ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 本当にさ、何を考えてこんなオリキャラを作ったんだろうね? ハーメルンの規約的には問題無い筈(何度か読み返しながら)。もしも投稿されなくなったり、この小説が消されたら……うん、まあ、そういう事だと思って。

 あと第四階層は都合により後で構造とか変わったりするかもしれないです。


第十八話「第四階層 ナザリック技術研究所」

 そこは洞窟に作られた秘密基地とも言うべき場所だった。

 くり抜かれた岩壁には一見しただけでは用途が不明な機械が並び、電子音を規則正しく奏でていた。その機械に併設される様に作られたベルトコンベアの上にはパーツらしき物が並び、天井から伸びたロボットアームによって次々と組み立てられながら奥へと運ばれていく。その製造ラインを監視する様に、ボール型の飛行機械達が定期的に巡回していた。

 ナグモがそこに足を踏み入れた途端、飛行機械の一つが降下してくる。

 

『スキャンヲ実行シマス――完了。第四階層守護者代理・ナグモ所長ト判断。オ帰リナサイマセ、ナグモ所長』

 

 監視ドロイド(サーチャー)の電子音声をナグモはドアチャイムの様に聞き流しながら先へと進む。

 さらに奥へと進んでいくと、ベルトコンベアの上で組み立てられた機械兵士(マシンゴーレム)達が次々と何処かへと運ばれていく。それらを一瞥して稼働状況に問題がない事を確認し、次のエリアへと入っていく。

 シュッとスライドドアが開くと、先程の工場エリアとは異なる光景が広がっていた。ガラスポッドが規則正しく並べられ、中には獅子と山羊の頭を持つ大型の獣や、巨大な鶏に蝙蝠の様な羽と蛇の頭を持つ尻尾が生えた合成魔獣(キメラ)などが培養液に浸かりながら胎児の様に丸まっていた。所々にある地底湖には魚と山羊を組み合わせた様なキメラが泳ぎ回り、何人かの人型がクリップボードを片手にデータ採取を行なっていた。

 

「こ、これはナグモ所長! お戻りだったのですか!?」

 

 ナグモの姿を見て、異形の人型達が驚きながらナグモへと近寄る。腐りかけた人間の顔を持つエルダーリッチ、幾重にも纏ったローブの奥から鬼火の様な目が光っているだけのエビルメイガスといった魔法詠唱者系のモンスター達に囲まれながらもナグモは顔色一つ変えず、無機質な声を出す。

 

「留守中に何か変わった事は?」

「は、はっ! ミキュルニラ副所長が指揮を執って頂いたおかげで大きな問題点はありません!」

 

 それは普通の人間が見れば異様な光景だっただろう。見るも悍ましいアンデッドの魔法使いや見るからに邪悪そうな魔法詠唱者の異形達が、見た目は人間の少年にしか見えないナグモ相手に姿勢を正していた。

 しかし、それこそがこの第四階層では普通の光景なのだ。

 

 第四階層・地底湖エリア。通称、ナザリック技術研究所。

 

 ナザリック地下大墳墓の中でも特に知能の高いシモベ達が集められ、至高の御方の為に機械兵器やキメラ達を量産し、いかなる禁忌すらも許される研究所。その研究所の所長としてナグモはじゅーるに創られていた。

 

「おい、そこ」

 

 培養槽の一つに取り掛かってコンソールを弄っていたシモベにナグモは無機質な目を向ける。

 

「な、何でしょうか?」

「その溶液配分だと細胞崩壊を起こす。デュ・バリ氏液を15%増量、チオチモリンを5%に下げろ」

「は、はっ! 直ちに!」

「そこのサイボーグ・キメラ、起動実験は済んでいるのか?」

「いえ、これから行う予定です」

「問題が出れば部品にミスリル合金を使え。機動性を重視した構造にしろ」

「了解しました」

 

 すれ違い様にナグモは次々と研究者達に指示を出していく。言葉少なく、愛想の欠片もない話し方だが、研究者達は敬意をもって指示に従って作業に取り掛かった。シモベである彼等にとって、至高の御方を除けば第四階層守護者代理であるナグモの言葉は絶対なのだ。

 

 その後も大型機械兵器達が鎮座する格納庫エリア、キメラや機械兵器の性能試験を行う実験エリアなどを次々と見て周り、ナグモは幾つかの指示を出していく。そしてようやく、じゅーるから与えられた自室――ナザリック技術研究所・所長室へと辿り着いた。

