ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

222 / 223
お待たせしました。第二百八話、お楽しみ下さい。
それにしても今年の花粉は一段と酷くて目と鼻がズルズル……。


第二百八話「狂愛の部屋」

「なんで妾が謝らなきゃなりんせんか………」

「ここまで来てブツクサ言わないの」

 

 ナザリック地下大墳墓 第九階層。

 白亜の宮殿の廊下でアウラに付き添われながら、シャルティアはいかにも「私は不満です」という顔で歩いていた。

 ユエがアインズの子を妊娠したという騒ぎからはや数日。未だにNPC達の衝撃は冷め切らないものの、各々で事実を受け止め始めていた。

 純粋にアインズの御世継ぎが生まれる事を喜ぶ者、生まれてくる子の為にナザリックの支配を盤石にしようと仕事に一層と励む者。受け止め方は様々だが、ほとんどの者はいつもの仕事に戻っていた。

 ただし、ユエが妊娠したショックを未だに引き摺っている者もいる。シャルティアもその一人だ。「自分こそがアインズの正妃に相応しい」と豪語していた彼女からすれば、ポッと出のユエに先を越された形だ。それが悔しいやら、嫉妬するやらで第九階層のショットバーに居座り、ヤケ酒を呷る様になっていた。

 

「大体、あのままバーに居座っていたら副料理長もいい加減にキレてたと思うよ。というか何度も「帰れ」って言ってきてたじゃん」

「そうでありんしたっけ?」

 

 本気で首を傾げているシャルティアにアウラは溜息を吐いてしまう。

 この件で一番の被害者はバーテンダーを務める副料理長だ。最初は意気消沈したシャルティアに同情からカクテルを出しながら静かに話を聞いていた彼だが、場末の居酒屋の酔漢みたいに飲んではくだを巻き続けるシャルティアに段々と辟易してきていた。

 そもそも毒を無効化するアンデッドで何に酔うというのか。それでも静かなバーの雰囲気を楽しむなら文句無いのだが、せっかくの上品なカクテルを「ごっごっごっ、げふー!」みたいな飲み方をするなら大衆酒場にでも行って欲しい。

 終わる気配なく延々とリピートされるシャルティアの愚痴、高級バーの雰囲気をぶち壊す様なシャルティアの飲み方にイライラを募らせていた彼からすれば、アウラが偶然通り掛かったのは僥倖だったのだろう。「ぶぶ漬けをどうぞ」と懇切丁寧に対応した後、シャルティアをアウラへ押し付けたのであった。

 

「いい加減に立ち直りなよ。あんたが泣こうが、アインズ様はユエを選ばれたのだし、ユエはアインズ様の御子をもうすぐ生むんだから。生まれてくる御子に情けない姿を見せたいの?」

「うう………そんなの分かっていんす………」

 

 いじいじと指同士をつけたり離したりするシャルティア。その姿そのものは彼女の創造主(ペロロンチーノ)に作られただけあって可愛らしく、先程までの酔っぱらいと同一人物とは思えない姿だ。

 

(なんだかなぁ………)

 

 いつもよりしおらしいシャルティアを見てアウラは嘆息してしまう。

 自分はシャルティアの事が嫌いな筈だ。創造主達がそう定めた(設定)のだから。それだというのに、シャルティアの元気がない姿を見ると放っておけない気持ちになるのだ。

 

(ぶくぶく茶釜様もこんな気持ちだったのかな………ペロロンチーノ様にあれこれ言っていたけど、いつも気に掛けていらしたよね)

 

 創造主同士が姉弟だからなのか、どうにもシャルティアの事が手の掛かる妹の様に思えるのだ。マーレは気弱だが聞き分けが良い分、ついつい世話を焼きたくなってしまう。未だにアインズの事で落ち込んでいるシャルティアを見て、大きく溜息を吐きながらアウラは言った。

 

「まあ………あんたの言葉じゃないけどさ、アインズ様の寵愛を受ける方は一人だけだと決まったわけじゃないじゃん? ユエに先を越されたけど、あんたにもまだチャンスがあるんじゃない?」

 

 ピクッとシャルティアが反応した。

 

