ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 私はハッピーエンドが大好きです。だから必ずハッピーエンドにはしていきたいとは思います。とあるきのこ御代の影響で、過程として主人公達を絶望させたくなるけど。


第十九話『奈落の底で少女は目覚め、少年は地下墳墓で苦悩する』

 それに香織が気付いたのは、全くの偶然だった。

 

(!? あの魔法……様子がおかしい!?)

 

 クラスメイト達の魔法が次々と背後のベヒモスと撃たれていく中、ナグモの前を走る香織は、魔法弾の一つが軌道を変えるのを見てしまった。魔法弾はまるで背後を走っているナグモを狙う様に急降下してくる。

 不意に香織の脳裏に光輝を中心にナグモをリンチしようと意気込むクラスメイト達の姿が思い起こされた。

 

(南雲くん――!)

 

 魔法弾に込められた悪意を察してしまい、自然と身体が動いた。

 

(お願い、間に合って……!)

 

 身体強化魔法・“駿脚"。

 香織が回復魔法の派生技能として、新たに習得した強化魔法。

 通常は他人の治癒力を魔法で活性化させるところを、自分の身体に魔力を流して脚の筋力を増幅させる。本来なら詠唱が必要な魔法は、緊急時で香織の中の才能が目覚めたのか、無詠唱で香織の脚力を増大化させた。

 魔法弾がナグモに当たる前に、香織はその身を盾にする事が出来た。

 

(あ…………)

 

 身を焦がす痛みと共に、身体が宙に浮く。そして自分が奈落へと落ちていくのを感じた。生命の危機に脳が活性化されているのだろうか? 香織は自分に対して必死に手を伸ばそうとするナグモの姿が見えた。

 

(ああ………南雲くんの表情が変わったの、初めて見たかも)

 

 自分に向かってくる瓦礫を焦った表情で“錬成"で防いでいるナグモを見て、香織は場違いな感想を抱いていた。

 やがて自分の身体がもはやナグモの手も届かない所へ落ちていく事を自覚して、とりあえずは南雲くんが無事で良かったなと香織は微笑んだ。

 でも………と、香織は落ちていく自分を絶望した表情で見ているナグモを見ながら思う。

 

(本当はいつか、南雲くんの笑った顔を見てみたかったな………)

 

 ***

 

 ピチョン、ピチョンと顔にかかる水滴で香織は目が覚めた。ボヤける視界の中、自分が洞窟内に流れる川の岸辺で倒れていた事を知った。

 

「ここは………どこ?」

 

 一人呟いてみるが、誰からの返事もない。

 

「私、橋から落ちて……それから——」

 

 それから、どうしたというのだろう? 思い出そうとするが、頭に靄でもかかったかの様に思い出せない。何度か頭を振って、ようやく自分の視界がおかしな事になっている事に気付いた。

 

「……? 左目が、見えない……?」

 

 まるで片目を瞑っているかの様に左側の視界が無くなっていた。どうしたのか、本能的に自分の左目を触ろうとし――。

 

「きゅう」

 

 甲高い鳴き声が聞こえ、香織は後ろを振り向いた。そこには後脚が異様に発達し、赤黒い線が脚を中心に血管の様にドクンドクンと脈打った中型犬並みに大きいウサギがいた。

 

(まさか……魔物……!)

 

 咄嗟に王宮から支給された杖を構えようとしたが、その手に何も無い事に今になって気付いた。川に流された時に落としたのだろうか?

 ドパンッという音と共にウサギの姿が消える。

 香織は反射的に横へ転がる様に跳んだ。

 その横をまるで大砲の様に白い毛玉が通り過ぎた。

 横倒しになった視界で、香織は見てしまった。勢いのまま川に飛び込むかと思われたウサギがまるで宙を蹴るかの様に方向転換しながら、再び香織の下へと向かってくる――!

 

「いや………!」

 

 これから襲い掛かる痛みを前にして香織は思わず目を瞑ってしまった。そんな獲物を前にウサギは容赦なく、香織へ向かい――ゴウッという風と共に真っ二つに切り裂かれた。

 

「グルルル………」

 

 香織が振り向くと、そこには新たな魔物がいた。

 その魔物は巨体だった。二メートルはあるだろう巨躯に白い毛皮。例に漏れず赤黒い線が幾本も体を走っている。その姿は、たとえるなら熊だった。ただし、足元まで伸びた太く長い腕に、三十センチはありそうな鋭い爪が三本生えているが。

 

「あ、ああ………!」

 

 恐怖のあまり、ガタガタと震える香織を爪熊は捕食者の目で見る。その恐ろしさに香織は咄嗟に逃げ出そうとし――ゴウッという風が再び吹いた。

 ボトリ、と何かが落ちる音がした。

 

「え………?」

 

 香織は信じられない顔ですぐ側で落ちた物を見る。

 そこには――自分の左腕が落ちていた。

 

「い、いやあああああぁぁああっ!?」

 

 自分の左腕が切り落とされたという事態に香織は絶叫する。

 

(な、なんで私の腕が!? 嫌、嫌、嫌!)