 

 キィと真っ白なデスクに備え付けられたワークチェアの背もたれに寄りかかる。他の階層ならば明らかに浮いた家具だが、ナザリックの中で唯一SF色の強いこの階層では違和感なく溶け込んでいた。

 

「ああ……帰って来たんだな」

 

 ナグモの体感からすれば十年ぶりとなる自室に、なんとなくナグモは呟いた。ふとデスクの後ろにある窓から見える光景へと目を向ける。ブルー・プラネットが丹精を込めて作った第六階層の様に空など見えないが、そこからナグモの部屋から見下ろす形で本来の第四階層守護者――ガルガンチュアを格納した穴が見えた。

 

「久しぶりだな、ガルガンチュア」

 

 意思なき巨大ゴーレムにナグモは声を掛ける。当然、ガルガンチュアからの返事など無い。かつて敵ギルドの攻城兵器として存在した岩のゴーレムもまた、この階層に合わせて様変わりしていた。全身は鈍く光る金属に覆われ、顔はヘルメットに覆われて目の部分にはバイザーが取り付けられていた。

 平たく言うと――巨大人型ロボットである。

 

『ホラ、せっかくSF空間にしてるのに前までの見た目じゃ合わないじゃん?』

 

 ナグモの脳裏に第四階層を作った至高の御方達が目の前で話していた内容が蘇る。

 堕天使人形が六本腕の機神へと語り掛ける。

 

『だからさ、ガルガンチュアも大幅にリニューアルしてみました! いやー、僕は彫刻専門だけどさ、これはこれでやり甲斐があるもんだなあ!』

『あの……るし☆ふぁーさん? これってどう見てもパシフィック――』

『大丈夫だって! 著作権切れてるのは確認済み! それ言ったら、じゅーるさんのミキュルニラだって、あれ………』

『あ、あれはちょっと悪ふざけが過ぎたと思ってますよ! でもここまで作って消しちゃうのも可哀想だし、使っちゃったデータクリスタルも勿体無いし……。というかヘロヘロさん、なんで動作パターンとか既に組み上げちゃってるの? 今更すいません、無かった事に……とか言えないじゃないですか〜!』

『ニシシシ……ヘロヘロさん、リアルの方が結構なデスマーチだったみたいだからねえ。判断力も結構下がってみたいだから、ガルガンチュアの改造案と一緒に出してみました!』

『あ、あんたか! あんたの仕業だったのか!』

 

 いや〜、まさか通るとは僕も思わなかったなあと笑いのアイコンを示するし☆ふぁーに、じゅーるが怒りマークを出しながら掴み掛かる。

 それをナグモは部屋の隅で待機しながら聞いていた。

 

(デスマーチ(死の行軍)とは、いったい何だったのだろう? 至高の御方であるヘロヘロ様を疲弊させる程の軍事行動とは一体……?)

 

 そんな事を考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 

『ミキュルニラです〜。ナグモ所長(しょちょ〜)はいらっしゃいますか〜?』

「入れ」

 

 間延びした声にナグモは入室許可を出した。入ってきたのは、褐色肌の人間種の女性だった。ナグモより少し年上――二十歳くらいの見た目で、まん丸な眼鏡と短い髪からぴょこんと生えたモルモットの耳が特徴的だった。スイカの様な女性の豊かさを主張している赤いニットワンピースに、両手がダボダボな丈の合ってない白衣という奇抜な格好だが、ナグモはそれらにこれといった感想を抱く事なく、その女性にいつもと同じ無味乾燥な挨拶をする。

 

「久しぶりだな、ミキュルニラ」

「はい〜。お久しぶりです、ナグモしょちょ〜。ナザリック技術研究所の副所長のミキュルニラ・モルモットです〜」

 

 間延びしておっとりとした声で、彼女――ミキュルニラはナグモへ微笑む。そして、その場でクルッとターンする。

 

「親しみを込めて、ミッキーちゃん❤︎とお呼び下さ、」

「ミキュルニラ」

「あの、ミッキーちゃんって……」

「ミ・キュ・ル・ニ・ラ」

 

 一切表情を変える事なく無機質な声を出すナグモに、愛らしいポーズのまま固まるミキュルニラ。やがて肩を落として残念そうな顔になる。

 

