ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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 タイトル名は、FGOの一期OPから。自分は直前に見た映画とかが、よく作品に影響されます。ちなみに最近見た映画は「ミラベルと魔法だらけの家」です。お陰でアインズ様と守護者達がノリノリで踊りながら自己紹介する姿を思い浮かべてしまった。


第三十一話「色彩」

「南雲、くん……あ、ああっ……! なんで、なんで!?」

 

 理性を取り戻すと同時に、香織は今までやってきた事を思い出した。右手を失い、血を流し続けるナグモを抱き寄せる

 

「ごめんね……! 南雲くん、ごめんね……!」

「いや………謝るのは、僕の方だ………」

 

 掠れた声でナグモは答える。

 もう、回復魔法を唱えるMPは無かった。手持ちのポーションも、先程の戦闘で使い切ってしまった。いまこうしている間にも減っていく血液(HP)を止める術が無いまま、右腕をどうにか止血しようとする香織に抱き寄せられるがままになっていた。

 

「君には、恩があったのに……あれは明確な借りだったのに、僕は……君を、見捨てた。勝手に庇って死んだ……そんな、恩知らずな思い込みをして……」

 

 言いながらも、それは違うとナグモは考えていた。恩と借りは確かに返すべきだ。だが……何故、自分は命を掛けてまで目の前の()()を救おうとしたのだろう? 最初から殺すつもりで戦えば、こんな様にならなかったのに……。

 そんな事をボンヤリと考えるナグモに、香織は泣きながら首を横に振る。

 

「南雲くんのせいじゃない! 私が、あの人達を……クラスの人達を、説得出来なかったから……! あの人達が皆で南雲くんを傷付けようとするのを止められなくて、私……!」

「だから……それは、君が負うタスクではない、と何度も言っただろうに……」

「会いたかった……会いたかったの……! こんな姿になっちゃったけど、南雲くんに……雫ちゃんに、もう一度会いたかっただけなの……! なのに、食べたいなんて……私……!」

 

 香織に膝枕をされる形となったナグモは、ポロポロと涙を流す人間の面影が残った右半分の顔へ無意識のうちに手を触れていた。

 血が無くなり過ぎて、頭が上手く回らなくなってきた。マルチタスクは次々と閉じていき、思考が単純化していく———だからこそ、思ったままの事を彼は口にしていた。

 

「……綺麗、だ」

「え………?」

「ああ……綺麗だな……そうか。これが、綺麗という感情なんだな……」

 

 もはや、学園の二大女神と呼ばれた美貌は見る影もない。およそ人間とはかけ離れた姿となり、涙を流す香織の姿が———何故か、ナグモには色鮮やかな物に見えていた。

 ———じゅーるに創られてから、人間を嫌い、他人に心を開かなかったナグモ。彼はいま生まれて初めて、誰かに対して美しいという感情を抱いていた。

 香織は顔に添えられたナグモの手を、獣みたいになってしまった手で握りしめる。その手は、刻一刻と冷たくなっていく。

 

「嫌……いかないで……私を、置いていかないで……」

「……安心しろ。僕は、アインズ様がいれば……復活でき———」

 

 そこまで言って、彼はふと気付いてしまった。

 かつての———一度目の死となった、1500人の人間達(プレイヤー)との戦い。その戦いを………何も覚えていない事に。もしも記憶しているならば、人間は侮りがたい存在だと認識を改めていた筈だ。だが、今の今まで敗れたという事実だけしか知らず、その事に疑問を感じていなかったのだ。

 

(………………ああ、そういう事か)

 

 その理由を探ろうとして、彼は自分の設定(在り方)を思い出した。じゅーるは、自分をとある古代人のクローンとして創り上げた。ならば、今ここにいる自分も、かつての自分(ナグモ)のクローンなのだろう。だからこそ、記憶に連続性が無いのだ。その証拠に、シズの以前のメンテナンスを覚えていなかったのだから。

 

(なら、ここで死んだら………やはり、次の『僕』が作られるのだろうか……)

 

 その事にナグモは異論を挟む気は無い。そもそも自分は至高の御方によって創られ、ナザリックを守護する為の存在。御方が次の自分(ナグモ)を作ると言うならば、今の自分(ナグモ)は潔く自害すべきなのだ。

 あるいは、創られた当初の姿に戻るだけなのかもしれない。人間をひたすら嫌い、他人に対して何の感情も浮かばない。じゅーるに『そうあれ』と設定された、元の自分に。

 

(それは………嫌だな……)

 

 何故か、ナグモはそう思ってしまった。かつてポーションに頼ってまで、じゅーるに設定された姿を守ろうとした筈だ。

 でも……こんなにも、綺麗な感情(モノ)を知る事が出来たのに。

 0()1()しか無かった認識(世界)に、色彩をくれた人がいたのに。

 その全てを……忘れてしまうなんて………。

 

