ありふれてないオーバーロードで世界征服   作:sahala

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あけましておめでとうございます。

 最近、別の作品を書いておりますが、こちらの作品の書き方とか忘れない様にとIfネタを書いてみました。以前、感想でチョロっと書いた至高の四十一人が一緒に転移したら……みたいな展開です。

 今年もこの作品をよろしくお願いします。


Ifルート「至高の四十一人ぷらす」

『グオオオオオォォォォッ!!』

 

 巨大な牛頭の魔物が雄叫びをあげる。手に持った棍棒は二メートル近くはあり、人間が当たれば確実にミンチになると伺わせるのに十分な速度で振るわれた。

 

「………フン」

 

 しかし、ナグモはそれをあっさりと躱すと距離を詰めて魔物の手に触れる。

 

「———“錬成"」

『グギャアアアアアッ!?』

 

 バチィッ、という音と共に魔物の手が変形する。骨が自分の身体を突き破り、出鱈目な形で魔物の手から飛び出していた。激痛のあまりに棍棒を取り落とす。

 そして———大きく体勢を崩した魔物に、駆け寄る人影が一つ。

 

「はああああああっ!!」

「天啓よ、かの者に力の加護を! “昇力”!」

 

 ナグモから離れた場所で筋力上昇の補助魔法を唱える香織の援護を受けて、雫は黒刀を居合い斬りの様に素早く抜刀した。

 キンッ、という音に遅れて、牛頭の魔物の喉が斬り裂かれて血が吹き出す。

 

『ゴ、ガッ………!』

 

 牛頭の魔物が白眼を剥いて、ゆっくりと倒れていく。その姿を見て、雫は研ぎ澄ませていた緊張感をほぐす様にゆっくりと息を吐き———。

 

「雫ちゃん、前っ!!」

 

 香織の叫びに雫はハッと顔を上げる。そこには最期の力を振り絞り、雫に向けて手を振り払おうとする牛頭の魔物がいた。

 

「しまっ……くぅ……!」

 

 自分の失態に気付いたが、もう避け切れないと判断した雫はせめてもの抵抗で身構える。

 だが、牛頭の魔物の手が雫に届く事は無かった。

 ドンッ! と鈍い音が雫の目の前で起きた。そこには———牛頭の魔物の最期の一撃を手にしたメイスで防いだナグモがいた。

 

「な、南雲くん!」

「———“錬成”」

 

 ナグモは牛頭の魔物の頭に触れ———牛頭の魔物は、ビクンと痙攣すると目や鼻から血を噴き出しながら絶命した。

 

「雫ちゃん! 大丈夫!?」

「あ……私は大丈夫よ。その……南雲くんは?」

「……服が汚れた」

 

 返り血の付いた服に眉間に皺を寄せながら、ナグモは淡々と答えた。そんなナグモに、雫はすまなそうに頭を下げる。

 

「その……ごめんなさい、南雲くん。私が油断したせいで、南雲くんの手を煩わせてしまって」

「まったくだ。余計な手間を増やす事になったというのは事実として認識すべきだ」

 

 謙遜や慰めを一切交えず、淡々とした口調のナグモに雫は悔しそうにしながはも、目線を落としてしまう。

 

「雫ちゃん……」

 

 そんな親友に香織も憂いる表情になった。

 

「……しかし、連携は悪くない」

 

 え? と二人は顔を上げる。そこにはいつもの様に、「この世全てがつまらない」と言う様に無機質な表情でナグモがいた。

 

「八重樫の剣は力より速さに重点を置いたもの。よって白崎が筋力上昇の補助魔法を唱えたのは理に適っていた。そして八重樫の剣があと数センチ深く斬り込むか、あるいは———」

 

 喋りながら、ナグモは倒れた牛頭の魔物の腹をナイフで捌いていく。その手付きは一流の外科医の様に淀みがない。

 