「シクシク……今日も私の可愛い名前を誰も呼んでくれません〜。ションボリなのです〜……」

「名称は正しく呼称すべきだ、ミキュルニラ・モルモット」

「う〜、だってだって! ミキュルニラって名前、噛みそうで可愛くないじゃないですか〜!」

「……それは、じゅーる様への批判と受け取るが?」

「そんなつもりじゃないです〜! そもそも私の可愛い名前を考えてくれたのも、じゅーる様なんですよ〜!」

 

 誰も呼んでくれませんけど……と彼女は全身でションボリというポーズを取った。

 

 ミキュルニラ・モルモット。

 

 ナザリック技術研究所の副所長という肩書きを持ち、ナグモと同じくじゅーる・うぇるずによって作成されたNPCだ。副所長という肩書き通りに生産職系のレベルは高いが、反面戦闘においては役立たずの一言に尽きるとナグモは思っていた。

 頭の回転は(ナグモから見て)悪くはないものの、動きが一々とオーバーアクションであざといと言うべきだろうか。ところがそんな言動でも何故かナザリックの面々で不快に思う者があまりおらず、むしろ本人が「ナザリックの人達はみんな、私のお友達なのです!」と公言している為、交友関係ではナザリックでも一、ニを争うNPCだった。

 

(なんでじゅーる様は、こんなのを僕の副官に……いや、むしろこういう性格だからか?)

 

 あるいは他人嫌いである自分だからこそ、対外折衝用にこのマスコットじみたNPCが付けられたんじゃないか? とナグモは無機質な目でミキュルニラを見ていた。

 

「大体ですね、しょちょ〜がモモンガ様の御命令とはいえ第四階層の引き継ぎとかしないで外出しちゃったから、私は大変だったんですよ〜? 恩と借りを返す為に、可愛い名前で呼んでくれても良いじゃないですか〜?」

「御方の命令は全てにおいて優先される。あと、その名前で呼ぶのは理由は知らんが何か良くない気がするから却下だ」

「む〜! お久しぶりなのに、しょちょ〜は相変わらず塩対応です〜!」

 

 ペシン、ペシンとダブついた白衣の袖でデスクを叩きながらミキュルニラは抗議する。

 

「私はこの階層で唯一の女の子なんですよ〜! もっと女の子扱いして下さい〜! 可愛いがってく〜だ〜さ〜い〜!」

 

 プンプン! と擬音が聞こえそうな様子で抗議してくるミキュルニラ。そんな自分の副官にナグモはじゅーるに定められた設定(在り方)として「鬱陶しい」と言おうとし――。

 

「………」

「ふぇ?」

 

 気付けばミキュルニラの頭を撫でていた。これには予想外だったのか、ミキュルニラも驚いた顔になる。その顔を見て、ナグモもまた驚いた様に手を引っ込めていた。

 

「っ。ああ、悪い。君の言う通り、少しは優しくすべきかと思っただけだ」

「はあ………」

 

 撫でられた頭をミキュルニラは不思議そうに触っていたが、しばらくすると気を取り直した様にナグモへ話しかける。

 

「う〜ん、まあ、その感謝に免じて可愛い名前で呼んでくれないのは良しとします〜。あ、でもでも! 女の子の身体に勝手に触ったらメッ! ですよ。しょちょ〜は人がお嫌いだから知らないかもしれませんけど、女の子が男の人に触っても良いよ、と言うのは特別な人だけなんですからね!」

「………そう、か。そういう物、だったのか……」

「……ええと、しょちょ〜? ナグモしょちょ〜ですよね? 何かありました? こう、頭打っちゃったとか?」

 

 はて? と首を傾げるミキュルニラを見て、ナグモはようやく自分が設定から外れた(いつもらしくない)事を言ってた事に気付いた。

 

「ただの気紛れだ。それよりも、僕に用があったんじゃないか?」

「あ、はい。まずマシン・ゴーレムの製造ラインなんですけど――」

 

 報告を始めるミキュルニラの声に、ナグモは第四階層守護者代理としての思考に切り替える。今は余計な事など、考える余裕などなかった。

 

 ――かつて撫でた髪と質は違ったな。

 そんな風に考えてしまった思考に全力で目を背けながら。

 

 ***

 

 ミキュルニラの報告に時折指示を交えながら、ナグモは次々と頭の中で情報を整理していく。普通の人間ならば数日はかかる様な案件でも、じゅーるに「人智を超えた頭脳の持ち主」と設定されたナグモには答えを出すのに十秒とかからなかった。

 