 

 まともな思考が出来ず、香織の中で現実を必死で否定しようとした。その為か、切り落とされた腕の痛みすら感じられなかった。

 

「グルァッ!!」

 

 そんな香織を見逃すほど爪熊は甘くなどない。一瞬で距離を詰められ、香織は洞窟の壁に身体を叩きつけられた。衝撃のあまり、一瞬意識が飛びかける。そして――目の前に口から鋭い牙を覗かせ、涎を垂らした爪熊の顔があった。

 

「グルルル………」

「い、嫌……食べないで……!」

 

 言葉が通じる筈が無いと知りながらも、香織は震えながら口にするしか無かった。

 

(助けて……助けて……! 南雲くん……!)

 

 祈る様に蹲ってギュッと目を閉じた。こんな事をしても意味はないとは分かっている。だが最期の光景が爪熊に喰われる自分の姿なんて、あんまりで見たくなかった。

 香織の顔に獣の体臭と生暖かい息がかかる。フン、フン、と獲物を見定める様な荒い鼻息がかけられる。

 

「え………?」

 

 唐突に爪熊は香織に興味を失くした様にそっぽを向いた。そして切り落とされた香織の腕にも目もくれず、先に仕留めていた魔物ウサギの肉をバリボリと貪り、そのまま何処かへ行ってしまった。

 

「助かった……の……?」

 

 目の前で起きた事が信じられず、香織は脱力した様に呟く。しばらく呆然としていたが、地面に残された自分の腕を見てようやく意識が覚醒した。

 

「ああ、手! そうだ、私の手が……!」

 

 慌てて駆け寄り、腕を拾い上げる。いくら自分の腕といっても切り落とされた人体を触るのに抵抗感はあったが、この状況で四の五の言っていられなかった。恐々と切り落とされた腕を切断面に付ける。

 

「――天啓よ。かの者に今一度力を――」

 

 魔力を集中させ、香織の天職として最も適性の高い回復呪文の詠唱を始める。切断された腕にも有効なのか? という考えなど無かった。切り落とされた腕をどうにかしようとパニックになった頭で、必死で自分の魔力を振り絞り、全集中して回復呪文を唱えようとしているに過ぎない。

 

 だからこそ、香織は気付かなかった。

 切り落とされた腕がまるで氷の様に冷たく――そして先程から切断面から一切の血が流れ出ていない事に。

 

「“焦て、ああああああっ!?」

 

 回復魔法を発動させた途端、焼ける様な痛みが切断面に奔った。それと同時に、切り落とされた腕がボロボロと灰の様に崩れ落ちる。

 

「なん、で? なんで、なんで!? ちゃんと回復魔法を使ったのに!?」

 

 自分の腕が灰になったという事態に、香織は強い恐怖と混乱で狼狽するしかなかった。ジクジクと火傷の様に切断面が痛み出す。

 

「水……水で冷やさないと!」

 

 とにかく残った腕の痛みをどうにかしようと川に近寄った。

 そして――香織はソレを見てしまった。

 

「え………?」

 

 香織はそれが自分の声だとは分からなかった。

 水面には、鏡で何度も見慣れた顔が映っていた。

 ただし――左半分は無惨に潰れていた。

 潰れた頭蓋からは、脳が見えていた。

 

「あ、あ………」

 

 自分の目に映っているのは、きっと自分の姿を真似た魔物だ。水面に隠れて、自分の姿に変身して恐ろしい幻覚を見せてるに違いない。

 そんな風に考えようとした香織を嘲笑うかの様に、水面に映っている左半分の顔面が潰れた魔物は恐々と割れた頭蓋を触ろうとする香織と鏡写しの様に動いた。

 割れた頭蓋から見える脳に手を触れる。何の痛みも無く、柔らかい感触を感じた。

 そして――思い出してしまった。

 

「あ、あ、ああ………!」

 

 奈落に落ちる途中、岩肌に自分は顔の左側から強く叩きつけられた事に。

 その衝撃で――自分は一度、死んでいた事に。

 

 「い……嫌あああああああああぁぁぁぁああああっ!!」

 

 香織の喉から絶叫が迸る。

 迷宮の奥底。奈落の下で響いた、かつて人間だった少女の慟哭は誰にも届かなかった。

 

***

 

 ナザリックの第四階層で、ナグモは机の上に広げられた様々な薬草を検分していた。傍らにはミキュルニラが電子端末を片手に控えていた。

 

「これがナザリックの近辺に生えていた薬草か……」

「はい〜。アウラ様の調査のお陰で〜、ハルツィナ樹海で見つかった薬草だそうです〜」

 

