つきましてはオーバーロードでありながら、アインズ様やナザリックが軟化するルートにするかもしれません。
オーバーロードの無慈悲な雰囲気を期待している方には申し訳ないです。
今回はいつもより短めです。
モモンガが去った玉座の間。
居並ぶ階層守護者達は主が去ってしばらくしてから、ようやく動き出した。
「モ、モモンガ様、すごく怒ってたね」
「ほんと。あたし押し潰されるかと思った」
ダークエルフの双子、マーレとアウラが頷き合う。それに呼応する様にデミウルゴスは自身の考えを述べた。
「あれだけ至高の御身を御不快にさせた下等生物に対し、もはや自身の手で誅殺せねば気が済まないとご判断されたのだろう。いやはや、下等生物達は最期の瞬間を泣いて感謝すべきだよ。あの御方が直々に手を下して頂けるのだから」
デミウルゴスはゆっくりと立ち上がったナグモへ声をかけた。
「君も災難だったね、ナグモ。人間というものをそれなりに知っているが、君が関わっていたのはもはや下衆と呼ぶべき生物だったらしい」
「……別に。靴を履いた猿程度の相手に何か期待した事などない」
それだけ言うとナグモは守護者達に背を向けた。
「守護者統括殿。重要な連絡事項は特に無いな?」
「ええ、今のところはね」
「ならば僕は第四階層に戻る。御方からのお呼び出しや重要な案件以外はミキュルニラを通してくれ」
それだけ言うと、ナグモは振り向く事なく玉座の間を後にする。
「………なんというか、相変わらず付き合いが悪いよね」
立ち去るナグモの背を見ながらポツリとアウラが漏らす。
「いやまあ、ナグモもナザリックの仲間だし、至高の御方への忠誠は疑うまでも無いんだけどさ………」
「そう邪険にするものではないよ、アウラ。とはいえ、彼ももう少し私達に胸襟を開いても良いとは思うけどね」
「じゅーる様にそう定められたとはいえ、難儀な奴でありんすねぇ」
集まった守護者一同で溜息を吐いてしまう。そこへマーレがおずおずと手を上げた。
「あ、あの、ナグモさんってどういう人なんですか? ぼ、ぼくは人間さんなのに、人間さんの事を嫌ってるぐらいしか知らないんですけど……」
「う〜ん、私も守護者統括ではあるけど、よくは知らないのよねえ。あの子、ほとんど
ナザリックの内務担当であり、守護者統括のアルベドも首を捻ってしまう。こちらに来る前までは「そうあれかし」という枷があった為、アルベドも自分よりもずっと後に創られたナグモや第四階層の事はほとんど分からずじまいなのだ。加えてナグモの設定に「他人が嫌い」というものがある為、他のNPCとの面識すら怪しかった。至高の御方達に直々に仲が良い、あるいは悪いと設定された守護者達と違ってこれといって関わりは無く、他の守護者一同にとってナグモというNPCは「ガルガンチュアに代わって第四階層守護者を務め、研究所に引き篭もって研究ばかりしてる人間」という認識ぐらいしか無いのだ。
「というか、そもそもナザリックでナグモと仲良い奴って誰よ?」
「え、ええと。確かプレアデスのシズ・デルタさんがよく第四階層に行くって聞いた事があるよ、お姉ちゃん」
「定期的なメンテナンスの為に行ってるのを仲が良いと看做すかは意見が別れる所だがね。あとは技術研究所の副所長のミキュルニラくらいだが……彼女は誰とでもフレンドリーに接していくから除外かな」
「むしろミキュルニラだからこそ、あの偏屈で無表情な人間ゴーレムと付き合っていられるんじゃないでありんせん? 変な愛称で呼ばせようとしてしてくる癖はありんすが、それ以外はあの子は可愛い娘でありんすぇ」
「ウム。アレ程ニ愛嬌ガアル娘ハ珍シイト我ガ友モ言ッテイタナ。自分ノ眷属達ヲ「小サクテ、カサカサシテテ可愛イ」ト褒メラレタソウダ」
「………え? 恐怖公を? マジで?」