(ああ………そうか………)

 

 片眼鏡のマジックアイテムは壊れてもはや残りHP(体力)を知る事も出来ないが、間もなく自分は死ぬだろう。

 それを自覚しながら、彼はようやく目の前の人間に対して抱いていた感情の正体を知る事が出来た。

 恩や借りは関係ない。この人間の———香織の為ならば、命を捨てても構わないと思えた感情。出発前にアインズから教えられた、その感情の名は、きっと———愛。

 

「白崎」

 

 伝えたい。たとえ———全て忘れてしまうとしても。

 

「僕は……君が………」

 

 初めて、色彩をくれた貴女に。

 

「好き……みた……い……だ……」

 

 ***

 

 ぱたり、とナグモの手から力が抜けた。

 

「南雲……くん………?」

 

 香織はナグモを見た。ナグモは目を閉じて———その顔は、静かな至福に満ちていた。

 

「嫌……嫌、嫌! 南雲くん、南雲くん!」

 

 鋭い鉤爪が生えてしまった手で、香織はナグモを抱き寄せる。

 

「大好きだよ……私も、貴方の事が大好きだよ……! 大好きだから、……いかないで、お願い……!」

 

 人間の右目と、魔物になった左目。その両方から涙を流しながら、香織はナグモの胸に縋り付いた。

 もう食欲なんて無い。この時、香織の心はアンデッドと化した精神に打ち勝っていた。

 ずっと、ずっと会いたかったのだ。アンデッドとなって、身体が化け物へと変化してしまっても。死んだ方がマシだ、と何度も思う事もあった。それでも、親友と———自分の想い人に。もう一度だけ、会いたかった。

 あの夜。香織が奈落に落ちる前日の夜に、香織は自分の恋心を伝えるつもりでいた。その恋がようやく叶い———今、目の前で失われていく。その事実に、香織は耐えられなかった。

 

「お願い……目を、開けてよ……」

 

 嗚咽を漏らしながら、香織はギュッとナグモの身体を抱き締めた。

 

 トクン———トクン———。

 

 香織は目を見開き、耳を押し当てる。聞き漏らしの無い様、慎重に。

 ナグモの胸から、小さく、今にも消えそうなだが、鼓動が確かに聞こえていた。

 

「まだ……まだ間に合う!」

 

 香織は自分の歪で、血の気の無い両手を見つめた。葛藤は一瞬だけ。香織は意を決して、本来の天職が得意としていた回復魔法を唱える。

 

「う、あああああっ!?」

 

 両手から暖かな光が満ちる。ナグモの手を再び喰らってレベルアップした香織は、以前よりも魔力が強大になっていた。今も神の使徒として活動していたならば、万病を癒す聖女として崇められたかもしれない———アンデッドの身体でなければ。

 

「うっ、ぐっ、うう……!」

 

 自らの回復魔法にアンデッドの身体が軋みを上げる。レベルが上がったからか、かつての様に一瞬で身体が崩れ去る様な事は無かったが、それでも両手が濃硫酸の中に入れた様に痛みと共に煙を上げた。このまま続ければ、自分の身体は崩れ落ちるかもしれない。

 

(駄目……こんなのじゃ足りない!)

 

 それでも香織は回復魔法をかける手を止めない。自身の回復魔法の威力を高める為に、奈落に落ちる前に覚えた強化魔法も使った。ボロリ、と指先が崩れ落ちた。

 

「絶対に……死なせないっ……! あ、ああああああっ!!」

 

 自分の身体が内側から崩れそうになるのを感じながら、香織は今まで行使すらできない様な強力な回復魔法を使った。

 

 そして———奇跡が起きる。

 いまトータスに伝わっている魔法は、神代魔法が一般に流通していく中で劣化したものだ。言い換えれば、香織が使っている魔法も本を正せば神代魔法の派生と呼べるだろう。

 そして、いま———人ならざる身へと変化し、トータスの人間では到達不可能なステータスを得た香織は、神代魔法の擬似的な再現を行っていた。

 

「南雲くん……っ!」

 

 それは、あらゆる力を昇華させる魔法。それを自身の回復魔法に使用して、さらにはナグモへと使用した。先程まで鼓動が止まりそうだったナグモの心臓が強化魔法の影響で再び動き始める。そして、無くなった右手以外のあらゆる傷が治っていく。

 ただ———ここで一つ、香織も予想だにしない事が起きていた。香織が擬似的に再現した神代魔法。それは、あらゆる物を昇華させる事が出来た。そう———N()P()C()()()()()()()()()

 

「あ、はぁっ………」

 

 とはいえ、その事は今は関係ない。ナグモの命の危機が過ぎ去ったという確信を得て、香織は力を失って倒れ込んだ。両手はもはや動かないくらいボロボロだった。

 

「南雲くん………」

 