 いつもの様に間延びした声で報告するミキュルニラを横目に、ナグモは片眼鏡の様な魔法アイテムを片手に次々と薬草の成分を調べていく。傍から見ていると雑に流し見ている様な早さだが、ナグモの頭脳ではそれが標準の早さだった。ミキュルニラにもまた、喋りながらナグモの早さに合わせて次々と調べられた薬草のデータを端末に入力していた。

 

「でもでも〜、しょちょ〜が言っていたフェアベルゲンという亜人さん達の国はまだ見つかって無いそうです〜」

「ふうん……? まあ、トータスでは人間至上主義のエヒト教がのさばっている。その為、亜人族達は余程の事情が無い限りは樹海の奥から出て来ないのだろう。もっとも、アウラのスキルを考えれば見つかるのは時間の問題だろうが」

「そうですね〜。ところで〜……この薬草、使えそうですか〜?」

 

 ハァ、とナグモは片眼鏡から目を離す。

 

「はっきり言って、これらの薬草から作れそうなのは低級ポーションだけだ。ナザリックにある材料無しでは、モモンガ様がサンプルとして下さったマイナー・ヒーリングポーションすら作れないだろう」

「あ〜、やっぱりですか〜」

 

 ミキュルニラもその答えを予想していたのか、ガックリと肩を落とした。

 

「う〜ん……そうなると、ナザリックのポーションの在庫が減る一方になっちゃいますよね〜」

「画期的な材料でも見つかれば話は別だがな。詳しく分析して、調合配分などを変えれば少しはマシになる筈だ」

「はい〜、じゃあ、スタッフの皆さんにそうお伝えします〜」

 

 そう言って、ミキュルニラは机に広げられた薬草を片付けようとした。

 

「………ああ、少し待て。これと、あとこれか。もう少し詳しく調べたい」

「ふぇ? でもそれ、そんなに珍しい成分は検出されてなかった筈ですよ〜?」

「ユグドラシルには無かった薬草には違いない。ならば、僕が調合法を試してみるのも良いだろう」

「は、はあ? じゃあ〜、それらはしょちょ〜にお任せしますけど……」

 

 あまり納得のいかなそうなミキュルニラを残し、ナグモは薬草を片手に自室であるナザリック技術研究所の所長室に入る。所長室には併設される様に、ナグモ個人の研究室が設置されていた。

 手にした薬草を摺鉢で粉末状にし、ビーカーやフラスコへと入れていく。

 

「異世界の材料だろうと職業スキルは働くか。これはモモンガ様にご報告すべきだな」

 

 錬金術師(アルケミスト)として最上位のトリスメギストスの称号を持つナグモの職業スキルは、あっという間に薬草を望み通りのポーションへと変えていく。そして、ポーションの完成まであと一工程となったところで――。

 

 ――ザザッ。

 

『ええと、治療薬のポーションを作る為に必要な材料がこれで、入れちゃ駄目なのが……。うう〜、やっぱり難しいよー!』

『……逆に聞きたい。何でこの程度を理解するのが難しいのだ? 僕には全く理解できない』

『もう……皆が皆、南雲くんみたいな天才じゃないんだよ? 普通の人はこうやってキチンと勉強しないと理解できないの!』

『ふむ……人間というのは大変だな。まあ、僕はじゅーる様が与えて下さった頭脳のお陰で、その手の苦労はした事無いが』

『……なんというか、本当に南雲くんを生んでくれた人は凄い人だったんだね』

『ふん、何を当然の事を。……ところで、その調合だと出来るのは麻痺薬だ。キチンと見直しているのか?』

『え? あ、本当だ……』

 

 ――ザザッ!

 

 ズキリ、とまた胸が痛み出す。

 

「っ、何で今更……!」

 

 ギリっと歯を食いしばる。

 

(あの人間は死んだ……! なのに、何で今更、こんな事を思い出す……! それに……何だ、この痛みは……!)

 

 ズキン、ズキン、ズキンとまるで胸に風穴を開けられたかの様に痛み出す。

 

「いい加減にしろ……! 僕は……至高の御方に仕える第四階層守護者代理だ……! 人間嫌いとして創られた僕が……人間相手に、情など抱くか……!」

 

 出来上がったポーションをナグモは即座に飲み干した。

 ポーションに込められた効能は、状態異常の回復。そして――精神の沈静化。

 ポーションの効能で、ようやくナグモは胸の痛みが治まっていくのを感じた。

 

 

 

 

 




>香織さん、アンデッド化。

 うん、まあ……自分でも鬼かなとは思う。でもホラ、これで空腹では死なないし、死体だから魔物も喰いたがらないし……。
 大丈夫、ちゃんとナグモには助けにはいかせますって!
 スケルトンになる前ぐらいには!

>ナグモ、薬に頼り始める。

 割と影響は深刻だ、と思って頂ければ。
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