ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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Don't you give me your love and passion?


第二百九話「L.L.L./Leashed Luminous Love」

 グリューエン火山の最奥の部屋で金属音が何度も鳴り響く。下に溶岩が流れている部屋は常人なら熱気だけで肺が火傷するだろうが、人智を超えた存在であるこの二人には問題にならなかった。

 

 ナグモが持つのは自身で作ったギミック型武器の“黒傘・シュラーク”。

 アルベドが持つのは強奪したワールドアイテムの複製品の“ロンギヌス・レプリカ”。

 

 普通なら傘が槍と打ち合うなどあり得ない光景だ。だが、“黒傘・シュラーク”はオスカー・オルクスの遺した“黒傘”を参考に、じゅーるより譲られた“魔導銃シュラーク”を合成して作られた逸品。ナグモ自らの手で設計や錬成を行い、神結晶を炭素繊維の様に編み込んだその強度は普通の剣や斧で叩き折ろうとしても逆に刃毀れさせる程だ。

 

 対してアルベドの持つ“ロンギヌス・レプリカ”。これは『相手を蘇生魔法でも復活できない様に消滅させる』というワールドアイテムの複製に恥じない性能を持つが、その代償に使用者も消滅するという無視できないリスクがある。使用者はそれを任意で発動できるが、その効果を使わない状態では普通の槍に過ぎない。

 実際、ステータス上の数値ならアルベドが普段使っているバルディッシュの方が良いくらいだ。アルベドが“ロンギヌス・レプリカ”の真の性能を発揮してこない間は、ナグモの方が武器の性能で優っていると言えた。

 

 ただし………それは相手がアルベドだと何の意味もないアドバンテージだ。

 

「フンッ!」

「ぐぅっ!?」

 

 アルベドの振るった槍を苦悶の声と共に受け止める。何の変哲もなく、スキルも使われてない振り下ろし。だが、それだけでナグモの両手に落雷が落ちた様な衝撃が奔った。

 

「へえ、受け止めるなんて驚いたわ。そら、そらっ!」

 

 刺突へと転じたアルベドから雨の様な猛攻が繰り出される。ナグモは黒傘を剣の様に構えて必死に捌いていたが、全て受け切れずに服が裂けて肌に赤い線を作っていく。

 

「くっ、〈第七位階機械(サモン・マシン)———」

「はっ、遅いわね!」

 

 接近戦ではどうしようもないと判断して壁役のマシン・モンスターを召喚しようとするが、魔法陣から出たと同時にアルベドに叩き潰されてスクラップと化した。その様子に舌打ちしながらもナグモは分析する。

 

(こいつ………おそらく“機械壊しの腕輪(リング・オブ・メタルハンター)”の様な特効装備を身に付けているな。とことん僕に対するメタ装備で来たという事か!)

 

 いかにアルベドが強力な戦士職といっても、自分が壁役として出してるマシン・モンスターは一撃で倒される程に軟弱ではない。だが、ナグモが召喚できる魔物は機械系かキメラ系だけだ。その二種類に対して弱点をつける装備をすれば対策は容易だろう。

 加えてアルベドとナグモのステータス差がある。ナグモは神代魔法の習得によりNPCのレベル限界であるLv.100を突破している。しかし、ナグモは元々“マシーナリー”や“アルケミスト”といった生産職が大半だ。“暗黒騎士(ダークナイト)”、“シールドロード”といった純粋な戦士職で構成されたアルベドでは、クラス補正に差があった。さらには人間と異形種という純粋な種族差もあって、ナグモは不利な戦いを強いられている。

 

 ギィン!