一斉に女性陣の顔が引き攣る。あの恐怖公達相手にそう表現できるのは豪胆というか、何というか……。実は第四階層は変人の集まりなんじゃ無いか? とアウラは邪推していた。
「えっと……そ、それにしてもナグモさん、何か元気無さそうに見えましたけど……ひょっとして、人間さん達に苛められたのが、ショックだったんでしょうか?」
「いや、マーレ。それは無いと思うわよ。同族とはいえ、あいつが人間どもが言った事に動揺する様に見える?」
「そうでありんすよ」
アウラの言葉にシャルティアもうんうん、と頷いた。
「あの研究にしか興味無さそうな人間ゴーレムの顔色を変えさせる奴がいたら、むしろそいつの顔を拝んでやりたいでありんす」
***
ナザリック地下大墳墓・第九階層 ロイヤルスイート
ナグモは豪奢な絨毯が敷き詰められた廊下を歩く。他の守護者達はしばらく玉座の間で雑談している様だが、ナグモはそんな時間すら無駄だと考えていた。
(そもそも僕達は至高の御方に役立つ為に作られた存在。御方の為にならない行動など、一切も行う無駄など無い)
ましてや自分は『人間嫌いで、他人が嫌い。ナザリックの者ともほとんど関わらない』。そういう風にじゅーるに
ふいに、図書館の一室で
(っ、あれは……、情報収集の一環だ……)
それをナザリックの守護者としての意識で掻き消す。『合理的思考に基づいて判断し、感情による判断は低俗だと思っている』。そう
(そうとも……有象無象の人間には関わりたくないし、関わって欲しくもない。この言葉に嘘は無い。勇者達の情報収集の為で無ければ、あんな人間になど———)
『南雲くん、自分の事を冷たい人間だなんて言ってるけど、そんな事無いよ。だって———こんなに優しいんだもの』
ギリっとナグモは歯を食い縛った。記憶の中にある
否———もはや無表情を装っているだけだった。
『お前は香織を利用するだけ利用して、その挙句に切り捨てたんだ! この……人間の屑めっ!!』
(それの……それの、どこに問題がある? 全ては至高の御方の為、ナザリックに最後まで残って頂いたモモンガ様の為。それに比べれば、他の一切に価値など……無い)
そもそも
(あの高さから落ちたのだ……もはや生きてはいまい)
嗤うべきだ、とナグモは判断する。
なんと愚かしい人間なのだ、と。何一つ真実を見抜けず、感情に囚われて命を落とした低俗な人間だ、と。
それが、じゅーるによって創られた
————ズキン。
「………っ」
ナグモは掻き毟る様に胸を押さえた。
ズキン、ズキン、ズキン。
突然発生した原因不明の胸痛は一向に収まらず、ナグモの不快感を増大させていた。
同時に、
「っ、〈
それを掻き消す様にナグモは自身に恐慌や混乱などを回復させる位階魔法をかける。だが、胸の痛みは全く治らない。
「っ……、
もはや効率性など考える事なく、スキルを使って再び位階魔法を使用する。それでようやく胸の不快感は消えた。そしてようやく、ナグモは冷静に思考できた。
(そうとも……あの人間は死んだ。それは事実だ。よって、もはや思考を巡らす価値すらない)
チリチリと胸を焦がす様な痛みを感じたが、魔法の効果のお陰で先程よりは痛みは少なく感じた。
「……………君は、愚かだ。白崎香織」
ようやく、ナグモは用意した言葉を言えた。
———ただし、そこに嘲りの感情は無く。
「僕を庇うなど、馬鹿な真似をしなければ………もう暫くは、生き長らえただろうに」
———まるで、血を吐く様な苦しみに満ちていた。
溜息を一つ吐き、ナグモは再び歩き出す。余計な事など考えている時間は無い、自分がいない間に滞っていた第四階層を再び正常な形に戻さなくてはならない。
そう、自分に言い聞かせて。
「今のは………ナグモ、様……?」
その背中を。ナザリックの
家政婦、じゃなくて執事長は見た!
いやね? アルベドとかに知られたら真面目に粛正ものだし……。
追記:執事長じゃなくて家令だったのね……。