「だからさあ、いつまでもウジウジしていたら掴めるチャンスも逃すから———」

「言われてみれば………その通りでありんした!」

 

 泣いたカラスが何とやら、先程まで意気消沈していたシャルティアは急に目を輝かせる。

 

「そうでありんす! この世界の新たな支配者となる御方に侍る女が一人だけというのは不自然というもの! 正妻の座が奪われたなら、私は愛人に立候補すれば良いでありんす!」

「う、うん……? まあ、そうなんじゃない?」

 

 色々と間違えてる気がするが、何やら立ち直ったシャルティアに水を差したくないのでアウラは適当に頷いた。

 

「そうすれば堂々と私は閨でアインズ様に抱いて貰えるというもの! ついでにユエも一緒に………前々から目をつけていたのに、ナグモに止められんしたもの。妻妾同衾なら奴も文句は言えんしょうよ……くふふふ」

「おーい、シャルティアー?」

「そしてゆくゆくはアインズ様の御子も……きっと食べちゃいたいくらい可愛い子になりんすよね。女の子だというし、私自らの手で花を開かせて……グヘヘへへヘ、アイタァッ!?」

 

 無言でアウラはチョップを振り下ろす。

 やはり、もう少し落ち込んだままにした方が良かったかもしれない。というか、ナザリックの将来の為にも今の内に始末しておくべきではないか?

 

「とりあえず……元気出たなら、アルベドに謝りに行くよ」

「え〜……なんで私がアルベドに頭を下げにゃならんでありんすか」

 

 タンコブを摩りながら抗議の声を上げるシャルティア。シャルティアからすれば、ライバルであった相手に頭を下げるのはプライドが許さないのだろう。

 

「この騒動の原因の九割はあんたなんだからね! ナグモにも謝らないといけないけど忙しいみたいだし、それなら先にアルベドに頭を下げるのが筋でしょ!」

 

 今回の騒動の被害者として、真っ先に名前が上がるのはナグモだろう。なにせ自分の仕事にシャルティアが勝手に手を入れたばかりか、その後始末に奔走する羽目になったのだから。もっとも、本人は最近はナザリックの外部の仕事をしてるらしく、第四階層を留守にしてるのは確認済みだ。

 

(それにあれ以来、全く部屋から出て来てないみたいだからなぁ……)

 

 アルベドもまた、ユエがアインズの子供を妊娠したと聞いてから公の場に姿を見せていない。掃除は自分でやるからと部屋にメイドが立ち入る事はないので、最近のアルベドの様子を知る者はいなかった。今はデミウルゴスがナザリックの業務を肩代わりしているが、このままで良い筈がない。シャルティアを引き取る事になったのも、アルベドの様子を見に行こうとしたついでだった。

 

「ほら、私も一緒に謝りに行ってあげるから。いつまでもアルベドが塞ぎ込んだままじゃ困るでしょ?」

「うー……分かりんしたよ、全くもう」

 

 アウラの説得にようやくシャルティアは渋々と頷いた。彼女からしても喧嘩相手がいなくなったのは寂しい気分ではあった。

 そうして歩いている内にアルベドの自室の前まで来ていた。

 

「アルベド、いる?」

 

 ドアを丁重にノックするアウラ。アルベドの部屋は至高の四十一人の部屋と同じスイートルームだ。元々はアルベドに自室は無かったらしいが、それを不憫に思ったアインズが空き部屋となっていた一室を与えたのだそうだ。

 

(そういえば、なんでアルベドだけ部屋が無かったんだろ? まあ、タブラ・スマラグディナ様にも深い考えがあったんだよね)

 

 階層守護者である自分達には住居があるのに、その上位にあたる守護者統括には与えられてないという違和感。しかし、創造主達に疑問を持たない様にプログラミングされているアウラ(NPC)は即座に思考を切っていた。しばらく待ったが、アルベドからの返事はなかった。

 

「留守なんじゃありんせん?」

「それなら別に良いけどさ………アルベド、入るよー?」

 

 ことわりながらもアウラは勝手にドアを開けた。アルベドが既に立ち直って職場に復帰しているなら問題ないのだが、起きた出来事が大事なだけにまだ寝室に篭っているんじゃないかという懸念もあった。