「第四階層の報告については以上です〜。あ、そうそう。これ、随分前にモモンガ様から御打診された事なんですけど……」

 

 それまで流暢に報告を行なっていたミキュルニラの声に、初めて困惑した様な色合いが出た。

 

「何でも、ナザリックの皆さんに休日というのを設けたいそうなんです〜。でも、至高の御方の為に働く私達にそんなのいらないですよね〜? アルベド様やデミウルゴス様も、御方の為に働かせて下さいってお断りしているみたいです〜」

「考えるまでもない。僕ももちろん――」

 

――ザザッ。

 

『ねえ、南雲くん。本当にちゃんと寝てるの? いつも遅くまで勉強してる様に見えるけど……』

『心配は無用だ。そもそも地球にいた頃から僕はショートスリーパーだ。三時間程度の睡眠でも充分だ』

『南雲くんって、ナポレオンなのかな? でも駄目だよ、ちゃんと寝ないと。身体もキチンと休めないと、いざという時に動けなくなっちゃうんだからね!』

 

 ――ザザッ。

 

「しょちょ〜?」

 

 ハッとミキュルニラの声にナグモは脳を再起動させた。

 そして、しばらく考え込んだ。

 

「………いや。至高の御方がわざわざ御提案された事案を僕の感情で否定していいものでは無いな。モモンガ様の御提案に従う様に動くべきだ」

 

 ふぇ!? とミキュルニラはビックリした顔になった。

 

「で、ですけど! 御方の為に働くのは当然で」

「モモンガ様は緊急事態でも十全に機能できるよう、僕達に身体や脳を休める機会を下さったのだろう。疲労無効アイテムも全員が持っているわけではないし、脳を十全に動かす為のメンテナンス時間と思えば不要とは言い切れない」

「でも、第四階層の警備とか……」

「もともとこの階層はマシン・ゴーレムやサーチャー達の自動警備システムが働いている。研究所の全職員が一斉に、は無理だが最低限の人員以外は休みに割り当てても問題はない筈だ」

「それは、そうかもしれませんが〜……」

 

 まだ納得いかなそうなミキュルニラにナグモは無機質な声を出す。

 

「………モモンガ様の御提案に反対する、と?」

「わ、分かりました! じゃあ、せめて研究所が二十四時間機能する様に、スタッフの皆さんのシフト調整をします〜!」

 

 至高の御方の名前を出すと、ミキュルニラは慌てた様子で手元の端末を操作し出した。

 

「ええと、それでですね。いま研究所に所属しているのはエルダーリッチさんと、エルダーリッチさんと、エビルメイガスさんと、エルダーリッチさんと………」

「おい、待て」

 

 ミキュルニラの挙げてきたスタッフの一覧にナグモは頭を抑えた。

 

「何だそれは? それだと見分けがつかないだろう」

「だってだって! 研究所のスタッフさん達はシモベだからお名前なんて無いんですってば〜!」

「ハァ……もういい。なら適当に番号でも」

 

 ――ザザッ。

 

『そういえば、南雲くんというのが親から貰った名前なら、どうしてハジメくんって名前なの?』

『養護施設に登録されたのが月初めだからだ。ナグモという名前だけでは書類上に問題があるからと言われたから仕方なくつけた。別に僕はじゅーる様から頂いたナグモという名前さえあれば、ゼロイチとかでも良かったんだがな』

『いやいや……それはどうかと思うよ。南雲くんがじゅーるさ……じゃなくて、じゅーる様から付けてもらった名前を大切にしたいのと同じくらい、名前はその人にとって大事なんだからね』

 

 ――ザザッ。

 

 再び脳裏に走ったノイズにナグモは眉間の皺を寄せる。頭痛を堪える様に目頭を押さえた後、ミキュルニラに指示を出した。

 

「……仕方ない。業務上、今まで通りというわけにはいかない。研究所に所属するシモベ、いやスタッフ達に名乗りたい名前があるなら申し出る様に通達しろ」

「え、ええ!? でも、御方がお名前を決められたのは一部のシモベ達だけで」

「モモンガ様から僕の名前で御提案する。モモンガ様の御提案に沿う形で出される事案だ。一考はしてくださるだろう。駄目なら駄目で、また再考すればいい」

 

 いや、でもそれは、と目を白黒させているミキュルニラを他所に、ナグモはこっそりと胸を押さえた。先程から、何故自分は以前なら考える価値すら無しと思っている事をしようとしているのだろうか?

 

(どうしたというんだ? 僕は………?)

