていた。

 

「この世界に来てから……もっと言うなら、あなたが人間共の諜報活動から帰って来てから、アインズ様はどこかおかしくなってしまわれたわ。ついには拾い物の野良吸血鬼を妻に娶る始末。だから、元のアインズ様に戻って頂く為に私が行わなくてはならないのよ」

「ふざけるな! アインズ様がユエを選んだのは、アインズ様自身のご意思だ! そもそも僕に何の関係がある!」

 

 まさか自分が正妃になれなかった事に嫉妬してこんな暴走をしたのか。そう詰るナグモだが、アルベドは首を横に振った。

 

「いいえ、分かってないわね。あなたがアインズ様を狂わせたのよ。人間でありながら、異形種(私達)の聖地であるナザリックにいる異物。それこそが最も大きなバグよ」

「っ、僕の存在はじゅーる・うぇるず様に決定されたものだ! 僕が人間として生まれたのは、じゅーる様のご意思だ!」

 

 香織や雫の件から、自分(人間)の心とナザリック(異形種達)の方針が噛み合わなくなってきたとナグモは感じている。だが、それでもナザリックと敵対しようなどと思った事はない。ナグモにとってナザリックは生まれ故郷であり、仲間達もいる場所なのだ。大恩あるアインズにも忠を尽くすべきだとも思っている。

 

 何よりもーーーじゅーるが最後に託したのだ。

 

 大病を患った六本腕の創造主が最後まで気にかけたナザリックとアインズ。その両方を裏切るなど毛頭にも考えてないのに、なぜ自分が異物呼ばわりされなくてはならないのか。

 

「ええ、私も最初は気にかけてなかったわ—―――お前が至高の四十六人と同じ、“ぷれいやー”でなければ」

 

 一瞬―――アルベドの言ってる事がナグモには理解できなかった。

 

「なに、を言って………“ぷれいやー”……? 僕が……アインズ様やじゅーる様と同じ………?」

 

 造物主である至高の四十一人と、被造物に過ぎない自分や他の仲間達(NPC)の間には確たる差がある。それがナザリックにおいては一般常識の筈だ。ナグモからすれば、突然「お前の正体は神だ」と言われたような物で、その言葉を素直に受け止められなかった。

 

(僕がじゅーる様と同じ存在だと………そんな馬鹿な事があるか。いや、そもそも………………“ぷれいやー”とは何だ???)

 

 今までアインズが幾度か洩らしていた単語。その意味について、ナグモは「至高の御方達が使う独特の単語なのだろう」と深く考える事はしなかった。それはナグモが創造主達を盲信している事もあり、そして“元・NPC”として創造主達を疑わない様に思考がロックされていた最後の楔でもあった。

 

「おかしいと思ったわ。ある時期からアインズ様は、ナザリックの全権を任せられている筈の私に対して、急にナザリックに所属する者のデータの閲覧を禁じられたのだもの。それで禁を破って改めて見てみたら、驚いたわ。あなたの名前がナザリックの配下達の一覧から消えて、アインズ様と同じ欄に表示されていたなんてね」

 

 ナザリックのマスターソース(管理情報)は玉座の間でのみ確認できる。これは異世界(トータス)に渡ってから、初期にアインズが調べた仕様だ。

 無論、アインズが冒険者モモンとして外で活動していた時など、アルベドも玉座の間に忍び込む機会などいくらでもあった筈だ。それでも守護者統括の矜持として、アインズの信頼を裏切る真似は出来なかったのだろう。

 だが、その矜持もユエの妊娠騒動で砕け散ってしまった様だ。最近はアインズがユエに掛かり切りなのをいい事に、アルベドはとうとうアインズの目を盗んで玉座の間でマスターソースを確認してしまったのだ。もっとも、その事にナグモが思考を割く余裕などなかった。

 

(“ぷれいやー”………“プレイヤー”? 何の、何に対してのプレイヤーだ? アインズ様は……じゅーる様は……一体………?)

 

 いま、自分はとんでもない事を知ろうとしている。

 それは今までの常識が全て覆り、自分の存在意義にも関わるものだ。その事まで理解した途端、ナグモは足元がグラグラと揺れる様な感覚に襲われていた。

 

「そう、あなたは“ぷれいやー”。アインズ様と同じ立ち位置にいる者。そして………ナザリックを“捨てた”、あの四十人達と同じ………!」

 

 ギリィッ! と兜の中から歯を食いしばる音がした。混乱したままのナグモに向けて、灼熱の泥の様な殺意が向けられる。

 

「だから、あなたを殺そうと決めたのよ。あなたはいずれ、アインズ様に取って代わってナザリックの支配を目論む。“ぷれいやー”ならば、それが可能になる。私の頼みを無視して子飼いの吸血鬼をアインズ様に娶らせたのも、その吸血鬼が孕んで全面的に支援すると言い出したのも、アインズ様の御子の後ろ盾になって権力をほしいままにしようとしていたのでしょう?」

「違う! そんな事なんか考えていない!」

 

 身に覚えのない謀略を着させられ、ナグモは大声で否定する。だが、ナグモの意見などアルベドは聞いていなかった。

 