「……ここだ。胸骨のすぐ真下、人間で言うならば鳩尾の部位。そこに核となる魔石がある。次からはそこを狙え。人型の魔物は細かな部分に差違はあれど、基本的に人間と急所は大差ない」

「わ、分かったわ。次からそれを注意してみる」

 

 雫が頷くのを見て、ナグモは魔物から取り出した魔石を背嚢に入れて立ち上がった。

 

「……君は人間の中ではそれなりに優秀な部類だ。二度目の失敗はしないもの、と期待はできる。……帰還するぞ、目標の魔物は倒した」

 

 そう言って、ナグモは歩き出す。雫と香織達を擦り抜けて、背中だけが見える様になった時——。

 

「……まあ、最後は慢心は論外だが。大甘に見て、怪我が無かった事を誉めるべきだろう」

「え……?」

「それって……」

 

 雫と香織が聞き返すより先に、ナグモはさっさと歩き出していた。

 

 ***

 

「ん〜〜っ、やっぱりお風呂は良いよねぇ」

 

 宿屋の浴場で、香織は湯船の中で手足を伸ばしながらゆったりとしていた。

 旅の最中は簡単に身体を濡れたタオルで拭いていただけなので、それだけに久々に入浴の気持ちよさは別格だ。

 そんな香織の横で、雫は苦笑しながら同じ様に湯に浸かっていた。

 

「香織、他に入浴してる人がいないからって無防備過ぎよ。でもこうしてると、日本にいた時に恵まれた生活だったんだなぁって思うわねぇ」

「そうだよねー」

 

 ふにゃあ〜、とリラックスする香織だが、雫は少しだけ浮かない顔になった。

 

「雫ちゃん? どうかしたの?」

「え? ううん、何でもないわ」

「嘘。雫ちゃんが何でもない、っていう時は周りを心配させない様に不安を押し殺そうとしている時だよ」

 

 じーっ、と香織は雫を見つめる。最初は愛想笑いで誤魔化そうとした雫だが、香織の無言の訴えに耐えかねて、とうとう降参する様に両手を上げた。

 

「ふぅ……分かったわよ、香織には敵わないわね。……その、ね。私は、ここにいて良かったのかな……?」

「どういう事?」

 

 香織が首を傾げる中、雫は自分の迷いを吐露する様にポツポツと話し出した。

 

「昼間の戦闘……私、“剣士”だから前に出て戦わなくちゃいけなかったのに、また南雲くんに助けて貰っちゃって……」

「気にする事無いよ。南雲くんは、“勇者”の光輝くんより強いんだから」

「ん……そうよね」

 

 香織の言葉に、雫は頷く。

 召喚されたクラスメイト達の中で、唯一人の非戦闘職でありながら、ステータスが“勇者”の光輝より強くなった南雲ハジメ―『ナグモ』。

 そんな彼をハイリヒ王国や教会は手のひらを返して、「あなた様こそがエヒト神の恩寵を受けた救世主です!」と崇め奉ったが、クラスメイト達の一部はそれを快く思っていなかった。ナグモ自身、かなり偏屈な性格であり、召喚前から自分達に馴染もうともしなかったクラスのはみ出し者が異世界では周りからチヤホヤされているなど、彼等からすれば面白くない状況だったのだ。

 

 そして、とうとう事件が起きてしまった。

 

 オルクス大迷宮での実戦訓練。そこで今のクラスメイト達では到底敵いそうにない魔物と遭遇してしまった時の事だ。

 誰もが絶体絶命の瞬間に肝を冷やす中、魔物自体はナグモが倒した———しかし、そこで生徒の一人が事故を装ってナグモに攻撃魔法を放ったのだ。

 その攻撃魔法はナグモに当たる事なく、ナグモは彼等の元に戻って攻撃魔法を放ったクラスメイトを問い詰めた。しかし———。

 

