ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 ちょっと展開がダラダラしてるな、とは自分でも思います。でも後に書きたい展開の為には必要だと思って書いています。自己満足で書いている展開の遅い小説ですが、読者の皆様は今しばらくお付き合いして下されば幸いです。


第十一話「月下の語らい①」

『ここは………何処?』

 

 気が付いたら、香織は闇の中にいた。見渡す限り灯りとなる物は何もなく、地面も何で出来ているか分からないが、黒一色。壁となる物は何も見当たらず、地平線の先まで闇が広がる空間に一人で立っていた。

 

『雫ちゃん! みんな! 何処にいるの!? 誰か、誰か返事して!』

 

 心細さから大声を出して辺りを見回す。だが、香織の声が響くだけで闇からは何の反応も無かった。ふと肌寒さを感じた。寒さから逃れようと、香織は腕を摩りながら縮こまる。

 

『寒い………暗いよ……寂しいよ……』

 

 肌が震える様な冷気は、香織の心に一層と寂寥感をもたらす。まるで闇夜に一人取り残された様な状況に、香織の目尻に涙が浮かぶ。自然と香織の口から、トータスに来てからよく話す様になった同級生の名前が出て来た。

 

『南雲くん………』

 

 ギュッと自分自身を抱き締める。彼に抱擁された時の暖かさは覚えている。あれは嬉しかった。まるで寒空の中の焚き火の様に心地良くて、香織は胸の鼓動が高まると共に心から休まった。あの後、気付いたら何故かベッドで横になっていたが、きっと泣き疲れて眠ってしまったのだろう。

 その後、彼とは直接会う機会が無くなった。

 

『会いたいよ………会いたいよぅ、南雲くん』

 

 クスン、クスンと香織の肩が震える。寂しさで涙が止まらなくなってきた。

 

 カツン、カツン———。

 

 不意に、香織の背後から足音が聞こえてきた。振り向くと、体型的にはこれといって特徴はなく、しかしその表情は理知的に引き締められた少年が歩いてくる。

 

『南雲くん!』

 

 パァっと香織の表情が明るくなる。ナグモは香織に向かって一定の速度で歩いて来ていた。香織は堪らず、歩いて来るナグモへと駆け寄った。

 

『良かった! ねえ、一体ここは———』

 

 何処なの? と聞こうとした香織だが、ナグモは聞こえていないかの様に歩みを止めない。そして———ナグモの身体が煙の様に香織を擦り抜けた。

 

『え………?』

 

 慌ててナグモの腕を掴もうとするが、まるで蜃気楼の様に香織の手が宙を掴んだ。呆然とする香織をよそに、ナグモは香織が見えてないかの様に通り過ぎていく。

 

『待って、お願い、待って!』

 

 ナグモの背中に向かって香織は走り出す。足を懸命に動かしている筈なのに、ナグモの背中はどんどんと遠ざかっていく。

 

『嫌! 行かないで! お願い、置いていかないで!』

 

 香織が必死に呼びかけるも、ナグモは振り向く事なく闇の中へと進んで行く。走っても、走ってもナグモとの距離は縮まる事なく逆に離されていく。とうとう香織の足が絡れて転倒してしまう。痛みを堪えながら、闇の中へと見えなくなっていくナグモに香織は泣きながら訴えた。

 

『私を……一人にしないで………』

 

 それでも追い掛けようと香織は立ち上がろうとして———突然、地面が崩れ、香織は底のない穴へ落ちていった。

 

『いやあああぁぁあああっ!!』

 

 ***

 

 

「———織、———香織!」

「あ………」

 

 自分を呼ぶ声がして、香織は目が覚めた。視界が明るくなっていき、自分を心配そうに見つめる親友の姿が目に映った。

 

「雫ちゃん………?」

「大丈夫? 凄い汗じゃない」

 

 寝起きのぼうっとした頭で辺りを見回す。見慣れた王宮の自室ではない部屋を見て、ようやく自分が何処にいるのか理解できた。

 

「そっか……ここ、ホルアドだっけ………」

 

 香織達は訓練として七大迷宮の一つであるオルクス大迷宮に挑む事になっていた。それは全百階層からなると言われ、階層が下に行くほどに強力な魔物が出るが、逆に浅い階層では大した魔物は居らず、冒険の初心者や新兵の訓練としてうってつけなのだと言う。ここはオルクス迷宮に挑む冒険者達の為に作られた宿場町・ホルアドの宿屋だ。先程に体験した事が夢だと分かり、香織は深い安堵の溜息を吐いた。

 

「良かった………」

「ねえ、香織。本当に大丈夫? 凄いうなされ方をしてたわよ。体調が悪いなら、メルドさんに言って明日は宿屋で待機していた方がいいんじゃ———」

「大丈夫だよ! 本当に、大丈夫! ちょっと悪い夢を見てただけだから」

 

