ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

25 / 223
 展開が遅い事は自覚しているので、結構描写を端折ったつもりです。まだオルクス迷宮に入ってないけど……。


第十二話「月下の語らい②」

『———お渡ししたデータは以上となります。その情報を基に、派遣するシモベをお選び下さい』

『ふむ。分かった、すぐに調べて手配しよう。ところでこのマップは本当に正確なのだろうな?』

『はい。オルクス迷宮の二十階層までは王国の兵士の訓練場としても利用されている為、マッピングは怠ってないとの事です』

 

 ホルアドの宿屋の部屋で、ナグモは<伝言>でモモンガへ報告を行なっていた。幸いな事に自分だけ一人部屋を与えられた為、ナグモは周りの目を気にする事なくナザリックと連絡が取れた。

 

『お前が言っていた教会からの監視はどうだ? まだ見張りはついているか?』

『いえ、王宮を出た後は監視や尾行の類いは感じられません。念の為、エイトエッジ・アサシン達に警戒網を敷かせていますが、現在のところは彼等から不審人物の報告は上がっていません』

『そうか……だが、油断はするな。警戒を解かせてから一気呵成に攻めるのはPVPの基本だと、ぷにっと萌えさんも言っていたからな』

『かしこまりました。引き続き、警戒を続けます』

 

 淀みなく進む会話に、ナグモは久しぶりにスッキリした気分になる。

 

(やはり至高の御方は素晴らしい。低脳な人間達と違って、視野を広く持たれている)

 

 つい先日、少し考えれば嘘だと分かる様な情報を鵜呑みにして自分を攻撃してきた愚かな人間達の事が少しだけ意識に上がる。人間というのはやはり愚劣で、低脳な者達ばかりだ。そんな人間達に優しくなど、出来よう筈がない。

 

(……そうだ、だからあれは気の迷いだ。そうでなければ、白崎の考えが間違っていただけだ。じゅーる様に人間嫌いと定められた僕が人間に優しいなど、白崎はストレスで思考が正常でなかったに違いない)

 

 仮に自分が優しく接する事が出来る人間がいるとするなら、ナザリックに所属するもう一人の人間———オーレオール・オメガだけだろう、とナグモは思う。ナグモは直接の面識は無いが、第八階層で聖域を守護するというNPCは、至高の御方が手掛けて生み出された存在なのだから、クラスメイト達みたいな低俗な思考はしない筈だ。きっと至高の御方に創られただけあって、素晴らしい人間に違いない。

 ———もしも冷静な第三者がいれば、ナグモの思考のおかしさを指摘しただろう。

 いかにナザリックの同士とはいえ、何故会った事もない人相手にそこまで高評価をしているのか? 普段のナグモなら、興味は出ても自分の目で見てから最終的な評価をした筈だ。まるで自分がそう思いたいかの様に、ナグモは結論付けていた。何よりも———。

 

(よって、僕が人間に優しいなど勘違いも甚しい。白崎の見解は全くもって正しくない)

 

 何故、そこまで香織から言われた事にムキになっているのか? その思考のおかしさにナグモは気付こうとせず、またそれを指摘する人間はそこにいなかった。

 

『では後は———』

 

 コン、コン、コン。

 

 ノッカーの音が部屋に響く。ナグモは顔を顰めながら無視しようとした。

 

 コン、コン、コン! コン、コン、コン!

 

『………申し訳ありません、モモンガ様。また後ほどにお掛け直しいたします』

 

 御方に断りを入れて<伝言>を切り、ナグモは部屋のドアを開けた。そこには雫がどこか焦燥した顔で立っていた。

 

「南雲くん」

「こんな夜更けに何の用だ? 僕はもう休もうと思っていたところだが?」

 

 至高の御方との対話の邪魔された事で、不機嫌な声色を隠さずにナグモは雫を睨む。しかし、雫はそんなナグモの対応など気にも留めない様にナグモの手を掴んだ。

 

「香織が大変なの。お願い、すぐに来て」

「いや、待て。僕は———」

 

 返事を聞かずに引っ張っていく雫に面食らい、ナグモはされるがままに外へと連れ出されていた。

 

 ***

 

「南雲、くん………?」

 

 香織をお願い。そう言って、雫が外に出た事でナグモは香織と部屋で二人きりにされていた。ベッドの上に腰掛けていた香織は、いつもよりも小さく見えた。それまで暗く沈んだ顔をしていた香織だが、ナグモの姿を見た途端、パァと顔を輝かせて抱きついてきた。