「それに……もう光輝くんとは一緒に戦えない。そう思ったから、ナグモくんについて行こうと思ったんだよね?」

「それは……そうだけど……」

 

 ほんの少しだけバツが悪そうに、雫は呟く。

 ナグモが問い詰めた時、件のクラスメイトは「あれは間違いだ! こいつが勝手に射線に割り込んだんだ!」と主張しだしたのだ。状況から見て、かなり無理のある言い訳なのだが、それを光輝は信じたのだ。

 

『檜山はこんなに反省しているのだから許すべきだ! 大体、南雲は俺達が自主練をしている間も図書館でサボって連携を深めようともしなかったじゃないか! 勝手に前に出て戦った南雲の方に問題がある!』

 

 クラスのリーダーの後押しを受け、「そうだ! お前が悪い!」と言い出す檜山。メルドが叱責するのも聞かず、光輝は頑として主張を変えなかった。

 そんな最悪な雰囲気で終えた実戦演習の翌日の事だった。

 

『……よく理解した。お前達が、猿にも劣る低脳な生物だと改めて認識したとも』

 

 ナグモは極寒を思わせる様な視線で光輝達を見ながら、嫌悪感を顕らにしながら言い放つ。

 

『……お前達みたいな低脳生物と共に戦うなど不可能だ。よって僕は王国から出て行かせてもらう』

 

 この宣言にクラスメイト達はともかく、王国の上層部は度肝を抜かれてしまった。彼等にとって、オルクス大迷宮で誰にも倒せなかったベヒモスすら倒したナグモの存在はもはや“勇者”よりも重視すべき存在となっていた。だからこそ、彼に王国から出て行かれては困るのだ。

 紆余曲折を経て、最終的にはリリアーナの取りなしでナグモは光輝達から離れて王国の依頼を受けて魔物を倒す冒険者として単独行動が許される様になった。

 

「あの時は驚いたわよ。香織が突然、『だったら私も南雲くんと一緒に行く!』なんて言い出すんだもの」

「ん……それ以前にも、光輝くんには段々愛想が尽きてきちゃったからね」

 

 必要な荷物を纏め、さっさと出て行こうとするナグモに、同じ様に荷物を纏めた香織が立ち塞がって宣言したのだ。

 当然というべきか、これには光輝は猛反対した。

 あいつはこの世界の人達を救うという使命を放り出した逃げ出す卑怯者だ、香織はそんな奴より俺と一緒にいるべきだ。

 そういった事を並べ立てたが、香織の意志は固かった。そして香織の意志を変えられないと見た光輝は、ナグモに対して一方的に決闘を挑んだ。

 

『武器を抜け、卑怯者! 香織の意思を捻じ曲げてまで、自分の側に侍らそうとするお前なんか、俺が倒す!』

『………白崎がどういう選択をしようが、白崎個人の自由だと思うが?』

『黙れ! 香織の事は俺が一番良く分かっている! 香織はお前みたいな奴より、俺と一緒にいた方が何倍も良いに決まっている!』

『………言いたい事は、それだけか?』

 

 あの瞬間———いつも無表情だったナグモが、明確な怒りを浮かべていたのが印象的だった。

 結果から言うと光輝はボロ負けして、しかも現場に居合わせたリリアーナの宣言の下、香織がナグモに同行する事が正式に許された。そして———。

 

『雫ちゃんも一緒に行こうよ! これから色々な場所に行くって南雲くんが言っていたから、きっと楽しい旅になると思うの!』

『香織……でも………』

 

 親友の誘いに、雫は迷ってしまう。

 幼馴染である光輝をこのまま放置して良いのか、彼が暴走した時に止める者がいなくてはクラスメイト達は空中分解するのではないか……そんな不安が雫の中で渦巻く。

 

『雫……ここは一度、貴女も光輝様からしばらく離れた方が良いと思います』

『リリィ……』

 

 この世界に来て、身分を超えて友人となった王女は雫に優しく微笑む。

 