 

 ズキン、と胸が再び痛み出した気がした。

 

 ***

 

「モモンガ様、少しお耳に入れたい事が」

 

 モモンガは執務室で書類仕事をしていた。もっとも書類仕事といっても、基本的にモモンガに仕事をさせたがらないアルベドやデミウルゴスのお陰で決定の判子を押すだけの簡単な仕事になっているのだが。

 とりあえずは一読してから押そうと思いながらやっていると、横に秘書の様に控えていたアルベドが何故か少し険しい顔をしていた。

 

「どうした? アルベドよ。私は何か重要なミスでもしでかしたかな?」

「とんでもありません。至高なる御身のなさる事に御間違いなど、あろう筈がありません」

 

 そういう事じゃないんだけどなあ、とモモンガは思ってしまう。いくら絶対支配者の様に振る舞っていようが、モモンガの中身はただのサラリーマンなのだ。自分よりも優秀なアルベドやデミウルゴスがモモンガのやる事だから間違い無いと言うのは、組織として問題があるのでは? とモモンガは考え込んでしまう。

 

「以前、モモンガ様が御提案された休憩や休日制度ですが……ナグモは導入を考えているそうです。ついては技術研究所の職員として在籍しているシモベ達も識別の為に固有名を付けたいと」

「おお! そうか!」

 

 以前、アルベドやデミウルゴスどころか第九階層の一般メイド達にも「至高の御方の為に仕事をする機会を奪わないで下さい!」と懇願された為になし崩し的に立ち消えてしまった提案を受け入れてくれるNPCがいた事にモモンガは喜びを浮かべる。

 しかし、アルベドはまるで下らない話を聞いたという態度で吐き捨てた。

 

「とんでもありません。ナザリックの者たる者、至高の御方の為に全てを捧げるのは当然の事。休みたいなど、言語道断です。至急、ナグモには処罰を……」

「いや待て、アルベドよ。それはいかん、全くもっていかんぞ」

 

 せっかく提案を聞いてくれたNPCがいたのに罰せられるなんて可哀想だ、とモモンガは止める。何よりも――。

 

(お前達が休んでくれないと、こっちも気が休まらないんだよ……)

 

 疲労無効アイテムなどでNPC達が二十四時間活動していても平気なのは知っているが、彼等を横目に自分だけゆっくりと休む様な図々しい精神をモモンガは持ち合わせていなかった。モモンガとて疲労しないアンデッドの身だが、それでも自室で一人気兼ねなくゆっくり過ごす時間は欲しかった。ところがNPC達はいつでもモモンガに呼び出して欲しいと言う様に常に待機しており、働いている彼等の事を思うととてもではないが休みを取れる精神状況になれなかった。

 

(何より皆が残してくれた子供(NPC)達が働く場所をヘロヘロさんの職場みたいにブラックにしたくないんだってば……)

 

 そういった感情論で語ってもアルベドは納得しないだろうと思い、モモンガは思考をフル回転させながら支配者ロールをする。

 

「良いか、アルベド。これはな、私の狙いの一つなのだ」

「狙い……ですか?」

「うむ。私の言葉にある裏の意味まで読み取り、誰が一番早く実行するか試していたのだよ」

「な、裏の意味……ですか? ナグモはモモンガ様の御真意にいち早く気付いたと仰られると!?」

「う、うむ。その通りだ」

 

 はい、裏の意味なんてありません。等と言えず、モモンガは如何にも意味深な口調で語るしか無かった。

 

「何という事……守護者統括である私がモモンガ様の御真意を見抜けないなど、なんという失態……! 至急、ナグモに問い質して」

「い、いや、それはいかんぞ、アルベドよ。自分で考えて気付く事も、成長する過程に必要だとは思っている。ナグモにすぐに答えを聞くのではなく、まずは私の提案通りに事を進めてみよ。そうしながらじっくりと我が真意を考えれば良い」

「モモンガ様………」

 

 もちろん真意なんて無い。ナグモも単純に休みが欲しかったんだろうなあ、それを説明しろと言われても困るだろうなあと考えながらとりあえず尤もらしい言い訳をするしかなかった。

 しかしアルベドは偉大な師から重要な教えを受けた弟子の様に感動した面持ちになり、モモンガへ頭へ下げた。

 

「守護者統括でありながら、モモンガ様の御言葉を深く考えずに反対した馬鹿な私をお許し下さい。この失態、必ずや挽回致します。今後、ナザリックの者全てに緊急時以外は休憩や休日を取る様に徹底させます」