 

「うわぁ………」

 

 部屋に入ったアウラは思わず声を漏らした。スイートルームの構造上、最初にリビングがあるのだが、その部屋には所狭しとアインズを模したグッズが飾られていた。

 ソファには自作の抱き枕やぬいぐるみ、壁や天井には隠し撮りしたと思わしき写真ポスター、テーブルの上にはアインズの肖像画がプリントされたマグカップなどの小物………三百六十度、どこを見渡してもアインズがいた。

 

「こ、これは……! アインズ様のセクシーブロマイド! おのれ、アルベドめ! いつの間にこんな羨ましいものを!」

「うん………あんた達の感性は分からないや。アルベドー、いないのー?」

 

 アインズの種族上、どう見ても人体骨格の写真にしか見えない抱き枕に鼻血を垂らしそうになるシャルティアを全力で見ないフリをして、アウラは更に奥の部屋へと入っていく。

 浴室、ウォークインクローゼット、ピアノがあるオーディオルーム………元は至高の御方達の為に用意されたスイートルームだけに部屋数はあり、どこもアインズグッズで一杯であったが、肝心のアルベドの姿は見当たらない。

 

「やっぱり留守にしてるんでありんすよ。ちょうど良いから一個くらい………」

「ダメ。残るは寝室だけか………」

 

 テーブルに置かれたアインズフィギュアを物欲しそうに見てるシャルティアにしっかりと釘を刺し、アウラは奥の部屋へと向かった。

 正直なところ、“レンジャー”のスキルを持つアウラには屋主が不在な事は部屋に入った途端、気配で分かっていた。しかし、それでもアウラは何故か部屋を詳しく調べようとしていた。

 一つは今まで誰も入った事のないアルベドの部屋に興味を抑えきれなかったのだ。アルベドは掃除も自分でやると言ってメイド達すら入れず、部屋の中の様子を本人以外は誰も知らなかった。

 もう一つは………寝室以外を見て回ったが、この部屋があまりに異常過ぎた。アインズの事が好きなのは普段の言動から分かる。だが、この部屋の内装はそんな次元ではない。よくよく見れば、部屋の備え付けであったであろう家具も取り替えられ、全てアインズの装飾が映える物に変わっている。

 アインズ以外は何もいらない。まるで、それを主張するかの様な部屋の内装に段々とアウラは背筋に寒気を覚えていたのだ。

 

(いや………まさか、ね?)

 

 ここまで狂愛を捧げていながら、意中の男は射止められなかった。それどころか別の女性が選ばれ、子供まで作っていた。アルベドがどんな心境なのか、同性としてアウラも容易に想像出来てしまう。だが、それでも浮かび上がりそうになる嫌な予感を「気のせいだ」と振り払おうとした。アルベドに限って、そんな短絡的な事はしない筈だと。

 気が付けば、先程まで部屋中にあるアインズグッズに興奮していたシャルティアもアウラの緊張感が伝わったのか、神妙な顔で黙っていた。

 

「………開けるよ?」

 

 とうとう寝室のドアの前まで二人は来ていた。アウラの確認もここにいないアルベドにではなく、後ろにいるシャルティアに対してのものになっていた。そしてアウラは意を決して、慎重に寝室のドアをゆっくりと開て………。

 

「うっ………!?」

 

 アウラは寝室に入ると同時に息を失った。それは先程に初めてアルベドの部屋に入った時と明らかに意味が異なっていた。

 寝室にも目のつくところ全てに自作のアインズグッズがある。ここまでは良い。

 だが、壁に貼られた写真が今までと異なっていた。アインズの写真だけではない。自分やシャルティアを含めた階層守護者達はおろか、ニューロニストなどの領域守護者達やプレアデス達、更には一般メイド達………とにかく、多くのNPC達の写真が貼られていた。それもただ飾っているのではない。アインズの写真を中心に赤い糸が四方八方にピン留めされ、まるで蜘蛛の巣の様にNPC達の写真に伸びていた。そして写真の横にはメモ用紙がピン留めされ、その紙にはアルベドの文字が細かく書かれているが、中にはメモ用紙に収まり切らず直接後ろの壁に書いているものまであった。

 