 

「くっ……!」

 

 だが、それでもナグモはまだ立っていた。身体を傷だらけにしながらも、黒傘でアルベドの槍を受けて致命傷を避けていた。もしもナグモがじゅーるに作られたNPCのままならば、既に首や胴体が泣き別れしていただろう。だが、オルクス迷宮で香織との戦闘で自分が近接戦では無力だという事実を深く認識して、武装を近接戦闘も可能な黒傘に変えた。そしてコキュートスに教えを請い、近接戦闘での立ち回りも学んだ。

 かつてNPC(人形)だった人間はこれまでの日々で確かに成長し、アルベドの猛攻にも抗う術を手に入れていたのだ。

 

「ちっ、存外にしぶといわね」

 

 中々叩き潰せないゴキブリを見る様な目で見ながらアルベドは舌打ちした。

 

「でも気付いてるわよね? それは時間稼ぎにしかならないって」

 

 打ち合いながらナグモは奥の歯を噛み締める。マシン・モンスター達の召喚が出来ず、得意の銃撃も常に距離を詰められている為に黒傘の近接戦闘モードでしか対応できない。そして体力面でもアルベドの方が圧倒的に有利だ。アルベドに指摘された通り、これは自分が力尽きるまでの時間を引き延ばしているだけに過ぎない。

 

(香織を治せれば……! だが、そんな隙など与える筈もないか……!)

 

 あるいは香織を前衛にさせ、二人がかりで戦えば勝機を見出せたかもしれない。しかし、その香織はアルベドに散々痛めつけられ、手足すらない状態なのだ。急いで治療したいが、そんな暇をアルベドが与えるわけがない。

 加えて、アルベドの持つ“ロンギヌス・レプリカ”が問題だ。アルベドの狙いは自分だ。正確にはナグモ自身とナグモに深く関わっている香織とユエを殺す事にある。ナグモは自分の考えを確認する為に槍を受け止めながら声を上げた。

 

「守護者統括! 僕や香織達を殺すと言ったな! だが“ロンギヌス・レプリカ”では自分を犠牲に一人しか殺せないぞ!」

「問題ないわ。適当な召喚獣に使わせて貴方達を殺せばいいもの。ちょうどタブラ・スマラグディナから貰った使えないバイコーンがいるから、そいつに使わせようかしら」

「っ……! だとしても、ユエはナザリックで厳重に警備されているぞ! ナザリックの守りを知らぬわけではないだろう!」

 

 今やアインズの正妃としてユエはナザリックの重要人物となっている。この騒ぎは遅かれ早かれアインズの耳に入り、ユエはナザリックの奥深くで厳重な警備がつくだろう。ナザリックの最奥まで入り込んで暗殺するなど、もはや不可能だとアルベドも理解してない筈がない。自分達を殺し、これからナザリックまでユエを殺しにいくなどとても正気とは思えなかった。

 

「ああ、それも問題ないわ————だって私の目的はアインズ様、いえモモンガ様に目覚めて頂く事だから」

「目覚めて貰う……だと?」

「ええ。モモンガ様はあの下らない名前を名乗る様になってから変わられてしまった。“アインズ・ウール・ゴウン”……私達を捨てた裏切り者達の名前をね」

 

 アルベドの声は低く、憎しみに染まっていた。

 

「モモンガ様は孤高にして冷酷なる死の支配者。それこそがモモンガ様の本来のお姿だったのよ。それを“アインズ・ウール・ゴウン”なんて、他の者達が捨てた名に縋っているのが許せないのよ。皆でナザリックを作り上げながら、簡単に捨てた者達の名前を……!」

 

 クローズヘルムで顔こそ見えないが、もしも見えていたなら憎悪に染まり切った顔が見えていただろう。

 

「そう、思えばそれこそが全ての間違い、始まりの元凶。お前がモモンガ様と共にオルクス迷宮に行き、あの吸血鬼とそこの死体人形を拾い、あの方が“アインズ・ウール・ゴウン”と名を改めてから全てが狂ったのよ……!」

 

 ガンッ! と一層激しく槍が振り下ろされる。それをナグモはなんとか受け止め、鍔迫り合いに持ち込んだ。少しでも力を抜けば頭や胴体を貫かれる為に渾身の魔力で体力強化魔法を使って耐えながら、アルベドと間近で対面する。