 

「う………」

「えへへ……やっぱり温かいね」

 

 まるで無防備な猫の様に甘えてくる香織に、ナグモはまたも正体不明な胸の騒めきを感じた。先程まで人間は下等だと断じていた筈の思考にノイズが走る。

 

「とりあえず、離れて欲しい。これでは話も出来ない」

「あ……ご、ごめんね! つい興奮しちゃって!」

 

 ようやく自分がどういう状況か理解できたのか、香織は顔を真っ赤にしながらナグモからパッと離れた。そこでようやくナグモはじっくりと香織を観察できた。

 

(………これは酷いな。化粧で誤魔化したつもりだろうが、目元の隈も肌荒れも全く隠せてない。心なしか少し痩せたな。一体、どれほどストレスを溜め込んでいたのやら)

 

 何が原因か、など聞くまでも無い。あの勇者という名の愚物は、香織の精神に決定的なダメージを与えたらしい。あそこまで馬鹿を極められるなら、一周回って貴重では無いか? などとナグモは考えていた。

 

「ずっと会えなかったんだもの。もう嬉しくて……」

「大袈裟な。たかが三日間、謹慎していただけだというのに」

「だって、あれ以来、南雲くんと会えなかったのは寂しかったんだよ」

 

(っ、まただ………)

 

 はにかむ香織を見ていると、どうにも胸が騒つく。今まで感じた事の無い感情の正体が分からず、ナグモの心に動揺が広がる。

 

「……ごめんね。私がクラスの皆を説得出来なかったせいで、南雲くんが悪い事になっちゃって」

「……君の責任ではない。僕は彼等から評価されたいと思っても無いしな」

 

 沈痛な顔で謝る香織に、ナグモは動揺が知られない様に努めて平静な声を出した。香織はふるふると首を横に振る。

 

「ううん。クラスの人達は光輝くんが煽ったせいで誤解しているんだよ。ナグモくんは本当は優しい人なのに」

「———よせ。僕は人に対して優しくしよう、などと思った事はない」

 

 そういう風にじゅーる・うぇるずに創られた。それが誇りだった。だからこそ、地球にいた時も他人を寄せ付けない様に振る舞った。創作者の設定通りに動かないという事は、ナグモに自分自身はおろかじゅーるの事すらも否定している様な強い拒絶感を与えていた。

 だが、香織はそんなナグモの内心を知らず、微笑んだ。

 

「そんな事ないよ。少なくとも、私にとっては南雲くんは不器用だけど、優しい人だったもの。………二年前のあの日から」

「二年、前……?」

 

 何の事か分からず疑問符を浮かべるナグモを他所に、香織は思い出のアルバムを捲る様に目を閉じた。

 

「二年前……私はね、道で恐そうな男の人に絡まれた小学生の子に会ったの。お前のアイスで服が汚れた、親を呼べ、とか、弁償しろとか怒鳴っていた人に。私ね、怖かったけどその男の人を宥めようとしたんだ」

「………随分と無謀な事をしたな」

「あはは……本当にね。小学生の子が可哀想だったし、光輝くんの後始末でよく人を宥めたりしてたから、ちゃんと謝れば許してくれる、なんて思っちゃったんだ」

 

 ある意味、若さ故の無謀と言えるだろう。それまで香織の周りにいたのは、話の分かるしっかりとした大人ばかりだったというのもある。しかし、その時ばかりはそうはいかなかった。

 

「そうしたら男の人は、今度は私に目を付けてきたんだ。じゃあ代わりにお前が弁償しろ、金で払えないなら……って」

 

 その時の恐怖を思い出したのか、香織はギュッと自分の腕を抱き締めた。香織は二大女神と呼ばれる様な美少女だ。中学生の時から既にその美しさは変わらなかったのだろう。

 

「私、怖くなって声が出なくて……周りの人達を見たけど、みんな関わりたくないという風に足早に通り過ぎていったの」

 

 誰だって好き好んで厄介事に首を突っ込もうとはしない。いかに絡まれているのが美少女であっても、ガラの悪そうな相手に立ち向かう勇気を見ず知らずの相手に強要するのは酷だ。ドラマの様に上手くはいかない。しかし———。

 

「そんな時だよ。南雲くんが助けてくれたのは」

 

『おい、ド低脳。往来の邪魔だ。吠えるなら檻の中でやれ』

 