「な、なにこれ………?」

 

 今度こそアウラの背筋に悪寒がはしっていた。部屋は備え付けのランプではなく、蝋燭で壁を照らし出していた。燭台の意匠や配置のバランスを見ると、アインズの写真を讃える祭壇にも見えなくもない。だが、よくよく写真と一緒に貼られているメモ書きを見ると更なる衝撃がアウラを襲った。

 

『●月●日。デミウルゴスがモモンガ様と執務室で話をした。ただの報告なのに十分二十三秒は長過ぎる。お陰で私がモモンガ様と一緒にいられる時間が二分三十秒も減った』

『⬜︎月✖︎日。モモンガ様当番の一般メイドがベッドメイクをする際に誰も見てない事を確認するかの様に周りを見渡した後、シーツに一分十二秒も顔を埋めていた。あの娘は要注意。ただのメイドにモモンガ様が靡くわけないが、万が一も考えるなら当番から外す様にペストーニャに進言する』

 

 その他、全てのNPC達に「アインズとどれだけ関わったか」などの細かい記録がたくさん書かれている。中でも自分やシャルティアの写真には多くのメモ書きが書かれていた。

 『まだ身体つきが幼いが今後も考えるなら警戒すべき』、『元々、創造者達が特別に仲良かった事を考えるなら……』といった内容と共に自分達がアインズと共にいた時の行動を細かく観察していた記録を見せられ、アウラは本能的に気持ち悪さを感じていた。

 

「ア、アウラ……これ!」

 

 不意に同じ様に部屋の異様さに気圧されていたシャルティアが何かを見つけていた。写真やメモ書きが貼られた壁にばかり目がいっていったが、よくよく見れば部屋の隅に何かあった。

 そこにはかつて玉座の間で飾られていたアインズ―――モモンガ自身のエンブレムが刻印された旗があった。それこそモモンガが“アインズ・ウール・ゴウン”を名乗る時に決意表明として取り外したのだ。

 その旗が壁に飾られているのはまだ良い。しかし、そのすぐ下にまるで打ち捨てられたかの様に別の旗が床に置かれていた。その旗の意匠にはアウラ達も見覚えがあった。“アインズ・ウール・ゴウン”……アインズの事ではなく、至高の四十一人のギルドそのものを示すギルドフラッグだ。

 

「アルベド……どうして………」

 

 アウラは呆然としながらも床に打ち捨てられたギルドフラッグを拾い上げる。長い間放置していたのか、ギルドフラッグは埃に塗れていた。この扱いを見れば、アルベドが部屋の模様替えでたまたま置き忘れたなどという理由ではないくらい分かった。それでもナザリックのNPCならば、創造主達の御真影として拝むべきギルドフラッグをこんな扱いにしてる事にショックを受けていた。

 

「え? 何これ?」

 

 ふとギルドフラッグと一緒に床に落ちていた物にアウラは気付いた。それは写真だ。真っ二つに破かれた写真を拾い上げ、その写真を見てみるとナグモの顔が描かれていた。

 アウラはハッと先程の壁を振り向く。壁一杯の写真の異様さに気圧されて全体像を把握していなかったが、よくよく見ればナグモの写真だけがない。いや、正確には写真が貼られていたらしき場所にポッカリと空白があるのだ。そこに書かれたメモ書きを慌てて確認する。

 

『―――モモンガ様を誑かす下等生物。関わる者、全て生かしておけない』

 

 文字からも憎しみを感じる筆跡。そしてナグモの写真があった場所から伸びる赤い糸には香織やユエの写真もあったが、その写真には大きくバツマークが描かれていた。

 まるで………殺害予告の様に。

 

「………すぐにアインズ様に知らせて」

「え?」

「すぐにアインズ様にこの事をお知らせして! 早くっ!!」

 

 虚を突かれて戸惑っているシャルティアに、アウラは真っ青な顔をして怒鳴った。




アルベドの部屋イメージはAIで「ヤンデレストーカーの部屋」と打って出て来たイメージそのまんま。しかし自分みたいなデザインセンスやイラスト技術のない作家からすれば、AI技術のお陰ですごく助かる。頭の中のイメージを形にできるもの。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。