『貴女の責任感の強さは美徳ですが、それで雫自身を押し殺してしまうくらいなら、重責を共に担ぐ者が必要だと思います。……光輝様については、ご心配なさらず。“アレ”でも我が国の勇者ですから、その自覚をして頂ける様に、しっかりと教育を徹底させますわ』

 

 そう言ってくれるリリアーナに、雫は少しだけ考える。光輝がここまで暴走する様になったのは、ある意味ではすぐにフォローしてなぁなぁで済ませてしまった自分に原因があるかもしれない。地球ではそれでもなんとかなったが、命の危機がすぐ隣り合わせにある異世界でもそれでは、光輝自身はおろか周りの者達まで危なくなる。現にナグモを襲撃した檜山を簡単に許すどころか、嫉妬でナグモを責め立てるなど集団のリーダーとして到底あり得ない事までやらかしたのだ。これ以上、雫が庇い続けるのは不可能だろう。

 

『……ありがとうね。香織、リリィ。その……南雲くん? 迷惑でなければ、ついて行って良いかしら?』

『……好きにしろ』

 

 ドギマギする雫に対して、ナグモはそれだけ答え、雫と香織は光輝達のパーティから離脱して、王国で“神の使徒”の宣伝も兼ねて各地へ魔物退治をするナグモと行動を共にする事になったのだ。

 

「大丈夫だよ、雫ちゃん」

 

 香織が湯船に浸かりながら、雫の側に座る。

 

「雫ちゃんが一緒に来てくれて、私は嬉しいよ。だって、雫ちゃんも最近は光輝くんや皆を纏めなくちゃ、っていつも険しい顔をしていたもの。そんな事で潰れちゃう雫ちゃんなんて見たくないよ」

「香織……」

「それにね……南雲くんも、雫ちゃんがいて迷惑だなんて思ってないよ」

「そう、かしら……? 南雲くん、いつも通りのつまらないって表情だったけど……」

 

 香織の言葉に雫は首を傾げてしまう。旅に同行する様になってから、クラスでも「他人嫌い」で有名な男子生徒と間近で接する様になったが、彼が雫や香織に対して笑顔を向けた事などなかった。

 

「だって本当に嫌なら、南雲くんははっきりと言ってくるもの。それも歯に衣を着せない性格だし」

「あー、確かに。容易に想像できちゃうわねぇ」

「それに昼間、南雲くんは『期待する』と言ってくれてたよ。南雲くんが相手をそう評価するのはすごく珍しい事だと思うの! それに怪我が無くて良かった、なんて……きっと雫ちゃんの事を気にかけ始めているんじゃないかな?」

「またこの子は……すぐに恋愛要素に絡めるんだから。そんなわけ無いでしょうに」

「でもでも! 南雲くんって頼りになるし、雫ちゃんを守ってくれる理想の男の子になると思うの!」

 

 そんな馬鹿な、と言おうとして雫は考えてみる。

 ナグモは常に雫の前に出て傷を負わない様に立ち振る舞ってくれるし、顔立ちはどこか人形じみているが整っている方だ。性格面も、慣れてくれば無愛想ながらに自分や香織を気遣う面もあるなど、意外と優しい所があるのかもしれない。

 

(あ、あれ……? もしかして、南雲くんって意外と良い男子なのかしら?)

 

 それに気付き、雫はボッと顔が赤くなるのを感じた。それを隠す為に、ブクブクと湯船の中に顔を沈める。

 

「あ、雫ちゃんの顔が赤くなった! ふふ〜ん、雫ちゃんも南雲くんの良さに気付いたんだね」

「ち、違うから! ちょっと良いかもしれない、って思っただけだから! 大体、そういう香織はどうなのよ! 南雲くんと付き合いたい、って思ってるのは貴女の方でしょ!」

「う〜ん、もし付き合える様になっても、雫ちゃんだったら一緒に南雲くんをシェアしても良いかなって思ってるけど?」

「ちょっと待ちなさい。彼女公認で浮気OKとか、さすがにインモラルでしょうが」

「嫌だなぁ、雫ちゃん。私だって二股されるのは嫌だよ。ところで話は変わるけど……地球だとアフリカとかって一夫多妻が認められるんだよね?」

「……自重しなさい、この突撃娘!!」

「いひゃひゃひゃっ!?」

 