 相手をまるで人間扱いしていない冷たい声が響く。恐怖で縮こまっていた香織が目を向けると、自分と同年代くらいの男の子が、虫を見る様な目付きでガラの悪い男を睨んでいた。

 当然、男はナグモに噛み付いた。俺は服が汚された弁償を女に求めてるだけだの、関係の無い奴は引っ込んでろだの、と騒ぐ男にナグモはハァ、と溜息をつく。

 

『黙って聞いてやっていれば、ごちゃごちゃと……。安物の服程度で騒ぐな。大体、お前の様な猿以下の頭脳で服を着ている方が間違いだ。大人しく野にでも帰れ』

 

 もちろん、このあまりな物言いは男の怒りに油を注いだ。それまで迫っていた香織を突き飛ばした男は、ナグモへと殴りかかる。香織は地面へ転がった痛みに顔を顰めながらも、助けに入った少年が殴られる未来を想像してギュッと目を閉じた。

 だが、その想像はすぐに裏切られた。

 まるで虫を払うかの様な動作で男は吹っ飛ばされ、近くの電柱に頭を打ち付けて気絶した。

 

『まったく、これだから低脳な人間は……』

 

 ぶつぶつと呟きながら、汚い物を拭き取るかの様にハンカチで殴った手を拭うナグモ。そんな背中に香織は一応、礼を言おうとした。

 

『あ、あの………ありがとうございま、痛っ」

 

 立ち上がろうとした香織だが、足の痛みに顔を顰めた。見れば、突き飛ばされた衝撃で擦りむいたのか、膝から血が流れていた。

 

『………………』

 

 香織に呼び止められ、無機質な目を向けていたナグモ。ややあってから、手にしたハンカチをあっさりと破り、即席の包帯を作って香織の傷を塞いだ。

 

『え? あ、あの、』

『動くな。傷が広がる』

 

 幼馴染の光輝以外で、初めて異性に間近に寄られた事でドギマギする香織を余所にナグモは澱みの無い手付きで止血処理を行う。ある程度の処置が終わったところで、とうとう見過ごせなくなった通行人が通報したのか、遠くから警察官がおっとり刀で駆けつけて来ていた。

 

『ちっ、騒ぎになると面倒だな。後の治療はあれらにして貰え』

『ま、待って! せめて名前だけでも!』

 

 香織が呼び止めるも、ナグモはさっさと立ち去り、やがてその背中は雑踏に消えていった。

 

「———だからね、高校で同じクラスになれた時は嬉しかったんだよ。一目で分かったんだ、あの時の男の子だ、って」

 

 香織の思い出話が終わり、ナグモは何かを考え込むかの様に口元を押さえていた。その姿を見て、香織は自分の思いを再確認した。

 ああ、そうだ。きっかけは本当にドラマの様に出来過ぎていて、単純な事だったんだ。あの時に助けられたのがきっかけで、目の前の男の子をもっと知りたいと思ったのだ。学校で他人を寄せ付けない態度を取っていたのを見ても、香織には人への接し方がすごく不器用なだけに見えたのだ。

 そして、トータスに来てから自分へ常に寄り添ってくれたこの少年を、自分は———。

 

「南雲くん。私は貴方の事が、」

「白崎」

 

 胸の想いを語ろうとした香織だが、ナグモは遮る様に口を開いた。その表情は、いつも以上に無表情だった。

 

「明日、君は残れ。その体調では致命的なミスをしかねない」

「え? そんな、どうして………」

 

 急な発言に香織は戸惑う。しかし、ナグモはそんな香織を無視するかの様に言葉を続けた。

 

「そうでなくとも、君はもはや八重樫雫以外のクラスの人間達を快く思っては無いだろう。そんな人間に背中を預けながら戦うのは、君に更なるストレスをかける」

「南雲くん……でも……」

「あるいは、いっそ神の使徒など辞めてしまえ。王国や教会は所詮、召喚された人間達の事など便利な手駒ぐらいにしか考えていない」

「そんな……そんな事をしたら、私はトータスで住む家も食事も無くなっちゃうよ?」

「ヘルシャー帝国にでも行け。あるいはアンカジ公国でもいいかもな。君はトータスでも貴重な治療師だ。どこに行っても、仕事には困らないだろう」

 