 

「だから全て壊すの。あの方を“アインズ・ウール・ゴウン”にした全てを。モモンガ様から変えた原因を。これは私の命を投げ出してでも、“モモンガ様”に戻って頂く為にやる事なのよ! たとえ吸血鬼娘を殺す事に失敗しても、私はやるの。私の献身、私の犠牲! その訴えを以ってモモンガ様にあの名を捨てさせるわ……!」

 

 ヘルムのスリットから覗くドロリと澱んだ目を見てナグモは悟った。

 もはや可能か不可能か、それが論理的な思考かどうかという判断もアルベドには無いのだ。怒りや怨念が先行して理由はただの後付けとなっていた。

 

「狂ってる……!」

「お前には分からないでしょうね!」

 

 ナグモの腹に蹴りを入れて距離を離し、アルベドは鍔迫り合いから再び武器を打ち合いに引き戻した。暴風雨の様に激しく槍を振り回しながら、アルベドは金切り声を上げた。

 

「“モモンガ様を愛してる”……そう定めて貰え(設定され)たのに、その役割(設定)通りにやれない私の気持ちが! 愛して貰おうと色々と頑張ったのに、一度も振り向いて貰えずに別の女に奪われた私の気持ちがっ!!」

「守護者統括………?」

 

 それは今まで我慢していたものを堰を切った様な叫び声だった。怒り、悲しみ、やるせない感情。

 ナザリックの守護者統括や魔導国の宰相としてではなく、一人の女としてアルベドはナグモに感情をぶつけていた。

 

「ただ私は目的を果たしたかっただけ! それなのにお前は協力すらしてくれなかった! あの小娘がモモンガ様に擦り寄るのを近くで見ていたくせに! 私と同じナザリックの守護者だったくせに! 仲間だったくせにいぃぃぃぃっ!!」

 

 そこにタブラ・スマラグディナが設定した完璧な淑女の姿はなかった。女の嫉妬に塗れ、癇癪を起こした子供の様にナグモを責め、武器を振り回す一人の女となってアルベドは憎悪の限り叫ぶ。

 

「だから壊してやる! 私の目的(設定)に邪魔になるお前達も! ナザリックを捨てたタブラ・スマラグディナも、至高の四十一人も全部、全部! “モモンガ様を愛する”為に、壊して、壊して、壊して壊して壊して、壊して壊して壊して壊して壊して壊壊壊壊壊壊ししししててててややややるるるるる――――――!!」

 

 最後の方はもはや聞き取れなかった。それどころか意味のある言語ですらなくなっている。ひたすらに「壊す」と連呼するアルベド(NPC)の言葉はもはや壊れたラジオの様な雑音(ノイズ)と化していた。

 

(ああ、そうか………)

 

 嵐の様な猛攻を受け、身体に無数の切り傷を作っていく中、ナグモはアルベドを見ながらぼんやりと考えた。一瞬の判断ミスが命取りになり、そんな余計な事を考える暇などないと理解しながらも、アルベドの心からの叫びに鏡を見せられた気分になる。

 これは自分だ。かつてじゅーるから定められた在り方(設定)に拘り、香織を助けに行かずに板挟みになっていた自分であり、氷雪洞窟でじゅーるに捨てられたと鏡像に指摘され、ムキになって否定しようとした自分の姿なのだ。

 違うのは自分は歪な形とはいえ香織の愛を手に入れ、そして道を間違えかけた時にアインズやユエ、セバス、そしてミュウ達の様に自分を止めてくれる相手がいた事だ。

 

「なんでっ、なんで私には何も教えなかったのよ!! あの小娘にモモンガ様が靡いてるって、どうして何も言ってくれなかったの!?」

 

 金切り声と共に槍が叩きつけられる。それは“暗黒騎士(ダークナイト)”には似つかわしくない槍術も何もない力任せな振り回し方。だが、それだけにアルベドの想いが如実に伝わる攻撃だった。