「う、うむ。それで良い、アルベドよ。それと研究所の職員に名前を付けたいという件だが、必要ならばそうするが良いとナグモに伝えよ」

「かしこまりました! 私も必ずやモモンガ様の御真意に沿った働きが出来る様、精進致します!」

 

 よし、休日制度導入成功! とモモンガは心の中でガッツポーズを取った。

 

(そもそもNPC達は働き過ぎなんだよ。ゆくゆくは有給休暇とか取れる様にしていきたいな。それにしても研究所に所属しているという設定の魔法詠唱者系モンスター達にも名前か……ま、まあ、いざとなったら「その方、名を何と申す?」とか支配者ロールで乗り切れば良いよね?)

 

 何より、ナグモがそんな提案をしてきてくれた事がモモンガには嬉しかった。まるで我が子の成長を見る様な心境でモモンガはやらせてみよう、と思っていた。

 

(人間嫌いのナグモが人間と暮らすのは苦痛だったと思っていたけど、実は色々と得る物があったんだろうなあ。今度、じっくりと聞いてみるのも良いかも)




>第四階層
 
機械兵器製造エリア
 
オートメーション化された工場。日夜、マシンゴーレムやサーチャーといった機械兵器達が製造されている。
 
合成魔獣生産エリア
 
生体ポッドが並ぶエリア。ポッドの中には戦闘用ホムンクルスや合成魔獣が培養されている。
 
格納庫エリア
 
大型の機械兵器達が待機しているエリア。巨大マシンゴーレム、二足歩行戦車などがいるのがここ。
 
ナザリック技術研究所
 
研究所の職員という名目で魔法詠唱者系のシモベが多数所属している。細かく分けて鍛治エリアや魔法研究エリア、キメラ達の状態を見る性能試験エリアなどがある。
 
最奥 ガルガンチュア格納庫

 るし⭐︎ふぁーの悪ノリで巨大ロボットに生まれ変わったガルガンチュアの格納庫。格納庫を見下ろす形でナグモの部屋(所長室)がある。

>ミキュルニラ・モルモット

 マウスじゃねーし! モルモットだし! ミッキーという名前だってありふれてるし!(精一杯の言い訳)

 ナグモの副官。モルモットの耳を持ったショートカットの女の子。巨乳系眼鏡女子。ナグモへの呼び方は「しょちょ〜」。袖がダブついた白衣、赤いニットワンピースとあざといくらい可愛い。(じゅーるの性癖)
 
 元ネタがじゅーるが勤めていた会社のマスコットの為(というかじゅーるの本業は宇宙エリアのイマジニア)、言動がカートゥーンじみて一々オーバー。しかし本人はワザとやってるわけではない。噛みそうな名前が嫌で、「ミッキー」という可愛い名前で呼んで欲しいけど、ナザリックの者達は「何故か知らないけど、その名前で呼ぶのはマズイ」と思って誰も呼んでくれないのでションボリしている。
 
 「ナザリックの皆さんは、みんな私のお友達なのです!」と主張し、誰に対してもフレンドリーに接していく。その為、NPC達との交友関係が一番広い。コミュ障なナグモに代わって対外折衝に務めている。

 現実で自分が提案した内容を「ゲスト(上流階級)の品位に相応しくない」と何度も会社に駄目出しをくらい、とうとう我慢の限界がきたじゅーるが「じゃあ、あのマスコットも媚び媚びなキャラにすれば良いじゃん!」と半ば八つ当たり気味に作ったのがミキュルニラ。後になって、やり過ぎだ……と後悔したものの、ヘロヘロが文字通りヘロヘロになりながら「いやあ、ポーズパターンのプログラムは苦労しましたよ! でも会心の出来です!」と徹夜明けのテンションで仕上げたのを見て、今更破棄できないと覚悟を決めるしか無かった。
 ギルド長に恥を偲んで謝りにいったところ、「い、いや、良いんじゃないですかね……? 一見して元ネタ分かりませんし、ユグドラシルにも怪獣王が元ネタなモンスターいますし……?」と大変ありがたいフォローを頂き、せめてナザリックに責めてくるプレイヤーには見つからない様にと生産特化のキャラメイクをしたのだとか。

>ナザリック、ホワイト企業化。

 これは後々に必要なので。

 次回は多分、奈落に落ちた香織さんの話を書きます。

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