 香織の頬を両側から引っ張り、ムニムニとする雫。貸切の浴場に、女子二人の姦しい声が響いた。

 

 ***

 

「———報告は以上となります」

 

 香織と雫が仲良く入浴している頃、ナグモは一人部屋で秘密の連絡を取り合っていた。連絡相手は<伝言(メッセージ)>を通じて頷いていた。

 

『うん、冒険者活動は問題ないみたいだな』

「はっ。冒険者組合に提出する物を除いた魔石などのサンプルはいつも通りお送りします。技術研究所に調査を命じ、お役立て下さい」

『分かった。いつもありがとうな』

「礼など畏れ多いです。至高の御方の為に働くなど、ナザリックの者として当然です」

『ん…………そうか』

 

 ナグモの返答に、連絡相手はどこか歯切れの悪い返事をした。話題を変える様に、『ところで……』と何処となくソワソワとした声を出した。

 

『ナグモが今、一緒に冒険者をやっている子達……白崎ちゃんと八重樫ちゃん、だったね? 二人と一緒にいて、どう? 何か変わった事はあった?』

「特段、何も。多少は成長しましが、相変わらず戦闘力はナザリックの下位のシモベ程度です。所詮は人間といった所ですね」

『う、う〜ん……そういう事じゃなくてだな……』

「ただ………あの二人は、何か異なるものがあると思います」

 

 何処となく歯切れの悪い声の主の微妙な声音に気付く事なく、ナグモは思った所感を述べ出す。その表情は———自分でも奇妙だと思っている様な、不思議そうな表情だった。

 

「あの二人……白崎と八重樫は、低脳な人間達が糾弾する中、僕を庇おうとしました。思考回路が理解出来ませんが……あの二人は他の人間達とは違う。そんな風に思えてきます。あの二人が相手だと、人間相手に感じる嫌悪感もあまり感じないです」

『………へ、へぇ。そうか……うん。それはいい事だな、うん………』

 

 表情が見えたら半笑いになっていそうな声で、声の主はナグモの独白に頷いた。

 

『ま、まあ……人間にも色々な人がいるという事だ。人間が嫌い、と言っても、まずは先入観を一旦置いて接してみる事。それと……うん、その二人には優しくする事。白崎ちゃんと八重樫ちゃんに庇ってもらったなら、二人に恩がある様なものだ。受けた恩と借りは必ず返す事! それは相手が誰であれ、必ず守る事だぞ!』

「はっ。心得ております……じゅーる・うぇるず様」

 

 ナグモは目の前にいないと承知しながらも、敬愛する至高の御方にして自らの生みの親とも言える声の主の言葉に深く頭を下げた。

 

 ***

 

 ナグモ達がいる場所から遠く離れた土地。

 そこに忽然と現れた様に周りの風景と噛み合っていない巨大な地下墳墓があった。

 その地下第九階層。白亜の宮殿を思わせる豪奢な内装が施された空間があり、その階層の一室に巨大な円卓が置かれた部屋があった。

 円卓には四十一人分の席があり、その全ての席が埋まっていた。

 ただし———座っているのは全員人間ではない。

 骸骨の頭を覗かせる魔導師、スーツを着た山羊頭の悪魔、金の仮面を被った鳥人間、はたまたコールタールを思わせる色をしたスライムなどなど……。

 いずれもトータスでは見た事の無い様な魔物達であり、誰もが人間では———異世界から来た勇者達であっても———到底及ばない強大な魔力や身体能力、戦闘技術などを感じさせていた。もしもトータスの一般人がこの光景を見れば、「世界の終わりだ」と泣き崩れるか、発狂していただろう。