 “黒傘”から白煙が上がり始める。いかに神結晶で作った武器とはいえ、アルベドの攻撃を何度も受けていては耐久限界を超えていた。あるいはそこまで追い込むくらい今のアルベドの攻撃が凄まじかったと言うべきだろう。

 

「ああああああっ!!」

「がはっ———!?」

 

 とうとうアルベドの渾身の一撃がナグモの“黒傘”を破壊した。火花と煙を吐きながら“黒傘”は半ばから折れ、それでもなんとか身を捻って致命傷を避けたがナグモの胸に深い切り傷が刻まれる。

 

「ナグモくん……! いや、いやあああっ……!」

 

 地面に転がったナグモを見て、手足を失った香織は悲痛な声を上げた。

 

「お願い、します……アルベド、様……! ナグモくんを……殺さないで……! 殺すなら私だけに……!」

「黙りなさい穢らわしい死体人形。あとで地獄に送ってあげるからそこで見てなさい」

「いや……お願い……止めて……!」

 

 少しでもナグモの近くにいようと香織は手足を失った体を必死によじる。芋虫の様に這いずる香織を侮蔑の眼差しで見た後、アルベドはナグモに目を向けた。

 

「待て……香織に、手を出すな………!」

 

 ナグモは胸から血を流しながらもよろよろと立ち上がった。半ばから折れて短くなった“黒傘”の残骸を構え、それでも目だけはまだ死んでない。体力も戦闘技術も全てが上回ってると知りながら、それでも愛する少女の為に戦おうとするナグモ(人間)。その姿がアルベドには無性に気が障った。

 

「気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない人間のくせに人間のくせに人間のくせに人間のくせに!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺―――」

 

「待つのだ。アルベド!」

 

 狂った電子機械の様にナグモを罵っていたアルベド。だが、唐突に第三者が声を掛けた。その声の出所に目を向けて―――そして目を見開いた。

 

「モモンガ……様……?」

「ア、アインズ様……! 何故、ここに……!?」

 

 アルベドはおろかナグモと香織も驚愕で呼吸を忘れる。今居るグリューエン火山の最奥の部屋にある唯一の入り口。そこに彼等がよく知る骸骨の“死の支配者(オーバーロード)”がいた。彼は三人を睥睨しながら威厳のある声を出す。

 

「アルベド、今すぐその武器を下ろすのだ。仲間同士で殺し合って何になる?」

「あ、ああ………!」

 

 狂愛を捧げる主。自分が全てを捧げても構わないと思っている絶対の支配者。“死の支配者(オーバーロード)”を前にアルベドは重傷のナグモの存在が頭の中から消えていた。一歩、二歩……と歩み寄り―――。

 

「よくも………騙したわねええええええっ!!」

 

 アルベドは怒声を上げながら槍を振るう。するとアンデッドの魔法詠唱者は手にした杖で槍を受け止めながら、どこか気取った口調で喋り出した。

 

「いやはや……やはりバレてしまいますか。さすがは統括殿、お見事な慧眼(Bemerkenswerte Einsicht)でございます」

「お前………パンドラズ・アクターか!?」

 

 ようやくナグモも突然現れた“死の支配者”の正体に気が付いた。よくよく見れば、目の前の人物は姿形はそっくりでも至高の御方達が発する独特のオーラがない。偽アインズ————否、パンドラズ・アクターはアルベドの槍を受けながら声を上げた。

 

「今の内です、ミキュルニラ殿! 早くナグモ殿の手当てを!」

「はい!」

 

 そうしてアインズの姿に化けたパンドラズ・アクターとアルベドが打ち合う中、一つの影が二人の脇をジェット噴射ですり抜けた。

 

「ミキュルニラ!? なぜお前がここに!?」

「遅くなってごめんなさい、しょちょ〜!」

 

