ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 なんかこのSSのモモンガ様は出来る上司キャラになってる気がする……。でも原作を見ると、アインズ様はそういう素質があると思うんですよね。


第二十二話「モモンガの気付き」

「そういえば………シズは最近、ナグモの所へ行ったのだったな」

 

 モモンガは自室でさり気ない世間話を装って今日の「モモンガ番」であるシズへ問い掛けた。

 

 ナザリックに休日制度をどうにか導入したモモンガであったが、やはり反発の声が出ていた。と言っても、第九階層のメイド達から「御方の為に休み無く働かせて下さい! お願いします!」という現代人からすれば卒倒する様な訴えだが。アルベドから至高御方直々の命令と言われてもまだ納得がいかない様子の彼女達の為に、モモンガは第九階層のメイド達に自分に一日中供回りをさせる「モモンガ番」という仕事を与える事で、どうにか納得させる事に成功した。そんな「モモンガ番」が、今日はシズだったのだ。

 

 ………モモンガがナグモの事を聞いたのは理由がある。デミウルゴスから齎されたハイリヒ王国の情報は、精神の沈静化が無ければ以前の様に周りに当たり散らしてしまうくらい激怒したくなる様な内容だった。

 

(あんな最低な奴等しかいない様な国に行かせたなんて、ナグモが気の毒に過ぎるな………ホント、もういっそ何も考えずに超位魔法をぶち込めたらどんなにスカッとするか)

 

 だが、それはあまりに短慮に過ぎる方法だ。デミウルゴスは下らない冗談を言う様な口調だったが、共に齎された情報がモモンガに一層の警戒心を抱かせた。

 

(天之河光輝……奴は、ナグモが偽装死したという事も見抜いていたのか? やはり、そいつが一番危険だな)

 

 誰もがナグモが自死したと疑っていない状況で、勇者だけがナグモが生きて自分達に牙を剥いてくると確信しているのだと言う。そしてそんな勇者の意見に全員ではないが、仲間達も賛同しているのだとか。唯一、救いなのは未だにナグモを魔人族の手先だと思っている事だ。

 友人(ギルメン)NPC(子供)が受けたあんまりな仕打ちに、グツグツと煮えたぎる様な怒りを感じたが、それだけを理由にモモンガ自身はともかくナザリック全体が返り討ちにされて全滅という事態は許されない。底の知れない勇者達への警戒心がモモンガを冷静にさせていた。

 しかし、ナグモは本当は深く傷付いているんじゃないか? と思ったモモンガは、そういえばシズが第四階層にメンテナンスに行ったという話があったな……と思い出して、思い切って聞いてみたのだ。

 

(本当はナグモに聞いてみるのが一番なんだろうけど………玉座の間みたいに、何とも思ってません、と返されたらそれ以上無理に聞くわけにいかないしなあ………)

 

 あるいは『人間嫌い』設定のあるナグモは、人間達の評判など本当に何とも思ってないかもしれない。そんな事を考えているモモンガにシズは首を傾げながら答えた。

 

「………変、でした」

「変? どの様に変だったのだ?」

「………メンテナンスの時はいつも、時間の無駄だからさっさと服を脱げ、と言って来ます」

「………は?」

「………なのに、今日に限って、検査着に着替える様に言ってきました………それからメンテナンスを、しました」

 

 モモンガに一気に脱力した感覚が襲う。自動人形とはいえ、女の子相手にその扱いはどうなの? とか、いやまあ、機械のメンテナンスをやる感覚だろうからやましい気持ちは無いよな多分! などと内心で納得する様にした。

 

「………それに、ミキュルニラもおかしいと………言ってました」

「ミキュルニラ………確か、技術研究所の副所長だったな」

「………はい。ミキュルニラは、ナグモ様が最近、採取している薬草で精神安定剤を作って服用しているんじゃないか………と言ってました」

「何だと?」

 

 聞き捨てならない情報にモモンガは無い目を剥いた。

 

「それは………確かなのか?」

「………はい。ナグモ様が自分の研究室に持って行く薬草が、精神に作用する物ばかりで……持って行ってる薬草の量に反して、渡してくるポーションの量が少ない………とミキュルニラは言ってました」

「う、む………そうか」

 

 事態の深刻さにモモンガは押し黙ってしまう。だが、シズの情報はこれだけに留まらなかった。

 

「………それに、昼間にナグモ様とセバス様が喧嘩………していました」

「は、はあ? セバスと喧嘩だと? 一体、何故?」

「………分かりません。ナグモ様は見たことないくらい怒っていて………セバス様が謝ってました。何を話していたかは、聞こえなかった………です」

 

 思わずモモンガは支配者ロールを忘れて聞き返してしまったが、シズもどうやら偶々見かけただけで、詳しい話を分からず仕舞いだった。

 

(どういう事だ? セバスとナグモが仲悪い、なんて設定は………無かったよな、多分。それにじゅーるさんだって、たっちさんと仲が悪かったなんて話は無いし………)

 

 転移してからNPC達をモモンガなりに観察していたが、アウラとシャルティアみたいに仲が悪いという設定だからそういう関係になってる者もいれば、創作者同士でウマが合わなかったセバスとデミウルゴスみたいに反目し合っている者もいた。だが、ナグモの場合はそのどちらも当て嵌まらない気がした。ナグモはほとんど自分の階層から出て来ないから人間関係が希薄な様に見えたし、創作者であるじゅーるにしてもSF趣味を啓蒙する以外は周りに誠意的に対応して、あのるし★ふぁーの抑え役として「るし★ふぁー係」なんて呼ばれるくらい周りから親しまれていた筈だった。

 