「そうよ……おかしいのよ………こんなのは間違い(バグ)間違い(バグ)よ」

 

 “ロンギヌス・レプリカ”を構えたまま、アルベドはブツブツと呟き出す。

 

「だって、私は“モモンガ様を愛してる”と決定(設定)されたのよ………他ならぬあの御方の手で………だから、私が選ばれないのはあり得ない……あり得ない、あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない」

「お、おい、守護者統括………?」

 

 唐突に「あり得ない」と壊れたレコードの様に何度も呟き出す。アルベドの声には一切の感情が伴らず、本当に機械の様に何度も繰り返し呟いていた。

 異様な雰囲気に呑まれかけていたナグモだが、同時にその光景に何故か既視感を覚えていた。

 

(どうしたんだ、これではまるで……人形……。いや、待て……人形、だと……?)

 

 それは研究所で何度も見た光景。プログラムエラーが起きて、正常な動作をしなくなった自動人形(ロボット)。今のアルベドはそれを思わせる言動だった。

 同時にナグモはハッと思い出した。自分がアインズの大迷宮の供回りを任される切掛でもあり、ナザリックの中でナグモだけが知る真実。

 ナグモ以外のナザリックの仲間達―――彼等がゴーレムの様な無機生命体である事に。

 

「だから、よって、つまり、その為に―――間違い(バグ)は潰さなきゃいけないのよ」

 

 グリン! と、それまで虚空に向けてブツブツ呟いていたアルベドが振り向く。まさに人形の様に生気が無く、機械的な動作だ。見慣れた相手だけにリアル過ぎる人形(不気味の谷現象)みたいな悍ましさをナグモは感じていた。

 

「お前というバグを潰すのがアインズ……いえ、モモンガ様のため。“モモンガ様を愛してる”私がやるべき事。そしてバグによって生じた吸血鬼も、ゾンビ人形娘も。全部、全部、全部消すのよ……!」

「あっ、ぐぅ………!」

 

 それまで地面に転がしたままの香織の腹に、アルベドは“ロンギヌス・レプリカ”を突き刺した。普通の人間なら致命傷だが、キメラアンデッドである為に香織は死ななかった。

 

「やめろっ! 僕の事が気に入らないのは分かった! ならば僕だけを殺せばいいだろ!」

「………もちろん、あなたも殺すわよ。でも普通に殺すだけじゃ気が済まないの」

 

 痛めつけられる香織を見て怒りを滲ませた声を上げるナグモ。だが、アルベドは香織を“ロンギヌス・レプリカ”で串刺しにしたまま、空中へと持ち上げた。

 

「あなたもこの娘と同じ様に、手足を千切ってあげる。そうして他の下等生物(ニンゲン)の様に無力さを思い知って地面に這いつくばったら、目の前でこの人形を殺す。光栄に思いなさい。あなたの自慢の発明品で、あなたの大好きな人形を消滅させてあげる……!」

 

 かつてのナザリックでも一、二を争う貞淑な淑女としての姿はそこになく、もはや狂気しか感じさせないアルベドの姿にナグモは背筋が寒くなった。

 アルベドは完全に常軌を逸している。自分がアインズに選ばれなかった事への嫉妬に加えて、おそらくはアルベドの根幹を為す何かに致命的なエラーが起きたのだろう。いずれにせよ、もはや話し合いが通じないと一目で分かった。

 ヒュンとアルベドが“ロンギヌス・レプリカ”を振るう。串刺しにされていた香織は槍から抜け、地面に再び転がされた。

 

「香織!」

 

 胴体しかないダルマ状態の為に香織は受け身を取る事も出来ず、顔からに地面に打ちつけられる。ナグモはすぐに駆け寄ろうとし――――殺気。

 

 ギィン!

 

 咄嗟に“黒傘・シュラーク”で殺気の方向をガードする。ナグモが最上の技術をつぎ込んで仕上げた武器を通してもなお、両腕が痺れる様な衝撃が襲った。

 

「だから………ここで死になさい、イレギュラーな下等生物(ニンゲン)!!」

 

 クローズド・ヘルムの隙間から血走った目を滾らせ、ドス黒い殺気と共にアルベドはナザリックの同士であったナグモへ槍を振るった。




>アルベド

 この小説ではナザリックのNPC達をAI的なものとして捉えています。
 そして転移時にアインズに元の設定を弄られたアルベドは、「愛してるという設定なのに正妃に選ばれなかった」という矛盾から、とうとうエラーを引き起こして暴走してしまいました。

 因みに元の「ビッチである」という設定のままなら、ナグモとの仲もここまで拗れなかった。それこそ普通にナグモが香織とつき合う事を祝福していました。

アルベド「あ、子供を作る予定なら早めに言って貰えるかしら? 育児休暇とか、育児手当とかモモンガ様のご提案で色々と調整する必要があるの。え? まだ抱いてない? じゃあ筆下ろししてあげましょうか? 香織と三人一緒に寝ても、私は構わないわよ」
ナグモ「いらん気遣いはせんでいい!」

………こんな未来も、設定が弄られてなければ有り得たかもしれない。
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