 パンドラズ・アクターと同じく、唐突に現れたミキュルニラ。彼女は常のサイズの合ってない白衣ではなく、真紅の機械鎧———ナグモが研究室に仕舞っていたじゅーるの形見を纏っていた。そしていつものゆるふわなマスコットキャラみたいな間延びした口調を捨て、ハキハキと喋った。

 

「じゅーる様の機械鎧を勝手に借りた罰は後ほどに! 今はしょちょ〜の治療に専念します!」

「僕はいい、香織を先に……ぐっ……!」

 

 香織の手当てを優先させようとしたナグモだが、肺に血が入り込んで上手く喋れなかった。香織を守る為にナグモもかなり無理をしていたのだ。

 

「あなた達………なんのつもり?」

 

 パンドラズ・アクターから一度アルベドは距離を取った。パンドラズ・アクターも無理に追わない。いかに至高の御方の姿や能力を真似られるとはいえ、弱体化したコピーにしかならない彼では下手に攻めきれないと判断していた。

 

「パンドラズ・アクター。モモンガ様に生み出された貴方なら分かるでしょう? モモンガ様はかつてから変わられてしまった。それならば元のモモンガ様に戻って頂く事こそが最善でしょう?」

「いえ、分かりませんよ。統括殿、聡明な貴方らしくない弁論(Argument)です」

 

 いつものドイツ語を崩さず、パンドラズ・アクターははっきりと断じた。

 

「あなたがユエ嬢に嫉妬して、こんな事を仕出かしたと百歩譲って納得はしましょう。ですが、あの御方にモモンガ様に戻って頂く為に、という理由は苦し紛れの言い訳というものです。何故なら、モモンガ様が“アインズ・ウール・ゴウン”と名乗られたのはあの方の意思! あの方の決意! そしてユエ嬢を愛されると決断されたのもあの方の素直な気持ちそのもの! それらを無視して全て壊すなど、あの御方に創られた者として容認できませぬ! 何故ならば、Wenn es meines Gottes Wille(全ては我が神のお望みのままに)!!」

 

 アルベドは舌打ちするとミキュルニラへ視線を移す。

 

「退きなさい、ミキュルニラ。その男はナザリックにあってはならないバグよ。なにより―――あなた程度で私を止められると思ってるの?」

 

 殺気と共にミキュルニラを威圧するアルベド。だが、彼女の指摘はもっともだ。ミキュルニラの戦闘能力が皆無に等しいNPCであり、じゅーるの機械鎧を纏ったところでアルベドに勝てる可能性など皆無だろう。

 

「もう一度言うわ。退きなさい、これは守護者統括としての命令よ」

「………嫌です」

 

 ナザリックのNPC達の頂点にいる威厳で命令するアルベド。だが、返ってきたのはいつものおっとりした間延び声ではなく、震えながらも明確な拒否を示す言葉だった。

 

「なんですって?」

「嫌です! 私は………私はしょちょ〜の為に()()()()()()()()()()のです! 何よりもしょちょ〜をお助けするのが私の存在意義です! しょちょ〜を苛めるなら……たとえナザリックの仲間でも許せないです!!」

「ミキュルニラ………」

 

 ミキュルニラが初めて見せる顔にナグモは状況を忘れて思わずまじまじと見た。ナザリックの仲間に対して誰にでも温厚で友好的であり、自分からすれば「じゅーるがそう定めたから」という理由で側に置いていただけの存在。だが、いま初めて彼女の魂の根底にあるものが見えた気がしていた。

 

『……ミキュルニラ、聞こえるな。アインズ様への連絡は?』

『ごめんなさい、私もしょちょ〜の報告を聞いて急いでパンドラズ・アクターさんと装備を整えて駆けつけたので……。それと悪いお知らせです。私達はどうにかハッキングして入れたのですが、現在グリューエン大迷宮の結界プログラムが作動しています』

 