 

 その円卓の一席に、一人の異形が座っていた。

 金と赤でカラーリングされた金属の身体をしており、六本の腕を持った姿はインドやヒンドゥーの神話の神をロボットで再現した様に神々しい姿だった。

 まさに機械の神と呼ばれるに相応しい彼は————。

 

「———メッチャ意識しているじゃないか!」

 

 ……盛大に頭を抱えていた。

 

「落ち着きなよ、じゅーるさん」

「だって、だって! ウチの子にガールフレンドが出来るかもしれないんですよ!!」

 

 隣に座った天使人形が呆れた様な声を出す中、機神はガバァッ! と頭を上げる。

 

「人間嫌いという設定を作っちゃったせいで、学校の子達と上手く馴染めないみたいで心配していたら、なんか気になる女の子が出来たって! それも二人も!? ど、どうしよう!? どうしたらいいですか、るし☆ふぁーさん!」

「いや、だから落ち着きなって。いいじゃん、別に。青春しちゃってるよね〜」

 

 神々しさを欠片も感じさせずに動揺する機神に、天使人形はケラケラと笑う。

 

「いやぁ、じゅーるさん程じゃないけど確かに驚きましたよね。NPCにも恋愛感情ってあるものなんですかねぇ」

「そりゃあ、あるんじゃない? 彼等だって今は生きているんだし。ほら、アルベドが良い例じゃない?」

「あ、あれはタブラさんが面白半分で設定を書き換えたからで!」

「う〜む、サービス終了までギルマスを務めてくれたモモンガさんへありがとう、の意味を込めて書き換えた設定がああなるとは……まあ、良いじゃないの。ウチのアルベドは可愛いんだし」

「タ、タブラさ〜ん!」

「でも同級生の子と異世界で冒険かぁ……ロマンチックだよね〜」

 

 ワイワイガヤガヤ、この場に居合わせた異形達はナグモを話題に盛り上がっていた。その様は、若者の恋を肴にしている大人達そのものである。

 そんな中、自分の息子(NPC)に彼女が出来るかもしれないという非常事態に機神は六本の腕で頭をガシャガシャと掻きむしる。

 

「うう……本当にどうしよう? 付き合い出したら、ナグモがお世話になっていますって挨拶すべきかな? 相手の親御さんにも挨拶して、ああ、そうだ! 結婚式は第九階層のロイヤルスウィートが良いかな? 第八階層の桜花領域が良いかな?」

「落ち着け、パパ・じゅーる。まだ付き合っても無いでしょうが」

「でもさぁ、相手の子達の様子を聞く限り、満更でも無さそうだよねぇ」

「ふむ……一夫多妻制は妻二人とその家族を養える程の所得が無いと難しいけど。ナグモは我々が給料を払ってないけど、技術研究所の所長だからね。そのくらい簡単に稼げそうではあるよね」

「頭が良くて、一応はレベル100だからそれなりに強い。ついでに女の子二人に言い寄られている、と……爆発しねえかな?」

「ナグモもお前に言われたくないと思うぞ、弟。自分の理想を詰め込んだNPCと毎晩イチャイチャしてるとか、姉ながら本気でドン引きなんだけど?」

「仕方ねーじゃん! シャルティアはマジ天使なんだし! ナザリックで一番可愛いし!」

「あ、ちょっと聞き捨てならないですね。私のソリュシャンこそが全男性の理想の女性だと思いますよ?」

「ルプーの方が可愛いだろ! 褐色元気っ娘とか最強じゃん!」

「私のエントマの良さが分からないとか……素人共め」

「ボクのユリだって可愛いよ!」

 