 気遣わしそうに自分を見る雫に香織は安心させる様に微笑む。だが、雫はその笑顔を痛ましい物を見る様な顔になり、頭を下げた。

 

「ごめんなさい……」

「え? 雫ちゃん、急にどうしたの? 雫ちゃんが謝る事なんて———」

「香織は最近、無理をして笑う様になったわ。そこまで貴方が追い詰められているのに、私は何も出来なかった。それに、光輝のせいであんな事になっちゃって………」

 

 ギュッと香織の拳が膝の上で握られた。

 

「………雫ちゃんが悪いんじゃないよ。光輝くんが人の話を聞いてくれないのは、昔からだったよ」

 

 ナグモから抱きしめて貰った日———香織は何故か夜まで自室でぐっすりと眠ってしまっていた。目を覚ました後、ずっと気になっていた少年から抱きしめて貰えたのはもしかして夢だったんじゃないか、と香織は危惧したが、次の朝にはあれが現実だったと知る事が出来た。

 

 ただし、それは香織にとって最悪な形で、だ。

 

 朝食の席に行くと、クラスメイト達の間で『南雲は自分が高いステータスである事をダシにして、女子達を脅した』という噂が広がっていた。どうやら香織を罵倒した女子達が事実を歪曲して広めた様だ。涙ながらに、自分達は白崎さんとお話してただけなのに南雲が力で脅してきた、と話す三人の女子達の話をクラスメイト達は何も疑わずに信じた。そうでなくとも他人を寄せ付けようとしない南雲ハジメの評判は最悪なのだ。

 もちろん香織は誤解だと訴えた。彼は女子達と口論になってしまった自分を助けてくれただけだ、と。しかし、ここでまた光輝が邪魔をした。

 

『香織。南雲から脅されたのだろうけど、あんな奴を無理に庇う必要は無いよ』

 

 クラス中の女子が憧れる爽やかな———もはや香織には自分の正義を疑ってない薄っぺらな笑顔にしか見えない顔で、無実を訴える香織を否定した。

 

『あいつはやっぱり最悪な奴なんだ。たまたま得た力で我が物顔になって、暴力で相手を従わせる様な最低な人間だよ』

『違うの! 南雲くんは私を庇って、』

『そうなの! 南雲の奴に脅されたの!』

 

 あの場にいた女子生徒の一人が香織を遮る様にワッと泣き出す。両手で顔を覆い、同情を誘う様なしゃっくり声が上がった。

 

『私達、白崎さんに相談しようとしただけなのに、南雲が急に出てきて、自分が白崎さんと話したいからステータスの低い奴は引っ込んでろとか言い出して……! 止めようとしたんだけど、南雲が凄んできて……私、怖くて……!』

『泣かないで、もう大丈夫だ。あいつは俺が正す! 君達はもうあんな奴に怯えなくていいんだ』

 

 まるで聖人君子の様な顔で宣言する光輝に、親友である龍太郎もボキボキと拳を鳴らしながら頷いた。

 

『光輝、俺も手伝うぜ。女を平気で泣かせる様な腐った野郎は俺も許せねえ』

『龍太郎……ああ、一緒に南雲を懲らしめよう!』

『ちょっと、光輝! いくらなんでも一方的過ぎるわ! 香織の話もちゃんと———』

『雫は黙っていてくれ! これは誰かが、いや俺がやらなちゃいけない事なんだ! これ以上、あいつの好き勝手にさせるなんて間違っている!』

 

 雫が止めようとするも、ヒートアップした光輝は聞く耳を持たない。それどころか———。

 

『やっちゃえ、天乃河君! 南雲なんかぶっ飛ばしちゃえ!』

『頼むぜ、坂上! あの野郎をシメられるのはお前達しかいねえ!』

『任せてくれ! 皆の為にも、俺は南雲を必ず倒す!』

 

 周りのクラスメイト達もまるで光輝達をヒーローの様に讃えていた。彼等の声援を受けて、光輝は万雷の拍手を受けた舞台役者の様に力強く笑っていた。

 ———この熱狂には理由がある。光輝主催の自主練習は、確かに乗り気でない生徒達もいた。しかし、お互いに切磋琢磨していく中で自主練に参加した者同士である種の連帯感が生まれたのだ。それだけなら良かったのだが、同時に、自主練に参加しない者=クラスの皆で一致団結する中で足並みを揃えようとしない者、という図式が出来上がってしまっていた。

 自主練に参加した者は鍛えた分、ステータスをメキメキと上げていた為、尚更に参加しない者は怠け者と白い目で見る風潮が出来てしまったのだ。それが嫌で、参加回数に差はあるものの、ほとんどの生徒が自主練に一応は参加はしていた。そして当然というべきか、一度も参加していない(そもそも光輝が誘った事すら無い)ナグモを皆、目の敵にする様になったのだ。

 

『なん……で………? なんで、こんな事になってるの……?』

 