 香織はナグモを見る。命の危機は去ったものの、未だに眠り続けていた。ここからどうすればいいか分からないが、キチンとした場所で手当てが必要だろう。

 

「絶対に、私が守ってあげるからね……」

 

「———その気概。確かに見せて貰った」

 

 誰!? と香織は勢いよく振り向いた。そして———死を連想した。

 

「あ………」

 

 今の香織には喰らってきた魔物やナグモの手で得たスキルによって、魔力感知が備わっていた。そして、その魔力感知能力が告げている。

 目の前の相手は迷宮の魔物達など足下にも及ばない相手だ、と。

 豪奢なローブを着た骸骨の魔物は、まるで神話に出て来る冥界の神を香織に連想させた。そんな魔物がいつの間にか後ろに立っていたのだ。体力も魔力を使い果たした今の香織では———いや、たとえ全快してても勝てないと理解するには十分過ぎた。

 

(っ、それでも、南雲くんだけは……!)

 

 悲壮な決意で香織はナグモを庇う様に立ち上がり———。

 

「待て。私は敵ではない。ナグモの味方だ」

「え……?」

 

 深く、威厳のある声で骸骨の魔物が香織を制した。その反応に、香織は今更ながら違和感を覚えた。

 

(この人……じゃなくて、この魔物? 私と会話してる……?)

 

 今まで香織が相対してきた魔物は、全て会話が出来る様な知能など無かった。姿形が唯一似てそうなのがトラウム・ナイト等だが、それよりももっと上等な存在に見えた。

 

「セバス。お前は向こうで倒れているユエの介抱をしてやれ」

「———かしこまりました」

 

 スッと傍で控えていた執事服を着た大柄な老人が骸骨姿の魔物に頭を下げていた。こんなダンジョンに全く似つかわしくない老人だが、香織の魔力感知能力はアレもまた、自分以上の存在だと告げていた。

 執事服の老人が壊れた鎧を着た金髪の女の子に近付くのを横目で見ていた骸骨の魔物が、さて、と香織と再び向き合った。その声は、何故か恐ろしげな見た目と違って優しげだった。

 

「確認するが、君が白崎香織だな?」

「何で、私の名前を……?」

「ナグモから聞いたのだ。ナグモは私の部下……みたいな物だが、どうしても探しに行きたいと頭を必死に下げてきたからな」

 

 まさか、アンデッド化してるとは予想外だったが……と言う骸骨姿の魔物に対して、香織は、南雲くんが目の前の骸骨の魔物の部下? と頭が混乱していた。

 

「南雲くんが、従う人……もしかして、貴方がジュールさ——まなんですか?」

「ん? どうして君がじゅーるさんの名前を知っている?」

 

 不思議そうに骸骨の魔物が見てきたが、香織はそれで目の前の相手がナグモの知り合いだと確信を持てた。そして———何の躊躇いもなく、頭を下げた。

 

「お願いします! 南雲くんを助けてあげて下さい! 南雲くんは私を助けようとしてくれたのに、私が正気を失って、怪我をさせちゃって……! 私の事はどうなっても構いません! だから……だから、南雲くんを助けて……! お願いします!」

 

 香織は必死に懇願する。もう相手が人だろうと魔物だろうと関係無かった。自分の想い人を助けてくれるなら、たとえ悪魔が相手でも香織は取引に応じたい気持ちだった。

 

「………ああ、うむ。落ち着いて良いぞ? ナグモは必ず助ける。だから、安心していいぞ?」

 

 少し間を置いて、骸骨の魔物が何処か威厳の薄れた声で優しく声を掛けてきた。

 

「とりあえず、そうだな……さっき見つけた屋敷で治療するとするか。と、その前に———」

 

 スッと骸骨の魔物が指輪の嵌った骨の指を香織に向けた。

 

「<大致死(グレーターリーサル)>!」

 

 瞬間、香織の身体に負のエネルギーが満ちていく。

 

「嘘……傷が、治っていく?」

 

 香織は信じられない面持ちで自分の両手を見つめた。魔物を喰らわなければ治らなかった筈の傷が、骸骨の魔物の魔法であっという間に治って修復されていく。それも、魔物化のようなデメリットも無しで、だ。生者にとっては害となるエネルギーも、アンデッドと化した今の香織にとっては回復手段となっていた。

 

「貴方は……誰なんですか?」

 

 香織は畏れを含んだ声で聞いた。自分の身体をあっという間に治し、ナグモを救ってくれる救世主の名を。

 

「———アインズ・ウール・ゴウン。じゅーるさんからナグモを託された者だよ」

「アインズ・ウール・ゴウン……様……」

 




香織さんから見て、今のアインズ様は「自分の身体を治してくれて、南雲くんを救ってくれた命の恩人」です。なので、いきなり忠誠心MAXになりましたとさ。

……アインズ様的にはナグモを最初から助ける気でいるから、これはこれでマッチポンプじゃね?

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