 まるで説き伏せる様な言い方をするナグモに、香織は少し想像してしまった。先日の一件で、光輝を始めとしたクラスメイト達の印象は香織の中で悪い方に変化していた。むしろ嫌いになったと言ってもいい。だから、もしも。もしも、親友である雫と目の前の少年と一緒にこの国を出て、冒険に出れるなら———。

 

「ねえ………もしも私が雫ちゃんと一緒にどこかに行きたいと言ったら、南雲くんも来てくれる?」

「………今日はもう休め」

 

 どこか期待する様な目で見てくる香織に、それだけ言うとナグモは背を向けた。背後で香織が寂しそうな目を向けてきたが、ナグモは気付かないフリをして部屋を出た。

 

 ***

 

「勘違いだ………」

 

 自分の部屋のドアを閉めてから、ナグモはポツリと独白した。

 

「全くもって勘違いだ、白崎。僕にそんな意図など無い」

 

 香織の言っていた二年前。ナグモはナザリックに帰還できず、自分が低脳と見下す人間達に囲まれて生活していた事で鬱屈した毎日を過ごしていた。そんな折に、図書館からの帰り道で白崎達に遭遇した。一瞬、回り道をしようと考えたが、低脳な人間の為にそうするのが癪で通り道に邪魔だった人間を払い飛ばしたに過ぎない。香織の治療をしたのも、低脳という言葉すら勿体ない様な人間に触れた手を洗ったハンカチを捨てたくて、ちょうど良い廃棄場所として処置したに過ぎない。

 

(結局、白崎は最初から最後まで勘違いしていたに過ぎない。吊橋効果か何か知らないが、僕に対して間違った印象を抱いていただけだ)

 

 そうだ、だから自分はじゅーるが設定した通りの人間嫌いな人間だ。……そう、思い込もうとしていた。

 

 では、さっき白崎にオルクス迷宮に行くのを止めさせようとしたり、他の国に行く様に勧めたのは?

 

 ナグモの冷静な思考が問いかけてくる。明日、自分がオルクス迷宮で死を偽装したら、ハイリヒ王国へは代わりにデミウルゴスが諜報活動にあたる事になっていた。ナザリックで指折りの悪魔的な頭脳を持つあの悪魔ならば、コミュニケーション能力に著しく問題のある自分よりも数段上手く、至高の御方の為に任務を遂行するだろう———その過程で、王国は人間達にとっての地獄が顕現するだろうが。そこへ見知った顔がいる事にナグモは罪悪感も後悔も湧かないが、香織もいる事に何故か良い気分がしない自分に気付いてしまった。なにより、明日の作戦は下手をすれば———。

 

(………この際だ。業腹だが、認めよう。僕は人間嫌いと定められた身でありながら、白崎香織(あの人間)に対しては例外視している)

 

 それが何と呼ぶべき感情か、ナグモには分からない。人と関わろうとしてこなかった彼には、自分の感じている胸の騒めきの正体の知識が無かった。

 

(だが………だから何だ?)

 

 ナグモはモモンガへの<伝言>を再び繋ぎ直した。

 

『申し訳ありません。少し、人間に呼び出されていました』

『何かトラブルでもあったか? ならば明日の作戦は中止に———』

『いいえ、何も』

 

 モモンガに先んずる様に、ナグモは断言した。

 

『何も、何もありません。至高の御身であるモモンガ様の妨げになる事など、何一つあり得ません』

 

(僕はナザリック地下大墳墓の第四階層守護者代理、ナグモ。じゅーる様に創造して頂き、今はモモンガ様に忠誠を尽くす身)

 

『……? まあ、いい。ならば改めて命じよう、ナグモよ』

 

 いつも以上に硬く、無機質なナグモの声にモモンガは疑問に思ったが、違和感をひとまず置いて命令する。ナグモの目にギラリと力が籠る。

 

(至高の御方に比べれば、僕の感情に価値など———無い)

 

『オルクス迷宮でナザリックのシモベを使って、勇者一行に強襲をかける。お前は激戦の最中、勇者達の殿を買って出て———その果てに、死亡した様に見せかけるのだ』

『畏まりました。僕の全ては、至高の御方の為に………』




>白崎さんがナグモに惚れた理由

 ある意味、これは原作無視になったかもしれません。白崎さんが南雲ハジメに惚れたのは、弱くても相手に立ち向かえる勇気であって、ナグモの様に強くて力で解決する人間は当て嵌まらないですから。

>モモンガ様の作戦

 マッチポンプはオーバーロードの基本ですよ?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。