 だが、そんな事はナグモと一緒に自主練に参加しなかった香織に分かる筈がない。香織がナグモと共に非難されないのは、クラスメイト達の相談相手をやっている事、そしてひとえに二大女神と呼ばれる美少女だからだ。光輝を中心としたクラスメイト達の熱狂ぶりを理解できない香織だが、ふと光輝に泣き付いた女子生徒の顔が目に映った。彼女は光輝の後ろで、香織にだけ見える様に声を出さずに口だけ動かした。

 

『ザ マ ア ミ ロ』

 

 ———あの時の醜悪な顔は思い出すのも苦痛だ。光輝に迷惑していると言った彼女だが、キッチリと光輝のクラスの影響力を把握していた。だからこそ、光輝を利用する事であの日に彼女へ屈辱を与えたナグモと、彼が庇った香織に対して意趣返しをしたのだ。

 

 その後、雫の制止を聞かず、訓練場でナグモを待ち構えて光輝と龍太郎は()()を挑んだ。しかし、結果は散々だ。何故かいつも以上にイライラしていた様子のナグモに、二人纏めていつも以上に叩きのめされる羽目となった。

 騒ぎを聞きつけたメルドは勝手な模擬戦に怒髪天を衝き、光輝と龍太郎、ナグモは説教の後に自室謹慎。連帯責任としてその場にいた全員に食事抜きの罰が下された。その罰も、ナグモのせいだとクラスメイト達は憎悪を募らせていた。香織は光輝達が謹慎している間に誤解を解こうとしたが、光輝に泣き真似をした女子達は「余計な事をチクったら許さない」と言わんばかりに終始睨みをきかせ、何よりナグモが悪いで意見が統一したクラスメイト達は香織が脅されているのだという光輝の話を信じきっていた。唯一、話に耳を傾けてくれた雫も香織がまた虐められない様に、と側にいるしかなく、結果として香織はナグモとのお喋りという数少なかった憩いの時間すら失う事となったのであった。

 

「本当に……本当にごめんなさい。光輝は幼馴染だから、私の家の道場の門下生だから。そう思って今までフォローしてきたけど、結果的に光輝を増長させるだけだった。そんな事に、今更になって気付くなんて遅すぎるわよね」

「雫ちゃん………」

「ましてやそれが原因で、貴方を苦しめる事になるなんて……本当にごめんなさい」

 

 沈痛な顔で頭を下げ続ける雫に、いつも通りに大丈夫と言おうとした。だが、代わりに出てきたのは絞り出した様に震えた弱気な声だった。

 

「もう嫌………」

「香織………」

「ごめんね、雫ちゃん……でも、もう嫌なの。光輝くんも、龍太郎くんも、クラスの人達も。みんな、みんな、いつも私を頼るのに、私の話なんて聞かない人達ばかりで、もう嫌……!」

 

 ポロ、ポロ、と香織の目から涙が溢れる。辛いのは雫だって同じだ。それを分かっていても、香織は涙が止まらなかった。

 

 もう、限界だった。

 

 今まで、香織は光輝の幼馴染として、クラスの皆に頼られる優等生として、常に笑顔を絶やさず頑張ってきた。光輝が正義感を暴走させて揉め事を起こした時も、その仲裁役として上がった処理能力でクラス中の纏め役として頼られる様になった時も。

 だが、当の光輝はそんな香織を省みる事なく、新たな厄介事を引き起こし。一部のクラスメイト達はクラス中を笑顔で対応する香織を八方美人呼ばわりして嫌っていたのだ。そしてこの世界での唯一の癒しだったナグモとの面会まで取り上げられたのだ。もう香織の心は悲鳴で、壊れそうだった。

 

「ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……!」

「謝らないで、雫ちゃんが悪いわけじゃないから。悪いんじゃ、ないから……!」

 

 雫がギュッと抱きしめてくれたが、香織の涙は止まらない。その暖かさが、数日前にナグモがくれた物とは違う。そんな事をちょっぴり考えてしまった自分が嫌で、さらに暗い気持ちになる。

 そんな香織を見て、雫は何かを決心した様に頷いた。

 

「———待ってて、香織。いま、彼を連れて来るから」

「あ………」

 

 離れていく事に罪悪感を感じるが、雫は部屋から出て真っ直ぐと目当ての人物の部屋へ向かう。

 

(正直、香織からの話でもまだ半信半疑だわ。人嫌いで他人を疎ましそうにしてた彼が、香織には優しくてしてたなんて)

 

 だが、いま香織が必要としているのは彼に他ならない。既に多くの者が就寝している時間帯だが、毎夜勉学に励んでいた彼なら遅くまで起きている筈だ。

 雫は意を決して、目当ての人物———ナグモの部屋の戸を叩いた。

 

 

 

 

 




模擬戦場にて。

光輝「お前の横暴で香織を悲しませているんだ! 女の子を平気で泣かせる奴は俺が許さない!」
ナグモ「………………(プッツン)」

ナグモ「つい加減を誤った。反省も後悔もしてない」
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