 くそ、とナグモは思わず念話の報告に毒づく。他の大迷宮も詳しく調べたら判明した事なのだが、緊急時にはエヒトルジュエに対するシェルターとして機能させる為、大迷宮には出入りが不可能な結界を出せる機能がある。そのプログラムはナグモ達が占拠する際に切っておいた筈だが、自分や香織を逃さない為にアルベドが作動させたのだろう。これでは今からアインズに連絡を入れても自分達への救援は難しいだろう。

 

「は、そう………どいつもこいつも、私を………モモンガ様の事も踏み躙ると言うのね?」

 

 アルベドが苛立ちながらミキュルニラ達を見る。それはもはやナザリックの同胞に対してではなく、自分の障害を見る目となっていた。

 

「そう………ええ、分かったわ。それなら………あの男も、死体人形も、吸血鬼の小娘も、お前達も! 全部、全部モモンガ様には不要なのよ! だから私が壊すわ! 身の程を分からせてあげましょう―――私が嫌いなこの姿を使ってでもねっ!!」

 

 突然、アルベドは身体をくの字に曲げる。まるで自分の中にある何かが弾けようとするのを抑えていたかの様な仕草だ。

 だが、それも一瞬のこと。自らの力を逆に解放させるかの様に魔力を撒き散らし、まるで獣の様な唸り声を上げた。

 

「これは……!?」

 

 ナグモ達が目を見開く中、アルベドで姿が変わっていく。内側から盛り上がった肉が鎧ごとアルベドの身体を呑み込み、艶かしい女の身体のラインを崩しながら巨大化していった。同時に無駄毛のない綺麗な陶磁の様な肌が、刃物すら通さない黒い剛毛にびっしりと覆われていく。

 

 かつて、シャルティアはアルベドの本性を指して“大口ゴリラ”と揶揄していた。だが、その表現もまだ優しいものだったのだろう。少なくとも目の前の生物に対してそれだけの表現では不適切だった。

 

 その巨体は漆黒の鋼のような剛毛に覆われ、表面はまるで古の鎧を溶かして固めたかのように不規則に隆起し、禍々しい輝きを放っていた。下半身は四足の猛獣を思わせ、筋肉が波打つように盛り上がり、鋭く湾曲した爪が大地を抉るように構えられていた。爪の先端は冷たい銀色に光り、一歩踏み出すだけで岩をも砕き、魂をも引き裂きそうな威圧感を漂わせる。

 下半身の胴体には埋め組まれた様に巨大な悪魔の顔があり、大きく裂けた口から無数の鋭い牙を剥き出し、ピンクがかった歯茎が不気味に輝いていた。

 上半身は元の形を一応は残していたが、そこに以前の完璧な淑女としての姿は無い。鎧や籠手はそのままに、毛深く、筋肉が隆起した上半身に倍以上に伸びた腕。筋張った指先には獲物を引き裂く鋭い爪が備わっていた。背中の翼は羽毛から皮膜へと変わり、まさしく悪魔の翼の様だ。

 頭の角は兜と一体化して捻くれ、耳まで裂けた口には牙が生え揃い、縦長になった瞳孔と角張った顎は淑女の面影を完全に消し去っていた。

 

「ガアアアアアアアアアッ!!」

 

 アルベドが吼える。上半身と下半身の悪魔の顔が魂を凍させる咆哮を放っていた。右手に“ロンギヌス・レプリカ”を持ち、まさしく暗黒騎士と悪魔を融合させた様な異形の半人半馬(ケンタロス)がそこにいた。




>異形種アルベド

この話に出てくるアルベドの真の姿はあくまでこの作品独自という事で。
一部ではクトゥルフ神話のガグなのでは? と言われていますが、オーバーロードのアニメーターを担当した人によれば、FFのアルテマウェポンの様な下半身だそうです。その為、自作では「上半身はガグ、下半身はFF7のアルテマウェポンみたいな第二の顔や四足獣の魔物が合体した姿」という風にしました。シャルティアがヤツメウナギなら、アルベドはゴリラケンタウロス。
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