(これはさすがに何も聞かない、というわけにいかないよな)

 

 モモンガは意を決してセバスに〈伝言〉を繋げた。

 

 ***

 

「セバス、夜分遅く急に呼び出して済まなかったな。」

「いえ、御身の為であれば、いつでも馳せ参じるのがシモベたる者の務めであります故に」

 

 夜九時をゆうに超えた時間帯に呼び出されたにも関わらず、セバスは着衣に乱れすらなく即座に来ていた。

 

「それで呼び出した理由なのだが………今しがた、シズから聞いたが、ナグモと何か言い争いをしていたというのは本当か?」

 

 ハッとした顔でセバスは思わずシズを見る。モモンガの後ろに控えていたシズは、ペコリと頭を下げた。

 

(いえ………シズは職務をこなしただけです。それに文句を言うのはお門違いでしょう)

 

 だが、この件をどう報告すれば……と悩むセバスに、モモンガはいつもより柔らかい口調で聞いた。

 

「セバス、私は喧嘩した事を責めているわけじゃないぞ? 意見の食い違いというのはギルメ、ではなく。我々にもあったのだし、より良い提案の為ならどんどん意見をぶつけるべきだと私は思っている」

 

 かつて炎の巨人と氷の魔龍のどちらのクエストに行くか、で揉めていた二人の仲間達を思い出しながらモモンガは語る。

 

「それにこれもシズから聞いたが、最近のナグモは様子がおかしいそうだな。ひょっとしてお前達が言い争いをしていたのはそれが原因か?」

 

 どうなのだ? と空虚な眼窩から赤い光を真っ直ぐと向けてくる主人に、セバスは観念するしかなかった。

 

(やはり……至高なる御方には全てお見通し、という事ですか……)

 

 そもそも目の前の偉大な主人に対して自分如きの浅慮な知恵で隠し事など出来るはずが無い、とセバスは考えて徐ろに口を開いた。

 

「………ナグモ様はどうやら、ご自身を庇って奈落へ落ちた人間の事でお気を病まれている様なのです」

「ナグモを……庇った? どういう事だ?」

「詳しい事は存じ上げませんが……恐らく、ナグモ様がナザリックへご帰還された際、ナグモ様を守る為にその身を犠牲にされた人間がいた様なのです」

「何だと……?」

 

 確かに、ナグモが勇者達の前から姿を消す前にパーティメンバーの一人が死んだという事は聞いていた。そして、それがナグモの責任という事にされた事も。

 

「ナグモ様はもしかしたらその人間がまだ生きているかもしれない、と御考えのご様子なのです。ならば、探しに行かれては? と私が無遠慮な質問をしてしまい、ナグモ様の御心を深く傷付けてしまった様です。……至高の御身のお手を煩わせてしまい、申し訳ありません」

「ああ、いや……セバスが謝る事でも無いと思うが……」

「……モモンガ様。これだけは言わせて下さい。ナグモ様は、決して御身を裏切って勝手な行動をしようとはされませんでした。御方の一人にして、ナグモ様を御創造したじゅーる・うぇるず様にそうあれ、と御望みされた在り方を守ろうとしていただけなのです。それに対して、私が思慮に欠ける事を言った為に、ナグモ様の御気分を損ねてしまったのです。どうか罰を与えるならば、愚かな私だけにして頂きます様にお願い申し上げます」

「いや、別に罰しようなどと考えてもいないが……」

 

 頭を下げた執事に対して、何とか支配者らしい返事をしたが、モモンガは混乱の極みにあった。

 

(ナグモを……庇った? 勇者パーティの一人が? どういう事だ? 彼等はナグモを裏切り者だと思っていたんじゃないのか?)

 

 いや……とモモンガは思い直す。勇者の言葉を、全員が信じているわけではないという報告を思い出していた。

 

(もしかして……庇った奴はナグモと仲良くしていたんじゃないのか? だから勇者に捨て駒にされたとか? 元を正せば、ナグモの学校のクラスメイトだもんな。さすがに一人か二人くらいは友達はいたよな、多分)

 

 そうなると、何故ナグモはそれを言わなかったのか? と思ったが、その答えは転移した後に観察していたNPC達を見ると分かる気がした。

 

(ナザリックのNPC達はカルマ値がマイナスな奴が多いせいか、人間を見下している奴が多いもんなあ……。例外は仲間であるナグモとオーレオールぐらいで。そんなところで人間に庇われました、だから助けに行きたいです、なんて言えなかったんだろうなあ)

 

 むしろ“アインズ・ウール・ゴウン"が悪の魔王ロールプレイなんてものをやっていたせいで、NPC達が影響を受けているのかもしれない。ある意味、自分達のせいになるのか? とモモンガは考えていた。

 そして、その方針がナグモを薬に頼らせるくらい追い詰めていたのかもしれない。そう思うと、モモンガは今までの方針を改める事を宣言すべきか……と思い始めていた。

 

(あとはナグモに直接聞くしかないのだけど……)

 

 チラッと時計を見ると、夜10時を刺していた。導入された休憩時間として、夜10時から朝6時までは緊急時や夜番でない限りは就寝時間とする事を命じていた。呼び出せば来るだろうが、さすがに気が引けた。

 

(明日、ナグモに聞いてみよう。それでもしもナグモがその人間を探しに行きたいと言うなら、聞いてあげるか。ナグモに潜入調査の褒美をあげようと思っていたしな……)




 はい、というわけでとうとうモモンガ様にもナグモの異常が知られてしまいました。一応、言っておくとこの時点ではモモンガ様はナグモを庇った人間というのが男か女かも知りません。漠然と落ちたのは友達だったのか? ぐらいにしか思ってないです。

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