 ウチの子が可愛い! いいや、ウチの子だね! とNPC自慢を始める異形種(親バカ)達。やがて、手をパンパンと叩きながら骸骨の魔導師が立ち上がる。

 

「ああ、もう! そこまでです! 会議の本題からどんどんズレちゃってますよ!」

「ん? モモンガさんもパンドラズ・アクターについて語っちゃう?」

「あいつの事は少し忘れさせて欲しいというか……じゃなくて! ナグモが冒険者をやって注目を集めて貰ってる間にどこの大迷宮を行くか、って話だったでしょう!!」

「ああ、それですね。やっぱりグリューエン大火山———」

「私はライセン大迷宮の方が良いと思います」

「……ふぅ。たっちさん、ここは皆の事を考えるべきだと思いますよ? 今のメンバー的に、空間魔法の方が重要度が高いでしょう?」

「いや、我儘を言っているのはウルベルトさんですよ。重力魔法の方が応用性が高いから、習得が早い方が良いじゃないですか?」

「魔法職最強と物理職最強が喧嘩すんなって……」

「そういえばさ、アレーティアちゃんの育成はどうする? やっぱり魔法職だよね?」

「それを言ったら、たっちさんが助けたシアちゃんだっけ? 彼女は物理アタッターとタンク職のどっちにするかも決めてないよ」

「タンク役はティオが適任な気もするけど……なんかあの人、模擬戦でも殴られる度に笑顔になってくから正直怖いのだけど!」

「彼女達の育成も兼ねて、となるとやっぱり攻略順は考えた方が良いかなぁ? どう思います、モモンガさん」

「うーん……それじゃあ、たっちさんとウルベルトさんの案を多数決で決めましょう。二人も良いですね?」

「勿論です」

「異存はありません」

「はーい! それじゃあ、新金貨はウルベルトさん。旧金貨はたっちさんでやりましょうか。二人の説明を聞いて、そっちの案が良いと思った金貨を出して下さいねー!」

 

 骸骨の魔導師の宣言に、彼等は頷く。

 今日も至高の四十一人と呼ばれる異形種達は賑やかに過ごしていた。

 

 ***

 

 オマケ

 

「———というわけで、来ちゃいました。お久しぶりです、ミレディさん」

「………うん、ミレディちゃんもね。エヒトのクソ野郎を倒せる人がこんなにいるなんて、喜ぶべきだと思うよ? うん、良かった良かった。本当に……でもさぁ……アスレチック感覚で、何度も大迷宮に来るんじゃなああぁぁぁああいっ!!」

 

 自分が精魂込めて作ったダンジョンを周回プレイの様に何度も突破され、巨大ゴーレムは「うがああああっ!」と両手を上げて嘆くのだった。

 




このルートの場合、ざっくりとこんな感じです。

・鈴木悟の世界の巨大企業の不正が暴かれ、社会や経済にある程度の余裕が出来ている。

・ユグドラシルのサービス終了日、ギルドメンバー達は全員集まって惜しみながらも解散パーティをやっていたら、トータスにナザリックごと転移。この世界に定住するかどうかはともかく、元の世界に帰る方法を確立するに越した事はない、と一致団結して大迷宮の攻略をしている。

・NPC達は相変わらず勘違い&暴走。しかし、たっち・みーの様に良識ある大人が多いので、現地民の被害は最小限に収めている。

・本編ではモモンガが早めに帰還させたナグモも、ナザリックに急いで戻る必要は無くなったからオルクス大迷宮で奈落に落ちる事は無かった。しかし、魔法を撃った檜山を光輝が庇った事でクラスメイト達とは完全に見切りをつけた。モモンガ達もそんな連中と一緒に戦え、というのは難しかろうという事で裏から手を回してナグモが王国から単独行動を出来る様にした。

・香織と雫も一緒について来て、ナグモと一緒に冒険者活動をやっている。そしてナグモの話している様子から、じゅーるは「息子に彼女が!?」と滅茶苦茶テンパってる。

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